どうも奇妙なことが続くものだ
 
 
第二東京からジェットクモラーを経由して真・JAを操作している時田氏は考える。
 
 
使徒との死闘の最中に考え事とは余裕であるが、エヴァと違ってパイロットが乗って文字通りに身体で動かしているわけでもなく、時田氏がやるのはおおまかな指示であり真・JAにやらせているのは使徒をここから先に進撃させぬ足止めであるから真・JAもそれに従い己の身に埋め込まれた反射神経回路の命じるままに四肢を動かし使徒を通せんぼする。
 
 
通せんぼ
 
 
なんとものんきな響きであるが、使徒と真・JA、二つの巨大物体がやり合う様子と影響は局地的大地震と竜巻を混ぜたようなもんで小粒な人間など近づけたもんではない。
それくらい激しいメガギガテラスケールのスピリット・オブ・ファイトであり、プロレスラーのガチンコ試合を蟻ンコが見上げるようなものだろう。
 
 
だが、
 
 
”戦闘ではない”。
 
 
時田氏からすれば、またはこの使徒殲滅業界で玄人、とまではいかずとも使徒戦を何度かその目で見ている者たちからすれば、これが戦闘ではない、と分かる。いくらナリがでかかろうと、周辺環境への影響が巨大であろうと、人間の精神に与えてくる重圧と迫力が桁違いであろうと、これは、戦闘では、使徒戦ではない、と見切れる。
 
 
特撮ドラマではないのだからまだ放送始まって十分も経っていないからこれが決戦ではない、力の探り合い、メンチの切り合い、前戯前哨戦なんだなあ、などと判断できるわけもない。
 
 
ただ、素人、一見さんがリアルタイムの生でこの光景をみれば多少の予備知識などあろうがもう腰を抜かすしかなくビビリにビビってもはやこの世の終わりかと絶望するなり走馬燈を走らすなり己の半生を猛省するなりトイレにいきたくてもいく必要がなくなったりして現実世界での立場やら職務など放棄してひたすら卑小な己のために祈り怯えるしかない。たとえ、前哨戦に入る前の小競り合いであろうと、それだけの魂と腰震わせるこの世ならぬ恐ろしい光景。
それを実際に目の当たりにしながら、というか、その当事者でありながら他の気がかりについて考えられる時田氏は胆力がズバ抜けており人類の規格外のたくましさ、アイアンハートをもっている、わけではない。単に慣れであろう。それか、自分のJAしか見てないか。
 
 
だが、ネルフ新本部発令所、入れ替えられた新たに転属でやってきたスタッフたちは、それなりに優秀で、人類の砦の守人という選良の覚悟もあり、基本の気質的にも臆病などではないはずだが、それでも
 
 
呑まれた
 
 
初めて見る使徒戦(玄人目にはその段階にも入っていないが)の生の迫力にすっかり気圧されビビリ身体も心も固まってしまう。これはもう通過儀礼のようなもんで身体で体験してみないとどうしようもない。頭では分かっていても、使徒の恐ろしさ、人類の、人の身のちんけさが実感として、上から降ってきた身の丈ぴったりの鉄檻にはまったように身体を硬く強ばらせる。顔からは血の気がひき、ひきつる。舌もよくまわってくれない手足が震える。今まで人類が、その者のおじいさんおばあさんそのまたじいちゃんばあちゃん・・・と蓄積経験して耐性をつけ遺伝と引き渡してきたものとは新式の別種類異次元の脅威、それが身体に刻まれるため、どうしてもそうなる・・・・・理屈はともかく、とにかく、こわいもんはこわい。本部にもとよりいたスタッフたちはそれを身体で理解できる。
 
 
初陣の恐怖
使徒はココに向かってきており、防衛に失敗すれば自分たちは使徒に叩きつぶされるのである。自分たちの生命は破壊される。自分たちの存在は消滅させられる。跡形もなく。
絶対の敗北、再生の萌芽さえ許されぬ徹底した終末。脳裏に這い寄る灰色の予感。
 
 
自分たちがそれをどうやって乗り越えてきたのか・・・・・・それを詳しく説明しても落ち着かせることなどできるわけもない。とにかくフォローあるのみである。発令所の情報処理速度、稼働スピードは大幅に減衰したが仕方がない。機械を入れ替えてもならし運転が終わらなければ旧式のものよりも働けない。おまけにマギすらもあの新作戦部長の1人、シオヒト・Y・セイバールーツが仕掛けてきた”アンチ・ガウマータ処理”なるマギの抑制処理でまともに動かない、ときている。
 
ちなみに、ガウマータ、というのは大昔のマギ祭司の名であり、王の嫡子のふりをして王位を奪い取ったということからそれを封じる意味でのアンチ・ガウマータ。早い話が身の程をわきまえろ貴様ら越権するなよ、ということで東方賢者赤木リツコ博士の杖ともなる、スーパーコンピューター・マギがどれほど警戒されているかその能力以外の全てを信用されていないかよく分かる。それか人工知能は必ず裏切る古典SF映画の見過ぎか。
 
