絵に描いたような悪党の悪あがき攻撃で、誰かが犠牲になりそうな時。
そんなとき、必ずといっていいほどに、正義の味方、とはいわねども手すきの誰かが
大急ぎの間一髪で助けてくれる!!やったー!!悪党めザメミロ!!貴様たちの思いとおりになるものか!!・・・・・・というのが物語の王道的展開でありお約束なのだが
 
 
配置人員というものがある。
 
 
自分のことで手一杯な人間は、他人を助けることはできない。手一杯の荷物を放り出す前にすでに悪あがき攻撃は、犠牲をだして事を成し終えてしまっている。もちろん、悪党の悪あがきを正面切ってはねのける実力がないとそもそもお話にならないのはいうまでもない。
 
 
お約束だから、そうであってほしい、というのは人の夢だが、夢は現実の設定重力を振り切らないといつまでたっても飛べずにそのまま地に這いつくばるしかない・・・・。
現実に夢が組み伏せられてしまうか、夢が現実を馬乗りにしてしまうか。
それはひとえに、配置人員の問題をクリアできるかどうかにかかっている。
人が、”その時にどこにいるか”は、だからとても重要なのだ。どんなに優秀な機能をもっていても、ナイスな位置取りができない輩はボンクラ呼ばわりされても文句は言えない。
 
 
リチャード・ポンプマンがミサイルの爆炎に焼かれ、レーザーの殺人光に命を貫かれる前に配置人員の問題を検証をしておきましょう。
 
 
まずは、最も現地に近く、その力ももちあわせている、電気騎士エリックと真・JAの騎馬モードの二機。なんとか必死で主人の騎士を守ろうと奮闘中ですが、いかんせん騎馬体型の体躯の大きさからどうしても防御の隙間ができてしまいます。真・JAが本来の技を使えぬ配置にあったのも悔やまれます。現在コントロールしている真田女史が技術者ではあるが、戦士ではないという反射の遅れも響いています。よしんば、時田氏がコントロールしていても、攻撃を全てうち払う<ストナー・サンライズ>のような超大技ではリチャード・ポンプマンを巻き込んでしまうでしょう。
 
・・・・・彼らでは騎士団長を救えません。
 
 
次に、英国電気騎士団の皆さん。自分たちの団長を救うのだから全知全能を振り絞っても惜しくはないし、副団長トム・アーミッド以下全員がそうしたかったことでしょう。
しかし、機動力が足りない。着弾地点に駆け寄ろうとした時にすでに悪の攻撃は団長を破壊しています。唯一、団長と同じくサイボーグ馬をもつ奥方、エミハ・磁光・ポンプマンならば・・・疾風の愛の力でなんとかできたなら、まさに騎士物語のようで素敵なのですが、いかんせん、ファンたム社の拘束という任務を葛城ミサトから頼まれているために監視のために一歩も動けず。また、これといった防御策がない以上、高性能ホーミングミサイル攻撃から守りきれるはずもなく助けにいった者まで巻き込まれて死亡間違いなし。
 
 
時田氏・・・・・は、ただ叫ぶだけ。「リチャード・カムバーック!」ちょっと意味不明にしてかなり頼りにならない。
 
 
四人の綾波者・・・・も、危険がないのであれば助けるだろうが、悪を防ぐ騎士の盾になるというモストデンジャラス行動となれば、そこまでやる義理もなければ恩もない。リスクが高すぎる。何より小心なチンが飛行衝動を発動させるには距離がありすぎるし、展開も早すぎるし、さっき自分たちが逃げるので使い果たして体力もなかった。
 
 
パワーアップ改造が施されたレプレツェンが颯爽と・・・・・・現れて!なんとかすればもはやいうことはないのだが、いかんせんまだ格納庫で調整を行っていた。この期に及んでレプレ代表とドクロタワーから偉そうに改造指示を下すオレンジ髪の少女とが大喧嘩を始めたというのだからもはや救いようがない・・・小学校の学級会レベル・・・・魔女メアリー・クララタンとトム・アーミッドがなだめていたが、団長の絶体絶命のピンチにブチ切れた副団長が言い争おうレプレ代表とオレンジ髪の少女が驚いて泣き出すほどの怒鳴り声をあげてなんとか鎮めたが、時既に遅し、というか遅すぎ。
 
