むかし、ある実験で事故があった。
 
 
エヴァンゲリオン零号機、その起動実験。
順調であった実験は突如の零号機の暴走により被験者綾波レイの瀕死の重傷という無惨な結果を導き出して終了した。
 
 
瀕死の重傷・・・・死に瀕すること、死に近く接すること。
 
 
でも、それは、本来それは・・・・・死、そのものであった、としたら。
生命が砕ければ人は死ぬしかない。いのちはひとつしかないからだ。人はひとりで。
砕けた自分の生命を、ひろい集めた誰かがいたのだとしたら。手のひらに集めて。
それをまた、つなぎ合わせてくれたのだとしたら。
 
 
頑健な人間でも耐えられないはずの衝撃を、なぜ自分が凌ぎきったのか。
 
仮定の疑問。その答えはいつも、いつでも、人間の手には余るものと相場が決まっている。
 
 
触れただけで、なにもかもヘシ折れるほどに重たい何か。ひとのからだは、もろい。
もろい肉体をへし折るかわりに、そのかわりのなにかがへし折れる。ねじ曲げる。
そのかわりのなにかをへし折らないために、もろい肉体をへし折るか。
 
 
そういうわけで、
神様の出した問いかけに、人間は答えてはならないことになっている。
おいそれと、答えてしまわない、辛抱が必要なのである。
 
 
世界には陥穽が仕掛けられている。ひとりよがりなゲームのように。
 
 
 
 
 
ドクンッ
 
 
綾波レイの心臓に衝撃が奔った。それは破れた天井部から見える黒い球体を見たせいでも
たしかにくたばったはずの白い巨人が黄泉返って現れたのを見たせいでもない。
そのような精神的なものではなく、肉体的に、心臓自身がこれより機動停止を宣言したかのような唐突にして絶対的な、衝撃。白い肌に冷水が流れる。
 
 
「今から十二分後に、あなたの心臓は停止する」
 
 
第十二使徒レリエル、と名乗ったもう一人の自分はそう言った。
奇妙な話だがその衝撃が真実であると証明し、保証する。もし、人間の体がからくり人形のようなもんであったなら、内部のバネが、バネの巻きがずるり、と緩まってしまった、そんな感じだ。今まで意識したことはなかったが、自分の心臓は、あたたかな手のひらのようなものでそっと繊細に気づかぬようにやさしく”支え”られていたことが分かる。
それが外された喪失感、失落感は強烈なもので、氷の腕を胸に突き立てられたかのようなドライアイスを埋め込まれたような、圧倒的な友情をそそいでくれた誰かに、完全に見捨てられたような、残酷な寒さに襲われた。いてつく。確かに、「なにか」が自分の肉体から、左胸から離脱してしまった・・・という誤魔化しようのない体感覚がある。
 
 
とにかく、信用するもしないも話は唐突すぎた。綾波レイがその言に従うもなにも、ただでさえ体が弱いのに、プロレスラーが食らっても腰ぬかして立てなくなるような異様の衝撃に耐えきれるわけがない。グニャグニャになって海月のよーにへたりこむ綾波レイ。あわてて成り行きを見ていた少年少女が助け起こしにかからなかったら、十二分後にファーストチルドレンはロストを余儀なくされていただろう。世界の損失である。
どうすればよいか。立ち聞きで幼い救助者達は知っていた。タイムリミットがあることも。
白い巨人や黒い球体のお化けが現れてこの列車を天より睥睨しているとしても、びびるより何より目の前のお姫様を運び出すことが最優先事項であることも。
 
 
 

 
 
「よしっ!!出てきたわねえ!なんとしてもゲットするわよ」
 
待ちに待っていた隠しキャラが出てきた時の子供ゲーマーのような歓喜の声を上げる赤木ナオミ。百面モニターには全面、天に浮かぶ黒い球体、第十二使徒レリエルが映されている。目がらんらんと光り、手は高速でコンソールを走っている。悪魔か神の宿ったピアニストのように、オレンジの髪を振り乱して状況の支配に取りかかる。ゼーレもネルフもその他あらゆる種類のいかなる邪魔者を排除すべき結界。軍事衛星の瞳を潰し、レーダー網の耳を塞いでこのエリア一帯の電力供給をストップさせる。加持リョウジの悪あがき的に呼んだ救助ヘリも追い返してしまう。何者も近づかぬように触れぬように知られぬように。このへんには人家もない。ゲームの必勝法は、「ここぞ!」という場面で敵邪魔者に介入させぬことだ。それが出来れば勝つし、できねば負ける。
 
どちらにせよ、実力的にエヴァを止められるのはエヴァか使徒くらいなものだ。後処理が煩雑になるのがイヤなだけで、赤木ナオミに怖いもんはなにもない。あるとすれば、ちょっと厄介になりそうなのが、今現在、疾風の如く駆け抜けて現地に向かっているギルのエヴァだ。カウフマンの脅しかと思ったら実力行使してきやがった。せっかく第二支部で長々とフル・チューンしてきた機体を喧嘩で壊してやるのも面白いが、あとが面倒だ。
輸送機等での妨害を見越してか、走ってやってくるあたり、ナカナカやりそうだが所詮、小僧(チルドレン)の乗る機体など伍号機Fの敵ではないが・・・到着前に片をつけてあの岩石人間に臍をかましてやる方が面白そうだ。にゃーい、にゃーい。こうしてやろう。
地図データを書き換え、マーカーを狂わしてやる。にひひ、これで現地に辿り着けまい。
霧の谷で迷って遭難してなさい。その方がいいよ。怪我もプライドも傷つかずにすむし。
そうなんですか。そうなんです。にひひひひっっ・・・・・・
一人で寒いギャグの応酬をして楽しむ赤木ナオミであった。ドイツ支部並びに、ギルのマギ、ギルマギをもとっくのとーにメギの支配下においてある。
 
「秘蔵っ子のフォースチルドレン「黒羅羅」ちゃんもご苦労さま・・・にゃひひひ」
 
いやー、笑いがとまりませんなあ、オッサン!
 
オッサンとはアラビア出身の配下の一人・・・・ではなく、たんなる歓声である。
なぜ笑いが止まらなくなると縁もゆかりもないオッサンを呼んでしまうのか。人類生物学上の謎である。そのうち冬月副司令あたりが解明してくれるかもしれない。
 
 
それはどうでもいいのだが。
 
 
戦略や戦術においての勝敗など赤木ナオミ、そしてメギにとっては解りきったことだ。
数億回の計算上、ここにこうして網を張っていたのだ。問題なのは出現率の低さだ。
こればかりは運を待つしかどうしようもない。綾波レイの捕獲がメインであったが、あわよくば、という腹どもりだった。背後霊の如くファーストチルドレンにまとわりついていたがなにせ第三新東京市街のことだ。これまでは手の出しようもなかった。いいようにネルフ本部内を徘徊していたようだが・・・・裏死海文書、葛城ノートによれば、これら一連の使徒来襲の鍵となる、監視者・レリエル。これを生きたまま捕獲できればネルフは言うに及ばず、ゼーレすら・・・・・くっくっく。最後には真実に近い者が勝利する・・・
 
 
・なんつって。そんなことにゃー興味はない。好奇心はくすぐられない。くだらんこと。
 
妄執に取り憑かれている暇老人たちはともかく、あたしにはそんなもんにとらわれている時間がない。時間がない。だから、捕獲して聞きたいことだけ聞き出せればそれでいい。
 
何兆回メギで計算しても解らないこと・・・・・
 
 
「天国のドアを叩けば、どんな音がするのかなあ・・・・・」
赤木ナオミは夢見る少女のようにうっとりとして呟いた。その目も手も瞬間も止まらず結界を完全なものにする。欧州の一エリアを完全に封殺し己の意思のみが伝導する空間にする。そのためのメギ。そのための使者・エヴァ伍号機F(ファントムでもFUkkatu/ふっかつでもファイアンルでも好きなよーに呼ぶがいい)
を遣わした。そ・赤木ナオミの使徒だ。電子魔術の完成。絶対赤木領域と化した。
 
・・・・とても、一個人のなせる業ではない。だが、このオレンジの髪をもつ、科学を夫に持ちながら魔術という愛人と現在熱烈不倫中な感じの天才はそれを実現する力をもつ。
科学と言うにはあまりに放埒すぎる。禁欲どころかひたすら自分の欲望のみに忠実だ。
 
 
伍号機Fで、レリエルを捕らえ、綾波レイを捕らえ、そのまま空飛んでトンズラ。
自分の居城まで連れ帰った後はもちろん、知らぬ存ぜぬを決め込む。
目撃者は「いなくなって」いるのだから証明のしようがない。軍事衛星のカメラでさえ今のこの状況を映しだせなくなっている。生き証人さえいなければネルフもクレームのつけようがない。さすがにエヴァを護衛役につけるわけにはいかないものねえ。
大事な子には旅なんかさせないことよ。あはははははははは。
 
その後は本来の仕事、マギを三顧の礼でメギの支配下に従わせる、をするとしよう。
そのあとは時間が許すまで、完成版ダミープラグの制作に専念する・・・・・
これが赤木ナオミのこれからの行動方針である。
 
 
この強引きわまる巨視からすると、列車内でうようよしている細々した人間の行動など、顕微鏡で細菌や微生物が蠢いているのと大差がなく、外の状況と関係なくとうとう敵に囲まれピンチになってしまった青葉君のことや、綾波レイを運んでいる少年少女と合流して事情説明を受けるヒマもなく大急ぎで救急車両に運ぶことにする加持リョウジや、ばったりとヘドバ伊藤と会ってしまい、長い人生経験のためこやつは悪漢!と察知し断定したためぎゅうぎゅうに首締めをかます野散須カンタローのことなど、注意を払う価値もない。
 
