この状況、どうしたものかと悩むアルマロス 
 
 
全く贄が揃わない。
 
 
狩りというよりは収穫に近くスケジュール通りにいくものかと思っていのだが。
 
 
どれもこれもが狂いに狂って、回りに廻って、数字の儀式は進まない。眼盾も沈黙する。
 
 
使徒使いが徹底的に妨害した、ということもある。これもおかしな話なのだが、半裂きのゴドムを用いながら、直接的な力の介入を避け、戦場を整理し続けた。それはそれで圧倒的な威力がなければ成せない役目ではあるが、それだけでは多少の遅延があろうが贄は揃っていたはず。
 
 
こちらの収穫役がまともに労働せぬことも大きかった。反存在の者どもが何をトチ狂ったのか、儀式の場より遙か離れた地に向けて精神攻撃を放ち続けて・・・限界が来たのか紅の機体は崩れ落ち、雷まとう紫の機体に抱きしめられていた。何しに来たんだ貴様ら。
 
 
アルマロスアイで検索してみるところによると、地元戦力ネルフ所属の弐号機なる反存在の反存在、もうひとりの己、対の存在に向けて、対消滅が起こらぬよう精神を削り取りにいったようだが、・・・・戦闘力は確かに上回っていたが、総合的なアルマロス値で視れば、精神力は遠方にいる者の方がわずかに上回る。精神構造も異なっているようだ。
挑発し、収穫役の目を儀式の地の外に向けさせたならば、悪知恵レベルも上になる。
 
ただ、どれほどの挑発行為をやらかせば、ここまで激怒させることになるのか・・・・
当人ゆえ知れたのかもしれぬが。さすがの我アルマロスにも理解不能な領域である。
だが、もう一回告げてやる。何しに来たんだ貴様ら。仕事しろ。紫の相方も黙って守護だけせずに、諭すなりしろといいたい。我も認めざるをえないほどの力があるくせに。
 
 
あとは、炎の十字架。虚ろ鎧の十番目。こやつの動向も不明すぎた。
 
到着即ソドラ発動、という可能性も考えていたのだが、地元戦力の小娘の歌などに足止めされて以降、静観を続け、贄を手元に届けられると、その殺気は完全にこちらに向けられるようになり、これも儀式停滞の大要因の一つ。使徒使いを含めて地元戦力の者どもも、これを暴発させぬため細心の注意を払っていた。これを中立化させたのはでかい。
 
 
それでも、他の贄を入れたこちら側の虚ろ鎧どもが、圧倒的な格の違いを誇っていたはずが、なんかあれよあれよという間に、地元戦力側に取り押さえられていったのはなんというべきか。・・・・我ほどの超越存在でなければ、「それズルじゃね!?ルール違反じゃね!?」とブーブー文句をつけるところであろうが・・・・強弱などという相対的なシロモノのバランス自体を崩す、などと・・・・我にしてどうやったのか見当もつかぬ・・・
マイルールを侵すことになるので、神にもこんな芸当はできぬはず。むろん弱き人などに。
 
 
人ではないが、神でもない何者か。それをこのタイミングで呼び込んだ・・・地元戦力。
 
 
とはいえ、そのバランスもいつまでも崩れたままではない。強肉弱食などがいつまでも続けば世界が壊れる。弱者の地元戦力はそれをよく分かっていた。可愛さもカケラも無く。
 
強者が己の定位置を取り戻しかけると、地の利を生かしてそれはえげつない罠にかけまくった。己らの砦の落とし穴に落とす程度はまだやさしく、世界遺産なる人類の貴重な自然建築文化保存エリア(なぜそんなものがこの島国の一地域にやたら密集しとるのかはわからんが)におびき寄せたあげく、その文化の威光に手が出せないのをいいことに頭数で取り囲んで贄を取り出すやり口など・・・我ほどの超越存在で無ければ「てめえら異星人か!!てめえらには健康で文化的な生活を送る資格はねえ!!」と獅子吼する所だ。
虫のようによってたかって倒すなど・・・・まあ、それほどの実力差があるのだから他にどうしようもないというのもあろう。生き汚く醜いが、強く輝いてはいた。
 
 
我は超越者であり、審判役であるから、強弱は関係ない。バランスの崩しようもない。
 
念のため、破壊しておこうかとも思ったが、この場より退いたので放置とする。
あの形態からすると海洋にあらねばならぬはずだが、相当な無理を通してここに出現した反動があるようだ。
 
 
我に向けて地元戦力が最後の力を振り絞って向かってきている。残りの贄は我の内にあるものだけとなれば。どういう話をつけたのか、炎の十字架もそれに加わっている。ソドラでの砲撃でもすれば、それを受けていったん”やられて”やり、乗っ取って後、この手でソドラを発動させてこの島ごと溶解させてしまえば仕事は終わりなのだが・・・
 
虚ろ鎧どもが振るう武具にソドラで祝福を与えている。あれならば、超越存在である我もズパッとフィールドごと切れそうでもあり、まずは手足を狙い動きを奪い、内部から贄を取り出す腹づもりだろう。祝福を解析している時間も無い。あれで首を刎ねられると乗っ取りは出来ぬかもしれぬ。QRシグナムで贄を抜かれた虚ろ鎧どもを手下化して連中の背後から攻めてやろうと思ったのだが、小癪なことに妨害の術式が施されていた。
普通、「な、なんだとっ!?無力化したエヴァたちが再起動して襲いかかってくるだと!」とか驚きおののく所じゃないのか、と我は思うのだが。
 
 
一応、味方ではある反存在どもは、紅は気絶状態、紫はそれの介抱以外やる気なし、頼りにならぬ。審判役であるから動きも出来ずに、このだらしない有様を視ていることしか出来なかったが、さすがにそろそろいいだろう・・・超越存在の超越たるゆえんを見せつけてやっても。見栄え的にはやはり・・・・炎の十字架を倒してやるとするか・・・・
そうなれば、蜘蛛の子を散らすように逃げ帰るだろうが・・・そこをまとめてザクザクと
 
 
ハルバードを握り直す我。ここは、天にも地にも響き渡る超越的名乗りをしてやらねばなるまい!誰に収奪されたか分からぬまま消えるのも哀れ。さあ、魂に刻むが良い!!
 