 
連合所属の他の機体、U・R・Uは微動だにせず、逃げてしまった人型サイズ、オリビアと大学天測は言うまでもない。なんせ決闘の現場にすら。
 
 
やはり、ここはネルフのエヴァしかいない!!分かり切っていたことかもしれないが。
葛城ミサトの当初の予想通りだ。・・・・・・当初の。
 
 
現状は、参号機は左腕爆破切断状態、急速に自己修復中とはいえいまだ再連結すらしていない。おまけに、パイロットの黒羅羅明暗は神経にかなりのダメージを受けた様子で人格の入れ替えを宣言する非常状態。残るは・・・・・・
 
 
綾波レイの零号機しかない・・・・・。
 
 
だが、こちらも<魔弾>の誤射撃により、自滅。とても他人を救える精神状態ではない。
できるものなら、今スグに第三新東京市の自分の家に戻って鍵をかけて壁に向かって寝てしまい閉じこもってしまいたかっただろう。失敗だのミスだのいうのも生やさしい真似をしでかしてしまったのだから・・・・・信じられないほど愚かな自分・・・・神経接続されているエヴァはパイロットの精神にダイレクトに反応する。パイロットにやる気がなければ、エヴァもまた同じく。自動的に目の前の悪の餌食を救出したりしない。
ただの、木偶人形と化すのみ。
 
 
・・・・・詳しく検証してみたが、これだけである。
配置人員が、リチャード・ポンプマンを救出できる人員がどこにも配置されていない。
 
UBダイアモンドは笑うしかない。いろいろ驚くことはあったが、最後は自分の思い通りになるのだから。騎士団長を手にかける罪科さえ、SUPERロボになすりつけることができたのだから気にかけることはなにもない。恨むなら、連中を恨むがいい。
 
 
配置人員がいない以上、神様でも彼を救うことは出来ない。
絵に描いたような悪党の悪あがき攻撃を、止めることができない。
止める人間がいないからである。・・・・・となれば、電気騎士団長は、爆炎と殺光に呑み込まれて不帰の人になるほかあるまい・・・・・・誰が悪いわけでもない、ただ、悪党が悪いだけである。だが・・・・・・・・・検証に誤りはなかっただろうか?
 
人間はどうしても誤りをおかすものである。ちうちうくれくれたこかいな・・・・少し前に戻って、もう一度数えてみよう
 
 
 
「ATふぃーるどノ起動ヲ願イマス 」
 
 
自我を溶かしていくようなソーダ水自閉自問モードに入り込んでいる綾波レイに涼やかな女性機械音声が届いた。今度は魔性の声などではない。歴とした電気回線を通した直通電話だ。
それにしても、カクカクというかロボロボというか無感情きわまりない声。
 
 
「だれ・・・・・?」
これで騙されたら今度は自我崩壊する。LCLを震わせて弱々しく問う綾波レイ。
モニターで見てみると、零号機の肩の上に宇宙服を着たような人型がいる。
 
 
「小型化研究所・所属・人型さいず・おりびあ デス。ろぼっと三原則 第一条ニ従イ、
英国電気騎士団・りちゃーど・ぽんぷまん団長ノ 救出行動ニ ハイリマス」
 
 
「え・・・・?」
驚きは沈みゆく魂を浮上させる。なんで、ここにこのロボットがいて、こんなことを自分に言っているのだろうか・・・・・驚きは戸惑いにかわる。自責を一瞬、停止させる。
 
 
「ろぼっと三原則 第三条ニ従イ、自己ノ存続ニ努メマス ATふぃーるどノ起動ヲ願イマス ソノ後 JTふぃーるどヲ発生、エヴァ零号機ふぃーるどヲ反転サセ おりびあノ防御ニ使用シマス ソノ後 戦闘現場ニ 突入 騎士団長ヲ 救出 シマス」
 
 
ロボット三原則 第一条というのは、ロボットは人間に危害を加えてはいけない、また人間が危害を受けるのを見過ごしてはならない、というものだが・・・・・・
確かに、状況はその通りになっている。けれど・・・・
 
