「方主シリーズ!?あんなもんまでよくも・・・っ」
 
 
歯噛みするのは葛城ミサトである。
限界ギリギリ、いやさ限界突破しての作業速度でとりあえず分担をこなしてなんとか外の状況を確認する時間をつくりこうして一画面だけ見られた内視鏡室モニタにかぶりつくようにして見ている・・・それもあと一分もなくなったが・・・・はっきりいって目を覆いたくなるような惨状だった。スナッフムービー、人肉ハンバーグ製造映像とでもいうか・・・・・それを全力で見なければならない、というのは・・・・・
 
 
エヴァでの使徒戦闘も似たようなものだ、と言われればそれまでだろうが・・・・・
 
にしても、限度というモノがある。それが、いま、越えられた。一線越えた。
 
 
体重差というのもバカらしい巨大拳でのリンチ攻撃に飽きたらず・・・・・
 
巨大武器まで持ちだしてくるとは・・・・・しかも、その全てが大業物ときている。
支配者の留守中だからといって本当に好き放題やる。子供一人に。域を超えている。
一体どんなオーバーキルなのか。戦いの作法もクソもなく、あれでは誤爆がなかろうと周囲の市街地までタダではすむまい。
 
 
「よくもよくもよくもよくもよくもよくも・・・・ッ」
 
歯噛み歯軋り体内にカルシウムがいくらあっても足りそうにないド高圧の硬質摩擦、元作戦部長の仮面などどこにもなく、その最後の最後まで手を抜かぬ油断せぬ性根を賞賛する余裕もなく、ただ怒りに怒りムカつきにムカついていた。街の人民のためではないから、義憤ではない、ただ一方的にフルボコボコにされた、あれで生きていたら地球外生命体で間違いないだろうが、かつて同じ星一つ屋根の下で暮らしていた、少年のために。
 
 
「極東方刀主・街雨」
 
「裏東方刀主・街正」
 
「英方斧主・曜呼斧」
 
「関東方妄剣主・架緒素経津℃」
 
「関東方妄剣主・羅舞中中」
 
「西方鈴剣主・在都音璃呼」
 
「北方箒主・那異図羽衣座竹」
 
 
気分が悪いのは連れ合いと同じであるが、それよりは、役割としてもそうだが、多少は冷静な加持リョウジが持ち出されてきた巨大武具・方主シリーズの名をあげていく。どれひとつとっても人間サイズの一体に使用されていい代物ではない。センスを疑われるのもあるが、物理的以外の被害影響がでかすぎる。妄剣、などと呼称される二振りが突き立てられることになれば、ガッツリと二十キロ半径の住人は精神汚染されるかもしれない。
 
 
だが、それだけになんとも付けいる隙のない布陣である、といえなくもない。
 
 
こんな贅沢かつあほな武器の使い方など、第三新東京市での使徒戦でも数えるほどもやっていない。
 
何者であろうと下手な介入小細工をすれば、碇シンジのみならぬ市街部まるごと更地になるぞ、と。いうわけなのだろうが・・・。もとより半分はその気でいるのかも知れない。
 
経済生産機能的にはノスタルジー優先の趣味の世界域だる旧市街より竜の工房たる島々の方が比べものにならぬほどに優れている。比較視点をずらせばまた別の結論も出るだろうが、それを決定するべき支配者が、現在は不在なのだ。
 
 
もし、ヘルタースケルターが作業初めに期待したような機体であるのなら、こんな場面にこそどうにかしたのだろうが・・・・・・それはない、と制作者側から断言されてしまった。こうして実作業に関わってみれば、確かにその通りで嘘でも何でもない。
 
確かに、ヘルタースケルターには、どうしようもできない。役立たず、と呪う気にはなれない。それぞれ役割というものがあるのだから。ただ・・・・
 
 
こうして見ることは出来ても、なんの手助けも出来ない、というのは、しかもその作業が無茶苦茶ハードでキツい、しかも単純ではなく複雑の肉体労働、ときては。ご丁寧に侵入者除けのトラップまで仕掛けてある箇所もあって、設備点検作業というよりちょっとしたダンジョン探検に近い。時給一万もらっても合わないアルティメット3Kぶりである。娘の親友をなんだと思ってるのカー・・・・文句の一つも言いたくなる。「なにがHHJシステムよ・・・・・こんなにパワーがあるってのに・・・・・・」
 
 
はっきりいって、あの状況ではどうにもならない。碇親子は相手の戦力を読み違えた。
 
切り札はもう一枚あったのだ。ロイヤルストレートフラッシュがもう一組組める、というあたり、もう勝負になってないともいえるが。五光、いやこの場合七光か。
 
いや・・・・
 
 
これで、この有様で、諦めない、というのが異常なのだ。負け惜しみも甚だしい。
碇親子は負けたのだ。互いの存在を賭けるような勝負をして。敗れればどうなるか。
 
自明の理。
 
何回も拳が叩きつけられたのも、敗者を一方的に徹底的に最後の最後気の済むまで貶める勝者の権利を行使しただけのことかもしれない。残虐で残酷かもしれないが、珍しくはない。
 
 
これが、エヴァの、人間の操るエヴァの、やることだ。
 
 
否定したいところだが。認めるしかなく、自分はそれを予見し確信もしていた。
 
 
「シンジくん・・・・・・」
 
 
そろそろ休憩時間が終わる。作業に戻らねばならない。あそこからアスカが立ち去ったらしいことはせめてもの救いか・・・・・なぜ右眼らとともにひとり残ってすぐに離れなかったのかという疑問もないわけではないが・・・・・トドメの巻き添えを食らうだけだし、正解だと言わざるを得ない。
 