ともあれ、出る杭、真理に近く高く掲げられる杖は打たれるのである。発令所オペレータが使いやすいように手を加えてある部分が介入禁止にされて、ただでさえフォローで手が足りないところをさらに足がひっぱられる。使いやすい使い慣れた愛用の道具を取り上げられたもので能率もクソもないところに「このグズどもめ」と侮蔑に充ち満ちた棘声が降ってくる。修羅場の中で飛び交う言葉など上品ではありえない、碇シンジたちには聞かれないようにして放送禁止用語どころか鉄火肌の兄さんたちも真っ青になるようなブチ切れたドぎついやり取りだってあったことはあったが、このように聞く者の手足を昆虫標本のようにピンで刺すような声を聞いたことは今までなかった。
 
現場の温度差もあろうし伝導しようのない一体感や切羽詰まった速度の要求概念、この距離の隔たりはただの悪口や叱咤である以上にタチが悪かった。ここまで理解できるのは日向マコトと熟練オペレータ数名くらいであり発令所内の空気の悪さ、かつてない雰囲気の重さ淀みに辟易してきた。前体制が清流だったとはいわないが、この油ドロドロな不透明感に先行きが大いに不安だった。
 
副司令がいればなあ・・・・そう思うが現実にいないのだからしょうがない。自分たちが地下の奥深くにいることがこれほどよく分かるとは・・・。空調はいつもどおり作動しているはずだが、息苦しさが喉元をつきまとう。
 
居残った生え抜きの者たちでさえ、実を言えば
第二支部の一件、あれのショックが消えていないどころかまだ色濃く残っている。
 
マギを無断で弄られながら赤木博士がこの場に現れもしないのも。
 
新入れ替えの者たちはこの重苦しさを、この雰囲気こそネルフ発令所だと認識するのだろうか。もとより明かりを知らなければ、暗いと感じることもなく。この初陣の坂を越えさえすれば、彼らの方が馴染んだ速度を稼ぐようになるのかもしれない・・・・。
 
 
けれど、彼らほど、自分たちは恐れなかったような気もするな・・・・
 
自らの、初陣の時を思い返して。碇ゲンドウ、葛城ミサトがいたあの頃あの時。
昔とは言えぬ昔。最初から胆力がすわっていたわけでもない。彼らの反応はごく自然。
使徒、未知の存在。それに対する、人類最後の、防衛線に立つ、次がない後ろがない感覚
不安に押し潰されもせずに己の仕事ができた、竦まずに身体が動いた、のは
 
 
使徒を恐れることなく、立ち、目をそらすことなく正視する者たちの存在、
なんのハッタリでも威勢でもなく、神をも恐れぬ人間(なんちゅうか、バケモン?)がこの世に、自分たちの近くに確かにいるのだ、という心強さ。
存在感の連鎖作用が、一蓮托生感というようなものを生み、この場を満たしていたような気もする。最大の存在は、エヴァ初号機に乗った子供、碇シンジ君であるのは間違いない。
が、それでも自分たちの近くにいたのは・・・・・最強の福音を預かった子供をさらに預かって面倒みたりしていたのは・・・・なんてったっての偶像は
 
 
そんなことを考えながら、葛城ミサト旗下直属、という心の中の看板をおろすことなく初陣に竦んだ者たちのフォローに駆け回る日向マコトに新司令ル・ベルゼ・バビデブゥルは綾波レイの呼び出しなどという、それこそ指先が震えて仕事にならない者にやらせればいいような仕事を命じた。それで発令所の処理速度が落ちようとおかまいなしに。
 
 
まだ現状は、使徒戦の本番ともいえぬレベルであり、まさかそんな程度で新本部の優秀スタッフ達がビビリはいっているなどと夢にもおもっていない、というのならば・・・
 
 
「業界の掟」を新発令所に徹底浸透させることが新作戦部長の最初の仕事になるだろう。
 
 
これが分かっていないとお話にもならない。初歩の初歩。基本をおさえずに戦闘時の情報の高速回覧業務などできるわけもないし、やってもいけない。
 
 
使徒殲滅業界における、掟とは・・・・
 
 
「・・・・なぜ、ATフィールドを展開してこない?」
 
時田氏の疑念まじりの呟き、これに尽きる。
 
Absolute Terror Field 絶対領域、これを越える力を持つ存在しか対使徒の檜舞台に立つことを許されない。これは業界の常識、掟であった。この掟を破り舞台に這い上がろうとするのは自由で勝手なことではあるが、添え物にしかなれぬことは戦史が証明している。
 
 
だが、今回の使徒は真・JAに足止めされ侵攻を邪魔されながら、ATフィールドを展開させることなく見たとおりに異形ではあるが、とくだん特殊な能力だの口やら目から光線を放ってくる飛び道具攻撃もなく、一匹の巨大な獣として人型ロボットに対している。
 
