ヴァイオリンの調弦の音がケージに響く。




奇跡のようだが、順調だ。そのサイズにも関わらず楽器は美事な音を発した。
エヴァンゲリオン弐号機、四号機用ヴァイオリン、プログ・キャノンである。
なんとか二日目にしてこの二器があがってきた。零号機が扱うヴィオラというやつは、大体ヴァイオリンと造りは同じで、音が五度ほど低いのでその調整に多少時間がかかるものの、そちらも完成間近であった。残るは初号機のチェロ、「無量塔ガルネリ」だ。
が、そちらの方は予想外に難航しているようだった・・・・・・。



「渚、そっちの具合はどう?」
「いいね・・。指先の感覚も違和感がうまく消されているしね」


弐号機、惣流アスカから通信が入る。さすがに初めにこの話を聞いたときは驚きをこえてゲンナリさえしたものだが、ネルフの技術力というのは恐ろしいというか、大したものというか、この短期間で使用レベルで実現させてしまうのだから・・・・感嘆ものだ。

葛城ミサトも、これを考案するのも苦難呻吟したものだが、造れ、と命令された方もこれは苦心散々ものであった。大体、楽器なんてものは人間の演奏するものである。
しかも、微妙な指先の感覚を必要とする。その上、単純に考えても人間の指の皮膚とエヴァの指の装甲ではものが違いすぎるのである。ただ馬鹿でかいサイズをそのまま造れば、泣きをみるだけ。ある意味、陽電子砲をもう一丁こしらえた方がよっぽど簡単であっただろう。使徒を倒すためにはなにせ金に糸目はつけないネルフである。権力もある。


だが、世界中どこ探したとてもエヴァ用の楽器などはない。買おうにも徴発しようにも現存していなければ、造るほか無い。

そして、こうして造ってしまった。自分で注文しといてなんだが、葛城ミサトは初めてその威容を見たときに、しばらく開いた口がふさがらなかった。目を皿のように見開き、その、古今のいかなる軍艦戦艦よりも偉そうに立派なその姿に、しばし、見とれた。
ここまで巨大だと、「神器」のような風格韻律を内に秘めている気がしてくる。



後は、その音は如何に・・・・・・・・という点だが・・・・・・・・



「鳴る・・・・・・・・!」


これだけでかいとそれだけで満足級の音である。音楽的にどうのこうの、という以上に、人間を根源から喜ばせる何かが、その巨音の中にある。


「これなら・・・・・いけるんじゃない。渚、渚、ちょっと・・・・」
何やら好戦的な事を思いついた様子の惣流アスカは、視線でもって四号機に直通回線を
開かせる。聡い渚カヲルは言われたとおりに応じてみせるのだった・・・・




「さあ、ミサト。造るだけは造ったわ。あとはあなたの仕事よ・・・・」
状況が状況であるが、久しぶりに煙草が甘い赤木博士であった。ちょっと目が赤い。
日頃の地道なエヴァ研究の積み重ねがこのような無茶な応用も可能にしたといえよう。
渚カヲルが感心したように、指先の感覚の調整など赤木博士でなければとてもなし得なかったであろう。

「ふふ・・・・科学は日進月歩するもの。伊達にシンクロテストを重ねているわけではないのよ・・・・」
誰にいうでもないが、満足げに呟く赤木博士。
しかし、傑作の完成に浸っているわけにもいかない。まだ事は終わっても始まってもない。しかも、一番厄介な碇シンジと初号機がまだ残っている。



そして・・・・・レイのことがある。

それを思うと、一気に肩が重くなってくる。あらゆる備えはしておくべきだとは言え・・・・・まぁ、使徒に勝たなければ全ては終わりなのだ。実際、私たち人間は使徒に勝てるように出来ているのかしら?初めから敗北するようにプログラムされているとしたら・・・・・・多大な出費と犠牲を払って、今回の使徒を倒したとしても、さらに強力な使徒が
襲いくる・・・・・人類が破産するまで続くこれは・・・・・ゲームなのか・・・・

あの子達は・・・青、赤、紫、白銀の四つの駒か・・・・そして私たちはそれを進めていくカードなのか・・・・・盤面は弧球を描き、永遠に先の見えることはない・・・・・・
それを終わらすには・・・・・・・



「これで、お手軽な弱点でもあったらどうし・・・・」

頭を振って、赤木博士はその想念を振り払った。どうも脳が疲れている・・・・。
やはりあの「ピロン」は古かったのじゃあるまいか。ミサトめ・・・。







「碇君・・・・・・?」
訝しげな綾波レイ。特別面会室から出ると、碇シンジが待っていたのだ。
ここは別の棟になっている。許可がなければ立ち入りは出来ないはず・・・・・・。
それに、碇シンジはここには別段、用事はないはずだ。葛城ミサトの指示であろう。
本人もなぜ待っているのか、あまり分かっていないようだった。

「そろそろ食事だから、レイを呼んできて欲しい・・・・・・んだけど、本人にその気がなければ・・・・・そのままで・・・・・だけど、何か話したいようだったら・・・んー・・・・二人で話してきていいから」
とひどく曖昧な命令なのか、なんなのか、とにかく迎えにいかされた碇シンジである。
方向音痴ではないが、いかにも迷いやすいネルフ本部の知らぬ棟をもたよたと行き、なんとか目的の特別面会室に辿り着き、その前で待っていたという案配だ。




「綾波さん・・・・・泣いてた?」


「え・・・・・・・・・・・・・・なぜ」

「今、のどの奥があつくなったから・・・・・・って、な、なにいっているんだろうね。ご、ごめん。ばかなこといっちゃって」
綾波レイの顔を見るなり、急にとんでもないことを聞き出す碇シンジ。途中で自分が何をいっているのか気づき、慌ててあやまる。風が吹けば桶屋がもうかるが、碇シンジののどが熱くなったからといって、綾波レイが泣くはずがないのである。ほんとにばかだ。

「そ、それじゃ、道に迷わないように気をつけてね。じゃ、じゃあ」
まさに、「おまえはなにをしにきたんだ状態」になっている碇シンジ。さっさと帰ろうとする。これが惣流アスカならひっぱたかれていただろうが、さきほどの問いに自分でもよほど驚いたのだろう。

じゃ、じゃあ。と言っても、戻る方向は一方向で同じである。しかもここは秘密のベールに何重にも覆われた特務機関ネルフの内部である。通路には当然、明かりがついているが機能的なだけで、まるで人間味も面白味もない長い通路は、ひとりで帰るのは寂しすぎた。

「待って」とは綾波レイは言うまいし、「この背中を追いかけてきてほしい」というほど碇シンジも村下コウゾウ的青年ではない。「いきはよいよい かえりはこわい」というほどではないが・・・・


つと、碇シンジは二、三歩で止まった。ふりかえって、ほの白く後ろに立つ少女に
「い、いっしょに帰らない?」


って!そのつもりで待っていたんじゃないの?と、つっこみをいれる綾波レイではない。そのつもりでも、そのつもりでなくとも、通路はひとつしかないのだ。いっしょもなにもない・・・・数学的だが、綾波レイはうなづいた。


「あー・・・そういえば、そろそろ晩御飯だね・・・・・綾波さん、どうする?」

「今日は薬だけで・・・・・いいわ」

「ふーん・・・。じゃあ、僕も薬だけでいいや」



「・・・・・・碇君は食事をしておいたほうがいいとおもう・・・・」

「じゃあ、綾波さんも食事をした方がいいとおもうけどな」





結局、綾波レイは碇シンジと軽い食事をすることになった。ひとけのない、ラウンジでのサンドイッチと紅茶。本部内も戦闘態勢にある以上、これも注文ものではなく、簡単な携帯ものである。ちなみに、食堂などはまさに、キャノン完成に戦意を盛り上げているケージ経由の風雲急の勢いを吸い込んで全力回転の戦争状態であった。葛城ミサトなどがカツ丼をかっこんで最後のツメを構想していた。




ぱく はく

どちらもしゃべらないので、静かな食事。すうぅー、紅茶を飲む。

綾波レイの方はともかく、碇シンジの方はなにか喋ろう話そう、とは思っていたのだが、何を話してよいものやら、または、綾波さんは疲れてるようだしなあ、とも思うと言葉が出てこない。未だに、なんで迎えにやらされたのか分からないし。
特別面会室っていうからには、誰かと会ってたのかな・・・・・・・でも、こんな時に誰と会うっていうんだろう・・・・



ふいに、赤い瞳と目があった。

綾波レイがじっと碇シンジをみつめていたのである。



「え?あ、なにかな。綾波さん」


「こわく・・・ないの」

その問いかけは。おそらく。



「なにが?・・・ああ、使徒のこと。うーん、目に見えないし正体不明だし、怖くないといえば嘘になるけど・・・・」
うーん、綾波さんもこわいと思うんだなあ・・・・いや、当たり前だよね。
「でも、ミサトさんも作戦を考えてくれたし、準備ができればすぐに追い払えるよ」


問いかけに対する答えになっていないが、その問いかけの意味が分からないことが答えといえる。どういうわけだか、碇シンジは綾波レイを恐れない。表層的な部分においても、本質的な意味においても。恐怖を、感じない。この世で唯一人、赤い瞳に映らない者。


葛城ミサトが今こうして碇シンジを使わしたのはそれが理由。せめてもの心遣い。
たいていの人間は綾波レイを恐れる。全てを映す魔法の鏡を前にして、人は平静としていられない。それが恐怖になる。それがゆえの孤独。知識と理解で埋められぬ狭間。


赤い魔法の鏡に映らないのは、けろけろシンジ、ただひとり。
それは、カエル王子の魔法でもすでにかかっているためだろうか。



それどころか、その黒い瞳に白い姿を映しさえする、たったひとりの・・・・・・




「綾波さんはひとりじゃないよ」



「え・・・・・」

「アスカもいるし、カヲル君もいる。おまけみたいなものかもしれないけど、僕もいるし」

エヴァンゲリオン初号機のパイロットがおまけのはずがないのだが、本人はその気でいる。
独りで戦うことの多かった綾波レイをせめて励まそうとしているのだろう。


「きっと、勝てるよ」

「きっと・・・・・・」

「そうだよ」
いまだに、なんで迎えにやらされたのか、見当もつかない碇シンジだがそれもどうでもよくなってきた。人の心を発見して、よろこびを感じてしまうのは。


もう少し、話していたかったのだが綾波レイに呼び出しがかかった。そろそろヴィオラが上がってくるらしい。その最終調整。表向きは、そうだった。


「それじゃ、いくから・・・・・・碇君」


「うん。それじゃあ」

碇シンジは綾波レイを見送った。今の今まで話していた少女が現代のヴィルトゥオーゾと会っていたことなどつゆもしらず。その笑顔は。








暗闇の空間。青白く浮かぶ少女の演奏。神品としかいいようのない。

聴衆はネルフ総司令碇ゲンドウ、副司令冬月コウゾウの二名のみ。無言。

綾波レイの演奏は、急遽招聘した巨匠の感性、技術、精神、さらにいうならば、その奥にある魂すらもそっくりそのままに写し取り、実現させていた。再現、コピーではない。
演奏を成しているのはあくまで綾波レイの魂であり、意志であるのだから。



ただ、綾波レイは、葛城ミサトに命じられるまで、ヴィオラに触ったこともなかった。




「完璧、だな・・・」

「ああ・・」

綾波レイがその完璧の代償に何を支払うのか知っている二人の冷徹の人物の声はわずかに錆びていた。




全ては使徒を倒すための・・・・






そして、時間はまたたくまにすぎてゆき、途中弐号機と四号機だけのヴァイオリン連奏で挟み潰さんと猛る惣流アスカと、珍しくそれに乗った形の渚カヲルがあやうく返り討ちに
あいかねた場面もあったが、出力不足ではあるが方向性は間違っていないことは立証できた。何より、音の使徒は多様性がありすぎてまさに「烏合の衆」。まとまりがなく、バラバラでプログ・キャノンの音にさんざかに蹴散らされていくのを聞くのは、いっそ痛快ですらあったのだが、やはり結果的に量がモノをいった。弾けども弾けども殲滅にまでは至らず。惣流アスカと渚カヲルの体力が、そして本質的にで実験的なシロモノのキャノンの弦と弓が保たなかったのである。