 
「早ク シテクダサイ 騎士団長ガ 危険デス」
 
 
ロボットらしく迷いも躊躇も認めてくれない。これ以上ないほどに明確に急かす。日常生活にあったらけっこうむかつくかもしれない。だが、ロボットの言いなりにATフィールドを発動させてよいものか。フィールドを奪ったら逆に襲いかかってくる気なんじゃあるまいか・・・・しかも、あの位置はエントリープラグの延髄まですぐそこで、その気になれば攻撃を加えることもできる。こっちは・・・・自分の首をへし折りそうでちょっと攻撃できそうもない。・・・・・これもなにか、とてつもない大失敗へのプロムナードなのではないか・・・・遂先ほどやらかしたことがあるので、チンの小心がうつったかのように恐れ、怯える綾波レイ。だが、時間はない。ロボットが自分の身が危ないのでATフィールドを使わせてくれい、と来ているほどなのに、人間の身でロボットがガチンコしようという現場すぐそばに立つのはまさに自殺行為。すぐさま力づくでも現場から引き離さないと死ぬかもしれない。その危険性は高すぎる。
 
 
だが、それでも・・・・・綾波レイの萎えた気力が震いたたない・・・・・
 
 
しくじりを情のゆえにやらかしたすぐ後で、またもう一度、情のゆえに動け、というのは、熱血成分が高い人間でもかなり難しいが、それを綾波レイがやれというのは・・・・
できれば、動きたくない。手足が固まって動けない。後悔が血流を煮凝りのようにしてしまう。苦痛を減らす為に脳は麻痺成分を分泌させて精神の感受性を鈍くする。少しでも受ける苦悩を和らげるため、背を低くして隠れていたいのだ。ロボットにそんなことを言うてもわかるわけはないが・・・・・・。まだ、強制的に命令されたなら動けるけど・・・
 
 
「勇気ヲ 出シテ クダサイ」
 
 
「あぅ・・・・・」だが、ロボットはそれを、人間のそんなところをよく知っている。
だって、人間に造られたのだから。
うつむき加減に頭を横にふろうとする綾波レイをじっと頭部半透明装甲を外して、見る。宇宙服から、女性の顔が出てきた。その名の通り、女性型で戦闘のみならず、お家でメイドなど人間の手伝いが出来るように設計されている。
男は女の関心を買おうと、世界一高い山に登り、世界一深い海に潜り、世界一広い砂漠を踏破した。けれど、女に捨てられた。なぜなら、ちっとも家にいなかったから。
そんな話があるが、ロボットも同じ。
小型化研究所としてはそちらの方が販売面としてはメインの計画らしい。
 
 
そして、綾波レイに、つまり、エヴァ零号機の頬に、キスした。
 
 
「ろぼっとニ 勇気ハ 出セマセン ろぼっと ハ 失敗シテモ 学習シマセン 
人間ハ 誤リヲ 犯シテモ ソレガ デキルノデスカラ。
ダカラ、ろぼっとハ、人間ヲ愛シテ 困ッタ時ハ 助ケテ 間違エタ時ハ 何度デモ
教エテ 能力ノ限リ 補正シマス 人間ノ傍ニ  イマス ズット ズット・・・・」
 
 
それは、真似事の、金属機械の冷たいキス、しかも、ガラスどころか特殊装甲ごし、だが、綾波レイの頬に、確かに暖かな感触を与えた。零号機の蒼い機体も、気のせいか、一瞬、桜色に。じわり、と朱紅い雫がなじんだように。
 
 
零号機の指先から、空間が波紋のように 揺れる 情は目の色、赤い色
 
Absolute Terror Field
 
絞った勇気の量とおなじくらいに、生成された領域も、ほんのわずか。
だけれど。それで十分だと、ロボットは答えた。
 
 
綾波レイ特製のATフィールドをマントのようにして羽織ってオリビアが決闘場に疾走していったのと、真・JAエリック騎馬モードが突撃をかけたのはちょうど同時だった。
 
 
ロボットに励まされたくらいの精神の復帰が単純だと笑うなかれ、ただ汚名返上が出来るのを喜んだわけではなく、ただ一度は自分が狙いをあわせてしまった人間の命がなんとか助かることを願っただけ。
もともと綾波レイが<炎名>を撃ったのも、「この戦いを願い望み引き延ばす者」を狙ってのこと。それを撃ち貫けば早く終わるだろうと。そう、思ってしまったのだ。
それを聞けば葛城ミサトも愕然とするしかない。
その正しさを受容できない己らの罪深さに。情けなさに。
 
