ここには、彼女しか、住んでいない
 
 
灰は灰に
 
 
他に誰も住む者もいない、幽霊マンモス団地とはよく言ったものだ。
 
 
塵は塵に
 
 
ここには、ひとりしか、住んでいない
 
 
廃墟は更地に
 
 
早々に取り壊して有効活用すればいいだろうに、と思う。
 
 
だが、ここにまだ、彼女が住んでいるから
 
 
その限り。ここが、取り壊されることはなく、こんな・・・・建物の死骸のような有様を晒しながら・・・・蹲り続ける。まるで、誰にも気づかれぬ透明人間の死体のように。
 
 
とはいえ・・・・
 
 
そんなことを考えたり思ったりするのは、自分しかいないのだろうな、と火織ナギサは逆算する。ありきたりであるがゆえに。ここが、結界であることなど、この都市の誰もが。
 
業界関係者ならば、当然の知識でもあり。不用意に踏み込めば、廃墟の風情を楽しむどころか死国迷路の結末を迎えることなど。たかが人の消えることなど、と夜が笑い。
 
 
夕方くらいから降り出した雨が、続いている。
 
 
時刻は二十二時をまわったところ。向こうの時刻指定も曖昧であったから、遅刻とも先着ともいえぬし、そもそもこっちが必ず来るものだと・・・・思っているなら相当な自信過剰。命令される覚えなど、公的にも私的にもない。混乱を始める本部でのことだった。
 
 
呼び出した理由も告げずに、ただすれちがいざま「夜に家に」と一方的に伝言されても、それに応じなければならぬ理由もない。無視しても断りの返答をしてもよかったが。しかも、日本語としてもかなり不完全なのではないか。ダイイングメッセージ的分量だ。普通の人間なら恐れをなして退くしかあるまい。確実に何かの罠だ。近寄る者はけっこう愚か。愚神礼賛教の凶徒にちがいない。それが
 
 
こうして、ここまで歩を進めている。
無駄にかっこいい感じで濡れながら。傘もささずに。
 
 
さすがの不可侵、第三新東京宮の結界アカメノミヤ、人の気配が、ない。
 
またはあの世の三丁目か。監視も護衛も尾行も、その気配一切なし。
 
洞木ヒカリからの一方的申し入れに従ったわけではないが、最近は猫殺しもやめている。
もう猫の鳴き声を頭の中に聞かないからその必要もないわけだが・・・・それを懐かしく思うはずもないが、それにしても・・・不気味にしずまりかえりすぎている。
 
 
遠目に見える目的の部屋に灯りがついてはいるが・・・・・
 
 
殺害あって一利なし、というか、もはやバッドエンドしか待っていらぬような
 
闇よりもさらに黒い建物の中になぜ、入っていかねばならないのか・・・・
 
こわいもの、見たさ、などというのは・・・・自虐に嗤う。
 
 
こんな戯れを嫌うセイバールーツがいれば、当然、止められていた。
 
が、あの男は今はそれどころではない状況にある。
 
その隙を突いた、ともいえるし、突かれた、ともいえる。
 
 
綾波レイ・・・・・色は白いが、現状のネルフの大黒柱であることは、誰もが認めざるを得ないファースト・レディ。
 
 
どのような話をしてくるのか。これまでの経緯で、まだフィフス、渚カヲルの幻影を投影してくることもなかろうから。自分たちは、未だ戦端の開かれぬだけの、仮想敵同士。友軍の仮面を被った別個戦力だ。ネルフの旗など、なんの意味もない。
 
 
とはいえ、だいたい見当はついていた。予想通りの話を聞き、想定通りのリアクションを表現して終わるだろうことも。意味のないムダな、寄り道、戯れであるだろう。あの男、シオヒトが何より嫌うような。それを好む自分ではなく、シオヒトに反逆してみせるポーズのためにここまで歩いてくる、というのは、おかしい。自分には戯れを受容するような余計な容量はない。
 
 
 
そして、ときめきの欠片もなく、清黙なる一人暮らし美少女の家にあがってみると
 
 
 