 
「我はアルマロス!!生と死を超えっ!?」
 
 
 
そこに発願者より儀式中止の連絡が来た。
 
 
 
・・・・なんか我が超おどろいた感じになってしまったが・・・・小物感が出てしまわないかちと心配になったが・・・・本当に驚いた。中止だと!?いや、それは我も内心、止めろと思っていたが、まさか本当に・・・殺されても中止にするようなタマではないと思っていたが・・・何があったのか・・・・・我だけでも儀式は成就させる自信はむろんあったが、発願者がそう宣うのだから仕方ない。あとは、こっちに突進してくる地元戦力どもだが・・・そちらにも何らかの指示があったのか、動きが止まった。
 
 
”「本艦たちは帰還する。貴艦は如何する」”
 
イケメンボイスでの通信が来た。今まで一言も声を発さなかった紫機体の搭乗者からだ。
 
貴艦、というのが我を示すらしいが・・・・意味が通らぬ所もあるが敬称のようではあるし、何よりそのイケメンボイスに免じて許してやる。なんの仕事もしなかったわけだが、勘弁してやる。自分がどこからやってきたのか教えてやろうと思ったが、やめた。
いずれにせよ、二度とまみえることなし。遭うとすれば敵として。
 
 
「我はアルマロス。生と死を超越した存在である。・・・・名を聞いてやろう」
 
ここで聞いてしまったのは、少しでもそのイケボを味わいたい、などということではない。
 
 
”「大和シンジだ。短い奇縁であったが、貴艦の航海の無事を祈る」”
 
紅機体の搭乗者がこれにデロデロであったのも頷ける。本人にその気はなくとも、周囲をことごとく耽溺座礁させていくだろう。一国は守護できても、銃後にはなぜか撃沈の山。
 
もうしばらく聞いていたい気もしないでもなかったが、追って問う話題もない。
 
銀の門をくぐって反存在どもは消えた。闘争慣れした引き際。またそこでも戦い続けることになんの疑問も持たず。あの紫の一機だけでも状況を一転させるに十分ではあっただろうが・・・紅と同じ姿と戦るのを忌避したのかもしれぬが。問うて、あのイケボの言い訳に耳を傾けるのも一興だったかもしれぬが・・・・ともかく。我は敗れていない。
 
 
我は負けていない!
 
積極的に手を出さなかったのも、そういう役目であったからであり。
 
我が収奪役であれば、儀式は結願していたに違いなし。発願者の采配ミスであり我の責務は十分に果たしたと考えられる。考えられない奴は・・・もう分かっているだろうが
 
 
天誅
 
なので、その辺り、誤解せぬように。我の方から贄を取り出して連中に渡してやったのも、手にした凶器が怖かったわけではなく、必要ないゆえくれてやっただけのこと。
突進は止まったものの、手にした祝福武具を全く下げようとせぬのだものなあ。
だいたいボロボロのくせに、よくもまあこの格の違いに耐えて立っていられるものだ。
野蛮な現地戦力どもと無駄な小競り合いをするのも、超越存在のポリシーに反する。
 
 
眼盾からも解放された。これで転移も可能となる。本来の我を取り戻したぞ!万歳!
早速、小賢しく我を使役してくれた発願者に特大の天誅を下してやろう・・・・・・
 
 
と思ったら、くたばっていた。どういうわけか、「願い」すら変更して。
 
 
発願者に何があったのか・・・・死の直前で気が変化する程度の性根でこのアルマロスが召喚できるはずもない。いかなる罪を重ねて山と積もうと渇望する大欲があったはず。
 
 
それを転ばせた、何かがあった。発願者を変心させる何かが。それは何なのか・・・
 
 
調査する必要はある・・・・であろう。なにかの拍子で我に仕掛けられぬとも限らぬ。
 
 
荘厳な雰囲気を出しながら虚空に向かって去りゆく我。
 
 
これで追撃されることはあるまい。
こんな我を背中から撃とうとかいうのは完全に頭がおかしい。バトルジャンキーだろう。
 
そうそう。微妙な顔で見送るがいい。ただ、手を出したらやり返すからな!
 
いろいろあったが、今回は見逃してやるし、我は忙しいのでここにアイルビーバックしたりもしない、ということを背中で十二分に語りながら、連中の目から消える。
 
 
戦況を逆転されて追い詰められて、いかにも撤退したように見えるだろうが、そうではない。そうではないのだ。我は特に負けていないので、ただ内部調査に行くだけなのだ。
 
 
「勝った・・・・・?」とか、先頭にいる白い虚ろ鎧の赤目の小娘が疑問形で呟いたが、その通り。お前達は勝ってもおらぬし、我は負けてもおらぬ。おらぬのだからな!
 
 
 
それが証拠に、我の姿が消えると同時に炎の十字架以外の者は全員へたりこみおって。
いまさら震えだしても遅い。我はアルマロス。生と死を超越しているが、調査も怠りない。
 
 

 
 
 
「疲れているだろうがね、もう一仕事しておくれ」
 
終時計部隊に向けて十号機ニェ・ナザレが声をかけた。強弱のバランスの戻りかけた戦闘時ではマルドウックチルドレン入りの隠しエヴァにコテンパンにやられた。そもそも初のフルメンバーそろっての時間遡行で安全レベルを遙かに超えた危険旅程で質量オーバーの回収作業など死にそうな目に遭いながらヘロヘロでようやく戻るなりこのスクランブル。指導役の仇討ちとしばらく神経が麻痺していたが、疲労も限界な所に物理ダメージ。
 