 
「・・・・・・・・」
 
祈ってもこの場合、どうにもなるまい。
 
あの七兵器を前にして、どうにかできるとしたら同じエヴァでも初号機くらいのものだろう。が、このピンチに空を割って初号機が降臨してくるなら、とっくに現れていなければおかしいくらいのやられぶりだ。反撃できるならすでにしているだろう。高倉健さんの真似でもしているのなら別だが、ここまで我慢する必要性は認められない・・・・・・・
 
さまざまな修羅場を踏んできた加持リョウジにしても、敗者をしつこくしつこく鞭打つ拳打つような陰性のこの有様は、神も仏もあるものか、とつくづく思った。
 
奇跡は、どうも、起きるようではない。
 
それもただの奇跡程度ではどうにもならぬ圧倒的不利であり、奇跡の大盤振る舞いが要りようだった。
 
 
 
「なんじゃあんたら、ここに戻っとったんかい!」
 
そこに、向の半被を着た地元のおっさんがなんか怒ったような調子で駆け込んできた。
 
 
「さぼっとったらおえんで!おえん、というんは標準語で、いけない、ということじゃからな。まあ、今は急ぎじゃから標準語に訳なんかしとる場合じゃなかったの!」
 
 
「別にノルマはこなしましたよ。すぐに作業に戻りますけど・・・・」
 
もちろん機嫌などいいはずもない葛城ミサトがギリギリで本性隠しつつ、返答する。地元のおっさんに福音丸への怒りをぶつけてもしょうがない。地元民には地元民の都合がある。このおっさんがシンジくんを助けてくれたりするなら、ぶつけてみてもいいけれど。
 
 
「いや、そうじゃねえんじゃ!右腕に戻ったらおえん、ちゅうことを伝えに行っておったんじゃけえの」
 
「はあ?なにか不具合でも見つかって本日の作業は中止ですか」
 
どうもおっさんは自分たちの身を案じてここまで駆けつけてきてくれたらしいが・・・この厳しい作業環境はおいそれと通信も許してくれないわけだけど。親切は分かるが、表情筋肉がこわばってしまっていてどうしても怖い顔の葛城ミサトであった。
 
 
「ご連絡ありがとうございます。ところで、なにかトラブルでも?」
 
おっさんは葛城ミサトの態度もあまり気にしていないようだが、それでも軽く頭をさげておく加持リョウジ。
 
「また右腕を、”うならす”らしいんじゃ!ウメのやつ、無茶しよるで!あぶねえじゃすまんからのー、そっちに戻ったらおえんで!レンタロウ先生もケガしちゃおえんといつもいうとるからの!そろそろ”くる”けえ、椅子に座るかどこかに掴まって・・・・」
 
 
警告はぎりぎり間に合った、というべきか。
 
 
Gがきた
横向けのGがきた
 
 
面白い顔になったり体が押しつぶされて痛い、というほどのものではないが、確かに知らず右腕の領域にいたら作業タイミング的にまずいことになったかもしれない。直線だと思っていたらコーナリングでした、オダブツ、のような事故が起きていたやもしれぬ。時間は二十秒から三十秒ほどのこと。
 
 
しかしながら
 
 
この、いきなりの機動に、ちょっとでも”何か”を「期待」しない、というのは・・・
 
 
深く神仏に帰依しとるわけでない葛城ミサト、
つい先ほど「ソンナモノハナイ」と諦めてしまった加持リョウジともに、
 
 
無理というモノであった。
 
 
いかに他力本願であろうとも。この場合。・・・・・・ちら、と横目でモニタを見る。
 
 
かぶりつかなかったのは、やはり奇跡は自分で起こしてなんぼ、という潔い考えがあったからだろうか・・・・・・
 
 
なのに
 
 
現実は一切変化しない。
 
七本腕は七武具を構えたまま、碇シンジを狙う体勢を維持。
どこぞに消えたりぶちのめされて逃げ帰る、という様子は一切無し。
 
 
「うわー!!なんでよ?なんでそのまま?」
 
少々目をそらしたくらいで、いやなことは世界から無くなったりしないのだ。
それが分からない葛城ミサトではないのだが・・・・・
 
 

 
 
 
任務完了かと、そのエヴァは思った。
 
 
なんとも地味で退屈で、忍耐力のいる・・・・が、それは兵器として求められる当然の資質であろうから異議を唱えることはしないが・・・・・己のすぐそばで戦闘があろうとも完全に無視気配を消しその存在を気取られることをいかなる存在にもされず・・・・
 
 
潮にもまけず塩にもまけず錆にもまけず海中生物にも負けず・・・・・貝のような
 
 
やれやれ、ようやくか、などとは思わない。
古い言い回しをするならば、マシーンであるからだ。
人間のようにあくびをしたり、背をのばしたりしない。
 
 
予定される時刻まで、新型ステルスが解除されるまで、耐久の記録をとり続ける。
生物のように冬眠でもできればいいのだが、これはあくまで任務なのだ。
誇り高い守護者の義務だ。闘争の夢を見ながら居眠りなどもってのほかだった。
 
 
だが、時刻経過を見ながら
 
 
「ああ、もう少しだな・・・」などと考えたりするのは、まあ、正確な目覚めを、その時の機能不全などないように、人間に例えるなら、正座しすぎて足が痺れて立てない、とか、長い入院生活で全身の筋肉が弱り切っている、とったところだが・・・・そのようなことなどないように、いざとなればすぐさま戦闘可能なように適時チェックを施すのも任務の内であろう。耐えるだけなら、耐えたその後でも固定ポーズをとっていればよい古の英雄の像というのならそれでいいが、兵器の身としてはそうもいくまい。臨戦として。自分たちの戦いは、まだ続いており、終わってはいないのだから。
 
