「なぜ、笑っているの」
 
 
純粋な疑問ではなく。こんな局面で笑ってるんじゃねえ、という咎めの意でもって綾波レイが、ようやく揺れがおさまってきた段ボール箱に向けて言った。
 
 
「い、いや・・・・・・・こういった場合、どうすればいいのか、分からなくてな・・・」
 
 
相手の表情は分からぬが、ずいぶんと腹筋が痛そうな声だ。ふたりが戻ってくる前に、隠れ場所を変えてもらわねばなるまい。もしくは、この隙に外に出ておくか・・・・
死にたがり急角度状態から復帰したとなると、それはそれで厄介なことになりそうな。
 
 
「あの子が、子守歌の彼女だな」
 
 
・・・・見えて無くとも、声を聞けばそれは分かるだろう。そこに籠もる感情をよく解読しようとしたが、分からない。ただ事実をひとつ告げただけのような明解があるのみ。
 
 
彼女にそんな力・・・・あれを単純に「技」だの「力」といってしまってよいのかは別として・・・・・がなく、それを行使されなければ、目の前のこの女が段ボール箱に入っていることもないだろう。どんなに未来が無限であろうと。そんな可能性は
 
 
「かえって、目で見れば分からなかったかもしれないな・・・・・・それくらい、普通の女の子だ・・・ね」
 
 
それに捕獲されたことにたいそうプライドが傷ついた、といったようでもない。どちらかといえば、過去を回顧しているような、遠い声だった。遠く遠く、綾波レイには理解されない。
 
洞木ヒカリが、この新体制下の組織においても妙な染まり方をせず、いまも普通の感覚をもつ女の子である、という点は、鈴原トウジの功績だろう。彼がいてこそ彼女は彼女でいられる。
 
 
赤木博士が今のところ彼女の「声歌」の能力開発に本腰をいれていないこともあろうけど。
あの人こそこの未開分野の開拓に血道をあげるものかと思っていたけど、今は何か他の仕事を一生懸命やっていてそれどころでないようだ。
 
 
「いずれ、私のように、なるのかな・・・・?」
 
 
このように、段ボール箱に、隠れるように、か。・・・・・そうではないだろう。
あの竜、異形のエヴァ。もともと、この女もエヴァに乗るような器ではなかったのだろう。
それを、非道の手段を持って無理を通した・・・何か、そうせざるを得ない目的のために。
異形にして、イレギュラー。
 
 
・・・・・と、そこまでこの女のことを知っているわけではないが。
 
 
少なくとも、介錯を頼むような人生結末は洞木ヒカリに辿らせたくない。本人の希望もあろうが。そんな極道人生。
 
 
「そうは、ならないし、させない・・・・・わたしと・・・・・いや、わたしが」
 
 
一瞬、鈴原トウジの名をあげそうになったが、それは筋が違うだろう、と思い返した。
彼は彼女を染まらせぬために、己が代わりに染まろうとするようなところがある。
参号機に残っている明暗の記憶は、あまりに濃すぎる。彼が塗りつぶされても、また。
 
 
「・・・・そうか。その奮闘を見ることもないが、健闘を祈ろう」
 
 
・・・・・・・・この女も暗いなー・・・・・・、と綾波レイが思った。
 
口先で何を言おうが。潔い、というより暗い。赤木博士と会わせたら相乗効果で空気がとんでもないことになりそうだ。尋常ならぬ陰鬱とした暗さであった。まあ・・・・
 
介錯を頼んで明るくはしゃぐ道理もなかろうが。
 
ここで最終兵器少女Hこと洞木ヒカリの登場で少しは復讐心を刺激され、元気やる気が出てくるものかと危惧していたが、どうやらそういうこともなさそうで。
 
 
「それより・・・・・・隠れ場所を移動して。気づかれてる。戻ってきたら」
 
 
自分の部屋に碇シンジがいないとしたら(いるわけがないのだが)ふたりは戻ってくるだろう。ああはいっていたけれど、たぶん。そのまま帰ってしまうことはしない。
箱の中を確認されてしまったら、まずいことになる。
 