この二名の突出に葛城ミサトはあまりいい顔は見せなかった。どちらかといえば臨機応変的な資質の持ち主で、計画作戦完全主義者ではないのだが、作戦責任者としては笑ってもいられまい。考えの方向性の正しさは立証できたものの、これでは示しがつかない。

が、惣流アスカと渚カヲルは悪びれもせず平然としている上に、怒った所でこたえるタマではない。
二人とも、己を考えを十二分以上に持ち、その上でエヴァに命を預けているのだ。

「いける、いけるわよ!ミサト!初めはどうなることかと思ったけど、さっすがは作戦部長の肩書きはダテじゃないわね!」
と惣流アスカは弐号機から降りるなりVサインを出すし、

「契約の箱はもっていない、ようですね・・・」
この少年が出るからには、ある程度の目算はあったのだろう、と信頼性において下手すれば葛城ミサトを凌ぐ渚カヲルである。それがためにスタッフも射出してしまったのだろう。

「うぬぬ・・・・・・」
今更ながら、チルドレンの扱い難さに内心で唸る葛城ミサト。が、やってしまったものは仕方がない。プラスの面をみて判断するとしましょう・・・・・今ン所は。

葛城ミサトがもうちょっと器量が狭かったり、軍人としての気質が強かったり、または子供たちのことを知らなければ、騒ぎになっていたところだが・・・・。
それが吉と出るや凶と出るや、誰にも分からない。




そして、初号機のチェロも完成する。エヴァ弦楽四重奏団が立つ時がきた。




曲目は「パッヘルベルのカノン」


この選曲の根拠は、葛城ミサトに言わせると「イン」であるという。
これはあえて漢字では記さない。限りなく「カン」に近い「イン」であるためだ。
科学的な土台、判断基準が無いという点ではどちらも同じ様なものだが。

特別に使徒に効く曲を作る作曲家がいるわけでもない。親和性が高ければどれでもいいのだろうし、ここまで来て誰もしらんような難易度の高いものを選ぶ必要もない。
要は四人が弾ければいいのだ。練習の時間も日数的に大して・・・・基本的に長時間連続してやるものではないが、朝から晩までカノン漬けにされていた・・・・あったわけでもない。その中で、雲の上まで抜きんでて巧い、綾波レイのヴィオラにひきあげられるようにして、初挑戦の四重奏にもなんとか形がつくほどにはなった。そのヴィオラの音色に、惣流アスカは何かいいたげだったが、碇シンジを叱咤するのに忙しいフリをして口にすることはなかった。




「まさか日本にきてヴァイオリン弾くことになるたあ、思ってもみなかったけどさ・・」
「うん、僕も習ってたチェロがこんなことに役に立つなんて考えたこともなかった・・」

ようやく形がついた、つまりは惣流アスカが怒るのをひとまず止めた、最終練習アップ時の会話。いかにもくたくたな二人を置いて、練習時間は同じなくせに涼しい顔の渚カヲルと綾波レイは何用か、すい、と外に出ていったので、空気は熱気を残しながらもゆるぬくなっていた。同居している子供の醸すそれは、安心できる家の空気に近かった。


「まさか、シンジがチェロなんて弾けるとはねー・・・・」
「まさか、アスカがヴァイオリン弾けるなんて・・・・・」


「案外さ・・・・」「意外と・・・・」

「「知らないことって多いんだね」」


疲れていると、つっかかる元気はないし、ぽろっと本音のかけらがでてしまうこともある。
今ごろ話すことではないかもしれないが、ほんとうのことは今、ふたりが話している通り。
おそらく、今、ここにだれか来るなり戻るなりすれば、もう話せない。
大したことを話しているわけではない。このあと、数時間の仮眠の後すぐさま決戦だというのに。そこでは何が起きるか分からない。相手は・・・・・使徒なのだ。

もう少しで渚カヲルが仕上がり具合の報告を済ませ、綾波レイが冷たい飲み物を運んでくるのだが、その前に交わされたふたつの問いと一つの答え。



「ねぇ、シンジ・・・・・こうやってアタシ達四人で演奏するのと、ちきゅーぼうえいバンドのみんなと歌うのと、・・・さ、アンタ、どっちが好き?」

「アスカは?どうなの」

・・・これが普段ならば、「先に聞いてんのはアタシでしょ!さっさと答えなさいよ!」
となるのは目に見えているが、根の果てはしばし人を鷹揚にする。

天井に視線をあげて・・・

「そうね・・・・・・他にダレもいないから・・・シンジだけに言うけどさ・・・・・・ホントは・・・・・」


「うん・・」


あげた顔から、明珠のような!微笑みこぼしてみせる惣流アスカ
「歌うのがいいに決まってんでしょ!!へへっ」

「やっぱりなあ」
うんうん、とうなづく碇シンジ。微塵も騙されていないのは答えを知っていたから。
そうでなければボーカルを譲った甲斐はないよ、うんうん。と思っていたわけではない。






作戦会議室。眉間に三日月を裂いている葛城ミサトが一人、モニターを眺めている。
作戦開始は数時間後、午前六時より。子供たちは出撃前の仮眠に入っている。
準備は万全に整っている。やれるべきこと、打てる手は全て打った。使徒は未だ健在。

「浮かない顔じゃない」

「ん・・・・そお?決戦に向けて全知力を集中しているネルフの作戦部長の顔に見えないかしら」

「未だかつてそんな表情をみせてもらったことがないから分からないけれど」
コーヒー党である赤木博士の入れたコーヒーは美味しい。普段はサイフォンだが。
「はい、いつかの差し入れのお礼よ」

「ん・・・・・あんがと。リツコ」
さすがに一つ上だけあって、人間が練れている赤木博士。苦労を知ってる泣きぼくろ。

「音には音っていうけどさ・・・・本当は違うのよね・・・・」
これは独り言のようなもの。葛城ミサトが独りで隠って三日月をつくっている原因。
キャノン完成と使徒にダメージを与えうる事実を確認したことで、本部内は意気を揚げてきている。チルドレン四人のことは云うまでもない。
そこで肝心要の作戦部長が暗い顔をしているわけにもいかないのだが、本部内の誰よりも使徒に心を、頭脳を近づけようと迫ろうとしている葛城ミサトには次なる段階の不安が見えてきていた。これは心配性というよりは有能の証明というものだが、本人の胃は辛い。

霧島教授から現段階のレポートを読ませてもらったのだが、これが不安を掻き立てる。



模倣・ミーメーシス



よくこれほど広範囲にして多様性のある現象のド真ん中に言葉を突き立てられるものだ。外見に似ず、霧島教授の知性の豪放さは大変なものだ。まあ、それはともかくとして。

使徒が第三新東京市にある音を模倣しながら成り上がっていく性質をもつものであるなら・・・・アスカと渚君のやらかしてくれた連奏はかなりヤバイかもしんない。

自分たちの扱う「音」は楽器を用いた空気の振動だが、使徒が今現在起こしているそれは「空気が好き勝手に震動している状態」なのだ。どうすればこんな真似が可能なのか、現在の科学でも解明不能であるし、それゆえに、発生させる音をいかなる基準で選んでいるのか、またはランダムであるのか、分からなかったのだが一つ、仮説はたてられたわけだ。

もうひとつ分かり難いであろうから、例をあげると。
これは相撲でいうと、これは「力士と土俵」がケンカするようなものなのだ。「音対音」などというと、怪獣大決戦「ガモラ対メカガモラ」の如く分かりよく聞こえ、力士と力士がガチンコでぶつかっている印象だが、この場合、お互いに損傷を与えることは可能でも・・・まあ、土俵で倒され肉離れを起こしたり、土俵を足削ったりするようなもの・・・本質的に殲滅することは可能であるのかどうか・・・・力士が去っても土俵が消えてしまうことはないし、役者が消えても舞台が滅びることはない・・・・そういうことだ。
まずは舞台がなければ始まらないのだ。これは、形から入る日本人の性質は関係なし。

葛城ミサトが困るのが、これが形而上的な思考でもなんでもなく、あくまで現実に起きている、しかも仕事としてこなさなくてはならぬ、形而下の出来事であることだ。

綾波レイに頼ることが、せめてもの対抗策だったわけだ。



こんな話がある。
昭和初期のこと。ある鼓打ちの流派にどちらも勝るとも劣らない技量の跡取り候補が二人いたという。分派は許さない流派のことで、跡を継げるのはどちらか一人。そこで、鼓打ちの勝負をして決めることとなった。ここから先、芸の道は厳しいなあ、という生やさしい話ではない。死人が出た。一歩も譲らぬ勝負の果てに、片方の鼓の皮が破れた。同時に命まで破れてしまった。なんで死んだのかは分からない。ただ、鼓さえ打たなければ死ななかった。音楽の魔性などというかっこいいものではない。もっとおどろおどろしい、
凶々しいものだ。それを使徒にぶつけるために、綾波レイに発現させようという話。

使徒を倒すためには葛城ミサトはこれほど非道なことでも考えつき、実行する。

「いつか、バチがあたるでしょうねえ・・・・・・・」

相手が空気では、初号機はあてにできそうもない・・・・。
これでももし、初号機の力によって倒されたとすれば・・・・・・。



使徒を殲滅することでしか、この鬱屈は晴れないのだろうか・・・・・
そして、また新たな使徒がやってくるのだ・・・・・・このジレンマを、すべてを抱えて。



作戦開始時刻が近づくのをモニターが無表情に報せ続ける。




「そろそろ、行こうか。最終チェックもあるし・・・・・」

「ええ」






エヴァパイロット仮眠室 男子用

「眠れないのかい?シンジ君・・」

「カヲル君・・・・起きてたの」

施設スペースの都合上か、二段ベッドになっており、上が渚カヲルで下で碇シンジが横になっていた。上の人間が寝ているかどうかはすぐに気づくものだが、その逆はむつかしい。


「気になるのかい、使徒との戦闘が」

「うん・・・・それもあるけど、カノンがまだ・・・・頭に残ってて・・・・あれ、朝の音楽だし・・・眠れないんだ・・・眠くないわけじゃないし、寝なきゃいけないんだけど」


あははっ、と珍しく、渚カヲルが気の晴れた感じで笑った。どんな表情だったのかは下にいる碇シンジには分からなかった。

「眠くなければ、眠る必要はないさ。まだ、起きていればいいことがあるのかもしれない」

「カヲル君は?眠くないの」

「ぼくは睡眠は一時間もあれば十分なんだ。・・・・そういう体質なんだね」

「ふぅん・・・・じゃあ、あんまり夢とかみないのかな。一時間だと映画一本より短いよね。テレビゲームだと一時間やったら、十五分休憩しなきゃいけないし・・・」

「現世(うつしょ)はゆめ・・・夜の夢こそまこと・・・・と云った人は昔、いたけれど。シンジ君はよく見るのかい?夢は・・・・」


この調子で、仲良く話が続いていくのだから、心の奥の方で相当似通っているのかもしれない。この二人は。




まだ、夜は続く。そして、ふと開かれる問いかけ

「ねぇ、カヲル君・・・・」
「なんだい、シンジ君」


「なんで・・・・アスカと二人で出撃したの・・・・?ミサトさんは命令してないのに」

絹糸でできたハンモックのような振幅の多い問いかけ。しかし渚カヲルは瞬時にその意を汲んだ。渚カヲルが出撃したのは、あくまで自分の眼で使徒を確認したいがため。または実戦的なデータを収集するためだ。惣流アスカは使徒殲滅という使命の為に出ていったわけだが、渚カヲルのは己の判断、というものだ。未知の目標に対し、データ収集の為に体を張ってこい、とは言えないだろうからね・・・・葛城一尉は・・・・・・。
それ以上に・・・・今回の使徒が興味深かったためもある。これは、血というものか。