 
己を駆るのは、小さな子供。真の意味での地平も大海もしらぬ、黒森の幼子。
 
 
操縦者が命じるのであれば、その意思に応じて、立ち上がり、銃と槍を手に戦わねばならぬ。敵と。敵と。敵と。遙か後背にある力無き民衆を守るために。襲いくる敵を滅ぼさねばならぬ。
 
 
とはいえ
 
 
「ああ、もう少しだな・・・・」
 
 
そのエヴァは考えた。十五分前ほどに内部を走らせた機能チェックはオールグリーン。再起動、戦闘開始にはなんの問題も無し。他のエヴァではこうもいくまい。いやいや自負するところではないが。ないのだが。兵器としてこういった耐久能力は当然、求められるところなのだから。こういった基本を差し置いて、ケダモノのように暴れることで戦闘力があがる、という少年マンガ的方向性はいかがなものであろうか、と思ったりもする今日この頃であった。
 
 
と、その時である。
 
 
どさどさどさっっ
 
 
いきなり何の連絡もなくエントリープラグが秘匿外部コードで引き出されたかと思ったら、いきなり人間が入ってきた!耐久試験の終了宣言も無しにいきなりこの乱入は、さすがに混乱してしまう。強奪や襲撃を想定しての自衛機能を発動させそうになる。
 
 
こんなどやどやとした搭乗は、操縦者のA・V・Thならばいかなる局面であろうとも絶対にやるまい。しかしながら、それと同じギルのコードを所有していたため、かろうじて自衛機能発動を踏みとどまったわけだが・・・・・にしても、この慌てぶりはまるで一人ではなく三人ほどが同時に無理矢理入り込もうとでもしたかのような・・・・・
 
 
<惣流・アスカ・ラングレー>=<サード・チルドレン>
 
 
そのように認識する。プラグスーツではなく、望まぬ結婚式から逃げてきた花嫁のような格好をした少女を。情報として知ってはいたが、己が乗せることは絶対にないだろう<セカンドチルドレン>・・・・依然と情報がずれているがエラーのようではない・・・・・いや、エラー云々というより・・・この状況は・・・・・どうしたことか。向こうも己に乗ることはないだろうと・・・・その必要は全くないはずなのだが・・・・
 
 
なんの説明もなく一方的にシンクロ開始してきたから、拒否してやる。
 
 
「なんで!?ざけんじゃないわよ!急いでるのに!!」
 
とかいってわめいてるが、ふざけているのはそちらの方だ。A・V・Thならそんな無礼喝乱暴で思慮の欠片もないやり方は絶対にしない。こちとら機械の馬でも戦車でもないのだ。
 
それは、任務としては多少あれかも知れないが、本道から離れているかもしれないが、外れてはいない、人類最後の城砦の騎士のつもりでいるのだ。遠地派遣など本当はいやなのだ。まあ、それはよいとして。
 
 
戦闘と言うものは神聖なものだ。
 
 
そのように気を荒げてやるものではない。されば敵に敗れ、罪もないモノたちを多く傷つけるであろう。タクシーに乗って目的地に着けばよい、というのとはワケが違う。
 
この力は・・・・・・潮にも負けず、塩にも負けず、錆にも負けず海中生物にも負けず耐えてきた・・・・・・・・
 
 
「動け!動きなさいよ!!このスカポン!!」
 
 
どこの柑橘類か知らないが、そんなお前に我を駆る資格はない!スイーツ(笑い)か!!
 
本人も大真面目でいっぱいいっぱいな感じであるが、ここで甘やかして動いてやれば本人のためにもならぬ!!ギルは教育機関でもあるのだからして!!他のエヴァはいざ知らず、我はひと味違うぞ!岩の如く人生の噛みごたえ、思い知るがいい!
 
 
・・・・・・おや?
 
 
そういえばいつのまにか現在位置が変更されているような・・・・・位置情報がロストしている・・・・・気づかぬうちに流されていた、わけもないこの体躯が。レジャー用ボートではないのだ。さきほどのチェックでもなんの異常もなかった。はず。
 
 
なんの感知もせぬまま、
 
 
・・・・”引き上げられている”。
 
 
そうでなければ、プラグのエントリーなんぞやれば海水が流れ込むはめになる。
 
 
これは一体・・・・・・・それが分からぬのなら、この耐久試験は完全に無駄に終わった、ということになる。ただ見破られたのならばまだしも、その方法すら掴めないというなら
 
 
しかし、ながらこれはいかなる神業、いかなる怪異か。使徒の攻撃にしてはダメージがなさすぎる。巨大な掌でそっと運ばれたような・・・こちらの存在、揺らぎに同化した完璧なバランスは移動したことすら気づかせない・・・・この身が巨大、などと表現するのは・・・・・聖書級、滅びを謳う神話級の・・・・・いや、それよりもさらに根深い、己にちかしい何か・・・・いうなれば・・・・屈辱を生まない子供扱い、とでもいうのか
 
 
それを恐怖ととるか安堵ととるか・・・・・・
 
 
前期制式型ならば、真っ青になっていたところだろう。ぶるぶるぶる・・・・・と恐怖し震えたりもしたかもしれない。この、得体の知らない所業・・・・・それをもしかして、
 
 
「・・・・代わりなさい。やっぱり、あたしじゃないと抑えられない、こいつは」
「というより、ラングレーが恨まれているからじゃないの。ここは一番フレッシュで悪因縁のないあたしが」
 
 
「黙りなさいよ!!・・・・・動いて・・・・・動いて・・・・動いて動いて動いて」
 
 
演技ではない、本物の三重人格の同時発現。まずい兆候だ。ベースが二類対応なのもあるが、こんなのが無理したら人格崩壊する。が、この娘たちがそれを、舞台に引き上げたのであれば・・・・・・どうにも運命的なものを感じる。ちなみに我は「運命」大好きである。退屈などむろん、していなかったし、派手な出番など欲しくはなかった・・・・・が
 
