「ハッピバースデートゥーユー♪」
「はっぴーばーすでぃとーゆー♪」
 
 
「ハッピバースデートゥーユー♪」
「はっぴーばーすでぃとーゆー♪」
 
 
誕生会が行われていた。さきほど新郎新婦が結婚式をあげた光馬天主堂の中で。
ばかでかい白く輝くケーキはエヴァ四号機を形取ったものらしい見事なもので。
火のついたろうそくは、赤いものと空色のものとそれぞれ一本ずつの計二本。
それから歌う声は、人の声帯によるものではなく、鳴き声といった方が近いが、どういう案配か、それなりに聞き取れた。聞き取れぬ波長域の方が多そうな列席面子であったが。
この和やかで幸せで穏やかな雰囲気の中で、「どんな怪物パーティーよ」とかいうKYなつっこみは控えるとしよう。「どんな実験パーティー・・」という的確な感想もまた。
 
 
 
あれ・・・?
 
 
・・・・・えーと・・・・・?
 
 
この光景はなんだったか・・・・なんで、こんなものを見ているのか・・・・微妙に視点が定まらない。外の窓から覗き見しているようでもあり、内部で記念用ビデオカメラでも構えながらふらふらと慣れぬにわかカメラマンをやっているようでもあり。うーむ。
 
 
新郎は、渚、カヲル・・・・フィフス・チルドレン・・・・で、
 
新婦が、ファースト・チルドレン・・・・綾波、レイ・・・かな?
 
 
だったかな・・・・・顔は同じだが、どうもそのハッピネスな感じが、違いすぎるような。
装いがしみひとつない新生の白であるだけに、ごまかされよーもない。
 
 
世界の不幸と苦痛と悲哀を一身に背負って表情すらも消しましたダークネスホワイトアウトみたいな面構えと、ちと違い過ぎやせんだろうか・・・・まあ、恋すれば女は変わるが。
変わると言うが。変わってもおかしくありません後ろ指さしちゃいけません、という免罪符みたいなものだが。たいてい、今まで不幸さ哀愁が売りだった者が急に幸せ掴んだりするとその来週あたり糸が切れたように何の因果か、ぶつん。と死んだりするものだが、・・・・・・・・・・・・べつにこれはやっかんでいたりするわけではなく、悪魔で、もといっ!、あくまで一般論であるのだけど、何の因果か、反動というか逆凪というか慣れぬ幸せに身体の方がついていけず寄せ付けぬ免疫反応というか、そんな心配すらも。
 
 
寄せつけぬほどのアルティメットハッピーオーラが漂うどころか、新婦びんびん物語というか、金草鞋城は鉄壁というか・・・・・・どうにも、くたばりそうにない。
アーメンというかエイメン。
 
 
はて・・・・?
 
なんか、おかしいような・・・・
 
なにがおかしかったのか・・・・間違い探しのように、おかしいのか
 
おかしいといえば、もうこの光景全てがおかしいのだが。新訳・婚活の国のアリスみたいな。いや、違う不思議の国だ、不思議の国。ペットショップには絶対売ってない種類のウサギもタマゴもネコもいるし。
 
 
けれど、この違和感というか・・・・・・不気味な予感は・・・・胸が騒ぐ・・・
 
 
なんか、とんでもないことが、起きる、ような・・・・
 
 
光景としては、ビジュアル的にはダメな人間にはダメだろうが、空気的にはほのぼのとしている。ボーダーラインとしては、カエルの解剖だろうか・・・もしくはイナゴの佃煮。人間の参列者がおらんから、いっそ裏も読まずに気楽に眺めていられる・・・はずなのだが・・・・結婚式ならともかく、まさか、誕生会を邪魔する奴はおらんだろう・・・・・いや、待てよ・・・・童話なんかではあったか・・・・嫌われ者のいじわる魔女、とか・・・かっこいい王子様に横恋慕していたりすると最高・・・いや、ごほんごほん!エヘン虫はまだ絶滅していないようですね・・・、うん、ゴホン、なかなかむつかしい局面になるだろうことは想像に難くない・・・のであり。その設定も、ちと女性差別というか偏見が入っているような気もするので、逆の設定、女性から見た女性好みの想定をすると、かっこいい王子様をさらいに、けなげで気弱な眼鏡な王子様が・・・って、なんでやねん。どっちにしろ王子様しか狙われておらんやんけ。童話的にいえば、まあ、お姫様を狙うのは悪いドラゴンとか・・・隣の国の王様だったりすると、単に蒼き狼の国盗り物語だしなあ・・・。
 
 
「ハッピバースデートゥーユー♪」
「はっぴーばーすでぃとーゆー♪」
「ハッピバースデートゥーユー♪」
「はっぴーばーすでぃとーゆー♪」
 
 
歌は続く。まさかエンドレスじゃあるまいから、そろそろ最後のアレがくる。
 
微妙に、新郎が時間を気にしている。さらに予定があるのか、それともサプライズのタイミングを計っているのか。サマが決まっているので、見抜ける者はそうはおるまい。
というか、自分だけだろう。そんなこと気にできるのは。
 
