「魑魅魍魎も宇宙人も大してかわらないな・・・・」
のっぺらぼうのバイアブランカ宇宙人のマスクの下で加持リョウジは独り言。
 
 
ここはMJ−301の海上移動ベース・・・・・海の上であるからUFOでなくUSOである。うそではなく、ほんとである。めっきり使用頻度の減った巨大タンカーを連結して、その上にばかでかいドーム型の円盤(エリア51から厄介払いに買い下げされた反重力飛行制御装置のなれの果て)をまたいでのっけてある。あちこちから砲台と見間違う大きなアンテナをのばしているので、遠目にみればまさに海の怪物「クラーケン」であり、ちなみに愛称は「クトゥルーフ」。巨体の割に反重力のおかげで喫水は浅くなり、その気になればウイリーや片側を浮かして河上流まで入ってこれる。見た目のとおりに小回りが利かないので、その謎ぶりを発揮して衝突が発生しそうなときは向こうでよけてもらうことを前提にしたわがまま手前勝手なミステリーシップである。もちろん、ロイズの保険などには加入していない。
 
 
葛城ミサトの願いが、どういったルートかは不明だが、届いたらしく、加持リョウジはMJ−301内部に入り込んでいた。
基本的にネルフの諜報部は防諜を主としており、このようなジェームス・ボンドのような真似はしない。もちろん、誰からも命じられたわけでもなく、ただ自分の中の真実に近づいたいがために、こんなことをやっている。正直なところ、こんなところに「真実」はなさそうだったが、・・・・・・しょうがない。彼岸の・・・・・女の・・・葛城ミサトの・・・・・「真実」がここに転がっているのだから、拾い上げにきたのだ。仕方がない。
 
 
ここにいると、彼の女の無茶苦茶ぶりがよく分かる。
エヴァを二体持ってきたことすら、業界を震撼させているのに、それをもって参戦とは。
しかも相手は・・・・アバドンの実験機。おまけに独断だ。これでなんらかのヘタをうてば両肩はコナゴナに砕かれて、首と胴が離れることになるだろう。
尋常ではない。まともな判断ではない。・・・・・が、うっすらと、彼の女の考えている、望んでいることが、分かりそうな自分が居る・・・・。
 
 
私情は私情として、その間に仕事もきっちりやる加持リョウジである。
JTフィールドの拡散は確かに問題であったし、これを放置しておけばこの先、裏の仕事が増えるのは分かり切っている。面倒は芽の内に摘むべし・・・・・という葛城ミサトの見立ては確かに正しくはあるが・・・・・それは収集された情報の上に立脚した判断ではなく、限りなくカンに近い荒削りで野性的なもの。使徒と違って人間集団に関する情報はそれなりの手間と手順を踏めば手に入るのだからそれを怠ることは指揮者失格である。
 
だが、防諜が基本であるネルフにそこまで便利な攻諜の人材は少なく、葛城ミサトがその基本に忠実であろうとすれば、そもそもこんなところに出張ってはこない。
JA連合、JTフィールドの販売、などなど今回の件では後手後手にまわっていることでわかるように、ネルフは備えをやっていなかったのだ。準備と用意がなければ収穫もない。
 
 
ジェームス・ボンドでもあるまいし、突然にそう簡単に敵の組織の内部にへろっと入り込んで、さくっと情報をとってこれる諜報員など、まずいない。よほどその組織の防諜が激甘というのならまだしも。草、と呼ばれる忍者が何十年もかけて信用を築いたあとで働き始めるように、機密を暴くにはそれなりの手間と時間がかかるのである。
 
 
あーあ、危なっかしくて見てられないよ・・・・・
 
 
という一事で、簡単に敵組織の内部にへろっと入り込んで、さくっと情報をとってこれる加持リョウジなど世界的に見ても非常に珍しい部類に入る。碇ゲンドウが重宝するわけである。
 
 
ロボット同士の戦いの勝敗など彼の仕事には関係ない。大まかにいって二点、探れば後の用は済んでしまう。JTフィールド発生装置の販売計画とヨッドメロンの進退。この二点を。あとのMJ−301の内情など販売計画の流れが判明すれば自ずと明らかになる。
 
この「クトゥルーフ」の艦橋中枢にある電子頭脳「ハストゥール」にはすでにJA連合を吸収するプランが組上がって組織図すら出来上がっている。それによると、あわれ時田氏の会社は乗っ取られて、ケージに一生入れられ陽の目をみることもない、金の卵をうむブロイラーとしての運命が決定されていた。真・JAも解体されて、パーツごとにどこぞの軍隊に売られる予定。契約こそ済んでいないが、本人たちもしらん間に、既にバラバラにされて見も知らぬ他人のものになってしまっている。大規模な銀行連合、超巨大保険会社各国軍隊・・財閥兵器商・などなど、時田氏が理念と信念のもとに袖にした連中がよってたかって・・・・・力づくで。それを保証する。
 
 
まあ、そうなればそうなったで、仕方がない。出る杭は打たれるのはどこの世界でも同じ。
加持リョウジはそれに対してなんの感慨もない。本社承認は受けていないものの、時田氏と真田女史の二名が今回の吸収事業の意向に逆らった場合は、拉致洗脳もしくは、脳摘出手術を行いバイオコンピューターに連結する、というとんでもない案まで出されていたことには多少の同情を覚える。それだけ、打ち甲斐のある「杭」だということだろうが、まるで吸血鬼、いやさ吸脳鬼だ。この業界がふと見せる薄暗さには底がない。真暗闇であるほうがまだ救いがある薄暗さというものが確かにある。
 
 
MJ−301自体は北米大陸にあるいち兵器関連エンタープライズの極秘系新兵器開発部門であり、規模、能力とともに時田氏のJA連合を大きく超越するものではない。
だが、それを取りあえずの旗頭として、諸所の勢力、時田氏に振られた者共が結集したところが面倒であった。いくらJTフィールドが欲しくとも時田氏が憎たらしくても、やっていることは「タイガーマスク」に出てくる悪役、虎の穴のミスターX以下であり、表の顔を使ってはさすがにまずい・・・・同士討ち禁止機能など天地が逆さになっても搭載不可能な各国軍隊はもちろん、ちなみにその中には戦略自衛隊も含まれる、・・・・ので、MJ−301という謎の覆面をかぶり、正体不明にして時田氏とJA連合を叩こうという・・・・ついでに出来ればこの機械に自分たちの戦闘ロボの実力も確かめてやろうか、という腹すらある・・・ここまでくるとミスターXもびっくりだ。正義もせの字も大義のたの字もどこにもない。葛城ミサトも時田氏も知らないのだが、こういう事情で寄り集まったMJ−301の戦闘ロボットは、SUPERロボと、マッドダイアモンドとヨッドメロンの三体だけだと思ったら大間違いであり、実はクトゥルーフの格納庫に3台、フランスの「地底の鉄管より朝は手を上げる」、ロシアの「人影のない戦場」、ブラジルの「殺人光線・ヴァニッシングシャドウ」、香港の独自所有する空母”赤壁”に積み込まれている中華思想ロボ「先攻者」が控えているのだ。
 