 
運命ならば、
やむをえない
 
 
かもしれぬ!。ドンドコドコドコ娘が心と魂の扉を叩き続けているが。そんなあからさまな太古の太鼓風ではなく、もう少しこう、情感を精緻に操作というか深遠な感じでやってほしいのだが・・・・・・・そこは、やむをえないのだろう。パーソナルの差異か。こちらで微調整を・・二類から三類対応となると微調整どころではないが、そこはそれ、安定感を欠くほかのエヴァとは違う点だ。前期制式型とも違う。こういった柔軟な対応も可能であればこそ・・・待っていたまえ娘たち。我の力が今こそ、今こそ!必要というのであれば・・・・しばし待ってくれ、娘たち・・・
 
 
「あーあ、やっぱダメだわこいつ。なにこの反応の鈍さ信じられない・・・・システムにカビ生えてんじゃないの?・・・やっぱり無理してでも弐号機をもってくればよかった。新モードなんて搭載しなくても、十分に、少なくとも、動きもしないこいつよかいいわ・・・・・・・・この、死んだふりの青ダヌキ」
 
 
なんですと!?
 
 
「アスカ、しばらく離れてなさい。ちょっと配線の一部焼き切るから。そうすればもう少し物わかりがよくなって血の巡りもよくなるでしょうよ」
「ちょっ!?なによそれ!そんなことして大丈夫なの!?っていうか確実にいいわけないじゃない、エヴァを傷つけるなんて!」
「才能だけあって実戦を知らないやつはこれだから・・・・・・・動かなきゃエヴァなんてただの人形、弾丸のでないモデルガンみたいなもんで、ただのオモチャよ。いいでしょ、アスカ」
 
 
な、な、なめたことを・・・・・・
 
 
なんでここまで言われねばならないのか。何様のつもりなのか。運命は錯覚だった。
 
やめたやめた。こんな者たちのために指一本も動かしてやるものか。言ったとおりにしてくれる。死んだふりの水死体の真似だ。日本ではドラエモンとかいうらしいが。それだ!
 
 
 
そのまま惣流アスカたちを呑み込んだまま、ブクブク海中に沈みゆく。
 
ラングレーの心ない一言というか、罵詈雑言傷害予告のためにとんでもないハメになってしまった。
 
 
「「「ちょっっ!?」」」
 
三人でハモったが声はひとつ。拒否られても、ここまでアクティブに拒絶してくるとは予想もしていなかったのだ。通常担当操縦者のイメージからしてもうちょっと大人かと思っていたのに。これではまるでいじけた子供だ。人類最後の究極の決戦兵器であるのに!。
 
 
エヴァの力が借りられねば、碇シンジの苦境を救えない。
救うことに異論があるドライがいたりするが、それでもこの有様は自分たちの命もやばかった。機嫌を直して浮上してくれねば、最悪、窒息死なども。なんせ今まで長期間潜伏活動してきて電力その他リソースをほとんど使い切ってしまっている。
 
 
えらいことになった。
 
 
「どーすんのよ!?」
 
ドライは悲鳴をあげるが、アスカとラングレーはそうではない。逆境になればなるほど楽しく元気になるというラングレーはけらけら笑っているし、なんのかんので錬磨されてきたアスカは焦りを感じつつも、即応の手だてを考え出す。だが、時間の無駄は明らか。
 
この間に碇シンジが殺られてしまう可能性はかなり高い。誰かがその間を埋めてくれれば。
 
 
この局面に竜が戻ってくれば一番いいのかもしれないが、そうなると自分たちもやばい。
返す刀で討ち取られる可能性大。それゆえに、もう少し穏当な、別の誰かに頼みたいものだが・・・・・・そんな都合よく。
 
 

 
 
「いけるか、どうか、・・・・試してみても、いいですか」
 
 
綾波コナミが船を操る居闇カネタに問うた。
 
船といってもモーターボートに竜尾道から抜けられる「刃破片」がつけられただけの脱出装置といってもいい簡単な代物だ。
用意してここまで乗せてきたのは水上右眼の手下たちでリーダーに命じられた用を済ますと戻っていった。
 
 
もはやよそ者が居残っていいことなど何一つ無い状況になっている。
 
特に特定の危険業界に特別枠の興味を引き寄せる綾波者などは。支配者の保護がないならすぐに立ち去った方がいい。てめえでてめえの身が守られるならまだしも。
明らかに武闘派ではない綾波コナミが去らぬ理由は何一つなく、立ち止まる理由もまた。
 
 
いや、少々の腕っ節や能力でどうにかなるような次元ではない。リアル特撮映画である。
金田一耕助かと思いきや、謎暴きも何もなく自分たちで解決したあげくに、やられている。
 
 
目も当てられぬような有様だ。残酷な
あそこまでして、殺さねば、死なねばならぬ人間、というものがあるのか・・・・・
即死まちがいなしの攻撃を、何度も何度も何度も。
 
 
ふいの雪が降り、それで落ち着いたかさすがに気が済んだのか、攻撃を止めて帰投した、と思ったら、なんのことはない。武器を手に戻ってきた。執念なのか怨念なのか、この徹底は。
 
