もとはといえば・・・
 
 
「これ」がすべての原因ではあるまいか。
 
 
バルタン包帯で逃げられぬようにした竜号機を見下ろす零号機、綾波レイの瞳には赤報紅讐、感情の薪をドンドコウンババ放り込まれて燃え上がる強い光がある。
 
 
その立場から考えるにそれなりの内義と信用をもって訪れたのであろう碇司令を捕らえて帰さず幽閉し、
 
 
正確な状態は分からないが、おそらく魂が抜けた半分抜け殻のような代物になっているとしてもエヴァ初号機パイロット、サードチルドレンを・・・あー・・・・碇司令の息子を<鉾>が支えていた天空第二支部から盗んでいった・・・・いやさ掠っていった・・・・
と「いうことになっている」
 
 
水上左眼
 
 
とかいうこの女・・・・竜尾道の”鍛冶師”らしいが・・・・異種とはいえエヴァを保有して武装要塞都市の領域を平然として侵す・・・・・危険すぎる。ここで使徒殲滅のついでに捕獲できたのは僥倖、超のつく幸運、前世紀の偶像風にいえばまさにマンモスらっぴーであった。
 
 
マンモスはともかく
 
 
この女さえあんなことをしでかしたりしなければ・・・・・皆の運命はかなり変わっていただろう。碇司令は長期不在をつけこまれたりせずに失職せずに本部総司令でいたであろうしそうなれば体制変化もなく第二支部を順調に組織に取り込んでその権能を強化増大・・・・このへんで危険視されて似たような目にあっていたかもしれないが、とにかく。
 
 
参号機にここまで頼るような状況には陥らなかったに違いない。そうなれば、鈴原トウジ、洞木ヒカリ、この二人は・・・以前と変わらずいられた、としたら。
 
 
そして、碇シンジ
 
 
追い越し待ち伏せをかけたはずなのに、最後であのふたりにしてやられた・・・・・
 
 
あの時、あれ以降、「ほんとうは、どうなったのか」・・・・
 
 
光の人と雷の子との合同大儀式・・・・・・その結果、消滅した第二支部はこの世に戻ってきた。その時の代償はなんだったのか。あのふたりの行動原理もよくわからぬまま。
 
 
魔術といってよいものか。ただ不自然なほどの大出力を用いて大からくりを作動させたことだけは分かる。最大二つしかない人の目をあの夜だけいくつか増設させてこの世のべつの姿を見せられたような・・・・・秘儀のそれぞれの流派で好きなように呼ぶのだろう。
 
 
肝心なことは
 
 
碇シンジ、そして、エヴァ初号機は、使徒になってしまったかどうか、だ。
もしそれがなれば。それは、最強の使徒。ゼルエルなる名が与えられる。
渚カヲルから贈られた<鉾>と同一して消えた初号機。仕込みはずっと昔から。
 
 
レリエル
 
 
自分と同じ顔をした彼女の役目は、エヴァを動かすチルドレンを使徒側に勧誘すること。
彼女の仕事が完全に遂行されていれば、零号機、初号機、四号機、ファースト、サード、フィフス、この3人が、この三人こそが、過去、現在、未来、と、人類を裁く役割を果たしていたかも知れない。新世紀の閻魔裁判官だ。自分などそのレリエルに生命維持のサポートまで受けていたのだから。天罰すら下すこともせず同じ人にやらせる。まあ、ぞっとしない。
 
 
咄嗟に対抗したのは<槍>の左腕を切り離してこちら側に留めることのみ。
それもまた、どれほどの意味があったのか・・・かえってそれは”使徒転び”を防ぐ安全装置を解除してしまっただけではなかろうかと考えてみても後の祭り。
 
 
いまのところ、最強の使徒は降臨してきていない。
 
 
そうなったらやれることは<槍>をぶちこむことしかないだろう。
その点、なにがあろうとこの地に槍をとどめようとするあの蠅の羽音のする新司令は都合がよかった。事情を知らぬままに小才を利かされるよりよほど。
 
 
しかし、それも自分の零号機にくっついてしまった・・・・・この状態で最強の使徒とやりあえるか・・・・・どうもそこまで槍を操る自信はないのだが、やるしかない。
まさか、こういうことになるとは・・・つくづく自分には未来視の能力はないらしい。
 
 
碇シンジは渚カヲルとレリエルにたぶらかされるなり説得されるなりして<使徒>になってしまったのか、どうか。完全に、天上、あちらの世界にいってしまったなら。
 
 
このうえはなく
 
 
彼はなにに執着し、何を欲して・・・・・な、なにを・・・愛・・・感情を注いでいたか・・・そんなものがなにひとつなく、この地にのこしてきた大切なものはない、というのであれば、渚カヲルのような輩の笑顔と弁別にかかればもはや一発であろう。
 
