むかしむかし、あるところのある藩に、おとのさまがいました。
 
 
むかしむかし、とはいっても、藩、といっているから、だいたい江戸時代です。
 
 
おとのさまのしごとは、まつりごとです。江戸時代なので、戦国の世ではありません。
 
 
それなりに、ふつうに、おとのさまをやっていました。政治能力も中くらいでした。
 
 
ただ、
 
 
もはや大平に治まった世の中にあって、場違いなほどの、剣術の腕前がありました。
 
 
戦国の世にあっても、おそらく奇異の目で見られたであろうほどの、異常の才能。
一里先から刀を振れば、真空が走り、狙った相手の首を刎ねた、というのですから。
ぶっちゃけ、現代のスナイパーよりもすごいです。
 
愛刀を打ち鳴らすだけで、風と雨と雷を呼んで、銃やら大砲も使えなくした、というのだからもはやマンガです。シェーとしかいいようがありません。
 
 
しかし、使いどころは、一切ありません。おとのさまは、そんなことをしてはいけません。
 
 
もう戦国大名ではないのですから、そんな一騎当千無双みたいなことをするだけ部下も領民も迷惑なだけです。
 
 
名君ではなくとも、現地の歴史の先生しか知らないレベルのふつうのおとのさまですから、
いちおう、分かってはいました。”そんなこと”を、してはいけないのだと。
 
 
 
ただ、
 
 
 
そのあまりに異常な才質の器は。
 
 
大きすぎるその器は。満たされた黄金の輝きを放つ美酒に近い何かは。
宣伝をしたわけではない、むしろ秘密にしておきたのに
 
 
いろいろなものたちを、引き寄せました。
さまざまなものを、引き寄せました。
 
 
その結果、それなりにふつうだったおとのさまは、おかしくなってしまいました。
 
 
”そんなこと”をするように、なりました。
 
 
市中に出ての辻斬りであれば、たまたまやってきた天下の副将軍がそのうち見つけてカタをつけて(実力的にムリだったかもしれませんが)くれたかもしれませんが。
 
 
城の中で、部下のさむらいたち相手に、その反則としかいいようのない剣の冴えを披露しまくるのですから、大変です。あまりに次元が違いすぎて、そもそも斬られたことに気づくのに二日かかった、という例もあるくらいです。運の良い者は、切られた首をあわてて元の位置に直したらくっついた、という話もあります。笑えない落語です。オチもないし。
 
 
とのさまが乱心した、ということで、皆で相談して謀殺処理することも、やってできないことはありません。発作的に”そんなことをする”、というだけでそれ以外はふつうにまつりごとをする、それなりにしたわれているおとのさまなのです。
 
 
このまま我慢するか、いっそ殺ってしまうか・・・・・・・
 
 
忍びがたきを忍ぶのが忍者であっても、部下たちもさむらいです。
 
殺ってしまおう論に一気に傾くあたり、やはりさむらいです。忍べません。
まさに、逆臣蔵です。実現すれば、そんな感じで歴史に残ったことでしょう。
江戸時代なので、下克上ともいいがたいところです。
 
「やはり毒ですかなあ・・・・・」
あまり下手なことをすると、お家そのものが取りつぶされるかもしれません。
困ったことに、跡継ぎもまだいませんでした。
 
 
そこで家老の一人が、たいそう面白い話をたくさん知っている若い娘に夜とぎをさせたらどうか、という海の向こうの遠い国での成功例を持ちだしてきました。なんで知っていたのでしょう偶然の一致というものでしょうが、結果が異なりました。精神を安定させ発作をおさめるついでに跡継ぎもこさえてくれれば、という一石二鳥アイデアではあったのでしょうが・・・・。
おとのさまの好みのタイプではなかったのかもしれません。
 
 
そこでもうひとりの家老が、考えたのが「逆SP」です。つまり、何人かの腕の立つ者たちが頑丈な鎖帷子や襦袢でも着込んで、壁となり、おとのさまの発作から周囲の者を守る、という・・・・なんとも逆転過ぎる発想でした。そのための特別チームも編成されました。
 
 
 
そこで編み出されたのは、特殊な技術。
 
 
 
反撃すらせず、ひたすら相手の攻撃を吸い取り続ける特異すぎる対抜刀防衛術。
 
 
剣術とは殺人術。とはいえ、そう簡単に人を殺ってしまえるはずもなく。
それに、殺すだけならば、さほどの技術を必要としないのかも知れず。
 
 
実際、その、石灯籠どころか天の雲すら斬ってみせたおとのさまは、ある寒い朝の散歩中、石につまづいて亡くなったのです。
死ぬときになれば、勝手に死ぬのだ、といわんばかりに。
 
