山岸マユミが端末をかこかこ打っている。学校の宿題は済ませてある。
秘密のパスワードを入力し、シャドウキャビネットを開く。
懐かしの、RPGゲームについての掲示板、「茶房りるみがん」である。
管理人である山岸マユミは一日いっぺん、ここを読む。メールのチェックを後回しにするほど、この掲示板は面白かった。自画自賛かもしれませんけど・・・ほんとうです。
自負は感じないが、自分の設置したものが勝手に展開していくことに喜びと驚きを感じる。
最近の話題は、「TA」について。TAとは、「ウィザードリィType A」の略。迷宮探検型でウィザードリィの設定を用いたアマチュアの作った、ダウンロード専用のRPGゲーム。制作者の許可が下りているわけがないから、勝手に作ったのであろうが、これがとんでもない。内容もそうだが、ゲーム性がそうだった。タイプAのAは、アムネジア、アンチ・リセットとも云われるが不明・・・。その所以は、やり直しを認めない、ゲームだろうが人生は一回こっきり!とでもいわんばかりの、いっぺん主人公たちが死んだらそこでゲームオーバー。それは当たり前なのだが、このゲームの凄いところは、プログラムで表現される「ゲーム世界」のみならず、プログラム自体がまるごと消滅してしまうところである。本当に無くなってしまう。まるで007かスパイ大作戦の命令テープだ。
商業ベースにのりようがないこのゲーム。一度消えたら、またダウンロードしてくるしかない。作ったのは通信会社の人間かもしれないが、冒険のスタート直後だろうがクリア目前であろうが、「死ねば消える」のだから、人生教師的に厳しい。厳格和尚だ。コンチネンタル牧師だ。セーブは出来るが、リセット不可。
消滅・ロストはウィザードリィの名物だが、これは逃れようのない、絶対の死。
これでゲーム内容がつまらなかったらまだ救いがあるが、面白いのだからまさに蟻地獄。
こんなゲーム、作る方も作る方だが、やる方もやる方だ。はっきりいって・・・バカ。
そのハードボイルド・バカさについていけない山岸マユミは「TA」をやったことがない。ただ、プレーヤーの体験談は面白い。バカを承知でやっているからだろう。
スタート地点でちまちまと経験値とお金をためまくり、臆病をマッスルパワーに強化させハリネズミのように武装していっても、サクッと全滅こいたり、逆に裸一貫状態で特攻していったのが、結構長く続いたり、と。
迷宮の箱庭は、人生の縮図が展開されている。やり直しがきかない楽しさに脳内麻薬を感じられる人間向きのゲームであろう。「時間分解したアクションゲーム」と分析した賢い人間もいるのだが、その当人がはまりきっていたりするのだからどうしようもない。
「物語」と「ゲーム」の相違がみてとれる。
八ビット機の能力で十二分に表現される、簡潔な世界。悪魔のような不可能性。
未だにこのゲームをクリアした人の話を聞かない。このページにはけっこうな古強者がいるのだが、彼らでもクリアできないらしい。中には人間短気な者もいるから、プログラムを分解して、ラスボスを見ようと企んだのだが、あえなく失敗。ハードディスクまるごと消されてしまったらしい。よほどの変わり者らしい制作者は、かなりのパワーを持っているようだ。警告はされていたから、それを破った方が悪いと言えば悪いのだが。
山岸マユミさんホームページの方向性として、そこから、制作者を暴く!といった方には発展しなかった。ゲームをプレイして楽しむことから大きく外れるようなコメントはなかった。まあ、数の低下が質の濾過向上を果たした、ささやかにして希有な実例である。
あまりディープなことを話されても、管理者である山岸マユミが管理しきれなくなるだけである。そういうわけで、今日も波風はたたず、平和であった。
メールチェックする。三通。
自作の詩をおいてあるホームページに送った感想の返事が一通。
登録してある市立図書館からのお知らせメールサービス「ふみの轍」。
そして・・・・・題名「はじめまして」・・・・それはいいのだけれど、大きなデータだ。
時間がかかっている。動画や3Dデータでもそんなにはかからない。ナビの折り鶴が旋回する・・・・何か迷っているようにも見える・・・危険なものだろうか・・・・でも、警告メッセージは出てないし、ここは世界指折りの通信安全都市、第三新東京市・・・・・お父さんに聞いた方がいいだろうか・・・・席を立とうとしたとき、受諾完了した。
初めての人のようだけど・・・・誰・・・・・あまり変な名前の人(ネームのセンスで大体素性は知れるものだ)だったら・・・・
「えっ!?」
息をのむほど驚いた山岸マユミ。冗談にしてはタイムリーすぎる。
「TA製作者・・・・・・・ほんとうに?」
いかにも怪しげで、誘惑力が強い。大体、こういったものは開いてはいけないものだ。
触れない方が賢明なのだ。「君子、あやうきには近寄らず」・・・あらゆる書物が教える人生の基本だ。山岸マユミも知っている。しかし、困ったことに山岸マユミは山岸キミコではなかった。それゆえに、危険な匂いをもつそのメールは開かれることになった。
・・・本当は、メールソフトの危険率0%「安全サイン」が表示されたからです。
そもそも、破壊的能力をもつ悪徳プログラムはマギの関門を通過出来ないのだ。
秘密裏の検閲には問題もあろうが、そのためあてになるかどうか分からぬ通信セキュリティにお金をかけることもないので、通話料もお得になっている。これがアメリカのビジネス街やら欧州のシティーやら、回線の込み合ったところは(安全な)通信料がバカ高になっていて問題になっていたりもする。武装要塞都市のくせに企業がそっぽを向かないのはそんな利点もあるから。各自各家庭で「情報武装」したくない日本人向きのシステムと言えばシステムなのである。
さて、その内容は・・・・・