「本日のシンジ君予報は、0%。突然の電降臨はないでしょう」
 
 
儀式関連エヴァの出現予想点にちょうどよい射角のとれる山中に布陣した使徒使い、霧島マナが空を見上げながら呟いた。紫の雨が降っている。そろそろだ。
 
 
瞳の色は箱船が渡る雨続きの海の色。黒衣にアイヌ文様のガウン。力の解放を今かと待つゴドムをそばに置きながら吐息も凍らぬのは、しもべとしたシャルギエルの守護のゆえ。
父親の霧島ハムテル氏やマナリアンキャンプのサポートスタッフ、それから冷気に弱い系使徒たちももう近寄れないほどの、そこはニフルヘイムの顕現、絶対零度の戦陣。
 
 
ゴドムによる敵勢力の足止めが、大勢を決定づける。何事も初手が肝心。
 
 
いや、正確に言うのなら、初手は参号機、洞木ヒカリさんの、十号機への非戦の歌がそれになるか。十号機の進行が思いのほか早かったのはあるが、ソドラに対抗できるのはゴドムのみ。それも半分しか保有していないが、それでもエヴァが相手できる存在ではない。いきなりの予定変更、ガードにまわらねばならぬのかと焦ったが・・・・うまくいった。
 
 
信じられないが、うまくいった。とりあえず、意表を突かれたのか、十号機は問答無用でソドラをぶっ放すことはしなかった。大人しく、洞木さんの歌を聴いてくれていた。
 
 
奇跡、というのはたやすい。が、神様がこんなフォローいれてくれる?否ナイでしょ?
 
 
参号機と洞木さんの力、それが合わさってはじめてうまくいく超高難度の火焔山越え飛翔。
それほどの偉業。芭蕉扇もないのに孫悟空でもないのに、焼かれもせずに、やってくれた。
 
羽もないのに彼女は翔んだ。歌う力の偉大さを謳うのはたやすいが、こういう局面でやるのは本職の歌手でも尻込みするだろうし。まあ、そもそもエヴァには乗れないけど。
 
命じた方が少し頭おか・・・いやいや!そんなこと言っちゃいけないね。仲間ではないけど今は味方サイドだから足並みは乱しては。批判はいいけど非難はいけないね。
 
その歌に感動して引き返すなり、すんなりこっちの味方になってくれたらいいけど、
さすがにそんなファンタジーは期待できない。ただ、進行停止の時間は値千金。
金にも換えられぬ、大量の命が瞬殺されずにすんだ価値など計りもしれない。
 
 
まだ、何も終わっていない。それはただの下準備で、さらに精確には初手ですらない。
 
 
それでも、胸を突かれて涙が出る。これは自分にしか分からないだろう。
 
あ、いや・・・自分におんなじオファーが来たら、断ってたかな・・・だってそんなの
ムリに決まってるし、と。何してくるか全くわからん相手に、歌なんか歌って一人一機で
出迎えて、ボワッと焼かれたら悲しすぎるじゃない、と思わぬ者がおろうか!否でしょ!
 
 
しかしながら、これをやれないと・・・・結末は・・・・知れている。
 
 
十号機に使える戦力なんかないのだから、なんとかこっちに炎の羽を飛ばしてこないように、ちょっと様子見をするかな、くらいに判断保留状態にもっていくのがどれだけ大事か。
 
相手の方が強いならなおさらだ。使徒殲滅業界からエヴァの相互殺害業界に変化する次代の天下を取るための秘蔵機体が軒並み盗まれて、この儀式に投入とか・・・頭おかしい。
これは言ってしまってもいいだろう。責任取れ落とし前つけろ誠意見せろワレ!!と言いたいところだが、イメージ的に我慢しておく。使徒使いの神秘的イメージ的に。菩薩のように微笑んで全てを受け入れて、でも、やるべきことはきっちりやる。
 
 
この初手で、自分の初手で、大勢が決まる。
それも、ギリギリの見極めが要求される、初手。
 
 
それだけの力をもっている。それだけの力を与えられている。それだけの力を使える。
時代に唯一人の使徒使いとして。でも、恐ろしい。同格の存在に隣にいて欲しい。
 
 
震える。手が震える。震える。声が震える。震える。足が震える。全部、震える。
 
 
逃げ出したくなった。誰かに代わってほしかった。こんな重荷、背負いたくなかった。
 
もう一度、空を見上げる。王子様が雷の馬に乗って現れることはなさそうだ。呪いがとけて普通の身体にもどった王子様は、もう一度、呪いを自分でかけて、黒幕の説得に向かったとか。「なんて・・・・・バカなことを・・・・・どうかしている・・・・おかしい」
 
任務させすぎでしょ・・・「時を逆流するシンジ君とか」ブラックネルフなの?家族経営なの?超法規的ってやっぱりよくないよね・・・たぶん、常識が感電死しているに違いない。あの人達は。轟きながら止まるところをしらない。黒幕は破って倒すもので説得するものではないと思います。ちょっと頭おかしいと思います。
 
 
それで済むなら誰も苦労しない。
 
 
できるわけがない。論破しただけで願いを放棄させるとかありえない。ムリ。絶対不可能。
 
 
けどまあ・・・できるとしたら・・・その資格があるのは・・・・・・説得相手のところにとりあえず到着できる移動能力の持ち主だろう。実は弁舌のうまさは二の次で。
 
それをてめえの息子が満たしたものだから、使いに出したのだろう。あの両親は。
 
ああいう所に嫁にいっちゃうとアレかなー染まっちゃうかなーやばいかなー
それが彼の意思なのか、どうか。騙されて騙しにいく、とか。それが新世紀?
 