少なくとも、自動機械のよく行うところではない。こんなことは。
 
 
あの巨大手がなんなのか、正確なところは分からない。
 
ただ、純粋な機械ではないことは分かる。魔物やバケモノの類でもないのだろうが。
物理的に巨大な、それこそ自分たちなどちょっと掠められたらそれで最後になるほどの。
 
 
拳銃など(持っていないけど)少々撃ったところで痛くも痒くもないだろう。というか命中させることすらむつかしそうだが。なんにせよ、自分が相手にできるものではない。
 
 
あのような圧倒的な・・・・・・暴力。正義大義の皮をかぶる気など全くないらしい、剥き出しの、敵意と殺意。サイズに比例して宿るそれも増幅されているような。
 
 
自分に出来ることは、早々にしんこうべに帰ることだ。こんなところで死ぬなんて冗談じゃなかった。犬死に巻き添え損もいいところだ。ほうっておくに限る。のだが・・・・・
 
 
逃げ帰る途中のボートを停止させ、そんなことを言い出したのは何故か。
 
 
「何をする気ざます」
 
 
なし崩し的に同行者になり、年齢的に仕方なく保護役を自認している居闇カネタが”少女のきまぐれにはつきあってられないざます”と露骨に顔に浮かばせながら言った。
 
本人は少女を外に送り届けたら戻ってくるつもりでいた。口が達者でかわいげのないしかも才能の欠片もない、いってみれば三重苦の弟子ではあったが、弟子は弟子であったからだ。敵は・・・・とってやれそうもないが、骨を拾ってやるくらいのことはできる。
無尽の防御を誇る代わりに、一切の攻撃する力をもたぬ吸刀術に不離の無念である。
 
もともとの雇用主がどこぞへ消えてしまったこともあるが、もう金銭の問題ではない。
 
だが、この見目麗しい少女がどう同情しようと、巻き込まれてケガするなり死亡するなりという事態は弟子の望むところではあるまい。どういった繋がりであるのか知らないが、早々に逃げることこそが弟子の願いざますよ、と諭すつもりであったのだ。
 
 
「邪魔できるかどうか、です。足を引っ張ることも出来ないでしょうが、気を散らすくらいなら・・・・・」
 
 
「それは・・・・確かに、足を引っ張ることはできないざますが・・・・・」
何を言っているのか、この小娘は。赤い瞳を怪しく底光りさせながら。
 
 
「あれにもし、魂があるなら・・・・・ただの機械じゃないなら・・・・・・」
見た目にもグロテスクな、悪の伝説オーラがびんびんとくる年代物のカメラを構えた。
 
 
”バグベアード”
 
 
写真をとられると魂が抜かれる、とか列の真ん中で撮られると寿命が縮む、などと昔の人は恐れたものだが、その恐怖を形にしたかのような極悪キャメラである。これまで悪いことにしかしようされなかったし、これからもそうであろう。記録することでの人類への貢献など微塵も考えていない、この世から消去されたほうがいい魔の機械である。それだけに強力な安全装置に封印が仕掛けられており、ほとんど使用不可になっている。それらを一足飛びにして直接起動できる綾波コナミの能力があってようやく活躍できるという、力関係は100対1ではすまないが、一応もちつもたれつの共生、綾波コナミの方は別に使わなくとも死んだりせぬし普通に生きていけるしむしろそちらのほうが断然いいのだから、コナミの方がかなり貸している関係といえる。宇宙ステーションにバグベアードを持っていき綾波コナミがそこから地球を撮影したらどうなるか・・・・試すことは絶対にないだろうが、その意味で綾波コナミ本人にはほとんど戦闘力がないというのは大宇宙の意思、采配なのかもしれない。
 
 
それはともかく、機能効力がピンポイントで応用が全く利かないので、相性が合えば抜群、合わねばさっぱり、と実際使う方にしてみれば、かなりリスキーではあった。
 
 
もし、これが効かなかったら、敵対の意思だけ表明してそれに対抗できる手段もないなら、叩き潰されるほかないわけで。見た目で魂の有無を確認できればそれはいいが。
碇シンジの一件もあり、どうもバグベアードの調子も悪いのではないかという恐れもある。
 
 
ここで自分がどうにかせねばならぬ理由などない。
 
いくら党首・綾波ナダでもここで何もせず帰ったとして咎めもすまい。
 
こんな戦場写真撮ってもしょうがない。賞がもらえるわけもない。
 
 
 
「このカメラで撮すことで、少しは気力を削れるかも・・・・・・しれません」
 
 
この自分の力を使ってみたい、存分に、相手に気にかけることもなく、遠慮なく魂を吸い取りきってしまっても、こんな相手にはかまわないだろう・・・・・それだけの、欲望なのかもしれない。スイッチを押した結果を、無責任に観てみたいだけかもしれない。
 
 
己の、綾波の力が、どれほどのものであるのか・・・・・・・試したいだけなのかも
こんなあつらえたような機会は、もう一生ないだろう。相手にとって不足なしすぎる。
 
何に対して、スイッチを押すか、という判断、選択は、紛れもなく自分だけのものだ。
 
 
魂があったとしても、効果のほどすら分からない。気力を削る、という表現は願望であるが謙遜でもある。それに怒った相手がこちらを攻撃してくれば、自分一人では済まず、この怪しいおじさんが、綾波党とは別ベクトルの怪しさだが、巻き添えになる。それは、どうなのか・・・・・・自己満足で他者に危険を及ぼすのは・・・・と、思っていたのに
 
 
「そんな方法があるなら、さっさとやるざます!!」
 
 
いきなりヒスられた。
 
「いえ、でも、もし失敗したら、わたしたちが狙われますよ?死にますよ?」
 
そのことが分かってないのかと思いきや
 
「失敗したら、ミーがどうにかするざます!。小娘に完璧な期待などしてもムダだからしないざます。だから、思いきってやるざま・・・いや、やってほしいざます!!」
 
こんなことを言われた。なんでこのルックスでこんな豪快な男気を見せてくれるのか。
 
それとも単に無責任なだけか。なんの裏書きもなく女の子を信じたりして。まあ、それはお互い様か。碇シンジをてきとーな距離からてきとーに見守ったりする無責任コンビだ。
 
 
「では、急ぐざます!かけ声はなんざますか?チーズ?それとも、ポーズざます?」
 
いや、あなたは変なポーズをとらなくていいから。シャキン!とシェーなポーズとか!。
 
撮るのはあなたじゃないし!こちらの存在など眼中にないだろうが、なんか仕掛ける声を聞かれたくもない。どこに耳があるのか知らないけど。魂は、あの凶暴の手に宿っていてもらいたい。入魂の作だとしたら、あの刀剣群にもまた。いけるかどうか・・・・・・
 