「あれ〜?この程度の連戦、シンジ君ならスナック感覚でこなしてたけどなあ」などと葛城ミサトのミエミエの煽りや「痛いなら、治してあげる。言って」などと綾波レイによる綾波レイ初心者には分かりようもない言い方で時計の針を回された。グルグルグルと。
 
 
もう何もしたくないし出来ないほど疲弊しきっていたが・・・・・
 
業界の生きた伝説に言われれば従うしかない。事実、位階としても選択の余地なし。
 
発令所でも緊張が走ったが、異議も制止もできない。その意図を悟る者もそうでない者も。
止められるものではなかった。疲労と緊張で意識朦朧としている者が大半であった。
 
 
「もしや、この先、同じような手を使われない保証もないからね・・・・ここで、それを創っておくよ」
 
 
逆らえば燃やす、とまで言い、時計部隊に強制でやらせたことは・・・・・・
 
 
ソドラの火を過去に送ること。マルドウックチルドレンが消えたその夜に。
新世紀より罰の火を墜とし、城館を石壁一枚残して消滅させ、死なぬ程度に己を焼く。
 
 
それが何の保証になるのか、と問える者などいない。ただの脅しなのかただの呪いなのか・・・・・・それは分からない。だが、疲労の故か強制のゆえか、本人が反射的に何かしようとしたのか、A・V・Thも過去に飛ばされてしまった。急ぎ回収するべきなのだがそこで時計部隊は完全に力を使い果たして全員気絶。ニェ・ナザレもさすがにそれを叩き起こしてもう一度やれとは命じなかった。引き続き、綾波レイを筆頭とするネルフエヴァの面々も次々に倒れていく。JA連合のロボットでさえぶっ倒れたのだから激闘のほどが分かる。大人のメンツにかけて時田氏のシン・JAだけがなんとか踏みとどまり、機体の回収作業の指揮を執った。同時に使徒使い霧島マナもその様子を見届けて、気を失った。
 
 
正体不明の謎の敵集団を無力化し退けた・・・目に見える結果だけ見れば豪腕にてこらしめて天晴れ大勝利、と言いたいところであるが
 
 
「勝利条件をギリギリ満たして、なんとか逃げ切った、という所だ・・・葛城君、ヴィレから連絡は」
 
発令所ではまだ稼働が続いている。戦闘時とは別系統の業務がこれまた死ぬほどあるのだ。
 
子供達と違い気絶することも許されない。息つく間などなく、緊迫が支配している。
あれだけの激闘が、単なる時間稼ぎでしかなかった現実。限られた者にしか担えない。
ほんの少し遅れていれば。踏み足を間違えていれば、こうして息をすることもできない。総員全力を尽くしたことに間違いは無いが、それでも、戦線を遠く離れて唯一人、この異常事態の元凶を説得しに行った交渉役が下手を打っていたら・・・逝ってこい的な必死任務を果たさなかったら
 
 
綱渡りどころか、蜘蛛の糸の上でフィギュア三回転アクセルするようなものだ。
無事に戻ってくるまでが任務だが、その難易度などつけようもない。
 
 
説得交渉役・碇シンジはまだ戻らない。所在不明。連絡不能。生死不明。
 
 
 
「まだです。ですが・・・・必ず・・・!」
 
葛城ミサトの目は戦闘態勢のそれと全く変わらず、背には青白い執念の焔。
 
 
極小スケールのイザリヤの星社に侵入するため、己を極小の粒子帯に変換した碇シンジ。
 
初号機もそれに付き合って己の存在を塵に変えた。「ばけもの・・・」この事実に耐えきれず泣きながらトイレで吐いたスタッフもいたが、生え抜きの者は予感があったのでなんとか顔に出さずにすんだ。「それでも、彼は自分たち皆のためにいってくれた。行かせた自分たちも似たようなもの」とうにここは鬼の住処。だから、いかなる姿でもここに戻ってこなければならない。”戻って、こい・・!!”三羽烏を筆頭に、声にならぬ絶唱響く。
 
 
ヴィレに依頼したのは、任務を果たした後の碇シンジの回収。諦める気など微塵もない。
AAAヴンダーに搭載してある生体レーダーで、世界のどこにいようが、必ず探し出す。
雲海の中か、溶岩の中か、深海の底か、超硬度岩盤の中か、もしくは生物の中か・・・・
 
 
数時間、戦艦サイズのイザリヤの星社が北極で発見された。蛇足もいいところであろうが、業界の仁義もヘチマも無い争奪戦が始まり、ヴィレがなんとか蹴散らして確保した。
 
 
だが・・・・その内部を徹底調査したものの、碇シンジの姿はどこにもなかった。
最奥に槍に貫かれた異形の骸があったものの。「別人」のものだった。
 
 
ヴンダーの修理も後回しにしたヴィレの懸命な捜索もむなしく、初号機ともども、碇シンジは発見されなかった。
 
 
犠牲無しに勝利を得られることが希なれば、それは少ない方がいい。
 
得られたものは間違いなく巨万。希少の才能群。煌星の如く人の未来を照らし続ける。
暗雲を一瞬だけ切り裂く、紫電雷鬼の閃きは、おそらく無用となる。
 
 
それを知り、退場したのではないか。ああ見えて、彼は賢い子供だった。
 
最強の決戦兵器をお供に黄泉路を旅する・・・格好良すぎてあまりイメージではないが。
裏ルートで依頼した使徒使いにも見つけることができないのだから。
 
 
すぐそこにいるが、あまりに小さく視ることあたわず
風に流されて、まばたきをしたらもう千里の先
絆は確かに存在するけれど、彦星織姫を遠いと思う距離感覚では。
 
 
そんな、神話の住人になったのではないか。
 
少年は神話になり、去りゆく者は日々に疎し・・・
 
 
 
そのはずなのだが
 
 

 
 
 
「私はドライだから」
 
そう告げて、少女は第三新東京市を去ろうとした。ここに、思い入れはないのだ。
 
 
 