おそらく、まだポリシーがどうとかいうより、両親だの周囲の大人連中の真似をしているだけなんだろうけど。模範が規格外って・・・不幸だよねえ。戦闘に使うよりは交渉ごとの方がまだいいのかも、だけど。彼に隣にいてほしいけど、ここでおられても佳いことにはならない。同時に、今の彼の隣にいてあげたいと、思えない自分がいる。まあ、その移動能力がないけど。
 
 
手の震えはおさまった。この世のどこかに彼がいて、大仕事に挑もうとしている。
 
 
7曲歌い終えた所で、参号機、洞木さんが停止した。参号機が吐血して限界のよう。
エヴァが血を吐くまで、ということはそれとシンクロしている洞木さんの喉がどうか。
 
 
声を震わせている場合ではない。情報系の使徒たちが現在状況を耳打ちしてくれる。
 
 
天京にて。弐号機パイロット、惣流アスカが自分の髪をゴッソリ切った。
 
最初、その意図が分からなかったが、その次の行動を聞いて真意を悟って戦慄する。
 
誰に命じられたわけでも無く、前例も無いこんな状況に己の頭で対処法を編み出してくる・・他ならぬ、惣流アスカがそう考えたのなら、それは正解。それを元に鋏をいれた。
これがただの経験値なのか、戦闘の天才なのか、判別つかないが、覚悟がキメキメに決まっていることだけは分かる。
 
 
足を震わせていられない。覚悟で遅れをとるものか。なんぴとたりとも。私の前を。
 
 
<準備はいい?>零号機に搭乗済みの綾波レイからホットライン「綾霧モード」が来た。
 
 
魂の清浄度がどうのといわれても、人間に分かるわけもなし、本人の自覚もないだろうが
・・あればあったで・・それはそれでかなり対応に困るけれど・・・・この儀式内でいえば最重要目標。司令官より作戦部の長よりも遙かに、獲り甲斐のある「究極の生け贄」。
もしくは「至高の手柄首」。生命は誰でもひとつ、綾波レイの命でその他大勢の生命を購うことなどできはしないが、この儀式においては、魂に限っては、それが叶う。
 
そっち方面、秘儀角度的な一手が、くるかもしれない。他者に説明しにくいのが厄介。
等価交換(但し業界ルール適用・レート不明・時価言い値上等ありあり。一見お断り)
 
 
魔術儀式というものはそういうもので、エヴァのようなものを造ったのもそのためだろう。
 
 
零号機に濾過された魂をもつ少女、綾波レイは、今現在、この世で最も清い魂をもつ神聖なる乙女。あいにく巫女でも修道女ルックでもなく、プラグスーツであらせられるけど。
 
その清らかなる魂から発せられる言霊もやはり、耳にしただけでゴリゴリに凝り固まった迷いの念を石清水で流したようにピュリファイされ・・・・ることはなかった。
なんせ非常に事務的だし。もう少し気遣いみがあっても、いいのではないですかね。
この大一番というか超一番に、そんな味も素っ気も無く。いや、分かってはいるけど。
そういうヒトじゃないことは、分かってるんですけども。こうして特別なラインで誰にも傍受されず話せちゃうわけですから。もう少しなんか。あ、いや、こっちから話を振るべきなんだろうけど・・・・何も言うことはない。ゴドムのパワーは順調にチャージされているけど、言葉が出てこない。下手を打てば、これがこの世で最後の会話になるかもしれないのに。あーあ、せめてシンジ君と通信つながったらなあ・・・
 
 
<ふるえてる>
 
 
<・・・え?>
 
綾波レイから聞き直されたから、<それ>を自分が発したことに気づく。弱気がこの絶対零度の結界の中で凍りつかないのは意外の発見だった。外からなら、自分もクール女神に見えているはず。何事にもビビることなく。冷静に冷徹に。正確無比にやり抜けるはず。
 
 
<え?・・・あれ?そうか、表層に出しちゃってたか・・・あ、つまり、武者震い的な?使徒使い震いというのかな?大丈夫、ちゃんとやるから。心配しないで>
 
 
<こわいの?>
 
 
・・・もう少し言葉を選んでもらいたい。ちょっとシンジ君達は彼女を甘やかしすぎなんじゃないですかね。もう少しコミュニケーション能力を磨くよう進言するのも友情だよ?
 