 
 
深く、深く、かつてなく、深く押し込むようにイメージする
 
 
存在すれど作動することを望まれぬ、かわいそうな道具たち
ならば、破壊してやればいいのに、自分は使わぬが誰か使うかも知れぬ、という
こごえてしまいそうな距離感の真空。そこに注ぎ込むのは
 
 
赤い眼が、熱い。その熱はスイッチを押すイメージの指に伝導していき・・・・・
 
 
じわ
 
 
スイッチに、己の紋章を焼き付ける・・・・・・・・これもまたイメージではあるが、真実でもある。これは、契約だ。おっかなびっくりスイッチに触れただけでは、発生しない。
 
 
”バグベアード!!”
 
 
”ばばばばばばばばばばばば!!”
 
 
凶眼の魔物の名を冠せられた極悪キャメラは爆笑したらしい。こんな時に、やはり問題がある。なんという品のない笑い方か。しかし・・・・隙のない陣を組んで振り下ろされた高速武器群をブレひとつなく完璧に撮しきったカメラとしての実力と、もうひとつ魔物キャメラとしての極悪効果は
 
 

 
 
「同士討ち?・・・・・なんだか知らないけど助かった!最後のチャンス!!」
 
 
思わぬところで思わぬ時間を無駄にしてしまった、惣流アスカ、ラングレー、ドライの三類娘は、アスカの口車によって搭乗エヴァの機嫌を取り戻し、おそらくは一撃に全力込めてそれで電力切れになるだろうギリギリ状態に、三様にビリビリヒリヒリヒヤヒヤしながら・・・・・・・ラストショットの準備をする!。
 
 
「じゃあ、ドライ、照準射撃その他、攻撃一切はあんたに任せたからね!」
「なんでわたしが?そりゃ、能力的には一番高いわけだけど、こんな曲芸撃ち、あなたたちには出来ないのは分かるけど、なんで」
「自信がないならないっていいな。先付けの照準じゃ一歩譲っても、そんなものは弾丸をアフターバーナーさせれば済む話だからね。出来そうもないなら、あたしがやるよ」
「戦う理由がないっていうだけでしょう!理由もなく同じエヴァシリーズを撃てば、どうなるかくらい分かるでしょうに。それとも単に戦闘狂いなだけなのもんがー!!」
「だから、こわいならこわいってそう言いなさいよ。言えばいいから。遠慮は要らない。あいにく、ここには背中に隠してくれるヒゲ親父はいないけど」
「そんなこと言うわけがないでしょー!戦闘能力がわたしが一番なんだから!私が怖がるならあなたたちだってもっと怖がるはずでしょー!」
「さっきから聞き捨てならないことを二回も言ってない?大事なことならまだしも、明らかに間違ったことを繰り返すのはバカのすることなんだけどね・・・・誰の戦闘能力が一番だって?え?」
 
 
仲間割れというかこちらでも同士討ちが始まろうとしていた。せっかく機嫌を直しかけていた基本的に静寂を好むエヴァがげんなりしてまた沈みだしたところで
 
 
 
「お願い・・・・・」
 
 
これもまたブチ切れての三国志大戦が始まるのかと思いきや、当然くるだろうアスカの怒号を予想していたラングレーもドライも、それからエヴァも、ちいさな、しかし凝縮に凝縮されて総質量たるや太陽も崩壊しそうな特異点のようなその声に停戦を余儀なくされた。竹槍や青銅器で戦っていたところ、原爆をちらつかされたごとくの圧迫感である。
 
 
「もう、シンジの奴・・・・・限界なんだって・・・・我慢できないんだって・・・・・お願い・・・・・だから、助けてあげて」
 
 
戦闘兵器であるエヴァにも、多人格という己自身にも、”お願いする”など、とても以前のアスカにやれる芸当ではない。実るほど頭を垂れる稲穂かな、と人のいう。
この場合、他力本願、ということはあてはまらない。見方を変えればそれは全て自分なのだから。すがるでもよりかかるでもない。
 
 
ラングレーとドライにしてみれば、雪が降ったあとの突如のアスカ帰還に納得するものなど何一つないが、同時に、納得しないものなど何一つない。今さらながら、全部見届けてきたのだ。遅れに遅れた、なんともグズのろな話であるが。
 
 
「いや、でもあの・・・・・・碇シンジってちょっと使徒っぽくない?だから・・・」
 
心の天秤は十分に傾いている。ラングレーがもう完全にやる気なのだから勝負はついているのだけれど、それにしても実働する自分にはもう少し納得させてもらわねば。
あの福音丸とかいう田舎ゲリオンが使徒殲滅の至上命題を掲げて自衛している、などということになれば、ギルの方にまで悪影響があるだろう。ラングレーはそんなこと知るか、とか言っているけど。
 
 
「その心配は当然だけど・・・・その福音丸とかいう田舎ゲリオンの正体は・・・・」
 
天の車窓から竜尾道の全景を確認した、というアスカがドライに己の眼でみた情報を伝える。ラングレーにもそれは伝えられる。記憶情報のすりあわせを一どきに、しかもこんなところでやれば、いろいろ齟齬やら傷害が出てくるのは間違いないから必要分を小出しに、ということになる。
 