 
さんざんにその才をもって、斬撃を収める役目の者たちの血を、吸い尽くして。
 
 
その藩の特別チームは誰一人、残りませんでした。対する才能はあまりに巨大すぎたのです。比して生まれたばかりのその技術はあまりに幼く、脆弱で稚拙でした。
 
 
しかし、技術は他の藩に渡り、生き延びました。戦国の世ならともかく、治世維持のためには必要な技術だったからです。おまけに、戦国の世で錬磨された遺伝子のせいか、たまに恐ろしい人並み外れた攻撃力をもった存在が生まれ出ることもあったのです。そんなのが世襲制で高い地位についていたら、周りはもう大変です。
 
 
めんどうだ!殺ってしまえ!!・・・・・・・・ということにも、基本、武士ですからあったでしょう。時代劇などで伝えられる、王道パターンとしては、そうです。暴れん坊な将軍だろうが天下の副将軍だろうが、逆らう時は逆らいます。めんどうだからでしょう。
 
 
一見、なんのためにあるのか、分からない技術ではありますが、下手な殺人剣より必要とされたのは間違いなく、長い時を経て磨かれ続けました。何度敗北しても。美麗な名が与えられることもなく、武芸の自己否定ともいえるその存在自体が、影のまま知らぬまま。
 
 
 
そして、さらに長い時を経て・・・・・・
 
 
刀をそもそも使うことがなくなった時代となり・・・・・・・・・
 
 
その技術は、もはや完全に用無しになった・・・・・
 
 
どんな感じで役にたったのか、証明のしようもない
 
 
その理想は
 
 
基本的に、敗北するしかない、道ではあったのです。
 
 
遙かに、遠く
 
 
目の前の相手を、殺ってしまった方がなにかと手っ取り早く、”めんどうがない”。
 
 
めんどうごとを完全に処理するには、人の生は短い。短すぎる。
 
 
歴史に名を残すこともなく・・・・・
 
 
おそらく、最後の伝承者がその生を終えれば・・・・
 
 
消えてしまう・・・・・
 
 
 
「ミーのことざんす・・・」
 
 
目の前の本人は憂いを帯びた、とかなんとか思ってるのだろうけど、どうにもそのルックスが反シリアスというか、真面目な話であっても同情しにくいというか・・・・・
 
 
「はあ・・・・」
 
としか、答えられない綾波コナミであった。
 
 
ここは綾波党の党本部、の応接室。
 
 
竜尾道をともにボートで脱出してきたはいいものの、なぜか途中、党の命令でこの出っ歯のおじさんを連れてくることになった。碇シンジの関係者、本人は「師匠」とか名乗っているが・・・・・なんで自分が、と思うが、まさか正面切って逆らえない。連れてくるくらいならまあいいか、と思ったら、命じた党首がどこぞに出かけている、ということで、そのままこの、居闇カネタの相手をせねばならなくなった。言うまでもないが、こちらの希望では微塵もなく、命令だ。黙っていればそれなりに親切にしようか、と思わなくもないのだけれど、いったんその出っ歯口を開かれると、そうした気持ちがパッタリ失せてくる。人は見た目が九割というけど、口調の方が問題になるのではなかろーか。悪気ではなく、そういったキャラなのだろうが・・・・・・・・・・・・・疲れる。
その弟子だという碇シンジの苦労は・・・・・・・・・・・・・・いや、お似合いなのか。
 
確かにどちらも天然記念物みたいなところがある。というか、珍獣というか。レアモンスターというか。こちらもハンターではないから出くわしたいわけでもない。
 
 
・・・・過去形に、しておくべきだろうか・・・・確認したわけではないけどあれは。
どうなった、のやら・・・・
 
 
最終的に党首のナダ様が聞き取りでもするのだろうけど、扱いに困る。別に自分が好きで拾ったわけでもなし、その縁で最後まで面倒みろ、というのは・・・・・他にやりたがる綾波者がいるわけもなく、皆同じか。少なくとも事情を知る自分が適任なのだろう、となんとか納得させる。
 
 
ともにうな重を食べながら。その代金くらいは党がもってくれるからいいとして。
 
ほんとに遠慮がないな、このおじさん・・・・・しかも特上とか。
 
話すこともトンデモ時代劇だし。流派の由来とか、女の子に話してもしょうがないでしょー。まさか、こっちを弟子にしようとかいう・・・・気はないだろう。どうも目つきが。
滅びるしかない流技を、この師匠の元で継ごうという物好きなんかいるはずが、ない。
天然記念物どころじゃないよ。地球最後の生き残り、だ。レッド・レッド・データ。
 
 
「一応、男の弟子は出来たものの、どーにもセンスがないんざます・・・あれじゃ奥義の伝授など千年かかっても出来そうにないざます!・・・・柔よく豪を制す、女性の柔らかさこそ真理に近づく早道かもしれないざます。ああ、どこかに素晴らしい才能と熱意と根性をもった逸材はいないざますか・・・男女は問わないざます。才能のない男の弟子にも兄弟子ぶらせないざます!」
 