 
<こわいに決まってるじゃない>
 
あれ?なにこの返答。私?私の?使徒使いみたいなトリックスターがこんな正直でいいわけない。しかも相手が綾波さんとか。これから恐怖が群れを成して彼女を襲うのに。
まずいな・・・震えが治まったはずの手やら声やら足がまた・・・・・なんで・・・
ただの小娘じゃあるまいし。一度治まったんだから、また震え出すとか・・・・
 
 
 
<そう・・・・・・・・・・・・・いえば>
 
 
かなり間延びした綾波レイの心通信は、ほとんど動揺が感じられない。これは肝がすわっているのか、単に無神経なのか、何か思い出しているのか言葉を探しているのか・・・・
ここで変に慰められたら、氷細工みたいにプライドが砕けるかも・・・震えてそんなことを考えるのだから、けっこうこれはエンジェルパワー依存症だったのか。この程度の性根でこんな大役を果たそうとしたのがそもそも傲慢のかましすぎだったのかも・・・
 
 
<わたしたちは・・・・・・・友だち関係と・・・いうことで、よかった?>
 
 
<・・・はあ?>
 
今更何を言っているのだこのファーストチルドレン。どうかしてる。友人などであるものか。どちらかといえば、いろいろ風味の仇系。現状がこんなだから、手を組んでるだけのこと。一緒の道を歩いたりはできない。綾霧モードでよかった。これ聞かれたらまずい。
まずいでしょ・・・
 
 
<友だち関係なら・・・・こわさを半分に、できる>
 
 
<え?>
 
それは何か別の格言と勘違いしてる。そんな話、聞いたことがない。いや、世界のどこかにそんな格言があったのだとしても。自分たちには適用されない。反骨心がもたげる。
ライバル心、ではないと自己分析。あの謎映像。油断してる所をから殴るのもいいけど。
キツい否定のカウンターを鼻っ面に見舞ってやる、直前。
 
 
<わたしは・・・そうだから>
 
 
<・・・・え・・・>
 
 
ズカンと一発。綾波レイからの「友だち宣言」。自分がいるから、恐怖が半分になったと。
 
 
<もし、いま、あなたがそうじゃなかったら・・・・>
 
<え?え?え?・・・ええっ?>
 
なにをいうておるのだこいつは。なにいっているのこのこ。友だちとかこんなときに。
魂が清いとかいうよりは、これは幼いっていうんだよね?でも、100%嘘ではない。
少なくても、自分相手に見栄をはって恐怖を隠蔽する必要はない。なにせ・・・これから
彼女は、彼女たちは
 
 
<ごめんなさい・・・友だち・・・・なのに>
 
綾波レイにしては長いセリフに、謝罪に、全ての震えが止まった。
 
 
<止まった>
 
 
友情パワーが全てを解決するのは少年漫画だけ。少女である自分たちには遠い領域のはず。
 
嬉しさの震えと恐怖の震えが相殺される、とかは、それらしい。友だちかと再確認されれば首を振るしかない。ただ、お姫様は勘違いをされておられるだけのこと。もしくは、お姫様らしく、離れたところにいる異形を、異形の分際で揺れているのを、見過ごせなかっただけなのだろう。きっとあれは演技、計算に決まっている。震える者に凍える者に灯火を。きっと勘違い。友だちなどではない。ただ、気を配られる程度に頼りにされている。
その事実。孤軍ではないのだという再認識。初手の重圧と恐怖は消えない。「全てを冥府に繋いで氷の鎖に繋いで繋いでマカハドマ・・・恐怖をも凍結させよ・・・ダイアモンドの孤宮にて・・其方は」ゴドムからの誘惑は一時、断ち切った。全てを止めてしまえれば。
 
 
任せる・・・・孤軍奮闘・・・・赤輝赤紅として全天を覆う炎の羽・・・・溶解していく都市の守護・・・半存在のエヴァ初号機と弐号機・・・力を使い果たして握りつぶされる・・・・・自分の光景が脳裏に閃く。
監視系のしもべ使徒に問えば、「これ」がなんなのか分かるかもだが
 
そんなヒマはない!
 
 
震えは止まった。
研ぎ澄ませる。白く塗りつぶして台無しにして全て忘却するような方法ならばトウシロでも。自分は霧島マナ。それも特級クラスの使徒使い。夏の皇帝も冬の将軍も我に遵奉する。
ならば、見せねば、知らしめねばなるまい。霊験あらたかなる天筆の名跡を。
 
 
初手にして、後手。
 
 
虚空から出現した十の巨影に向けて、トチ狂ったとしか思えぬ迷惑千万全球儀式を凍結停止させるため、使徒武装ゴドム(ハーフ)をぶっ放す。シンジ君の代役くらい、務めてみようかという気が・・・あったのかもしれない。自分も大概、常軌を逸してもいるけど・・・それが正攻法であるはずだったけど。
 
 
あのこあのひとたち、つまりはネルフが奇手を使う、というのなら、それに合わさざるをえない。頭おかしいとしか思えないけれど、ゴールは見えている。シンプルな目的が。
自分たちがやるのだ、と。鬼札たるシンジ君もいないのにね。光の彼が伝えてきた。
強欲だよね、と。あれもこれもと。欲張りすぎて。結局、なにひとつ守れない。焼かれる。
 
我が子を守るために、よその子供など、見捨てておけばいいのに。
力が足りない、力は足りない、そうするしかないのに。
子供の命で博打など。その因果が巡り巡ってきたとしても、どうせ次の順番。
 