足首か頭部を噛み千切り戦闘能力を奪う肉食獣の狩りのような攻めをしてくる使徒をかわしてチョップ!チョップ!チョップ!!の嵐、曲線に目が慣れたところでコアを狙い澄ました地獄突き。使徒をガッチリ掴んで膝蹴りをかまそうとするが鋼の指先はあわやのところで空をきる。見かけからは信じられないが真・JAはとんでもなく豊富な戦闘パターンをもつ、なんでもござれ式の格闘ロボットでもある。
 
巨大な獣という敵に対してまごつくこともなく半自立的に対処しているのは予め電子頭脳に叩き込まれている、時田氏たちが世界各地から収集してきた戦闘技術、この場合はアフリカあたりのライオンを素手で倒すムガビなる部族の部族格闘技のパターンと同じく娯楽として熊だの獅子だのと大型獣と戦わされた古代ローマのグラディエーターの戦闘パターンを用いて戦っている。このようなヒマな真似はちょっとよそには出来ない。パイロット当人が拳法腕法の達人であった黒羅羅・明暗の参号機は別として、そりゃもうJAの独壇場といえる。子供の乗るエヴァや軍人が指揮する戦闘ロボットではこうはいかない。えらく勝手が違い、さんざんに幻惑され一方的に嬲られていただろう。指揮する方にしたとて獣とやりあうにうまい立ち会い方などすぐに指示できまい。
 
基本的に作戦指揮官の仕事というのは、戦闘教義(バトルドクトリン)を編み出すことであり、これに即して部隊を訓練し実戦で使えるようにしていくことであり、戦場に臨んで突発的に縦横無尽にどうしろこうしろ、というもんではない。
 
技なければ術なし、術なければ策なし、といったところ。
 
JAが肉弾戦、接近格闘戦を得意とするのは理由がある。それがJAの、時田ドクトリンなわけであるが、それを持ち得ない者たちが同じことをしてもまるで意味がない。
 
 
もともとそのようなことを想定してもいないからである。
 
それが無意味であることは業界の玄人ならずとも分かることであるが、真・JAがジェットクモラーからの離脱ついでに天上からいきなりいなずまキックを先制にかましてからクリーンヒットこそないものの、一進一退の攻防を繰り返している。
 
 
この状況は異様なのだ。いかに戦慣れていない者たちをビビらせおののかせるハルマゲドン急接近的!!な大迫力があろうと、通常の使徒戦ではありえない。
 
 
重要な、前提が抜け落ちている。
 
 
使徒がATフィールドを展開しない、立ちはだかる目障りな、それもエヴァとほぼ同格の戦闘能力をもつ相手・・・・”敵”とまでは認識せずとも、あきらかに”力ある邪魔者”である真・JAに向かって絶対の盾をもって圧倒しようとしない、その不可思議。
 
 
「どういうことだ・・・・・・」
 
 
使徒がATフィールドを展開させる、その時をまさに狙っている時田氏としては首をかしげるしかない。絶対領域を相手に広げられてしまえばあらゆる抵抗反撃攻撃は無効となりいいように従うしかなくなる・・・・であるのに、それを望む時田氏も事情を知らぬ業界に入って日の浅い者たちには奇妙がられて当然であるが、
 
 
「そうなれば、すぐに勝負はつく・・・・もしくは」
 
 
JTフィールド
 
 
真・JAを最新とするJAシリーズは相手のATフィールドを略奪反転させて自分のものにしてしまうというとんでもない秘密兵器をもっていた。相手が籠もるはずであった最強の盾をとりあげて自分が使って相手をボコボコにする・・・・・防御を剥かれて裸にされた相手はたまったものではない。業界の地図を塗り替えるほどの発明でこれのおかげで当初は単純極まるエヴァ独占一色のはずのパワーバランスも微妙にマダラ模様になっていた。
 
大昔の話になるが、JAはこれでエヴァ弐号機にガツンと一発、人生教えたこともあった・・・ずいぶんとなつかしい話である。
 
 
使徒のフィールドが強力であればあるほど都合がいい。略奪した時の己の防御力がその分だけ跳ねあがるのだから。リアクター内臓のJAとしては防御力が増えることは大歓迎でもあった。都合がいいことはもう一つあり、フィールドを反転するその具合を調整することで相手の動きを止められることだ。力場でJAと絡めてさながらチェーンデスマッチのごとく、切り離されないようになる。どのように高速で逃げようとしても絶対の力場がふたりを繋いでいるのだから置いていかれる心配はない。すぐに奪ってそこからフィールドを盾にしつつ殴るか、互いにクリンチするように零距離で土手っ腹を殴り合うか、そこは時田氏の判断次第だが、なんとも凶悪だ。当然、同じ仕掛けはエヴァにもやれる。
 