 
ここらへん、情報を収集しきれないJA連合と葛城ミサトは甘いとしかいいようがない。
エヴァがヨッドメロンと対戦する、という情報をうけ、MJ−301司令部は歓喜した。
使徒が突如出現した、とかなんとか適当な言い訳をつけて逃げ帰るだろう、と電子頭脳は計算していたからだ。・・・葛城ミサトのキャラクターの入力が不十分だったのだろう。
 
 
まあ、それはまだ間に合うさ・・・・・加持リョウジは通路を進んでいく。
 
途中で、タコ頭のラーンゲナルゲン、妖精フェイスのプルーストンウォーク、灰色の醜悪・ブランチヒル・・・宇宙人とすれ違う。もちろん、マスクをかぶった地球人のことだが。
ある意味、JA連合以上の寄り合い所帯であるMJ−301にはルールがあり、それがこの「宇宙人マスク」を被ることである。JA連合にはそれなりにある理念もへたくれもないMJ−301では、こうしておかないと派遣された人員の自尊心がもたないのだ。
こんな宇宙人マスクをかぶってはいても、それぞれ国に帰れば良き軍人、優秀なエンジニア、頼もしい父親、賢い母親だったりするのだから。内輪喧嘩を防ぐ効果もあるし、機密保持のための発信器が内蔵されているのはいうまでもない。
 
 
仕事が速い加持リョウジは片方をほぼ済ませてしまい、あとはヨッドメロンの進退を見極めることにする。そうなれば、このマスクともおさらばだ。
 
アバドンの実験機・ヨッドメロン・・・・どういうつもりでメジュ・ギペール式の生体瞳を填め込んだ機体をこんなところに持ってきたのか、ある意味葛城ミサトより大胆な真似である。フリ、だけとはいえ、いち軍需企業体の傘下に入るなどあのプライドの高いアバドンがよくやったもんだ。いやさ、あの至高聖所にいる者たちはそれが人の恥だなどという感覚じたいがそもそも欠如しているのだろうが。
それでも、政治力学には敏感な者たちだ。エヴァの猪突猛進に対してビビリがはいり、それこそ適当な言い訳をでっちあげて急遽引き上げる・・・・という可能性は高かった。
考えてもみればいい、葛城の方は正体不明をいいことに遠慮なく叩きのめす気でいるのだろうが、(そういう女だ)、向こうはエヴァを、その内部にいるパイロットに傷一つでもつければゼーレがどうするか・・・・・それに見合う代償成果を要求するだろうが、応じることができるのか?。綾波レイに害を加えた後のネルフ総司令、碇ゲンドウの動きを恐れずにいられるか?・・・・割に合わぬ話であろう。まともな頭ならここは撤退だ。
この場所に「真実」などはないのだから。あるのは、彼岸の幻想か。
 
 
それを鑑み、状況を見ていたのだが、ヨッドメロンになんの動きもない。
葛城がこのタイミングで出張ろうとしたのは、ヨッドメロンがパイロット搭乗型であるゆえだろう。JTフィールドに、ましてやJAに、さして遺恨も執着も感じない。
この場にいるが、分かる。現在の葛城はそんなポジションに己を立たせている。
どろどろとした濁流の中に、巌となろうとしている。オレにはできないことだ。
そういう女であっただろうか。・・・・・あまり意味はない感慨だ。人は変わる。
この陰謀濁流を泳ぎ切っても、彼岸に辿り着くことは永久にない。それでも、流れの先に。
 
 
通路をゆく足が早まる。ミラー郡型・バイザーつきピーナツ頭宇宙人とすれ違う。
 
行方は最下層の厳重に封印され、許可も不許可もなく何人たりとも絶対立入禁止区域となっているヨッドメロンの格納エリア。クトゥルーフのメインクルーでさえ足を踏み入れぬ・・・許されておらぬのだから。加持リョウジの顔もわずかだが引き締まる。
 
正式には「その場合は何が起ころうと一切の責任は負わぬ・・・負うことができない」と通達されているだけなのだが。力関係以上の掛け値なしの不気味さがその空間を結界と化していた。
 
・・・・それが、ヨッドメロンの進退確認を厄介にさせている一因である。
 
 
だが、最大の原因は、ヨッドメロンのスタッフが”いない”、ということであり、パイロットが機体から一切24時間”降りてこない”ということに尽きた。
 
機密はそれを知る人間の数が多ければ多いほど漏れやすくなる。それを知る人間が少なければ少ないほど漏れにくくなる。隙の多いスタッフを見定めて攻撃するのが諜報活動の情報手段の一つ。だが、それがそもそも来ていなければ、攻めようがない。
 
 
そして、パイロットはどういうわけだが、一日中機体にいて、出てこない・・・。
 
 
いくら機体が好きとはいえ、中で居眠りこいてるのかもしれぬが、人間である以上腹も空けば用足しや気分転換もしたくなるだろう。だが、それなのに完全に出てこない。
艦橋中枢にはヨッドメロンに接続されたパイロットのバイタルメーターがあり、確かに生存はしている。とある港で搬入された時点でパイロットは機体の中におり、海路の途中一度たりと機体を降りることがない。かといって仮死状態や冬眠状態にあるのでもなく、秘匿回線でアバドンから指示は受け取っているらしい。ヨッドメロンは恐ろしく居住性が高いのか、それとも・・・・・。これら無制限に膨らむ想像がますますヨッドメロン格納庫を不気味な結界となさしめているわけだ。
 
いくらなんでもそれはあるまい、極秘裏に短時間降りているのではないか、とうすやかな希望めいた予想もあったが、加持リョウジの知る限り、収集した情報ではその事実はない。
機密を守るにはそれがベストの方法であり、アバドンがそれをパイロットに求めるのはある意味当然のことだろうなと、加持リョウジはため息を、つく。
 
パイロットも、”それ”を望まないのだと、したら・・・・・・・。
 
この業界がふと見せる薄い暗闇には、底がない。
いっそ真暗闇であったほうが救いがあるほどに。
 
 
艦橋中枢からリアルタイムで収集している情報からすると、ヨッドメロンに撤退の指示は出ていない。
相手がエヴァであろうと、やる気であるのか、それとも他に目的があるのか。
メジュ・ギペール式義眼。異常膨大させて神に近づこうとした人の力。
 
 
それに対して、葛城がどのような指示をエヴァに与えるのか、悲しいことに見当がつく。
最も困難な方法を選択するはずだ。逃げもせず、楽に勝利もせずに。無知のままに。
 
 
兵器人間の警備網をすり抜け、最下層に到着した加持リョウジ。
 
 
・・・・・・・空気が違う。人が呼吸する空気ではない。下界の匂いを排除する高みの。
碇ユイがすまうヒロシマの霧の山街とも、言葉にならぬ欧州の伝説、ユダロンとも異なる
人にあらざるものの呼気がひりひりと肌を震わせる。本能が退却を命じた。
ここまでにあった排気ファンやセンサー音がなくなっている。
 