が、碇シンジの聞いているのはむろん、そんなことではないのを承知している。
そして、安易に答えることも憚られた。その未だ細い背骨に最強の福音を預かっている・・・・そして、誰よりも不自由に、閉じ込められている・・・・この少年には。
自分達の行動が、おそらく・・・・一瞬だけ、煌めいて見えたのだろう・・・・。


シンジ君は誰かの制約を受けるべきなのか・・・・・受け続けるべきなのか・・・・・


「シンジ君は・・・・誰かに引き止めてもらいたいのかい?それとも・・・・・誰かに、解き放ってもらいたいのかい・・・・?」


「わからない・・・けど、まだ、誰かに見てもらっている方がいいとおもう・・・こういうのって、弱虫なのかな?こども・・・・なのかな?」



「いつまで?」と綾波レイなら問うてきたかもしれない。惣流アスカなら「両方!!」と即答していただろう。渚カヲルはこの上ない相談相手なのだろう。

答えは自分で探さなければいけないことは誰もがわかっている。ただ、誰しもすぐに答えが出せるほどは賢くないだけ。嘘をつかないなら、それほど大層な言葉がでてくることもない。問いかけでありながら答えを欲するほど、生命は弱り切っていないということ。ティラノザウルスより強力なエヴァ初号機につながる碇シンジならばなおさらのこと・・・・・ただ、それに比して心は小さすぎて不安になるのだ。



「・・・・エヴァ、初号機はシンジ君のものなんだよ」



エヴァ四号機専属操縦者、フィフス・チルドレン渚カヲルが許してしまった。
初号機の制御は上位者より与えられた任務の一つ。それをこの瞬間に少年は放棄した。



この夜の一言がいずれ、碇シンジのある選択の判断基準のひとつとなる。

そして、ようやく睡魔がのたのたとやってきた・・・・。







「あの時の朝と同じ匂いだ・・・・・・」鋼玉のヴェールの朝
惣流アスカがエヴァ弐号機の中で呟く。第三新東京市、南境界に配置されている。



「・・・・・・・・」
瞳を閉じて作戦開始の号令を待っている綾波レイ零号機。東境界に配置されている。



「ふんふふんふふん・・・・ふんふふんふふん・・・・」
ハミングでのメロディーズ・オブ・ラヴ。碇シンジの初号機。北境界に配置されている。



「うたよ。彼らを守りたまえ・・・・・・・」
使徒の強さを本当に知っている渚カヲルが祈っている。白銀の四号機は西に。




本番直前の、普通云われる楽屋での「さらい」とチューニングは終わっている。


彼らの楽屋はエヴァ四体の掌の上。夜明けの輝き中に。

「チルドレンのカノン」


綾波レイのヴィオラ、碇シンジのチェロ、惣流アスカと渚カヲルの第一第二ヴァイオリン
楽器を弾くのはエヴァだが、曲を演奏するのは彼らなのだ。ここまでくればやるしかない。


「エヴァンゲリオン弦楽四重奏団の初お披露目にして、最後の演奏会ってわけね」
「せっかく造ってくれたこのチェロとか・・・・この後、どうなるのかなあ」
「さー、博物館にでも寄付するんじゃないの・・・・・って!気合い入れなさいよ!!
ガチガチに緊張するよりゃいいけど、そんなんで使徒を倒せると思ってんの!!」
いっぺん返り討ちにあわされかけた惣流アスカにしてみれば、これは復讐戦なわけだが、なんだかんだと対応しかけるあたり、余裕と気合いの両輪バランスがうまくとれているようだ。シンクロ率が高いかどうかはこの際、関係ないようだが。
「気合いっていってもなあ・・・・・・どんな気合い?」
「気合いは気合いよっ!!」
「心構えは人それぞれ。指先が一番巧く動く状態にあればいいんだよ」
「・・・・・・・・・」

幸いなことに、この会話を聞いているのは命令を下す葛城ミサトだけだった。
野球のマウンドでの会話のように、端で見ている分には専門的で熱そうな会話が交わされているような気がするものだ。実際、気炎をあげる惣流アスカの姿はモニターでも分かる。


「さっさと叩きつぶして、バンドの練習に戻るわよ。四日歌ってないと取り戻すのに三倍はかかるっていうし」
「へー、そうなの?まるで陸上選手みたいだね」
「アンタたちだって同じでしょーが!!アタシ達の歌に聞き劣りするような伴奏したら、タダじゃおかないからね・・・・・とにかく!今日、カタをつける」

キリッと唇を結んで、エヴァ弐号機専属操縦者の顔に切りかえる惣流アスカ。

綾波レイと渚カヲルはいつも通り。碇シンジにいたっては全然切り替えてなかった。



「演奏の調子はいいわけね・・・・四人とも」
「いつでもどーぞ」

「それじゃ、作戦開始!」
葛城ミサトの号令が下された。




北の初号機、西の四号機、南の弐号機、東の零号機。四体の巨人による・・・・・・・

パッヘルベルのカノン

作曲者パッヘルベルは(1653−1706)南中部ドイツで活躍、当時最大のオルガンの巨匠として知られ、バッハにも多大な影響を与えた人物である。
カノンというのは、きわめて厳格な対位法的模倣形式。一つの声部の旋律が、ある間隔を
おいて他の声部によって、同一音程もしくは異なった音程で厳格に模倣される楽曲。いわゆる輪唱はその最も単純な形。主導する声部を先行声部、模倣する声部を後続声部という。カノンは二声には限らず、三声、四声、六声のものもある。
後続声部の模倣の方法によって、次のような種類に分けられる。1,平行カノン、2,反行カノン、3、逆行カノン、4,反逆行カノン、5,縮小カノン、6,拡大カノン、7,二重カノン、8,無限循環カノン、9,混合カノン、10,謎カノンなど。


四方から第三新東京市全域を包み込もうとする「カノン」。
こうして実現させてみると、とんでもない圧倒的パワーである。



「”ロプロス”、”かすみぎり”、”ケニアの蛇”、それぞれ、北部、西部、南部にきます!」

がっぷり四つに組み合うか、無量塔ガルネリ、デル・ジェス・クロンツ、アントニオ金八。

眼には見えないものの、とんでもない破壊能力を秘めた兵器音波が音の海より立ち上り、
身の程知らずの人音をひと呑みにせんとうねり来るのだが・・・・・・・


ffffffffffffffffffffffffffffッ

楽譜の記号に直すならば、こんなものでも足りないだろう。普通は四つまでだが、なんせエヴァだ。 それの奏でるネルフ技術部魂渾身の名器のパワーとは・・・・・・



ごっちゃんですっ!!
まさに勝負にもなんにもなりゃしない。走る相撲取りは世界最強。敵うものなどいはしない。体当たり一発で砕け散ってしまった!! 神楽の益荒男の大蛇退治のようであった。
それよりもパワーと展開において身も蓋もなく一撃に強力であるが。


誤解の無いように言い添えておくと、先述したようにパッヘルベルは外国の人で、カノンはキリスト教の聖典の意もあり、聖書を基本とする欧州の伝統によって創られ、ヴァイオリンなども西洋の文化の造り上げたものである。根本はすべて西洋にあるし、ネルフ技術陣も演奏するチルドレンも、それを曲解したろうという意志はありません。



「す、すごい・・・・・・」
自分で造らせておいてなんだが、まさにこれほどのパワーがあるとは・・・・・外見も立派だったが、中身はそれ以上だ。これは・・・・・紳士の皮をかぶった横綱だ。


「ふっ。勝ったわね」
ネルフ技術陣に造れないものはないのではあるまいか。テクノロジーの女神様のような微笑みを浮かべる赤木博士。



「予算を下ろした甲斐はあったな・・・・・」
「ああ」
あまりに日々、陰険な駆け引きの毎日を過ごしているために、身の回りの部分で人並みはずれたお人好しと化しているかもしれない、こんなシロモノを造る予算も通してやった碇ゲンドウと冬月コウゾウ副司令。威力が威力だけにどれだけの予算がかかったか・・・。





どすこーい!


「一体、上でなにが起こっとんのや?」
「さあねー、あとで碇たちに聞くしかないだろ・・・・」
耳栓をしているので、これはジェスチャーだ。事前に注意報が配られていたのである。


四日もの我慢を強いられている第三新東京市民の隠るシェルターである。そろそろ反撃が始まったらしいのは雰囲気で分かるが、何が起こっているのかは分からない。
「音」はここまで聞こえることは聞こえるのだ。さすがにネルフ本部で起こったアレのようなことはないが、異常事態が起こっているのはすぐそこで「聞こえるのだ」。
そのために四日間も文句が出なかったともいえる。危害を加えられることはないが、なにせ気味が悪い。幽霊でも団体さんでシェルター内にやってきているようだ。

「怪談があちこちで蠢いている・・・・・」と誰かが言っていた。


そんなおり、いきなり大音響が降ってきたのだ。それも富士山が四股でも踏んでるような強烈な音だ。それゆえに、音楽に詳しい人間やクラシック愛好家でもこれが「パッヘルベルのカノン」であるということに気づかなかった。エヴァが弾いているなどということも、無論、想像の彼方であった。ひたすらうるさく、それどころではなかったのだが・・・・。



シェルターでもこの調子である。四方からの巨音が親和交響する第三新東京市街の様相はどうしたものか・・・・。


カノン対音の海


以前、碇シンジが綾波レイに対し、「音の海」とは相撲取りかと聞いたことがあったが、まさしくそのような具合になってきた。四方から結びつくエヴァの演奏はすでにカノンという一つの形を成していた。付け焼き刃だが特訓の成果であろう。


そして、じりじりとだが、確実にカノンは使徒を押し潰しにかかっていた。悪あがきにエヴァと楽器に狙いをつけ音波攻撃を仕掛けてくるが、もはやATフィールドも突破できぬ。ここまでくれば、体の方で使徒の本質に対応してくれる。



「案ずるより・・・・産むが易しか・・・・・・」
ここまでくれば、使徒に逆転の可能性はない。こちらのペースは順調で、機械的、又はパイロットの精神的トラブルの心配もない。葛城ミサトの恐れていた、こちらのカノンを模倣してくるのではないか、という考えも杞憂に終わりそうだ。渚カヲルのレポート通り、使徒にはマスターがいない。音を統合する部分がないのだ。壊れたコンピュータプログラムのように、ただ真似し続けるだけ。いかに多量の音を集めたとて、それだけでは音楽に、オーケストラにはならない、というわけだ。そうなれば、「カノン」を真似できる能力は使徒にはない、ということだ。かなり微細に模倣してくるらしいが、あくまでそれは単純な、組み合わされていない音に限られる、と霧島教授からのレポートにもあった。

そうなると、レイには可哀想なことをしたわね・・・・・・・


準備に多大な犠牲を払いながら、結局使用されず、ことが終われば消えてしまうというものも世の中にはたしかにある。レイは消えるための多大な痛みに黙って耐えてくれた。
はい、と答える悲しみを。

その傷口をふさぐ役割もシンジ君に押しつけてしまった・・・・・

そして、それについて、平然としている自分がいる・・・・。ヒトデだわ。
ヒトデナシハヒトダケド、ヒトデハヒトジャナイ・・・・海の中の川、みよが流れる。

言葉にならない、私たちの内のかすかな裂け目は、日々、どれほど意識下を流れてゆくのか・・・・・



しかし、のんびり内面考察などやっているひまはないはずであった。
産むが易くても、そこから先もけっこう大変なのである。事実、そうなった。




「なんだ・・・・・?これは・・・・・・・・・・?」
今回の使徒用に、通常の視覚モニターの他に特製のヘッドホンも装備している青葉シゲル。

「どうしたの、青葉君」
中央モニターでも数値的なデータが出てはいるが、相手が相手だけに今一つ状況はつかみにくい。それを絶対音感を持つ彼は上手いこと報告をしていたのだが・・・・・・。

「いえ・・・・機器のブレではないようなのですが・・・カノンがダブって聞こえる箇所が出てきているんです・・・・伊吹二尉、そちらの方は」
「プログ・キャノンには問題ありません。通常通り起動中ですが・・・・」


「まさか・・・・・・・!」

青葉シゲルの顔色が変わる。「・・・・・やばい・・・・・これは・・・・まさか!!」


中央モニターの音声データの数値も一斉に様変わりを・・・・・変化を始めた!