 
エヴァのテクノロジーに関与できずに遅れをとった各国軍隊やら組織やらはATフィールド、この絶対領域をなんとか中和して、その後手持ちの現代兵器で使徒を倒すことしか考えていなかった。同じフィールドで対中和させていくしか今のところ中和法は見つかっていない。真面目といえば真面目だが、脳が硬直していたともいえる。
 
 
そんなわけで、アイデア勝利の別アプローチで迫った時田氏のJA連合は業界内にかなりの勢力を誇っているといえる。ウサギとカメのレースに勝手にわりこんだモグラのようではあるが、一応使徒の撃破もしており、現にこうして第三新東京市、ネルフ本部のある、エヴァの縄張りを警護しているのだから、もはや誰にも文句はいわせない。おまけにさらなる時田氏の野望はエヴァの蹴落としであり、使徒殲滅業界の主役に自分たちがなる気満々であった。
 
出る杭は打たれるわけだが、先に実際にガンガンに打たれてしまったが、このようにピンピンしており、多少の妨害などものともせぬ時代の追い風を感じる。
 
 
今回の使徒を倒してしまえば・・・・・
 
 
よくよく相手を見てみると、今回の使徒は、なんというか怪獣に近いなあ、と思う。
 
双頭の付き方は変でも四足獣というわりあいにオーソドックスに人間を脅かそうという形態にかえって安心してしまう。
 
 
そのせいか、その背に座り込んでいる人型サイズの「何か」に気づくのが遅れた。
 
 
ちょうど背筋の中間中央に、その奇妙なものはいた。出現の際に引っかけた運の悪いハイカー、などではない。
 
 
最初は色とりどりの毛皮を着込んだ蛇かと思った。身体が成長し己が強くなるたびに立派な毛皮を買いそろえていった寒がりな大蛇なのかと。だがカメラをズームにしてみると様々な毛皮の長大な連なりを頭から被っている「人型」の何かだと分かった。
 
この場合の何か、とは時田氏には明言しにくい。赤い玉、いわゆるコアをもつのが使徒である、くらいの使徒認識しかない時田氏には。握り拳が心臓の大きさだというのならシオマネキは自分の身体より大きな心臓をもつことになる、なんて笑い話と同じだ。
 
ただ偶然、人型に見えるだけで感覚器のようなものかもしれない・・・・ズームの倍率をあげてみれば、頭から被っている長連毛皮を別として身体にも毛皮の服をまとっている。
そこから見える、あごの線、二の腕、下腹部、へそ・・・・肌は褐色でところどころ呪いのような動物を模した白い紋様がある。
 
・・・・その豊かなフォルムは、見なければよかったと思うほど時田氏も男である。
 
狩猟期の原始人のようでもあるが、遠目にも鮮やかな絵巻や図鑑、絵画をおもわせる半端ではない種類の毛皮を組み合わせる縫製技術はむしろ人類の黄昏時代を連想させた。これだけ雑多な組み合わせであるにもかかわらず、なぜか合成獣キマイラの醜さはない。どこか懐かしい共通項が見いだされる。あまりじっと見ていると心を奪われそうになる。たかが毛皮のモザイクに。たかが揺れる胸に。たかが己が座る使徒がいくら駆け回ろうとぴくりとも動かぬ不動の腰に。その腰に、黄金の剣が差してある。当然、人間サイズの存在が腰にする代物であるから、そんなもんをいくら抜いて振り回そうと真・JAに傷一つつけられない、というか、だいたい届くまい。一目見ただけでなにかギョッとするほどの脅威を感じたが、それでもそのサイズでは。どうすることもできまい。何をそんなにビクついたのか説明はできないのだが。結局、その使徒の背にある人型の何かがなんなのかはよく分からない。そこから攻撃を仕掛けてくるわけでもないので、ほうっておく。無視だ。
運悪くJAのチョップがあたり、ぐちゃっと潰れてしまっても見なかったことにする。
 
手塚治虫のマンガにでてくる、ヒョウタンツギのようなものかもしれない。気にしない。
 
人型の何かが口元をモゴモゴ動かしているようだが、ビーフジャーキーでも噛んでいるのかそれとも何か呟いているのか、それもよく分からない。集音機で聞いてみようとはさすがの時田氏も思わなかった。
 
 
使徒が生身で真・JAを倒せぬ以上、ATフィールドさえ取り上げてしまえば勝負はついたも同然。何を出し惜しみしているのかよく分からないが、それによって時間を稼げるのも時田氏にとって悪い話ではない。まあ、エヴァに手柄を譲る気などはないが、エヴァの発進準備が整ってから倒した方が、パイロットの子が責められなくていいんじゃないかと、そんなことも(絶対に口には出さないが)考えてはいた。
 
