夢というより、眼球に直接、映像を流し込まれたような・・・侵食というか浸食
 
 
自分だけではない。覆面なのに動揺ミエミエの時計女と表情には一切出さないが灰基督も同じような体験をさせられていたようだ。
 
 
ネルフ本部が・・・アナザーどもが同士討ちをやらかして・・・実質、一方的な処刑か殺処分だった・・・・そこに介入しようとしたらしい使徒使いも・・・潰されて・・・
十号機によるソドラの炎威で・・・焼かれた。まるごと。全て。皆々。都市全域で・・・済んだのか・・・・赤赤紅紅と染まった映像はそこまで教えてはくれなかったが。
預言者のドタマにしか閃かないはずの聖書級未来予想図<破滅の章>・・・それに
 
 
 
「今の・・・」
 
惣流アスカは言いかけて、隣に碇シンジがいないことに気づく。いつの間に・・・
いろいろ罠だったんだよ・・・だったんだよ・・・だよ・・・あのバカの声が不吉に脳内エコーする。
 
 
「シンジはっっ!!」
 
 
 
「洗面と、着替えだけど?」
 
しれっと、渚カヲルが。「君がいきなりシンジ君にクリームソーダをぶっかけたからだけど・・・視写の時間をつくってくれたんじゃなかったのかい?」 そうだった。そういえば、自分がシンジにクリームソーダをぶっかけた。特に意味もなく。視写って何?・・・いや、さきほどの映像のことか・・・ただの映像と違うのは、人だけではないそこにいた全ての生命の・・情感と情報が内蔵されていて・・・パンクしそうな臨死体験とでもいうか・・・・人だけでも十分すぎる張り裂け具合なのに・・・・ああ、ドライが案の定フリーズしてしまってるし・・・これはもう一生映画とか見れないかもしれない・・・・。
 
これに加えて使徒使いの告解とか・・・・!孤独という名の剣山頂の絶景とか!
月どころではない強重力の別の星にいるにも等しい救われようのない寒々しさにラングレーも猫のように丸くなってしまっている。
 
さらにトドメに、自分たちの反存在の・・・「理由」。刻み込まれた。心に焼き込まれた。
幼なじみで最強パートナーとか・・・・・幼い頃からの英才教育環境とかを考えれば別に不思議な話でもない。選択の幅というか刷り込みなのか知ったことではないけど・・・
 
 
シンジがこれを見なかったのは・・・それとも、見せなかったのは・・・・
 
 
 
「あなたは・・・中座・・・しないのですか」
覆面なので顔色は分からないが、悪いに決まっている時計女が、言外に「すぐしろ」的な圧をかけてくるので、嘲笑する。ほんとはしたい。しばらくは雄大な草原でも見ながら心をからっぽにしたい。できれば、十時間くらい。だが、そんな余裕などあるはずもない。
 
「するわけないじゃないの。・・・シンジには見せられないんでしょ?コレ」
 
不適な笑みで。クリームソーダをぶっかけたことには深い意味があったんだ的な。
もちろん、分かっている。分かった上でやったにきまってまんがな的な余裕で。うぷ。
 
 
「そうだね。シンジ君には見せられない。けど、話せばすぐに分かってもらえるしね」
 
おい!!そうなると、こっちがただの鬼嫁じゃん!!情緒不安定の困ったちゃんじゃん!
照れたからって暴力行為に出る前世紀ヒロインじゃん!!後半いらないやん!!
・・・・まあ、いまやどういう立ち位置なのかも分からないこいつが、こっちの面子を立てる必要もない。目から赤いビームでも出されて脳天打ち抜かれかっただけでも感謝かも。
 
 
問題なのは、見せられたこの「視写」が・・・もはや過去のことなのか、現在進行形のことなのか、それとも、不確定な未来予知的なものなのか・・・それによってここからの話がだいぶ違ってくる。灰基督は、十号機・ニェ・ナザレが倒された的なことを言っていなかったか?それともソドラを引き継いだ者がいるのか、使徒の手に収まったのか・・・・
 
