「いそげいそげ!!・・・・あーん、間に合うか?」
 
砂漠の一本道を砂煙をあげながらとばす一台のオンボロバギーがある。
「こんなことなら、大リーグ観戦もほどほどにしときゃ良かった・・・・」
バギーの中で、試合観戦から急用で抜け出してきたような野球応援ルックの、赤い瞳をもった少女がぐちった。綾波ノノカン・・・しんこうべの地でならばともかく、ここアメリカ・ネバダの砂漠ではその名字もさして意味はない。未来視ノノカン、その方が。
 
「この先、マズイんじゃないのか?これまで通り過ぎてきた八つのレーザー内蔵のダミー・サボテン柱・・・・監視の者がちょいとその気になれば俺たちは穴だらけになる」
ハンドルを握る顎ヒゲサングラス黒スーツ黒人がそれでもアクセルを緩めずに言う。
 
「じょ、冗談だろう!?一体、何があるんだよ?移転したエリア51か?カビの生えたUFOネタなんてのは勘弁してくれよ・・・オレの仕事はスポーツカメラマンなんだからな・・・・関係ないだろう!!今日はイチロー監督の初就任試合だったんだぞ!!」
そのわりには、Xファイルのモルダー捜査官にクリソツな顔をしたカメラマンはわめいた。
仕事の途中でノノカンに無理矢理引き抜かれてここまでやってきたのだ。大金に目がくらんだ、ともいう。知的美人で医者の彼女にプロポーズするために、ドカンと大金が欲しかった。まさかほんとにドカンされたくない。
「べつに監督がプレイするわけじゃないんだから、誰が撮ってもおんなじでしょ。
わたしはあなたの高速撮影技術が欲しいんだからこっちにくるのがプロってもんでしょ、モルダー」
「誰がモルダーじゃい!」
「本名なんてどうでもいいの。写真撮ってくれさえすれば。コードネームよ。そういうわけで、今はバギーの運転手で、イチロー監督の脳天を狙撃しようとしていたどこぞの白人至上主義者に雇われていた殺し屋のあなたはデンゼル」
「・・・勝手にしろ」
「はあっ!?・・・・、なんだよそれ・・・・その話・・・・」
「彼の顔、撮るならこっちの仕事終わってからにしてね。カメラとガン、どっちが速いか興味あるけど、デンゼルは運転中だから。この速度で転ぶと・・・ありゃ、全員死ぬわね」ノノカンは、一拍おいてまるで事故シーンを見てきたように言った。
「しかも、誰も助けにきてくれないからほうったらかし・・・・白骨になって蠍のお城になってるわ・・・・モルモル、あなたはガラガラヘビの抱き枕になってる」
この少女・・・・年端もいかぬ・・・赤い瞳のせいで人種が不明だが・・・の言葉にはある種の力と才能がこめられていることを、二人はここまで来る道のりで思い知っている。
予言者か占い師かなにか知らないが、並はずれた説得力がある。誰も分からぬ先の話であるというのに。
「デンゼルもそういうわけで、モルモルにむかつくことがあっても撃つのは仕事が終わってからにしてね。終わったら好きにしてくれていいから」
「おいっ!!?」
「・・・・・お前を撃つ、という選択もある」
「やってみてもいいけど」
ノノカンはあっさり言い返した。やれるならこんなところでバギーなんぞ運転してない。仕事を邪魔した当人が、今回の大仕事以上の、その三倍の高額報酬で雇う・・・
「体力と腕っぷしと度胸のある運転手が必要なの。もちろん、免許証もね」
ラスベガスで当てたとぬかす、目の玉が飛び出るほどの大金をこいつは持っている。
人に雇われ、人を撃ったことはあるが、化け物に雇われ、化け物を撃ったことはない。
運転手をさせられるだけ。・・・・何が目的なのか知らされていない。
同じ球場にいたカメラマンをこれまたひっさらうようにして同乗させた。
なんらかの巨大な組織による犯行・・・計画性というものが微塵も感じられない。
分かるのは、この少女の怪物性・・・・それと、「渦」。巨大な渦だ。運命の、渦。
こんな日がくるのをオレは、知っていた・・・・ガキの頃から。そう、夢にみた。
 