 
どうも新体制になったネルフはおかしい。もともとネルフはおかしな組織ではあり、ハナからまともではないが、今はそれをこえて、何かあやしくなっている。組織が巨大化すればそれだけお家騒動も激しくなるわけで、時田氏にしてみれば高みの見物で対岸の火事、大いに荒れぶりを楽しませてもらうつもりではいたが、その内容を知るにつれ、楽しむどころかやばい予感が強くなっていった。総司令の碇ゲンドウの首が切られたのもそうだが、作戦部長、葛城ミサトをどこぞに飛ばした、という話については耳を疑った。エヴァ初号機とパイロットがいづこへと隠された、とか、わざわざ熟練のスタッフ達を入れ替えたとか、好んで状況を劣悪に、状況対処機能を低下させているとしか思えない。時田氏も組織の上にたつ人間であるから、そういう点は非常に気になる。そこまで手入れしながら、現時点の第三新東京市にはエヴァが一体しかない、というあたり。順序が無茶苦茶である。
やる気というか組織の目的が濁ったように見えてこない。組織の拡大につれ政治が強く作用した、といえばそれまでだが。JAの指揮権をよこせ、などとトチ狂ったことは少なくとも以前のネルフ本部ならば言ってこなかっただろう。
 
 
時田氏は社長脳部分ではそんなことを考えていたが、真・JAを操作するプレイヤーとしてのカンがチクチクと警告を発していた。使徒がこちらの足止めにバカ正直につきあうことに対して、どうも妙な感覚があるのだ。使徒は出現してより直線コースで第三新東京市に向かっていた。その直前でこうして自分に足止めを喰らっているわけだが、かわそうとしない。突破されるつもりはないが、立ち会いのさなか、どうしても2,3,そのまま突っ切れば抜かれる、という場面もあったのだが、使徒は踏みとどまり転身し、真・JAに噛みつきつっかかった。これは獣の執念というやつか、後ろよりの追撃を恐れたためか、もし、そのまま駆けぬけられていたら、差をつけられて第三新東京市をゴールとするなら負けていただろう。もちろん、戦闘は駆けっこではないが、その面はある。警護役、警備契約としては完全に負けである。わはは。笑いどころではないが笑うしかない。
 
この使徒の目的も・・・・・・読めないところがある。ただ相手を撃破するだけのバトル好きの心情はそのようなことを感じもしないのだが、時田氏は優秀なプレイヤーとしての側面ももっている。もしくは過去の敗北の記憶が引け腰にさせているだけか。
 
人生、攻めを忘れて守りに入ってしまったらおしまいである。確かに今は我が世の春ではあるが。だからこそなおのこと。
 
 
「エヴァ零号機の準備が整ったようです」
これで、料金分の仕事は終了しましたね、と冗談でも何でもない真面目な顔で真田女史が真・JAの撤退準備を整え始める。真・JAの勇戦に熱く湧いているJA司令所でそんなことが出来る冷血女は連合の中でも彼女だけだった。
 
 
ここで引き上げて、あとはエヴァに任せる?
 
 
それは正当な判断であっただろう。使徒の撃破スコアを増やしておくことは確かに業界内での地位を向上させることではあったが、あまりやりすぎれば、ネルフ新本部新体制の陣容も分からなければ反応も分からない、新作戦部長(どうも信じられないことに複数いるらしい)は一刻も早く白星が欲しいのであろうからそれを邪魔する・・・この使徒は何か不具合でもあるのかATフィールドを展開してこない、欠陥使徒かもしれないなんとも与しやすい弱敵であるなら、早々にこちらに退くように命令もしてきている(指揮権移譲要求といい、てんでバラバラだが)・・・・・後々禍根を残すようならここで引き上げるのも悪い話ではない。なんせ向こうにはケタ外れの政治力があり、その威力はネルフそのものを内部崩壊豆腐のごとくグダグダにしてしまっているようだ、その余波をくらうなどと御免蒙りたい。ATフィールドを使わぬ使徒など、真・JAがどうしても、全力で相手をせねばならない相手というわけではない。逆に言うとJAの真価が発揮できない戦いだ、それで星を得るというのも意地汚い話ではある。そんなメッキの勲章で恨みを買うのも損な話だなあ。技術者のプライドや経営判断やらが時田氏の頭の中で渦巻く。ちなみに戦闘は続行中であり、まだ衝撃が抜け切れていないネルフ新発令所の新スタッフたちなどは想像もつかないほどの神経の太さである。
 
 
ATフィールド、絶対領域を自ら展開可能なエヴァであるなら、あっさりと必勝するであろうし。
 
 
「そうだなあ・・・・・・後はネルフに任せてもかまわんだろう」
 
 
「ええっっ!!?」
時田氏の思わぬ気の抜けた発言にJA指揮所は「そりゃないぜ社長」とブーイングの嵐。
 
使徒の動きを真・JAは捉えてきている。高速で動き回る四足獣の攻撃パターンを解析しもう少しこのままやれば、クリーンヒットをかまし、足を捉えて関節技にでも持ち込みそのままコアを砕いてしまえるだろう・・・・自分たちのJAが人類の敵である使徒を倒す・・・・それはなんともいえぬ欲望を満たす無上の快感であろう。上位存在を越える喜び、それは欲望を越える欲望。霊長類を名乗る生命のGスポット。王者を目指す獣の本能。
恐怖から解放される時間を刹那でも早く求める反応。単なる功名心だけではない根が深い強い声。
 
 
いー・け!
いー・け!
ここでひいたら男じゃ・ない!!
たおせ・時・田!たおせ・時・田!
 