 
「はあ・・・」
 
うなぎおいしい。ふるさと最高・・・・・怪しいおじさんとふたりで食事でもなんとか、がまんできる。
 
 
まあ、生きて帰れたからよしとするか。
 
地元まで戻ってくれば、もうさすがにあんな面倒なことにはならないだろう。
 
少なくとも、自分がどうにかするようなことは起きないはず。
 
自分が見届けねばならないような、ことは。
 
自分が一押しせねばならないようなことは。
 
 
 

 
 
 
「そんなわけで、この街は、あの小僧の腹の中みたいなものだ」
 
 
綾波ナダが説明を終えた。鈴原トウジと、洞木ヒカリは、それを聞いた。
 
 
「腹、というか、心臓だね。往って還る器官、心臓の、中だ。いや、外かね」
 
 
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
 
笑うべきだとは、思ったが。二人して、声も出ない。
 
 
「だから、あの小僧は、滅多な事じゃ、くたばらない。てめえの陣地内なら最強だ・・・・・ああ、住んでいる人間にしてみれば、たまったもんじゃない例えではあるね。けど、与えられすぎた人間は、そうなっちまった。器量的には大したことはないんだろうね、あの小僧も。神話になりそこねた、ってところかね」
 
 
 
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
 
答えるべき言葉も返すべき言葉も見つからない。心と体のどこをさがしても。
ひとりではもちろん、ふたりがかりでも。
 
 
「あんたたちの乗り方は、たぶん、正解なんだ。どの時点で目をつけられるのかは、分からないけど、あんたたちふたりには、”そういうこと”は、ないんじゃないか、とは思うね。監督責任者が無能無責任でなけりゃの話だけど」
 
眼光は真摯であるが、容赦がない。子供相手であろうとも。子供でなくなる時を思いて。
それは赤子の頃から見守ってきた医師のように、あるいは肉親のように。
 
 
「ま、それに関してはあたしが言えた義理じゃないけど。ヒカリちゃんも、別に択一で決めることはないんだよ?世の中広いんだし、広く世界に目を向けた方が後悔は少ないよ?出雲の神有月会議ってありゃウソだから」
 
 
と、急に無責任なオババに早変わりしてニヤリと。
 
 
「いえ。択一に・・・・・・・・なる、と思います。・・・・・・なるといいな」
 
 
「?なんの話をしとるんや・・・・?シンジのことやないんか?」
 
ボケではなく、ほんとに分かっていないらしい若き鈴原トウジの両肩にマルコムたちが手を置く。それで男たちの苦労が伝授され理解されるわけもないが、まあ、それがいい。
 
 
「非常に微妙なところに位置はするが、まあ、あれでも人間には、違いない。ギリギリの際者でも。現地まで足を運んでようやく確信した。最初はほんとに京都の闇密から引きずり上げてきた鬼の子か人形かと思ったもんだけど」
 
 
「えらいな言われようやけど、そりゃシンジのこと・・・・か」
 
 
「そうだよ。愛されすぎるのは、恐ろしいってことさ。よく覚えておきなよ・・・・どこかで、見境をつけなくちゃいけないんだ。愛されるってことがそもそも一筋縄じゃいかないことだけど。まー、魑魅魍魎業界のことだから、どこからどこまでが偶然で計画なのか分かったもんじゃないけどねえ。あんたたちは、そういうところに足を踏み入れてしまった。腹をくくって、虎のように目を見開いて、進む必要がある」
 
 
「・・・・・エヴァは、
       そんなに・・・」
 
 
現在そして将来、下手をすると、業界の最重要人物になるかもしれない洞木ヒカリが。
 
いくらでもパイロット、チルドレンをその座に、底上げして、つけることが出来る・・・・いくらでも誕生させることができる・・・・・兵士たちの母にして、調和の女王。
 
 
鈴原トウジにすれば、断じて認められない悪夢の未来予想図だが。
今は、まだ猶予が。
 
 
「実際、どうなのかはデータを検証したわけでもないからね、ただのカンだよ。さすがに人造人間まで診たことはないんでね。ただ、人間を名乗るからには、そうなんだろうさ・・・・言葉は先か、後か・・・・・・・・ま、人間に限らない話ではあるけど」
 
 
 
「我が子に、血肉を与えてでも、育てようとする・・・・・そんな、気持ちは」
 
 
「機械の感情じゃ、ないと思うね」
 
 
「目が眩むような、錯覚も」
 
 
「神経接続のせいだけか」
 
 
 
「どうだろ?ドクター冬月」
 
 
万に一つもハズレのない、といった風の呼びかけだった。もしかすると、まだ眠っているつもりだったのかもしれない。政治家は居眠りと狸寝入りが得意だが。そのように呼ばれたなら。
 
