途中で逃げ出したら、どうする気だったのだろう。(たすけてください、左眼さま)
 
というか、普通、逃げる。でしょう。こんなの。(たすけてください、左眼さま)
 
こんな役目。しくじったらどうするんですか。(たすけてください、左眼さま)
 
そもそも、やれると思っていたんですか。 (たすけてください、左眼さま)
 
守る価値もあるのかどうか曖昧な。 (たすけてください、左眼さま)
 
 
 
 
「じゃあ、頼んだから」
あっさり、あの女、葛城ミサトはそう言った。
 
 
こんな時のために生かしてあげてたのに、とか
目を血走らせながら言えばいいのに。
 
部屋の片付けじゃあるまいし。もう少し葛藤とか。
私がどっち側にいるのか、とか悩むべきでしょう。
番台でお金数えてるのはそりゃ、ちょっと幸せでしたけど、
そんなんで認知されましても。お姉様がいるから?裏切らない見捨てないとでも?
 
 
この水上ミカリが
 
・・・でも、それがこんな大役を任せる判断理由にはならない。
 
この、水上ミカリに
 
 
エヴァ・ヘルタースケルター、骨号機と呼ばれた超巨大実験機を、完璧に操作する才能を持つ者、かつて、なんて言いたくはないけど・・・・水上右眼、もう「人」ではない存在を呼ぶにはそんな切り分けが、必要となる。その才が、絶対に必要なのだと。
 
 
「人」ではなくなったゆえに、人の世界が、業界の未来がどうなろうと、構いはしない。
 
ただ悠然と己の海路をゆくだけのこと・・・・金も政治も義理も人情も、力さえも。
 
竜尾道泳航体・・・過去の幻影をその背に乗せてさまよう竜骨を宿した島。一度は船出を妨害し、その後も沈没工作を内部から行ったり殺人未遂に手を染めたり・・・・ヤンチャではすまされないことを色々やってきた。未遂で終わったとはいえ、あの髭男は絶対に殺す気でいたし・・・・それを考えると・・・これは禊ぎなのか・・・遠回しに死ねと言われているのか、それとも単に捨てられたか。ここで自分が戻らなかったら、あの人、あの人達、どうなるんだろう。どうするんだろう。(たすけてください、左眼さま)
 
 
ウシャどもを引き連れて、地下より這い出し東の海を目指す。その数、およそ99。残りの自走できないものたちを合体させて、自分用のエヴァを拵える。
百には足りず、白号機と名付けて。
あー、もちろん戦ったりはできませんけれど・・・・周囲を固めるウシャどもが強いですから・・・・まあ、トータル戦力で言えば、お姉様たちの足を引っ張らない程度にはやれます。傍からみると、落ち武者の軍団が潰走している、落ち延びランにしか、でしょうけど。見た目には拘らないので。目標を達成できるなら、どんな汚れ役だろうと・・・!
 
 
駆けていく途中で、竜尾道泳航体・船霊室名義で、第三新東京方面への牽引命令が来た。
 
 
正直、説得の言葉など持ってはいかなかった。人ではなくなったあの方に、なんと言えばいいのかすら分からぬままに、駆けていた。行けば分かる、などと思っていない。
 
 
それが、あっけなく解決した。
 
 
左眼様は亡くなられて、もう、この世のどこにもいらっしゃらない。お側にいられない。
左眼様がいないのだから、もう、何が起ころうとどうでもいい・・・・・はずだった。
助けを求めることが、そもそもおかしいのに。ずっと、それだけを唱えていた。
 
 
左眼様はもういないけれど、その代わりなどいないけれど、「せめて、死に損ないらしく、生きなさいよ!」と、言った人間がいた。パンチとともに。これが強者に依存する体質かと己を笑ってもみたものの。そばにいれば、強いところも弱いところも、底も見える。
 
 
今回のこれは、あの人達の「底」だろう。安全レベルなどガン無視したあげく、後悔の大豪雨降りて溺れ死ぬ。死ぬに決まっているこんなもの。
 
・・・誰かよそ者が外から柄杓で、しかも超高速で汲み上げてあげないと間に合わないじゃあ、ないですか・・・・まあ、単純に、あの人達がいなくなるのがイヤなだけですかね・・・・助けて下さい、左眼さま。ああー、右眼さまも、嫌っていて碇ユイの関係者ばかりのあんな都市、助力なんかしたくないでしょうけど、今回かぎり、目をつぶってください。お願いします、お願いします、お願いします・・・・!
 