「アス・・・いや、ドライか・・・違和感バリバリだけど、しょうがないか」
 
作戦部長執務室にして葛城ミサトと対面しても、湧き上がる感情は特にない。
 
 
「惣流アスカ」と「ラングレー」は、あの一戦、己の反存在との精神の削り合いで
「削られた」。防御人格であるアスカが最初に、次は攻撃人格であるラングレーが、最後に自分もやられる、と覚悟を決めたところで、相手がダウンした。こちらは3で相手は1,となれば、勝利を誇れるはずもない。敗北に近いが逃げ切った。単に生き延びた、か。
 
もし、儀式が中断していなければ、回復した金剛アスカに自分は消し飛ばされていたはず。
 
 
ケージに戻って、迎えられて、二つの人格の喪失を告げた時の人たちの顔。表情。
碇シンジも戻っていなかったのを後で知り、口にしたのを悔やんだが。
 
そのまま誰とも会わず、引きこもった。精神ダメージの検査で入院という建前だけど、癒やす方法も治す手立てもない。失われたものを思い出すのは痛みを生じること。
面会も全て断った。メディカルチェックも遠隔の機械で十分。肉体の損傷はない。
 
 
髪が元に戻るより前にはここを去らねばならない。面影だけをここに残そう。
 
なんだかずいぶん髪が伸びるのが早い気がするが・・・人の手も触れさせたくない。
 
なにかしなければならない気もするけど・・・・何もする気が起きない・・・
 
だれかをさがさないといけない・・・・気もするけれど・・・
 
それがだれなのか・・・・だめだ、ぼうっとする・・・・
 
今日は、何月のなんようびだったっけ・・・・
 
あれから、何日たったかな・・・
 
 
 
わたしは・・・だれだっけ・・・
 
 
 
「まだ、寝ていていいから。あなたは、あなたたちはよくやってくれたわ。だから・・・
ドライ、今は、ゆっくり休んで・・・・」
 
 
めんんかいしゃぜつのはずなのに、だれかはいってきて、ひたいにきすされた・・ような
 
 
ねむい・・・・ねむい・・・・ねむい・・・
 
 
そうか・・わたしは・・・どらい・・・
まだ、ねむっていても・・・いいんだ・・・・・
 
 
 
「・・・あとで無理難題を押しつけるクセに」
「しょうがないじゃない。こんなこと身内にしか頼めないし・・・レイもやってくれてるんだろうけど・・・・」
 
 
ふたりもはいってきていた。けいびたいせいはどうなっているのかしら・・・
ききなれたこえではあるけど・・・・ねむい・・・あさなのかひるなのかよるなのか・・
ねてばかりいると・・・かみがのびる・・・
 
 
結局、半年間寝ていた。放置されていた、といってもいい。検査も実験もされず、ただ眠ることを許されていた。その間の記憶は曖昧。髪の長さが元に戻ったところで覚醒。
 
タイマーでも仕掛けられていたのか・・・でも、内なる声はなにもない。一人ベッドの上
 
 
 
「半年・・・・・・」
 
愕然としていると、呼び出しが来た。休眠させることで「アスカ」「ラングレー」の復活を期待していたのかもしれないが、それは・・・叶えられない。
 
 
「私はドライだから」   はっきり砕いてやるのがせめてもの。
 
 
「しょうがない・・・しょうがないけど・・・お願いしたいことがちょっちあるの」
 
「なに?」
命令すればいいものを。・・・・無理難題をおしつけるクセに・・・なぜか、そんな内なる声が谺する。腹が読めない。 身内にしか頼めない案件なら、他にまわして欲しい。
 
 
でも・・・けっこうあっさりしてるんだ・・・ま、半年も経過してればそうか・・・・
もう少し、こう・・・ラングレーはともかく、アスカには固執・・・してるものかと
ボロボロ泣かれたりとか・・・しないものだね。もう喪失者認定されてるわけか・・・
 
 
逃げてやろうかと一瞬、思ったけれど、そもそも・・・・逃げる場所などない。
 
どこにいようと同じ。同じだ。・・・こんな精神状態だと・・弐号機にもシンクロできるかどうか・・・・もし、弐号機がわたしを認めなかったら・・・・・これから
 
 
「あー、どっから話そうかな−・・・・なんか飲み物とか注文する?じゃ、ウーロン茶とクリームソーダ。ドライは?・・・?ふたつともわたしのだけど。好きなモノ頼んで。アルコール以外ならなんでも。アイスティーひとつ?じゃ、プリンとかつける?いい?・・・じゃ注文来るまでさわりレベルを伝えとこっか」
 
他に誰も見ていないからと言って。そんな親戚のおねえさんムーブとか。いまさら親近感もなにもあるか。ビジネスライクにいけばいいのだ。身内じゃないのだ。ドライなのだ。
 
 
「今回の騒ぎ・・・・「アダムの乱」とかいって、歴史の教科書に載れば面白いんだけど、まー、そーはならないわね。上位組織の大幹部連中の潰し合いを収めた下位組織のネルフがその空白に食い込んで監視諫言役としての地位をもぎ取ったわけです。好奇心だの実験欲だのでいちいち人類まるごと変化とかさせられる日々はひとまず終了。ブラックボックスを開けてみればヤバいヤバい・・・こんなもん実証させられてたまるかっての。ブレーキのないダンプカー軍団にとりあえずブレーキを装備させた、と。壁となって暴走を止めようと体張っていた人も、少しは気が楽になればいいのだけど・・・
 
 
ま、それはいいとして。
 
 
十号機、ニェ・ナザレ、こっちも神経使わされたけど・・・あの始末のつけ方されりゃ文句のつけようもねいわ・・・・十号機からは降りて完全引退、しんこうべで体の治療しながらマルドウックチルドレンの保護者やってるわ。おかげで関西エリアの危険度レベルが跳ね上がったけど、さすがに綾波党の仕切りで無事にやってる。今の所はね。
 