「あなたは、フィフスの、渚君と、同じものが、見える?」
 
 
茶も出されず、いきなりそんなことを聞かれた。
 
普段通りの無表情。もとより夜の顔、家の顔を見に来たわけではない。本部施設内でないならもっとストレートな敵視異物視がくるものだと思っていた。
 
おそらく本題は「あの件」なのだろうから。・・・・・・ただ
 
揺さぶり、というわけではなく、正真正銘、本気で聞いてきているらしいことは伝わった。にしても、いまさらの別人認定でもあるまいし、意図がさっぱり読めない。聞きたいことを単刀直入にしているのだろうが、一点突破の説明不足すぎる。見えると言えば見えるし、見えないと言えば見えない、としか返答のしようがないが、そんな返しをやらかせば話が長くなりそうだった。・・・・・会話して楽しい間柄でもない、早々に切り上げるとしよう。
 
 
「そうだね、渚カヲルの、僕たちはバックアップ、クレセントとも呼ばれるけどね」
 
それも完全な保存コピーではない。フィフス、渚カヲルが満月だとしたら、自分たちはそれに足りない欠けた月。フォース、サード、セカンド、ファースト、そして、インビシブル・ライナー・・・望まれた肝心のフィフスのバックアップはとうとう完成しなかった。名前を順列変換したりしていじってあるのは、やはり制作者たちの諦めの悪さ、というものだろう。エヴァとシンクロし起動可能な自分は厳重に秘匿、冷凍保存されたが、それも良かったのか悪かったのか、発見して解凍したのがあのシオヒトだった点を考慮するに。差し引きは・・・・
 
 
「僕たちは、絶対的に、彼に及ばず、欠けた部分がある。視界においても、だね」
 
 
眼球機能のことでは無論ないわけだが、おそらく理解されるだろう。しばしの日々を共に送ったそちらの方が満月の輝きをよく知っているだろうに。その妖しさ危うさも。
 
 
「そう・・・」
 
 
そう言って押し黙る綾波レイ。
 
次の、本題に入って欲しいのだが、茶を飲んで間を持たせることもできないし、視線で促したつもりなのだが、なかなか次の言葉が来ない。
 
 
部屋には沈黙。空気も重い。
 
 
雰囲気もなにもない。いくら不得意領分でも、呼びつけた方がもう少し、サービスすべきではないだろうか・・・・・こちらから話すこともないときているし。
 
 
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
 
 
しばらく、赤い視線同士が、互いを分析しあった。圧迫感を感じることはなく、ひたすらに透過していくような感じだが、当然、気分の良いものでもない。これならストレートに、渚カヲルと比較してあーだこーだと語ってもらった方がまだ良かった。この居心地の悪い沈黙も、こちらの手を晒させる手段のひとつなのか・・・・そういえば、この女、人の心が読めるんだった・・・・・・
 
 
目の前の、視線をわずかにさげ、白いノドを見る。
 
それを、裂いてしまえば、そんなことも、できなくなる・・・
 
いくらここが禁忌の結界であり、最高レベルの警護設備が整っていようと、人間の突如の気紛れまで追いつけるはずもない。結界は中に入ってしまえば、存外もろいものだ。
まあ、内にいる危険なものを外に出さぬための、結界ならば、その限りでもないが。
 
 
無表情ではあるが、ただの少女に見える。人体の構造上は。
骨が鋼で、血の代わりに不凍液が流れて、肌が陶器ということもあるまい。
刃物は所持している。ボディーチェックも機械の透視も発見できぬ類の刃物だ。
やってしまうか・・・・・戦端を開くのに理由もなく、あの男の指図で開かれる、というのも癪だった。自分たちは仮想敵同士。遅いか早いかの、違いだ。
 