 
「このままでいい。別に私は誰が見届け人であろうが、かまわない」
 
 
うわ。なんだこの適当ないい加減無責任発言は。ヤケヤケではないか。あなたはそれでいいかもしれないが、こちらが困るのだ。全く、えらい面倒くさいのが転がり込んでくれたものだ・・・・案内人を恨むほかない。もし、復讐ノートなどつけていたら今日は三重丸くらいのチェックをいれるほかなし。
 
 
「出て」
「いやだ」
 
 
年齢を考えると、とんでもないやり取りだ。苦労のため年齢加算にブーストされて暦が還ってもはや聞き分けのない子供にでもなってしまっているのか。
 
 
「出て」
「ことわる」
 
 
その気性の暗さゆえに、すっかり箱の中の黄昏が気に入ってしまったのだろう。何か声にわずかな悦楽を感じる。しかも微妙に偉そうで。綾波レイならずともムカッとくる。
惣流アスカならば即座に箱にケリくれていただろう。その後のことは考えずに。
 
 
そんなやり取りを数回繰り返している内に、「綾波、もどったでー、アイツ、おらんかったわ」鈴原トウジたちが戻ってきた。快活な響きの中にも複雑な気遣いの色彩がある。
虚ろな明るさになりがちなところ、それが骨組みとして枠支えしていた。
 
 
が、予想よりもずいぶんと早い戻りに、らしくもない虚をつかれたカタチの綾波レイは、箱の中のこの女をどうするべきか、どう隠匿するか、判断つきかねて、あげく。
 
 
「・・・なにしとんねん、自分」
「綾波さん?」
 
段ボール箱に座り込んでいた。非常に不自然な構図であるが。確実に、ここに誰かいますよ的なボディランゲージともいえた。注目してください、と言っているようなもので。
 
誰か、というのは、この場合の鈴原トウジ、洞木ヒカリのふたりにとっては、
 
「碇シンジ」のことに決まっている。箱の中に彼がいるのだと。そう、思われても。
 
 
「違うの」
 
ゆえに、先手をとる。先手必勝、というか、後手に回ったが最後、破れるほか無い。
 
 
「段ボール戦車は危ないから、ただの段ボールに切り替えていたの」
 
 
これといった言い訳のアイデアがあったわけではないから、強引につなげる。この言によってふたりの自分に対する評価がどうなろうが・・・・耐えるほか無い。
 
 
「・・・・・はあ・・・段ボール戦車・・・・でっか」
「そ、そう・・・・・危ないんだ・・・・・・・・・」
 
 
危ないのは目の前のおまえかも、という目はせず、どことなく優しい。気がした。
事前に、洞木ヒカリがなにか鈴原トウジに告知していたのかもしれない。
今日の綾波レイが少々スットンキョーな発言をしても、スルーするように、とか。
 
 
「あー、それで・・・・・シンジはやっぱり、自分の部屋にももどっとらんようやった」
 
いわずもがなのことを鈴原トウジが確認するように。なにせ彼の部屋にはここの十倍、二十倍ではきかぬような厳重な封印が仕掛けてある。そこが解放されたら絶対に気づく。
・・・・・とはいえ、その理屈ならば、箱の中の女がのこのこここまで来られるはずもなく。確認は大事だった、といえる。そして、現場確認してなお、いないというのなら。
 
 
「ワイらと入れ違いでこっちに・・・・・ちゅうことは、ないわな、綾波」
 
もちろん、その目は、尻に敷いている、わけではない、座っている段ボール箱の中に。
いかな名探偵でも、まさかあの竜の操縦者がここにいるなどと、夢にも見破れまい。
 
 
「え、ええ・・・・あれから、かわりはないわ・・・」
 
これ以上、変わったことがあっては身が持たない。この状況で使徒なんぞ来られた日には。
とはいえ、時間が時間。そろそろふたりは家に戻った方がいいだろう。いや、副司令もまだ戻らず、碇司令(前)の行動も判明せず、クーデターのひとつやふたつ、起きてもおかしくない不穏な夜だ。護衛的には・・・・・ここにいた方が、いいかもしれない、が。
 