 
「ずいぶんと、しゃべるのだな・・・・」
 
乾いた、少ししゃがれてはいるが、確かな意思を込めて。冬月コウゾウ氏が。
 
 
「あんたが途中で起きあがって説明するかと思ってたんだけどね・・・・それは違う!とかなんとか言って」
綾波ナダが嘲笑う。もちろん、ネタふりでもなんでもないが、
 
 
「そうやな、コトダマが弾丸みたいに飛んでいって論破するシーンがあってもおかしくないところや」
「それから、”それは違う!”じゃなくて、”それは違うよ!”じゃ、ないかしら」
 
鈴原トウジと洞木ヒカリが、たとえこんなことを言ったとしても、日向マコトと違ってボーナス天引きにしたりしない冬月副司令であった。出来る立場でもないが。「あ!副司令はん」「意識を、取り戻されたんですね!よかった〜」それに、一応、子供らしくこちらの復活を喜んでくれてはいる。なんか、順序が違うが。違うけど。違うんじゃないかな。ま、覚悟はしなくてもいいが。BGMは「ワールド・ニュー・オーダー(ダンガンロンパより)」な感じで。
 
 
「子供相手の説明役も疲れたよ。ばばあの解説じゃヤングも飽きたろうし、じじいにバトンタッチするとするかね・・・ああ、その前にひとつ聞かせておくれ」
 
「あえて異議は唱えまい・・・・・なんだね」
 
いい夢を見ていたわけではないが、目覚めた後のこの現実よりは都合よかった。
 
この深紅の双眼。嵐を呼びながら突き破るゴードの赤光。悪夢よりなお、だ。
・・・・・・碇め・・・・・・・とりあえず、あの男のせいにしておく。
 
 
「孫娘はここにはいない。災いの中心、あんたの仕事場にいっちまった・・・
 
あの小僧は、孫娘を、守るんだろ?」
 
 
否、を許さぬ問いだ。そして、意味のない脅迫。そのようなこと、分かるわけがない。
こちらとて、単なる人の身、なんでもかんでも分かっているわけではない。
 
 
「守らぬ理由が、見あたらないが?」
 
 
とはいえ、正直じいさんがいい目をみるのは昔話だけだ。ここは灰色じいさんオールドグレイで。それに。
 
どちらかといえば、レイの方がシンジくんをただでおかぬ力関係の気がするが。
力、というか、相性か。パワーだけでいえばケタが違うのだから勝負にもならぬ。
 
 
「ま、積極的に敵にまわらないならいいさ。ここはあの小僧のうちであり、庭だからね」
 
灰色ばあさんが赤い目でそんなことを返す。しかし、人の仕事場を災いの中心とはひどい女だ。レイにはこんな風になってもらいたくないものだ。ま、その時には私はこの世におらぬだろうが。青葉君もおらぬ。とりあえず、本部に繋いで現状を把握するとしよう・・・・・
 
 
と、その前に。シオヒトの奴を使ってやることがあった・・・・・私の拉致監禁中に何者かがやった、ということにしておこう。副司令としていろいろまずいからな・・・・ふふ。
 
あとは碇に丸投げだ・・・・・・・・・ふふふふ・・・・・・・・・ふふふふふふ!
 
本人は分からないが、なんか目がイキイキと輝いていた。不気味だった。
 
もちろん、人の命を助ける医者の目ではない。人の運命を弄ぶエッサイム系であった。
 
 
ほんとに助けてよかったのかなあ、とここにいる全員が、一瞬、思ってしまった。
 
 
そして、使徒来襲の報が、入った。
 
 
 

 
 
 
「ここで使徒だと!?」
 
 
本来、ここは対使徒用武装要塞都市・第三新東京市であり、その殲滅を使命とする特務機関ネルフ、その総本部なのであるから、通常勤務態勢に入っただけ、といえるが。
 
日向マコトの心の底からのアンビリーバブルな叫びは、切ないほど全員が同調した。
 
 
しかも、こちらからすると、北方、東方、南方、と三方角を封じるように進行中。
出現はほぼ同時。いつものパターンすぎるが、戦車砲その他が通じる相手ではない。
 
 
万全の状態とは言い難い、断じて言い難い、というか、このタイミングで断じて来て欲しくないところに、なんの前触れもなく八号機がいきなり発進、そのまま西の空へ消えた。
 
消えた、というより、逃げた、というに近い。なんらかの手段で発令所より先に接近を察知し無断出撃で使徒につっかかっていった、というのならまだ分かるが・・・・信じられぬような飛行速度で管制を振り切ると、ステルス機能を用いたのか、こちらのコントロールから逃れた。シオヒトと八号機が好き勝手やるのはいつものことだが・・・・通信などにも応じる様子はない。そもそも届いているかさえも。一体、どういうつもりなのか・・・それを指揮するシオヒトにも連絡がつかない。
 