 
自分がお願いしなくとも、普通、常識的に考えて、ネルフ首脳部が話を通して、それで自分が派遣、という形になるはずですが・・・・なってるはずですが・・・・それなら「お願い」とは言わない気もする・・・まあ、お願いする機会すら、ですけれど。わたしには。
 
 
指定合流港より7キロも陸地よりの地点で合流する。基本、動く島のくせに陸地にあがってくるとは・・・HHJシステムに相当な負担がかかっているだろうに、時こそは値千金、これで稼いだ分、命を購えればいい。99のウシャがアンカーを引き担ぎ上げる。
白号機にて先導して駆ける。百鬼夜行ならぬ、九十九魔界行とでもいうべき異形風景。
 
 
”苦労をかけるが、頼む、ミカリ・・・”
”気乗りはしないが、妹の妹分の必死の頼みとなりゃねえ”
 
 
その途中で、船霊の声を聞いた。神霊の類は人間に頼んだり、気乗りせぬことをやったりしない。だから幻聴かもしれないけれど、確信はあった。
 
 

 
 
プロ犯罪者の手際だな、と
 
 
ニェ・ナザレは、突如豹変したネルフのエヴァたちの動きを評した。
 
褒めたものか貶したものか、まだ判断がつかない。そのあたりの電撃ぶりも子供らしさなど微塵もないプロフェッショナルのそれ。それでも、プロというのはある程度の力を備えていることが必須条件ではある。少し前のネルフのチルドレンはまさに子供。
 
 
おもちゃの人形のように、司馬電雷の一撃でぶっ飛ばされて半べそで地下のおうちに逃げ帰った。子供などを使わした大人の責任だ。
 
 
自分を足止めした洞木ヒカリの参号機はよくやった。シンクロ率を操作する「歌」で出迎えるなど意表を突かれたが、足を止めたのはそれだけはなく、参号機が、エヴァが拡大するパイロットの人間力、この場合は「仕切り力」とでも言えばいいか・・・学生の委員長で、5,市町村長で30,一国の長が100,大国大統領で200、などと数値化できれば分かりやすいが、そういうものでもない。人間の中でしか使えない不思議な力であるが、それもエヴァは拡大増幅する。そこに開眼するかどうかがエヴァの・・・などと論じるのはいいだろう、学者でもあるまいし。ただ、参号機と素人パイロットはそれをやった。
 
参号機がそれを楽しんでいるふうでもあり、適格者とはいえ、参号機が選んだのだろう。彼女を。・・・・・・ただ、訓練を経ていない肉体は限界が早い。己が直々に鍛えれば、女王として覚醒する可能性も・・・と、これも戯れ言だ。奇手を眺めつつ、状況を確認しただけ。まさか、こんなもので終わりではあるまい。使徒使いの魂胆も読み切れない。
 
 
儀式は始まり、マルドウックチルドレン・・・赤子状態の・・・が乗るエヴァたちの共食いは衝撃ではないといえば、嘘になる。使徒使いのゴドムによる一帯全てを覆い隠すホワイトアウトがそれを遅滞させている事実と、制止させたくとも、目も、未完成の鎧も、壊れかけの肉体も、無敵無双の装備も、殺さずにはそれがかなわない現実と、己と十号機も標的にされている状況が、足止めを続けさせた。邪眼が通じない相手は久々だった。
 
黒い巨人とエヴァ初号機の反存在。どちらも桁違いに強力なフィールドを張っていた。
 
二機とも、単純な方法では「殺しきれない」・・・邪眼が囁く。弐号機の反存在のフィールドはそこまで頑丈ではないが、反初号機が絶対のガードを保持している。むしろ己よりも守っている。いわば、I・I・GASAフィールド。よくわからん無敵感がある。
 