 
「どこ行ったんかのー・・・・・が、まあ、こんなこと言うとってもしゃあないわな。先に本題を片付けるとしようかい・・・・本人があかんから、そのために、ワイらを呼んだんやろからな」
 
「・・・・本題?」
 
なんのことか。碇シンジの件以外に重要事なんか、あるのだろうか・・・・・
 
本気で目を丸くする綾波レイ。気を張りつめておかねばならない魔界状態のネルフ本部では見られない表情に、(綾波さん・・・・)思わずキュン、とする洞木ヒカリ。
 
 
「あー、なんかテンパっとるんやろ、自分。シンジはそう言っとったからな・・・相談にのってやってくれと」
 
よく聞くと、死者から届く手紙のような文言だ。しかしながら、自分はテンパった覚えなどない。多少は混乱する状況であるが、テンパるなど。だいたい、その原因は相談も何もその当人であり、相談相手を斡旋するよりてめえでなんとかしてもらいたい。
 
 
とはいえ、介錯を頼まれたことなど、このふたりに相談など、出来ようはずもない。
息子のやったことだから、碇司令(前)がいれば、そこに持っていけば済んだ話なのに。
 
 
 
「・・・・碇くんはどこにいるの・・・・」
 
 
どこにいるもなにも、自分がさっさと視認のうえ確保しておけば、こんなことにはなっていない。しかし、つい、ぽろっと、弱音のように、本音が、もれてしまった。
 
すれちがいは、恋愛モノの王道であるが、これは恋愛モノではないし。雨の中、公衆電話で泣きそうになってきた女たちからすると、グリグリとうめぼしをくらわすか、もう抱きしめたくなるほどのわきの甘さであったに違いない。
 
 
 
うーむ・・・・
 
 
 
空気は五里霧中。鈴原トウジも洞木ヒカリもかける言葉がない。言いたいことは山ほどあるわけだが、いまこの状態の綾波レイに言うには、あまりにも・・・・であった。
 
本人が一杯いっぱいすぎて、何を言おうが、こぼれてしまって、いいことにはなるまい。
 
一番いいのは、碇シンジをここに連れてきて、綾波レイに言いたいことを言わせることだ。
まずは、それをやらないと、相談もなにもならない。自分たちには言えぬ事も、あろう。
 
 
鈴原トウジはともかく、洞木ヒカリなどこの調子の綾波レイを見るに、碇シンジには「ひきょうものー!」と石でも投げつけてやりたい気分であった。当人を目にすればまだ別の気持ちが浮かぶかも知れないけれど。今は。女心は。
野郎心としては、その容赦無さを聞けば「ひいいっっ」と恐れ入るしかない。
 
 
少女娘ふたりに、野郎ひとり、三者三様にだまり次の言葉を探しあぐねて霧の中迷い込んでいる・・・・時間は無情に、無駄に流れてゆく・・・・・
 
 
 
それを許さなかったわけでも、なかろうが・・・
 
 
 
「雨が止んでしまったからな、それは、会えないだろう」
 
 
段ボール箱の中から、女の声が、した。大きくはないが、遠慮も控えもない。
当然、隠行はこれで終了。声は三人に向けて語られた。
 
 
「もしかして・・・・・・知らないのか・・・・?」
 
 
戦車などより遙かに危険な・・・・・竜の操り手の、疑問符。
少年少女の会話が終わるまで沈黙隠行するつもりであった女が、どうしても聞き逃せずに、問うてしまった。一事。
 
 
「・・・・・・だれや・・・・?」
「・・・・・・もしかして・・・」
 
相手が単なる不審人物、段ボール箱に入るのが好きなだけの変態ではすまない、強い力をもった危険極まる人物であることを、鈴原トウジ、洞木ヒカリ、ふたりは肌で感じている。半分は本能、もう半分は経験と訓練、そして慣れだ。レベルは違うが本部勤めでそんな感覚を鍛えられてもいる。洞木ヒカリを守るように移動する咄嗟の流体動は明暗成分の侵食か、自らの覚悟の成果か。役割分担のように声の記憶を探っていた相方は、正体を喝破する。PART2にしたわけではない。
 