 
現状のネルフ本部に、まともな戦力は、八号機一体しかいなかったというのに。
 
 
零号機は、片足から槍を抜くなどと、いわば手術中であり、
参号機はパイロットが本部におらず、
 
 
使徒来襲の報を受け、ようやくしぶしぶと蠅司令が本部施設の電力復帰、機能のリスタートを許可したが、その間の闇の中で何があったのか・・・・・・
 
 
蘇った照明の下、データ画面で明らかになったその事実に、発令所スタッフは愕然とした。
 
 
内部からの手引きで侵入してきた夜盗にいいように荒らされていた、という時代劇の大店めいた現実。規模こそ違えど、本質はそう変わらない。敵に攻められたならまだしも。
 
 
これは・・・・・・
 
 
こんなことが、総本部で起こってしまっていいのか・・・・・目を疑っても事実は。
 
 
中でも凄惨なのは、参号機に至る毒殺死体の行列であった。
 
 
全員が外部の侵入者、それも特殊部隊レベルの装甲破壊装備をもった・・・・それらが皆、それぞれ異なった毒で殺されていた。詳しい検査をしたわけではないが、明らかに死に様が違いすぎた。即死した者もいれば苦しみ抜いたあげくの悶死も、目をそむけるしかないような姿に変化してしまった者もいた。明らかに味方などではありえない、敵、ではあるが・・・・。度を超えた残酷さに駆けつけたスタッフたちも立ち往生するしかなかった。
 
 
日向マコトもなんと指示していいか、しばらく言葉を失っていた。
 
能力といい、精神性といい、こんな真似ができる人間が存在するとは、信じられなかった。
 
これは、互いの食い合いの結果、そうなったわけではないようだ。参号機の無傷がそれを、証明している。参号機を害する目的をもった者が闇の中で排除された・・・・信じられないような手腕で。これをやったのは、誰か。
 
 
犯人、と呼びたくはないが・・・・同僚、仲間だとも、正直、認めかねる。
 
 
蠅司令のル氏でもなければ、おそらく、ヘルメの率いるル課でもなく・・・・他の諜報部にこんな魔界めいた真似が出来るとは、思えない。あまりといえばあまりに悪魔的な。
 
なんらかのトリックなどがあるのかもしれないが、詳しい検死を待っている余裕などない。なんとか守られた参号機に、彼らを乗せねば・・・・・。
 
 
 
現在の参号機ケージは、気味の悪いほどの・・・・・・・・無人だ
 
 
 
通路に残留した毒がないかチェックしながらで、整備のスタッフもそこまで行き着かない。
・・・・正直、怯えが先に立ち、足が動かない者も多い。まるでその先に百の毒を吐く怪物でもとぐろを巻いて待ちかまえているかのような・・・・・恐怖が、ある。
 
 
この一件だけでも重大事であるが、日向マコトもそれに囚われることは出来ない。
 
蠅司令は槍の剥離復元作業が中断されたことで、完全にやる気を失っている。まさに投げ槍状態。もともとただの置物、ブンブン唸る中古の冷蔵庫だと思えば済む話であるが、
 
 
副司令も未だ戻らず・・・・・・ただ生きているだけで、指揮がとれない状態、と言うのではこの場合、意味をなさない。薄情でも。
 
 
作戦部長連が・・・・、座目楽シュノは間違いなく最上アオイの証人つきで危篤状態、シオヒト・Y・セイバールーツは連絡がつかない生死不明状態、エッカ・チャチャボールも現在進行形で地球のどこかで別の作戦指揮をとっているらしく、しかもかなり旗色が悪い状態で、リアルにてめえの命奪われかねない状況である意味、それどころでないらしい・・・・「いやー、すまんち」笑ってはいたが・・・・そうなると、残りは
 
 
「この部屋を荒らしたのは、我富市由ナンゴク氏に頼まれたから、です!すいません、ごめんなさい、深く反省しております・・・・・って、何回直立不動で頭下げさせれば気が済むんだよ!この部屋を荒らしたのは、我富市由ナンゴク氏に・・・・ぜえぜえ・・・」
「もうかんべんしてくれよ・・・・この手、指が、ペンから離れないよお・・・・・反省文なんか書いたってしょうがねえだろ・・・・認める、認めるから、ゆるしてくれええ」
 
 
副司令の執務室周辺で発見された奇怪な言動をする者たち・・・・その場から一歩も動くことなく、同じ事を繰り返している・・・・本人たちの意思ではないようだが・・・・、一応、作戦部長連の一人、我富市由ナンゴクの許可の下、進入コードを貸与された一部隊から大容量の機密データの持ち出しが明らかになった。今回の行方不明調査とは全く関係ないエヴァの基幹データやら本部の施設構成やら挙げ句の果てには旧第二支部からの新型材質データなどもろもろ・・・
 