きーん、と耳の奥が高鳴る。本能が退却を命じた。踏み出す足が重たい。
 
肉体の奥で滅びの笛が吹かれる。本能が退却を命じた。改造したカードが指で掴めない。鼻の奥に、何の前触れもなく広がる薔薇の匂い・・・・・部屋中に敷き詰め、閉じこめられたような・・・・・圧迫感・・・・・さほど歩いた感覚もなく格納エリアの扉の前に立っている。
 
 
ひよぅ
 
 
腹の真ん中からアゴの先まで、冷たい子供の手でふいに撫でられた感覚が走る。
感覚は続き、マスクの下の素顔を・・・・頬をぺろりぺろり、と舐めていく。
 
 
あぅあーん!
喉から胃の腑へ叫びを氷の棒にしてズシと射し込まれた。それはすぐに塊になり、膝頭へ転がりおちて砕け散る。
 
 
ピキピキピキピキピキピ・・・・
眼球の毛細血管が破裂していく。染。もう何十年も眠りを知らぬ男の目のような赤に。
 
 
キシキシキシキシキシキシキシキシキシ・・・
半身の自由が突如利かなくなる。麻痺。まるで神経回路を強制的に閉じられたように。
 
 
「引き返せよ!あんたにはムリだ!引き返すんだ!」
少年の幻影を見る。おかしなことに、それは十四の頃の自分のすがた。
両手をひろげ、十字架のように、翻意を求める、叫びながら気弱な幻影。
それは一瞬だけ、十四の頃の自分より現在は見慣れた少年の姿、碇シンジになると消えた。
 
 
「こんなところで、ロハで肝試しができるとはね・・・・・」
感覚の異常。本能が退却を命じた。だが。男は動いた。危険性ゆえに。巌のまねをする、まねをしているだけのただの女が濁流に呑まれ砕かれぬために。知らすことができれば。
指で改造カードに穴を開ける気力でふるい持つ。ここで消されれば、骨も残らぬ。
生きていれば、もっと重要な仕事ができるだろうか。喉仏が、かすかに軋む。
 
そして。
 
カードリーダーに改造カードを走らせる。GATE OPEN 扉はあまりにもあっさりと開く。
そこには、ヨッドメロンがあるはずだ。うつむきながら足を踏み入れる・・・・・アバドン、至高聖所の結界内へ。だが、加持リョウジの目に映るのは、霞の色だけ・・・・。
 
 
真っ暗闇であったほうがまだ救いがある、と思わせる、届く光をからめて消してしまう、底のない薄い闇の色が。
 
 
 

 
 
 
「一体これはどうしたことですか」
英国電気騎士団副団長としては、出来うる限りの冷静さを総動員して発言したつもりであるが、どうしてもわずかに、声に苛立ちと怒りが滲んでしまうトム・アーミッドである。
その隣には魔女・メアリー・クララタンが座り、その後ろにはケイン君が控えている。
 
 
なんとか英国より急遽勝利の秘策を持ち帰ってきたというのに、その間に状況はえらく変わってしまっている。自分の努力を評価して欲しいなどという子供じみたことは云わぬが、なんだって・・・・・こういうことになってしまっているのか。じろ、とJA連合会議室の面々を見やる。その面々の視線が、自分の隣の魔女に注がれているのは承知の上で。
 
今回の敵対勢力・MJ−301がエリックとマッドダイアモンドとの一対一の決闘から突如、数を増やしつつ挑戦してきたのは、まあ、いいだろう。悪党はその程度のことはする。ゆえに、汚辱の悪党なのだから。自然の摂理だろう。納得の範囲内だ。悪党にフェアプレー精神を期待する方がどうかしている。見張りをつけずにアメリカ人とゴルフをするようなものだ。
 
マッドダイアモンドに、加えて、SUPERロボに、ヨッドメロン・・・・・2機を加勢に出してきたのも、戦力計算は別として、まあ、順当な話だ。仕方がない・・・・・
額の髪の生え際に、手をやる電気騎士団副団長。魔女からそこに注視が移動。
 
「すまぬ。ご苦労な話だが、そういうことになってしまったのだ」
団長リチャード・ポンプマンがねぎらってはくれるが、これはそういう問題ではない。
 
悪党の汚い手に怒っても驚いても怯えても仕方がない。真正面から立ち会って切り捨て粉砕するのみ。それが、英国電気騎士団なのです!あいにく、乙女はほとんどおらんが。
 
 
「しかし、あちらは二機と一体、こちらは六機と・・・・・・二体ですか。数の上では大幅に上回っておりますが」
じろ、とU・R・Uの総裁夫妻と、大学天則の龍宮兄妹と、小型化研究所の打田野コヅチと李小光の大男二人と、甘苦愚者のレプレ代表とパレルモ副代表をじゅんぐりに見据えていく。紳士の礼儀はおさえているもののかなり威圧的だ。そして、それが別枠で数えている「2体」の特務機関ネルフ、作戦部長葛城ミサトと参号機パイロット兼、ボディガードの黒羅羅・明暗のあたりにくると、眼光は威圧そのものに変わる。相手が相手だけにあまり効果はなかったが。
 
 
「副長、云いたいことはよく分かる。なぜ、数では明らかに上回っているのに、本来ゲストであるはずのネルフの方に協力を求めねばならんのか?、ということだろう。
力の弱さゆえに辱めを受けた同じ連合の同志に手をさしのべぬのは、特に彼等が冷酷だからでも腰抜けだからではない、単に守るべき思想の違いだ。まずは我らが戦おう」
 
部下をなだめているのか、会議を荒そうとしているのかよく分からない電気騎士団長の発言である。(おいおい・・・・・)葛城ミサトだけは内心でつっこんでおいた。
だが、その他の面子はこういう物言いに慣れているので怒りはしない。
 
 
「他人に勇気を強制することほど始末に負えないことはない。・・・・・騎士団長どのが賢明な方で助かりますな」
乾いた声で、U・R・U総裁が告げる。真の実力を決して明かすことのない名門。最強の骨董品。ロボットが反逆する日を待ち続けてきた間に、血は冷め切ってしまった。
健康な暴力、の対としての、病的な堅忍。人とロボットとの壁がメルトダウンする日に、その機体ははじめて起動を許される。そもそも、JA連合などに参画すべきではなかったのかもしれない・・・・・総裁夫婦はそう考え始めている。騎士の一頭も抑えきれずにロボットを争いの道具に用いるとは・・・・・時田には幻滅させられた。所詮は彼も同じか。
一皮むけば、兵器商の顔を露わにすることだろう。本性みたり。
 