 
使徒の方も、今代の使徒使いが現役でいる限り、再来襲はなさそう。途中で人類に絶望したー、とかでチャラになる可能性もあるけどね。それで、対使徒迎撃殲滅兵器のエヴァの身の振り方なんだけど、このまま人間同士の戦闘に使われるのもバカバカしいんで、民生転用してね。シンジ君の初号機はそのまま「歩く発電所」で、レイの零号機は「錬金異能デパート」で、鈴原君の参号機は「台風狩り・竜巻狩りの嵐管理人」、洞木さんの参号機は「超わかりやすい授業をする先生アイドル」で、ナギサくんたちの八号機は宇宙開発、タチの九号機は海洋開発、このあたりは王道というかスタッフも世界トップクラスが揃ってたからさっそく軌道に乗ってるけどね。八号機はほんとに衛星軌道にいるから、リツコと遠恋で色々シャレになってないっつーか。あ、注文きた」
 
 
・・・・さわりどころか、ガッツリ全部伝えられた気が。いや、これ以上まだあるのか。
 
 
ぜんぜん受け止めきれないんですけど!特に、エヴァの民生転用って何!?看板も意味不明のものが多いんですけど!!・・くぅー、身内なら遠慮なく突っ込めたのに・・・
半年寝てた間にこれって・・・・灼熱する激動の時間だったに違いない・・・
 
それなのに寝てたとか・・・・・・・・・・・・・・うーわー・・・・・
でも・・ラングレーとかはいなくて良かったのかも知れない・・・・火種もいいとこ
 
 
でも・・・制式タイプの弐号機と・・・計算力が高くて狙撃が上手いのが取り柄のわたしは・・・・そんないきなり、これからは決戦兵器じゃない、とか言われても・・・
 
 
そもそも、じぶんたちはもう、取り残されていた・・・もともと・・・適応できず
変化せぬ命は滅ぶしかない・・・強者とは変化する者・・・・ああ・・・
 
 
 
「氷、溶けちゃってるけど」
 
 
自分はさっさとウーロン茶もクリームソーダも片付けて葛城ミサトが。
 
夢じゃないんだろうか・・・・これは・・・・もう、戦わなくていいとか・・・
エヴァ同士で殺し合いもしなくていいとか・・・・ずいぶんと都合のいい・・甘やかな
 
 
喉を通る琥珀の液体が甘露なのは、こんな時なのに美味だと感じるのは・・・・
誰かと一緒に味わうから。ぬるくなったな、と嘲笑う声もないけれど。
自分を待つ相手のことが、観察も分析もせぬのに、分かるのは
染み入ってくるからだろうか。待っている。待ち続けるのは確定。
儚い人の営みの中、重い荷物を背負って坂道を、もし駆け上がるなら
 
 
今、葛城ミサトの目を潤しているものが必要。これは、強欲ではない。
 
 
 
「アスカとラングレーとシンジ君を、引き戻して欲しいのよ。ここに」
 
 
祈られたので、頭にきた。私はドライ。神様じゃない。これからどうしたらいいのかも分からない少女A的な存在。・・・この半年の間、誰にもどうにもできなかった無理難題を叶えろとか?・・・・碇シンジも、戻ってきていないのか・・・「歩く発電所」は構想どまりなのか、初号機だけでも意外にいけてしまっているのかは知らないけど。
祈られたので、アタマにきた。私はドライだけど、あなたはわたしの何なのか。
ここ、と言われて、それがどういう「ここ」なのか十分に理解できる・・・
 
 
「私はドライ。言うなれば最新型よ?」
 
それを弱音にしてしまってはいけない。ここで引き取ってやらねば、そう処理される。
 
 
「リハビリにはちょうどいいかもね。どっかで遊んでる旧型たちを呼び戻してくるおつかいミッションとか、弐号機があれば2・・・・か、かっ、2週間もあれば余裕よ!!」
 
勢いのママに2分で片付けてあげる!などと言わないのがドライのドライたるゆえん。
 
旧型とはやはり安定性が違う。宣言した以上、さすがに2日じゃ無理そうねでも!・・・詳しい状況も分からぬのに頭脳をフル回転させ始めるあたりも。天才と計算力の狭間で苦しむことになろうがかまいはしなかった。そう、阿修羅のごとく。どや面バージョンで!
 
 
 
「ドライ・・・」
 
 
これは夢。夢物語。碇シンジは、なんとか交渉をまとめたシンジ君はその帰り道、アスカの危機を感じ取って、電光となって駆けつけて、去りゆくアスカたちをなんとか引き留めてくれているのではないか・・・・そんな気がしてならない。妄想だと笑われるので公言はしない。てめえの立てた作戦で犠牲が出たのを認めたくないだけ。そう認めたらあの子達が戻ってきてくれるならいくらでも笑われてもいい。
 
 
けれど、あの碇シンジが退散にしくじった、とはどうしても思えない。
 
 
ヴィレでも使徒使いでも世界のどこかにいる謎の仙人でもいい、どこか適当な所に漂着して、こちらに回収の連絡を送るくらいのことはやってのける・・・はず!
全く腹を読ませないが、父親の碇司令とオジキ(だろう)の冬月相談役の顔色を伺っていると・・・すでに母親の元へ戻っていて知らん顔してる感もあるが・・・もし、他の連中はともかく自分にも黙ってたらあの髭と白髪はハジく。冗談抜きでドタマのど真ん中。
 
まあ、部下は上司に似ちゃうから。てめえの部下達もおんなじことを考えてる可能性も。
 
引き留めてはいいが、そのまま帰れなくなってるとか、それはそれでホラーだけど。
そんなわけで、三番目の万能科学の申し子っぽいドライが希望の星。なんとかしてほしい!
精神とか魂とか、あと何年、何百年ほど生きれば分かるようになるのかしらね・・・
 
 
せめて、こんな時、どこを探せばいいのかくらいは。
 
女のカンもいまいち働きが悪いし。
 
弐号機パイロット、惣流(アスカ・ラングレー)ドライに、ソドラの管理者を、という話が来ており、自由に動ける時間を作るのもなかなか苦労する葛城ミサトであった。
JA連合の時田氏が立候補してくれてるから、それをしばらくはフェイクに使おうっと。
 