「まどろっこしい!日向君、音声の一部を直接こっちにもってきて!」
「はい!」




ザザザザザザザザ・・・・



音の海が鳴動、その身の変化にうめき声をあげて割れていく。嵐になって表層だけ荒れ狂っているというものではない。全体に変化が起きている。身悶えしてその中から新しく何かが生まれようとしているかのように・・・・・。




「へっへー、よーやくおくたばりあそばすワケね。さよーならあー」
なにせ距離があるし、青葉シゲルほどの耳を持っていないチルドレンたちは、それを使徒の崩壊の音と聞いた。これで気を抜くほど甘くないのがエヴァのパイロットである。

「さー、きっちりトドメをさすわよ!シンジ、渚、ファースト、いくわよ!!」

「うん!」
「これで最後の・・・・・」
「ええ・・・・・」



弦が、ひかれる・・・・・・



使徒を滅ぼすための四重奏曲が夏の天空に吸い込まれていく・・・・・・


光がなだれ落ちてくるような瞬間。


それと同時に、元素としての音が時空を超えて何かを運んでいるようにも思えた。

風と水、光へ、そして何かを。



カノン・・・



そして、最後に四人四体、四方にて。合わせたように、イ音をひいた。

開放弦、弦をおさえずに弓でこするだけで出る音である。あるがままの音、生まれたまま何の作為のない、純粋無垢の音。イ音のラテルナ・マジカ。スヴォタナ・ランプのように伸びていく。



使徒はその魔法のランプの音に伴われて昇天する・・・・・・・・・・・・はずだった。

が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しかし

そんな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ばかな


それに対して使徒は神をも恐れぬ、驚天動地の怪音を発してきたのである!!


それは・・・・・・・



掟破りの逆カノン


メギョッ

今度はまっすぐにやってきたイ音がコブラツイストで締め落とされる番だった。
全身をボキボキに折られて、あえなく最後のイ音は墜落し、大地に屍をさらすことになった。




「ぬあっ!!?なっ、なんなのよ・・・・・・コレェッ!!」
驚きは全員のものだったが、代表するように惣流アスカが喚いた。


「は、反則だわ・・・・・・」
音のやられる様が見えたわけではないが、葛城ミサトが苦しげにうめく。

「学習したというの?それともどこかに指揮組織があったの・・・・・・」
赤木博士も顔色を変える。


手段を変えるべきか、それともこのまま押し切るべきか・・・・・さすがの葛城ミサトも判断に迷った。どこかに指揮系統があるならば、そこを叩かねば勝てない・・・・・・・しかし、今ごろ探していて見つけられるか・・・・・四号機、渚君でも見つけられなかったものを・・・。

その躊躇を使徒はすぐさま突いた。四方に向けての”ロプロス”、”かすみぎり”、”ケニアの蛇”攻撃にかかってきた。しかもそれらは逆カノンの流れに威力を増大させていた。



「あああっ!!しまった!弦が!」
「こっ・・・このおっ!あ、あっ!!弓が壊された!」
機体には損傷がないものの、弐号機の弦と初号機の弓が切られ壊されてしまった。
これでは演奏ができない。ハードロッカーじゃあるまいし基本的に楽器はケンカの道具ではないのである。渚カヲルと綾波レイはなんとか避けているようだが・・・・・・・・・


「やられたね・・・」
あ、渚カヲルもやられてしまった。こちらも弦が切られてしまった。


「くっ・・・・・・」
残るは綾波レイ一人のみ。やはり卓越した演奏能力が使徒の攻撃を退けているようだが・・・・・・。どうする・・・・・・これでどう戦う?


「ミサト!これからどーするの!?まさかスペアは・・・・・・・」

「ないわ」
「あ、やっぱり・・・・・でも、ファーストだけ矢面に立たせとくつもりじゃないでしょうね?」
「ミサトさん!!ど、どうすればいいんですか?なんだか急に使徒が強くなってるんですけど、これは・・・・」
「葛城一尉、指示がなければ市街に移動して使徒の指揮部をつきとめたいのですが」



「楽器の修理はどれくらいかかるの?」
「そうね・・・・・弦が切れたとなると・・・・どんなに急いでも半日以上はかかるわ。調整に時間がかかるから。それから・・・弓は論外ね。作り直して二日・・・・・」

なにせ完全オーダーメイドで材料もきっちりとしか揃えていない。この期に及んで予算のことは云うまいが、あの弓一本でプログナイフ五本分である。
それ以上に、肝心なのは、渚カヲルの云う対応の変化である。同じ手が通用するとは・・・・かなり低い確率で・・・・限らない。相手を強化させるだけ、という最悪の結果を招くハメになる。これは葛城ミサトも承知の上だ。前夜の不安が現実になっただけのこと。


完全に体勢を変える必要があるか・・・・・皆を地下に退がらせるか・・・・

叩かれたら戻って次の手を考える・・・・まるで悪人の砦だが、やもうえまい。相手は正義とか根性とか人情とかが通用しないのだ。


「葛城一尉・・・・」
一時退避命令を出そうとした葛城ミサト作戦部長に綾波レイからの通信。

「どうしたの、レイ。まさか零号機も・・・・」


「エヴァ三体を地下に降ろしてください。あとは、私ひとりでいきます・・・・」


いきます、と言ったのか、ひきます、と言ったのか聞き取りにくかったのだが、とにかく綾波レイがこの場を自分ひとりでなんとかする、というのは確かに・・・・。

「はあ?ファースト、アンタ何言ってんのよ」
「そうだよ、綾波さん。そんな・・・無茶だよ」
惣流アスカ、碇シンジともに引き止める。どう考えても一体で勝てる相手ではない。
たまたま楽器が無事だからと言って、ひとりでつっぱることもないだろうに。

「・・・・・使徒の音には弱点があります・・・・・そこを、つきます」

「弱点?なんなの、それ?」
思わず聞いてしまったが、後からしまった・・・と思い返す葛城ミサト。
「・・・じゃ、レイ、零号機一機でいいのね」
「はい」


「・・・それじゃ、まかせるわ。シンジ君、渚君、アスカ、ひとまず戻ってきて」
有無を言わせぬ命じ方。エヴァ三機は境界地点よりネルフ本部内に帰還することになった。



レイに賭けたなら、綾波レイが好むような静かな状況をつくる必要がある。

閉ざされた世界、他に依存しない世界、孤独の時にこの世に映される才能の凍る世界。
語り得ぬものについては、沈黙しなければならない。これから綾波レイが現出させるものはおそらく、そういうものだ。



だが、
「ファースト・・・・アンタ・・・・いや、・・・・・・一応、バンドがあるんだから、ケガして入院なんかすんじゃないわよ・・・・そんだけ」

「綾波さん・・・・危なくなったらすぐ逃げてね・・・・逃げられないと思ったら、すぐに呼んで・・・・・スグに行ってかついで逃げるから・・・・・」

「それでは、また・・・・」
不器用一名、景気を下げるのが一名、えらく器用なのが一名、仲間をおいてけぼりにする
寂しさにみた心の重さを言葉に託して零号機に預けておいた。

それが、凍れる青に染まず うつつなる 朝露のともしびに のこる・・・・。



この間も忘れずに使徒の猛攻が続いているのだが、零号機には、リィ・アマーティにさえ微かな傷もつけることはかなわなかった。

それは、もし、今の使徒のそれが音楽だというのなら、因って立つ場所が違っていたからに違いない。零号機、綾波レイは至高の風にただよっていた。つかまるはずもない。





エンソウ ガ ハジマル ジカン


大空が 大地にひっそりとくちづけを そして、



リィ・アマーティがすすり泣く



悲しみの時間がはじまる 零号機の 赤い瞳 演奏者 綾波レイの内面 赤い 時間



「時鐘」
エミイル・ヴェルハアレン 上田敏 訳


館の闇の静かなる夜にもなれば 訝しや 廊下のあなた かたことと峠杖のおと 杖の音

「時」の階のあがりおり 小服に刻む音なひは これや時鐘の忍足

硝子の蓋の後ろには 白鑞(しろめ)の面飾なく

花形模様色褪せて 時の数字もさらほひぬ 人の気絶えし渡殿の影ほのぐらき朧月よ

これや時鐘の眼の光

うち沈みたるねび声に機(しかけ)のおもり 音ひねて 槌に鑢の音もかすれ

言葉悲しき木の函よ 細身の秒の指のおと 片言まじりおぼつかな これや時鐘の針の音

角なる函は樫づくり 焦色の色の枠はめて 冷たき壁に封じたる 棺のなかに隠れすむ

「時」の老骨 きしきしと 数に歯犬 音の歯ぎしりや これや時鐘の恐ろしさ

げに時鐘こそ不思議なれ

あるは木殿を曳き悩み あるいははだしに音をぬすみ

忠々しくも いそしみて 古く仕ふるはした女か

柱時鐘を 見詰むれば鉄のコンパス 身の搾木(しのぎ)・・・・・・




綾波レイのいった使徒の「弱点」とは一体、なんだったのか・・・・・・
説明はせずだろうし、第一、余人に説明してもわかるまい。


その、錆びた壁によりかかる「哭調」白い包帯の裂け目に覗く赤い瞳。

リィ・アマーティの生命を根こそぎ奪いさり、現代に甦る、忘れじの・・・・クロノス




ただ、綾波レイの、零号機の演奏が続けば続くほど、使徒は弱ってきているように聞こえた。青葉シゲルに言わせると、「急に歳をとったような、白髪の爺さん・・・!いえ、失礼しました・・・・老人のように干涸らびていっている・・・そんな感じです」
ここまでくると、数字だの数値にほとんど意味がなくなってくる。



だんだん、勢いも失せてきた使徒は攻撃を繰り出すことさえ出来なくなった・・・・
しわしわに干涸らびる、という表現はまんざらでもなく、実際、音は市街の底の方に沈んでゆき、空域にはその力を及ぼせなくなっていった。立っているにもしんどくなってきた、というところか。



「ふうー・・・・・これは真似しようがないわね・・・・・そんなレベルじゃないもの」
「ええ・・・・・」

二つか三つは歳をとったような赤木博士と葛城ミサト。賭には勝ったらしい。
使徒はだんだん萎んでいき、いずれ滅んで風の塵にでも消えてくれるだろう・・・。
さすがに今回は実験サンプルの取りようがないけれど・・・・・・・・ところで霧島教授はどこいかれたのだろうか・・・・・まあ、いいか。


使徒に勝ったわりには発令所は沈黙に支配され、静まり返っている。
反撃を予想しているのではなく、零号機の演奏に呑まれているのだ。
上手いとか芸術だとかなんとかいう以前に、その音は凄絶にすぎた。
その気になりさえすれば、幾万もの人間の心を切り裂けるほどの音。