 
そのヒマもない。浅間山より地獄を見て復活したジェイソン系エヴァ、伍号機Fは戦闘態勢に入っていた。この霧の谷で体を屈めて待ち受けていたのはなにも綾波レイをびっくりさせるためではない。誘拐するつもりではあるが、オレンジ髪の主の指令によりそれは後回しで、まずは目の上の使徒を死なない程度にブッ殺して電磁檻の中に閉じこめて捕獲することだ。うーらー、ズバッと参上したからにゃ十三日の地獄節、キンキン聞かせたるでーーーーーーーーー
 
 
ヴウウウウウウウウウウウウウ・・・・・・・
 
ビュン、ビュンッ、凶悪極まりない斬殺兵器、プログレッシブ・チェーンソーを片手で振り回すエヴァ伍号機F。霧でよく分からなかったが、腰の辺りにはなんとプログレッシブ・アイスピックまで装備されている。さらに背中には「マークスの山」よろしくプログ・アイゼンピッケルまで。戦闘と言うより限りなく犯罪行為に近い装備だ。
舞台の雰囲気さえ、殺人鬼の徘徊する伝説のあるミシガンだかオレゴンだかオンタリオだかの夏休みのキャンプ場と化してきた。偽装の意味もなかろうが、仮面もありだ。
 
 
だが、黒い球体、使徒レリエルはそれに侵されることのない、奇妙な神聖感をもって浮かんでいる。絶対領域の透明ケースにおさまり今のところ、なんの動きも見せていない。
 
 
静謐のうちに知性を保存する数学博物館に住所でも間違えたか、怨念ムラムラの殺人鬼が乱入してきたかのような取り合わせで、「あなた、なにしにきたのよ」ってなもので雰囲気勝負ではレリエルに軍配が上がった。「格」が違う。
 
 
が、実力はどうか・・・・・・・「フンガー・フンガー・フランケン」あまりエヴァ伍号機はそんなことには頓着する気も知性も感受性もないようだ。Pチェーンソーを振り回しながらもう片方の手でフィールドを発生させ始めた・・・・・・
そして、その掌をレリエルに向ける
 
 
「!?」
黒い球体にも感情表現が出来たならそのような驚きを表したかもしれない。
ATフィールドごと、引かれていっている。伍号機が掌に発したフィールドによって。
 
 
「時田もよくこんなもん考えついたわね・・・・・これだけは感心するわ。本当に」
超法規的特務機関では決して開発どころか、発想すら出来なかったであろう、アイデア盗用の仁義無き鼬ごっこに鎬を削る企業体ならばこそ発想し、血の滲むような開発の苦労の下、誕生した誇りあるバッタモン、JTフィールドである。それを赤木ナオミが復活作業のおりに自分のエヴァにも搭載したのである。
 
 
ブサッ!!
 
 
近づいたところをPチェーンソーが一閃する!!フィールドは裂かれており、光る高速ノコギリがレリエルの体をぶった切った!!とんでもない力業だが、効果はあった。
なんせ操作する方もされる方も手加減などする気がない。ヴァーチャルな話であるが、この一撃を制式タイプのエヴァ、弐号機が食らえばどうなるか。特殊装甲も問題なく、ノコギリのせいで切断面がかなり荒々しいものの、ちょん切られることまちがいない。
手足などに食らえば言うまでもなく、ボディにくらっても脊髄をやられて戦闘不能だ。
 
 
 
 
ドクンッ
 
 
「・・・んッ!!」
 
 
救急車両に運び込まれ、特殊カプセル寝台にねかされ、酸素マスクをつけられ、服をはだけられ、手首、首筋や胸の数カ所に電極を貼りつけられ、「きっと大丈夫だから」と励まされ、と緊急で「仮死状態」措置をとられる綾波レイの肉体が痙攣して、跳ねた。
 
 
白い左胸部にすうっと血の筋が浮かんだ。
 
 
「あと何分!?」「三分、切りました!!」えらいな剣幕で残り時間を問うた老女医は、老女医の姿をしている野散須ソノさんだった。それに大急ぎで応じたのはシコウ少年。
「いけますか?」独立の発電器をなんとか汗みずくで動かした加持リョウジが問う。
「間に合ってよお!間に合ってよう」緊張感に耐えられず泣き出すミハイラ。
「よおっしゃああ!こいつじゃな!冷凍ガスと・・・催眠ガスのボンベじゃ!ソノ!」
 
映画と違ってスタントなしの、人の生命のかかった修羅場である。
 
シコウ少年とミハイラが図書館車両より連れ出し、加持リョウジが途中合流し説明も半分に救急車両まで運び込み、尋常でない綾波レイの弱りようにベッドに寝かせ子供の話と綾波レイ本人のほぼ遺言半歩手前近いかすれ声による情報で、あとわずかでペースメーカーが外れたように心臓が止まる(この表現が人を動かすギリギリの説得力をもっていた)・・・・・ことが解ったがこれ以上は情報員として必要以上には医療知識を持たぬ加持リョウジにはどうしようもない。彼とてスーパーマンではない。
 
そこに野散須夫妻が現れた。一目で状況が(それなりに)理解できたのか人生経験というものか、老夫婦は動き始めた。地獄に観音、野散須ソノさんは医者以上に医術に長けた、
看護婦なのであった。両方の免許をもっているのだから世話はない。
「レイちゃんを仮死状態にするしかありません・・・・」話を聞くに、恐ろしい判断を下してくれたソノさん。野散須カンタローが「うげえ」という顔をしたがかまわない。
そこにいるのはいつもの温厚な野散須夫人ではなかった。
子供が二人にとうしろう二人、つかえない四人をアシストにあと数分で心臓が止まるという少女を救わねばならぬ使命をもった老女医であった。控え室で強制睡眠させられている
医師達を叩き起こして面子に加える、という選択肢もあるにはあるが時間がない。
「ねぼけ眼でレイちゃんを任せられるもんですか」とソノさんは次々にアシストたちに指示を飛ばした。いくら設備が整っているといえ、専門の医療列車でもない。いきなり都合良く仮死状態にする機材など積んでいるわけがない。薬を飲ませて横にさせておくのが関の山だ。そもそも仮死状態にすることがベストなのかどうかさえも判明していない。
のんびり検査しているヒマはないのだからしょうがないが。取りうる最善の道のひとつ、程度のことしか人間にはできない。洒落でもなんでもなく、必死になる。
そんなことをしているあいだに、綾波レイの心臓は、鼓動は、危険に静まっていく。
機材の不備は、あるものと人間の知恵と経験のミックスで補う。
白水晶姫(クリスタ・ベル)は集中治療室の機械棺桶の中。これまたミスマッチだが。
 
そんな修羅場の中の綾波レイの痙攣。
 
誰しもそれがタイムアウトの予告のように思えてギクッと体を固くした。
エヴァ伍号機Fとレリエルの戦闘結果が連結していようとは夢にも思わない。
なぜ綾波レイの体調がここまで壊れてしまったのか、真実の追究はあとにしているからだ。
綾波レイ当人も、とてもじゃないが、自分でも半信半疑の話をこの死にそうに苦しい状況下で説々と語る体力はない。使徒レリエルが嘘をいっているのではないのは分かる。
つまり、自分の身体部品のひとつして、使徒が脈動していた、ということ・・・・・
事実の代償に、とんでもない苦痛と秘密を背負い込むことになった。
 
この事実を報告すべきかどうか・・・・・・綾波レイは判断に迷った・・・・・
 
第十二使徒レリエルが殲滅されれば、自分もそれに準じるであろうことを。
 
自分の肉体が、耐えられないことを。報告した結果を考える・・・・・そもそも、それが
おかしいのだが・・・らしくもなくその影響を考慮せざるを得ないというのは・・・・・・今、この場にある張りつめた、熱した鉄のような空気を・・・ゴリゴリと感じるからだ。
。鉄のような諦観を溶かしてしまう、タタラのように激しく強く一途な人の熱。自分の心臓にはその熱は通っていないのだろう・・・・心臓の緩やかな停止にともない体温は下降しているはずなのにどこか、どこかで何かが火照りを感じる。幻照りとでもいうのか。それなのに、なぜ判断に迷うの・・・躊躇、というものをはじめて覚えた。過去も未来もなく、流れる河を見つめるがごとくの生命の使い方に疑問を感じることはないが、・・・・・なぜ。
 
 
使徒を内部に宿していた、わたしも・・・・・「使徒」・・・・
また、それは単なる詐術にすぎないのか・・・・この凍てつく感情さえも
なんのために「使徒」・・・人類の天敵が・・・・わたしを生かしたのか
 
 
心臓の方の絶不調に反乱を起こすがごとく、脳、精神の方は研ぎ澄まされてゆく。
事実を知った上での覚悟が生まれてくる。他人事のように混乱ということをしない。これが綾波レイの恐ろしいところで、もうちょっと醜く無様に生きても人としてかまわない、無知無力を傘に迷いの雨をさまよいゆるされていいのだろうが、そうもいかずに氷の刃で自らの喉を突くがごとくの悲壮な思念をかため始める・・・・・それは。
 