それにしても、もうひとりのシンジ君は・・・イケボだったわねえ・・・精神年齢が違うせいかしら・・・あれがこっちでも聞けるよーに、がんばらないと!あ、加持とは年相応にうまくやってますよ?これはすげえ現実路線で。だからよけい夢に惹かれるのか・・・いやいや、がんばらねば!目覚めたばかりの十代少女にこのミッションとか・・・まー、自覚はあります。あるけど。やってくれるというのだから、望みを託すくらいはいいだろう。
 
 
「とりあえず関係資料と使える部屋!必要権限と予算も!」
「ぜんぶ用意してあるから。人を動かす時だけ連絡入れて」
 
それらが全部入った最強カードを渡す。碇ユイさんのちびキャラ、”ゆるゆい”ちゃんが刻印されたカードが問答無用に最強便利なのは、天下に鳴り響いている。
 
「・・・かなり、刷新されてるんだね・・・ふーん」興味なさげに言いながら、ものすごく大事に懐におさめるドライ。そして、執務室を飛び出す。「紅茶、美味しかったから!」
そんなもので発進できたなら、させるのならその罪深さ。ああ。
 
 
残されたドライをなぜ、そのまま愛さないのだろう。強欲。やはり、これは強欲。
 
ミカリにその件に関して一日300を越えるメール爆撃が毎日くるのだとしても。
いい大人達が「奇跡は人の手で起こしてこそ価値がありますよ!」的な目で見るどころか
事あるごとに直言してきやがって。クラスメイトや同パイロット、子供たちよりも暑苦しく・・・作戦家だからってそんなホイホイ思いつくか!!なんでもこっちの領域にするな!!キレそうになった所、見計らったよーに野散須のオヤジから手紙が届いた。
 
 
・・・・キレるのはなんとかがまんできた。お陰様で。また湖に投げ飛ばすとか脅されたワケでは決してないけど。ありませんケド。眠っていてもドライの顔を見ると落ち着けた。
リツコ先生に相談すると、より落ち着けた。しんこうべに出張しているレイの計画もその時聞いた。レイがその気になったら・・・やるかもしれない・・・やれるかもしれない。
 
「なんで過労死しないのか分からない仕事ぶりだからミサトには黙ってたんだけどね」
 
橋頭堡からの天領侵攻、影の足場固めは自分たちにしか出来ない。
交渉役はその任を果たしてくれた。ならば、自分は。自分たちは。
自分は。
 
 
手を伸ばした。「言いなさい。・・・・・言って・・・・・おしえてください・・・」
 
「ひどい顔・・・言わなきゃ言わないで死にそうだから教えてあげるけどね・・・」
 
 
レイが発案し、治療中のニェ・ナザレに教えを請いながら形にしていく計画は
 
 
自覚はあるから、鬼のように働きます。世のため、人のため、大義のため、組織のため、身内のため、自分のため。各パーセンテージは、スキなように切り分けてくださいませ。
 
 

 
 
 
「死命無し」「儀式不成立」となり、親の総取り。渚カヲルは大奇跡長者となった。
 
 
賭博の参加者たちは、そのあたりの賭博場にいたりするオッサンとは違い「親の総取りだとふざけんな!!インチキだインチキだ!ラプラス隠してるだろ出てこいや!!」「○○○!!このボケ!てめークソしてねろ!!」「きー!!奇跡返せー!!竹の花咲かしてあげるわよ!!」だの、文句をつけることもなく、大人しく帰っていった。パンチパーマのギャンブラーがふと寂しそうな笑みを浮かべたが、それでも何も言わず白い牛の背に乗って去って行った。
 
 
場に残るは、灰基督と、今回は運営役であった四大使徒のみ。
 
 
「勝因は・・・・幻想第四次の銀河鉄道の召喚・・・幻鉄・・・いや、シンジたちは銀鉄とか呼んでたっけなあ」
 
そして、大使徒長・ミカエル山田。<山田>成分のため、真名を開示可能。山田は偉大なり。
 
 
「あのサイズで出来るただ一つのこと。ですが、アダムの元にその路線が届いた、というのは・・・・また旅が始まる証でもあります。停滞の無より新しき旅を。シンジ君はそれを示して、納得させた・・・見事な交渉です」
 
 
渚カヲルは誇らしげに微笑んでいたが・・・実際の所、その交渉がどんなものだったのかは分からない。「いやだから僕はどちらでもいいわけですよ。信じてくれてもくれなくても。でーも!ここにこうして銀鉄が来てるでしょ?来るはずないのに来てるでしょ?乗るも乗らないもご自由に。僕は乗ったこと、ありますけどねえ?え?いやいやこれホント。ほんとですよー、内部の間取りも全部言えますし?乗った後、確認してくれても・・・いえいえ、乗るのはアダムさんの自由意思ですよ。あくまで。罠とかいわなーい。計略とかじゃありませーん。でも運転手さんとか機関士さんとかに聞いてもらってもいいですよ?
あ。予定時間押してるぅー。押しちゃってますー。早く決めていただけると有り難いなあ。
・・・うん?そりゃ旅なんですから、誰かに会いますよ。そもそも銀鉄の乗ってる間も。
旅は、どうだったか、ですか・・・まあ、ひとそれぞれ違うんでしょうけど・・・・
僕の個人的な意見としては・・・ふっ、こう言うとなんだかデキる大人っぽいですね、
”・・・・・”ですけどね。アダムさんだけに、秘密ですよ?・・・うふふふ・・・・
はい?切符代、ですか。あーそれはどうかなー、アダムさんはご年齢もご年齢だし、無料なんじゃないですかねー、あ、でも心配なら僕、立て替えときますよ。後払いで。
え?代わりに欲しいもの?義理堅いですねえ、アダムさん。いいんですよ、そんなの。
交渉役への報酬?はあー、そういわれちゃうともらわないとダメっぽい気もしますね。
あ、じゃあ遠慮なく。七ツ目玉への願いを変えて下さい。あ!マジこいつ遠慮ねえって顔しましたね!?そりゃそうですよね・・・調子に乗りすぎましたよね・・・え?それでもいい?えへへ・・・ほんとうですか?ありがとうございまーす。それで新しい願いは・・・・」
 