なにかを、オレたちは今日、果たす。生まれる前に決められていた仕事をやる。
 
運命だの、予感だの、あてに出来る職業ではないから、余計に感じる。
だから、さしたる抵抗もせず、その口車にのり、アクセルを踏み続ける。
ヤバイ施設だというのは分かっている。この砂漠の先にある施設・・・・軍関係、政府関係・・・でもない、かといって個人の所有にしては出鱈目に巨大な規模・・・・
分かれ道のごとに、ノノカンの指示で選んできたが、それを違えれば今頃すでに地獄に向かっている。これは「正しい道」・・・関係者のみの知る。ゆえにサーチだけで勘弁してもらえているのだろう。その陰険さは軍の機密施設以上の何かが、ここにあることを示している。空にも注意を配っているが、なんの動きもない・・・それが不気味だ。
これは警備ではない、もっと非人間的な、機械的な排除システムの存在を感じる。
なんの表示もなく。突破する敵も壁もなく、ただ道は続く。ただ道は・・・
それでいて、攻撃力が必要ないならオレでなくてもいいんじゃないか?という疑念は浮かんでこない。まあ、映画じゃないないだから巨大施設の関門を突破するのに殺し屋一人でオーケーという簡単な話にはならないのだが。この砂漠でミサイルランチャーを撃ってみたとてしょうがない。まあ、テロリストじゃないんだからランチャーもバズーカも持っていないが。その役目は、もっと別のことなのだ。もっと単純なこと、そう、例えば、黙ってアクセルを踏み続けるような・・・・
 
 
 
「止めて!」
ノノカンの制止。限度が来たのか、それとももう時間が来たのか。
 
 
「ここくらいが限度かな・・・あまり近いと巻き込まれる・・・・じゃあ、モルモルお願い」
「お願いって何を撮るんだよ?ここまで球場のホームランが飛んでくるのか?」
「まあ、似たようなものだけど。空よ。地上から空に。一瞬で昇天するから。
それを撮って」
「はあ・・・・・こんなところにシャトルの基地がか・・・宇宙計画は凍結されたはずだろ・・・・今のこの国にはそんな金は一セントもないぞ」
「そんなノロマなもんじゃないわよ・・・・・いい?失敗したら頭から痛快丸かじりにするからね・・・素敵な彼女にダイヤの婚約指輪贈れなくなるわよ・・・・機会は一瞬、現場が見えないから前触れも分からない・・・・撮れる?」
「今更何言ってるんだ?このオレを誰だと思ってンだ・・・・飛んでくる弾丸だって撮ってみせる、カメラを持ったワイアット・アープと異名をとった・・」
「自分の名前は言わない方がいいと思うよ。デンゼル聞いてるし」
「・・・モルモルだよ。ああ、そうさ、!どうせモルダー顔だよ!!親からしてそう呼ぶんだぜ!じゃあ最初からそうつけろよってんだ・・・言い寄る女はみんなXファイルオタクだし!!しかも宇宙人じゃあるまいし、最初はそれ隠して接近してきやがって!!」
 
「なぜ泣く・・・」とデンゼル。
 
「だってねえ。ほんとにそうなんだもん・・・・・まあ、とにかくがんばってモルモル」
ハンカチをさしだすノノカン。この期に及んで涙でファインダーが見えませんでした、では困る。この撮影は大事なものなのだ。冗談抜きで、世界の命運を変える。彼の心に与える影響が計り知れない。それを恐れてか、神も悪魔も助力もしなければ敵対もしない。上等。そうでなくては。自分たち未来視の存在意義がない。
 