今回の任務を終えたならファーストチルドレンたる資格を自ら剥奪しネルフを離れ、その際には己の全能力を零号機で増幅し、関わる他者から己の存在記憶を抹消する、という徹底したものだった。壮絶な進退の求め方である。
他者から己の存在を隔絶し、己の内に埋め込まれた秘密と個人で対決する。
ネルフもエヴァもそれに関しては邪魔なだけなので縁を切る。こうなったことが分かった以上、自分の存在はいわゆる、獅子身中の虫どころか、人間爆弾以外の何ものでもない。じわじわと組織を侵すような生ぬるいこともなく、「その時」になれば破裂するだろう。
多くのものを破壊し道連れにすることになる。碇司令がこの事実を知ればどう判断するか。
確実に予想がつく。「敵」を生かすほど甘くはない。この身ごとの使徒認定が。なされる。
あの声で。あの眼で。「使徒」と識別される前にこちらから離れる。沈黙シテイレバ誰ニモ分カラナイ。その想念は、ない。碇・・・・君・・・・彼がいるから。
碇シンジ。彼の顔が思い浮かぶ。・・・この世で唯一人の、自然な、他人・たにん。
自分の能力が通用しないふしぎな少年。おそらく、彼にも見抜かれるだろう。
 
 
その時、碇君は・・・・・・
 
 
綾波レイの心が震える。心というのは体内にはない。心が体内にあるのなら、別の何かが。
一瞬、これほどまで強く自分の心が動いたなら、遠く日本にいる碇シンジを、彼の何かを動かしてしまったのではないかと本気で心配した。ほんの、一瞬の。気の迷いだ。
 
彼の動きが、予想できない。碇司令の子供。エヴァ初号機のパイロット。
この二つからするに、自分を敵視しその恐怖すべき実力で排除にかかってきそうなのだが・・・・もちろん、真相正体を喝破し、そのままストレートに葛城作戦部長にありのままを伝えてしまいそうなのだが・・・同時に完全に同じ分量だけ、「やりそうもない」のだ。
震えを伝わらすことで、その、計ったようなバランスが狂うことをおそれた。
 
ふと、自分は彼にころされるんじゃないかと思った。何かの結果、あっけなく。
初めて、碇シンジ、彼に強い因縁を感じた。
 
 
縁という、
 
 
ガラスの手錠を砕き千切ることにする。苦痛苦悩を他者と共有することはない。世界中で唯一人、特別あつらえでもしたように綾波レイの魂は孤独に強い。死ぬことも許されていないかのように、強い。
 
 
それは、誰にも止められない。碇ゲンドウにも、葛城ミサトにも、赤木博士にも、渚カヲルにも、惣流アスカにも、エヴァ初号機にも。言うまでもないが碇シンジにも。
そういった意味で綾波レイの操る零号機はもっとも怖いエヴァだ。意思の結晶化している。
透き通っているだけに本心が読めない。おそらく綾波レイは実行するだろう。
 
 
ただし、この場で命の時計が停止しなければの話だ。この先が、あればこそ。
カプセルの中に噴出された手製調整の混合ガスが、少女の生体リズムを急降下させる。
存在理由の自己否定という水晶の剣を胸に抱いて眠り姫。
ファーストチルドレンとして、最後の眠り。意識が薄れてくる・・・・・
闇の中へ・・・・暗い天空に吸い込まれていく・・・・・自分の魂が黒の球体に同化していく・・・タナトスの浮遊感があった。
 
 
 

 
 
Pチェーンソーで裂かれたレリエルには確かにダメージがあったようだ。そこからダラダラと血のようなものが流れている。しかし、それでも反撃らしい動きは見せない。
何事か待っているのか、それとも単に攻撃の手段がないだけか。
調子に乗って伍号機Fはズビズバ斬りつけていく。
 
 

 
 
「ありゃ、来てくれたの。レイちゃん」
 
 
ここは・・・・・意識が途切れ、浮遊感が発生したかと思うと綾波レイは黒い球体の中・・・使徒レリエルの内部ということになる・・・・にいた。肉体は列車内にあるのだからこれは夢か悪夢かそうでなければ魂が抜け出てここまでやってきたということになる。
足下に地を踏む感触はなく、宙に浮かんでいる。白い。空白。昼でも光りでもなく、この中は一面、白だった。アルピノ卵か眼球の中にいるような気分。生物的な体温体臭はなく、星を忘れたプラネタリウムのような案配だ。その中央に、自分の姿を映すのをやめたはずのレリエルがこれまた浮かんでいた。似合っていた(当たり前だが)闇雪姫衣装はやめてしまい、青紫を基調にした、百万年前ほどに滅んだよーな国の無限の宇宙を祭祀する神官服のようなものを纏っていた。どこかエジプトの女王のようでもある。二の腕や頬、体の様々な箇所に切り傷がつけられ、流血していた。鏡のような自分に血を流されるのもいやなものだ。
 
 
「なんとか体の方は安静に保たれているみたいだね・・・・・ああ、これくらい生体レベルを落としておけば大丈夫。あと一押しでユー、レイになれるよ。なんちゃって」
流血しても痛みはないらしく、口調はいつものように明るい。赤い瞳で綾波レイの状態を走査するように見やると認め印を押した。そのあと、ため息をつきだした。
 
「いやー、今回だけは参っちゃったよ。ここで待ち伏せしてた理由がよおく分かったよ。
地形効果ってやつはバカにしちゃいけないね」
 
「なぜ、反撃しないの」
エヴァのパイロットにあるまじき発言かもしれないが、これは純然なる問い。
 
「できないのよ。わたしの攻撃方法は対象物を虚数の海に投げ込むことなんだけどねえ、
”影”がないと使えないんだわ、これが。これがほんとの影技(シャドウ・スキル)なんつって。はー、やれやれ。こんなに霧があって光源もないんじゃねえ。
もろに弱点をつかれたわ。ATフィールドも領海侵犯されてるしねえ。痛い痛い。
無敵のシンちゃんとエヴァ初号機さんを北海道に送り込んだのもその方法なんだけ・・・・
あイタっ!」
 
 
綾波レイの手がレリエルの頬を鳴らした。「ひどーい!なにするのよお・・・・・・」
 
 
別に意識して、怒りが沸き上がったとか、そういうことではないのだが、手が動いてしまった。まあ、もしこの場に葛城ミサトがいればこんなもんではすまないが。
何でこの場に自分がやって来たのか聞くつもりであったが、手を出した都合上、聞けない。
やってしまったことはしょうがない。使徒レリエルに3ポイントのダメージを与えても。
 
 
「・・・このまま、斬殺されるつもり」
 
 
「レイちゃんに”斬殺”なんてごつい漢字は似合わないって。まあ、このまま黙ってやられる気はないよ。けど、向こうには列車丸ごと人質がいるわけだしねえ。レイちゃんも含めて。あんまりタラタラやってたら列車を谷に突き落としてトンズラなんてことやりかねない。少なくとも目撃者をそのまま生かしとくほど甘くないのよ。あちらさんは」
 
 
話す間にも伍号機Fの偏執的攻撃は続いており、レリエル外部の損傷は内部のレリエルを傷つける。ぺろり。額からひとすじ流れてきた赤いものをなめる。それが血液であるのかどうか不明だが、やはり傍目で見ていて楽しいものではない。だが、当人は興奮している
のか、赤い瞳から強い光りを発し始めている。戦いを争いを好む者特有の輝きを。
ゆっくりと反撃の機会を眈々とうかがえるのは強食の部類に入る高度な生き物の証拠である。やはり使徒というのは好戦的な生き物であるのか・・・・どうか。霧島教授がいればそのようなことを考えたかもしれない。自分の顔でそういうことに燃えられている綾波レイとしては肖像権の侵害ということに思いをはせていた・・・・・わけもない。
使徒は人類の敵である。それがダメージくらって殲滅されることは全人類の利益であるわけだ。それを自らの手で実行してきたエヴァのパイロットとしてはこの状態は、肯定すべきものだが、どうもその気になれない。謎の出自と目的で魔物のように現れた偽装エヴァ・伍号機。使徒を迎撃するため出動してきたわけではなく、どこか承知で待ちかまえていたという風がある。山賊と侵略者が手前の都合で争っているだけ、というのが順当な感想で、どちらにも応援してやる価値はない・・・・・。そのはずだ。
 
 
綾波レイはその赤い瞳で黒い球体の中より、偽装エヴァを見下ろした。
 
これが使徒の視点・・・・・視座。闇の中であるにもかかわらず、そちらに意識をむけただけで明瞭に偽装機の姿が見て取れた。やはり、頭部のマスクはともかく、身体的フォルムは浅間山の事件報告のとおり、エヴァ伍号機のそれだ。エントリープラグ内部は無人。
そんなことまで「見える」。パイロット不要の自動操縦システム「ダミープラグ」・・・・・これが。Xレイ、いや、ATフィールドもやすやすと透過する視力がいつのまにか備わっている。そちらを向きもしないのに、レリエルが微妙苦笑したのが見えた。
プラグ内にパイロットの代わりに座す、デジタル化された魂を封入されてあるレコードが高速回転する、その回転さえ見て取れる。記された”RED TREE”のサインさえ。
そしてそれは、未完成であることも。ATフィールドを使用しないのがその証拠だ。
たとえ09システムの壁を突破してエヴァを起動させたとしてもフィールドの発生源たるチルドレンを搭乗させていないのだから無理もないが。だが、そのパワーは人間の持つ本能的な筋肉制御がされておらぬため、ざっと通常エヴァの五、六倍はいく。折れよう捻れようが力をセーヴすることなく常に最大限の筋力をバカっぽく発揮することができるわけで、腕相撲をやらせれば、どこかの無謀印の試験機を除けば圧勝するだろう。
さらに、こればかりは時間軸を覗かねば分からないので未確認だが、”不死身機能”なんてのがついているとしたら正義の味方資格試験では落とされるほかあるまい。
 