えっ・・・・・・ぐっ・・・・うう・・・・・・・あっ・・・・
どこからか、嗚咽がもれてきていた。この声は・・・・碇シンジだ。



ケージ エヴァ初号機 エントリープラグ内 碇シンジ

半分ほどLCLの抜かれたプラグ内で碇シンジが喉をはらして泣いていた。
赤い液体に溶けることのない涙は、そのまま少年の瞳を染めていた。

「どうしたの?シンジ君?・・・・・」

「わかりません・・・・・急に涙が・・・・胸が、苦しいんです・・・・のどの奥が」
ケージ、しかもエントリープラグでは零号機の演奏は聞こえない。音声は接続していないし、もし「何らかの方法」で「聞こえている」ならばその理由を答えるだろう。
惣流アスカであるまいし、綾波レイを置いてきたことへの悔し涙でもなかろう。


「綾・・波さんは・・・・・・大丈夫、です、か・・・・」
すすりあげながら安否を問うてくる。心配ではあるのだろうが・・・・その嗚咽は。
「ええ、大丈夫。使徒の弱点への攻撃が効いてるわ」
返答しながら、視線を赤木博士へ。シンクロがカットされているから、暴走の心配はないわ・・・・ひとまず・・・。その目がそう答えた。まあ、碇司令もいらっしゃるし。

今は使徒の殲滅が最優先です・・・・・・・・・


「おおっ・・・・使徒、瀕死状態です。完全沈黙まであと一息・・・・ほとんど・・」
青葉シゲルはヘッドホンのボリュームを上げ始めた。さきほどまでは基本状態で聴けば鼓膜が破れかねないほどの音量であったというのに。









「うふふ・・・・レイちゃんもやるもんだねえ。ラジエルさんもタージタジだね」
どこかのビルの屋上。完全に無人ながら、どこからか車の流れる音が聞こえてくる。

ベンチに座ってフクフクと笑っているのはもう一人の綾波レイ。どこで買ってきたのか、粽に柏餅に芋のきんつば、からいもきんを横手に並べて緑茶を片手。

そして、思い出したようにポケットから手帳を出して開く。
「秘密の領域と至高の神秘を司る・・・・その書は天上と地上の知識の全てを書きとめたものだという・・・・・なーんて、かっこいいコト書いてもらってるんだから仕事が終わったなら帰ればいいのに」

もぐもぐ・・・・柏餅をほうばって。柏の葉もとらずに。

「あとのことは・・・・・むぐむぐ・・・・みんな、わたしにまかせてさっ」

「あー、あんまりいじめてあげないでくださいねー。・・あらあら、手加減無しって感じ」雲を相手に会話している。その赤い瞳には何やら別所の光景が見えているようだ。

「レイちゃんも奥の手、いや、奥の眼かな?を使ってまでがんばったっていうのに・・・・・やっぱり今回は相手が悪かったよね」






ネルフ本部 発令所
「使徒、完全に沈黙しました!音量、零です!!」
沈黙という言葉が今回ほど似合う使徒はいるまい。青葉シゲルの報告にようやく発令所内の空気がやわらんでいく。随所で歓喜の入った安堵の声がもれる。

「今度はモノホンなんでしょーね、青葉君」
「もう一度確認しましょうか」
「いえ、いいわ。パターン反応も消失してるみたいだし」

「ようやくくたばったか・・・・・・」
とても独身女性のセリフではないが、大きく息をつく葛城ミサト。

「レイ、おつかれさま。本部に帰還して。それでは現時刻をもって作戦終りょ・・・・

「まだ」
「まだよ、ミサト!このパターンは・・・・・・・」
綾波レイ、赤木博士の二人が作戦終了を告げようとする葛城ミサトの口をふさぐ。

「なに!?」







それは、ボレロなのかもしれない。



第三新東京市全域、全ての音が一つの旋律だけで演奏されているからだ。
今までは、まだチューニングや単なるさらいにすぎなかったのか・・・・・・・
そう思わせるほどに圧倒的な・・・・威風堂々と・・・・・存在感、威圧感。
その構成する音の質も・・・・見事な配色具合、オーケストレーションを成している。

ある一つの意志に統合されている美美しさすら備えてそびえ立ち、単調な、だが抗しがたい繰り返しのリズムは生命のリズムを表して、無限を内蔵する。

楽器を抱えるエヴァが小人に見えてくるほどに強大な存在の「音」
神が降臨してくるときには、このような音が鳴り響くのではないかと思う。

ATフィールドさえ軽々と中和、通過し、装甲をびりびりと障子紙のごとく震わせる。
今までは、様子見だか手加減だが遊びだか知らないが、まるで本気を出していない・・・果たして今もそうであるのか分からないが・・・・・のはどんな愚か者にも分かった。

これほどの相手に歯向かうのも愚行であろうか・・・・・・・・・・

世界樹というのはこうしたものだろうか・・・・もはや天空全体を覆うように枝幹を拡げて、その神秘的なつめたい翳りに結晶のような超高の響きを・・・・・・きかせる





幼な子 われらに生まれ 御子 われらに与えられぬ

その肩は帝国を担い その名は「偉大なる会議の長の天使」

主に向けて歌へ 新しきほめ歌を なんとなれば奇跡をなし給いつ

御父 御子 聖霊に栄光あれ

始源にても 今も 而して 永久に 世紀に世紀を継ぎて アーメン

幼な子 われらに生まれ 御子 われらに与えられぬ

その肩には帝国を担い その中は「偉大なる会議の長の天使」





「レイ・・・・・さがりなさい・・・・・・・いや・・・・さがって」
全身に鳥肌が立つほどの恐怖を歯を食いしばって耐えながら指示を出す葛城ミサト。
中央モニターの各数値はレッドゾーンを超え、判別測定不能状態。ヘッドホンを外すのがもう少し遅ければ、鼓膜が破れる程度では済まなかったであろう青葉シゲルは死人の表情。


手のだしようがない・・・・・・葛城ミサトの眼には、モニター内の市街が金色に輝いて見える。おそらく、使徒がその気になれば一撃で消し飛ばされる。N2爆弾に換算するのも愚かしいであろうが、あえてやるなら百発、千発ではないだろう。本部さえも無事で済むかどうか・・・・根こそぎやられそうだ・・・・・後腐れなく。


「どうするの・・・・・・ミサト」
最後の会話のかわりに訊いてみたのだろう、まさかこの期に及んで逆転の秘策が思い浮かぶなどと言うマンガめいたことを科学者は期待しない。

「三十六計を使いたいところだけどね・・・・・・そうもいかないっか」
ここから先は指令と副司令に預ける他はない。命運はともかく、人類の運命までは手に負いかねる。指令席を見上げようと振り向いたその時。



パチパチパチ・・・・・・・・・不謹慎の極み。こんな時に拍手をする人間がいる。



こんなときでなければ、名探偵登場、といいたくなるほどに英悧颯爽と現れたのは・・・

「霧島・・・・・・教授?」

「どうやら使徒も行き着くところにまで行き着いたようですね。模倣を続けた先に驚くべき進化をすると思ったのですが・・・・・やはり、元の因子がなければそれも叶わないということでしょうか」

この状況にあっても、いつもの理知的な笑みを絶やさない。偉大な俳優なのか、それとも筋金入りの詐欺師なのか、どうも現実を見ているようには葛城ミサトには思えない。

「そろそろ・・・・あの使徒の生命活動を停止させましょうか」

こともなげにこんなこと言い出すし・・・・・・・・・・・・・・・・・え?

今、この人、何て言った?!
「あの、霧島教授!今、なんて仰ったんですか?!」
血相を変えて尋ね返す。これでイギリス式のジョークです、なんぞと言われたらこの場でマグナム撃ち殺していたかもしれない。

「幕を下ろして退場願う、ということですよ。葛城一尉」
穏やかなままに、穏やかな表現を用いる霧島教授。くたばる、だの、ぶち殺すだの、殲滅させるだのは教授の語彙にはないのかも知れない。

「ああ・・・・・だから拍手してたんですか・・・・・・それにしても、どうやって?その方法を教えて下さい!!」
イヤミすれすれのカッコマンぶりもこの状況でやられるといっそ痛快・・・でもないか。とにかく、そんな方法があるというなら千回頭下げても教えてもらわねば・・・・。
素人考えであろうが、あれを前にして頭が働くというだけでも大したものだ。
すくなくとも。自分の頭の刺激にでもなるなら・・・・・。

「頭を下げられる必要はありませんよ。これは、分析部からの正式な要請です」
「はあ・・・それで・・・」

「拍手です。出来うる限り大量の拍手の音が必要です・・・・・一般市民の方々にも協力していただいて、それを市街に生のまま流してください」

「え」
一瞬、葛城ミサトは我が耳を疑うよりも、これは夢じゃないのかと考えた。
そして、人間を信用することがどういうことなのか、思い知らされた気がした。

「まさか・・・ほんとにそれで使徒が沈黙すると・・・・・」
まさか、この人、使徒の精神分析をした結果、この使徒は寂しがり屋で人間に相手をしてもらいたいがために第三新東京市に来襲し、思う存分騒いだ後は、大勢の拍手をもらえばそれで気が済んで家に帰るとかなんとか言う気じゃないでしょうね・・・・。

「赤木博士・・・・・・技術部として、この要請はどうでしょうか」
しょうがないから赤木博士にふってみたのだが・・・・・



「・・・・・・・・その方法が・・・・・ありましたわね」
珍しく、虚を突かれた表情をしている・・・・・もしかして、マジでいけるのだろうか?

(なに、本当の本当にいけるわけ?この方法?くやしまぎれのシャレでもなんでもなくて)(説明はあとでしてあげるから、今は教授の言われた通りやった方がいいわ。どうせ、打つ手ないんでしょ)
(そりゃそうだけど・・・・・・これで死んだら死にきれないわよ)
(それは逆よ。生きるためには変化に対応しなければならない・・・・・とにかく、これで戦意を高揚するのは難しいと思うけど死ぬ気でやってみてね、作戦部長さん)



ともかく、霧島教授の謎の要請通りに緊急に事を運ぶ葛城ミサト。
人間相手の、しかも緊急時の人間を相手にする仕事は厄介で困難だが、結局、誰も彼も命は惜しいし、それがかかっているとなれば、多少の変奇さには眼をつぶろうというもの。

鈴原トウジも相田ケンスケも洞木ヒカリも山岸マユミも高橋ノゾク氏も首をかしげたが、言われた通り、拍手し続けた。生で流すために録音も電気的に増幅も出来ないためだが、理由も分からず拍手などさせられるとは・・・・・この街に住んでいるといろいろな事がある。




「なに・・・・・やってるんだろ・・・・」
ようやく涙のおさまった碇シンジはケージで整備員達が一カ所に集まって拍手している光景を見て首をかしげる。なんだかやけくそのようにも聞こえる。

「ファーストが使徒を・・・倒したってこと?・・・・にしては何かヘンだけど・・・」惣流アスカも状況がつかめない。もしや、使徒の音楽に洗脳でもされたか・・・・と弐号機のそばを離れずに様相を確かめることに決めた。

「なるほど・・・・オーバーフローを狙って・・・・霧島教授の発案かな」
渚カヲルにはその意図が分かったらしい。戦闘、いや、演奏会の終了を一足先に知った。




零号機 エントリープラグ 綾波レイ

「とりこめない・・・・・音が・・・・壊れていく・・・・・・」
事の終わったのをこの少女も感じていた。戦闘態勢、いや、演奏の構えを解いた。
大量に地下から溢れてくる、模倣できない「音」。手に余れば放っておけばよいのだが、そうなればオーケストラの完全さが崩壊する。どちらにしても王手詰みなのだった。




無人の街に遙か地下よりの拍手だけがこだまする風景というのは・・・・・
音の瓦礫も崩壊の欠片も見えず、だが確実に滅んでいく、その様。
だが・・・これほど感動的でない「万雷の拍手」というものもないだろう。
いつ終わってよいものやら、見当がつかないのだから。作戦部長、葛城ミサトでさえ。



「スアラとブニイ・・・・・いや、これは私の耳にはおえない事柄だろうね」

神の城のような使徒音楽が崩壊していく様にも熱したようすもなく、霧島教授はそんなことをひとりごちた。インドネシアの言葉で、「音」のことだが、スアラは「いきたもの」の音で、ブニイは「死んだもの」の音だ。もうすでに・・・いや、徹頭徹尾、霧島教授にとって使徒などは研究対象のひとつにしかすぎないのだろう、か・・・・・

難事件をこともなげに解決した探偵はその知的勝利を冗長に語るのが常だが、そんなことには何の興味もないらしい。葛城ミサトがこわく感じるのは、教授がさほど喜んでいる様子でもないことだ・・・・・・覚めているのでもない、穏やかなままに・・・・・・


失礼かもしれないが・・・たまたま的中したからいいものの、これで外れていたら皆殺しになっていたところだ。よくもまあ、平然としていられる・・・・。
・・・・とはいえ、自分には打つ手がなかったのだから、感謝するしかないのだが。



いや、まて・・・・今度こそ本当の本当の本当に沈黙したんでしょうね・・・・・・?