 
白いノドが動いて、
 
 
「・・・・帰らないの?」
 
言葉を発した。
 
 
「はい?」
 
 
理解するのに数秒を要した。一体、今のはどういう意味だったのか。
 
 
「もう、聞きたいことはないけど・・・・・・・・あなたが、話したいことが、あるなら」
 
 
聞く、と。
 
追い打ちをかけられた。また理解は遠ざかる。何言っているのか、この女。
 
心理防壁がこじ開けられた形跡も感触もない。痕跡くらいは残るはずだが、それがない。
 
「あの件」に関して呼ばれたはず・・・・・それが仕事だろうに。役職的にどうということはないだろうが・・・
 
もしかして・・・・・・本当の本気で
 
たった、あれだけのことを聞くために、わざわざこんな時間に自宅に呼びつけたのか?
意味ありげに。しかも、「用は済んだからさっさと帰れ?」どこの王女王様だ。
 
しかも、自分で言うのもなんだが、なんの意味もない情報だ。なさすぎるといっていい。
どこかの泥棒に仕込まれでもしたのか、ものすごい時間泥棒ぶりだった。
 
 
 
「その前に、飲み物くらい、出してくれてもいいんじゃないか」
 
 
少しくらい取り返すために、労働してもらってもバチはあたるまい。話すことなんぞ何もないし、いくらなんでもこのまま帰ったのでは無駄足の自己嫌悪、心理的ダメージが重すぎる。それをわずかに回復するための嫌味のジャブのつもりだったのだが・・・・・
 
 
「そうね・・・」
 
あっさり席を立って台所に立つ綾波レイ。調理器にかけたままの小さなナベから、その中身をコップに入れて差し出してきた。湯気とともに香るのは・・・
 
 
「・・・みそ汁かい」
「そうよ」
 
 
平然と返された。
 
こんなはずはない、そんなはずはないのだが、この場には二人しかいないので、諫めてくれる人間がいない。鈴原トウジたちはふだん何を教えているのか?
 
そのまんま水道水を出してくるレベルでもまだ予測の内だったが・・・・・
 
これを笑顔で飲むべきか?それとも、綾波レイの顔面めがけて投げつけてやるべきか?
どちらにしても、平然として無表情なのだろうが・・・・・・
 
 
いっそ毒入りであれば面白い、といった火薬な気分で一気に飲み干す。・・・熱い。
うまいとかまずいとかいった感想はこの場合、出すべきではなかった。おかわりなど出てきてしまったら最悪だ。
 
 
「ごちそうさま」
「おそまつさま」
 
コップを受け取り洗い場に。水洗いして数分で戻ってくると
 
 
「それで、話は」
 
 
と、きた。間もなにもない。殺伐としている、というより、素なのだろう。
もはや、こんなのは相手にせずにさっさと帰ってしまえばよかったのだ。
 
 
「それより・・・・・聞きたいことは、あれひとつでいいのかい」
 
 
「どういうこと・・?」
まったく表情はぶれない。無いものがぶれるはずもないが。さざ波ほども変化がない。
 
 
「副司令が消えた件について。疑ってることはないのかい」
 
 
「あなたを?」
 
 
普通、ここは真相を巡る丁々発止のやり取りになるものだろうが、あっさりと透過された。
 
互いの懐に斬り込まんとする刃物は、双つ、打ち合い鳴らされることはなく。
逃げるでもかわすでもなく、はじめから相手の真実がいずこにあるか見極めて、当たりもしない攻撃をかわす必要はなし、と判断しきっているような・・・・・達観の相。
 
 
魑魅魍魎どころか外国妖怪連合も跋扈しだしたともっぱらの評判であるところの特務機関ネルフに残された最後の良心、ならぬ社会常識とされた冬月コウゾウ副司令がその消息を絶ったのは八時間前のこと。
 
霧島ハムテル教授との会食を兼ねたミーティングと言う名の息抜きに向かった副司令がそこまで到着せずに、そして時間になっても執務室に戻ってこなかった・・・・・関係者(というかほとんど部下なわけだが)は皆悉くそろってこう思ったそうだ。
 
 
”とうとう逃げたか”と。ふぅ・・・・と。
 
 
上司のこれまでの仕事ぶりを知っていれば、責める者はいなかった。精神的にも肉体的にも過労死寸前、死んで花実が咲くものか、老いの一花咲かすべく、というのは少し違うが、とにかく副司令の消息が不明とて、それは自分の意思で姿を消したのであろう、と大概の人間が思った。その間も動き続ける組織の、運び込まれる仕事の、フォローに七転八倒することになった日向マコトも、まさか誘拐だとは思わなかった。彼も冬月派、つまりは一般常識派閥であるゆえに、そんな無体なことを考えもつかなかったわけであるが。ある意味、上司を信用しとらん、ということにもなるが。
 