 
綾波レイの目から見ても、「悪、きえることのない炎、わすれられないもの、深く深く心を眠らせるもの・・・・人の造りだしたモノ・・・・人にしかないもの・・・」
悪役っぽく見える。
 
 
とにかく、最大最強の攻撃方法、戦歴でいうとエヴァ初号機さえ僻地転属に陥れたという
虚数の海、ディラック転送攻撃が濃霧の為使用不可という絶望的状況なわけだ。
依然として。大技のみで小技をもたないレリエルはこのまま一方的に嬲られるしかないのか。「気合いが120まで上がるまで待ってて」綾波レイには理解不能なことをのんきにほざくあたり、まだ余裕であるらしい。考えてみれば黒い球体のどこにコアがあるのか知らないが、外部からいくらザクザクやられようがコアをやられていない限りさほどのダメージとは言えないのかも知れない。攻撃手段を潰しているわけでもナシ、枝をそいでも幹を切らねば倒れない。「どうするつもり?」まさか電力が切れるまで待つつもりか。
それも戦法としては有効ではある、と綾波レイが考えたところ、「まさか」珍しく強気な声で答が返ってきた。「ここまでザクられて黙って帰すわけがないでしょ・・・・さーて誰が一番”近い”かな、と」
 
 
ギョロッと赤い瞳を動かし、下界を見やるレリエル。その先には列車がある。
カボチャのドタマの先頭列車。その今は消えているヘッドライトに用がある。
綾波レイもそれに習ってそこに意識を向けてみると・・・・・・
 
 
 
「フッ、死にたいヤツからかかってこい・・・」
先頭列車では戦闘が繰り広げられており、誘い込んだというか追いつめられたというか、撃たれまくりでイグアナからなにか謎の生物に変態しようとしている青葉君がまだ戦っていた。何でこんな目にあっているか?!なんて弱音を吐いてるヒマもなくそんな日本語は忘れてしまっており、すっかり少年漫画的ハイに脳を冒されており。アドレナリン以上の「ジャンピナリン」とでも命名した方が彼のためになりそうな脳内麻薬物質がドバドバ合成されていた。ここだけ限定で言えばこれほど好戦的な人間もおらず、ヒールレスラーもビビって道をあけるほどの迫力で、人間が変わってしまっていた・・・。まずい、このままいくと彼はオペレーターに戻れないかもしれない。
人生が、彼の人生が狂い咲き始めている!!冬月副司令の責任だ!
「おい、お前いけよ元グリーン・ベ」「あれはハッタリで実は”ピース”で自然を愛するんだオレは。お前だってアメリカのラクなんとか言う街で大量殺人やったんだろが」「あれはもー死んでる相手だったから。思い出してきたぞ・・あの目つき・・なんか近づいて噛まれるとゾンビになりそうだな・・」「とにかく俺はいやだからな」責任転嫁しあう。
襲撃者の方も、目的は綾波レイ、並びにネルフスタッフの捕獲にあるので出来れば青葉君は獲らえて拷問にでもかけ、綾波レイの居場所を吐かせたいのだが。ちょっとでも外の空間の異変に気づいたり、他の車両の捜索にとりかかった方がよいのではないかな?と考えてしまった情報員は間髪を入れず、青葉君のエジキとなった。その格好から、単なるお笑い担当の若い衆と侮ったのは間違いである。ロンゲではあるが、きちんと軍事訓練も受けている青葉君は銃器の扱いも出来れば、格闘術もいけるのである。そういう人間が状況もおかまいなしに任務も人格も投げ捨てんばかりに襲いかかってくるのである。自分以外は全て敵。ダイ・ハードマン青葉君、猿っぽい名前だがセガール青葉君、これからは彼のことをそう呼んでくれたまえ!「うらー、国際公務員をナメんじゃねえ、ボケェ」
 
 
 
「・・・・・おいおい、彼、完全にイっちゃってるよ。たぶん、根は弱気でいい人なのね。
彼に頼もうっと」
「何させる気・・・」
「彼に先頭車両のヘッドライトを点灯してもらうのよ。ちょっとでも影が出来ればそこから一気に虚数の海へ引き込んであげるから」
「・・・・照明の機材パネルに誰かの頭を打ち付けているけれど・・・」
「うおっとお!?何カレ?血に飢えたけだものっ?そこまでやんなくてもいいじゃないの。人間ってば凶悪うー、前言撤回!急いでやめさせなくちゃ・・・・」
 
 
ボンッ
 
 
そこまで言いかけた時、地震のような大揺れが黒い球体を襲った。
浮いている二人も影響を受けてトランポリンに投げつけられたように体が跳ねた。
Pチェーンソーでのザクザク攻撃に飽きたのか、伍号機Fがケリを食らわしたのだ。
フィールドで引き寄せたままであるから、巨大な風船ヨーヨーをやったみたいに。
 
 
「むぎゅっ!け、けられちゃった・・・・大丈夫、レイちゃん」
「・・・・・」
 
なんでエヴァにやられて使徒に心配されなくてはならないのだろう・・・・
綾波レイは世の不条理を、ちょっと感じた。使徒、このレリエルにしてみれば、自分は仲間を滅ぼしてきた憎むべき仇であるはずだ。使徒の間には同族意識はないのだろうか。
人間の理解を超えた存在に常識は通用しないのだろうが・・・。
敵性体を体に宿していたかと思えば、今度は敵性体の内部に”自分”がいる。
穏やかになれるわけもない状況だ。それなのに、この状況を安んじて・・・拒否反応が出ないという意味で・・・・受け入れている自分はなんなのだろう・・・・少なくても正気ではない、と他者は見るだろう。節操について考えたりはしないが、自分が使徒に近しいものである、という認識が生まれた。因縁が深いということではなく、もっと物理的散文的に、だ。単なるパイロットとしてはもうやっていられなくなる。自分は無知であるという資格を失った。岐路というのはいつも一人で立つものだが、よりによってこんなところ、
 
世界中で誰も立ったことのない空間での岐路。そこに自分は立っている。
 
びゅうびゅうと風が。今まで感じたことのない、風が吹き抜けていく。
碇ゲンドウへの信頼、碇ユイへの思慕。
ファーストチルドレン、ネルフ、これらへ繋いでいたのはそれだけ。
 
 
これら第二次天災よりの一連の使徒来襲事件に関わるスタンスを変えざるを得ない。
知識が増えるということは、真実を知るということは、強制的だ。強い力を及ぼす。
人を、変化させる。変化させてしまう。望もうと望むまいと。真実を知れば心は容易に変色する。そして、なぜか人を苦境に立たせてしまうことが、多いようだ。
 
 
使徒はなんのために現れた?なぜ・・・・
 
 
このレリエルに限って言えば、人類を絶滅させてやろうという気合いに乏しい。
綾波レイはこれまで、使徒のことをある種の異常自然現象だと考えていた。
考えることにしていた。形のある津波、超巨大な病原菌、未確認の巨大生物、エヴァのパイロットであることはそれに対抗するレスキュー隊であることや医師であることハンターであることと同じようなものだと。
 
 
これが惣流アスカだと、「敵は敵故に敵対するので排除、殲滅する」という単純明快な指示を出すブラックボックスが心の深奥に強靱に埋め込まれているため、おそらく一生そのままで疑問を感じることもなく終わるあろう。彼女は天才的な最前線の兵士で、その手の思考は持たない。それこそ、強い拒否反応が起こるだろう。敵を倒したあとで、敵は敵じゃございませんでした、などと告げられたなら彼女は確実に焼き切れる。誰か背中を守ってやらないと、犬死若死にするタイプだ。
 
 
碇シンジは・・・・これまた全くもって読めない。あれだけの力を体現させられるともうどうでもなんでもいいのかもしれない。他の誰もが犠牲と代償を払ってエヴァに乗っているというのに、唯一人、彼だけが無理なく乗っている、という感がある。チルドレンたる資格に過不足無くドンピシャリなのは彼だけなのかもしれない。シンデレラのガラスの靴のように。
 
 
相手が知性と意思によって動いているとは考えなかった。その可能性を。それを考えて平然と戦えるのは渚カヲル、フィフスチルドレンだけだった。
彼は知っていたのかもしれない・・・・
 
 

 
 
 
「あんまり引きなさんなって。足場崩して谷の下、なんて狙ってもムダだよ。けりけりっ。そろそろいいかしらねえ・・・・・それにしても大技だけで、小技をもってないてのは本当だったねえ。まるで瀕死のタヌキだわ。隠れ中ボスにしちゃちょっと物足りない・・・」
 
 
生命力を削ってからゲットにかかるのが基本である。レリエルからの反撃もなし、そろそろ檻の中に閉じこめてしまうとしよう・・・。赤木ナオミは捕獲にかかった。
物事は、終わりにかかるその時が一番大事なのだ。釣りで言えば魚をタモにいれるその瞬間。あまりにやすやすと抵抗無く進んだために悪魔の如く悪賢い赤木ナオミにも油断が出来た。使徒方に思わぬ反撃の突破口があるなどと思いもよらぬ。
 
 
先頭車両の操縦席ではあらかた襲撃者を片づけた青葉君がレリエルに操られてヘッドライトのスイッチを入れようとしていた。使徒のエヴァ撃退の片棒を担がされていたわけだ。
「俺は運転手だー・・・・」目つきと言葉がうろんだ。疲労の極地にある。
 