 
ちらり、とその点を加味して灰基督の方を見やると
 
「ゴドヴェニア亡都化・・・同族と天秤司を贄に半存在を召喚・・・・石碑の族の乱心極まれり・・・・ナザレの十字架は不倒・・・・・・・勢脈は、保持・・・」
 
想定された状況と変化してきているらしい。エヴァ十号機は生存中。で、日本は?
第三新東京市、ネルフ総本部は?どうなってる?それを聞かねば。問わねば。シンジの奴も早めに戻ってきなさいよ。アンタが罠だらけっつったんでしょーが。
 
「ユファネル・・・先生・・・・が・・・・まさか・・・そんな・・・・」
時計覆面バエルノートが、呆然とそんなことを呟いている。折られたか砕かれたかした板か柱の名がそれだったのか、・・・・訪ねたところで、答えはしないだろうけど。
 
 
上の上、碇司令よりさらに上の方で、風雲は急を告げた、ようだ。
高貴な青い血と下々の赤い血と混じり合って紫の雨でも降るのかもしれない。ふん。
 
世界を何重にも巻き付けるばかでかい蛇にはいくつも頭があり、それらが共食いを始めたイメージ。これもひとつの神話的風景というものか。宇宙船地球号はなかなかヴィジョンできない。我々はどこから来て、星の海へこぎ出せるのか?どこへもいけないのか?
 
 
「渚」
 
碇シンジはまだ戻っていないが、時間を無駄にできないのも確か。ぶちまけたのが自分なのは今も、そんなわけで棚上げしておこう。それがいい。それが正義。責任をもって、この惣流アスカが聞いておくから。この渚カヲルが、人ではないが使徒でもないただこの南の席についてくれたこと、この一点の行為を信じよう、美しきかな異類友情譚、だ。
まあ、コイツにもコイツなりの立場もあろうし。いや、もう少しあの時計のよーに忌避してないとおかしいのかな?まあ、このような方法で自分たちに知らしめた、ということは
 
 
「いろいろ罠だったみたいだけど・・・その結末は、第三新東京市で、テンカウント、十が数えられて・・・十類の生け贄が捧げられて・・・・人類に何らかの変革が起きる・・・・・そういうことよね?今までのことは人類が階梯をあがるレベルアップ試練で、それ以降は使徒の来襲は止んで、みんな幸せに暮らしました、めでたしめでたし・・・・ってこと?」
 
十の中に誰と誰と誰と誰と誰と誰と誰と誰と誰と誰がいるのか、というのは抑えて。
 
尋ねる。2000年以上の時を経て、史上最も有名な一幕が極東の島国で再現されたとて。
 
それが悪とは。使徒の血を浴びて浴びて浴びて、あの赤いコアを砕いてきた自分たちが。
それは善とは。戦いを止める。矛を収める。振り上げた拳を下ろす。それが出来る?
死んでしまう前に。殺す前に。道を見つけることができるのか。わたしたちはいつも
ともにあったのに。ああ、あんなにいっしょだったのに。裂かれるようにして別れ道を。
 
 
「十号機とソドラについて眼中に入れないのが君らしいね。大火が怖くないのかい?」
 
否定はされなかった。渚カヲルは否定しなかった。代わりにバカなことを聞いてくる。
決め台詞を渡すには、もうすでに遠い。光の彼。手を取り合うことは、もう。
 
「怖いに決まってるわよ。だから、なんとかしないといけない・・・ぶっちゃけ、暗殺に失敗したんでしょ?とりま狙った奴を焼けばいいのに」
まさかうちの事務所の若い奴じゃないだろうな・・・なぜか思考が組関係。
 
「命を狙われて怒ってるわけじゃないからね・・・・ただ仲間思いのだけなのさ・・・まぎれもなく世界の守護を担っていた。世の天秤は土にあり。日本で言うところの縁の下の力持ちってところかな。けれど、正気を失っているから、もう世界中のどんな荒ぶる神よりも怖い。守護神が守護やめて己が欲する活動すると破壊神より凄いんだよね。神話の終わりを再現し、破滅の始まりを再生する。9割9分、詰んでは、いるんだ。計画通りに推移しているだけ、でもあるけど」
 