 
祝う気持ちもないくせに。
 
 
こんなふたりの・・・・・・とまて、このふたり、誕生日がおなじだったっけ・・・・?
いや、べつにそれはいいのか。片方のそれを祝うのだとすれば話は通る。ただ、あの色違いのろうそくに騙されただけ。まるで、それぞれの歳を・・・・ああ、それもダメだ、いくらなんでもろうそく一本、十ケタ換算しても、足りはしない。気に、しすぎか。そんなこと。なんとなく立ててみたのだろう。それとも、手違いでその二本しかなかったとか。
場所と雰囲気に呑まれているだけで、こんなのただのイベントにすぎない・・・・。
 
 
渚カヲルと、綾波レイ
 
 
こうして並ぶと確かに、似合っている。侵しようもない至高の雛人形というか。
まあ、新婦が新郎にあれだけデロデロらぶらぶであれば、似合ってみえるに決まってるが。
しかしながら。ほんとうに、凄まじいキャラクターの変わりぶり。気味が悪い、いやさ空恐ろしいというか・・・・・まさか
 
 
別人、なんてこたぁ・・・・・
 
 
「♪Happy Birthday dear・・」
「♪はっぴばーすでーでぃあ」
 
 
まあ、もうすぐこれで分かる。
 
名前さえ分かれば間違いようもない。この顔で名前まで一緒で別人ならもうサギだ。
ザギといってもいいくらいだ。こうのとりさんは、そんなところにはこないぞっ。多分。
 
 
”ぐたばれ”
 
 
瓶入りの毒ガスが自爆覚悟で踏み砕かれたかと、思った。
そのくらい、強い呪詛が背後で打たれた。とてもじゃないが、前など向いていられない。
名前の確認どころではない。緊急性において早急に知らねばならぬのは・・・・・
振り向いてそちらを確認しなければ、そのまんま命の緒をちぎられれる・・・戦慄
それほどの、強烈な、躊躇も社会常識も何もない、底の底から噴き出してくる荒々しさしかないマグマ、原初の剥き出しの核感情。憂鬱、などという画数が多いだけのものとはケタが違う。確実に己だけではなく相手に向けて、ぶちまけられる・・・・心のハラワタ
 
 
大罪である、と聖なる書物は教えるが。
 
 
一般生活人として、その戒めは厳しすぎるのではなかろうか、と異を唱えたい気持ちはあった。だが、その感覚はどうも、誤りであったようだ。こんなものが背後に立てば。
 
 
大きなバケツに入った「少女」
 
 
見た目を一言で言えば、そんなようなものだが。物事は中身が肝心である。
バケツには赤い髪がゴルゴンのようにはみ出ており、少し浮いたバケツの蓋からギラつく緑の目が。
 
 
”ぐたばれ”
 
 
大事なことらしい。もう一回いいやがった。掠れた声だが、間違いない。こちらに向けてではなく、天主堂の中にいる、あのふたりに向けて、だ。間違えようがない。こんなもの。
知らずにこんなレベルの核心情をぶつけられては、いかな強人超人でも爆砕するしかない。
 
 
大罪である、と聖なる書物が教えるだけのことはある。
 
 
なにかのメタファーなのか、それともただの真実なのか、バケツには内部に収めたものが極上危険物質である、しかもそれらの三冠王であることを示すシールが大きく貼られている。それさえなければ、皮肉が売りの人形劇のキャラクターっぽい、と説明することもできたが・・・ムリだった。そんな、かわいい代物ではない。餅やマシュマロを焼いてすますような長閑さなど微塵もない。
 
 
”ぐたばれ”
 
 
さらにもう一度追加してきた。そんなことは一度だって十分すぎるのだが。よほど大事なことらしい。
 
 
大罪である、と聖なる書物で教えられながら。
 
 
こんなのがここで呟いているだけならまだしも、乱入したらどえらいことになるなと思った。大罪を見ているだけで、やはり罪になるだろうか。大問題だ、と思ったら、天主堂の入り口扉が開いて、ぞろぞろぞろぞろ・・・・鋼鉄製のロボットとゴム人形っぽいアンドロイドに先導されて、参列者というか参加生物たちが出てきた。誕生会はおひらきになったらしい。ここは、ほっとするところだろうか・・・・・どう行動すべきか、迷う。
 
 
だが、呪いバケツは迷いなどなく・・・・・・、天主堂にカチこむのかと思いきや。
 
参加生物たちのあとをつけていった。速度自体は段ボールをかぶった潜入ソルジャーくらいであったが・・・・それだけに執念というか怨念を感じさせた。もちろん手伝おうなどという気には一切ならない。しかしながら・・・中にまだ残っているいるらしいあのふたりに教える気にも、なれなかった。