総裁夫婦はじつのところ、JTフィールドなどどうでもよかった。
 
ただ、彼の提唱開発した「同士討ち禁止装置」には心をひかれた。
 
信用するに足る人物だと、思った。ロボットを争いの道具に使わぬ高潔な理想ある男だと。
だが、この一連の展開をみるに、それはただ効率的に戦闘がやりたいだけのことだったようだ・・・・後継者であるはずの我が子ラディウスは死に、この歳になるまでU・R・Uを託せる人間を見ることはなかった。人形を操り演技をしつつ、人を求めたが、誰も 選ぶことはできなかった。だが、しかし、極東の島国で、それを見つけた、と思えた。のに。
血を拒む深く長い乾きの中で表に滲むことさえないが、もし、流せるのなら老人は涙を流したことだろう。それくらい時田氏への失望は重たく、愚かな電気の騎士には怒りがある。
世の中にはさまざまな罪があろうが、老人の未来への期待を裏切る罪はその中でも相当重いランクに入る。
綾波レイをこの場に連れてこなくてよかった。おそらく、感応してしまい、四十肩や神経痛ではすまない苦痛を感じてしまっただろう。
 
 
「そうだよ、勇気は自分の裡から絞り出すもんだよ!あたしは戦う!!あたしたちのレプレツェンをあんな目にあわされて黙ってられるもんか!!絶対に思い知らせてやる!負けるもんか!」
確かに、勇気を振り絞っているのだとわかるレプレ代表の叫び。それをロボットに伝達することができたなら。確かに、叫びのとおりになるだろう。隣にいるレプレツェンの開発責任者、おそらくショックアブソーバーに関しては世界に並ぶものがない、パレルモ副代表はその穏やかで理知的な顔をかなしく曇らせた。レプレツェンにそんな機能が搭載されていないことは彼が誰よりよく知っているから。そして、この先にはどう足掻いても吸収できそうもない実力差が立ちふさがっている。出来れば、この会議内の流れで連合の他のロボットが代わりに戦う、という話にならぬかと、一縷の望みを抱いている。
 
 
この会議の頭に時田氏・・・・正確には真田女史から告げられた、今回のイベント、決闘のプログラムはこの通り。
 
 
第一回戦・・・・・・・SUPERロボ VS 電気騎士エリック・真・JAコンビ
 
 
第二回戦・・・・・・・マッドダイアモンド VS レプレツェン
 
 
第三回戦・・・・・・・ヨッドメロン VS エヴァンゲリオン零号機
 
 
かなり変則的で、驚きの声があがった。なんでこうなのか、多少の説明が必要だった。
 
 
「完全勝利を目指している布陣・・・・・のようには見えませんね」
龍宮シンイチロウが痩せた横頬だけで笑うようにして、落とす、ようにつけ加えた。ぼとっと、椿の花のように。このような無理な組み合わせをするしかない時田氏たちの不幸が楽しいのかもしれない。
士気もへちまもありはしない。だが、その言葉を当然予想していた真田女史はすぐに切り返した。
「いえ、これはJA連合の完全勝利を期しての割り振りです」
 
 
そうかあ?・・・・・ほぼ全員が疑わしそうな目を向ける。
それをやらないのは、我関せずと今日も雷おこしをぽりぽりやりながら幼い絵を描いている龍宮ユカリくらいなもの。
エヴァ零号機の勝利を確信している葛城ミサトとて、その他のことは知ったことではないし、事の発端である戦闘ロボですらないレプレツェンが勝てる手段があるなら今後の参考にぜひレクチャーしてもらいたいくらいであった。
 
 
「ネルフさんのエヴァには実のところ、パイロットの救出、ということでお願いしてあるのです。人命尊重ということもありますが、何より戦闘ロボにパイロットは不要というのが連合の考えですので。パイロットを機体から回収できたなら、それで勝敗はついたものといたします。そして、電気騎士エリックと真・JAのタッグの理由は・・・・・」
 
 
「理由は?」
冷静、淡々、そっけない、の三拍子そろった真田女史の珍しいタメの間に一同、息をのむ。
 
 
「・・・・・後ほど詳細な資料をお配りします。真・JAにいささか改造が施してありますので画像によった方が説得力があるでしょう。一目で納得していただけると確信しております。機体は現在、ハンガー内にて最終動作チェック中ですので」
説明になっていないが、そのような状況ならばやもうえまい。それに、衆目の一致する完勝への疑問点はなんといっても第二回戦、レプレツェンなのだから。勝てるのか?
 
 
「元来、戦闘用ではないレプレツェンが純粋戦闘用のマッドダイアモンドに対抗し、これを破るにはそれ相応の技術的ブレークスルーが必要です。それに関しての詳しい説明は英国にそれを求められ帰国されたトム・アーミッド副団長にお願いしたいと思いますが」
 
”それ相応の技術的ブレークスルー”・・・・・つまりは、早い話が、「魔法」である。
英国はトム・アーミッドの自宅庭園から上野公園まで貫通させたもの。
それを知りもせず信用もせずましてや体験もしていないのに語る資格は私にはありませんと、冷然とバトンを渡す真田女史。冷静で仕事できる人物が必ずしも冷静な女性を、その振る舞いを好むとは限らない。仕方がないとはいえ、トム・アーミッドもカチンときた。
きてしまった。魔法についての説明なんぞしたくなかったこともある。
ジスレディズ!・・・・日本語に訳すと「!このアマども・・・・」となる。英語上等。
それでまあ、冒頭のセリフとなる。ループしてしまう。
 
 
 
「つまりは、魔法ですの」
 
 
比喩的な意味でも全然なく、百パーセント純粋の意味としての。魔法。
それを、白を基調としてはいるが、いかにも魔女でござい、身に纏うこれも魔女の装束でございますという女の口から出たのが問題あった。
何のためにこの場にこの女性がいるのか、明らかになったというか、なってしまったのだが・・・適当な言い回しではなかった。おもいきり不審のまなざしを浴びる。が。
それを一切問題にもせず、逆に、まるで今から食べるケーキを選ぶ少女のような顔と目つきで見返すメアリー・クララタン。じいい〜・・・・・とした視線はやがてネルフの席のところで止まる。使徒を相手にしてきた葛城ミサトもちょっちリアクションに困った。
 
 
「マッドダイアモンドとかいう、人造ダイヤの筋肉ダルマさんの装甲を一部侵すことができますの。そこから、内部にある回路や伝達コードを引きちぎり切断して、機能を停止することくらい、がんばれば弱いウサギのレプレツェンさんにもできるんじゃありませんの?邪魔な草木を伐採するのと同じことですの・・・・ウサギの足には幸運宿り、相手の油断に乗じることができるかもしれませんの」
 
 
「・・・・・・はあ、マホーですか。マホー」
武士の情け、人の仁義として、仕方なくリアクションを買って出てみた葛城ミサト。
もうあまり時間はない、ここで互いの無力無能をせめぎ合う内輪もめをされても時間の無駄だ。まあ、ネルフ内部でこんなことを云おうもんなら・・・・・だが。これがJA連合の底力ですか。だめだ、こりゃ。・・・・ただ、戦術的には正しい。”技術的ブレークスルー”が伴い実現するならば、だけどね。
 
 
「錬金術の秘義を用いなくとも、化け学で日本酒から人造ダイヤを造れる大学教授もいらっしゃいますの。そう不思議なことではありませんの。わたしどもマーリンズの認定では第八現魔象レベルですの・・・・・・それはまあ、よろしいとして」
 