 
儚い抵抗のように、箱の上からどかなかった綾波レイではあるが、意味はなかった。
 
タコに名刀をふるわせるような、無理の無さで、箱の横を切り裂いて出てきた。
中身が抜けて、箱が潰れて綾波レイが尻餅つくまえに、その襟首を仔猫のように掴んで立たせるその体技。
 
 
鈴原トウジに少々黒羅羅明暗の風味がついてきたからといって、逆立ちしても敵うレベルではなかった。その気になれば、十秒もかからず三人とも首をとられるだろう。
 
 
「水上左眼。君たちにはあの竜を模したエヴァに乗っていた盗賊、と言った方が分かりやすいか」
 
すい、と綾波レイの襟首を離すと、敵意がないことを示すためか、単に面倒くさくなったのか、すぐに座り込んでしまう。居合いが使えるとなるとそれでも攻撃の無意思を示しているわけでもないがあまり変わりない。戦闘力に違いがありすぎる。
 
 
しかしながら、この部屋の主として、好き勝手させるわけにもいかず、訪れてくれたふたりの安全だけは確保する責任がある綾波レイとしてはその赤瞳を光らそうとする、が。
 
 
「ああ、派手なことをしてしまったが、別に意味はない。最初の目的は変わっていないし、つけ加えられてもいない。やりたいことはやってしまったからな。彼らに危害を加えるようなことはない・・・・誓おう、この首を、かけて」
 
 
「・・・・・・・」
冗談のつもりなのだとしたら、果てしなくつまらない。というか、しゃれになっていない。
 
 
「なんというか、これは老婆心というか、柄にもない置きみやげのような親切心、といったようなものだ。年長者が年少者に自然に持つ、誘導の本能というか、な。迷う経験も必要だろうが、時間は有限だ。私のような者が言うのもなんだが、やはり人の時間は有限だったよ・・・・あまりに、見当外れなことを言っていると、警告はしたくなる。信じるも無視するも自由だが。あー・・・・・私はちなみに、さんざん無視してきた口だ。それも、徹底的に力づくで恩も知らずにな。それだけに、信憑性は、逆にないか」
 
はははは、と笑った。今までの暗さとうってかわっての、軽やかさで。楽しそうに。
ヤケヤケがとうとう脳にまでまわってきたのかもしれない。危ない。
 
 
事実、鈴原トウジと洞木ヒカリは引いていた。意外性のダブルパンチでしばらく防御にまわっている、といったところか。これが嘘なのか本当なのか、着ている服はネルフの制服のようだが、言葉の重みは確かに。そして、両眼が見えていないことも勘付く。
そんな女を箱に隠していた綾波レイの本心も、また。
 
 
「見当外れ・・・・・?なにが」
 
もはや助からない傷を負った人間が、死に際に重大な真実を漏らす、というのはよくあるパターンである。そんな局面に出くわすこと自体がかなり稀でレアであるが。そんな局面でも軽めの嘘がつけるような人間はどんな鉄仮面であろうかとも思う。
本人がなんらかの情報をしゃべる、というのだから止める道理もまた、ない。
呪いのように、フェイクを刻んでこようと、それはこちらの問題。受け入れよう。
綾波レイは、しっかりと、水上左眼の顔を見る。その口は、なにを語るか。
 
 
「雨が止んだのに、シンジ殿に会おうということが」
 
 
目からその言葉の真偽は分からない。含みなどが完全にないだけに。端的に、ストレートに事実だけを、告げている、といった口調。
 
 
「会いたくはないのだと思っていたので、黙っていたのだが・・・気の毒したのだろうか」
 
 
いっそ嘲笑ってくれればいいのだが。どうも自分はかなり、救いのない手落ちをやらかしたらしい。そして、救いの無いほどに、情報の欠落が、あることに、今、気づいた。
証拠品も何もないのに皆を集めて犯人の前に立ってしまった探偵の気分だ・・・・
 