 
それでも、悪党の悪あがきくらいは阻むことはできる・・・・・できるはず。
配置人員の計算もあっている。今こそ検算は終了。当初の行動予定とは少し違ったが、オリビアに組み込まれたプログラムはあっさりと対応した。「救出」から「救助」へ。ワープロで変換するだけでも数秒かかるこの作業を電子頭脳は刹那で終える。ロボット三原則がただの題目なのか頸木なのか、刮目してみるがいい!!古人の金言を起爆剤にリチャード・ポンプマンの前面にターボ入れて走り込むと、そのまま綾波レイから拝借してきたATフィールドを展開して防御する!!。
 
 
シャン・麟・燦
その動きは日本舞踊のおっ師匠さんのようにしなやかで凛として無粋さを寄せつけず。
熟練の職人が精根こめて造り上げた緻密さと色褪せることのない鮮やかさと品格を備え。
ほんの少しでも濡れぬように、と絶妙の角度で傾けることのできる人の気遣い思いやり。
それは、
人を泣かし悲しませることしかしない戦闘の雨から人を守る世界でいちばん美しい傘。
 
 
電気騎士団長が驚く前に到達したミサイルとレーザーが周囲を熱と光の地獄に変える。
だが。綾波レイからオリビアに貸し出されたATフィールドは、展開領域は狭いもののロボットと人間、一機と一人の指先装甲ひとつ髪一筋焦がすこともなく、完璧に守りきった。
四畳半くらいしかなかろうが、そこは争いも憎しみも入り込めない聖地、あるふぃーずあるかでぃあ。
奇跡、というおおげさなものではなかろうが、これぞ人の夢、悪党にいいところなど見せてやるものか、という。勇気とスピードを代償として果たされる、黄金のお約束。
 
 
 
「やったー!!悪党めザマミロ!!お前たちの思う通りにいくものか!!」
 
昭和時代の勇気凛々僕らの少年探偵団ならまだしも、21世紀の経営者、組織代表者として公の場でこんなことを大声でほざいたのは時田氏がおそらく最初で最後であろう。
だが、悪党に向かってザマーミロと叫ぶほど愉快痛快なことがこの世にあるだろうか?
ここは怪物少年のハートで許そう。愉快痛快時田くんは、JAランドのプリンスだい!!
 
 
モニターにはATフィールドを展開させてリチャード・ポンプマンを守るオリビアの姿。
 
 
ミサイルの爆炎も、レーザーの殺光も、こうなれば引き立て役の衝立金銀屏風くらいの役割しかない。悲劇が一転、イッツ・ア・ヒーロータイム、となってどよめく会場の中、悪党の惨めさ滑稽さ、ここに極まれリである。
 
 
「ぱぱんがぱん・・・」どういう経緯があるのかは分からないが、逃げたはずのオリビアが使用するATフィールドの輝きが誰のものなのかくらいは一目で分かる葛城ミサト。
思わずクックロビン音頭を踊ってしまう。こういう時、ほかにどうすりゃいいのか誰か教えて?・・・・・ちら、と余計な手出しは無用と言い切った奥方の方を見てみる。
答はそこに。
 
 
「これぞ、王道」
一期一会に咲き誇る、エミハ・磁光・ポンプマンの最高の笑顔。
 
 
 
「う、うぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ・・・・・・・・・・・・・」
さすがに年季を経た筋金入りの悪党、高笑いを即時中止に追い込まれたUBダイアモンドもこれには歯がみするしかない。長年悪党をやっているが、こんな目にあったことはない。実際に正義のヒーローが現れて悪事を邪魔されたこともなければ、悪のプライドを賭けたバクチにも負けたことはない。今までの悪者人生、おおむね思う通りにやってきたのだ。制限を受けるとしたら己より強い、高位の悪による介入だけだった。今回もそうであるはずだった。そうであるべきだった。そうであるに違いない!・・・・・・・しぶといUBダイアモンド。
まだ倒れない・・・・・、どころか、反撃の牙を剥き出す!。
 
 
「決闘場に未登録の機体を出場させるとは、これはJA連合側の反則行為だ!登場のタイミングからして隠していたとしか思えない。三対一とはあまりにも卑怯だ。こちらも相応の報復行動をとらせて頂く」
 
 
「なにおう!!」悪党のしぶとさに本気で百度の湯気をボウボウあげる時田氏。リチャードが助かったからいいものの・・・・・この野郎、ボディとチンに真空飛び膝蹴りをくらわしてやらんとわからんらしいな。だが、カウンターでUBダイアモンドが時田氏に食らわしてきたのは、もっと強烈な一撃だった。もともとの悪辣非道レベルが違いすぎる。人として恥じることは微塵もないが。
 