あまりよろしくもなかろうが、どうせ詳しく魔法の講義をされても分からないし理解も納得する気もない。この魔女を連れてきたのは電気騎士団副団長なのだから、その責任において事に当たって勝利してもらえばいいのだが。よかったのだが。
 
 
「はじめに伺ったお話では、電気騎士エリックと無法乱入、悪漢ロボット・マッドダイアモンドとの決闘ということだったのですけれど」
状況が変化している。トム・アーミッドが帰国してみれば、なぜかマッドダイアモンドと戦うのはやられた当人、レプレツェンということになっている。非力な乙女のかわりに、敢然と悪漢と代理決闘する、というのが当初のストーリーで、そのつもりで副団長は恥を忍んで秘策を購じてきたのだ。非力な乙女が自らの拳で非道の悪漢と戦う・・・・・それはそれで拍手をおくるべき事態なのかもしれないが・・・・・・納得できるわけもない。
 
そして、それは助力を受ける側・・・・・・レプレツェンも同じこと。
同じヨーロッパ勢とはいえ、いきなり「魔法」と云われて、はいそうですか、と納得できるわけもない。甘苦愚者は自然保護団体であり、基本的にアウトドアであり、インドアの究極のような、魔法なんぞ肌にあうわけがなく、拒絶反応がでる。
 
 
「ふざけないでよっっ!!」自分たちの非力さは分かってはいるが、これは侮辱である、とレプレ代表は思った。なにが魔法だ。てきとうな催眠術がロボットに通用するもんか!真っ赤になってテーブルを叩いた。あまりの屈辱に興奮し、涙が溢れてきた。
JA連合の立場や威信など知ったことではないが、なんの秘策もなしにあのマッドダイアモンドとやりあえば。今度こそグシャグシャのコナゴナのスクラップに愛機レプレツェンがされてしまうことを想えば、悔しくて悲しくてしょうがない・・・・・。
 
「レプレ・・・・・あ、すみません。代表が興奮していますので、わたくしが」
隣のパレルモ副代表が、レプレをなだめつつ発言を代わった。
「皆さんの助力のお気持ちはもちろん、有り難いのですが、少し表現が・・・・わたくしたちはまだ連合に参加して日が浅いものですから、隠語というか、独特の言い回しはもう少し・・・・くだいて話していただきたいのです。技術的ブレークスルーというのは一体・・・・」
それが悪いかどうかは別として、この場にいる者で最も精神年齢が低いのが彼女であろう。
我が儘というか純粋というか自然というか、誰からも好かれそうな眼鏡の好青年、パレルモ副代表は”荒々しい自然”を相手にいつも苦労しているのであった。トム・アーミッドといい、組織はナンバー2で決まる、とはよくいったものだ。そして。
 
 
ここで答える人間、答えるべき人間は決まっている。他の人間が口をはさめば話はまたループする。そして、そんなのんきな時間は彼等にはないはずなのだ。
自然、注目が一人の人物に集束する。
 
 
ここは連合の長である、時田氏がビシッと決めてやるしかない。
少々、マホーのことなど専門外であってもだ。立場のある者のつらいところだ。
えらいはつらいよ〜時田シロウさざんかの歌
 
 
「えー・・・・・・あ〜・・・・・・・・ま、魔法とはですね・・・・・・」
時田氏は本番に弱いタイプではない。社長として、でまかせも適当話もつき慣れている。
熟練の舌があるはずなのだが、それでもこれはきつい。時田氏だっていい歳した常識の国のひとなのだ。テーブルの各自、時田氏の次のセリフを待っている。中には葛城ミサトやメアリー・クララタンのように露骨に興味深そうに見ているのもいる。ひどい。
 
・・・・こんなところでつまづいているわけにはいかんのに。助けてカミタマン!
 
もちろん、冷血でならした真田女史の援護射撃は期待できそうにない。
 
 
そのとき。
 
 
ぷしゅっ、黒羅羅明暗の獣じみた鋭い聴覚でやっととらえられるほどかすかなガス銃の発射音が。殺気がないので弾道位置の特定まではおよばない。だが、急に・・・・・
 
 
かっくん
 
 
時田氏の首が折れた。骨ではなく、方向である。急に突然、うつむいて、瞼は閉じ気味に。手の方も妙な感じで硬直して、アゴではなく、鼻をこぶしで支えている。あれでは痛いだろうに・・・・ブタ鼻気味になる。どういうつもりか不明だが、かなりアホなポーズだ。
 
 
明暗の目が細められる。圧倒的優勢にもかかわらず、向こうが暗殺者を送り込んできた・・・・・わけでもなさそうだ。会議室とその周辺に気を巡らすと、狙撃者の位置が分かった。こんなところにいたのか・・・・・何気ない動きでテーブルの下をちらりと見て。
何も云わずに元に戻る。「どしたの、明暗」「いやあ、なんでも」
 
 
 
「・・・・ここでいう魔法とは、」
 
時田氏が発言しはじめた。ポーズはそのままだ。何かよくないものが時田氏の脳内に降臨してそのままくっちゃべりはじめたかのよーな印象を与える。だが、口が動いているのかどうかうつむき加減のせいでよく見えない。
 
 
「弱っちい自分の身の程も知らずにキャンキャン吼えたてるだけは一丁前の信じられないくらいに鈍感な小娘が、同じくらい鈍重でよく世間にその姿をさらせるわねと思っちゃうくらい絵に描いたようなやられ役悪の子分D、クラスの装甲デブロボに、踝がいいのと尻が軽いのと手先が器用なのだけがとりえの貧弱ロボで、そりゃもう・・・・・
ラベルが違う絶対万能科学の力で勝っちゃう勝ってしまう・・・・といっても、ちょいとチョバムアーマーをたくさんつけたボスボロットにダイアナンが勝つ程度のことかもしれないんだけどさ・・・・・ってえゆー、嬉しはずかしロボットアニメみたいな展開にならざるを得ないってことなのよ!!
分かった!!?」
 
 
 
しーん・・・・・・・・・・・・・・・・・
碇シンジがラングレーもろともに身投げした海など問題にならぬ深度の、深海魚がはい回る、提灯アンコウの呟きしか聞こえない、ナマコたちの沈黙。ひきまくり。
 
 
 
さすがにこれには、真田女史の顔色さえ変わった。「あの・・・・」
(おいおい・・・・)トップのくせに逆ギレであろうか。JA連合崩壊の秒読みをしてあげる葛城ミサト。全てにおいてつっこめるがゆえに無言。わーん、つー、すりー・・・・
 
 
 
「・・・・・って、あのおっさんが言ってましたよ」
人格の全てを放棄したかのような軽やかさで、時田氏は。指さすわけではないが、微妙に歪んだ顔の角度の視線の先にはU・R・U総裁が。
 