 
人を超越した、老病死苦もない、そんな存在になれるのだと、願ったとしても。
 
 
いきなりドカンと一発、神さまになりたがる輩よりは、堅実だと思う。
それも<最強の使徒>となれば。大抜擢であろう。碇シンジ自身に宗教的イメージはかなしいほどないのであるが、そう考えてみると。えんえんと戦い続けるよりはずっと救いが。
 
 
なんにせよ、使徒化した初号機に乗った碇シンジが空飛んでやってきて「僕は人類の敵だぞ!でも悪魔じゃなくて天の使いだよん!!」とか言い出したりしたらもう疑いの余地はなく完璧に敵だから槍ぶちこんでその存在が消えるまで泣かしてやるのであるが。
 
 
どこにいるのか
 
 
まさか使徒の学校でもあるまい。使徒にまじって「使徒のすすめ」とかを朗読してるとか。
天は使徒の上に使徒をつくらず、使徒の下に使徒をつくらず、とか。
 
 
・・・そんなことをもし口に出して他人に聞かれたら「なにふざけとんじゃい!!」と怒られそうであるが、自分でもいやになるほどふざけてなどなく、大真面目にそう思ってしまった・・・。
 
 
第三新東京市にはおらず、日本国内の調べのつきそうなところは調べつくし、国外でも相当な僻地に飛んでどこかの密林神殿でコーラの瓶を地元住民とパペパペ奇声をあげて踊りながら拝んでいる・・・ようなことになっていても、そろそろ葛城さんが見つけてくるだろう。一緒に踊ってたりしない限り。
 
 
重大な手がかりが、今、目の前にいる。
 
 
第二支部に身体を残していたのか、どうか・・・・・完全にこちらと絆が切れてはいないのか・・・・・・確かめる術もなく、今日まできた。
 
 
あの夜、空に浮かぶ第二支部に竜号機にて乗り込んで飛び立ったこの女。
物理的に碇シンジが行方を絶ったのはその地点というか天点というか、そこであるから、真の目的は不明でも、確かにそこに入り込んだ人物に聞けば、話は確実で早い。
 
 
碇シンジはそこにいたのか。
 
いたのなら、あそこから今、どこにいるのか。
落下後の第二支部は徹底的に肉片骨片に至るまでも捜索されている。
碇シンジらしいものは、なかった。となれば・・・・・引き算である。
簡単すぎる。鳥でも出来る。猟師が鉄砲で撃てる。煮てさ、焼いてさ。
 
 
竜号機に乗せて連れ去った、と考えるのがもっとも単純な答え。
考えも連想もとんちもきかせなくていい、問えばいいのだ。聞いてしまえばいい。
 
 
 
 
こんなかんたんで単純明快なことをくどくど考えていたのがまずかった。
 
油断、というには酷な、ちょっとした数分ていどの時間であっただろう。だが。
 
 
異常に気付くのが遅れた。
 
 
霧、である。
 
 
もともと朝霧が出ていたが、それがさらに濃くなりあっというまに四方の視界を塗りつぶしてしまった。いつか、お使い作業の帰りに使徒から追われた参号機を助けたのと同じ類の”霧”であった。
 
 
「うお!?なんやこの霧・・・・いきなりなんもみえんように!ほかのテレビカメラとかも全然だめになっとる!!放送終了なんか?そうなんか?」
”鈴原!?綾波さん!?どうしたの?急に見えなくなって・・・・カメラの故障とかじゃないですよね”
「センサー類も全てデフォルト!パイロットは周囲を警戒してください!」
「使徒の生体反応はありません・・・が、戦闘地域だけ区切ったように霧が・・・望遠、上空ともに映像通りません!」
 
鈴原トウジや洞木ヒカリが混乱するのはやむをえないが、発令所勤務のオペレータたちも同様なのは困る。使徒戦の緊張が解けた途端にこれ、というのはやはりまだ経験不足。
「なにをうろたえている。これも戦だ」「機材の総チェック!慌てなくていい、確実に。それから参号機の搬送作業時のデータを呼び出してくれ」シロパトキンと日向マコトがその年季で防いではくれたが。こんなところで尻餅ダウンなどカンベンしてほしい。
 
 
 
「これは・・・」
音声通信だけが生きて目をはじめとする感覚器官が完全に殺されている。足下の雲を踏むような反応は、エヴァとのシンクロも妙な調子で歪められている可能性もある。「この霧・・・」これがさらなる使徒の攻撃の下準備だとしたらまずすぎる。狼狽えはしないが、さすがの三連戦に肉体の方が異議を唱える綾波レイ。
 
 
「拡散がないなら、参号機・・・零号機と八号機をフォローしながら、霧の滞留地域から移動してください・・・不可能であれば、単機で離脱を・・・・・・命じます」
 
「そないな!!」
座目楽シュノの命令に肉体のように鈴原トウジも異議を唱えようとするが
 
「・・そのとおりに。視界を保てる機体がなければ」
これも抑える綾波レイ。実際、一メートル前も視界が効かないのだから、めくらめっぽうで探されても逆にぶつかったりするだけ。こんな霧にまかれたからこそあの時の使徒もあきらめたのだろう。「それぞれ移動した方が、確実」とりあえず、簀巻きの竜号機と八号機は置いていくしかない。この状況で攻撃されるならまだ動ける方であろうし。
 