「いいや!!?ワシはしらぬ!!そんな・・・これは裏切り、いやさ何者かの謀略に違いない!!ワシははめられただけぢゃ!真犯人は・・・阿賀野カエデ!可愛い顔してあの小娘・・・こちらの信頼があるのをいいことに・・・!!」
 
 
こんな調子の人物に、誰が指揮など託せるか・・・・・!だが、怒るのはあとでいい。
 
いつの間にか本部内から消えてしまっている阿賀野カエデを疑う発令所スタッフは一人もいない。このガーフィッシュ野郎のうろたえようからすると、まだ手は回っていないようだが、己の保身のためにやるかもしれない。大急ぎで阿賀野カエデのガードを手配する日向マコト。「くそ・・・っ」この体制の瓦解音がすぐ近くまで聞こえるが、まずは使徒を相手にして、生き残らねばならない。人の砦が崩れてなるものか・・・・・
 
 
そうなると、残りは・・・・・・・
 
 
アレクセイ・シロパトキン。
 
人間相手の戦争ならば、これほどの人材もいないのだろうが・・・・使徒戦においては、政治的バランスによる目付役、といった意味合いが強すぎる。自分の立場からいうのもなんだが、対使徒、エヴァを運用しての戦闘指揮は・・・
 
 
「恐れるな・・・・・だが、慎重に行動せよ。天敵は現れた・・・抗しうる武器を構えよ。恐れるな・・・・そして、汝らの任務を果たせ。総員、第一種戦闘態勢」
 
重い声が、参号機に至る凄惨街道に立ち塞がる恐怖の大岩をゴンゴン砕いていく。指示というにはあまり内容がないのだが、効果はあった。確かにキャリアの違いか、貫禄の安心感がある。我富市由ナンゴクの聞き苦しい金切り声を聞かされたばかりであるから余計に。
 
だが、その冷厳の声。どのような作戦を立ててくるのか・・・・猛々しいその二つ名・・・・・おそらく、市街の被害など全く計算に入れぬような指揮をするのではないか・・・・・・葛城さんもお金の計算なんかしなかった人だけど・・・・・元来、蠅司令がやるべきだけど、使徒戦への態勢移行命令を出してくれたのは有り難い。市街地部分を戦場に切り替える。通常ビルと兵装ビルとの入れ替わりは、習慣的に、血液温度を一度下げるような感覚がある。意識的に冷静になろうとしているためか。滾るような浅慮は必要ない。
 
 
自分たちに出来ることは、彼らへの完璧なサポートだけなのだから。
 
 
けれど、どうにもモタモタしている・・・・・様に見える、とかではなく事実、遅い。
 
あまりにもタイミング、元の状況が悪すぎたが、こちらで隙を晒したようなものであるからそれを言っても仕方がないが・・・・・まだ戦闘が始まってもいないこの現状でこの対応速度では、あまりにも・・・・・まあ、直前までの電力停止というのがあまりにもガンすぎたのでスタッフを責めることは出来ないが・・・・司令がその分のツケを払ってくれる・・・・はずもない。裏方が倒れてしまえば、そこで全て終わる。リカバリーのしようもない。ズキンズキン、と頭痛がまた、ぶり返してきた。額のあたりの最前線も。
 
 
視線眼球は休めるはずもなく、次から次へと現在状況を脳に叩き込んでいく。
 
知らずにすまされることなど何一つなく、現況を把握せねば対応策も打てない。細大漏らさず・・・参号機周辺での事件があまりにも目も心も引き留めるが、意識して他の問題なさそうなエリアもぬかりなく見ていく・・・・・・その中の一つ、大深度研究空間、凍結樹海ニフの庭に至るルートに尋常でない数の侵入者がぶっ倒れていた・・・・毒などの化学手段ではなく単純な武闘交戦による撃退のようではあるが・・・・・・こんなところに、なぜ?
 
 
そんな時、何十にもセキュリティの封をされたシロパトキンから個人指定の直令が来た。
 
この期に及んでまさか弱音じゃあるまいな、と思いきや。短文に青ざめる。
 
「孫毛明、赤野明ナカノの二名を秘密裏に捕らえよ」と。
命令に説明などついているはずもない。そのための権限はきっちりくれてはいるが。
 
この状況で何を考えているのか・・・・・ランプの欠損した巨大ボールを睨む。
 
できるわけがない。赤野明ナカノは子供を抱いてもう出て行ってしまったし、孫毛明などそもそも居場所が分からない。
 
 
うーむ、この露西亜親父も大丈夫か・・・・・南がダメなら北もダメなのか
 
 
救いなのは、エヴァ零号機の出撃準備が意外に早く進んでいることか・・・・・
 
いつのまにやら、レイが本部に来ていたことが大きい。
蠅司令の腹いせの妨害、文字通りの足引っ張りがないのは助かった。
参号機パイロットの鈴原洞木の両名がレイの家にいたのもこうなると。
 
 
しかし、なんか左足が赤くなっているような・・・・あれは・・・・・っ!?
 