せっかくの鬼札を他の勝負で使うような下手を打っておいて。できるわけがない。
 
人間にはできるわけがない、と、言われても納得だけがある。そうでしょうね、と。
 
 
ならば、人間ではない者たちの助力がポイントになるわけで・・・つまりは自分。
それでも足りない、光の彼が前面に出れない、光のくせに影裏でしか動けないのだから、
ちらりちろとリークくらいしか、とか。家庭持つとハジけられないのかなあ。
 
 
あと、もう一方(ヒトカタ)
 
 
これが来てくれるかどうか・・・・・目覚めているのか、こちらを見てくれているのか、ゴドム結界の中では、それすら感知できないけど・・・不安・・・震えはないけど・・・
 
 
やるしかない。
 
 
紫の雨に煙りながら、十の巨影が現れた。
 
 
初手、であるなら、ここでゴドムの冷威を全力開放する、先手必凍、なのだが・・・
 
これは、初手にして、後手。そうでなくては、ならない。震えを無理矢理押さえ込む。
ここで解放しても、ソドラの相殺があれば、一体も足止め出来ない。
十号機に任せてしまうのも、ひとつの手。黙ってみているのも、弱者の正解、命の選択。
 
 
だが・・・出てきた。
 
 
火織ナギサ、赤木カナギ、サギナの、三人乗りのエヴァ八号機、
 
すぐそばで待機して乗り換えたのか、虎模様の参号機には鈴原くんが、
 
獣飼いの専用、後期八号機、仮設九号機、真希波マリ、式波ヒメカ
 
 
そして、綾波さんの零号機が。
 
 
エヴァが五体。使徒殲滅業界の常識に照らし合わせれば、まさに破格の戦力。だけれど。
 
 
相手は十体。数が倍にして、まとっているオーラも違う。なんか相手はスーパーというかグレートというかスーパーズというかクリスタルというか、旧式型落ち滅べフィールド、つまりQKフィールドが凄い。見ているだけでつらいものがある。時代は残酷。時の涙を自分も見た気がした。
 
 
そして始まるメンチの切り合い。互いの格付けを決めるため、無駄な血を流さぬ為の、ある意味、平和的な本能交渉でもあった。今までの使徒戦のことはひとまず置いておく。
 
 
強者は強者を知る。性能の高さとそれを万全に発揮できるかはまた話が違う。
3時間前に強くても、なんらかのトラブルで、今弱ければ、なんの意味もない。
つけいるスキがあるかどうか。急所に噛みつけるかどうか。余力はどれほどのものか。
 
 
使徒戦によって磨かれてきたネルフの戦力眼は・・・見逃しはしない。
 
 
そのはずだ・・・・
 
 
すっ
 
 
ネルフ側エヴァが一斉に、目をそらした。相手から。つけいるスキ、なし。絶無。
 
強弱上下が決定された瞬間であった。分かっていても、切ないものがあった。
 
 
動物と違うのは、そこから逃げることもせず、立ち尽くしていたことだ。
戦っても勝てないのだから、その場を離れるのは世界の掟。強者と弱者は同居できない。
 
 
ガタガタガタ、と、ネルフ側エヴァは震えさえしたが、退避はしない。
隙だらけに立っている。空が飛べる八号機と仮設九号機さえ、逃げもせず。そこに。
 
 
それは単に目障りだったのか、弱者にかける慈悲だったのか、エヴァ無号機から発せられた悪党の魂を砕かずに切り裂かずにはおかぬ正義の輝きに満ち満ちた百万の鞭をおもわせる大雷・・・正しくは、無号機の内にいるマルドウックチルドレンの一人、司馬 電雷が使う技「雷霆雷雷公雷鞭」・・・赤ん坊になろうと異能はしっかり使えるらしい・・・最悪だが、威力の方もこれまた最悪、(元来、使徒を狩るための技であることを思えば、人類的には万全アンド最高というべきだけど)・・・控えめに見積もって・・・ラミエルを瞬滅した時の・・・シンジ君の雷の・・・2,8倍は・・・・ある・・・らしい。
 
ラ雷ラ雷ラーーー来イ
一撃で、5体まとめてぶっ飛ばされた。なんというか・・・・「うわー」とか言いながら強敵の強さを示すモブキャラのように。まったくひねりがないが・・・分かりやすい。
勝負どころか不殺どころか、これは生きてるだけで大金星のやられ具合。
地上にいる救出部隊の人たちも大丈夫かな、これは・・・巻き込まれてなければいいけど。
やはり・・・目をそらした時点で、退くべきだったのだ。弱きが強きを救うとか。
 
 
これは奇手であるけれど、演技ではない。十号機や儀式遂行側エヴァたちが何を考えるかは分からないけど、自分は知っている。真剣にやってこれだと。これが実力の差なのだと。
これは・・・・稀代の悪手だったのでは・・・あるまいか。
 
 
ゴドムの力を解放する。こちら側の前衛戦力があっけなくやられて半壊した以上、何もせぬ去るのが賢いと分かっているが、このままだとネルフ側エヴァが食い殺される。
特に零号機。お姫様は白い綺麗な顔のまま、地下の城の奥の奥に匿われていた方が、箱に入れていた方が良かったんじゃなかろうか。それなのに、ノコノコ表に出たあげく。
この弱さ。分かっていたはず。それでも、このぶざまな「やられ」が必要なのだと。
 