「そ、そうか。すまん、いったんつっきらせてもらうで・・・・・・と、待てよ?・・・おお、エエコト思いついたで。ちと試してから・・・・・」
 
 
鈴原トウジの虎参号機の姿も見えないので、なにを思いついたのかよく分からなかったが、
 
 
「ほーれ、ぐるりとひとまわし・・・・・・っと。・・・・これは・・・・・・足首っぽくないから八号のほうかいな・・・・・・」
 
その言葉で見当がついた。どうも腕か足をのばして円状にひとまわししてみたのだろう。低い態勢になってから行ったのは彼らしく目玉に指などをつっこんでしまわぬ知恵というものか。続いて零号機の足首から反応があった。「こっちが、綾波やな」搭乗交渉時の条件といい、存外、鈴原トウジは頭がまわる。こういう発想は自分たちにはない。
 
 
とりあえず、参号機に先導されて八号機とともに霧の領域から抜け出す零号機綾波レイ。
ここを狙われたら三体同時にやられるわけだが、そこで手をはなす鈴原トウジでもない。
「・・・それにしても、八号機のコイツ、爆眠やな。全然、起きてこんが・・・普段、寝とらんのかいな」
 
 
あきらかに自然の霧ではない。分析不能の、何者かに生成されたに違いない、超自然チャフ。神隠しにあうとしたら、こんな霧に巻かれた時か・・・ふと、そんなことを考える綾波レイ。警戒しつつ静寂の移動。前回はこれがこちらに都合よく作用した。が、今回、このタイミングのこれは・・・・・攻撃の布石でないとしたら、なんなのか・・・・敵か、味方か・・・・・
 
 
 
霧を抜けた。霧を出るほんの一歩先は、切り替えたように正常なクリア視界が広がっている。その一歩前は完全に閉ざされていたというのに。方角も本部とは正反対。残電力を考えるとなるたけ近い方が望ましいが、贅沢は言えない。この突然の異常を無事に切り抜けただけでも・・・・・
 
 
だが、その考えも、とりあえず態勢を立て直すべき、という珍しい作戦部長連のまとまった総意に従い、ひとまずここから離れよう、と近くの回収口まで移動するべえ、というところであっさり霧が四散したことで変わる。その散り具合は劇的で古い桜よりも潔かった。
 
 
「センサ類、回復しました!」「状況確認!」霧が晴れさえすれば四方八方からの電子の感覚器が少々距離があろうとも状況を確認してくれる。いくら念入りに簀巻きにしたとはいえ、竜号機を置いてきたのはちと心配だった綾波レイは即座に現状を問う。使徒が生き返ってくるようなことは心配していなかったが。
 
 
が、かえってきた答えに愕然とする。
 
 
「・・・え?これは・・・・・・」
 
 
この期に及んで大ド素人トリプルボギーのようなことを言われたからではない。答えは転送された映像の中に。さきほどまで激しい使徒との戦いであったあの場所。キメはわりあいにあっさりしたものであったあの場所。抗うことなく粛々と敵のコアを割ったあの場所。
 
 
謎の深い霧に包まれ、それが晴れたその間に
 
 
使徒の死体と・・・・・・
 
 
簀巻きにした竜号機の・・・・・姿がない。どこにも。
 
 
どこにも、ない。
 
 
「・・・どういう、こと・・・・・?」
 
 
なくなっている。「どないなっとんねん・・・・・・・・・・いや、なんかの間違いや!ワイ、行ってみてくるわ」駆け出す参号機鈴原トウジ。この魔術めいた異常、事実だとしたらこれをやらかした張本人がどこかにいるはずであり・・・・・そして、それは・・・・友好的とはとても思えない。だが、制止する声の力もない。でてこない。
 
 
「上空には・・・・飛行物体が移動した形跡は・・・・・・ありませんね・・・・可能な限り・・・サーチしてもらいましたが・・・・」
「そうだな。あのE=ダイナソアが使徒を回収して逃げ戻った可能性は低い・・・・」
差し引きで考えるに、最も適当そうな解答も座目楽シュノとシオヒト・セイバールーツが即座に除外する。「わかるものか!考えられる答えはそれしかないぢゃろう!あの竜がこっちを攻めてくるぞ。防戦準備に入った方がいいぢゃろう!」我富市由ナンゴクがそれに反対するが誰も聞いていない。ちなみに、簀巻きに使ったバルタン包帯が千切られたあともない。ああもぎっちり巻かれたままでは翼も開くまい。
 