反弐号機が使徒使いへ遠距離攻撃を開始。儀式の邪魔者を除外にかかる、見事な傭兵ぶり。
不可視の大楯をもった反初号機の守護のもと、こっちにも殺気を放ってくる隙の無い攻防一体。これらは焼き殺してもかまわないだろうが・・・ソドラの炎も弾きそうなフィールドで、マルドウックチルドレン入りのエヴァに逸らされても困る。ユイザがいれば、そのフィールドを「喰わして」しまうのだが・・・さて、どうするか。
 
 
しばらく静観すると西方より竜が荷物を空中搬送してくる。反弐号機がそれをすかさず手槍で撃墜にかかったところ、ネルフの秘密兵器だったのかもしれないが、遅すぎる。
そんなもの、撃墜されるに決まっている。通常兵器ならばこのホワイトアウトに紛れたかもしれないが、優秀なパイロットが搭乗するエヴァの目の前を飛べば。
 
 
落とされなかった。
 
なにか細工がしてあったにしても、エヴァの攻撃がキャンセルされるなどと・・・
 
その可能性を思いつくが、若い娘がやったとすれば、なかなかの肝だ。
己の身を削り、それを己の反存在が、ATフィールド、心の壁で触れれば。
実験したわけでもあるまいし、これはある種の自爆。どれほどの反動かあるか。
反存在の成立条件、構成要件にもよるが・・・切った分の髪が、触れた者の髪も消滅させた可能性が高い。
 
その直後の狂乱ぶりをみると、おそらくそうだったのだろう。自慢の、女の命を、同じ形同じものをもったモノから、してやられた、となれば。殺戮の女神の如く地を踏みならし
報復に猛る。殺気はもうこちらをまるで向いていない。完全に儀式から意識を外しているあたり、プロ意識の欠如を指摘・・・している場合ではない。小悪魔どころか、パーフェクトに悪魔的なやり口でネルフは厄介面倒な戦力を取り除いた。反初号機が抑えるでもなく、ただやりたいようにさせているあたり、器がでかいのか既に恐妻家性質なのか。
 
 
それも、大陸天京のゴドム寒冷地に陣取っている弐号機がやられるまでの話。
 
ATフィールドという長い腕での超超ロングレンジの殴り合い、といった所だが、こんなものすぐさま止めてやらねば、双方とも待つのは廃人の末路。赤いシンデレラとかなんの童話だと思うが、止める義理もないので放置。重要なのは、マルドウックチルドレン、その命。赤子になっても、生きてさえいてくれていれば。他の者たちはいくら死のうが。
まあ、己を含めてだが。
 
 
 
あ。使徒使いが怪獣号機にターゲッティングされた。あの青白い光・・・・・
さすがの使徒使いもあの青白い光を直撃された日にはやられるしかない。ご臨終。
 
 
ゴドムで巨大氷壁を造って防いだか・・・・あ、でも青白い焔に溶かされて・・・慌てて追加を造り・・・・また溶かされて・・・また造ってまた溶かされて・・・さすがにホワイトアウトを維持できなくなったか、戦場の白が晴れてきた。再び、紫の雨が。
 
 
のんびり眺めている場合ではない。ホワイトアウトで誤誘導されていたエヴァたちが再び互いを発見して共食いを始めてしまう。中身が赤子の状態となれば、ソドラでどれほど威力を絞っても・・・全身やけどで死亡する可能性が高い。殺すことは簡単。一睨みで終わる。力はある。力はあるが、見ているしかない。手出しも見ることも許されない。
これは罰か。報いか。使徒も人も殺してきた。たくさん殺してきた。この目で。因果応報。
そもそもこの都市ごと焼くつもりでいたのだ。この体の報復をしてやるために来た。
ソドラが囁く。さあ焼こうさあ燃やそう。焦土消毒・消毒焦土。火火火。骨まで熱情して。
 