 
理想の終焉、連合崩壊、時田氏発狂
 
 
ぐるぐるとそれらの言葉が手に手をとって会議席上で踊り出す。ぼくらはみんないきている。「悲しい色やねん・・・・・」葛城ミサトがつぶやいた。だが。
 
 
「最後の機会なんだよ」
声のトーンが急におちて、真剣味と悲壮感、それ以上に迫力を帯びたものに化ける。
誰の耳も惹きつけずにおかない、子供のような大人のような世界中の何者より大真剣な声。
 
「子供を使徒と戦わせる、エヴァがのさばるこの異常事態を終結させるこれが最後の機会。今回の一件に噛まない、噛めなかった組織はもう使徒撃滅業界からは徹底するしかない。メインの舞台で主戦力として立つ階段はここしかない。あとは客席で見ているか、袖で援護の裏方をやるしかない」
 
今回の「救出」で、時田氏の大義の片翼をもぎとった気でいた葛城ミサトの顔が引きつる。
あくまで、こっちの下につく気はないってわけね・・・・・・だけど、好都合かも。
こっちが今回、叩き潰す、いやさ埋めてしまいたかった流れ、使徒エヴァ対抗可能論を満たし溢れてくる井戸が目の前に現れようとしている・・・・・・
 
「傍観していても、事態は進んでいき、あんたたちの望みも考えもしない終末を迎えることになる、それでもかまわないならぼさーっと意志も何もなくまさしくあんたたちの好きなロボットみたいに黙って座ってればいい。ただ、あんたたちの手にはこのバカが渡しちまった、JTフィールドという、舞台に上がれる役柄がある。それ欲しさに群がってくるバカどもによこせと言われて素直に渡すのもよし、判断決めかねてオタオタしてるうちに皮ごと剥がされちまうのもよし、好きにするがいい。ただ、これは本当に”最後の機会”だからね。鵜の目鷹の目で死に物狂いで群がってくるはずだ。単独でそれをはね除ける力がある、と思う奴は今スグに連合を脱退してください・・・っていうかしろ。
そろそろ薄々感じているんだろうけど、今回のMJ−301なんてバカまるだしの毛皮の下には666の獣よりもタチの悪いバケモノが潜んでる。この三連戦のスグ後に投入できるようタイミングを見計らってる小ズルいのが海の向こうにいる」
 
 
海の向こうってことはウチじゃないわけだ。顔には出さぬものの、葛城ミサトは情報収集の甘さに臍を噛んだ。奇怪なポーズをとりながらも時田発言は正論だ。ただ、なんか随所随所がオカマっぽいが・・・・・あんたたちって。
 
 
チョビ髭をはやしながらも、あまりカリスマ性のない時田氏の身体が何倍も大きく見える。
「・・・・・・・」
会議出席者たちはかつてないほどに圧倒されていた。その中で、リチャード・ポンプマン唯一人が満足げに大きくうなづいている。鷹揚な彼は少々口調がおすピー系でも気にしない。
 
 
「MJ−301の旗艦、”クトゥールフ”。この中に知っての通り、マッドダイアモンド、SUPERロボ、ヨッドメロンの二機と一体の他に、フランスは「地底の鉄管より朝は手を上げる」、ロシアは「人影のない戦場」、ブラジルは「殺人光線・(ヴァニッシングシャドウ)」、が控えてる」
 
 
「・・・・・・・・」U・R・U総裁の顔に初めて乾き以外の感情がわずかに表に出る。
あえて言うなら、飼い犬に手を噛まれたような悔恨か。その隠れ三体の開発者は元・U・R・Uの優秀なメンバーであるのだから。
 
 
「その他、もうちょい離れた海域に香港の独自所有する空母”赤壁”に積み込まれている中華思想ロボ「先攻者」、と」
 
 
「・・・・・・・・・・」アレが映像になって皆の前に映し出されなくてよくてよかった・・・とてもよかった。能力はともかくとして、アレは外見がアレすぎる。李・小光は胸をなで下ろした・・・・ところで明暗と目があった。同病相憐。
 
 
「戦略自衛隊の海陸両用の新型トライデントがうねうね泳いでるし」
 
 
「え・・・・・ゲン兄ちゃんがせっけいした・・・・・むぐ」
今まで我関せずに幼いイラストを描いていた龍宮ユカリがとんきょうに反応したところで大慌てで血相変えた兄のシンイチロウがその口をふさいだ。「な、何をいってるんだ・・・・・余計な事を言うんじゃないよ・・・わかったか、わかったか」「うん・・・・・」
 
 
時田発言は見えない鉈をふるったように、会議席上に不可視の血しぶきをあげていく。
 
 
「八連敗でも二軍農場おちもせずこうして偉そうにふんぞり返ってる無駄飯くらいっぽい電気騎士エリックも真・JAがコンビを組んでるからには天地が逆さになっても負けることはないし、場違い以外のなんでもないレプレツェンも仕方がないから勝たせてあげる・・・・・人造人間なんか出る幕のない機械、ロボットの、ロボットによる、ロボットのためのATフィールド・・・・・”絶対機械圏・マシンナーズエリア”を発動させてね。ふふん・・・・・ああ、こりゃちょっと口がすべったかな」
 
 
「ああっ!」真田女史が何か思い立った、これで判明した、といった声をあげた。
変声機でも使っているのか、声は確かに時田氏の声なのだ。口調がキモいが。
「あの娘・・・・・・!どこにいるの・・・・・いえ、ああ・・・・なんでもありません」
狼狽えはしないものの、肩がわずかにビリリと震える。声の主の居場所は明暗が知る。
そして、明暗はもう少しその話に耳を傾ける気でいる。
 
 
「ただ・・・・ヨッドメロン戦だけはネルフのエヴァに任して正解だったわね。これだけはもう勝ち負け関係ないわ。好きにやらせればいいし、何より関わるべきじゃない」
 
 
「・・・・どういうことかしら。その言いよう。あまりに無責任すぎやしませんか、”時田さん”」
どうもおかしいとおもったが、二人羽織というか腹話術というか、時田氏の身体をつかって他の誰かがしゃべっているのだ。ただ、話の内容が出任せのガセでないなら相当の事情通だ。連合内において真田女史以上にそんな人物がいるなんて・・・・・これもまた情報収集の怠りのツケである。相手にするべきでないかもしれないが、言われっぱなしは性にあわない。強面の軍人ヅラをかぶって般若の牙をむいてみせる葛城ミサト。
 
 
「・・・・相手が悪いってことよ。ヨッドメロンクラスの機体がこんな下界の祭りに出てくることはありえない。どんなアバドンが嫉妬ジェラシーにトチ狂ったとしてもね。元来、というか永久に至高聖所に安置しておくべき機体だからね。下界の人間がその目で拝めるのはある意味ラッキーかもしれない。・・・・そのレアな機体が下界に下されたのはどうしてか?しかも相手がネルフのエヴァンゲリオンであるというのに?未だに引かない理由は?考えられる理由はいろいろあるけれど・・・・一番、確率が高いのは・・・・手に負えなくなって”廃棄”したってことでしょうね。おそらくはエヴァに破壊してほしいのよ、だから下界に打ち捨てた・・・・まあ、あくまで確率だけど・・・・雲の上の連中はロボットなんか粗大ゴミくらいにしか思ってないから・・・・・夢の島の廃品回収かしらね・・・・・そんな奴とやりあったってミソをつけるだけ。ケガしちゃつまんないわ・・・・
 