 
強弱上下を、天の元に明らかにする必要があるのだと。
 
 
「これでもし終わりだったら、ネルフはただじゃおかないんだから・・・・!」
 
ゴドムの力もて、日本列島まるごとホワイトアウトさせる。エヴァのダミー巨大雪像を一帯に600体ほど作り目くらまし、その隙に半殺し状態でピヨっているネルフエヴァたちをJA連合のロボたちと協力して地下に回収する。ゴドムによる介入に十号機からソドラの対抗がくるかと気が気ではなかったけれど、それはなかった。黙認か看過か無視か。
意図が分からないだけかもしれないけど・・・何がしたいのか・・・救難に向かっておいて即退散とか・・・勇気だけではできないこともある・・・
 
 
「もしこれで終わりだったら、ネルフのバカどもは絶対の絶対にタダじゃおかん!!」
 
自分と同じようにJA連合の時田さんが激怒していた。自分と同じように、この局面での攻め手を止められているせいもあるだろう。よく考えたら、あの大雷を間近にして闘志が萎えないのも凄い。自分ならば、急所を噛める、と思ったわけでもないのだろうに。
 
 
弱きが強きに「かまして」やろうとしたら、それなりのサムシングが必要。
 
 
自分たちもかなりのサムシングであるけれど、それでも足りそうにない。先ほど判明。
相手が絶不調トラブル中、という御都合ラッキーにも恵まれなかった。
いや、十号機が洞木さんの参号機の歌で様子見にまわった、というのが御都合ラッキーを使ってしまった結果なのかも・・・。
 
 
ドスッ
ドスッ!!
 
奇怪な音が、目の前で炸裂した。人間の目には捉えられない早業。ATフィールドを削って作成した「三本の足をもった矢」が、こちらめがけて飛来し、それを戦陣守護役の使徒ユルサンゼルが受けた。目標はおそらく使徒使い。ゴドムの結界が外部へ力を展開中だったとはいえ、やすやすと貫かれたのも脅威であったが、三本足の矢は防がれた己を抉るようにして外すと、もう一度、目標を貫くべく再飛来。魔弾ならぬまさに、魔矢。
もう一体の守護使徒グロポリエルが盾になり防ぐと、ようやく霧散した。
 
 
こちらを狙われることも想定しての全域ホワイトアウトだったのだが、お構いなく狙撃してくる・・・・込められた殺意も凄まじいものがある・・・一度の損じにも揺るがぬ二射決殺の慣れた手腕。反存在の弐号機。追撃無しは牽制のつもりか。
 
 
同じく反存在の初号機・・・・その中に、反存在のシンジ君がいるわけだけど・・・
 
この世の全てから弐号機を、その搭乗者を守らんとする弱々しさ幼さなど微塵もない巌のオーラ。「自分、何があっても彼女をまもります・・・」不器用な文字で記された男の看板が見えるようで。弐号機の方も、背中と半身を完全に任せきっているのが分かる。
迷いも無く、ただ、一直線。もう、連理一番の相手を決めてしまっている風味。
 
これはもう、契りをすませているのかなー、もう関係を結んでしまっているのかなー。
このパーフェクトコンビを引き裂くのは、かなり骨が折れそうだ・・・・やり甲斐もありそうだけど、所詮は反存在だし?反対のわけだし?ネガとポジだし?腕っ節や政治力には長けてそうだけど、家事的な生活能力が皆無そうだし?「不器用ですから・・・ほんとに」
 
 
この二機には、マルドウックチルドレンの気配はない。手出しをしても十号機からNGが出ることはあるまい。が、その余力は無い。むしろ、十号機VS反存在初号機・弐号機コンビにもっていく。自分たち側は我慢しいしいなんとか仲良くやりつつ、相手側には仲違いを。3すくみ状態を一部でも作成して、時間を稼ぐ。終わりにならぬよう、かろうじてつっかえ棒をしている、というのが正しいかもしれない。こちらの前衛戦力があっさりやられたわけだし・・どれほど稼げばいいのかも分からない。・・・ほんとに「来る」の?
会議室に連絡役も寄こさなかったというのは、つまりは参戦する気がないのでは・・・?
 
自分でも上出来な超広域ホワイトアウトのおかげで、駆けつけてくれているのか、我関せずに遠方で無視っているのか、それすら分からない。儀式遂行側エヴァたちもイイ感じにバラけてくれているのは、我ながら流石。ネルフエヴァの機体回収もうまくいったようだ。
 
ネルフから賞賛感激の通信が雨あられのハズだけど、通信もホワイトになるので聞こえない。唯一クリアなのは綾霧モードなのだけど・・・・さっきからまったく応答がない。
 
死んでないよね?・・・いや、あれだけの雷をモロに喰らったら少々の耐電処置じゃ追いつかないだろうけど、初号機で慣れてるはずだし・・・・生きてるよね?装甲が少し弾けて人工筋肉が何カ所が剥き出しになってたけど・・・なんとか、生きてる、よね?
 
