戦闘というよりは、調理に近い、と思った。
 
 
そう思わねば。大笑いしてしまいそうだった。そして、精神の平衡を失う。その機能を司るパーツのひとつを大いに傷をつけてしまうだろうことは予想がついた。
 
 
見届ける自分が、そんな感想を抱いてもいいのだろうか、と少し反省もしたが。
 
 
黒と白とが混じり合い、灰色のようになってしまったエヴァ、参号機と
 
 
白い亀のような顔を埋め込んだ棺のような使徒を二人羽織のようにしたエヴァ初号機。
 
 
 
黒羅羅・明暗と碇シンジとの・・・・関係性の終着地点。
 
 
ありとあらゆる攻撃方法・・・・それは、さきほど渚カヲルからラーニングした絶対領域を応用したものも全て含めて、黒羅羅明暗が習得した拳法の類と自ら考案した黒腕法と白械法・・・・それらが行う殺意の実現方法をざっと三千回ほど・・・・・・それらを
 
 
使徒を羽織った初号機が、受け止めきった。ほとんどかわすこともせず、それとも単にそのガタイ増大化によってかわせなかったか。一方的にボコられている、と・・・それでも参号機のひとつひとつの攻撃は間違いなく必殺モノであり、受けてくたばらずにいるだけでもたいしたものだったが・・・・事実、周辺は壊滅。窓の向こうの窓を見る、望遠鏡のような光景。双方、星になるような距離をとっているにもかかわらず、隕石のように到達した衝撃波だけで。ぼちぼち天主堂もやばい。強度より当たり所の問題だ。
 
 
なんのためにこの二人が戦うのか・・・・
 
 
格闘戦最強とうたわれた参号機がそんな頭の悪い戦い方をする必要がどこにあったか。
 
 
これだけの巨大戦力を個人の都合で振るっているのか、大義はどこにあるのか
 
 
両方とも、人とは言い難く、さりながら・・・使徒である、と言い切ることも
 
 
よく知っていながら・・・・そのはずであり・・・・・よく分からないものどもが
 
 
そこにいて、戦っている。
 
 
「あれ」をやるまでは、まだ碇シンジには躊躇があったり、戦闘を停止したり回避したりする意思があったのではないか・・・あってほしい・・・あの姿でも・・・祈りのように願いのようにそう思った・・・・・無限の闘争心をもって喰らいかかってくる相手に、万やもうえず、相手をしているのだと・・・・・なんとか、耐えているのだと
 
渚カヲルと、綾波レイによく似た少女の生首・・・・・フラッシュバックするイメージに吐き気が呼び起こされて、「うっ」口をおさえる・・・・・・これももう何十度目か
 
そのことに対する敵討ちであろうと・・・・・いや、それをいうなら渚カヲルは綾波レイににた女、新婦を刺していた・・・・・そもそもなんでこんなところにいるのか・・・
使徒を羽織る初号機は使徒に汚染されてその言いなりにでもなっているとしたら・・・それと戦う参号機は・・・・・頭が混乱してきた・・・・・・ただ思うことは、碇シンジにはこんな戦いをして欲しくない、ということだけ。こんな、野試合いやさ決闘をするために、エヴァを駆るのは・・・・・・ダメダメだろう、と。
 