 
竜から投下された建材が自立で組み上げられていく。複雑なものではなく、それは門。
同じく投下された武具は、ロボットがさっさと回収して地下ルートに搬送した。
 
 
門からゴドムの冷気が吐き出されて、薄くなりかけたホワイトアウトを補強していく。
ソドラからの伝導で熱くなりかけた神経がそれで多少は冷却される。
ユイザがゴドムでネルフごとエヴァごとこの都市を全凍結したことがあったが・・・特異な門でその冷威の半分を遠方、大陸の天京に転送したことがあったが、それをこちらに再転送したのだろう。まあ、この冷気には・・・手を出しにくいのは、ある。弟子の不手際でもある。少々のことでは破壊されぬよう頑丈に造ってあるようだが・・・・それでも、その気になったエヴァが壊せぬものでもない。ソドラ対策の一手だったのかもしれぬが、そう時間が稼げるものでもない。少々、高性能な武器を渡されようと埋められる力の差ではない。
 
 
そこに、規格外のシロモノが現れた。広い意味ではエヴァの一種ではあるのだろうが。
 
明らかに。多数のエヴァ廃棄体と、その集合体のようないわば、即製機体が運んできたそれは、ひとつの島、ひとつの街。それを支える巨大な竜骨。古いデータにある試験機の名残がわずかに見える。業界を小賢しく荒らしてきた竜の亡骸も。箱船は神の怒りが治まったのち、山に降り立ったが、この巨船はなにゆえ海を離れてこんな所にやってきたか。
 
 
 
バランスを、崩しに
 
 
言葉で言えばこうなるが、実際に何が起こったのか分かるのは、待ち構えていたに違いなく、ここぞとばかりに急ぎで傷を治してきたネルフエヴァの手際の良さによる。
 
 
始めが無号機だったのは、おそらくは戦力計算のため。空中搬送された武具をそれぞれ手にしたネルフエヴァ全機とJA連合のロゴが入った巨大ロボどもが一団となって襲いかかった。ホワイトアウトの中であろうと、至近距離でそこまでやればさすがにバレて反撃をくらって先の二の舞になる・・・・・・・はずだったが・・・・
 
 
あっという間に制圧して、エントリープラグをリジェクトさせた。
 
 
この数で接近に気づかれず不意を打てたはずもない。司馬電雷は同じように大雷の鞭を振るったのだが・・・・・なぜか、しょぼかった。
 
2度目もあるが、しょぼい雷だったので、ネルフエヴァはそれぞれの自前フィールドであっさり弾くことに成功。その隙に入れ替わりで前面に出張ってきたロボット達が煙のようなものを吹き出して、無号機のATフィールドを奪った。資料にあったJTフィールドとかいうもののようだが、それもずいぶんと薄っぺらい。マルドウック印とは思えない薄さと構築のゆるさ。いきなりシンクロ率が絶不調低下しても、こうはならぬ。本質的に・・・・弱くなっているとしか。その後、手足を縛り付け、転がしてしまう。中のプラグに衝撃がいかぬよう、人質には傷一つつけぬのがポリシー的な、丁寧な、プロの仕事だった。
 
 
そこから、展開待機させていた地上部隊に交代し、次に行く。鮮やかなリベンジを果たしたわけだが、淡々として先のデータから戦力計算し部隊を分けて、駆けて飛んでいく。
時間が何より貴重なものだと思い知っている者の動き。敗北の恐怖に怯えるパイロットをおろして、ダミーの機械に入れ替えたのかとも一瞬思ったが、そうではない。ダミーの機械では遅すぎる。丁寧ではあるが、切実な速さ。奇跡は続かない、と人間は知っている。
 