死んだらなんにもならない。ここから先、ロボットとわたしだけでどうしろと?
ああー・・・、雑魚みたいに鎧袖一触されたけど、心も折られてないよね?
 
 
悲嘆に暮れてるヒマもなく、反弐号機がまた矢で狙ってきた。反初号機が十号機に完璧対応してくれる、という満々の自信が見える。くそ。腹立つが、いい判断。さすが惣流さんの反存在。有能な強敵を見抜く眼力をやはり、備えている。除外実行にも躊躇ないあたり。
 
あの矢がどんなものかは正確には分からない。ATフィールドの投擲技術といえば、渚カヲル君の八つ裂き光輪が有名だけど、その派生形なのか・・・単独のATバビロン、ニムロッドとかいうのもあるらしいが・・・なんせ殺意が高すぎるので面倒。反撃してえ。
 
でも、あの反初号機、渋格好いい感じのシンジ君が防いじゃうんだろうなあ・・・守っちゃうんだろうなあ・・・ うーむ、なんたるソリッドエモーション。
 
 
反撃、しちゃおうかなあ・・・・防御は固めつつ、ゴドムによる超広域ホワイトアウト戦場ジャミングを継続しつつ・・・と、なると、頭の血管が何本が切れちゃうかもしれないけど・・・・反撃、したいなあ。こうも純粋高濃度の殺意を向けられると、さすがの人外使徒使いでも、ねえ・・・・ああ、ゴドムの誘いに乗りたくもなる・・・恐怖を全て凍らせてしまえば・・・この世の全てを停滞させてしまえば、そこにえいえんが・・・・
 
 
 
「あれは・・・」
 
 
自分が気づくより、反弐号機の反応が早いのは、当然のこと。矢の照準が、外されて変更。
」彼女「が察知するのは自然なこと。なぜなら、「彼女」の仕事であるから。
 
 
ほとんどの者は、エターナルメルヒェンホワイトヴェール、この世とあの世の境界近くに咲く白い花、そのまた花びらと同じ数重ねに重ねたもったいならばつけまくる使徒使いの花嫁衣装のごとく、見ることもできない。見たところで、極寒の幻だと自らを納得させたに違いない。どういう意味よ!!と、つっこむこともせず、使徒使い霧島マナは
 
 
 
「ドラゴンクーリエ・・・?」
 
竜、東洋系のスレンダーなので、「りゅう」とか「ロン」とか言う方が正しいのかもしれないが、語感であった。しかも命じた彼女が西欧系強めなので、あえてそのように。
そんな幻想種が実在していたのだ、とかいう話は今はいい。どうせ記録にも残せない。
重要なのは、その西方から大荷物を括り付けられて、ひいこらしながらこちらに向かっている、ということ。その大荷物とは、建材とエヴァ用の武具。順序はこれでいい、とネルフから教えられて、それは知っている。ただ、竜とは。普通に大型航空機だと思ってた。
あ、いや、上出来のゴドム・ホワイトアウトのせいで着陸が超しにくいのも分かるけど。
 
 
こんな状況で無理矢理、送り込んでくるのだから、いかにも逆転の秘策アイテムっぽい。
 
ロボットアニメとかだと、主人公用の新型機体がようやく完成して、この大ピンチに届けられて憎い彼奴らをバッサバサに撫で斬りウヒョー!!とかいうヒャッハー展開なんですけどね・・・・・新型エヴァじゃないし・・・・それなら最初から乗ってこいだし?
 
 
ただ・・・・建材はともかく、武具はそれを使うのが早々に敗退してリングから下りてしまっているのだけど・・・・敵に渡すな大事な逆転アイテムというのはお約束だし鹵獲されたりしたらまずいよね・・・でも、それを想定して爆弾とか仕掛けてるかもしれないよね・・・・仕掛けるよね、普通・・・・戦闘慣れしてる者ほどそう考えるよね・・・
ドラゴンスレイヤーの名誉を狙ったわけでもなく、ただ、セオリー通り、敵の妨害をしたのだろう。それはするよね、という話。少々、何を仕掛けられようと、適切な距離とATフィールドがある。それも絶対無敵クラスの。自分は確実に守られる、という歴戦の信頼もあったに違いない。矢から手投げ槍に変化させて・・・・竜ごと、破壊する。
 
感心するほどその対応は滑らかで、それこそが、まさに正解であった。
 
その送り主が、もうひとりの彼女、惣流アスカであるのだから、魂胆も読めて当然。
 
 
ただ・・・・
 
 
赤く輝く手投げ槍の神速に、竜は全く回避、反応もできていたか不能・・・・即、命中。
 
だが、竜も大荷物も爆発もせず、血の一滴もこぼれることはなかった。手投げ槍が消滅したからだ。命中して、その次の刹那。
 
 
反弐号機が、崩れ落ちた。膝からガックリと。地に伏せる前に反初号機が抱きとめたが。
完全にコントロールが切れてしまっている。あれほどのキリングマシンが、でくのぼうに。
 