 
指揮所のほぼ全員がそろっての続行コールであった。別に時田氏を倒すわけではない。
倒すのは使徒であり、それをやるのは自分たちのJAである。
 
 
冷血である真田女史はおそらく一言二言で黙らせることができたが、自分が黙っている。
冷血女であるから時田氏に任せきり。試すでもなく興味もなさげに待っている。
 
 
ちなみに、くどいようだが目下時田氏と操作する真・JAは使徒と戦闘中なのであり、考え事くらいならばともかく、口を開いて皆を説得しながら使徒ともやり合う、などという真似ができるわけがない。それは器用とかいうレベルではなくできたら宇宙人であろう。
かなり困った事態であった。
 
 
 
「バカなこといって時田困らしてんじゃないわよ、あんたたち」
 
 
端末がいきなり5つまとめてジャックされて画面上にオレンジの髪の少女の睨み顔が映った。音声のボリュームもいじくられたのか、スピーカーからやたらにでかい音が近くにいたスタッフ達をはりまわし、続行コールをびりびりに引き裂いた。<中継・ドクロタワー>と画面隅にありジャック元は一目瞭然だが問題はそこではない。
 
 
「使徒がATフィールドを展開せずにこっちのJTフィールドで絶対の盾がもらえないってんなら防御面で不安が残りすぎる。損壊打撃命中率が3割越えてるじゃないの。そこの時田が操作ミスって滑って転んでリアクターにクリティカルヒットでもくらってみなさいよ。JAだって謎の超合金でできてるわけじゃない、それなりのまともな装甲しかもってないんだから、シャレにならないってーの!!。JAの戦闘は敵のフィールドを横取りすることからスタートする、その前提が崩れてる今の戦闘は一刻も早く切り上げるべきなのよ。エヴァがスタンバってなかったらしょうがない足止めだったけど、パイロットが搭乗したならこんな現場に用はないっての。先制の一撃が効いたのか、これだけフィールド展開してこないってんならあとはエヴァに任せればいい、あんたたちは軍人でもなんでもないんだからしょぼい星にこだわんじゃないわよ・・・・」
 
 
オレンジ髪の少女に叱りつけられてコールも完全に止んだ。話す内容と外見があまりにアンバラだが、スタッフ達は正確に内容を聞き入れた。確かにその通りなのだ。
 
しょせん、人間が造ったロボットであるところのJAには限界があり、問答無用に無敵で絶対勝利、などというのはあり得ない。敵の、使徒の殻を奪ってようやく対等以上になれるのだ。一時の優勢に調子こいていた自分たちを恥じる。その感覚を、気持ちを忘れてしまえば容易にMJ-103のような存在に堕してしまうだろう・・・・と時田氏は付け加えた・・・・りはしなかった。しつこいようだが、使徒との戦闘は続行中。使徒もしつこい。
振り切るなら振り切ってくれてもいいんだがなあ・・・・
 
 
だが、スタッフたちが分かってくれた嬉しさは、時田氏の胸の内で燃え上がった。
 
彼らへの言葉とならないゆえに、いや増して!
燃えるこの熱き気持ちを真・JAの操作にこめると、それが真・JAには確かに伝わった!!。嘘ではない。嘘ではない証拠に、地面スレスレから振り上げられたライジング☆アッパーが使徒の熊顎を見事に捉えてズゴーンとぶっ飛ばした!!
 
 
「アリ?」
 
 
まさか相手よりずっと低い位置にある己の顎をカチ上げられるとは使徒も思っていなかったのだろう、このトリッキーさにまともに喰らった。格闘ゲームであれば空中コンボのタイミングであるが、使徒もJAもその巨体上、そこまで物理学を無視できない。だが、決まった。
熊顎は完全に砕かれた。時田氏に手応えあり。これでもう噛み攻撃はできまい。
 
 
「時田!あんたわたしの話きいてなかったわけっ!?なにいきなりイイのをぶちかましてんのよっっ!あー・・・・・・損壊率18・・・16・・・15パー切った!!もうやっちゃえ!やっちゃえ!!やっちゃえ!ここまで牌がそろってリーチかかってんなら、一気にそこの赤玉くだいちゃえ!!」
 
物事には勢いとか臨機応変とかいうものがある。いきなりさっきと言ってることが180度転換しようとオレンジ髪の少女の言葉に嘘はない。そのまま間髪いれずに使徒に追加攻撃をかました時田氏も二重人格などではない。タイミングは頭で掴むものではないからだ。
 
 
先ほどまでは一時、使徒から離れ第三新東京市に向かわせておき、自らはジェットクモラーに再収容、遠距離を保ったまま都市上空よりエヴァ零号機と使徒が臨戦したところで様子見ながら、使徒がエヴァを目の前にようやくフィールドを展開すれば、それをジェットストリーム砲で取り上げてしまい裸にする、というようなことを考えてはいたのだが。
それはそれでいぶし銀的キャラクターの立ち位置でありそれなりにおいしいのでしかし!
 