 
リジェクトしたエントリープラグが自爆することもなく、(手際よく調査はしていたが)中から、パイロット、というにはあまりに小さな人影が、6つ、救い出された。
 
 
ここから、この連中どうするのか、やはり、こちらに対する人質に使うか、と構えていたのだが、これも意外。カプセルにひとりづつ納めると、撤収もせずに、三人がカプセルを二個づつ抱えると、こちらに向かって飛来してきた。ジェットパックの類いを背中につけているわけでもないが、これも異能の類いだろう。若い男がふたりに女がひとり、どれも目が深紅。綾波一族なる異能持ちの・・・初号機パイロットを輩出しているが・・・この状況でこんな体の張り方をする理由が分からない。睨まれるだけで死ぬことを知らぬのか。
 
予告も無く接近されるとソドラの熱で焦げ死ぬかもしれぬというに・・・・調整をしつつ、命知らずの者たちを見ると、女が何やら口上を述べている。これも調整しないと聞こえぬのだが・・・「録音・・・調整済・・・再生要?」便利なスキルを持っていたギル小童も首を傾げながら勧めてきたので、データを受け取る。人質交渉をやるつもりならば、まず言葉を聞かねばなるまい・・・・それにしても、これらはネルフ職員ではなかろ?
 
「うけとるがいいー!レイさまからのおきづかいだー!」
 
「・・・?」
確認するが、データには異常が無い。赤い目の女は赤子入りのカプセルを抱えながら、確かにこう言ったのだ。レイ、というのが綾波レイのことを指すのであれば・・・・いや、あっても意味不明だ。異能をもつゆえに、少し知能があれなのか・・・・?いや・・
 
「そうじゃないだろう!ここでは綾波党は関係ない!」
「すぐ渡して帰ればいいっす!むしろ帰りたいっす!」
 
同じ赤い目の男たちのほうが常識的だ。それでも、特殊技術の雇われの身と直接会話も時間の無駄。ネルフ発令所とチャンネルを開いて、トップを呼び出す。
 
エヴァとロボの部隊指揮で作戦部長ら実働スタッフは今はとても話になるまい。
実働部隊が電撃ならば、それを指揮する者どもはそれよりも十倍は速くなくては。
 
 
強>弱
強者と弱者のバランスを、崩した。力の増減ではなく、バランスを狂わせた。
弱>強
強者を弱者にするでもなく、弱者を強者にするでもない。
弱者が強者を越えたわけでもなく、強者が弱者に跪いたわけでもない
ゆえに・・・その行為は鮮やかに決まっても、盗人というか犯罪者の風味が。
相対的に導かれる因果を、揺らし、捻らせ、出るはずがない結末を、引き出した。
 
 
あの巨船にいる「なにか」が、それをやった。力とも異能とも、呼びにくい。それらが乗る天秤自体を弄る、才。悪戯を好み退屈を憎む超越者がいて。この世界をゲーム盤に人間など駒扱いにする存在がいるのだとしても、軽々には披露できぬ類いのタマ。
いやさ、それをやったがゆえの「その姿」、なのだろう。島流しならぬ流し島の異形。
いかなるコネクションでこのようなものを自陣に引き入れたのか・・・・データからするとネルフとは敵対していなかったか・・・?いや、それを言うならロボットどももそうか。
 
準備が整いすぎている気もするが・・・・まるで、破滅した未来を一度、視てきてでもいるかのような・・・それでも、かき集めた手駒をタイミングを計って投入していく手際は紛れもなく、地元勢力ネルフの腕だ。とはいえ、これが最後の切り札ではあるだろう。
 
その介入がどれほどの時間、許されるものか。それとも、本来保たれるべき他の何かが乱れに乱れて、それはそれで非道いことになっているのかもしれぬ。
 
この儀式の地をしばし、糸で吊り上げて、ゆるゆると、ふるふると。ぐらぐらと。
あの分かりやすすぎる敗北も、このための布石であったか。それにしてもあの手際。
 
「盗賊・・・」A・V・Thも同じように評した。怪獣号機に青白い焔を浴びせられて使徒使いが苦しいのは分かっているだろうに、後回しにする判断。
 
 
巨船が繰っている、誰にも見えぬ「糸」が、切れたら終わり。強弱のバランスは元通り。
そんな芸当が二度やれるかどうか・・・・・そもそも、させるはずがない。