召喚されたのだ、と聞いても、金剛アスカはさほど驚かなかった。
 
 
自分たちの活躍にゼールが勲章を与えるのは毎度のことであったし、ほぼ毎週ペースで、だいたい水曜日。 働きが評価されるのは嬉しいし、大総理でも入れないゼールの奥の院に呼ばれるのは、まあ栄誉なことではある。使いどころがかなり限定されているけれど、報酬面も文句はない。いや、使い道など決まっているのだけれど。むしろ、それを叶えてくれるなら、しばらくの間タダ働きでもいいし、奥の院のお招きも無しにしてくれていい。
 
まあ、できるなら、人間にやれることならば、とうの昔に叶えてしまえているわけだけど。
 
 
天上の黄泉、世界の屋根裏部屋、などと称されるゼール奥の院へと至る道順自体が通る者を洗脳する魔術なのだと聞いたことがある。すぐに通り抜けていったけど。別に洗脳などしなくとも、こっちの邪魔さえしなければ、仕事はする。恋愛との両立。それだけ考えていれればなあ、と思わなくもないが、それが許される世界情勢ではない。言葉より力がだいぶモノをいう世界というのは、神様の祝福エネルギーが減ってきているせいなのか、それも自分たちで補充していかなければならなかったのか。昔、こっそりムギに問うてみたことがあったが黙殺された。どういう意味なのか最近理解できたので、沈黙が正解だったのだろう。
 
 
毎週のことだから、迷うはずがない。というか、定められたルート以外を通行すればえらいことになる。二人とも、五体無事で、いつもの場所まで到達したのだから、間違ってはいないはず、だった。
 
 
 
 
「四角錐、じゃ、ないデス?」
 
 
勲章をいつもよこしてくるゼールの姿がいつもと違っていた。板状で・・・サイズというか体積的にはいつもと同じ・・・・自分たちが知らなかっただけでたまには変形したりするのだろうか?いつもと同じじゃ飽きる、とかいう常人センスがあったのは驚きだけど。
 
 
金剛アスカは隣に立つ、優男風でありながら巌の安定感がある少年をちら、と見ただけで落ち着きを取り戻す。というか、彼が隣にいさえすればほかの全ては取るに足りない。
 
 
 
「汝らの名を・・・・求める。召喚されし影ヒトよ」
 
 
すっと、金剛アスカを守るように、盾となるべく少年が動いていた。自分の方が守りたいから、こんな局面では彼の前に進んでありたいのだけど、いつも負けちゃうのデス。
彼の背中を見るだけで、この幸福感・・・十代でこんなの味わったら自分たちはこの先どれだけハッピーになれるのデスかね?ともかく、板変形したのは、どうもゼールじゃないらしい。いつのまにやら政権交代してたのか?まあ、どうでもいいデスけど。
 
 

 
 
 
世界地図は、どこの国も自分の国が真ん中にある。光も影もおなじようなもの。
 
悪魔も神もおなじようなもの。だから、影ヒト呼ばわりされてもさほど怒ることもない。
ご丁寧に、自分たちのエヴァも召喚しているくらいであるから、どうしても必要だったのだろう。自分たちの存在が。
 
 
ゼーレ、と、奥の院とほぼ同じ空間に浮遊する板は名乗った。
 
 
ゼール、から、一本抜けたような感じだけれど。似たような存在なのだろう。
世界の屋根裏部屋に潜む、ひたすら何かを待ち続けている、無貌の祭祀たち。
 
自分たちを喚ぶほどの力がありながら、出来ない何かがあるのか、単にやりたくないのか。
もしかすると、ゼールがこちらから誰か、自分たちに似た誰かを、連れ出したから報復か。
ゼールが自分たちの不在に気づいて呼び戻したりとかしてくれないかな、と思わなくも。
 
「汝らを必要とするのは、こちら側のみ・・・望みを果たせば、召還時と刹那もおかずに戻す・・・欠損あらば完全な再生を約束する・・・ゆえに感知されることはない・・・」
 
悪も正義もおなじようなもの。ただ、ゼールの方が余裕はあったかなあ、と思う。
 
こっちのゼーレは余裕がない。儀式とやらを終わらせたくてたまらないようだ。
傍らを見れば。
三つの板がへし折られてそのまま転がされ、人の形をした霊異ある柱が三本、砕かれて放置されていた。血の臭いはないが、これもまた贄か。自分たちを喚ぶのに支払ったのかもしれないし、クーデターの類いだったのか・・・平穏清浄にはほど遠い空気感。
 