「誰の計画よ・・・・って、誰でもいいか。ぶっ潰すだけ。もしくは天を裂いてでも。
で・・・この席についてくれたってことは、なにかひっくり返す手立てがあるんでしょ?
それともただ単にシンジを迎えにきただけ?」
このにこやかな顔でも、衆生一切を救う地蔵菩薩タイプでもないのよねえ・・・・
シンジだけは蜘蛛の糸でレスキューするかもしれんけど・・・
 
ちら、と時計覆面の様子をうかがう。何らかの反論が来るかと思ったが・・・別の通信を受けている。もしや、顔を洗っているシンジを戻りしに拉致ろうとかいうんじゃあるまいな・・・・いや、それは渚が看過しないだろう・・・・それとも機体の力で一戦交えて強奪というセンもある・・・・ともかく、バカが戻ってくる前に、やりにくい話は片付けておこう。ここで打つ手、駆け出す先を違えれば、バッドエンド、焦土エンド確定らしいし。
なんで使徒相手じゃないのに、こんな悩まないといかんのか・・・・
 
 
「それはネルフの方で考えてくれると思うよ。それが仕事だし」
 
正論がきた。それは、そうですね・・・。意地悪で言ってんじゃ・・・ないわよね?
でも、99%いいようにされてる物事をひっくり返すのは大変よ?ちょっとくらい光明が見えてないと、・・・・いや、さっきの視写がそうだって言われたらそうなのかもだけど。
特に・・・・思い浮かばないし・・・・状況自体がつかめてないし・・・今現在、軟禁中なんですけど・・・弐号機にも自由にアクセスできないし・・・・もう少しサービスしてほしいなー、なんて・・・シンジもいないしこっちも少しサービスするべきか・・うふん。
 
 
「時間が来ました。では、私はこれで」
 
バエルノートが立ち上がった。はて・・・?視写の情報量に精神が耐えきれなくなったのか・・・シンジは諦めるのか。判断が速いのはいいことだが。そそくさとこの場から消えた。まあ、渚の存在にずいぶんとビビりあそばしてはいたけれど。ふふん。
 
 
目障りな天敵が逃げ去ったから、少しは気が楽になる。人間ですもの。乙女ですもの。
 
灰基督、渚カヲル、この二名は・・・違う陣営だ。そこは忘れては、いけない。
 
少々バカでも、シンジこそが同じコーナー、信頼すべきパートナー。「剣崎さんたちも生きてるのよね?」「肯。通常の牢からは逃げ出す故、毒蛇入りの壺に詰めてあるが」大人しくしとけばよかったのに、とは彼らのプロ意識に対して失礼かも。とにかく生存万歳。
 
 
冷めた茶を入れ直してもらい、(今度はクリームソーダではない)、反存在への対策を灰基督と練る。渚はそれを一切の口を挟まず聞いていた。というか、すいかとモッツァレラのサラダとか半熟卵とコーンスープのジェラートとか輝く蒸しパンとか食べながら、高級茶を飲んだりしていた。こっちの打ち合わせを聞いてたのかも疑問なくらいの飲み食べっぷり。金銭系の話がなかなか決着しなかったので、耳から耳へ流していたのかもだが。
 
 
しかし、シンジは遅い。まだ戻ってこない。なにをしているのか。
 
いくらなんでも遅すぎる。こっちが小難しい金の話をしているので怖じ気づいて逃げたんじゃあるまいな・・・・父親は金勘定の権化みたいな目つきなのだが・・・・友情の言い値とかいうやつが一番厄介なのだ。ある程度のラインは決めておかねば双方が不幸。
 
 
「しっかし、シンジの奴、遅いわね・・・」
 
決着したから口に出して言ってみる。マジで遅い。ここに何しに来たのか忘れてるんじゃ・・・いや、そのままゴドム冷凍地の方へ行ったんじゃ・・・・ありうる・・・・
 
 
「・・・・・・」
灰基督に信じられないものを見た、という顔をされた。なんで?
 
 
「シンジ君なら、終時計部隊に行ったよ」
 
つるっと、渚カヲルに言われた。黒心白玉豆花を食べながら。つるっと。
 
 
「ハアッッッッ!!?」
 
 
思わずその場にあった甘酒しるこを投げつけそうになり・・・・一気飲みした。