「大丈夫。今度はパターン消失しているわ・・・・正真正銘の、終わりよ」

「これでカーテンコールがあったら・・・・泣くわよ」

「それは、大丈夫」
「?自信ありげじゃない」

「・・・・透明な信号がみえないからよ」











「うっわー・・・・・・疲れたあ・・・・・・あー、肩いて」

「ただいまぁ・・・・・さー、シャワー一番乗りいっと!」

「ただいま、ペンペン。留守番、ごくろうさま。何か変わったことなかった?」

「うぎゃうっうー!」
葛城ミサト、惣流アスカ、碇シンジが家に帰ってきた。夜遅く、すでに十時を回っている。後かたづけやら何やらで結局、この時間になってしまった。もちろん、全てが済んだわけではなく、あくまで寝に戻ったようなものだ。それでも使徒の心配がなく家で眠れるというのは格別だった。こりゃー、ビールがうまいわあ!というのは葛城ミサト談。
赤木博士と渚カヲルはまだ本部詰めで仕事だというのに・・・・。


「・・・・・・」
綾波レイが立っている。


「さ、レイ」
「綾波さん、あがってよ。・・・さすがに今日はなにもないんだけど」
客を招くようすではとてもないくせに、本日の功労者にして敢闘賞の綾波レイを誘ったのは、葛城ミサトだったか惣流アスカだったか碇シンジだったか・・・・三人ともだったか

「はい・・・」

ふ・・・・それは光の加減だったのか、疲れての眼のかすみだったのか、一瞬だけ、しんとしずまりかえる水の底より浮かび上がった表情は・・・・セレナーデ




そして。




すずうぅぅーーー・・・命の洗濯を終えて四人は食卓でカップラーメンをすすっていた。

さすがの碇シンジも四日も家にかえってなければ用意のしようもない。作り置きや買い置きしても悪くなるか腐ってしまう。社交辞令でもなんでもなく、ほんとになにもない。
まあ、十時をまわって大食しても、胃に悪し胸焼けする。なにせ疲れ切っている。

の割りには惣流アスカは一人で元気で、クラシック・エヴァ四重奏楽団が終わった後は、さっそく「地球防衛バンド構想」について熱く語るのであった。

子供って元気ねえ・・・・・と苦笑いしながらそれを聞く葛城ミサト。

そういえば・・・・・マナちゃんが来るんだ・・・・・本当に本当の本当で・・・・あれ、どうだったかな・・・・本人の顔は知っているわけだし、初対面でもない・・・んだけど会ったことはない、から・・・・・うーん・・・・と、しょうもないことに思いを馳せて、見咎めた惣流アスカに「なにボケボケっとしてんの!人の話はキッチリ聞きなさいよね!」とひっぱたかれるハメになる。「まあまあ、シンジ君も疲れてるんだろうし・・・・」と葛城ミサトがなだめにかかれば「そーやって甘やかすから、ボンヤリに磨きがかかって比較級ボケボケシンジになっちゃうわけよ。そのうち最上級」「あいたー・・・・そんなにパカパカ叩かなくたっていいじゃないか」「ふん。頭の血行を促進して回転を早めてあげてんのよ」「頭なんか回らなくたっていいよ。エクソシストじゃないんだから」
「あら。シンジ君、そんな大昔の映画よく知ってるわねー」「この前、テレビでやってた
んです」「そういえばさ・・・・いくら日本が年中夏だからって、年中怪奇怪談ものやるのはカンベンしてほしいわよね。こう続くと怖くもなんともないわ」「まー、一昔前は毎日、殺人事件ものをやってたらしいから、まだかわいいもんかもしれないけどね」


なんとも麗しい食事風景。もし、綾波レイがおしゃべりで、この様子を学校でネルフ本部で吹聴したならどうなることやら。四日ぶりの家ともなると、緊張の糸が一気に切れるのだろうが、これはひどい。見事なまでに知性のちの字もない会話だ。



だけど、三人とも・・・・開かれた表情(かお)をしている・・・・・・



「綾波さん、疲れた?」
その問いが唐突な気がしたのは、碇シンジのこちらに向ける表情が同じだったから。


「え・・・・、はい」
そう返事をしてしまったのはなぜだろう。
「ごめんね、相手もせずに。・・・・・ミサトさん、綾波さんはどこで・・・」

「ぬひひひ・・・・シンジ君の部屋なんかどうかなー?」
「ビールも・・・・五本しか飲んでないのに酔っぱらわないで下さいよ、ミサトさん。
綾波さん、疲れてるみたいなんですけど」
「うおっと。シンジが怒ってるう。・・・・綾波さん、疲れているみたいなんですけど!うっくっくっく・・・・・か、かっこいいー・・・・くっくっく・・・」
「・・・・・・アスカ、顔が赤い。・・・ミサトさん」
「お相伴、お相伴っと。シンジ君も一本くらいならいいわよん・・・あら、いいの?・・・・じゃ、私の部屋使って。・・・・わたしはソファで寝るから」



「それじゃ、おやすみさい」
主が不在のため、荒らされることはなかった葛城ミサトの部屋。そこまで案内して碇シンジは戻ろうとした。リビングでは惣流アスカが、つまみを買いにいくーだの喚いていた。

「明日の朝は早起きして、美味しいサンドイッチをつくるから。パン屋さんでパンを切ってもらって・・・・



・・・・それから、さっきは、にぎやかしでごめんね。
ミサトさんもアスカも・・・僕も、正直、綾波さんにどうしてあげれば良かったのかわからなかったんだ。
何か、話してあげればよかったのか、話をきかせてもらえばよかったのか・・・・・
ああ見えて、アスカもミサトさんも、けっこう気をつかう性格なんだ・・・わらうかもしれないけど、けっこうそうなんだ。そう、みえないかもしれないけど。僕は一番鈍感なのかもしれない・・・・・あ、ごめんね、長く話しちゃって。おやすみっていったのに」


本当はこんなことを話すつもりはなかった。今も、綾波レイにはどうしていいか、分からなかった。この想いを・・・・・たった一人で、孤器をもって使徒に静かに立ち向かった・・・・おそろしいほどの心のつよさ・・・・・・綾波レイのその姿。

おそらく一生忘れまい。だがそれはいつものこと。エヴァンゲリオン零号機の専属操縦者、綾波レイはいつもそうして戦ってきた。が、それは戦歴としてしか余人には分からない。
戦果としてしか評価されない。戦闘とはそういうものだ。


だが、あの演奏。使徒を殲滅させる為だけの音楽。凶音。誰も望まない音。
それを自分の魂用いて響かせた零号機、綾波レイ。あえて、弾いた。自分の、ため。


碇シンジ達はあとでそれを知ったのだが、聞いたとき、ブツ。心の琴線が切れる。
感動、という言葉をそれにあてはめていいのかどうか、知らない。
他人はどんな心の動きを感動と言い表すのだろう。体中を染みわたる痺れのことか。
「メールシュトローム・・・・・・」
惣流アスカはひとことでそう言い表した。
碇シンジはひとかたまりの言葉をみつけられなかった、渚カヲルも沈黙していた。



「そ、それじゃ、ほんとにおやすみ・・」
碇シンジのフォローをするように、向こうから、惣流アスカの「俺はジャイアン」の歌と葛城ミサトのチャンチキおけさが聞こえてくる。掟破りのなんとやら、かもしれない。
内心でちょっととほほ泣きが入りながら戻ろうとする碇シンジ。


「碇・・・君」

「はい」
呼び止められたのでおどろく つと 一歩近づいてくる綾波レイ ことばは かすかな



「・・・・・・」
意味深く、風はささやいて過ぎた。



「それじゃ、おやすみなさい・・・・・」
「うん・・・・」

蝉の鳴く、音が聞こえた。夜気をこすって、闇の中に先の、みえない蝉の声が。

赤く、眩暈がした。その中で遠くに近くに、紅き音色の揺曳が、耳にのこった。

ふたつのおとのはざまに、碇シンジは五秒だけ、たちつくしていた・・・・・。






次の日の朝。
碇シンジは約束どおり、サンドイッチをつくるためにパン屋にいくので早起きした。本当はもう少し寝ていたいが、そうもいかない。が、この日の葛城家は早起きの人間の方が多かった。碇シンジ、そして、・・・・もしかして寝つかれなかったのかもしれないが・・綾波レイ、それからなんと、葛城ミサト。これは目覚めているが、起きてない。ソファの上でどこにかけているのかモーニングコール中。惣流アスカとペンペンは未だ眠りの中。

「ありゃ・・・、は、早いわねふたりとも・・・」
まさか子供二人がこれほど早く起きてこようとは思ってなかった葛城ミサトは多少慌てたようだ。・・・・どうも聞かれてはヤバキチな話であるらしい。
そこで、綾波レイも碇シンジについてパン屋にいくことになった。

ちょっと遠いので、籠つき自転車、いわゆるママチャリという南方系のひびきの乗り物でゆく。が、もちろん一台しかない。
「・・じゃ、どうしようかな・・・後ろに、乗ってくれる?」
綾波レイを自転車の荷台にのせて、透き通るようなすずしげな空気の中、すいすいといく。


「ふぅ・・・・・行ったわ・・・・・・・で、さっきの話の続きなんだけど・・・」
ベランダから二人が行ったのを確認して、再び電話を続ける葛城ミサト。

「別に聞かれたって困る話じゃないでしょう・・・・、シンジ君たちにもどうせ説明しなきゃならないんだから・・・・」
「その前に作戦部長のわたしが知らなきゃ、コケンにかかわるでしょーが!!」
電話の相手は赤木博士。本部に泊まり込み明けて、一区切りつけてのコーヒーブレイクの
所を葛城ミサトに急襲され、あまり機嫌はよくない。用件が用件でなければ、早々に切ってやるところだったが・・・・・使徒の件となると・・・・・

「だから、さっきから言ってるように、音源をもっているわけでない使徒が音を発生させるのは、既にあるものを模倣するしかないの。・・・収集したデータはあくまで人間の耳によるものだから、数値的な信頼性には欠けるかもしれないけど・・・実際にキャノンの演奏を即座に逆展開再生させてみたのだから、それはいいでしょ・・・・ええ、そうよ。
・・・・・え?前置きはいいから、要点だけおねがい?・・・・・わかったわ。