 
残っているのは、南方槍主・磨華路貳砲錬槍だけ。
 
 
よく考えたらあれを届けてくれたおかげで時間稼げて戦力バランスも保たれていたのだから、遺恨はあっても問答無用で簀巻きはちょっとひどかったかもしれない・・・などと反省する綾波レイではない。ただ悔しさが滲むだけ。またしても、してやられた・・・・・・・東宝剣主・幻世簫海雨が発見されなかったことをもっと重要視すべきだった。
あの霧、霧を起こした者は・・・・・味方、いやさ、こちらの同調者ですらなかった。
 
 
エヴァ、使徒、それに対抗、凌駕するほどの・・・・・スケールがうんぬんいうより、もはや星に直結でもしてそうな、ちから
 
 
超自然的第三勢力・・・・・・・・人の業界ですらまとまっていないというのに、ここでそんなのにしゃしゃりでてこられた日にはたまったものではない。冗談ではなかった。
 
 
鈴原トウジの参号機が電力尽きるまで懸命に探し、本部からも人員が派遣されてしらみつぶしに調べ上げたが、どこにどう消えたものか・・・・・・まる一日経ったあとも、使徒の死体も竜号機も発見されなかった。
 
 
「そんな・・・・」
 
 

 
 
「バナナでしたか、ドクター。あの頃は確か、そう名乗っていらした」
 
 
「その頃のことはあまり楽しい思い出がなくてね、覚えていない。偽名もたくさん使っていたしね」
 
 
「謎の外国人医師のふれこみで、ね。日本人とは最後まで分かりませんでした。でも、今よりは楽しそうな顔をしていらしたような気もしますが・・・」
 
 
「楽しいはずがないだろう、水上左眼。君らのような・・・ユイ君も深く信頼していた一門に裏切られて。このスケジュールの狂いは・・・・・いや、やめておこう。そっちにもそれ相応の事情があるのだろうからな・・・・・碇が逃げ出さずに納得する程度には。・・・・いかなる形になろうとも最後まで彼女らと付き合うことに決めているのだから、な」
 
 
「裏切り・・・・そのように言われても返す言葉がありませんが・・・・ユイ様を信奉するがゆえです。この左眼にかけて。私たちはドクターたちとまた立場が違います。ですが・・・・・私の無能、私の不甲斐なさ、私が及ばなかったため・・・竜号機を託されていながら、私にはできない・・・・全ての責任は私にあります。が、諦めるわけにもいかない。いかなる手段をとろうとも・・・・”あの頃”に戻るわけにはいかないのです!!
 
 
・・・奇跡を、もう一度頼んではいけませんか、ドクター」
 
 
「・・・・・・・・」
 
 
「それから、裏切りというのなら、この扱いもそうでしょう。私はそちらの御注文に従って武装を届けに来た。そして、戦闘に巻き込まれもした。・・・・お分かりのハズです。そこまではいいでしょう、そちらの陣容もどうも乱れ気味で連絡不足などが重なった不可抗力だったのかも知れない、・・・・・ですが、得体の知れぬ方法でウムをいわさず眠らせてあげくにスマキにするなどと・・・とても書の読める文明人のすることとは思えませんね。・・・・おまけにこの監禁。むろん、ドクターのことですからこの処置は、昔の事情を知らぬ部下の目につかぬ所に保護してくださったのだ、とこう信じておりますけれど。・・・槍の出来に否がなければ、そろそろ竜号機ともども帰していただきたいのですが」
 
 
「槍の仕上がりに文句はないが・・・・・・”霧”について聞かないのか」
 
 
「私にはなんの興味もないことです。福音のことも天使のことも。竜尾道の行く末だけが私の心配事なので。規範が異なれば禁忌も禁忌ではなくなる・・・・・まあ、多少、驚きはしましたが・・・・ああいうことのできる人間がいることについては。エリヤと・・・」
 
 
「”召A”・・・・・・このような字をあてることにした。大層な名称を彼女が嫌ってね・・・・まあ、ごくまっとうな感覚であると思う。”メシア”などとね・・・・」
 
 
「機能的でもありますね。コードネームにしては分かりやすい。アンゲルを召し使う者・・・ですか。聞かない方がよかったですよ。いまさら共犯もないでしょうけど」
 
 
「となりの部屋にきていてね。左眼、君に聞きたいことがあるそうだ。それが終われば帰ってもらってけっこうだ」
 
 
「一方的ですね。私は会いたくないのですが・・・・・・彼、ですか?彼女、ですか?この装いでは身だしなみを整えることもできませんが、心の準備くらいはさせてもらってよろしいでしょう」
 
 
「彼女、だよ。シンジ君たちと同年代の少女だ。・・・・出来れば、表舞台には立ってほしくないのだが・・・」
 
 
「これも彼女の存念だったようですね・・・・あやうくさらし者にされるところを救ってもらったわけです。私にとってはそのままの救い主であるわけですね・・・・・お会いしないわけにもいきませんか。いずれ、彼女の問いはドクターのものと同じなのでしょうから」
 