 
「”地底の鉄管より朝は手を上げる”、”人影のない戦場”、”殺人光線・(ヴァニッシングシャドウ)”、これらを投入して飛び入り参加のオリビアと戦わせていただくが、よろしいですな?!」
 
もはや汚い汚くないのレベルではない。まさに放射能汚染廃棄魔界。これは、人が近寄っていい領域ではない。招待客の何名かはあまりのゲドゲドとした邪悪さにあてられて気分が悪くなって倒れた。悪党中の悪党は、通常人は決して実行せぬどころか思いつきもせぬことを、思いつき実行にうつしさえする。これは人の心の闇がウンタラという原初的根元論なものではなく、目的向かって作動し続ける悪のマシーン、悪人回路が心臓のあたりに付属していると考えるほかない。
 
 
「ここここここここここここここここの野郎・・・・・・・上等だ!!かかってこい!!」
時田氏の方も軍鶏三十羽ぶんのバトル回路が作動してしまっている。駆け引きも抗議もへちまもなく真っ正面から挑発を受けてしまった。だが、悪党のやり方は正々堂々とはほど遠いことを忘れてしまっている。それともオリビアが評したほどに学習していないのか。
この場合の「オリビアと戦う」というのは、巨大ロボ三体がかりで人型サイズ、しかも女性タイプを囲んでボコにするということで「さえ」ない。リチャード・ポンプマンを守る彼女への「遠距離からの集中砲撃」を意味する。実質上は、三体を突撃させて人間を・・・・騎士団長を狙うぞ、ということである。仕切直しのヒマさえ与えないに決まっている。小型化されているだけ、オリビアのJTフィールドの持続時間は短い。人型サイズの装甲が三体の巨大ロボの攻撃をフィールドなしに受ければ四散などではすむまい。歯車のひとつも残らずこの世から消滅させられる。
 
 
「また、この勝負は、オリビア一機とこちらの三体で行われる、一回戦と二回戦の”1,5回戦”、つまりは”補完戦”ということで当然、よろしいでしょうな。こちらとしても、先の好ファイトを”反則勝ち”などというつまらぬ言い掛かりで手にしたくないものでね」
 
よくもまあ、あのザマでここまでのことが言える・・・・・上司のあまりの鉄面無恥と舌の回り具合にガードの兵器人間でさえ呆れてしまう。なにが補完戦だ・・・・ほとんどの招待客がヘドが吐きたくなった。建前としては観戦武官のような立場の三機をそんな具合に投入するのだから最低最悪のセンスと言わざるを得ない。
 
 
「ああ、かまわない。できるもんならやってみろ」
 
 
だが時田氏は怯みも呑まれもせずに、堂々と言い返した。最早ルール無用の単なる食い合い毒蛇とマングースの戦いのようになってきた。あまりといえばあまりに不公平な条件に、それを受けた時田氏の方にこそ非難の目が向けられる。剛毅と言うよりそこまでいくと考えなしのただのバカだろ!。それこそ、不公平な話だが、人命を助けたロボットだけに人情としてはそうなってしまう。最初から決闘に出場をしなかった腹いせをしているのでないか、との邪推もあった。
 
 
だが、そうではなかった。その時、戦闘ロボットの専門家である時田氏の目は、三体の敵ロボットの様子がおかしいことを見抜いていたからだった。
いうなれば・・・・・・「すでに死んでいる」のだ。
 
 
「そう言って下さると思っていましたよ。第一回戦はあまりにあっけなく、招待客の皆様もお楽しみいただけなかったでしょうからな!!・・・・いけ!」
それには気づかないようで、嬉々として三体に出場命令を出すUBダイアモンドだが、ロボットたちはぴくりとも動かない。
 
「ど、どうしたんだ」
あまりといえばあまりの外道命令に、嫌気がさして反旗を翻したのだろうか・・・・・
ロボットがサボットる。いや、そうではない。そういうしょうむないシャレはいいとして。
 