 
ああ、もうっっ!
 
この驚きとか憤りとかを誰かと共有したい!!
 
というか、自分一人で抱え込んでいたらそろそろ大噴火しそうだ。
 
一人で驚いたり憤ったりしても、それに乗っかった解説とか説明とか出来ないから非常につらいものがある!一人でブツクサ言ってたら士気にかかわるし。この調子だとエヴァが出撃するまでが一苦労だし・・。相方が欲しい!相棒が!こっちが右京さんで、神戸シゲルとか、マヤ山薫とか!・・・・この状況で葛城さんが戻ってきてもブチキレて脳溢血でも起こして逆に面倒が増えそうだから、せめて。
 
 
ああっ、かみさま!!
 
 
祈るため、3秒だけ目を閉じた日向マコト。その程度で、そんな都合良くお願いがかなうわけもないが。
 
 
シャランラ☆
 
 
この場には完全ふさわしくない流れるように妖しいが、こころくすぐる魅惑の擬音が。え?こんなところでお助け魔女っ子降臨ですか?とハリー日向ふたたびリメンバー次回作製作決定か、と思われたところで
 
 
目をあけると
 
 
現実は
 
 
「待たせたな!緊急人事で戻ってきたぜ!いろいろあったが、緊急だからな☆!」
 
 
頼もしい漢の顔に、思う存分どこぞでストレスを爆裂解放してきたに違いない、不必要なくらいツヤツヤ元気のロンゲをのっけたニクい奴・・・・・さきほどの可憐な音はもしやロンゲの?ウソ?・・・・元・オペレータ三羽ガラスのひとり、青葉シゲルがそこにいた。
ホントに。ウソのようだが。まさかまさか、と思いつつ。
微妙に自分の現在立場を説明して周囲に動揺を与えないソツのなさ・・・・間違いない、まぎれもなく、ヤツだ。なんか顔のタッチが違う気もするが。まあいいか、ロンゲだし。
 
 
「死ぬけど頼む」
「応!!」
 
死ぬほど大変だが、ということを略そうが、その返事がすぐに来る。うーむ、世界で一番いいロンゲではあるまいか。最初に会った頃は、いつかはその髪をジャギジャギ切ってやろうかと思っていたけど・・・・・・もつべきものは、いいロンゲだ。たとえ己の前線がかなり後退してしまったとしても。こうした友がいるならば。・・・・しかし、自分が北欧に飛ばされていたら、どうなってたのかなあ・・・・、と、ちょっと雑念しないでも。
 
 
「・・・・・副司令もそろそろ戻ってくるだろうから、もう少しだ、耐えろ」
「・・・そうか。あ、一応、聞いておくけど、マヤちゃんはさすがに・・・だよな」
「まー、零号機があの調子じゃ専門の超速サポートが欲しいところだがオレで諦めろ」
「だよなあ・・・あの、マヤちゃんにあんな商才があったなんて・・・」
「そりゃそうだろ、あの上海クイーンの立場でいまさら一オペレータに戻れるもんか・・・・赤木博士もメじゃないだろ。いやー、お金の魔力はこわいなあ・・・」
「なにかあったのか・・・・・?」
「まあいろいろ」
 
 
同格の野郎同士で小声の相談。それだけで元気が出てくるのは別にへんな趣味とかではない誤解してはいけない。その間も休まず、指示端末は電撃の速度で叩かれまくっている。
 
互いの役割分担などいうまでもなく。本部内のあらゆる作業速度が格段にアップする。
 
とろけた蝋のイカロスのような片翼から、ふつうに空を飛べる両翼へと。体制変化後に発令所に配属されたスタッフはそのコンビネーションと速度に目を見張る。実戦で鍛え上げられてきた、これが実戦速度・・・・しかも、まだ最大戦速ではない、ときている。一人、いやさ一羽足りない。三羽ガラスとかいうある意味のんきそうなネーミングの実、戦闘機もびっくりの速度で施設内を縦横無尽に舞う神話の輝く鳥のよう。もちろん、廊下トンビとは別の次元のお話だ。実は三連星と名乗りたかったかつての日向マコトの残念さもまた、関係ない。
 
 
「日向さん!大変です!し、信じられませんが・・・・・・さ、さ、参号機が!!」
 
参号機ケージの進行状況担当のオペレータがおびえ混じりの声を上げる。
 
シロパトキンにこんな報告になっていない報告を上げたら銃殺されるかもしれないので自分にもってきたのは、まあ、正しい判断だろう。しかし、週間マンガの引きじゃないのだからこんな調子では困る。「!」マークが多すぎるのも問題だ。あれだけのことがあって恐れるのもムリはないが・・・参号機自体は無傷だったはずじゃないか。まさか機体内部に腐食毒がまわってました、とかいうなよ・・・?
 