とはいえ、それでもやっぱりそりゃおかしいわなあ、副司令らしくないぞ、と真実誘拐説を立ち上げたのも彼ら一般社会寄り派であった。
 
こんな局面において真実を明らかにするべく真っ先に働かねばならぬ諜報部は何をしていたかというと・・・・・なにやら内部で暗躍暗闘していた。専門であるゆえにか、もしくは故意に、副司令裏切り離関説から事故説、内部陰謀説、司令による極秘粛正説・・・なんらかの陰謀だとそれを思考の種にすればなにせ状況の土壌が栄養豊富だときているから、いくらでもウヨウヨ説は生えてくる。
 
実際に、施設の一部で戦闘まで起きたというから混乱極まっている。
 
元来、それをまとめるべき総司令が我関せずワロキデモカマワヌ的に完全放置なのであるから、真面目にやろうが不真面目にやろうが混乱するしかない。それを収束終息できるのは副司令だけだろうが、その当人がいないのだ。犯人からのなんらかの要求も無し。
 
明らかに使徒の仕業だ、と判断できれば、もう少しなんとかなるのだろうが・・・・
ここぞとばかりに作戦部長連の我富市由ナンゴクはこの一件に首をつっこもうとするが、他の部長連にその気がほとんどないときている。それはそれで人情の欠片もない正解。
 
 
なにもアナウンスせずに、当人の身柄だけが消えている、というのは・・・・・
 
本人が自発的に消えた可能性もないでもない、誘拐の可能性もむろん。
はたまたその他の業界に渦巻く陰謀にとうとう運尽き沈むことになったか
 
 
にしても・・・・・本部施設から出ることもなく直接間接十重二十重に厳重に護衛されているその立場、プラス、火中の栗を敵味方含めた天秤の安定のために剥き剥きしている、好き嫌い好みはおいても誰がもが苦労を認め面倒を処理してくれるその聖人具合にその延命と安全安心を望むにちがいないその現状ときて、ある意味「世界一安全が保証されている人間」といえなくもない冬月コウゾウ副司令が、こうもあっさり行方をくらませられる、というのは・・・・「世界暗殺ターゲットベストテン入りまちがいなしの立場」であることを差し引きすると、やはり単に危険だった、ということもあろうが・・・・・
 
 
異常と言えば、異常であり。
 
 
それを可能にする異能でも所持しているのではないかと、思うのは
 
 
当然といえば、当然であろう。
 
 
まあ、実際やったのは、異能をもつわけでもないシオヒトなのであるが。
 
 
自分は興味もない上、同行を命じられもしなかったため、具体的にどうやったのかは知らない。本体が入国したことすら本部の誰にも悟らせないのだからその程度、お手の物だったのだろう。着任早々中枢のマギをいじっているのだから当たり前と言えば当たり前だが。
 
副司令当人も、なにか極秘の作業を隠し部屋で行っているとかいう話だったが、その隙をついたわけだ。異能など組織の階梯を上がるための、生きた踏み台にすぎない、とか言うだけのことはある。そんな利に徹する第三極ぶりが逆に、異能持ちには希望を抱かせる。
 
不思議なことに、異能者と一般人との橋渡しをしてくれるのではないか、という破れるに決まっている奇妙で奇怪な希望を。儚い光を、闇に包んで無自覚に見せる。それがシオヒトの、才能といえるのかどうか。才能は負債であるが、これは代価に近い。
 
それをもって異能を利用して、時がくれば捨てる。今回の作戦部長連の一角に就任するにあたっての手口、異能者たちの利用っぷり、捨てっぷりも凄まじいものがあった。
あれでよく眠れるものだと思う。眠る必要のない自分たちの心配することでもないが。
 