 
「どういうことや!?・・・・・・・あ、すいまへん。ワイは鈴原トウジいいます、こっちは洞木ヒカリです。そこの綾波と、シンジの、ダチです。クラスメートで・・・エヴァ馴染みも・・・ちっと入っとります。立ち入ったことを聞いとんかもしれませんけど、アイツのことなら、聞かせてくれまへんか・・・・・・?」
 
鈴原トウジがもう復活してきた。
 
というより、こちらがダウン気味であったからせざるを得なくなったからか・・・。ただ、自己紹介は必要ないと思う。ふたりはもう業界では知らぬ者はいないくらいだから。
 
 
「ただの友人かと思ったら・・・・・うかつには出来ないほど、強く守護されているな・・・・ふたりとも。これなら、理解して、もらえるか・・・・・このふたりにも話してしまっていいだろうか」
 
霊能者みたいなことを言っているが、竜を駆るくらいでどこか感性も人並み外れているのだろう。しかも、それは正解であるし。それでいて、自分に許可求めるあたり、この女の性格がよく分からない。ダメといえるわけもないが。一般人、はもちろん、多少、業界の水に浸かったくらいの人間には理解できない話を、するつもり、らしい。
 
それで、友情が破綻しようと。・・・・・・そうなると、自分のせいか・・・。
 
と、なると、この女、単にずるくない?という気がしないでもない。まあ・・・・
 
 
「ええ」
「だめ」
 
許可する自分の声と、不許可の洞木ヒカリの声がほぼ同時に。
意外なNOに三人とも彼女の方を見る。「ど、どないしたんや?」鈴原トウジが代表してその意を問うと。
 
 
「あ、だめ、というか。もちろん、碇くんのことは、聞かせてはもらいたいんだけど、その前に・・・・」
 
 
「「「その前に?」」」
三人でハモった。まさか長話になりそうだから、手洗い、というわけでもあるまい。
映画を観るのではないのだ。ポップコーンを買ってくるとか、アルコールを入れるとかは未成年であるし。
 
 
「そのひとの・・・・・・水上さんのことを・・・・・・聞いておきたいの」
 
 
手洗いとかポップコーンとかアルコールとか、いらんツッコミをしなくてよかった、と内心で胸をなでおろす鈴原トウジと綾波レイと水上左眼。
 
 
「私のことを?」
 
意外そうに、気配と声の方向で相手の場所は分かるようだが、水上左眼が洞木ヒカリの方を向いて。
 
 
「いきなり現れて、いきなり核心のところを、説明されても、本当なのか、判断しようがないですし」
 
・・・・・割合に、情け容赦ないことを言う。道理ではあるが。なかなかいえることではない。いざとなったら女は度胸が据わる、というのはこの場合あてはまらない。綾波レイも少しあっけにとられていた。男の美学的にいえば、こんな話のバックブリーカー、許容できんところではあったが、鈴原トウジは何も言わない。
 
 
「それはそうだなー・・・・・・しかしながら、この街の少女は、油断がならないな・・・・・・・やはり、街の娘だからかな・・・?」
 
似たようなやり取りをして、ずいぶんと長話になった。が、自分の昔話などしても仕方がない。綾波レイもそれは受け付けまい。同意を求めるように、水上左眼が苦笑ついでに首をめぐらせると
 
 
「それは、あるかも」
 
あるまじき返答が。
 
 
をいっ!
 
思わず、空中に手刀突っこみをいれてしまった。あまりの神速で鈴原トウジでさえ見えなかったが。あまりに度が過ぎると、本来の趣旨から外れてしまうと言う好例だった。
 
 
別に、信じてもらいたいわけでもない。嘘だと思うなら耳から流してしまえばいいこと。
しかしながら、この真摯な、かつ、用心深い態度は・・・・決して、嫌いではなかった。
 
 
むしろ、大好きであった。
 
 
コケの一念で大海をも割りかねないほどの真面目人間、水上左眼が、こういう真剣な態度をとられて気が悪いはずがない。まさか、それを洞木ヒカリも狙ったわけではあるまいが。