今、この砂漠で一人の未来視がいなくなる。
 
渚カヲル。本来は彼に会うためアメリカくんだりまで来た。だが、それが消える。
そうでないなら、自分はあのしんこうべ・ゆきみる墓場の最奥部でいまもシグノの面倒をみている。未来視には問答無用で未来視の存在を感じ取れる。一度として会ったことも、言葉をかわしたこともなくとも。世界のどこかにいる、その魂が共振する。
未来視が消える、その意味。未来を宿すその瞳が地上から失せるその意味。
量としては微量のそれは、触媒の役割を果たす。反応を加速し、孵卵を促す。
未来視が消える。それは、いいのだが、未来視もいつかは死ぬのだから。
墓場の奥に棲みながら、未来視の交代劇をなんども幻視してきた。ここ数年、特に入れ替わりが激しい。おかげさんで今やほとんどの現時点の未来視は赤ん坊になってしまっている。行動力もなければ資金力もない。あったらこわいが。
問題なのは、それに続く未来視が登場しないこと、誕生するヴィジョンがないこと。
時代時代、必ず定数存在する未来視。後継を待つことなく消えゆく彼は・・・・
流れ星などではない、超新星か・・・強い強い輝きで見えない。
あるいは、人間の未来をどこかへ持っていってしまおうというのか・・・・・・・・
 
 
「来た」
 
 
ノノカンの赤い瞳が輝いてその時を知らせる。砂漠の果てに巨大な光が生まれる。
それは、人間の見てはならないものだったのかもしれない。直視すれば正気を保てない。ゆえに、何も物想わぬ機械の瞳がそれをとらえた。超高速で離陸した何か。ロケットでもなければ戦闘機でもない・・・・・白い輝いたそれは・・・・・翼を広げたように見えた
 
 
「ANGEL・・・・?」
己の撮したものに放心したようなモルモル。もはや人間の肉体を撮す興味は彼の中から跡形もなく消滅してしまった。強い、強い影響。彼はこれから違う道を歩むことになる。デンゼルの感じていたものをいまさらならがにその手の中の機械・・・・カメラとともに握りしめる。天啓の雷に打たれた信徒のように。自分が何を撮したのか、撮してしまったのか・・・震えがきた。恐怖でもあり畏怖でもある。「ごくろうさま」とノノカンがふわっとその頭を抱えてくれなければ、母親と父親を求めて大声で泣き叫んでいた。
 
 
脱力するデンゼル。一発も撃つことなどなかったが、自分たちの仕事は終わった。神の速度(ゴッドスピード)で過ぎ去った。人間など、この渦劇の前では端役ですら演じきることはできない。与えられていたセリフひとつを叫ぶ前に場面はとうに過ぎ去っていく。本日の撮影が終わってからやってきた新人役者よりマヌケな存在だ。オレたちは。
「もう、これで・・・引き返していいのだろう」
「ええ。このバギーを返したらそこで解散、ということにしましょう・・・・
なんとか、間に合ったか・・・あとは・・・」
 
 
 
 

 
 
 
夢をみている。
 
 
綾波レイ。
 
 
音のない夢。
 
 
白い空間に、ふたりがいる。レリエルと、フィフス・・・・・・渚カヲル。
白い衣をまとっているが、ふたりともかなり裸にちかい。
ゆらめている。こちらが水槽のようなものの中にいるからだ。それ以上近づけない。
透明なガラスが、こちらとあちらを遮り区切っている。音も、声も。
 
 
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
 
 
ふたりはなにかを話しているのに、聞き取れない。声はこちらまで届かない。
レリエルの声が聞こえぬ事に、若干の苛立ちと、寂寥を感じる綾波レイ。
 
 
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
 
 
レリエルが珍しく真剣な、そして、初めてみる心配げな憂い顔をしながら何か問うた。
うなずく渚カヲル。穏やかだけれど、強い意志がある。それも初めてみる。
 
レリエルが懐から、小瓶を取りだした。その中には深紅の錠剤。
 
 
「!!」綾波レイの目が見開かれる。あの薬は・・・・・・・・
 
 
レリエルは錠剤一粒を取りだし、自分の口にいれた。そして、渚カヲルに顔を近づけ。
そのまま。キスした。
 
 
あの薬の名を知っている・・・・・。だけど、思い出せない・・・・・まずい・・・
半狂乱になりそうだ・・・・・早く思い出さないと取り返しのつかないことになる・・・・・・あの薬の名は・・・・・・必死に思い出そうとする綾波レイの努力を横に、長い口づけ。あれを渚カヲルに与えてはいけない・・・あれは、人間の服用するものではない。自分と同じ顔したレリエルが渚カヲルと・・・・・・そんなことを考えている余裕はない。あの薬の名、あの薬の名、あの薬の名は・・・・・・・確かに、覚えがある・・・・
 