 
「理解が早くて助かるね・・・・では」
 
 
 
地上での大規模捜索をよそにネルフ本部のどこかで行われた極秘尋問は”ドクター”に”召A”と呼ばれる黒衣の少女が入室を許可されたところでさらなる秘匿コードがかかる。
 
 

 
 
勝った、んだろうなあ・・・・・・・さすがにもう襲ってくる様子もないし・・・
 
 
かなりすっきりしない感じではあるが、コアを断ち割っているのは確かであるので、その死体は”自然消滅”したものとして処理されて”使徒殲滅”ということで落ち着いた。
 
 
これにて一件落着
 
 
納得する者は誰一人いないが、やるべき事は多くそれに拘泥してもいられない。どちらかといえば泥のように眠りたい。皆、疲労しきっていた。経験者でもいいかげんこの橋渡り連戦に神経限界近かったのだから新入りはいうまでもない。エヴァのパイロット、綾波レイ、鈴原トウジなどもエントリープラグから出るなり気絶に近い状態で眠ってしまった。意識が飛んだ、というやつである。その間、ゴタゴタといろんなことがあったようだがさすがの綾波レイもそこまで関わりきれない。というか、もはや一介の零号機パイロットに戻るつもりでいたので組織を仕切る本来の役目の大人たちに任せてしまうことにする。
それから、本部に回収されてからようやく目が覚めた八号機の火織ナギサと洞木ヒカリとの間になんらかの話し合いがもたれたようであるが・・・後で聞くことになる。
 
 
たとえ若さのパワーがあったとしても、きっちり普段通りの調子に戻るには三日を要した。
 
 

 
 
「黒羅君?黒羅君はもういっちゃったんだって。あの猫さんはもう黒羅君じゃないよ」
 
 
幽霊マンモス団地に伽藍号で向かう途中、末妹のノゾミを見かけ、ここところの忙しさにかまけて棚上げになっていた用事を片付けられるかもしれない、と思って声をかけた洞木コダマは末妹の意外な返答にしばし、あっけにとられて、そして、納得した。
やるべきことを遅滞なくやったのちは、なんのこだわりもなく、風のように。
立場などいろいろなものが異なった相手ではあった。共通項の方が少ないだろう。が、
妹分や弟分にどれほど口出ししてやりたいものか・・・・それは理解できる。
どのような姿をしていても、確かに傑物であった。語る機会は二度と無く。
 
「そう・・・」
 
 
末妹と別れてまたバイクを走らせる途中、「あーん」あの奇妙な鳴き声を聞いたような気もするが、気のせいであろう。
 
 

 
 
「ほれ、ぐずぐずすんな、ツムリ。おいこらこのカタツムリ女、てめえツムリ!」
 
「・・・・・・・・」
 
 
党首のナダより帰還命令が出たためようやくこのデンジャラス出張も終わり大手をふってしんこうべに帰ることになったチンをはじめとしない綾波者の一団は幽霊マンモス団地をふりかえって動かないツムリに手を焼いていた。
 
実際には
 
「いざというときは君が彼女を送り飛ばせばいい」という銀橋の判断でチンとツムリをほうって他の者は「おい!ピラおまえまで!」「あとはお任せするっす、チンの兄貴。駅弁は買っておくから心配ないっす」「おう、すまねえな・・・じゃねえよ!残れよお前もピラ」「まだ情勢も不安定だからな。万が一の犠牲は少ない方がいい」「冗談じゃねえ!なんでオレが!捕まって拷問なんかされたら3秒でオレの知ってる全てを吐いちまうぞ!!」「心配しなくていい。その外見では重要情報の期待もされないだろう」「それもそう・・・じゃねえ!オレは生き物がかりじゃねえんだ。なんで世話しなくちゃならねーんだよ!って聞けよ!タクシー乗るなよ!おい虎の若大将!鍵娘!工場太郎!・・・・・くそ、聞こえないふりしやがって・・・」ということで、チンとツムリだけが残されていたので、焼いていたのはチンのみ。
 
 
100メートルほどダッシュして「おいこら!ほんとに置いていくぞ!それでもいいのか」怒鳴る。散歩中、首輪がすっぽぬけて逃げ出した子犬じゃるまいし「・・・・・・」完全無反応のツムリ。どちらが主かいうまでもない。そして、ツムリの主はあの建物にすまう
 
 
「・・・・・・言いにくいんだけどなー、ラチあかねーから言ってやるぜ?ツムリよ。
オレら護衛の帰還命令が出たのはどうしてだか忘れてねーよな?・・・・どうしてなのかわからねーが、あの化け物戦争以来、後継者の綾波能力の著しい減衰が観測された・・・党首とあのトアの見立てだからそれこそ間違いない・・・・献能された分はごっそり喪失、あげくのはては主家の血脈、肝心要の能力治癒までどうもおかしい、ときている・・・・後継者サマの資格が見直されることになったからだぜ。もともと、まー、あれだ、ご幼少のみぎりとか、あー・・・ゴタゴタはしてたからな」
 