 
「ざまーみろ」
 
何が起きたか、使徒使いの目には捉えきれた。百戦錬磨、金剛の輝きを誇っていたパイロットが呆然と曇っているのを。突如として己に発生した濁りに、次は泣き叫ぶはず。
 
泣いて、狂乱すれば、思うつぼ。彼女の思うつぼ、なのだろう。惣流アスカ・ラングレー。
最近は、第三の人格がいるとかだけど・・・・阿修羅か。これが誰のアイデアなのか。
 
 
己の身体の一部を切り取って、武器と成す。具体的には、髪を切って竜に運ばせた大荷物に貼り付けておいたのだろう。そんなもの。戦場においてはただの気休めまじないに過ぎないだろうけど、唯一唯一人、それが覿面に効く相手がある。それが反存在。触れるだけで互いに消滅するとかいう禁忌のうつし身。効果のほどは見ての通り。自爆戦法ではあるが・・・彼女がそれを選択した。無策で運ばせても届かぬ事を理解していたのだろう。
待ち受けるのが、自分の影であるのなら。ノホホンと見過ごすことなどないことを。
 
 
髪は女の命であり、魔術的意義以上にいろんなものが宿りまくっているのも分かる。
年中夏の日本でもロングというのがどれほどのことかも分かる。命令では、ないだろう。
どれほどの効果があるのかも分からない。なんの効き目もなかったかもしれぬし、その逆で双方消し飛んでいたかもしれない。ネルフが魔術の専門家を職員化してるのは公然の秘密であり、そのサポートも受けたのかもしれないが、・・・・・・・・
 
 
改めて、戦慄するしかない。自分の影はもちろん、相方の分のカタもつけてやる・・・
そう言わんばかりの彼女の弐手目。失ったものの大きさに涙していないはずもないけれど。
 
 
ドドドドドドドド!!
 
泣いて叫びはしなかったが、おそらく狂乱した。反弐号機は巨大な弓をフィールド形成すると、そこから大量に矢を撃ち始めた。マシンアローとでも言えばいいのか、エネルギーはどうなっているのか、とにかく、目先が変わった。怒濤のような殺意は西方大陸に陣しているもうひとりの自分宛に。絶対領域制の矢で貫けばどうなるのか、承知の上でやっているのかは不明。反初号機もこれを止めるべきか、オロついてはいないが、迷いが見て取れた。男には理解不能な領域の話ではあるし。実際の所、本人同士にしか分かるまい。
そのあたりの機微を悟ればロン毛怒髪天となれるのかもしれない。ネルフ本部発令所でそんな気配を感じたりもするが。いや!!ロン毛怒髪天とか言ってる場合じゃないけど!
 
 
怒りに任せて荒々しいやり口でも数の暴力はやはり最強ではあるまいか。
防御も回避も圧倒するレベルの大量攻撃とかやはり鉄板ではあるまいか。
 
 
彼女には、まだ仕事がある。そのために、こんな時に、本部を離れて大陸遠方にいる。
ほんとうは、竜にまたがって自分が戻りたいだろうに。綾霧モードはないけど分かる。
 
 
その証がある。
 
それはひとつの弾丸。絶対領域に覆われているわけでもない、ただの金属ただの火薬。
惣流アスカラングレーが弐号機で撃った拳銃弾。届くわけもない直線軌跡が海越え。
まともな物理現象ではない。加護も無く奇跡でもない、
 
それなのに、膨大な赤光矢群に潜り込むと跳弾跳弾跳弾を繰り返し、半分ほど叩き落とした。半分は素通りさせたわけだが、気にした様子はなく反弐号機の脳天めがけて飛び進む。
 
毒蛇の如く。「うわ、悪っぽ!」・・・・つい、口に出してしまった。でも、あの油断も隙も無い動きを見れば誰でもそう言うと思う。反弐号機と反初号機のATフィールドをもすり抜けて狡猾。油断ではなく、まさか、己の影が「そんなもの」を使ってくるとは夢にも思っていなかったのだろう。使えば滅びの末路決定、強者が手にすることは絶対にない。
怨念の鉄芯に執念の火薬で飛来し、相手を必ず撃ち殺す。代償ありありの悪魔の武器。
 
 
その弾丸の名は「魔弾」。使わずに越したことは無く、自分のゴドムと同じように。
 
 
反弐号機の脳天を貫く直後、反初号機が左手を差し出して、守ることも計算ずくだった。
 
 
悲鳴を聞いた。愛する者を傷つけられ報復せずにおかぬ紅蓮の悲鳴。空と大地も軋ませる。
二声同一のそれを、確かに聞いた。それをあげるのが分かっていても、やった。
 
ギル機関の教育なのか、サード化によるものなのか、血筋によるものか、それとも。
これでもう、他のものは眼中になくなる。これが彼女の二手。分断させる。
 
弐号機一体で反弐号機、反初号機が足止めできるなら・・・・その間、弐号機は死の舞踏を一人で舞うことになるけれど。インドあたりの女神と違って舞いながら、仕事をしなければならないのが世知辛い。浮気男を踏みつけて骸骨でも囓っていられればいいのに。
 