 
ポチッとな。操られていたとはいえ、人類を裏切る一押しであった。
カボチャの口から濃霧を切り裂くビームが放たれ、その直線上にいるエヴァ伍号機Fの姿、霧の巨人ぶりを天然のスクリーンに大迫力で映し出した!!。
 
 
 
「これを待ってたのよ。虚数の海によーそろーー・・・・・・」
 
踊るように左腕と右腕の軌跡で空中に文様を描き出し、のち、相手を真正面からどーんと崖から荒れ狂う海面下に突き落とす感じで両手を伸ばすレリエル。その表情は、主砲の発射を命じる戦艦艦長のそれだ。
霧に浮かぶ影が一気に虚数化され、周囲の物質を侵食し略奪にかかる。
 
 
 
ムガッ!?
使徒からの思わぬ、背後からの引き込まれるよな反撃にたまげるエヴァ伍号機F。
超巨大な吸引機が突如出現して、己を吸い込みにかかってくるというか、霧が粘性をもったそこなし沼と化して背中越しの自分を飲み込みにかかっている異常な衝撃。
それが使徒レリエルの空間虚数化攻撃であった。分かってはいたものの、まさか使徒が人間の造ったものを土壇場で利用するとは思いもよらなかった。
「よくもさんざんザクってくれたわね・・・・全くどうしてくれようか・・・・チョモランマの山頂に倒立させてあげようか・・・それとも二度と日の目を見ないよう深海に置き捨ててシーマンのお友達にでもしてあげるか・・・」
こうなれば、あとはレリエルの好きなように料理されるほかはない。
人間のことをよく研究していたレリエルの方が一枚上手だったわけだ。だが。
 
 
ムガアッ!!・・・・・バサササッ
 
 
背中から白い羽根を慌てて出すとそれを加減知らずの筋力で羽ばたかせた。
霧はそれで消えることこそないが、揺らぎ、伍号機Fを封じていた虚数空間も散消えた。
赤木ナオミの操作と青葉君のスイッチを押す動作がほぼ同時。神速の判断操作速度だ。
この速度は本職のチルドレンでさえ、葛城ミサトのカンすら問題にならない。
間一髪で虚数空間に取り込まれずに済んだ。光線直線上から飛びすざるのも忘れない。
「ふー・・・・危ない危ない・・・・・物足りないどころじゃないわよ・・・・・」
珍しく赤木ナオミが本気で焦った。危うく逆転消失負けをかまされるところだった。
油断も隙もあったもんじゃない。これが使徒か・・・・このしぶとさは成る程、実感してみないとデータでは分からない。面白い。面白すぎ。だから・・・・
 
 
「戦闘、やーめた。トンズラしようっと」
 
陰険に霧の谷で待ち伏せをかけ、あれだけえげつない攻めをし続けた赤木ナオミうぃずエヴァ伍号機Fが使徒レリエルとの戦闘を放棄した。捕獲はあきらめ、逃げにかかった。
もちろん、ただでは帰れない。フィールドを解除した。と、同時に空飛んで列車の後方に回り込んだ。光線を避けてかのことと思いきや・・・・・・そうではなかった。
 
 
なんと、パンプキン列車を掴んで持ち上げるとそのまま、呑み込んでしまう。
 
 
体内のトンネルを通すとでもいわんばかりの豪快な滑り込みでズルグイズルグイと。
どうやら体内に収め込んでそのまま現地から消えてしまう腹のようだ。
谷底に落ち込んだワケでもなく、謎の電車消失、どんな名探偵にでも解明しようのない巨大トリックミステリーになってしまう。赤木ナオミは配下のヘドバ伊藤にもこの救出方法は教えていなかった。理由は・・・・おそらく泣いて嫌がるだろうからだ。
 
 
さすがのレリエル、そして綾波レイもこれにはあぜんとさせられた。するほかない。
 
「我が子を食べるサトゥルヌス」のよーな豪快な構図だが、カボチャ列車を食らうエヴァはぜんぜん神話っぽくなく、メルヘンでもなかった。ジョークや法螺など笑い話の範疇に入るのだろうが・・・・要は、運ぶのに手間がかかるから腹に押し込めているだけでエスプリもしゃれもなんもなし。タツノオトシゴのようなもので生物学的実用のためだけに。
あのでかいPチェーンソーもここまでぶら下げてきたわけでもないらしい。スマートが基本体型のエヴァがドンドン太っていく・・・ビール腹へと。
 
 
「う・・・・・・」綾波レイが口元をおさえた。気の弱い人間なら気絶しているほどの、キモ悪い光景だ。サナダ虫を見学した人間がうどんを食べられなくなる話があるが、綾波レイもカボチャと蛇とタツノオトシゴはもう食べられないであろう。列車の中にいる人間がどうなるか・・・・だいたい、肉体の方は列車の中で仮死状態にあるのだから・・それを想像しただけで・・・・・「う・・・・・だめなの・・・」 
 
 
「わたしもたいていのものは食べてきたけど・・・・これには負けたなあ・・・・」
虚数攻撃をかわされたよりも感心しているレリエル。中国人も食べないぞ。
 
 
 
ウイッ
 
 
謎にして不気味、恐怖にして悪夢のジェイソン系の面影はすっかり失せ、単なる食い過ぎたフランス人美食家のように、またはそれでも恐怖の面影(テール・オブ・ア・テラー)をを探すなら大食を強要された石食いピエロというべきか蝋人形にされた風船おじさんといおうか。まさに空より来たる恐怖の大王、エヴァ伍号機F。
そして、飛んで逃げようとする。計画どおりのトンズラだ。綾波レイは確保できたんだからいいもん。
 
 
「どうしようか・・・・・レイちゃん」
「・・・・・」
「下手に手出しできなくなったね・・・・・・したくないけど」
それは、この状態の偽装エヴァを虚数空間に叩き込むと腹の中の者たちまで犠牲になる、ということを言うておるのか、それとも単に触りたくないから言うておるのか。
レリエルの言葉には安心の欠片が微妙に混じっていた・・・・・後者かもしれない。
 
 
両者共に相当の余力を残しながらの引き分けだ。こうして特等席から見ていれば分かる。
どちらとも、戦闘、と呼べるほどには気を入れていない。自らに最前線に立つ資格なしと立場を切り捨て隠者になろうとする、本来これほど軍師向きな人間はいないであろう綾波レイには見て取れる。
 
 
惑わされているうちにエヴァ伍号機Fは浮遊し始めた。鈍重な体型に変わったわりには飛行能力にあまり衰えはないようだ。このままでは逃げられる。
 
 
「どうする?レイちゃんのしたいようにしてあげるけど・・・・貸し一回で」
レリエルの申し出を親切ととるか罠ととるか・・・・・迷うひまはない。
大体、この使徒の視座の中にいること自体、奇跡のようなものだ。代償に払うべきものも何も持っていない。交渉も契約も、恐れることは何もない。使徒との契約にもやはり、魂を支払うべきなのか・・・。この親切さの裏には・・・レリエルの方にもこちらを必要とする何かがあると見てよいのか・・・・なににせよ、この機会は手放せない。
 
 
綾波レイが願いの言葉をはなつ、その瞬間。
 
 
 
 
白霧の中より伸びる黒腕
 
 
 
黒い閃光が走った。それが何者かの「腕」であることが分かったのは、偽装エヴァの白い首筋にしっかりと鷲掴みに食い込んだ後だった。腕・・・・・人の体型を基礎に考えると長すぎるほどに長い腕だ。細いが強靱、ゴムのような伸縮性のありそうな黒い腕だ。
入れ墨のようにところどころ白い文様が刻まれている。だが、その持ち主の姿が・・・・見えない。使徒の視座にいなければ綾波レイの赤い瞳にもこの近距離で映らなかったはず。
事実、赤木ナオミの眼である百面モニターのほとんどにその姿は映っていない。その接近さえ、最後の最後まで気づくことがなかった。虚数攻撃を間髪でかわす神速反応を持つ赤木ナオミでさえ。夜と霧に紛れ、気配と移動音さえ消して突如出現した・・・黒腕の者。
その体にはネルフ本部でも開発途中であるはずの、ステルス装甲で鎧われていた。
 
 
「ステルス装甲・・・・・?・・・・これは・・・・」綾波レイが。
「どうやって・・・・ここを嗅ぎつけてきたのよ・・・・」赤木ナオミが。
「再生された・・・・エヴァンゲリオン・・・・・乗っているのはフォースチルドレン」
そして、第十二使徒レリエルが。ステルスを解き、その姿を現し始める・・・・・
 
 
 
エヴァンゲリオン参号機
 
 
 
黒い機体の双眼。角が無く初号機が鎧武者ならば、こちらは忍者か暗殺者を思わせる雰囲気、使徒と対峙したのは初めてであろうにやたらに戦慣れしたような太々しさと、そして死臭をまといつかせている。これは、搭乗者から放たれてくるものだろう。人を傷つけ殺し慣れている・・・そんなイメージだ。純粋な殺人の道具として生まれ存在するものが発する無言の威圧と脅迫と永久に停止されることのない殺意の放射装置が内蔵されているかのような、血と鉄の幻匂の漂う・・・死神を機械で造ってみせたような不気味なエヴァであった。伍号機Fもこれに比べればまだユーモラスというかかわいげがあった。
 
 
 