 
ゆらり ぐらり
 
 
機能停止、直立のバランサーさえ働かずに、三体のロボットは倒れた。まるで脳溢血でもおこしたかのように。脚部が弱い”殺人光線”など、自重で足を破損してしまっている。
立てなくなった戦闘ロボットは戦車よりも使えない。
ただ命令に反した戦闘放棄ではないのは見れば分かる。だが、夏休み前の校長先生の暑い中体育館に集められてクソ長い説教を聞いてバタバタ倒れる小学生ではないのだ。
何者かがこれを行った、と見るのが自然だろう。三機同時の中枢機能トラブルとは考えられない。タイミングの点からしても・・・・だが、どこの誰者がこんな真似ができるというのか・・・・
 
んにゅ
 
事の成り行きを見守る全員が、そのとき老若男女悪人善人問わず、同じタイミングで目のあたりを猫かきした。ドレスの淑女や綾波レイなどはともかく、それが似合わぬ人間が大多数であり、マクロ視点で見るとかなり不気味であった。だが、そのおかげで
 
霞が、晴れた。
事の成り行きを見守る全員の目に、今までかかっていた穏行をなす霞が。
そして、その姿が目に映る。それを、許された。ご開帳された仏像めいたそれ・・・。
 
 
MJ−301陣のど真ん中に、いた。
 
大学天測。
 
・・・・日本で最も古いロボットである(異論はさまざまあろうが)西村真琴(1883〜1956)博士の「学天則」をでかくしたロボットで、それゆえに大・学天則。大自然を礼讃する緑の冠をかぶり、宇宙を意味するコスモスを胸の花章に、左手には霊観灯、右手には鏑矢のペン、太陽とヤタガラス、雄雌の記号、火炎と水流、樫の木,蛙、蛇、雉、ムカデ、などが刻まれている記録机までついている。まるで御堂子太郎だ。「神は人を造れり、人は人の働きに神を見出す、神を見出さざる文明は呪はるべし」と理知的ながら物騒な文句の書いた西洋盾をもっている。顔はあらゆる民族のいいとこどりの集合体だが、江戸川乱歩の黄金仮面と仏教象を足して二で割ったような顔。
いろいろと謎の資金源を持つ帝都財団の所有する歴史あるご先祖さま万々歳でご機嫌斜めなロボット。(意味不明)。JTフィールド発生装置を備えてはいるようだが、他のものと一線を画してこれは自分で「結界」をはれる、という。それがATフィールドなのかどうかは不明だが、帝都財団のガードが堅く今まで真偽のほどは不明だったのだが、ここにきてその秘密のベールをはずすことになったわけだ。
 
その「結界」の力で今まで隠れていた、というか、敵陣のど真ん中にいても今まで誰にも気づかれなかった、最新鋭センサーをもつ戦闘ロボットにも存在をしっぽも掴ませなかったというか、まさに、「秘密のヴェール」であったわけだ。敵をあざむく影 影 影
 
 
ロボットの身で「結界」がはれるというのだから順当な才能ではあるまい。
そして、その「隠身結界」でひそかに背中をとれたとはいえ、ロボット三機をいちどきに機能停止にさせる手並みは尋常なものではない。まさに、その働き、神のごとし・・・。
破裏拳ポリマーもびっくりである。
 
 
「”機孔”を突かせてもらいました。三機とも三年は起きることもかなわぬでしょう。
下手に修理などしないのをおすすめします。呪いが降りかかっても構わぬ方はその限りではありませんがね・・・」
記録机の上には人がいた。モニターの拡大アップ。ブーツにコート、軍帽と、緑色軍服、大正軍人のような格好の龍宮シンイチロウだった。静かにして最もタチが悪く甚大なダメージを与えるのがこの人物にはふさわしい。なぜか、白手袋には「独楽」のマークが。
 
「ああはは。ろぼっとさん、おやすみなさい〜」その隣には妹の龍宮ユカリ。こちらは白い着物で、いまにも呪術の生け贄にささげられそうな姿だった。確かに軍服は似合いそうにない無垢そのものだが・・・彼女がこの恐るべきロボットを設計したのだ。
忍者エヴァ参号機を狩る黒羅羅・明暗でさえ、その存在を完全に感知できなかった。
真・JAの豪快さも確かに目を見張る驚くべきものだったが、これはそれ以上の・・・・怖気を、恐怖を感じさせる。UBダイアモンドがそれを感じているのだから、通常の一般人はいうまでもない。時田氏でさえ、尻を氷棒でなでられたようにゾクリとした。
兄妹の格好もそうだが、その”機孔”というのがすでに科学でないので怖い。
 