人間の拍手の音、というのはどうしてもうまく似せることの出来ない音なのよ。単純な響きだけれど、完全にコピーするのはまず不可能。それも、一人の人間が行った拍手の音が二度目からは同じだとは限らない・・・・いえ、本人でさえ完璧に同じ音を出すのは無理でしょうね・意識してもしなくても。意識することで微妙な筋肉の・・・え?脇道にそれるな?逸れてないじゃないの、これ以上言うなら切るわよ・・・・・そう、分かればいいの・・・・・・どこまで話したかしら・・・・そう、たった一人の拍手でさえそれだけ出鱈目な・・・ちょっと違うわね、マトモにコピー化しようとするなら膨大なデータ変換が必要になる・・・と、いったところかしら・・・・・それがネルフ職員のみならず、第三新東京市民の拍手の数量ともなれば・・・・どれほど容量のある記録媒体でももたないわ。一番再生しにくいヴァイオリンの音色をもやすやすと真似てみせた今回の使徒の模倣能力は大したものだけれど、さすがに、耐えきれなかったみたいね。


ふっ・・・・・・

・・・・ともあれ、この世の中で最も単純なものが常に最も多くの謎を秘めていると云ったところかし・・・・・」

「ありがと、リツコ」
ぽぴ。あっさりと電話を切ってしまう葛城ミサト。さー、シンジ君たちが帰ってくるまでもう一眠りといきますか・・・・・・とりあえず、気が晴れた。いい友人をもって・・・
しあわ・・・・・ふぁ・・・




「・・・・・・・・」
ぶるぶると受話器を握りしめる赤木博士。ちょうど興が乗りかけたところで・・・・。
けっこう「決め」なセリフを言い終えることの出来なかった・・・・・くやしい・・・。
科学者はある意味、この手のセリフを言うために生きているというのに・・・・・・



「・・・・ふーむ、音が途中で途切れると、気持ち悪くなるもんだけど、拍手の音がシメてくれたりするのは、そういうことだったのね・・・・」
事が済んでしまえば、科学者の言うことなどご託のようなものである。
葛城ミサトはソファでひっくりかえりながら、とんでもないまとめ方をした。





そして、自転車でいく碇シンジと綾波レイ。
「てのひらの宇宙」を口ずさみながら、使徒にやられた次の日でも開いている根性のあるパン屋さん「りとる・こっくさん」へ。

なぜ、その歌なのか、碇シンジにとくに選曲の意志はなかった。自然と、浮き出してきたのだ。自然発生・・・・しているのではない。自然界には歌うものはない。碇シンジの心がそうしているのだが、ほんとうに、何の気もないのも事実・・・・いい歌だな、と思うだけ。歌は、生き物のように人の心から心を飛び歩くもの・・・・・かもしれない。


だが、その歌詞を考えるとこれは、ちょっと「ぬけぬけ」ものである。



綾波レイも、いま、その歌を聞いていた・・・・・何の気もなしに、耳を傾けていた。

音楽とはそもそも、人間の祈りを神様に聞き届けてもらうための手段であり、神の偉大さ恩寵などを知らしめるための方法だった。そして、歌は神を呼び、霊を呼び、あるいはその逆に、神から逃れ、霊から逃れるための祈りだった。とても、大昔はそうだったのだ。


だが、いまは、自転車で買い物にいくほどに気楽に、歌ってもいいのだった。



こんな朝には とくに・・・・



そこで同じくパンを買いに来た委員長洞木ヒカリに偶然に会ったりする。
そこでなぜか、「おはよう」でも「なんで綾波さんと碇君、一緒なの」と問われるでもなく開口一番、こう聞かれた。

「碇君、いま、岩男潤子さんの”てのひらの宇宙”、歌ってなかった?」


「え?」


おそらくは、今日一日は平和なのではないでしょうか・・・・・・





それから、月も半ばを過ぎて・・・・





第三中学校文化祭前日


文化祭を前日に控え、校内には普段にはない熱気があちらこちらに立ちこめていた。
授業も、本当は半ドンであるがそれを守るクラスはない。教師もほうも・・分かっている。
ひたすらに溜めていた準備の日々の終わり。開かれる前の限界まで凝縮されたもの狂いの空気。今まで知らなかった級友達の表情、自分の心の片隅に半年以上も気づかれずに置かれていたきらめく破片をみつける喜び。普段の生活では見えもしなかった、譲れない、線。それを前にしてのぶつかり合い。鉛筆やキーボードを叩いている指先から、こんなにもびりびりとした興奮が震えている・・・・・・


幸いなことに、使徒による被害は窓ガラスが割れた程度で済んでいた。これで校舎が全壊していたら、市場じゃないんだから、青空文化祭、なんてことにもならかっただろう。
中学生にとって、学校などさして面白い場所でもないし、巡り合わせや縁に恵まれなければ、「学校ぶっ壊れて今日は休校?ラッキー!」てなものでしょう。
が、ひとたび波にのってしまえば「行事?かったるいぜ」といっていた子でさえも・・・



各教室では発表のための飾り付けや、出し物の備えつけ・・・・もちろん、定番のお化け屋敷だの喫茶店だのもあります・・・・特別教室を使う、文化系部の準備やら・・・・・時刻はとっくに放課後ですが、まだまだ終わりそうにありません。泊まり込みは禁止されていますが、そんなもの聞きそうにないのもけっこうな人数いまして・・・・。
何故か今からコンビニに夜食を買い出しに・・・何故かその代金を担任が出していたり・・・・いく光景もあちこちのクラスから見られます。間に合いそうにない準備に、弱冠十三歳で初めてヒステリーを爆発させる一年生の女子委員長がいたり、用件にかこつけて初めて好きな子に話しかけた今ごろ君がいたり、どのクラスにもこう言うときに活躍する、お約束のパターンだが便利で助かる「意外な特技」くんがいたり・・・・さまざまな中学生風景が見られた。



その中でもとりわけ「熱い」のは、やはり体育館だった。
バンドだの演劇だの、大勢の観客を相手にする「見せ物」はここでやるからだ。

しかし、入り口の付近に異様に人が集まっているのは・・・これこれ、君達の準備はどうしたんだね・・・・まだリハーサルでしょうに?。ところで、何のリハーサルでしょう。

べたべたべたべたべたべたべたべた・・・・・・・っっ。あらら流れ貼ってあるビラ。
どん!、どん!、と仁王像のごとく両脇に踏ん張っている広告サンド。

「地球防衛バンド コンサートライブ 午後壱時から弐時

後夜祭でも出場決定!!」 と、ある。

ビラや広告ポスターは絵がけっこう上手い。美術部員にかかせたのか、向こうの好意なのか。綾波レイと碇シンジの裏バージョンがあったりするので(こちらは夕の部で使う予定)
おそらく後者であろう。
渚カヲルに惣流アスカ、看板少年に看板娘。なんと盗まれないよう、鍵が掛けてあったりする。とにかく、えらい人気だ。


しかし、これで演奏がへたっぴだったら、いくら鈴原トウジのいう「みなで参加することに意義があるんや」的題目も、盛大な恥さらしとともに爆砕するハメになる。
基本的に、電気を通すバンドで使う楽器は大変に大きな音がでる。
電気ギターなど、バイオリンと同様、へたくそが弾くともはや立派な拷問具と化す。
調整なども具合を考えてうまくやらないと、とんでもないことになる。
「地球防衛バンド」どころか・・・・・・・

「火星から来た地球侵略・ブラックゴッドバンド」などという名がつけられて、飛んでくる空き缶やザブトンの嵐の中で暗あい青春の傷となるのだ。これは一生モノで忘れることはない・・・・・。


さて、人気と集客力はいうまでもないが、実力の程はいかに・・・・・・校内新聞では、かなり怪しげ目に書かれてはいたが・・・・・練習もどこでやっていたのか不明・・・・碇シンジの「チェロ”は”やってました」発言・・・・・渚カヲルの「”ほんとは?”
歌は(が)いいねえ」発言・・・・いよいよ謎のベールをぬぐ地球防衛バンド!!


リハにもかかわらず、くそ忙しい中、人が集まるのも当然か。

「ふっ・・・・・これも計算の内さ」相田ケンスケが眼鏡を光らせたかどうか。




「青葉君、すまないわねー、ここまでつき合ってもらっちゃってさ」
「いえ、自分もこういうのキライじゃないっスから」

体育館の音声調整室。私服の葛城ミサトと青葉シゲル。葛城ミサトはともかく、青葉シゲルも今日は貴重な有給をとって来ていた。ラストの指導に、機材の運搬などなど・・・・ようしゃなく、こき使われたが顔は晴れやかだ。あとはリハの見物でもしていればよいものを、頼まれもしないのに音響までかってでていた。さすがにオペレータでならしているだけあって、青葉シゲルがちょいと手を加えると格段に音がよい。設備はなかなかよいのだが、使いこなす人間も教える人間もいないンすねえ、とちょっと憤懣。ほんとに好きなんだねえ・・・・・葛城ミサトは感心してしまう。あれだけ「音」に苦しい目にあわされたというのに・・・・。まあ、音楽は楽しいものだけど、ね・・・・。


体育館の床にはまだ、椅子はしきつめられてはいない。それは早朝になってからだ。
だから、まだ演劇の背景の木クズやらビニールテープやらが散乱している。
演劇部にクラス演劇、ブラスバンドなど他の出し物のリハが終わり、いよいよ地球防衛バンドの番が来る。終わったところは当然、最終打ち合わせやら、手直しやらでそれほどヒマではないはずだが、居残っていたのは・・・・・やはりコレを聴くためだった。
だから、劇の役者たちがメーク衣装のままで、ブラスバンドや他のバンドが嫉妬三割、興味七割でぞろぞろとステージを待っているのは、ちょっとした絵図であった。

「こういうのって・・・やっぱ、学校でしかみらんない光景だわね・・・・・」
「そうっスね・・・・・・」
酸いと甘みを薄い寂しさで包みながら、葛城ミサトがつぶやいた。

「十四歳だもんねえ・・・・・ほんとはこういうことしてるんだわ・・・・・」

「ところで、どうなの?地球防衛バンドの腕前のほどは」
「腕前って・・・・まあ、そうっスね・・・・・この人気ですからね・・・・・・」

親心というか、姉心というか・・・・名伯楽を頼みはしたものの、バンドについて疎い葛城ミサトは心配でしょうがない。デモテープさえ聴かせてもらっていないのだ。

「どうせ本物を聴けるんだから、楽しみを減らすこともないでしょっ?」と、惣流アスカは碇シンジにも練習の経過や風景を教えぬように箝口令をしいたのだ。


「聴いたらミサトの奴、来ないかもしれないわ」などと珍しく陰口を叩いていたのは聞いていたのだが・・・・・まー、碇司令はこないし・・・・・「子供の遊びに興味はない」らしいし・・・・・絶対こないわねー・・・・・まー。実際問題としても・・・。
加持のやつも・・・・両方、日本から出てるしね・・・・・それを思うと、嬉しくもあり、腹立つような気もする。・・・・あんたたちの晴れ姿、いかないわけがないでしょ?