 
「フォース・・・・・チルドレン・・・・・」
黒の参号機を見やる綾波レイの中に叩きつけるように強烈な思念が飛び込んできた。
 
 
おそらくは中国、漢字文化圏の人間だ。
・・・近代化など肥溜めに捨てられているかのような土牢そのものの病室・・・・・
病室の名を借りた牢獄か・・・・腐った薬草の匂い、淀みきった水の匂い、今にも崩れ落ちそうな脆い土の匂い、土壁に書き終わることのなかった四言絶句・・・・・
倒れた死体・・・・指の血文字・・・・・空腹と寒さに蹲る・・・・襤褸布をまとった子供顔も分からないほど長い長い漆黒の髪を持つ・・・足首には鉄の鎖・・・・・「薄暗い・・・・天国」・・・・・日が差せば・・・ここも天国になる・・・・
 
 
巨大な手が子供の首を締め上げながら顔を天に向かせる。「開口せよ・・・」
「黒基督様のお恵みじゃ。明暗(メィアン)」老婆の声が何かを命じる。「受けよ・・」
ドロリ・・・トロリ・・・とした白く輝く粘菌状のものが・・・子供の口から漏斗で注がれる。抗う体力もないのか、長い長い髪を持つ子供はそれを嚥下していく・・・
ゴブゴブゴブゴブ・・・・・・髪に隠された眼からは泡立つ涙が音を立てて流れる。
 
 
土の棺に閉じこめられて・・・・「これで11日・・・まだまだ生きるな」餓死寸前の恐怖・・・闇に同化するほか正気を保つ方法はない・・・「球根みたいな奴だな・・・ほーら水のかわりだ」・・・汚水の降る音・・・・「球根人間、黒いチューリップだな」「そんな可愛いもんかい。蚯蚓だろう。こいつ土食ってるぞ」「黒基督様の”天食”、アレを呑まされてんだ。土くらいなんでもないさ」今日も眼鏡をかけた厭な奴らの話が染み込む。
 
 
土が、土が掘り返された。己が掘られた。光りが。光りがさす。
巨大な岩の如くの手が引き起こす。
 
 
 
黒羅羅・・・・・
黒羅羅・・・・・・・
岩の容貌をもつ老人が、長い長い黒髪と絶望の表情をもつ子供に話しかける。
 
 
それがお前の名前だ・・・・「明暗(メイアン)・・・・その名では悲しすぎる」
長い長い髪を持つ子供は儀羅つく眼で錆びた釘を耳から取りだすと隻眼の岩老人の魁偉な巨大な手を突き刺した・・・・・叫ぶこともせず。
 
 
百年も千年も埋まっていた毒の剣を思わす得体の知れぬ不気味な雰囲気の思考だ。
 
 
 
黒羅羅・明暗・・・・それが、第四類適格者の名前・・・・・
 
 
 

 
 
 
ギリギリ・・・・
参号機の黒腕が伍号機Fの首筋を締め上げる・・・・凄まじい力だ・・・・・
なんにせよ、なぜ目の前にいる使徒ではなく、同じエヴァシリーズの首を締め上げるのか。
 
 
「なっ・・・!?なんなのよ・・・・コイツ・・・・」
いきなり現れたかと思えば、伍号機Fを締め上げるなんて・・・・暴走してるわけ?
地図データとマーカーを狂わされてなお・・・・そりゃ土地勘があるにしても獣めいた機動能力だ。逆反対に誘導してやったはずがまさか迷わず到着するとは。それだけでも脅威というのに、なんの予告もなく攻撃してくる?普通!!あの岩石人間、どういう仕込みをやってんのよ。己の結界を一番邪魔されたくない、登場されたくない相手に突破され、頭に血が昇る赤木ナオミ。相手を非難する資格はなかろうが、その無茶苦茶ぶりに意図不明ぶりにモニターに向かって火を吐く如く罵倒するが・・・げっ!どんどんパワーがあがってる。
早く止めないと・・・・このままじゃ伍号機の首がヘシ折れる・・・・
くそ・・・・やりたくないけど・・・・・・・
 
 
「ATフィールド展開!!」
赤木ナオミの悲鳴にも似た命令が無人機である伍号機Fに”やれるはずがない”ATフィールドを展開させる。急速展開された伍号機Fの絶対領域が黒の襲撃者を退ける。
「あくうっっ!!」参号機ではない苦痛の声があがる。赤木ナオミだ。額の血管が膨れあがり全身に大量の発汗が。いちどきに噴き出す!「くくく・・・・脳を灼けた鉄串で掻き回されてるみたい・・・・こりゃ、拷問だわ・・・・麻酔を使うと頭が呆けるし・・・・」
なんらかの技術か方法で、無理矢理のごり押しでATフィールドを自分の体で展開させることができるらしい。苦痛を代償に。とても戦闘で使える代物ではないが、緊急避難のためだ。こんな予想外常識外れの奇襲さえ受けなければ実戦を知らぬ参号機などカスらせも
しなかったのに・・・・・・・・・・「このがきぶちころしてやる」・・・・・・
爬虫類の瞳の光色で人間には禁じられているはずの言葉を吐き出す。
天使の羽毛を呑み込んだ怪物のように。
 
 
「伍号機・・・・戦闘形態(アブラハム)・・・・変化・・・・」
 
 
苦痛にブチ切れた赤木ナオミは目的も計画も完全に消去し、目の前の黒人造人間を両足から股先に引き裂いてやることしか考えなくなった・・・。それでもシステムを操る手際は非の打ち所もなく完璧にして神速。唯一人でシステムを次々にチェンジし伍号機をモード変換させていく。それは生命力の増大、エヴァの体内に宿る系統樹を意図的にねじ曲げ、
ひたすら肉体再生能力を増大させていくのである。この機能は現在の所、伍号機にしか搭載されていない。操縦者チルドレンを乗せるタイプのエヴァではとても対応できないからだ。肉体的にも精神的にも。それは伍号機初登場のおりに惣流アスカが指摘したとおりだ。
鳥になれ、といわれてはい、そーですか、といわれるほど人間の肉体も精神も柔軟に出来ていない。むしろ、人間の肉体ほど面白みにかけるもんはないわね、と赤木ナオミなどは思い、エヴァ伍号機開発を任された折りにも、「わざわざ人間が造るのに、バカ正直に神様の遺伝子の設計デザインを真似るこたあないじゃない。だいいち、著作権侵害だわ」とただの人間、サイズがでかいだけの巨大人間を造ってなにが面白いのかネ、と考えたオレンジの髪をもつ天才科学者は悪魔的アイデアを実現した。伍号機の中に遠慮なく人間以外の他生物の長所たる点をブチこんだのである。闇鍋的に。鳥、牛、豚、などというのは序の口で犬、猫、魚、シャチ、イカ、タコ、亀、ミミズ、さすがに木の下駄やタワシ、洗剤までは入れられなかったが・・鳥類、ほ乳類、両生類爬虫類魚類王道である昆虫類・・・・地球上で存在して、ゼーレとアバドンが所有する実験場に保存されている生物はほとんど取り込まれている。例外があるとすれば渚カヲルのところの生命体くらい。
ひどく分かりやすく言えば、赤木ナオミが目指したのは「ノアの箱船人間」ではなく、
夜歩く「プラネタリウム人間」でもなく、少年探偵団に追跡される「夜光人間」でもなく
本人は大いに冷笑しつつ否定するであろうが、周囲の凡人に言わせれば、これは。
 
「人造怪人」以外のなにものでもなかった。秘密結社が資金を出しているし。
 
そんな経緯で、根本的構造がコレもんでアレもんでレアモンデであるから、伍号機タイプというのはチルドレンが乗って操縦するように出来ていない。エントリープラグも挿入できることはできるが乗った途端に白亜紀に転送されたような違和感と強烈な拒絶感を覚えとてもシンクロできたもんではない。ギルの生徒を二、三人誘拐して実験してみたが先祖帰りを起こしかけあやうく精神崩壊しかけた。
 
 
そんなわけで、人間形態であるエヴァ伍号機というのは今回のようないろいろ怪しい仕事を請け負う「任務遂行型」であり、本来、使徒と戦する「戦闘形態」ではない。
なぜ人間のような不自由な格好でわざわざ戦うのかね、というのが赤木ナオミの戦闘持論だった。武器の効かない使徒相手に人間用の武器で戦うエヴァなんてナンセンスだ。
 
エヴァ伍号機Fは蝦蟇のように這い蹲った。
 
 
ゲロッ
 
 
そのまま線路に呑み込んだ列車を吐き出した・・・・・
本来の目的が消失しているのと、戦闘形態に変化するのに邪魔だからだ。
 
この変身の時間というのは、赤木ナオミが絶苦痛に耐えながら発生させるATフィールドのために手が出せないことになっている。体をはって造った時間だ。だが。
 
 
 
「怨(オーン)・・・」
 
                   
参号機がその行為を嘲笑う。参号機には般若のような口があり、吠える。
だが、聞く者全ての心を不安にさせる、邪悪なあの世のお迎えめいた吠え声だ。
だが、本能に従うだけの凶状もちの人獣のそれではない。意思の色がある。
深い暗黒の知に基づいた呪文めいた叫び。たしかにこれは人の発したものだ。
それを証明するためでもあるまいが・・・・
 
 
参号機も絶対領域を展開する・・・・・・・
 
 
「・・・・・!」綾波レイが眼を見張る。
「・・・・・・」レリエルが感情のない灰色の霧にけぶった目で見下ろす。
 
 
「黒い・・・・ATフィールド・・・・いや、もう一つ・・・・・白の・・・・?」
左半分と右半分とに展開されるそれは、太極図のように陰陽分かたれていた。
もともと不可視であるそれに色をいうのは意味がないが、そう感じるのだ。
 