ただ、それだけにやることに無駄がない。一通りの説明を終えると、早々に報酬の話を切り出してきた。金払いがいいのは、いいことデスけどねー、と、内心、せせら笑っていたら、欲しいものをピンポイントで当ててきた。
 
 
「つがいの少年の”声”・・・・それが、報酬である」
 
 
彼は、顔といい身体といい、エヴァの操縦センスといい、知能といい人格といい、自分的にはほぼパーフェクトズッキュンなのだけど、ただ、声が出なかった。寡黙なのと本人が望むのに、言葉を使えないのはやはり違う。単純に、愛の言葉を囁いてほしかったりも。
 
それが嘘だったらどうするか?決まっている。エヴァで周囲一帯を破壊する。板の破片も残さない。それで良いか、と問うても、ゼーレの板は小揺るぎもしない。その力ゆえに喚んだのだ、と、淡々としている。まあ、それもそうか、と納得する。
 
 
 
「何があろうと・・・・君だけは、元の世界に戻すよ・・・・・・」
 
 
「え!?いまの!?」
 
生まれて初めて、(彼は赤子の頃すでに声がでなかったという)彼の声を聞いた・・・
 
想像を遙かに超える、イケメンボイス。略してイケボ。というか略す必要ある?
男と女、少年と少女の、素敵なところだけを厳選に厳選を重ねて熟練の技でブレンドされたがごとくのイケボ!!いや、それを上回るさらにイケてるイケイケボ!!
 
これを聞くための自分は生まれてきた・・・・いま、悟った。祝福の天上天下の鐘が頭の中で鳴り響くけどうるさい!あの声さえ聞いていれれればいいの!!ワンスモア!
リッスンプリーズトゥミー!!
 
「これは、契約の証明である・・・・・聞く者の魂を束縛しいずれ沈没させる冥昏声・・・・・・なぜ、・・・涙?・・・報酬の変更を望む・・・・か?」
 
「うっ・・うっ!うるさいデス!!アンタなんかに何が分かるんデス!!でも仕事は完遂するから!!間違いなくパーフェクトバーニング!!待ってなさいデス!!びえええん!」
 
涙と鼻水も少し出てしまったけど、いつものように彼が雷光の速度でフォローしてくれた。
どうフォローされたかデスか?そんなこと乙女にいわすなデス!ぶっ飛ばしますよ!!
・・・プログレッシブ鼻セレブの感触はいつもながら最高デスね・・・・・・ちーん。
 
頼まれ仕事も、いつもと同じようなことで楽勝。伊達に毎週、勲章をもらってるわけではない。というか、彼と一緒でしくじりようがない。ほんと、同性でなくてよかった。この有能さで同年代ライバル、とかだったらちょっとストマックがもたない。
 
 
こと、エヴァの殲滅において彼ほどの上手はいない。
 
 
そのためだけにうまれ、それだけのために育てられたのだから、それはごく当然のこと、と彼は出ぬ声で自分だけに告げたことがある。アルティメット渋い・・・極・格好いい。
思わずキュン死ぬところだったけど、ここでくたばったら、あの一航戦、加賀レイに獲られてしまう・・・!そう考えてなんとか乗り切った。乗り切ったハズ!ここがどこでも、
彼がいる以上、その隣こそ自分の居場所。彼こそ自分の母港・・いやさ、父港?夫港?鎮守府?まあ、どうでもいい!ほんとうに欲しいものが得られる、冒険の機会に恵まれたと
考えるべき!LOVEの奇跡!・・・まあ、影のようにエヴァがついている状況は・・・
地続きともいえるけど。ここも現で、あちらも現。夢はどこから来て、どこへ去りゆく?
 
 
夢も現もおなじようなものなら。さっさと終わらせてしまうに限る。
 
 
我らは常に勝利し、征服する者なり。
 
 
征者なり。ここがどこだろうが、それは普遍。
 
 
金剛の名において、遍照する。