 
赤い瞳が動いた。レリエルが横目で綾波レイの方を見た。そこに映る、ゴールに到達した者が自然に浮かべる満足感。それを淵彩る法悦、レロンレロンシンタな快楽。・・・・・・もしかして、錠剤はまだレリエルの口腔に含まれたままで、渚カヲルに至ってないのかもしれない。どうもその過程を楽しんでいるように見える。綾波レイが近くでも遠くでもない距離から焦っているのを面白がっているふうでもある。くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅり・・・・
 
 
このくちゅりのなは、ねえ・・・・・・
 
 
赤い瞳が語りかける。言語規格すら切り離された現在、それは綾波レイのカンでしかない。もともと、人間に使徒の言葉が分かるわけもないのだ。今までそれを成してきた自分の方がおかしい。与えられてきた情報で迷いもした。だが、もうそのようなことはない。
綾波レイはただの人であり、同じ顔をした彼女は使徒。そういうことだ。
 
 
だが・・・渚カヲル・・・彼はどうなる? あの薬の名・・・・・確かに・・・・
 
 
思い出してやめさせないと・・・・・強制停止させるか・・・・正気を失っている今の彼になら反射もされずに力が及ぶかも・・・・・だけど、むこうをゆらめかすガラスの壁が力の収束を妨害する。思い知らされる自分の無力。こんな肝心な時に、何一つ出来ない。
自分には、この日が、この時がくることを予想できる情報と材料が与えられていた。
愚かな・・・・・・・せめて、薬の名さえ思い出せば・・・・・
 
 
けれど、これは夢の中
 
 
レリエルの赤い瞳が語った。誰にもどうすることもできない。レイちゃんにも、もちろん、あの、シンジ君にもね・・・・・これはカヲル君、本人が望んだことだから。
邪魔することは許さない・・・・もし、その気ならレイちゃん相手でも本気を出すよ・・・・・いつもへらへらしているレリエルの初めてみせる怒気・・・人間的な感情。
綾波レイがもう少し世間に長けていれば、その感情の正体が暴けていただろう。
あまりに、ポピュラーなそれ。けれど使徒が。自分と同じ顔したレリエルが。
空中から真剣を抜くような思わぬ不意打ちを受けて、綾波レイは一歩退いた。
 
 
 
だ れ に も わ た さ な い
 
 
 
夢の中でも、思い出すことはできる。唯一の抵抗・・・・・なんだったか・・・あれは
だが、綾波レイの抵抗むなしくレリエルは成就した。渚カヲルの白い喉が嚥下した。
 
 
 
そこで、夢は途切れた。まだ明け切らぬ朝・・・全身にびっしょりと汗をかいた自分が居る。ここはベッドの上。自分の部屋。ぞくっ。猛烈な寒気がくる。
 
 
「さびしい・・・・」
つぶやくじぶんのことばにおどろく。さびしい・・・・・じぶんひとりではたえられない。はらはら・・・・・頬を伝う涙が・・・・・「なぜ、泣いているの・・・・・」
夢のこと。なにか、とても悲しくて残念な夢を視たような・・・・・ただ、どんな夢だったのか、覚えていない。どこかへかくれてしまった。誰かにこのさびしさを伝えておかないとやりきれない・・・・たまらない・・・・・「碇君・・・・・・」なぜかその名を呼ぶ。台にうち掛け衝立かわりにしてある四本袖の海着物「綾波」がその言葉を吸い込んでくれる。しんこうべから送られてきたものだ。
 
 
「・・・・・・・」
がちゃ。シャワーも浴びぬ白い夜着で、鍵を外してドアノブに触れる時に気づく。・・・・・どうしようというのだろう・・・・・こんな時間にこんな格好で・・・・
信じられない・・・。おまけに、碇シンジはもう幽霊団地にはいないのだ。
普通の人間の住む地域に戻っていった。彼を待っているひとたちの元へ。
それほどまでに、さっき視た夢は重たかったのか。悪夢は見慣れているのに。
 