 
また・・・自分に対するような、「単純な取引」、そんな手を用いることもあるが。
 
 
綾波レイはまさか副司令の自発的な出奔逐電などと考えてもおらぬだろう。
全ての真実を見抜く千里眼でももっているなら話は別だが。
疑わしい部類の筆頭から呼び出した、ということなら納得できる。
シオヒトがやった、とばれてもかまわぬくらいの心境でその前に現れてみた
 
 
「・・・・・・」
 
 
かと思った十数秒後
 
 
「・・・・・ああ」
 
 
軽めの納得。そこまで考えていなかった、とでもいうわけでもあるまいが。
 
 
「あなたが、やったの?」
 
 
創世期のロボットでももう少しおりこうそうなリアクションを返してくれたのではないか、と思うほどの。キャッチボールにはならない、これは会話の始球式。
 
 
「いいや。でも、そのことで呼ばれたのかと思っていたから」
 
 
てめえで言い出しててめえで否定していれば世話はないのだが。どんなヘロヘロ玉でも空振りせねばならない、のに似ている。痛烈ピッチャー返しにしてやりたいが、耐える。
 
 
「それとも、君はもう真相を知っているのかい」
 
 
知っていたら知っていたで、明らかにシオヒト派である自分に対する態度ではない。
さきほどこちらの心を読んだとすれば、この質問は壊れたロボットのそれ。
うーむ、大丈夫か、ファーストチルドレンは。能力を使いすぎて脳が恍惚の老婆になってしまっているのではないか。
 
 
「知らない。けれど、わかっていることがあるから」
 
 
「それは?」
 
 
「・・・・・・・」
 
 
答えるつもりはないらしかった。口に出来ないことなのか、それとも単に表現力が追いつかないだけか、それは知ったことではないし。退去することにした。のだが。
 
 
「あなたは、ここにくるまで、誰かに会わなかった?誰も、見なかった?この部屋の前に・・・・誰か、いなかった?誰か、待っているような・・・」
 
 
帰りがけの背中に、そんな奇妙なことを聞かれた。これもまた返答に困る。
 
質問の体をなしていないといえる。ぶつ切りにされた、蛇のような。
 
砕けた、ルビーの眼球。それは、渚カヲルの視点。もう一度、それを。
 
こんなところで人に会えることなどないこと、誰も見ることもないことも、当然、廃墟に見えて最高最強級のセキュリティが張り巡らされているに決まっているこの部屋の前に、住人の許可も得ずに、人待ちなど出来るはずがないのは、承知しているだろうに。
 
 
「いや、誰も会わず、誰も見なかった」
 
 
幽霊や尾行者を怖がる神経なら、そもそもこんなところに住み続けはしないだろう。
なんらかの謎かけにしても、付き合うつもりもなかった。
 
 
「そう・・・ありがとう」
 
感謝の言葉をかけられた、感謝するような神経があったのか、と少し驚くが、去る足を止めることもない火織ナギサ。一応、部屋の扉を開ける前、気配を探ってみたが・・・・
開けてみても、誰もいない。・・・・神経の過負荷で幻聴でも聞こえているんだろう・・・
 
当然。いるはずがない。
 
副司令に続き、綾波レイまで消えることになれば、どうなるか・・・・・問われた誰か、というのは赤い目の取り巻き連中のことではないのだろう・・・もちろん。不安を感じてセキュリティ強化の要請を自分が出す義理もない。医者を呼んだりもしない。
 
そのまま、するり、と幽霊マンモス団地を抜ける。
 
 
無益な時間だった・・・・・・・やったことといえば、熱いみそ汁を飲んだことだけ。
 
綾波レイは、いったい何がしたかったのか・・・・意味のない無駄なことをして喜ぶ性分ではなかったように思っていたが・・・・謎だ。謎の彼女だった。一方的にしてやられた記憶があるだけに、それについて考えてしまうのもやむなしの火織ナギサだった。
 
 
なぜ、みそ汁が熱かったのか?などということは、考えもしない。
 
こんな時間に熱いみそ汁を飲みたがる大豆女なのだ、ということで納得してしまっていた。
 
 
しかし・・・・・・