「どうしたんだ?落ち着いて報告してくれ」
 
「パイロットもいない、無人のはずなのに、勝手に起動に入っています!シンクロ率上昇中・・・・なにこのスピード・・・・信じられない・・・・・エヴァ参号機、起動!!」
 
 
「「なんだってーーーー!!!!!!???」」
 
 
日向マコト青葉シゲルが仲よくシンクロ仰天する。ふたりでデキるところを”超”見せつけていたところでコレであるから、発令所スタッフ全員、超動揺した。
 
 

 
 
「なぜ、そんなところへ?」
 
 
自分の郷里をそんなところ呼ばわりはさみしいものがあるが、そう問うしかない。
 
 
綾波レイは「槍」と対峙する。ロンギヌシュと呼ぶべきか、それとも
 
 
零号機の足下に生け贄のように横たわる紙サナギがぶるぶると震えている。
 
ル・パロウ・ヴォイシス・・・・審神者として才能があったのか、声だけは彼女のものであるが、意思はあきらかに別のもの。なんの負担もないわけがない。しゃべる方は頓着しそうにないので、問いかける方が気をつけねばなるまい。いずれ時間もないし。最後まで見届けるべきか迷ったものの、使徒が現れたとなればまさかパイロットに手は出せまいし、一応頼みは成功したわけでクァビカにアイコンタクトでその旨確約させ、青葉シゲルも本部の混乱状態を仕切り直す方が先決であろうしそれが最高のサポートになると信じ発令所に走っていっている。
 
 
「綾波さんのためだよ。綾波さんならできる、綾波さんのためになること。そのために」
 
 
ばかなのか、と一瞬、言いたくなったが、がまんする。
 
異種コミュニケーションとは忍耐が寛容なのだ。質問の仕方にも問題があるなあ、とこの場にいるほぼ全員が思ったが、口には出せない。
 
 
赤い目の少女と、赤い巨大腕との話に。下手に邪魔しようものなら物理的ツッコミが入るのは思い知らされた。口先だけで判断するなら、この赤い腕は、少女の味方のようであり。
 
 
「でも、今は、使徒をどうにかしないと、いけない・・・・・」
 
 
迷ったり悩んだりする時間はないのだが。
 
 
「そうだねー。そのとおり。だから、零号機に乗らなくちゃ」
 
 
誠実さの欠片もない、確実に裏のある物言いであった。この場にいる全員が「・・・だましにきている・・・」と分かった。槍には魂があるらしいが、相応の知恵があるらしい。さながら楽園林檎を食べた蛇のような。
 
 
「だから、それは、使徒との戦闘が終わったあとに、してほしい・・・・」
 
 
一方の少女は純真そのもの。向こうがだましにきている、ということがそもそも理解できていないようでもある。これで「命令できる」のだから、ものすごい根性をしている。
いちおう、けなげに交渉するつもりでいるのだ。やはり、長のいうことは間違いなかったのか、とこの場にいるル氏たちのほとんどが思った。止めるべきか、と思いもしたが、そこまでの義理もなかった。
 
 
「うん、わかったよ。綾波さん、そういうことで・・・・・ああ、ヴォイシスさんもそろそろ限界だなー、もうしゃべれないかな」
 
 
”そういうことで”。悪魔の言葉である。曖昧模糊として真実にぺったりと塗りつけて偽装して、てめえの言い分を押しつける魔王ワードであった。ちなみに遊び人もよく使う。
 
 
 
「・・・・ひとつだけ」
 
 
聞きたいことがある、と。綾波レイ。コロンボや杉下右京のような粘着はらしくはないが。
やはり、心配になったのだ。とはいえ、裏切られるとは思っていないのだから、甘い。
冷凍みかんのように、あまい。
 
 
「なにかな?」
 
 
「かわる、というのは、何に変わるの?」
 
 
さきほど、語尾までこだわっていたが。それほど大層なことなのか。
槍だの手だの、形にあまりこだわるようなようでもないが。魂のかたちなど。
 
 
そう思っていたけれど
 
 
「理想の刀に」
 
 
かなた、なのかと耳を疑った。けれど確かに噛みもせず。かたな、なのだと。
 
槍が。槍であったものが。今は、足の役目を果たす、手の形をした謎のナガモノが。
 
穏やかに、返答そのものはケレンまるだしであるけれど、声色だけは
 
なにがあろうと落ち着き払う、全てをまるまる承知した、しもべのように。
最近またリバイバルしてきた執事のように。
 
 
あなたによきように
あなたがよくなりますように
 
 
わたしにあくを
わたしがあくを
 
 
誓いをたてるように
なんの代価も求めず
 
 
軽く
 
 
その声は
 
 
聞こえた。
 
 
 
すぐにそれは、たんなる誤解であることを思い知るのであるが。