 
「JA!九連宝塔国士無双キック!!!」
いきなり脈絡もない必殺技名であるが、これはオレンジ髪の少女へのサービスである。
最近のブームはすでにサンバイマンではないのだが、そこまでは時田氏も知らない。
 
 
飛ばされて体勢を崩した使徒めがけて、真JAのトーキック!!狙いはコア。
巨体を支えて自由自在に動き回るJAの脚部のパワーが十分にこめられた蹴りである。
モロにくらえばヒビではすむまい。そして、凶悪なほどのタイミングは時田氏にあった。
モノホンの格闘家、解説者が見ても文句のつけようのない一撃である。
そのとらえ具合、とても頭の中では他のことをチラチラ考えていたとは思えない。
攻撃を受ける使徒からすれば、人間の方がずいぶんと奇妙であったことだろう。
 
 
真・JAのケリが命中する!!
 
 
巨大重量とアトムなパワーが充ち満ちた破壊力がこめられたつま先が当たる刹那
 
 
獣使徒が吼え、その背にある人間サイズの「何か」が、許すように一言くだした。
 
 
夜闇を閃き弾く光の壁が広がり、それの進行を絶対的に阻んだ。
 
人類が求められる最大値に近い打撃エネルギーが一気に零値にまで減衰させられる。
 
絶対領域、ATフィールド、それをとうとう使徒が使用したのである。さすがにこのケリが当たればコアが砕かれることが分かっていたのか。機能的に展開可能であったのに今の今まで温存していたのは、バッテリー容量に不安があるのかそれともプライドのゆえか。
 
 
ここからは人の手の及ぶ領域では完全になくなった。人の子は壁越に神の使いを見ることしかできずに、歯を剥き出すだけの金網の中のモンキーとなる。お猿さんだけに、時田氏たちはそろってウキウキした。反応速度はまちまちであるが、これを待っていたのだ。
見逃すわけがない。やるこたあ、ただ一つ。指揮所全員(真田女史のぞく)で唱和する!
 
 
「JTフィールド展開っっ!!そのフィールドもらったあ!!!いただき万太郎ーー!!リーマンなめんな!!」
 
 
と、いった感じで真・JAは十八番のJTフィールドを展開、力場反転、使徒のATフィールドをあっさりとりあげた。まさに天逆。皮肉極まるが、これで完全に勝負がついた。
 
 

 
 
と、使徒戦に慣れた者たちは思った。このまま絶対領域をかぶったJAが使徒を、その抵抗を完全に防御しながら一方的にボコボコにするであろうと。それでカタがつく、と。
 
 
だが、それは違った。違ったのだ。今回は。今回の使徒は。
思惑を越えていた。今までの経験を体験を無意味に、それらをあざ笑う戦の革命。
古びた戦闘教義にいつまでもしがみつく者は敗北し、そして滅びる。
 
 
使徒戦に慣れていない者たちははじめからよく分かっていないので、その分だけ衝撃は少なかった。そういった意味で世の中はバランスがとれてよくできている。
 
 
完全に状況を、掴んでいるのは零号機内で射出命令を待ちながらモニタで戦況を見ていた綾波レイくらいなものだった。黒と白が反転し、今までの世界が逆さになろうとその赤い瞳は眩まされることはない。感情のないその心はまどわされることはない。
 
 
ATフィールドを奪われた使徒の背にいる毛皮をまとった人型サイズの何かが、腰にある黄金の剣を抜いた。抜き手が人型であるから刀身もそれなりのサイズであろうと推測されるが、そんな常識は一蹴された。そこから迸るのは、戦場の夜気を切り裂く黄金の光線・・・その強烈な明度はモニタの補正機能などチャラにするほどのグレアであったが己の視覚を能力強化していた綾波レイにはみてとれた。巨大な、真・JAの手足でも胴でもちょん切れるほどの黄金の牙剣がJAのフィールドをさっくりと貫き通して機体を刺していた。
 
ズギュン
 
そこからくるりと牙剣が螺旋をもって引き抜かれるとその剣先は機械の塊のようなものをのせており、器用にも落とすことなく剣先から柄本に滑らせると、それを、JAの内部から抉り抜いた塊を、獣使徒に「喰わせた」。顎が壊れている熊はもともと喰えなかっただろうが。
 