「ギルがメッシュ機関、秘蔵子の二人が得意とする双方向ATフィールド。参号機の使うそれは「黒妖曜壁(こくようへき)」、「白牢鑞壁(はくろうへき)」と呼ばれてるわ」
恐ろしく強い援軍と形容した参号機と偽装エヴァとの思わぬ仲間割れとなったが、レリエルはかえって緊張と真剣味を強めている。当然、嘲笑うべきこの光景に、なにかひどく凄惨な表情を浮かべている。「レイちゃん・・・・よく見ておいた方がいいよ」
 
 
邪蘭(じゃらんっ)
 
 
結果主義の暗殺者にしか見えなかった黒の参号機が、ふいに舞手のような動きを見せ、黒いフィールドと白いフィールドを交差させると、それだけで伍号機Fのフィールドが完全消滅させられた。中和のヒマもなく、まるでスリ獲られたかのように。事実、そうされた。
瞬きするほどの相手に、赤木ナオミが技術的矛盾を克服するための苦痛に耐え捻り出していた、せっかくのなけなしフィールドが何十枚ものカード状にされ参号機の伸ばした左腕の上を連凧のように並んだ。並んでいた。おそらく相手をおちょくり、無力を思い知らせ絶望させるため、そうしたのだろうが・・・・けっこう見かけによらず愉快な奴かもしれないという竜巻のような観測を発生させつつ、驚愕を生む参号機。なんという手妻だろう。
エヴァ殺し使徒殺しと各方面から恐れられ、特定方面にのみ讃えられた、JTフィールドを、この参号機は「技」で、テクノロジーではない、テクニックの方で、実行してしまったのだ。その姿は黒の匠というか蝦蟇妖怪を調伏せんとする地雷也か。
 
 
「レイちゃん、見えた?」レリエルが問うが答えはない。見えるはずがない。
これが・・・未出戦ながら格闘戦最強と噂されたエヴァ参号機の実力か・・・。
 
 
「ふぅん・・・・・レイちゃんにも見えないか・・・・まだ・・・・ここにきても」
レリエルの呟きは綾波レイに届かない。参号機に気をとられすぎている。
 
 
強いもの。強大な力はこれまでも見てきた・・・・だが、これほど、震えがくるほどに冴えた「技」というのはこれまでに見たことがない。天に通じ、神に入るほどの技だ。
自分たちとは異質な存在・・・・「技術」追求する兵器とは縁がないはずの「人の技」を用いるフォース・チルドレン。完璧な接敵術もステルス装甲のみではなし得ない。おそらく操縦者当人が、水の上をも歩いて渡れるほどの拳法の達人、体術の持ち主に違いない。
 
 
阻むものはなにもなく、伍号機Fは変身の途中で動けない。
そして、反則的に無造作に参号機は再び偽装エヴァの首根っこを掴んだ。
 
 
ボキッ
 
 
ヘシ折れた・・・・・あっけなく。ダミープラグが挿入されてある箇所がボキッと。
急所を狙ったわけだ。だが、参号機の無予告攻撃はまだ終わらなかった。さらにさらにパワーを上げるとそのまま伍号機の偽装頭部を螺子切ってしまった・・・・。
 
ブ・シュー!!ニワトリでもエヴァでも頭部を締められるのみならず頭を失えば、首から大量の血が噴き出す。霧に混じった大量のそれは周囲を赤く染める。その動きに遅滞も躊躇いもなく、完全にプロフェッショナルのそれだ。的確にすぎて、その「作業」は残酷な色すら置き忘れてきたように。それだけに見る者に寒さを感じさせる。そして・・・・・ねじ切られて首との物理的肉体的接続を断たれた「頭」は重力に引かれて・・・・・落下する・・・・・・それを、
 
 
 
トン
 
 
 
参号機の足の甲が受けた。ちょうど、サッカー選手がやるように。白い”頭球”を。
 
 
 
トン、トン、トン・・・・・・・
 
 
戯れるように「頭部」を二、三度宙に浮かしていたが・・・・・・・あるいは、それは白い頭部に己の身に何が起きたかを知らしめる、その余裕を与えるためだったのかも、しれない・・・その衝撃で偽装の仮面が割れ、剥がれた・・・・・そして。黒足が鞭のように瞬と跳ねた。
 
 
 
「バルディエル・・・・」
第十二使徒レリエルが、ぞっとするような冷酷さで呟いた。
 
 
 
蹴頭
 
 
 
この世ならぬ、悪魔のファンタヴィジョンが華開いた・・・・・誰も見ることのない。
 
 
 

 
 
ドイツ・ハイリンヒック峡谷=========日本・秋葉森
 
綾波レイ                   伊吹マヤ

 
 
 
 
お電話様、とその祠の主は呼ばれているらしい。
 
 
橘エンシャの案内でやってきた都市鉱山(おやま)の中腹にある、裏寂びたもとは電話交換所であったらしいそこは、「お電話様」の幟が山の風にはためく秋葉森の神社であった。
二次天災のときの地震のためか白赤の電波塔がねじれて横倒しになって鳥居の代わり。
「新雷門」と並ぶ秋葉森の根源名所。ここにくる途中で伊吹マヤはその、「本物の霊感」
があるという橘エンシャの師匠のことを詳しく尋ねた。が、返答は「行けば分かるよ」の一点ばりで殆ど白紙の状態で現地に到着してしまった。が、その聖域めいた雰囲気、人間以外のものに対して用意された空間特有の気配に納得させられるものがある。
どうやら、橘さんのお師匠は秋葉森土着の民間信仰、つまりは新興宗教の教祖であらせられるのでしょうね、と伊吹マヤはあたりをつけた。そのわりには参拝者も見えず、廃止された交換所を自分とこの施設として使用しているあたり、よほどエキセントリックな方かもしくは世捨て人な方か、ともかく、姿勢を正して口を雪いで視線を柔らかくしていかねばなるまい。
 
 
注連縄がわりの雑草の巻きついた金網をくぐり、入り口に立つ。斜めになった「受付」のプレート。社務所のような雰囲気があり、お札破魔矢の代わりに今では誰も使わない、テレホンカードを販売していた。山の風の吹く、清くもしらっけたような空気の中、そこにだけ人間の気配がする。「ごめんくださいよ」橘エンシャが窓口から声をかけた。
 
 
「お電話様におつなぎねがいます」
取り次ぎの間違いじゃなかろうか、と伊吹マヤは思ったがそれも宗教上の約束事なのだろう。だが、それは間違いでも約束事でもないことが後で分かる。
 
「あ、エンシャさんですか?、こんこん」受付の奥から女の子の声が。
出てきたのは事務服の若い娘。年の頃は十四伍であろう。名札の代わりにバッチを胸につけており、それが一瞬、目をひいた。ススキに狐の紋だ。
食事中であったのか、稲荷のあぶらげをぺろりと片づけた。
「久しぶりだね。マトリ。忙しいかい」
「そうでもないですよ。こんこん。神主役も近頃ヒマで・・・で、この人は・・・」
 
 
「あ・・・・はじめまして。伊吹マヤと申します」
 
「アア、近頃町中で噂になってる社長さん。こんこん。お初にお目にかかります、”電話交換所”の所長、葛の葉マトリともうします。こんこん」
 
 
どこかで電話の音が鳴っている。ふいに電話音を思い出したような奇妙な聞こえ方。
 
 
「で、お電話様と話をしたいのですか。こんこん」
「え、ええ・・・・・・人捜しを占って頂きたくて」
 
「占い?エンシャさん、説明はされたんですか。こんこん」「しても普通の人間は信じやしないよ」「そですかあ?単にこの社長さんの驚く顔が見たかっただけじゃないですか。こんこん」「そうじゃないよ」「まー・いです。エンシャさんのときみたいに五ヶ月間かじりつきってこともなさそうだし、いいとこ三十秒もあれば仕舞えるでしょうからね・・・・じゃ、十円お願いしまーす、こんこん」
 
葛の葉マトリが白い手袋のひらを伊吹マヤに差し出した。払え、というのだろう。
が、一瞬迷う伊吹マヤ。この場合の「十円」がストレートに「十円」であるとは考えにくい。指一本で百万だの十万だの表現するのと同じく、やはり十の間には「万」がはいるのだろう・・・・・「あは。三分間十円ですから十円なんです。深い意味はありませんこんこん」三分間十円なんて、賽銭というより公衆電話の代金みたいだが・・・・・橘エンシャも肯くのでその通り十円払う伊吹マヤ。「ではごゆっくり・・・こん」
 
そして、奥に通された。
 
 
 
「あの・・・・」
節電のためか、いや単にランプがもげていて三分の一ほどしかついていない通路の照明に照らされながら歩む伊吹マヤがふと足を止め、先行する橘エンシャを呼び止めた。なにやら不安になってきた。
お電話様、と呼ばれる謎の教祖(?)、そして人気のない祭殿かわりの交換所、確かに藁でもオカルトでも縋ってみようとは決めたものの、あまりの話の不明さに「こりゃあかんな」的予感を濃厚に感じてしまった伊吹マヤはもう次の手段を考えはじめていた。「あの・・・・」は「申し訳ないのですが、」を内包していた。
 
 
「ん?あ、あーあ、・・・ああ、うん!あんたの言いたいことは分かってる。けど、時間がないんだろ?話すから進みながら聞いておくれ。成果のほどはあたしが保証するよ。
ここで”分かりませんでした”・・・ってこたあないから。ここにゃ、日本一いやさ世界一の占い師がいるんだから・・・・ね」
 