 
「ああ、断っておきますが、これは時田氏と結託してうった芝居でもなんでもないです。
だから、騙された、などと戦術眼の無さを悔いる必要はありませんよ。
ただ、JA連合にはすでにJTフィールド発生器の件で多額のライセンス料を支払っていますのでね。ここであなたたちに占領されて、契約が無効になるのは帝都財団としても困るのですよ・・・その分の損失を補填していただけるならばと考えもしましたが・・・どうも、先ほどからの言動を見るに、新たな契約先としても、あなた方は不適格のようですし・・・・なにより、交渉役が最低限の信義も所有しない芋虫の血が流れている狂犬病患者ではね・・・」
正義の病気、や、熱血の破滅、なんてものがないように、龍宮シンイチロウの言葉は目に入る周囲の者すべてを不幸にしてやろう、というような白い枯れ木のごとき響きがある。
そして、その目はとりあえずUBダイアモンドに向けられている。
 
 
「イモ虫・・・狂犬病患者だと・・・・!!」
悪者として様々な負け犬の遠吠え、呪詛怨念を浴びてきた身であるが、そこまで言われたのは初めてだ。しかも、この病んだ肋骨から吹き抜けてくるような、ひとでなしの声。
こいつにも正義や大義などはなく、経済見地からも実のところ口実にしかすぎないのがUBダイアモンドには分かる。何らかの目的があり、時田よりこっちの方が邪魔度障害性が高いのだろう。それゆえに、排除するだけのこと。こいつも信義などとは縁のない男だ。
悪党をも没落させ滅ぼす退廃の気・・・・・・濃厚にこの男から漂う・・・・・
己とは異なる他系統、ではあるが、同レベルの非人道的存在にUBダイアモンドは敵愾心を覚える。最初は寝返ろうと思ったが、真・JAの力を見てあわてて止めた、というのならば与し易いが・・・・・単独でも我々と張り合える独立自尊の気構えがある厄介な。
絶妙なタイミングで突入してきた人型サイズ・オリビアといい・・・・・
時田がJTフィールド供与対象に選んだだけのことはある・・・・・ということか。
まさに、一騎当千。一致団結できないのは道理なのかもしれない。
 
 
「少なくとも、時田氏は人、ですからね・・・・」
やろうと思えば、同時にマッドダイアモンドも潰せたのだろう・・・・だが、やらなかった。JA連合のことなど心底どうでもいいのだ。MJ−301と同様に。
 
「切れば、熱苦しいかもしれないが、赤い血が流れるでしょう・・・」
「そう、つめたくてかたいろぼっとさんを、ほんの少しだけどあっためて、なぐさめてくれるんだよ」
 
龍宮シンイチロウがこの世で唯一気にかけるのは、この、魂が遊離して精神が現世にない妹のことだけだった。世界と連絡を一方的に断線させた人間は人でなしと呼ばれてもしょうがないが、人でなしでも妹は愛している。そして、人でなしでなければ狂人には対抗できない。時田氏には感謝している。陸自の新型トライデント”あやかし”・・・あれをおびき寄せてくれた点だ。高野参ゲン・・・・妹を壊してくれたあの狂人と対決する機会を与えてくれたことに。向こうが忌避しても感謝の気持ちは形にせねばなるまい・・・・
それから、このタイミングの出陣にはもう一つ理由がある。
とうとう、U・R・U総裁が動いたのだ。
U・R・Uが起動する・・・・その意味を知る故に
 