 
 
どぐざんっっ
 
 
人の手で百年殴り続けても凹むくらいがせいぜいであろう、象が乗っても壊れないJA連合会議強化頑丈テーブルが突如、六つに分裂した。やったのは明暗である。どうやればこんなになるかは凡人が千年考えても分からない。南斗水鳥拳かもしれない。
 
割れ目から、一人の小さな少女が、オレンジの髪をした、白い作業着の、「・・・・どこかで見たような・・・・あの目つき」葛城ミサトのいう、口の周りに機械めいたマスクをはめている、のが現れた。時田氏は麻酔針でも撃ち込まれていたらしく、テーブルの分裂にそって身体が流れた結果、妖しい神に伏せ祈っているようなイヤーンな体勢に。
 
 
・・・・ばれたか。まあ、知能指数が80きってないなら普通気づくわよね。」
しかし、変声機のせいか、少女の外見でも時田氏の声なのでちょっと不気味だ。
 
 
「どなたですの?」
会議当初は自分がそう言う目で見られていたのだから、今度の新入りにそう呼びかける資格はあるだろう、と考えたのか、メアリー・クララタンが問うた。
 
 
「ふふふ・・・・あたし?あたしはね・・・・」
明暗のテーブル破壊にびびりもしない。これも予定通りの登場演出だったのだという顔をして小さな胸をはる。魔法と言えば、この少女も魔女の一種ではないか。普通の人間ではない。その名を語るのを一同が待っている・・・・だが。
 
 
「そんなことはどうでもいいんだよ、このババア」
 
明暗が一言のもとに切り捨て。しかも、老婆呼ばわり。なにか含みがあるらしい。
 
「なっ!?に・・・」
 
「そのヨッドメロンとやり合うのがオレなら笑って聞いてもやるが、あいにくここには不在いのがそのゴミ当番の貧乏くじ引いてんだ。推理は面白く聞かせてもらったがなあ・・・・・・ここに同席してても黙って何も言わずにいただろうよ。
 
 
代わりに、てめえらどいつもこいつも・・・・片端から一発ずつ殴ってやる」
 
 
確かにものには言いようがある。いくら知能指数が高くてもそれは心の問題であるからあまり関係がない。
 
 
「明暗。・・・場所を考えなさい」葛城ミサトとて頭にこないわけではないが、止めぬわけにもいかない。碇シンジくらいの技と力なら、時田氏と大男二人を殴るくらいなら放っておくかもしれないが、なんせ明暗である。このテーブルの有様である。素手である。
 
 
「けえ。おもしろい・・・・やろうっての?このガキンチョが」
だが、明暗に凄まれてもオレンジの髪の少女はまるで怯みもしない。それどころか好戦的に挑発的に歯をむいてファイティングポーズをとりさえした。
 
「大人の会議の礼儀を”撃ち込んで”やろうじゃないの・・・・・・」
何か武器を携帯しているかもしれない・・・・葛城ミサトは一瞬、そう思ったが、なんせ手足のリーチがあるし距離も近い。10日後にはホルモン異常で死んでしまうような強烈強化ドーピングでも施していない生の人間が何しようが明暗に勝てる状況ではない。
 
 
たたたた・・・・・・
 
 
なのに、言葉とはうらはらに、ドアにむかって走り去るオレンジ髪の少女。
言うだけ言って扉を開けてとんずらか、やはり・・・・・と皆が思ったがそうではない。
 
 
そこには人が立っていた。それも見知らぬ部外者。電気騎士団の警護の姿がない。
魔女の次には、オレンジの髪の腹話術少女、その次に何がくるかといえば・・・
 
 
「やれ!やれやれ!やっちまえ!!この年長者への礼儀を知らない北京黒毛猿の脳天をぶち抜いておしまい!!あんたもプロの武器商人ならそれくらいサービスしなさいよ」
ささっと、その人物の後ろに隠れると、とんでもないサービスを要求するオレンジ髪の少女。
 
「無茶言われても困るぜ。ウチは殺し屋じゃあないんでな・・・・」
声の渋みと言い、重みといい、絶妙に混じったイガラっぽさといい、ワイルドボイルドな雰囲気を漂わせたその人物・・・・・殺気を実物に形象できるなら刃渡り二メートル超の青龍刀にでもなるだろう明暗のそれに対して臆することなく、余裕で立ち向かう胆力。
歳のほどは60をすぎているだろうか。だが、眼光は鋭く、覇気は強く身に匂う。
 
惜しむらくは、その体型。シルエットである。
 
流線型の弾丸を想像してもらいたい。それを多少ズングリさせて、そこに短い手足をくっつけて、丸くて重たそうな安全ブーツをはかせて、ワインレッドの工房服に、どういうわけか下着に鎖帷子。首には鈍く光る金属製のような首輪。そのうえに、赤いサングラスをかけた弾頭であるところの先のとがった流線型の頭があり、葉巻の代わりになんと、ライフルの弾丸をくわえている。ちなみに、国籍も血筋も日本人ではない。
この人物の職業を当てるクイズがあるとしたら、百人の内、九十人が「銃の弾丸屋」と答えることだろう。そして、それは八割方あたっている。ただ、その太くて丸い腰に巻かれたベルトには銃らしきものは下がっていない。これでどうやって脳天を撃ち抜くのか?。
 
「あの男は・・・・・!」自分とこの警備が打ち倒されて怒りに燃えてもいいはずの電気騎士団副団長の顔色が変わる。
「世界に二人しかいない魔弾製造師・・・・・・”撃鉄の舌(ハンマータン)”」
 
明暗の動きが止まる。この男を通過して背後のオレンジ髪をぶん殴ることは不可能。
一戦交えるならまだしも・・・・・だが、この男は何も言うてないし無関係だ。
というより、果たして何関係か。まさか不利な方に武器を売りにきたわけでも。
 
「ただちょいと指のサイズの計測をさせてもらおうと思って来ただけの話だ。・・・
ここまでの道案内には感謝するがな。
あんたが、カツラギ・ミサトか」
 
「え?ええ・・・・・」突如、出現したこの謎の弾丸型オヤジにマイペースに呼びかけられて驚く葛城ミサト。な、なんであたし?
 