 
 
そこから先は、悪夢だった。黄金の牙剣は鞘に収められるとあれだけ巨大であったものは人型サイズの「なにか」に傅くようにランプの魔神よろしく縮小しその腰元に収まった。
 
 
黄金の牙剣はフィールドをものともしなかった。相手の内部から一部を抉りだしそれをも透過させてのけた。それだけでも脅威であるが、牙剣そのものも凝縮されたATフィールドの一種だとすれば納得がいかないでもない。本当に納得がいかないのは、
 
 
獣使徒が先ほど機械の塊を喰らった口からJTフィールドを発生させて、先ほど奪われた己のATフィールドを「取り返した」ことだろう。あまりといえばあまりのことに動きが止まった真・JAの片腕片足をかみ砕き、倒した。そして、疾走。トドメを刺さなかったのは双方共に勝負がついたことを理解したゆえか、それともヘタに自爆でもされて大地が汚染されることを嫌ったゆえか。真・JAは敗れた。
 
 
同時にエヴァ零号機が地上に射出された。もはや立ちはだかる邪魔者はなく、一直線に第三新東京市に駆けてくる使徒。わずかばかりのダメージを帳消しにするほどの特殊能力を得て、悪夢が疾走してくる。
 
 
JTフィールドを使ってくる使徒・・・・・・ATフィールドをものともしない黄金の牙剣をもつ人型の「何か」をその背に乗せて
 
 
攻撃能力も防御能力も完全に今までの使徒とは系統が異なる。革命型の使徒なのであろうか。その対応は戦術を一新させて立ち向かわねばならないはずだが、現状のネルフ本部発令所にはそんなことができるわけがなかった。
不慣れなオペレータと六人いて意思の決まらぬ作戦部長、蠅の羽音をさせるだけで何一つもの言わぬ司令、混乱する現場とそれを遠くから眺めて治めることの出来ぬ指示者たち。
「行ってこい」ではなく、これでは「逝ってこい」である。
 
 
そんなものに背中を預けて、知恵らしい知恵をひとつも授からずに出て往かねば綾波レイの心境は・・・・・ひたすら無心。感情がない故に怒りも落胆も恐怖もない。
 
 
獣使徒と相対する。その背にある毛皮をまとった・・・・カンで分かる、それが使徒を従える上級の使徒、大使徒とでもいうような存在であることを。おまけに、そのカンの良さが評価されたのか、堂々と心話で名乗ってきた。
 
レリエルの半身でサポートされていたある程度使徒耐性がある綾波レイにしても脳内にガンガン響くほど強烈な声。
 
 
名を、(VΛV)リエル。あまりに言霊が強烈すぎてそこまでが翻訳の限界だった。
 
 
あとは何いってるのかさっぱり分からない。降伏勧告であっても従う気はないが。
”誰か”を捜しているような感じであったが・・・・・・そこで、零号機の刀が走った。
 
 
先に手を出し、戦端を開いた。相手を見極める時間も稼がずに、使徒との戦いを始めた。
六人、いやさ七名いて、1人の少女の冷静さを欠いた、暴発を止められなかった。
 
 
皇卵は零鳳、初凰とはくらべものにならぬなまくらで斬れたものではない。そのうえ、やすやすと避けられた。まるで剣気がこもっていない。野散須カンタローに確かにこれなら鉾をもぶった斬れる、と評された入神の気合いがまるでない。これでは零鳳を使っていても同じ事だったに違いない。けれど、そんなことは誰も分からない。誰も。日向マコトがなんとか違和感を感じる程度だが、彼にしても状況を制御するので手一杯でまともにそんなことを見ている余裕はない。
 
 
魔弾を装填した零手観音も(VΛV)リエルの抜刀する黄金の牙剣で蠅でも追うようにやすやす退けられた。格が違う。人の怨念など届かぬ彼方に本体をおいているのか魔弾の追跡吶喊力もいまひとつ鈍かった。射手に相手を必ずやブチ殺す、といった必殺の気合いがない、というのもあるが。
 
 
零号機のATフィールドも(VΛV)リエルのアッシーであったところの双頭獣使徒の奪いたてホヤホヤ能力のJTフィールドで取り上げられる始末。
 
 
そして何より、零号機の動きが鈍すぎた。綾波レイの何が気に食わないのか何が許せないのか、零号機とのシンクロ率が低いのだ。単純作業ならばともかく、戦闘ともなれば連動速度。それが大きく響いてくる。JTフィールドを得た今、双頭獣使徒だけでも十分、零号機に勝てただろう。発令所からなんのフォローもなく、ただ1人で戦う蒼い一ツ目巨人。
組織の歯車は噛み合わずに機構全体で蠅の羽音どころではない奇怪で耳障りな音を発していた。悲鳴のような。
 
 
黄金の牙剣が一閃する。
 
 
零号機の左足を膝下から切断する。