 
まさか、こんな楽勝風味ではなかっただろう。言霊による激しい弾丸論破な言語闘争(ゲン・カタ)があったりしたと思われる。
 
 
あまり詳細に「観測」してしまえば、それも介入だと異議を唱えられる可能性があった。その結果、賭博の場が乱れ、この天京が消滅するような事態になっても困る。
 
 
碇シンジがなんとか説得してアダムを銀鉄に乗らせて儀式中断にもっていき、その際、七ツ目玉への願望さえ変更させたことは間違いない事実。賭博場に集まった奇跡もち達にも歯噛みしようが足踏みしようが覆せなかった現実。
 
 
 
だが・・・・予測しなかった事象も発生している。「碇シンジの未帰還」。
 
 
 
イザリヤの星社から、ヴィレのAAAヴンダーに回収されて一件落着、というのが、渚カヲルの目論見であり、総取りした奇跡もそのために使った。にも、かかわらず。
博奕に負けた連中がその報復を仕掛けた、わけでもない。それをやれば自らの根源が揺らぐ。
 
 
碇シンジ、自らの意思で、どこかへ、消えた。そうとしか。そうでなくては。
 
ここで、大まかな流れは伝えてあり、碇シンジが帰還したくない理由もあるまい。
 
緊急事態が起きて、そちらに向かった・・・・としか。この感情をなんといってよいか。
思うままにならぬのに、どうしようもなく、愛しいとか。その逆なのか。混沌として。
心配かけてくれるなよ・・・・と思いつつ、まだ、彼の心配ができる己に嬉しい納得。
 
 
 
「でも・・・・これ以上は、NGだぜ?ナギサちん」
 
天使長じきじきに釘を刺されてしまえば、あとはバトンタッチするしかない。
 
 
「まさか、ひそかに雲の上にスカウトとかしていませんよね?」
 
「OH・・・そんな、してたらハルマゲドンも辞さない、みたいな怖い顔すんなヨ。そもそも、そんな急ぐ必要ねえだロ?少し、ショルダーのパワーを抜いた方がいいんじゃね?」
 
 
「・・・・忠告と助言に感謝を。あと、遅くなりましたが、運営としてお力添えに感謝を」
 
声にはせぬものの、この距離でこのやり取りで寿命がすり減っただろう灰基督にも感謝。
もしか今回のショバ代をこの防御に使ってしまったなら、あとで回復弁償せねばなるまい。
 
 
「いや、そっちはいーサ。この立場になって異文化交流のもてなし仕事とかけっこう楽しかったサ。・・・しばらくは”そっち”にいてバリバリやっててくれってな。まあ、<ミカエル山田>としては思う所ダヨ。シープアイの連中が慌ててタバコ巻き直してるのも見物だったしなー・・・うん?もう時間か。じゃあな、カヲルちん」
 
 
さりげなく言質をもらえたのは、シンジ君の人徳だろうか。
あとはネルフの皆に任せて、さりげなくサポートするしかない。
ナギサたちもいるし、なんとか頑張ってもらわねば。
 
 
に、しても、どこへ行ったのなら・・・・
 
 
任せた、と言いつつ、ネルフも全力で探し続けてはいるのだ。境界を越えてはいない。
すでに発車した銀鉄に同乗したわけではない。この世のどこかにいる。
 
 
と、いうことは・・・・彼の行動原理から考えて・・・
 
 

 
 
「アンタ、バカ?」
 
 
「なんだか久しぶりに聞いた気がするけど、僕はバカじゃない」
 
「バカを越えたバカよ。バカは壁を越えることはないはずなのに・・・あ、しまった」
 
 
ここは弐号機のコアの表面。非常に分かりやすい表現を用いれば、弐号機のスキマに入り込んでしまっている極小の惣流アスカと、粒粒碇シンジと、これまたミニミニラングレー。
 
なんでこれでネルフに見つからないといえば、別に整備スタッフの目が節穴だったわけではない。あまりにも極小すぎるゆえだった。てめえの意思で粒粒になった碇シンジはともかく、己の反存在を足止めすべく魂を削りに削られ、最後のひと破片、ラスト粒子、くらいになってしまった惣流アスカ、ラングレー、この世に留まっているのがおかしいレベルの儚さであり、ギリギリ、それをとどめているのが碇シンジの引く力だった。
 
そして、弐号機がそれとなく、外部の流れからコアについたミニマムスモールチルドレンを守護しているものだから、感知はしにくい。
 
 
打ち負けた、ドライがこんな殴り合い耐えきれわけないし、・・・負けた・・・敗北感と
ここまで時間を稼いだからにはあとはなんとかするだろう、という奇妙な達成感とが交差する不思議な時間が経過すると、碇シンジがすぐそばにいて、生意気にも膝枕していた。
 
 
最初は、あまりに粒粒感がつよく、碇シンジだと分からなかったほどだ。
 
自分も、自分たちも似たようなものだと分かるにそう時間はかからない。
 
これが、救出、などという上等なものではなく。かなり邪悪よりの行為でもあることも。
 
 
話を聞くに、説得交渉はなんとか成功したらしい。その行動を伝えてから移動しろと言いたかったが、時計部隊に加わるとかあの時点で言われても混乱するだけの自覚もある。
誰の絵図かといえば・・・察しもつく。それならば、沈黙するしかないのも。
時計も一緒に手駒にされたことに笑うしかない。ただ、正気を疑う絵図では、ある。
これしかなかったのだろうけど。自分たちが消滅せず、己の影達を足止めしたように。
 