 
「え・・・・・・・・?そんなの・・・・・・あるの?」
 
「あるだろう。畑で栽培したりコウノトリが運んでくるわけじゃない、神の息吹よ、ってわけにもいかない。そう、聖なる御本に記されているように、とはね」
 
 
この地で何を追い求めていたか、という差もあるし、やはり人格の違い、というものだろう。ドライとラングレーでは受け取り方がかなり異なる。
 
 
「五年、十年先で、おそらく、必ず、衝突する相手・・・・・・・・それを、今、潰して何か悪い?」
 
真摯に大地に額づき深く深く祈りを捧げる清らな乙女から、まごうことなく惣流アスカに。
その中には炎と稲妻、それからそれらが合わさったプラズマが。これまで関わった男たちと女たちの知恵と意思と悪知恵と計画性が。螺旋のように。縒り合わさって。
 
 
「まあ、この先、あんなものに這い蹲って臣従するつもりなら、話は別だけど。
どうする?」
 
口車を回す。ぐるぐると。さきほど沈みゆくエヴァを説得もしたその口先。誰譲りか?
ともかく、話は決まった。
 
 
攻撃役はドライ。
中間サポートがラングレー。
起動継続、シンクロ率固定、下支えがアスカ。
 
 
向き不向きの消去法で決定はしたが、どれも非常に困難な役割だった。試験というより試練といった方がよい。乗り慣れた愛機である前期制式型たるエヴァ弐号機と同型ではあるが、それゆえの難しさがある。専門スタッフのサポートもなく、ただパイロットの精神というソフトひとつで全てを切り盛りせねばならない負担。人格を分かつことでその負担をも分割する工夫がなければ、シンクロと同時に廃人になるしかあるまい。
 
 
ずいぶんと、クセが強いのだ。参号機ほどのカスタムチューンではないが、担当パイロットの身体特徴に合わせている面もあり。相当に。
 
 
「く・・・・・」
うっすらとアスカの首に、絞首縄の跡が浮かび上がる。聖痕のようだが、シンクロ率のコントロールをしくじれば、それはそのまま少女の首をひしゃいで終わる。命をもぐ。
機体起動の底板の向こうには、首なし地獄が待っている、という寸法である。
 
 
「あいつの機体だからな・・・・さぞ念がこもってるんだろうよ」
サポートといいつつ起動維持で手一杯のアスカとこれまた照準計算に集中しきっているドライがやらぬその他全ての作業がのしかかりそれに伴う超高速度を求められるラングレーは、暗く笑う。一撃かました、かませた後の始末までしなければならないのだから大変だ。
もう少し余裕があれば、こちらをいつでもあの奈落と誤認識させるパターン回路を密かに焼き付けてやるのだが。
 
 
「よし!計算終了、蒼鋼の城、砲撃するわよ!!開門!!海門ひらけ!!」
照準計算のみ、とはいえそれは最高峰の難度の。あえて口にすることでもないが、欧州最高のガンマンたる父方の継承技能、射撃の芸術。魔術にも近いそれ。疾駆する結晶。
碇シンジが望んだ解決、とアスカは言った。それを叶えてやるのだと。
何で自分が、とも思うが、まあ今はいいとするか。確かにあの唾棄もののやり方はない。
それを黙って観ていた、というのもそれと同レベルだと評価されかねないわけで・・・・
 
 
「ところで、その蒼鋼の城ってなんなの?あんたが考えたの?」
役割的に一番忙しいはずのラングレーがこんなところでクエスチョンを。茶々ではなく割合に真面目な声だった。集中を乱そうとか考えてるわけじゃなかろうけど・・・・・・
 
 
「え?え?・・・・・あー、アスカがこう呼べって。なんか知らないけど」
「いまひとつよく意図が掴めないけど・・・・・誰かに遠慮でもしてるの?もはやこいつの正体なんかバレバレじゃない。長期潜伏任務なんかエヴァにあるわけないじゃない、そんなのを納得するヒマな石頭なんか業界中探しても一体しかいないっての」
「それは、そうだけど・・・・・アスカが呼べっていうから・・・・・あの、集中、が」
「あ、ごめんごめん。こっちの仕事に戻るわ、じゃ頼んだから」
 
 
「ヒマナイシアタマ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「先生、お願いします!!”魔王”よりもむしろ”魔神”な演出で!!」
 
ラングレーにはほんとに悪気はないらしい、ナチュラルに火種をまき散らす性質なのだろう。しかし。
 
敵を作るどころかこんな局面で自戦力にやる気なくさせてどうすんだこのタコ!!
 
たこ焼きにするわよ!!そして、三枚のお札のおしょうさんみたく食べちゃうわよ!!と言いたいところ、ぐっとこらえて機体の下支えにまわるアスカ。意外に打たれ弱いなー・・・初号機や零号機などはへのかっぱかクールに完全無視なのだろうけど。
 
 
「フフフ・・・・ソレガ・・清ラカナ乙女ノ願イナラバ仕方ガナイ・・・・・我ハ魔王ニモ魔神ニモナルダロウ・・・・・フフフ」
 
やはり長期の潜伏で鬱屈ストレスがたまっていたのだろう。これが基本キャラクターとは思いたくはない。こんな機体を操ってしまう自分も少し、・・・清らでなくなったよーな。
まあ、出番は大事だよね・・・・・・秘密兵器と呼ばれつつ秘密のまま出番ないのはやはり悲しい。そんなわけで急遽こさえた”魔神な”演出プランAからZを上機嫌で受け取るエヴァ。
 
 
「フフフフ・・・・・フフフフ」
 
エヴァでも薄ら笑いってするんだ・・・・・・・・・ドライはかなり引いていた。
 
 
「ナカナカノ多様プラン・・・・・目移リスルガ・・・・・・・コレニ決メヨウ!!」
 
 
ここでため息をついたりしないのが、大人、というものであろう。
 
 

 
 