 
いつぞや、新雷の縁起を聞かせてくれたように、橘エンシャはこの交換所、お電話様について語りはじめた・・・・・・
 
 
はっきりいって、ここにおわす「お電話様」ってえのは、人間じゃない。本物の・・・・
電話機なんだ。それも、りんりんりりん、と響く黒いダイヤル式の、あれさ。
電電公社が製造した何十万何百万という電話機のうち、たった一台、回線も繋がないうちに勝手に鳴り出し勝手に通話口から話を始める電話機があったんだ。トリックでもなんでもない、その工場の人間はさぞ驚いただろうさ。話によると、最初のお言葉は工場長の母親の危篤を知らせる、虫の知らせってやつだった。おかげで工場長は親の死に目になんとか会えた、と。ここで終われば話は怪談で済んでいたんだけどね。縁起物ってのもヘンだけど、恩人ならぬ恩機械ってわけで義理堅い工場長はその黒電話を家に持って帰って床の間に飾っておいたのさ。もちろん回線なんぞつながずにね。それからギッチョン、
電話は勝手気ままに鳴り続けて人を呼びだし続ける。悪戯をするんだよ。
「こりゃあかなわん」と家族に責め立てられて工場長は御電話様の受話器に向かって「あまり騒ぐようだと壊しちまうぞ!!」と脅しをかけた。毎日毎夜やられて寝不足だ。さて。
だが、受話器からすぐさま返答が返ってきた。「やれるものならやってみるがよい。だが、こうなるぞ」と脅しが木霊で返ってきた。「東京N馬区の電話を全て止めてやったぞ。はっはっは」それはすぐさま実行された。工場長はそれが脅しでもなんでもないことが分かった。この電話の化け物はそれを実現する力をもっている。「わしが壊れたら日本中の電話が永久に止まるぞ。はっはっはっは」・・・・とんでもない悪魔なわけだ。
神主やこういうことに強い霊感者や占い師に頼ってみてもお電話様は強すぎる。
いっぺん、大がかりな除霊会が催されたが、束になって撃沈。藁の船だ。
そして、困りに困った工場長は上司に相談し、上司はそのまた上司に、と話はトップまで伝わった。もちろん、話が話なだけに最高機密だ。嘘のようだが本当の話だ。なにせその黒電話、お電話様は総裁宅まで電話をかけてきたのだから。偉そうに今後の経営について長々と語り、「電話と電車はどちらが先に民営化するもんですかなあ」
お電話様は、日本中の電話を盗聴しているのかどうか、やたらに物知りであった。
それから、あの世と繋いで死人の声を聞かせる、というイタコめいたこともやった。
聞きたいことを聞けば、必ず的確な回答がかえってくる。複雑な高度成長期において、人に救いを与えるべくこれは神様が派遣した機械の賢者なのではなかろうか。
「うーん、よくそんな怪しいもの、SRIがほっときましたね」「あの当時の著名人はみんなお電話様と話をしているのさ」「へえ・・・・昭和の暗黒史ですねえ」「その通り」
だが、その存在が公にされることはなく、昭和50年、1975年に黒電話のお電話様は
電話博物館の地下に厳重に封印されることとなった。何より話をするのが大好きで人間をベルで呼び出すことを生き甲斐にしていたお電話様が大人しく従うはずがなかったが、そこをなんとか封じ込めたのが、葛葉クスリ、マトリの祖母であった。
「葛葉ってえのは、まあ、要するに”くがか”な一族だよ。年季の入ったね」
橘エンシャは伊吹マヤに配慮してか、そういう説明をした。”すんえいさ”でもよいのだろうか。
 
 
第二次天災のどさくさでお電話様はなぜか秋葉森に運び込まれた。一説によると「法牙教」なる新興宗教が己らのご神体とするべく火事場泥棒で奪いとってきたものらしいが、さらに風説によると、それを葛の葉マトリが奪い取り、ここに祠を造り安置したということらしい。葛の葉マトリ本人は「そんなー、伝奇小説じゃあるまいしこんこん」と否定しているが。
 
 
「じゃ、あたしはここで待ってるよ」
階段を上ったつきあたりのドアの前で橘エンシャは先をうながした。
お電話様の間。ここにその情報というものの老導師のような性格が物体化したといえなくもない謎の黒電話が待っている。ここでは求めている情報がたった十円で手に入るのだという。なにか都合のいい話だが・・・・・
 
「決心を鈍らせちまうかもしれないけど・・・」進む伊吹マヤに橘エンシャが声をかけた。「お電話様にお伺いをたてられるのは一度きりだよ。どんなに難しい質問にでもどんなにくだらない質問にでも答えてくださるけど、たった、一生に一度きりだ」
 
「別に他に聞きたいことなんてありませんよ」
 
「さすがだね、ながれいしだね、お見事。普通はどいつもこいつも個人的なことでそのチャンスを使うんだけど・・・・誰それが自分をどう思っているか?とかね。だからここは縁結びの場所でもあるのさ」
 
「ときめきセンサーみたいな話ですね・・・はさておき、自分はこれからどうなるか?とかですか?・・・・・聞けませんよ、そんなこと。
わたし、臆病だから」
伊吹マヤはドアを開き、中に入っていった。
頭の中で、この話を聞くまできつうく心底に差し込んでいた質問(クエスチォン)を交換しながら。さりげなく。もし、それが本当ならば・・・・・
 
 

 
 
秋葉森・伊吹商事
 
 
「みなさん、ただいま帰りました」
社長、伊吹マヤの帰社は夕方五時を少し回った。ちょうど良い時間帯であった。
この時間は伊吹商事の昼夜の引継、作業経過報告などを行われる「晩飯」時間であり、外出でもしない限り面子が丁度揃う時間なのである。春込イスズさん、東芝タダエさん、藤原ルカ・セト姉妹、祭門チサト、時間があれば伊吹社長自ら作る、伊吹商事女性陣の作る晩飯はうまいので、石野丸アラシのようなお嬢様や加藤ジンエのようなクセのある男やなんと家に帰れば食事が作ってあるだろうにの原田ホウロク氏や勝山チョウスケ氏なども食べていく。それに東芝家の人々、春込イスズさんの子供、時には呼ばれた打ち合わせにきた電詞文製作所の人やさらには石野丸アラシの小学校の友達もなだれ込むのでにぎやかなことこの上ない。
そして、大家族的な晩飯が始まるわけだ。ちょうど割烹着の春込イスズさんらが料理を運びの、他の者が机の上を片づけの、美味しいおかずは早い者勝ちなので慌てて作業を一旦うち切りの、「飯は人についでもらった方が断然うまいっ!!」と力説しつつ、秋葉森にしか売ってないでっかい電気ジャーからホイホイと、なぜか人に飯をつぐISDN回線男。
そういったことを一切せず、飯は人に用意してもらうもの、と大言してはばからずに野球放送の試合結果に熱いエールを送りつつ、乱入組の小学生のアニメ番組ととチャンネル争いをする「あっ、あと一分、何点とられたかだけ教えてくれ」「だーめっ。歌がはじまる」尾道カンジさん。鍋奉行ならぬ、伊吹商事の味噌汁奉行、お家の好みはそれぞれあれど、なぜか全員この人の味にナットクしてしまうマルコメX・・・ではない、松下コウノスケ。
支度が出来るまで、のんびり隅の方で囲碁将棋「王手!おめえさん、弱えなあ・・・・」
「なんででしょうなあ、海老名さんに勝てないのは・・・・不思議ですよ」海老名トラジロウさんと百山田サブロウ。るーるーるるるるー、今日も騒がしいー。これまでで一番騒がしかったのは、海老名トラジロウさんが「いやぁー、昔の知り合いに就職祝いにもらっちまって」と、なんと体長二メートルの”鯛”を運んできた日だった。
「今日もうるさいわね」橘エンシャが蠍座のキンキラ系の歌手のように言った。
 
 
「社長、意中の相手は見つかりましたか」との尾道カンジさんの問いかけに
「いえ、探す必要がなくなりました。なくなったんです!」伊吹マヤは嬉しそうに答えた。
秋葉森者にはついぞ見せたことのない、いい笑顔だった。本心から喜んでいる。
「あぁ、そりゃ良うござんしたねえ」海老名のトラさんもしみじみ喜んだ。
 
 
今日のメニューは、みそカツどんとシューマイと大根豚肉の煮物とアサリの味噌汁とマカロニほうれんそう。茶坊主ならぬ茶娘は祭門チサト。でかい左肩でも上手に各自についでいく・・・・。伊吹商事で一番幸せそうなのはこの娘だった。全力を出しても皆をおいてけぼりにすることがない、全員一致一丸となって高速で駆けている、力感に満ち充ちた空気を吸えることほど生き甲斐を感じる瞬間がほかにあるだろうか・・・・初めての納得する自分の居場所、初めて知った幸せに、この会社が期限つきの時限会社であることを失念しつつある祭門チサト。祖父ライゾウ、松下コウノスケ、加藤ジンエあたりがその茹でぶりに水をさしてやるのだが。効きはしない。それほど、選ばれし者の孤独は深かった。
製品完成の暁に、一番ショックを受けるのは彼女だろう・・・
だが、それはもうちょっと先のことだ。
 
 
 
その前に、思わぬ敵が伊吹商事の前に立ちふさがることになる。
 
 
今も、チョビ髭を生やした、「ここがそうかね・・・」時田氏によく似た雰囲気の、「ネルフの元オペレータがやっているという・・・」時田氏に身長体重が同じくらいの、「怪しいソフト制作会社は・・・」時田氏にそっくりな顔の、というか早い話が時田氏が伊吹商事を不敵な視線で見上げていた・・・・・。「フフフ・・・・」