「・・・・・ところで、準備にちょっと時間かかってない?」
「まあ、子供のやることですからね・・・舞台裏でトラブっているのかもしれません」

楽器だのアンプだのを運び込まなければならないし、それにくわえてピアノがある。その入れ替えには当然、裏方黒子、人手がいるわけだが、その手際も、リハのうちだ。

だが、本当の原因はそんなところにはなかった。舞台責任者はまじめにがんばっていた。
ただ単に、地球防衛バンドのメンバー達が時間を守らなかっただけだ。
洞木ヒカリや鈴原トウジといった、まとめ役は責任感が強い方である。
よもや、時間の圧しているリハーサルの時間に遅れるなどということは・・・・・・・・ただごとではない。もしや、ここにきて急にバンド解散するほどの大喧嘩をやらかしている最中とか・・・・途端に裏手がザワザワとし始める。

「おい、鈴原たちはどうしたんだ?」「楽器はおいてあるんだろ?!どこいったんだよ」
「え?渚先輩、いないんですか」「さっきまでそこらで楽譜あわせてたけど・・・・・」
「おーい、どうしたんだ。連中まだかよ?準備できたぜー・・・・はあ?消えたあ?
ハイドンの”告別 ”じゃないんだぜ。消えたバンドなんて・・・じょーだんだろ」

それはすぐさま見物人にも伝染する。べつに報道管制をしいたわけでもないから、ソデからいいように広まったわけだ。きまぐれ天才ギタリストじゃあるまいし、リハをすっぽかすわけもないだろう。一体どうしたことやら?ほんとに話題性には事欠かない。



「・・・・・なにしてんの。シンジ君たち」
「・・・・・おかしいっスねえ・・・・・」



「あれ?なんでみんないないの?」

ひょいっと碇シンジが舞台裏手、いきなり消えた地球防衛バンドのことで大わらわの中にに現れた、というか戻ってきた。一人だけだ。しかも、この様子では他のメンバーの行方を知りそうもない。

「碇?!お前ら・・・・いや、お前だけか?どうしてたんだよ」「碇君!?バンドの他の人たち・・・鈴原とか洞木さんとかは?」「まさか全員食中毒なんてんじゃないだろな」ゴウゴウに問いつめられる碇シンジ。この状況では当然だが。皆、熱気で頭が茹で上がっているのだ。とはいえ、碇シンジにも状況がわかっていない。遅刻しそうになったけど、遅刻はしなかったわけだし、ぎりぎり・・・・・なのに、バンドのメンバーはいないし、皆からは問いつめられる。わけがわからない。

「えっ・・・・あの・・・・・みんな、いないの?こっちにも」
舞台奥地下の控え室でなく、こっちの方で打ち合わせで気合いでも入れてるのかと思っていたのだけど。ちなみに、碇シンジがリハの前だというのに、ちょっと出ていたのは携帯がかかってきたため。霧島マナであった。今、第三新東京市に着いたそうだ。今日は父娘水入らずで、明日、みに来てくれるのだという。どれくらい話していたのか覚えていない。が、リハーサルのことを思いだし、あわてて走ってきたのだが・・・・・・。


「どうしたんだろう・・・・・・」
そりゃ、こっちが聞きたいよ!と周囲全員で一斉砲火ツッコミが加えられそうなその時!


「ごめん、ごめん!みんな、地球防衛バンド、今からやります!!」
惣流アスカを筆頭として、バンドのメンバーがあわてて走ってきた。珍しいことに、渚カヲルでさえふだんの余裕がちょっとなかった。ひとりペースを崩さないのは綾波レイくらいなもので、皆、息をきらすほどに駆けてきていた。
バンドマンとしての心構えがなっていないあわてぶりだ。いい演奏は心の余裕から。

「どうしたの・・・・みんな。どこいっていたの」


「シンジィィィィ・・・・・・なんでオノレが忽然とここにおるんや?!」
「このバカシンジ!!ア、ン、タをさがしてたんじゃないのっっっ!!!」
「いーーーかーーーりーーーーくーーーーーんーーーー遅刻よ遅刻だわ!」
「ああー・・・オレ達の協調とチームワーク・・・・明日はどっちなんだ」
「人間はつねに心に痛みを感じている・・・・・時間に縛られているから」

どっちにしろ、砲火をくらう絶対運命の碇シンジであった。


ふらっといなくなった碇シンジ。最初は、緊張のためのトイレかと思っていたが、それにしては長いし、いっていると、いない。「まさかあのバカ、ヘチマの観察展示でも熱心に見入ってんじゃないでしょうね」「・・・ありうるのう、シンジなら」さすがに学校からは出ていないだろう、と山岸マユミと綾波レイを留守番に、手分けして探しに走ったのだが、何処にもいない。ここで、「小学生じゃあるまいし、時間になれば戻ってくるだろ」と誰も口にしてくれなかったのが、碇シンジの恐ろしいところである。

時間が近づいてきても、碇シンジも探しにいった五人も戻ってこない。仕方がないので、時間を知らせに山岸マユミも綾波レイも出ていった。楽器を扱うために、腕時計をはめていないのだ。それをすっかり忘れていたのが、原因といえようか。霧島マナから電話がかかってこなければ、こうなることもなかったのか。ともあれ、かなりの大部分で碇シンジが悪い。そのわりに、ひとりで先に戻っているのだから手に負えない。



洞木ヒカリや鈴原トウジは周りにぺこぺこ心配させて迷惑かけたことを謝り、まるでこまったちゃんをもつ父親と母親だ・・・・


「リハーサルだからかろうじてよかったものの・・・・・本番でやったら冗談ヌキでコロすからね!!よーく、肝に命じときなさいよ!バカシンジ!!あー、あー。ただいまマイクのテスト中、バーカ、バーカ、バあカシンジーいい・・・」
「ひ、ひどいよ、アスカ。そんなマイクテストなんかないだろ・・・えー、聞いているひと、今のはうそです。信じないでください」
「こら!マイクかえしなさいよ」


「あのなあ・・・・惣流もシンジも・・・・ライトで見えにくいかもしんないけどさ・・・・リアルタイムでこの人数が聞いてるんだぜ?全校に広がるぞ・・・・・」
機材のチェックに余念がない相田ケンスケ。半分がた、ほうっている。この言い合いを止めるでもないのが、さすが同じメンバーということか。



「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
ピアノ弾きのふたりは沈黙だが、その質がちがう。山岸マユミは照れと羞恥と緊張とでうつむいているためだが、綾波レイはいつものとおり明鏡止水のたたずまい。



「・・・・・・・ふっ」
舞台対面の二階席に微笑んでみせる渚カヲル。そこには、大型の懐中電灯といろんな色に塗り分けた五十センチ四方のボール紙を何枚も用意している女の子たちがいる。それは、ステージで演奏している人間には分からない、全体の音のバランスをとるためのモニター役なのである。ボーカルが弱いときは赤のボードを、ギターが弱いときは青、ピアノが弱いときは黄色、などなどと出してもらうわけである。逆に強い場合は、それを大きく振ってもらうのである。その報酬が微笑みひとつ、というのだから末恐ろしい。



こういう八人が織りなす音楽とはいったいどういうものなのか・・・・・



裏手にいる人間もつくづく!、興味が湧いてきた。これでへたっぴだったなら、ただではすむまい。すまさまい。これは、かなりのプレッシャーだ。リハにもかかわらずこれだけ、劇的なマネをしてくれたのだ。見物客にも、地球防衛バンド登場の報がつたわる。


現れてしまえば、セッティングはけっこう早い。さすがにロンゲに仕込まれただけはある。



「そっ、バンマス。いきましょーか」
「おっしゃあ!!みな、いくでえ!地球防衛バンドの初お目見えや!!」
惣流アスカも、洞木ヒカリも、碇シンジも、相田ケンスケも、渚カヲルも、綾波レイも、山岸マユミも・・・・・・・鈴原トウジの話に乗せられたその日から・・・・・この日と明日のために、練習してきた・・・・・おそらくは、この時代、この時に、この場所で、出会えたことを、なんらかの形にするために・・・・・

この発案自体、偶然のようなもので、鈴原トウジと相田ケンスケがふと、そんな気を起こさねば生まれなかった。形を成さなかった。誰も知ることはなかった。確かにこの八人の内にあるもののはずなのに、気づかずままに過ぎていったことだろう。死ぬまでに。

やってもやらなくても同じこと。地球防衛バンドなどやらなくたって誰も困りはしない。
必然性はないのだ。やらなくたって、明日はやってくるし、やるべきほかのことはある。
ひとたび形になればなったで、今度は消えていく・・・・いつか必ず。

消えていく破片のようなもの・・・・・それを、かけがえのない、という・・・・・

同時に、そう簡単に無くなってしまっては困るもの・・・・・・・・いのち
この、”ど”しぶとくあるものを、いつも上においておくと、きっところげおちてしまう。

この両方が混じり合うと、音楽が生まれる。「生きている間だけ」無限のものが、どういうわけだか消えていってしまうこと。わざわざ消滅を選ぶこと。それに、惹かれる、心。

大昔にも音楽があって、おそらくこの先も音楽はあるだろう。もし、神様のつくる、完全な音楽史なんてものがあれば、彼らの音も記録されるはずだ。ずっと繰り返されてきた営み・・・・・飽きることなく、子供も若者も大人も老人も、その時代時代に音楽を愛するはず・・・・少しだけ姿を変えながら、同じことをする・・・・だけれども・・・・・・

この時、この瞬間、瞬間に閃く音は・・・・・きっと・・・・・その音楽史には残らない。
その、瞬間だけのもの。何者も取り上げることの出来ない何かが・・・・そこにはある。

でなければ、人間はとっくのとうに音楽など聞かなくなっているに違いない。
だから、その粘着力の強い「自由」をつかもうとする物好きが曲をつくったりするのだ。
魂が五線譜の上を出張してくれるのかどうか、それはわからないが。


さて、一寸の虫にも五分の魂という。中学生の体格ならば、それなりの魂が入っているだろう。それぞれの形や色をそなえて。



誰から、始まるのか。地球防衛バンドの初めの音は・・・・・バンドマスター鈴原トウジか、それとも伴奏はあくまで伴奏、ついてきなさいの惣流アスカ洞木ヒカリのボーカルか。

手堅いところで、てんてんてん、相田ケンスケ、碇シンジ、渚カヲルあたりから始まるのか・・・・・誰の耳も最初の音を自分が拾おうと、注意深くすまされていた。


歌の虜になるときは、いつも一目惚れ、ならぬ、一耳惚れなのだから・・・・・
そして、誰しも皆、いつも愛しい歌を探しているのだ・・・・



地球防衛バンドってどんなバンドなの?



その一番大切な問いに、今、答えるとき。この音に、聞いてくれや・・・・・・・!

一番よく、分かりやすくてっとりばやく、上手い安い早いの三拍子で答えてくれるんは、
この二人や・・・・・・・・・それは総意の上のこと・・・・・六人の会心の笑みが光線のように一瞬で走って重なり合う・・・・・そこが、始まりの場所。



綾波レイ、山岸マユミのピアノ。白い四手が、滑らかに鍵盤をはしる・・・



天から星降ってくるようなピアノ連弾の早弾きから、すべてがはじまる・・・・・・

日暮れの一番星から百番星まで、あるだけの星々をつかまえてきて、じぶんたちの手元におろして遊ばそうという・・・・たったひとことで、このバンドの正体を言い表すならば八人揃って現れい出る意外な特質・・・・・そう、


「よくばり」なのだ。この子達は。




そのよくばりバンドは、地球を防衛するだけでは足らず、遠慮なく、ここにいる生徒全員の心をかっさらおうとしていた・・・・・。




そのための、地球防衛バンドなのです・・・・・・・




七ツ目玉エヴァンゲリオン
第十四話
第三新東京市立地球防衛
オーケストラバンド




Fin













epiro-gu
えぴろーぐ


第三中学校文化祭 当日 賑やかで活気のある一日だけのこどもの世界への入り口
校門前

「ここが、シンジ君のいる学校ね・・・・」
ピンクのリボンをくるりとまわす、白いつばひろ帽子をかぶった、これまた白いワンピースの少女。白の可憐さと、栗色の髪はかけっこの速そうな元気さを、よく動く瞳は利発さの証。この少女が霧島マナである。言ったとおりにやってきた。
地球防衛バンド・・・・・碇シンジの演奏を聴くために。


しかし・・・・もしやゲンをかつぐとするなら、昨日の様子を考えると・・・・電話がかかってきただけであの騒ぎである・・・・・・考えすぎとは思うが、本人の登場となると・・・・・・祭りというのは、普段の停滞した空気とは違う、ことさらに荒々しく騒がしい事柄を・・・早い話がトラブルだ・・民族学的にいうとハレ、好むものだ。



実際・・・・・・
昨日のリハ遅刻など問題にならない、とんでもないハメになるのだが・・・・・
人呼んで「鋼鉄のガールフレンド」事件として呼ばれる大騒ぎに・・・・・・



しかし

それはまた、べつの、おはなし。












第十五話につづく