 
「それが、綾波の本質・・・・・・・だよ」
 
 
団地の方に目をやったまま振り返りもせずに答えるツムリ。「それに、レイさまは弱くなったんじゃない。立つ場所を変えただけ」この女が即答するときは、よほど前々から考えてすでに腹の底に仕舞い込んでしまっていることを綾波チンは知っている。
 
 
「党首の孫娘、って個人的な理由で腕利きを何人も外の護衛に出せない・・・こうしたケジメのついた話なわけだ。それでオレたちも納得して帰還する、ということでな・・・お前がそうやってワガママしてると他の者が迷惑するわけだ。特にオレが。分かったか、ツムリ?」
 
 
「・・・・・・・」
 
 
「まー・・・マジな話、あんなものこの目で見た日にゃ、とても連れ戻しなんぞできねえ。実録超男の世界だな、ここは。おまえさんの槍がいくら強くてもあんな巨大化け物相手じゃなんの役にもたたねえ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
 
 
ツムリの後ろ姿、その肩がかつて見たことのない震え方をしているのをチンは目撃した。
カタツムリが泣いたらその塩分で自分が溶けてしまうのではないか?いや溶けるのはナメクジか・・・・そんなことを考えて混乱するしかない、小心なチンであった。うお!グズぶりにイラついてからといってちょっと言い過ぎたか・・・この槍しか取り柄のないカタツムリ女にあんな言い方はマズったかもしれぬ・・・・というかマジマズ!マキシマムマズい!!・・・・・・・・・・・こ、ここは・・・・・・・土下座しか、ないか・・・
 
ないのか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 
実際のところは、後継者の資格をたとえ失おうといったん帰還しようと決めた主は主であり、そんなことは自分には関係ないない、と定めきっているツムリであり、悲しむ理由などなにひとつない。どころか、主がようやくしんこうべにいた頃のような調子を取り戻してきたことを喜んでさえいた。余裕ができた。凍りついたものがようやくまた水に。
人間、瑞々しく余裕がないといけない。たまには趣味を余暇に味わうとか。
 
 
今、主がひさしぶりに趣味の昔ビデオを見ようかな、と個人鑑賞会を行っている。
 
もし、あのままずっと党首のもとでしんこうべにいたら、薫陶をうけてかなりの趣味人になっていたのじゃないかと思う。不器用だけど、物事にはまる口だ。
そんな未来もあったかもしれないが。レイさまは戦う人だった。
 
 
自分たちが帰ることになろうと、それはいい。帰った先でまた役にたてることもあろうし、そのために呼び返されるのだ。基本的にチンピラで善人なチン公はピンとこないだろうけど。べつに後継者になってもらわなくてもいいけど、レイさまのわるぐちをいうやつは・・・・・ゆるさない。くしざしにする。それだけのこと。では、そろそろ行こうか・・・
 
 
「・・・・・・なにしてるの」
 
 
ふりかえると、チンがなぜか土下座していた。そこまで頼まれなくとも帰る気でいる。・・・それとも、そこまでして自分といっしょに帰りたいのか・・・一人で帰れないのだろうか・・・・・・この男は
 
 
「帰ろう・・・・・・?いくよ」
「あ?・・・・・・ああ・・・」
のばした槍で起こしてやろうかと思ったけれど、手を貸してやった。
 
 

 
 
「こういうところが気にいってるのかねえ・・・・・・綾波らしいといえばらしいけど」
「外はこんなやけど、意外に片付いとったで。インテリヤもなかなかで。なあ、いいんちょ」
「インテリアでしょ。それだとインテリな人を売り買いしてるみたいじゃないの」
「インテリ販売業・・・眼鏡をかけたイケメンだったりしたら・・・すごく繁盛するかも」
 
 
外見はすかすかの幽霊マンモスでもその中身は第三新東京市でも指折りの厳重さで警護されているエヴァ零号機パイロット・綾波レイの住む団地を訪れる中学生四人。もちろん、ネルフによってそれとなく進入を許可されているわけであり、ただ者ではない。
相田ケンスケ、鈴原トウジ、洞木ヒカリ、山岸マユミ、(五十音順)、である。
いうまでもないが、(五十音順)は人名ではない。
 
 
今日は、遊びに来た。綾波にはいろいろと世話になったからのう、という鈴原トウジの提案に四人がのったわけである。適当に茶菓子を買い込んで連絡もせずにやってきた。今日は訓練も実験も本部勤務もないオフの日であることは知っている。というか、先の働きぶりの反動のように自宅にこもっていることが多い。自宅と本部の往復生活であり、根府川先生の注意がこたえたわけでもなかろうが、学校はさぼっている。そうなると、鈴原トウジと洞木ヒカリはともかく、相田ケンスケと山岸マユミは会う機会がなくなる。記憶がはっきりしないがどうも自分たちに異変が起きていたことは当然、日記帳を見るまでもなく知れることであり、自然治癒したのだと周囲は教えるが、それを鵜呑みにするほど二人は素直ではなくどちらかといえば疑い深いタチであり、タッグを組んで調べたところ、「綾波レイがなんとかした」”らしい”ところまで探れたので、とりあえず確認がてら礼を言わねばならぬだろう、ということで、購入茶菓子のランクもけっこうグレードアップしてみた。
 