 
でも、やるんだろうなあ。赤い矢でハリネズミみたいにされても。やり遂げるだろうなあ。
 
 
己の影、お国言葉でいればドッペルゲンガーかな?と、ロングレンジでの魂の削り合いをしながら・・・あの建材の解放タイミングも気にしないといけない。建材の組み立てと号令はこちら側、ネルフ発令所の仕事だろうけど、号令に応じれるかどうかは彼女の担当。
 
 
鬼神のごとく、アスカ三十人力の見事な働きぶり、洞木さんも技能賞殊勲賞ものだろうけど・・・他のメンツは・・・もう少し・・・・うわ!さすがにホワイトアウトで誤魔化しきれなくなってきた。邪魔者がいなくなった儀式遂行エヴァたちが、エンカウントすると互いに食い合いを始めたけど、それをどーにかする前衛戦力が手薄どころか皆無だし!
「これはもう・・・我々で、JTフィールドでなんとかするしかないな!」とか言ってJA連合さんたちがやる気だし!いや、バックギアが壊れちゃったような闘魂は買うけどたぶん、さっきの二の舞だし!絶対にサムシングがいるぞなもし!!でも殺しちゃダメだし!
 
 
相手をぶっ殺す勢いでなら、なんとかいけるのかもだが。それは禁じ手。ならばなら!
 
 
<み、見てるから!と、友だちの眼差しで倒れるたび傷つくたび強くなるんでしょう!>
 
なにか昔、そんな歌があったような。とにかくここは勢いをつけてもらわねば!
 
 
素人のような棒立ちオールKOとかいう、近年希に見る、無様・オブ・イヤー決定の大敗北をさらしたわけだし・・・作戦の一部と聞かされてはいたものの・・・・想定外だとしたら。もしも。担架の上で気絶してる間に全部終わってましたじゃすまない。
 
 
<立って!綾波さん!あなたたちは、・・・・強いから!!敗北だって武器にできる!>
 
我ながらなんとも無茶な励ましだと思うけど。綾霧モードで他人には聞こえないとはいえ。
でもとにかく、やってもらわねば。自分があんなズタボロに負けて、気絶中にこんなやかましい脳内通信がきたら、たぶん絶交するだろうけど。されても構わない。とにかく。
 
<返事して!!生きてるよね!?死んでないよね!?綾波さん!>
ホットラインで返信がないのは、かなりまずい証拠だ。まさか返事に困ってスルーとかじゃあるまい。なんせ緊急事態なのだ。恥ずかしいとか言ってる場合じゃない!
 
 
<うん・・・わたしたちは・・・強い・・・・>
 
 
返答があったが、ずいぶん受信しにくい。ジャミングなどは関係ない、綾波さんの意識が朦朧としているのか・・・本当に、死にかけてるとこんな状態になるだろう・・冥途の砂川に流されていってるかのような・・・・まさか、これが最後の言葉、とか・・・・?
 
 
<綾波さん!!しっかりして!>
 
<あっ!つながってるーだれかとつながってるー、れいさまー、どなたですかー?>
<同時オペは・・・むつかしい・・瑞麗に反動・・・霧島さん・・・あとでいい?>
 
 
<え?・・・・い、いいけ、ど?>
<じゃ、あとで>
 
後回しにされた。かなり熱血に激励したりしてたのに。友情パワーとか、そりゃ女子だからそんなに真面目に信じてませんでしたけど!・・・でも、元気らしい。でも、綾霧モード、自分とのホットラインに誰か別の、さま付けだったからネルフ職員ではない?そもそも幼女っぽいし・・・どゆこと?混線するとか同時オペとか。女子ルール的にもどうなの?あ、いやいやこれは技術的政治的問題ですよね・・・・幼女職員とか労基的にも
 
 
ネルフに問い質したいところではあるけど・・・・ここでホワイトアウトを解けば、状況が悪くなることはあっても、良くなることはない。無号機と四本足が互いに食い合い、無号機は右腕をちぎり取られて、四本足は三本足にさせられた。異能も武装も使わず、獣の如く。ただ捕食しか考えていない。これなら、なんとか取り押さえられる・・・わけもなく、その身に六重展開するATフィールドが脅威極まり、突破も反転もできそうもない。
JA連合のロボが飛び出していかないのは、理性的判断。黙って見ているしか、ない。
 
 
十号機にも動きはない。この光景にすっかり全てに嫌気が差してソドラ発動、とか、
勘弁してほしいが・・・ありえる。どうしたものか・・・・このホワイトアウトを解除して儀式遂行エヴァを凍結して動きを止めるか・・・・十体同時にやれるならともかく、端から見れば冷凍攻撃でしかない。アウト判定の十号機ソドラで焼かれるのも困る。
 
完全体のゴドムを持っていればまた違ってくるけど、半欠けでは相殺にもならない。
あっちはあっちで、こちらの動きなど疑惑しかないだろうし・・・・あー、もう!
 
 
 
空を見上げるが、雷の馬に乗った王子様の登場は・・・なさそう。
 
 
あ。視線を下ろしたら、こっち睨んでる青白く光る怪獣フェイスが。口元には綺麗だけど見るだけで不健康になりそうなやばめの光がチラチラと。げげっ!距離はあるけどあの蒼燐光は