「惣流・アスカ・ラングレーから巨人サイズの銃器の注文を受けたファントム・オブ・インフェルノ社のC・H・コーンフェイドだが、仕様書通りには鋳造したんだが、実物を見ないことには今ひとつイメージが掴めないんでな。二流品を注文主に届けるわけにもいかんので、エヴァとやら巨人を直接計測させてもらいたい」
 
「はあ?アスカが?自分で銃の注文を?なんかの間違いでは・・・・」
 
「注文主はラングレーだ。モノは持ってきている。一握りして試射してもらえば十分だ」
葛城ミサトの戸惑いなどお構いなくてめえ好みに進めていこうとする強引グマイウェイ。
日本語に訳すと、我田引水。アメリケ人がでてくると翻訳をせねばならないから大変。
 
「え・・・・でもねえ・・・・・」
JA連合の面々のツラを拝むに、これはビックリカメラでその気になって応対したところを笑ってやろうというヒマなことではないらしい・・・・。じゃあ、アスカが本当に・・・・に、してもどうやって?通信販売で高級シャンプーを頼んだのとはワケが違う。
小遣い銭で注文できるブツじゃないでしょ。かといって、即座に断るには、あまりにも厳然と存在しすぎている。ささっと流して後回しにできる貫禄ではない。
 
 
「早く決めてくれ。この後もあんたたちの決闘相手とビジネスがあるんでな」
 
こんなこと言うてはるし〜・・・・・・って、え?
 
「こっちの決闘相手とビジネス?MJ−301の連中になんか売るんですか」
 
「注文があれば売る。それがウチの仕事だからな。ウチの製品は優秀だからな、命中したらジ・最後だ。せいぜい的から外れるようにしろ・・・・で、どうする」
あと何十秒、と時間を区切られたようで焦る葛城ミサト。それが利益になるかどうかも分からないが、損になるとも限らない。
 
「よし!じゃあなんか特別サービスしてくれるってことで!よろしく!」
悩んで一転、コーンフェイドの懐、赤いサングラスのギリギリまで顔を寄せて一丁、ウインク敬礼してみせる葛城ミサト。その素早さはまさに稲妻。いつ新妻になっても大丈夫。
 
 
BANG!
 
 
葛城稲妻にふいをつかれた衝撃か、ライフル弾丸がコーンフェイドの口から発射されて葛城ミサトの頬を衝撃波がかすめて壁に撃ち込まれた・・・・・・あと少しずれていたら
 
「熱っ」ではすまなかったはずだ。葛城ミサト享年29歳、第二東京にてよくわからんうちに撃たれて散る、というハメに。しーん・・・・・・静まり返る会議室。もうなんでもありである。・・・「大丈夫か?葛城の姉貴」明暗が駆け寄る。「あ、ええ・・・・」
 
 
「悪い。舌がすべって弾丸に当たってしまったようだ。詫びとして、サービス魔弾を一つ付属けてやろう・・・」
どういう構造の舌なのか、C・H・コーンフェイドは「撃鉄の舌を持つ男」としてその筋では有名な人物だった。金属の首輪もこの衝撃を緩和するためであり、その楽ちん高速射撃法の前に敵はなし。早撃ち勝負をやれば負けたためしがなかった。唯一の例外はラングレーの父親だけだ。ついでに余計な話をすると、この撃鉄の舌による強烈で熱すぎるキスの力で若い頃はそりゃもう女なんぞヴイヴイヴイのヴイ、てなものであった。しかし、唯一の例外として、逆にドロドロに溶かされたこともあった。惣流キョウコである。
そして、本日、もう一つの例外パターンが出来上がる。ワナワナと震えたワナキアの夜を体現するネルフの作戦部長、29歳独身女性に対して。
 
 
葛城ミサトの我を忘れた怒りのハンマーパンチがめりこむほど顔面に。
「・・死に」
あまりの威力に半分ほど使用したマヨネーズのポリチューブのように変形する!ブニョ
「さら・・・・・」
結局、明暗の代わりに、しかも話に全然関係ない相手をぶん殴っていれば世話はない。
「せえーーーーーーーーーー!!」
敬老精神もはりまや橋もなく、その威力のままに会議室からぶっ飛ばされるC・H・コーンフェイド。オレンジ髪の少女をふくめた一同、ビビって声もでない。さすがの貫目。
 
 
「あー、先ほどお聞きになられたかくの通りの事情により、特務機関ネルフはこのまま会議を退出させてもらいますので。皆さんの健闘をお祈りします。では、戦場で」
倒れた老人の衿をひっつかんでそのまま引きずって行ってしまう葛城ミサト。
 
「・・・なんとか生きてるな・・・にしてもひでえ。惨殺一歩手前だ」
楽しさと苦笑いをいっしょくたにした顔をした明暗がその後をついていく。
 
 
 
荒れるだけ荒れに荒れたJA連合決闘対策最終会議はこうして終了した。
かろうじて、麻酔から覚めた時田氏が終了の挨拶だけはしたのだが・・・・・
結束どころか、バタークッキーをメンコ代わりにしたような結果になった。
事態は彼等が想定しているより、巨大化しており、その傾向は拡大する。
 
 
 
 
人の手には届かない高みから、戦いを励まし増長させる歌を歌うものがいるから。
その神聖な歌を止められるものはない。第十三使徒バルディエル。最強の幻想を讃える。
モトメヨ サラバアタエラレン まずは参加費として、人の心の映す、心のすく破壊の光景を。バルディエルには見える。戦力計算しつくした上で出現する戦闘の連鎖ルートが。
 
 
電気騎士エリックは真・JAの助力虚しくSUPERロボのナショナルパトリオットクリプトンボンバーで破壊され
 
 
レプレツェンはウサギが満足を知らぬ欲深の猟師の前に出てきたように敵ともならぬ単なる獲物。陵辱にちかいような蹂躙、そして自慢のしなやかな美脚を両手で持ち上げられて尻から真っ二つに裂かれ
 
 
教え子の反逆に我慢ならぬわずかに残った脆き人の情け、絶対の規律、機械の堅忍を破った時点で敗北が決定したU・R・Uは己の目の前を流れ去った時代の速度を思い知り、耐えていた錆と劣化の風雪に一気に呑み込まれ
 
 
己の留守の間に研究所を脱税の因縁つけた強制捜索、それによって得られた人型サイズの最新型「レギミ」の頭部を盗用された怒りとともに「先攻者」内部に乗り込み奪還を計る姉機オリビアだがそれを果たせず、逆にとっつかまって獄に入れられ
 
 
機械と霊との融合の神夢を見る才能、高野参ゲンが設計した戦略自衛隊新型トライデント”あやかし”の出現は、龍宮兄妹の忌まわしい過去を蘇らせ、現在に接続させる。神国日本の事情もへちまもなく歪んだ仮面をかなぐり捨ててドス赤い血を沸騰させて大学天則で怨念を晴らそうとする龍宮シンイチロウだが、妹にそれを狂刀でもって止められる「だってわたし、ゲン兄ちゃんのおよめさんなんだもん」
 
 
 
そして、エヴァ零号機と、ヨッドメロンは・・・・・
 
 
 
「これは、あとの楽しみにとっておこうか・・・・ふふふ」
バルディエルは手を一振りして、指の数を七つに増やすと、傍らにある特製の弦楽器を奏で始めた。それにあわせて、歌い出す。聞いたなら、戦わずにおれない戦の歌を。
 
 
こんなもんを、戦場に立つ前から会議場ですでにケンカばかりやらかす者たちが聞けば、たまったもんではない。