成功して初号機とともに、「風に乗って誰か捕まえてくれるのを待ってたんだけど、なんだか悪い予感がしてその方面に走っていったら小粒になったアスカが車田先生の漫画みたいに吹っ飛ばされていってたから慌てて捕まえた」・・・という説明は確かにこいつにしか出来まい。反存在や偽物ならもう少し賢い感じを出すだろう。
 
こんなんでよく説得できたな・・・・・・・・・・しかも
 
ノックアウトされてから駆けつけてくるとか・・・・誰得の展開よ、と思うがつっこむ元気もない。・・・どうも、色々台無しにきてここに来たのじゃなかろうか・・・このバカ
 
 
 
「アスカ、髪切ったんだ」
 
「切ったわよ。悪い?」
 
「・・・・・・・・・・」
 
 
「え?なんで黙るのよ・・・・聞いてきたくせに・・・・」
「うわ。こいつ泣いてる・・・あ、しまった。黙っとくんだったわ」
 
 
しばらくさめざめと泣いているので、ほっとく。自分でもなんで泣いているのか分からないパターンだろう。ただ、泣いているのに心の片隅で滅茶苦茶怒ってもいるので、うかつに触らない。しばらく放置するのが一番いい。人格破綻者同士の距離感で。
 
 
「・・・・・・あ」
 
短くなった後ろ髪を触れさせていた。ラングレーには異論があるみたいだが、黙殺。
まあ、別れの挨拶みたいなものだ。ちょっと毛繕いさせてやりました、的な。
 
 
「シンジ、アンタの初号機は」
 
「上にいるよ。座標軸てきに、真上。それならすぐに合流できるから」
 
 
「ふーん、そう・・・・」
 
・・・・姿が見当たらないから置いてきたのかと思っていた。それで「愛機をおいてけぼりにするとかそれでもパイロットか!」とマウントをとろうと考えていたのに。
妙なところで抜け目がない・・・こっちの結論はかわんないけど。
 
 
「とにかく、シンジ。あなた、帰りなさい。ミサトたちも心配してるでしょ」
「帰らない。アスカたちを引き留めないと」
 
「帰れ!!」
ふりむきざまに右フック。顔面にモロに入った。「野蛮か!?」ラングレーがドン引いていたが、これくらいせねばこいつは言うことを聞かない。いい手応えだった。
遙か遠くまでゴロゴロ転がりながら吹っ飛んでいった。縁切りには丁度いい。
 
「初号機でさっさと帰れ!!バカシンジ!!」
 
 
怒鳴ったら、自分の左腕で殴られた。手加減無し。「ちょっと待ちなさいよ!ここでアイツがいなくなったら、どーなるか分かって言ってんの?」自分の口で異論なのだから面倒くさい。分かってやったに決まっている。「あのバカの情けにすがって生き延びるくらいなら死んだ方がマシよ!!というかもう死んでるんじゃないの!これであのバカまで死なせるわけにはいかないの!!来てくれただけでもう十分!!これ以上は望めない!!」
 
 
反論がくるかと思ったけれど・・・ため息ひとつ。「はー、それもそうか・・・言うとおり!!」自分で鳩尾に手加減なしとか・・・・ラングレーめ・・・・さすがの戦闘人格・・・・・「悲劇のヒロインぶるんじゃないわよ・・・・嬉しいんだかなんだか頭湧いてしまいやがって・・・ここでバラけるより、まとまってた方が救出確率は高くなる・・・こんな基本・・・ギルの恥さらしてんじゃないわよ・・・・げぷっ」体が同じであるから苦痛も苦労も同じ。・・・・しばらく気絶してろ。「”死んだ”ならドライもいなきゃおかしいでしょ・・・これは死とは別の状態と考えるべき・・・そこを無理矢理引き留めてるなら・・・本物の怪物だけどね・・・」
 
 
「まー、こっからどうやって助かるのか、そりゃわからないけど・・・簡単に諦めていいほど、安い生活ではないんじゃないの?ドライもいるし、ちょっと待ってみてもいいんじゃないの?ま、あれで愛想尽かされたら終わりなワケだけど」
 
 
「終わらないよ」
遙か遠くまで行った割には戻りが早い。碇シンジが立っていた。少し涙目だったが。
 
 
「アスカには色々と命の借りがあるんだから。これくらいは・・・しっかし凄いパンチ・・・世界獲れるよね・・・」
 
「騎士気取りなら、もう少し見栄張りなさいよね。僕が必ず、外の世界に救い出してあげるよ!!とか・・・・・とと、もうこんな状況だからいつぞやの返事をするわ。和解してあげるから、まともな情報交換といきましょ、碇シンジ」
 
 
「騎士・・・・?僕はアスカの騎士!!必ず救い出してみせるよ!!・・・こんなの?」
 
 
「いや、アスカに言いなさいよ、そーゆーの。今、アタマ冷却中だから。精神的に」
 
「具体的には、父さんとかミサトさんたちがなんとかしてくれると思うから、気長に待つとしようよ。とりあえず、諦めないのが僕らの任務」
 
 
「まあ、アンタも知能的にはただの兵隊以下だもんね・・・移動速度だけがケタ違いな神速小僧ってだけで。でも、ダイレクトにアスカにそういうこと言わないでね。どうも飲み食いはしなくていいみたいな感じだけど・・・精神がもたないわ」
 
 
などと言いながら三ヶ月ほど経つと、ラングレーの神経がもたなくなってきた。
 
 
「終わりよ・・・・世界は終わるのよ・・・もう、終わったのよ本当は・・・」
こうなると、アスカが励ます側にまわる。「終わってないから!まだ続いてるから!」
「そうだよ。三人で乗り越えていこう。三人寄れば文殊菩薩のご加護あり」
ひとり冷凍キャンプ生活の経験がある碇シンジはまだ平然としている。
 
 
 
「でも、髪が伸びたねアスカ」
 
生理現象系の欲求はないものの、不思議なことにこの小さな世界でそれだけが変化していた。そこに吉兆を見いだすのは、ショート派でもロング派でもたぶん、同じであった。