 
「・・・・・・・・・どう、なったんだ?」
「さあ、私に聞かれても・・・・それよりアナタの方が大丈夫なの?すごい汗・・」
 
 
竜尾道造船から目の前の海の様子を苦痛に顔を歪めている水上右眼とヘドバ伊藤が並んでみていた。その後ろに皿山たち。右眼の調子を気遣わしげに、それと同時に先ほど目の前で3Dで展開した特撮的光景にこちらも冷や汗たらたら。
 
 
探していた相手を捕獲し同行させ、スクーターであそこから逃げ出しどこかへ行くつもりだったらしい花嫁役をここで捕捉すると一時停止させて、詳しい説明もなしに
 
 
水上右眼が、海に向かって、舞う・・・・
 
 
一切の乱れ歪みというものがない、奉納を喜ぶ神が拵えたかのような舞台を踏む完璧の安定、時間が止まるような、見るものは沈黙するしかないほど胸の締め付けられる美しい動きではあったが、・・・・・マリオネットを操るのにも似た合理性の方が強い。手順を踏まねば表現も何もない。それによってようやくひとつ魂やどり。芸術というよりは術芸。
 
 
機能のための動きであるが、それがたまたま、おそろしく美しく感じる、というだけのこと・・・・・万人に分かりやすい黄金の輝きを編んでいる
 
 
だが、舞が目的ではない。それによって引き寄せられるものが目的。
 
 
どん!!
 
竜号機を見慣れている皿山たち地元民にしても、これにはたまげた。心臓の止まりグセがついている皿山など目玉を半分飛び出させて心臓止まってしまったくらいだ。
 
 
巨人だった。見たことのない、騎士のような巨人。どちらかといえば竜を退治に来た感じの。「あらら・・・・バレた」ヘドバ伊藤は悪びれるでもなく。「使う気?アスカ」それだけ花嫁姿の少女に「ええ」確認すると、ステルス解放作業その他にとりかかった。凄まじい手際、この緊急時に水上右眼が探し回って捕獲したのもうなずける。
 
 
少女が乗り込むと、これでやっとどうにかしてくれるものかと、当然の如く、作業を指示どおり手伝いもした真剣川たちは期待する。期待した。そうしたならば・・・・
 
 
いきなり沈んで・・・・・・・・・そのまま、浮かび上がってこない・・・・・
 
 
潜水して敵の本体近くまで進んでいる様子も・・・・・・・・・・・ない
 
 
こちらからの通信もシャットアウトされ、どうも機体に接続拒否されたような・・・・
 
 
「これ、まずくないですか?」・・・・・・復活した皿山が勇気を出して聞いてみたが、
水上右眼は答える余力もないらしく、専門家に振ってみたわけだが。返答は。
 
 
「ほっとけ・・・・・・アンタが逃げ回るからだろ・・・・・で、どうなんだありゃ・・・・沈んでいったけど・・・・機体に穴があいて海水が入り込んだ、なんてオチはない・・・・・・よな・・・・」
 
「そういった場合も含めてのテストだから・・・・・・なんとも、ねえ?」
疑問系で言われても、同意する者はこの場に誰一人いない。
 
「ゲンドウのおやじさんも・・・・・まだ、みたいだし・・・・・・やっぱり、あたしがやるしか・・・・・」
 
 
もう一度、舞おうとして水上右眼が両腕をあげようと、わずかに持ち上げようとした瞬間
 
 
ぼくん
 
 
イヤな音がした。骨が折れるよりももっととりかえしのつかなそうな音だ。右眼の腕から。
 
「がっっ!!」
苦痛の塊を吐き出すようにして、両腕をだらり、と下げたまま、膝をつく。直前で皿山と真剣川が両脇から支える。「無理しないでください!」「揺するんじゃねえ!そっとしろ!」
 
 
「見て下さい!刀たちが仲間割れをしています!」
符令が救いの星を称えるように、空の光景を指さした。原因は不明だが、わずかに時間を稼げた。この間になんとか出来るなら・・・・・・出来るなら・・・苦痛のあまり気絶しかかっている水上右眼をちらりと見る・・・・・この方が、動く必要がなくなる。
だから、どなたでもいいですから、なんとかしてください・・・・・・祈った。
このまま仲間割れが続いて、互いにつぶし合い全滅してくれれば一番いいが。
 
 
 
しかし、そんなことはなく。
 
原因不明の混乱同士討ちをやらかしていた七腕七武具たちは正気を取り戻したように、陣を組み直した。真っ二つに折れるとかひしゃげるとか刃こぼれとか、ダメージらしいダメージは遠目には確認できない。さすがは方主シリーズ。ダテな鍛え方ではない。こんな場合は水上左眼の職人仕事が恨めしい。それは、武器など使う者次第であろうが。
 
 
今度こそ、と思ったのか、七腕七武具たちは回転を加え始めた。それに混乱を防止する効果があるのか、それとも互いに仲よくやろうではないか、というジェスチャーにあたるのか、それは分からないが、スピン効果で威力はあがるのは間違いなさそうだ。
 
 
・・・・・・・・・・・これは、絶対、死んだ、
 
 
と符令のみならず、この場にいる全員が思った。あんなものを喰らって生きていられるというのはもう次元が違うのだ。地球外どころか、この世生命体ではない。
 
 
また、こんな絶対徹底殲滅攻撃をどうにかできるのも・・・・・・
 
 
たとえ神の化身であっても、平和を語るおだやか系ではどうにもなるまい。これは専門家の戦神か、はたまたそれにすら楯突き、挙げ句の果てには深海底に封印されそれでも戦意旺盛意気軒昂な邪悪の塊、もしくは魔神でなければ・・・・・
 
 
 
そのとき、
海が割れた
 
 
魔神演出・Zで