 
奇妙なほどにあの初号機には激情らしきものは感じない。
攻撃を受け続ける姿は憎しみの光や憎悪の炎を溜めて溜めて溜め上げている・・・・わけではない。
 
 
そこに碇シンジがいるのか、ほんとうに彼が乗っているのか・・・・
 
 
ひしひしと感じるのは、「我欲」。生命維持のための本能発動、とも違う。
 
 
この距離で遠隔同調しているわけでもなかろうに、そんな匂いがするのだ。
 
理屈もなんもない、ただのカンだ。女のカンだ。ここで働かなくてどこで働く。
 
なんで、この破壊戦場でそんなちっこい心配をしてしまうのか・・・・・
 
バカだろうとカバだろうと、そんな男であってほしくなかった。そんな期待をかけ
 
 
そのようなことを、バカのように、思っていた。
 
 
信じていたのだ。信じていたかった。それでも。
 
 
あっさり、それは裏切られた。予想の次元を越えて。
 
 
初号機は自前の左腕が、どこに置き忘れてでもきたのか、なかった。
そこに、白亀棺桶使徒を接続して・・・・巨大包丁のように変異させて
 
 
そのまま
 
 
ととととととととととととととととととととととととんっっ
 
 
参号機を、細切れにした。
 
 
ミートキューブより、もっとこまかく。骨格も、綺麗に。
 
 
それは、完全に、「調理」の手際だった。それができるというのは、力量の問題ではなく、存在のケタが違うと言うことだ。初号機は参号機と戦闘しなかった。戦闘以外の選択肢を選び、選べたということ。なにか目にはみえない肝心な・・・ひとつの体を体たらしめている接続の流れ、肉の絆、とでもいうようなものまで遠慮なくぶった切られている・・・・・もはやそれらは参号機というものの元パーツですらなく、単純なひとつひとつの声帯部品として変質還元されているような・・・・参号機、そこにいる、いた黒羅羅・明暗じたいもそれを望んででもいたかのような、簡潔な鮮やかさ、分かりやすさの俎上儀式であった。体のあらゆる・・・吠え声までも武器化して戦っていた参号機にしては悪足掻きひとつない諦めの良さでそれを静かに受け入れたような感覚もあった。それで凄惨度がさがることもないが。自分を慰める趣味はないから、こんなものを少女に目撃さすなよ、と代わりにつっこんでおく。
 
 
細切れ肉たちは・・・・ブタの細切れが豚こまであるから、これは、”参こま”、とでもいうべきか・・・・・うーむ・・・・・・・・・悩んで答えの出そうもない、出してもいいことはなにもなさそうな問題だから、スルーしておこう・・・・・拾われもせずに雲海の下にそのまま落下していった。肉の流れ星・・・・・参こま流星・・・・・うーむ、ちっとも綺麗なイメージじゃないな・・・・・どちらかといえば残酷アチョー水滸伝か。
そのまま初号機によるアレを用いた料理ショーが始められてもこちらの正気的に大いに困るところだったが。
 
 
実際のところは・・・・・当人同士にしか分からないのだろう・・・・あくまで、これは見た光景からの印象だ。けれど、外れでない自信がある。
 
 
 
 
つんつん
 
 
そんなタイミングで背後から誰かに指でつつかれた!!。
 
 
まったく気配に気づかなかった。見ることに集中していたのだから仕方がない、というか今の自分は透明な幽霊状態でなかったのか・・・・いや、それにしても油断に違いない。
不覚・・・・っ!この異常状況に慣れすぎてしまうとは・・・・・ここはもう・・・・
「お武家さま言葉講座」を受講するべきか、悩むくらいの不覚さであった。無念・・・
相手が敵なら完全に狩られている。首をさしだす覚悟で振り向いてみると・・・・
 
 
が、そこには
 
 
赤い髪と緑の目が印象的な、女の子がいた。
 
 
こっちをつついておきながら、どうも目の焦点があっていないような・・・・
 
 
どこかで見た覚えがあるが・・・・名前が出てこない・・・・・・さて・・この娘は
 
 
もしや、見えていないのだろうか・・・・・なにかの理由で、窓に触れようとしたのが、たまたまこちらの背にあたったような・・・・・それも妙か。入り口の扉を探そうとしただけのことかもしれない。「・・・もし、」良かったら、手を引いて案内するくらいのことは問題ないだろう、余計なお節介かもしれないな、と思ったら、
 
 
衝撃波が今頃きた。
 
 
天主堂が破壊される。一応、名前が出てこない女の子をかばおうとはしたが、あまり意味はなかった。おそらく、二人とも吹き飛ばされた。ただ、こっちの意識が飛ぶ前に、声が聞こえた。それは、深い深い感謝に基づく誓約。この証人になるため自分はここに来たのではないかと一瞬、思ってしまうほど真剣な。内容と意味がよく分からないけど。それだけは伝わった。「なぎさ、カヲル君・・・・・・ありがと、ありがとう・・・・」
 
 
「わたしが、死ぬまで、いや、死んでも、大事に、大切に、するからね」
 
 
聞かせる相手が自分じゃないからしょうがないけど、目的語は欲しいな、と思ったところで記憶の照会がついた。この赤い髪と緑の目・・・・・雰囲気というか宿るオーラの色が百八十度転換しているので気づくのが遅れたが・・・・それもかなりの不覚だが・・・あのトライハザード三重禁忌バケツの少女だ。いや、アンタ、むちゃくちゃ渚を怨んでなかった?それどころか、かなりやけくそ卑劣な実力行使に出てなかったっけ?
 
 
・・・・・なにがあったのか・・・・・?こっちもなんか箱船の逆襲にあって潰されたんじゃなかったかなー・・・・こうしてバケツから出て五体満足ってことは・・・・・
 
 
結論が出る前に、意識がブラックアウトした。
 
 
 
「・・・・そろそろ、決められますか?」
また、覚えのある声が、どこからか、聞こえた。