 
そして、402号室の前まで来た。
「・・・いるかな、綾波さん」「おるやろ、たぶん・・・なんかテレビの音がしとる」
 
 
インターホンを押してしばらくすると、やはりいた。ドアが開いて「・・・どうしたの」
綾波レイが不思議そうな顔を見せた。先頃とかなり雰囲気が違う。寝間着のまま学校に乗り込んできたあの時はやはりかなり切羽詰まっていたのだろう。こっちの綾波の方がええなあ、と口には出さぬ鈴原トウジの感想に他の三人も同調する。
 
「ああ、ちっとな。顔を見に来ただけや」
「そう・・・・・・」
 
見たわ、じゃあね、と以前の綾波レイなら十二分にあり得たが、今は違う。
 
能力が不調であるからこそ、他者を近くに寄せることが出来る。これが気楽、というものか、と思うがよく分からない。いずれ、今は乱れが大きい零号機=槍=自分のラインが完全に固定して、逆凪がおさまれば能力の方も復調するだろう・・・、短いけれど、穏やかな季節だと祖母は言っていた。しばし、楽しめと。可能であれば、恋もせよ、と。
まあ、それは無理だろうけれど。
 
 
「・・・あがって」
四人に促す。「お、おじゃまします・・・」うっすらと浮かんだ見慣れぬ微笑みに多少戸惑いながら洞木ヒカリ、相田ケンスケ、山岸マユミの三人が部屋に入っていった。
 
「おお!これはけっこう意外かもしれないな。このセンスは」「はぁー・・・ふわー・・・百聞は一見にしかず・・ですね。え?これってビデオデッキですか!!凄い!今時貴重品ですよ。仲間だったんですね綾波さん!」「あ、綾波さん、これお土産っていったらヘンだけど、休みのところをお邪魔するお詫びっていうか・・・・よかったら食べて。うちの家族にけっこう持たされちゃって・・・ほんと、よかったらだけど」
 
 
室内でにぎやかに話し始める客三人と部屋の主。残る鈴原トウジはなぜか怪訝な顔をして部屋の前で突っ立っていた。前に入ったこともあるのだからいまさら遠慮や気後れすることもないだろうに。気のせいか、顔色が先ほどより青くなっているような・・・・
 
 
「どうしたの」
「鈴原?なにしてるの?・・・あ、忘れ物でもしてた?」
綾波レイと洞木ヒカリが気付いて声をかけてみると
 
 
「ああ、・・いや、ちゃうちゃう。なんでもない、ちょっとヘソがかゆくなっただけや」
適当にごまかす鈴原トウジ。実を言うと、今かなりの精神的ショックを受けていた。出来れば今すぐ回れ右して・・・どこか遠いところで大声で叫びたかった。つっこみたかった。
悲鳴をあげたかった。
 
 
ドアが開けられて室内から聞こえた、テレビの音声。はっきりと、聞こえた。
聞いてしまった。「あの敵を倒すには・・・・」「特訓だ!!」「敵の二段重ねの攻撃を・・・」「あの滝を切るんだ!」「切れるようになるまでお前は戦わなくていい!!」とか。セリフはうろ覚えだが、そんな感じの厳しい男の、弟子をうちのめし鍛える声。
2015年、そんな時代遅れのスポ根ものなどテレビ放映などしていない。ビデオだ。
記録媒体として、ビデオカセットというものがあるのを祖父から聞いたこともある。
 
 
問題は、なんとなく耳寂しいから、つけ流しにしている現在のテレビ放送とはちがい・・・記録媒体を使用しての映像鑑賞とはつまり、綾波レイ自身が”選んで見ていた”、ということだ。年代物のそれは、そこらで気紛れにレンタルできる代物では当然なく。
テレビ画面のそばにそのビデオカセットのケースが転がっており、それも目に入った。
入ってしまった。
 
 
おおむかしの、特撮番組だった。光の国からきた宇宙人が活躍したりする。
 
 
まさか・・・・・・・・と思った。口に出してしまえば、全てが終わる恐怖にとらわれて何も言えなかった鈴原トウジ。笑い飛ばしてしまおう、と思ったのに、頭の隅が粘つく。まさか・・・・・・・・いや、あの綾波に限ってまさか。まさか、であろう。
そんなこと、あるはずがない。そないなこと・・・・・・
 