 
施錠して部屋に戻る。冷気が部屋を支配している。やりきれない寒さ。
ぎゅ・・・・・「綾波」を掴むとそのままズズズと引きずり、自分の身体に巻きつける。
そのまま朝まで、まんじりともせず。仄暗い空間に赤い瞳が虚ろに光る。
 
 
 

 
 
 
VANISHING(消失)
 
 
ネルフ本部・分析室にて繰り返される文字。それを沈痛な顔で見下ろす者たち。
 
 
ネバダにあるネルフの第二支部が消失した。てがかりは衛星軌道による映像のみであとは影も形も残っていない。巨大なクレーターのみがその存在の傷跡。今はもうないが、かつてはあったのだと。そして、人間の中には生々しい記憶が残っている。
 
エヴァンゲリオン四号機並びに半径49キロ以内の関連研究施設は全て消滅。
タイムスケジュールから推測して独逸で修復したS2機関の搭載実験中の事故。
予想する原因は材質の強度不足から設計初期段階のミスまで三万二千七百六十八通り。
妨害工作の線もあるが、爆発ではなく、消失となると・・・・人間の手におえるか。
過去、爆砕された参号機のようなケースもあるが・・・・これは、あまりにも。
 
変事には慣れているネルフ本部に戦慄が走った。数千の人名と膨大な資金をかけた施設が消えたことはむろんだが、その大混戦修羅場の中で特最優先で確認を求められた項目があった。
「エヴァ四号機パイロットは実験に参加していたか」
=「実験時、四号機パイロットは機体に搭乗していた」
返答は絶望とともに。その報を聞くなり、赤木リツコ博士が倒れた。糸が切れたのだ。
実験中にスケジュールの繰り上げや繰り下げがあったかもしれない・・・という儚い希望はこの際存在しない。S2機関の搭載・・・聞くだに危険度の高いこの実験をあの白銀の少年無しに行うはずがないのだ。四号機の周囲にいたはずの実験者計測者たちは万全の体勢と考えていただろうし、少年には畏怖と敬意と信頼をもって接していたはず。実験の成功を疑いもしなかったであろう。このあとの食事のメニューの相談などしていたかもしれない。
それが・・・・・・・・・・・・・・
 
 
能面のような顔の葛城ミサト。鬼のように腕を震わせて赤木リツコ博士を支えている。
この事実を子供たちになんて伝えれば・・・・・・夜叉のように考える。
白銀の少年を悼み、失われた数千の人命に対して黙祷をささげているようにも見える。
「なんでこんなことになんのよ・・・・・・・」吐き捨てた。
事実を伝えない、という選択もある。単に自分の役目を放棄する、ということだが。
いずれ知れる事実。それを伝えるのは自分の役目。それが生むのは間違いなく不信不和。
巨大施設がまるごと消失するような現象を起こす機体に安穏として搭乗できるか?
それを整備する者、作動確認する者、いやさ、本部で働く全ての人間の安全に対する保証。
今は気絶してればいいけど・・・・大変なことになるわよ・・・リツコ・・。
使徒にやられることと、実験中に吹き飛ぶことは決して同じではない。決して。
同じであってたまるか!!・・・・・それにしてもまずいことになった。戦うことばかり考えていて悪いけど・・・・・本部への影響も尋常なものではなかろう。今、この場にいる司令、副司令はともかく、日向君、青葉君、マヤちゃん・・・3人の顔色をみれば衝撃の深さは一目瞭然。・・・くそ・・・後であの化け物ニワトリにつつかれるのを覚悟して野散須親父に相談しにいくか・・・・そもそも自分の士気が最低ラインを割っている。
 
 
 
だが、葛城ミサトはまだ知らない。すでに、この都市には眠ることと戦うことしか興味がない、無限の闘争心をもつ「世界で一番強い人間」である第四類適格者がやって来ており、士気などほうっておいてもそのうち天井知らずに黒炎のごとく燃え上がっていくことを。