 
「グム・・・・・・・・」
さすがに三機を一度にやられてダメージがでかいUBダイアモンド。これで自分たちの所有戦力は、マッドダイアモンド、あやかし、先攻者、の三機になってしまった。
しかも、二機はクトゥールフの救助をしているのでこちらが呼び戻すわけにもいかない。
SUPERロボとクトゥールフの曳航を依頼せねばならないとなると・・・・・
とどめに向こうはなんらのダメージも負わずにまったくの無傷ときている。
冷静に計算する・・・・・・・まだ負けたわけではない。並の悪党なら諦めて尻尾を巻いて逃げ出すところだが、そこはさすがに人型サイズに戦闘ロボを三体ぶつけようとしたウルトラブラックに腹黒く、金剛石の邪心硬度をもつ、UBダイアモンドである。
大学天測は高尚な見かけによらず、隠れて相手を裏から攻撃する、という卑劣極まる手段を用いて三機を仕留めた。当然、やり返すべきである。汚い手段への報復をうたうならば今である。あやかし、先攻者を二機投入してもどこからも文句は言わせない。だが・・・・悪党中の悪党のUBダイアモンドも人でなしの相手はしたくなかった。悪とはいわば一般社会の生き血を吸う寄生活動である・・・・が、枯れきった病人からは吸う血もない。
人間のかたちをした廃墟。それが龍宮兄妹の本質だと悪者のカンで見抜いた。
廃墟に入る盗賊はいない。それでケガをしたらなんにもならない。悪の経済学。
相手にしてもこちらにはなんの利益もない。正面切っての対決は回避するべきである。
追いつめられてもこういう冷静な判断が出来るからこそ、今まで生き延びてこられたのだ。
ここまでの損失も大きすぎる。ここからは可能な限り少ない犠牲で勝利せねば・・・・
 
 
<第二回戦>・・・・マッドダイアモンド対レプレツェン・・・・・このカードで確実に勝利できるはずだ・・・・こちらからロイヤルが抜けてストレートフラッシュになり、向こうはブタからかろうじてワンペア程度にはなり、ブラフをかけているだけだ・・・・
どんな魔法を使えば、あの園芸ロボが純然たる暴力犯罪用のマッドダイアモンドに勝てるというのだ?この対決をなんとかご破算にしたいのは実は向こうの方だろう・・・・・・
この逆乱入の一幕も、帝都財団と時田との間で密約があった可能性も否定できない。
真・JAの力は見極めそこねたが、最後までハッタリにはまってやる必要はない。
そんじょそこらの悪党ならば、このへんで逆ギレを起こして無謀に暴走して自滅するのだが、それほど甘くはない。確実に何か仕掛けて来るであろうレプレツェンにも油断はない。
その上、暴力の専門家として自負もあれば自信もあった。すぐ傍らには選りすぐった兵器人間(ウエポノイド)。会場の人間全て百回殺してお釣りがくるほどの戦闘力を保有している。最後には腕力がものをいうのだ。時田の首根っこを押さえつけてしまえば、何もできまい・・・そのまま誘拐して真・JAとの交換を要求してもいい。逃走経路など力づくで確保してやる・・・・その方面で計算を始めたUBダイアモンドだが、違和感を感じた。
 
 
いつのまにやら、ガードの兵器人間たちがいなくなっている・・・・・・・
 
 
状況に異変が起きたのだとしても自分に黙って行動することは連中には許されていない。
まわりを急いで見回すと、ヨタヨタヨロヨロとした足取りで会場から一列に出ていこうとするガードの兵器人間たち。その光景は、悪党に不吉な単語を連想させた。
 
「囚人」・・・・・囚われびと
 
悪党には悪事を働く自由が、公共の福祉によって制限されない、無制限の自由が、必要なのだ。
 
「貴様たちどこへ行く!?許しもなく勝手に動くな!・・もしや時田!!」
ダイヤの仮面を剥いでケダモノの本性で叫ぶUB。もし万が一裁判でもやられたら懲役ミレニアムは固いほどの悪党である。反射が出たのだろう。が、冷静に考えれば、時田氏がやれるなら最初からやっており、真空飛び膝蹴りがてめえに炸裂しているはずだ。
 
「わたしは知らないぞ。自慢じゃないが、帝都財団の見参に本当に驚いているくらいだ。わはは」
腰に手を当て、胸を張っていばる時田氏。「人の上に立つ者として私も偉そうなことは言えないが、・・・・・・まあ、なんだね、人望がないのはともかく、今月の給料が支払われてなかったのはまずかったんじゃないのかね・・・・うわ!」
ここぞとばかりに、ゆっくりと正義の一撃をくらわすべく、近づいて語りかけさらにコケにする時田氏であったが、兵器人間たちが、一斉に振り向くと驚きの声をあげた。
会場のあちこちからも悲鳴があがる。
 
 
ふいに振り向いたガードの兵器人間たち、彼らが、血の涙を流していたからだった。
 
 
その朱紅い雫がインクとなり、罪科認定書へのサインとなる。
夕暮れ時に世界でただひとつロボットを裁けるロボットU・R・Uの”鋼鉄法廷”が開かれる・・・・