 
「イクラなんでもアナゴくんや」
 
 
つい口に出してしまった。「?」「なにいってるの鈴原・・・」「お寿司が食べたいんですか」「新作ネタにしては全然まったく面白くないなあ」この恐怖を理解されることはなく。
 
 
いや、それでいい。自分一人の胸におさめておけばいい。すでに結果は出たのだから。それに、その心配が的中する確率はひどく低い。杞憂というものだろう。偶然の一致や。
大事なのは、これからや!すんだことを思い悩むのもあほらしい。鈴原トウジは己の心に錠をかけた。墓場までもっていこう。開けられてはいかん、ナントカの箱や。ドラえもんだったかアンパンマンだったか・・・そんな感じの名前の・・・
 
 
「綾波さん、これはなんの番組なの?」
 
 
しかしその決意むなしく、土産ケーキを食べながらの和やかな会話の中でよりにもよって相方によってその疑いが明らかにされるのであった。ちら、と語る前に綾波レイが自分の方を一瞬、見たことで鈴原トウジは全て理解した。碇シンジのことも渚カヲルのことも。
 
 
あの二人がいないとくれば、しばらく、自分がその役を負うしかないのだと。
どちらかが戻るまで。
常識成分を、この女に補充し続けなければならない・・・・・・でなければ、涼しい顔してこの世がまるごと燃えるほどの大火事を起こしかねない。
 
 
そのおおむかしの特撮番組のオープニング曲に励まされながら、決意を新たにする鈴原トウジであった。
 
 
あんまり、この女のいうことを、鵜呑みにしたら、イカンな・・・・・・
うまいこと、サジ加減つけてやらんと・・・・・・
 
 
獅子というよりマスオさん的にささやかな悟りであるが、いずれ大きな意味をもってくる。
 
錬磨の日はまだ続く。
 
 

 
 
 
 
ななつのめだまのおいわいに
 
 
 
秘匿コードが解除される
 
 
「霧島マナといいます。はじめまして」
 
 
”ドクター”こと冬月コウゾウ副司令に入室を許可された黒衣の少女は相手の目を見て名乗った。
 
 
「すいません、こんなことをしてしまって。でも、私、どうしても聞きたいことがあるんです」
 
「こちらの自己紹介はそれならいいよね・・・・あの”霧”に名前はあるのかな。あそこで霧隠れにされなければもう地元に帰っていたはずなんだけど・・・・・大したものだ。この水上左眼と竜号機相手に・・・<<ライ梵メイ>>・・・・と、眼力使って怯みもしないね、さすが。で、ご質問は?霧島マナさん。できれば手短に願いたい・・・・帰りを待っている者たちが心配してるだろうから」
 
 
完全に拘束されていてもまったく弱った様子もなく、これでは解放したとたんに逆襲にでるのは間違いなかろうし、帰る帰るといっても第三新東京市をまるごと灰にしたあとで、という意味かもしれぬし、傍にいる冬月コウゾウも実は背に冷汗をかいていた。
 
 
「霧の名前は<シャルギエル>です。一年中夏の本州ではここでしかつないでおけませんけれど。あれで全機能の256分の1ほどです。それで、お聞きしたいのは、碇シンジ君がこの街に帰ってくるかどうか、です」
 
 
相手をする黒衣の霧島マナもまた尋常の気合いではない。エヴァを駆るチルドレンよりもさらに希少な・・・・今のところ、世界に唯1人しかいない、「使徒使い」・・・・使徒殲滅を至上任務とする特務機関ネルフにおいて、また使徒名鑑を閲覧可能な組織において禁断の能力であることはいうまでもない。八号機の使徒能力のコピーとは似て非なる別格。
 
 
当然のことながら指揮系統の下にはなく、敬老精神と親の教育以外にこの少女に意見することはできぬし、己が納得せぬ以上、従いもせぬだろう。ネルフ所属ではないが、その地の底に潜み、稼働可能な、まちがいなく第三新東京市最強の戦力。己の心の欲するままにそれを使役する者。
 
 
「行方なんか聞いたらとぼけるところだし、欲しい情報を必要以上に話してくれる気前の良さが気に入った。ギブ&テイクは基本だからね・・・・女に二言なく教えてあげよう。ユイ様のご子息、碇シンジ殿が、ここ、第三新東京市に戻ってくるかどうか・・・・・・」
 
 
「帰ってくるか、です」
霧島マナは鋭く訂正をいれた。行動アクションとしては同じでも、戻る、という言葉にはブーメランのような誤魔化しが入る余地がある。竜号機に同乗させて市街上空を通過したからはいOK、という騙しはきかない。
 
 
「律儀な子は好きだよ。ずぼらな部下のおかげで今、こんな目にあっているわけだからね。
さて、シンジ殿は帰るか、どうか、だね。結論を・・・言ってしまっていいですか、ドクター?」
 
 
「私はネルフの副司令であり、ここにはいないはずの人物だ。好きにしたまえ」
 
 
「分かりました。では、遠慮無く」