その時。
船員に、船長も皆、半魚人になっていた。魚眼でこちらを見ている。
惣流アスカは気づいてしまった。
エヴァへの恐怖だと思っていたものの本性が。
怪物への恐怖ならまだ良かった。匿名の中に、皆と一緒に恐れていられる。
だが、しかし・・・・・。
「惣流さん?」
後ろから、気をつかって、柔らかい布でくるんだような声で肩を叩かれる。とん・・とん惣流アスカが驚いて、跳ねるようにして振り返る。気配にも気づかなかった。
油断してるトコ、見られた!?
怒りと羞恥がないまぜになった、声をかけた女の子には意外な表情だった。
惣流さんはこんな顔もするんだ・・・そばかすでおさげの女の子は思った。
演技がうまいかんじだったけど、すごく、下手。
「なな、なに・・・・・えー、あなた誰だったかしら」
あたふた、と表現するしかないような惣流アスカ。もはやスキだらけである。
しかし、反射的に怒鳴りつけたりしなかったのは、かけられた声が優しかったせいだ。
それから、この女の子のもつ雰囲気。中学生で家庭的というのもなんだが、それが無理なくはまっている。トゲトゲした気分も、まち針を休めるはりさしのように収めてしまうような感じだ。
「同じクラスの委員長、洞木ヒカリです」
「アタシは惣流・アスカ・ラングレー・・・・だけど、どうしたのこんな所に」
「あなたを探しにきたのよ。さ、戻りましょ」
手を差し出してくる。惣流アスカにはいまいち意味が分からない。
「なんで?」
「もう授業始まってるから」
いつの間にか昼休みは終わっていたらしい。鐘も聞こえていなかった。
「せっかく探しに来てくれたのに悪いけど、いいわ」
「いいって・・」
「午後の授業には出ないわ。退屈だもん」
日本の学校では、一人いないくらいでわざわざ委員長に探させるのかしら。
そこまでは知らなかったわね。授業に出ようが出まいが、本人の勝手じゃないの。
やる気のでない授業なんて受けたって身につくわけもないんだしさ。時間の無駄。
「さぼるのは良くないと思うわ。惣流さん。初日なのに・・・」
これは、いくら話しても平行線ね。真面目なのはいいんだけど・・・・。
「いいの。アタシは大学出てるし、明日からは来ないわ」
こんな気分のままに長く話すのは煩わしかった。彼女のせいではないんだけど。
これで打ち止めにしたかった。我ながら、ヤな言い方。
「・・・・渚くんとなにかあったの・・」
ぐっ・・。打ち止めにする気なのに、モロに顔に出てしまった。
「なっ、なにもないわよ」
「そう」
固い調子でそう言うと、委員長洞木ヒカリは背を向けて歩き出す。
ただ教室に戻るのでないのは、その目を見れば分かる。意志がある。
気を抜かれたように、残される惣流アスカ。しかし、気を取り直すと慌てて追いかけ始める。ちょっとあの子、何する気よ!ほっといてくれればいいのに。
「洞木さん、待って!」
階段の踊り場でつかまった。
「ほんとに渚とは、なんでもないんだから!」
「そう」
って、まるきり信じてないでしょ。意志の籠もった目の光はそのままだ。
やさしいだけのお節介焼きさんかと思えば・・・この頑固さはなんか怖い。
「でも・・・」
「でも?」
「本当にそうなら、初めから学校には来ないはずでしょう」
う・・・。云われてみればそうかも。中学校に通うこと自体はどうでも良かった。
ネルフの中は治外法権。別に日本の義務教育に拘る必要はない。まあ、行かなければ行かないで構わない、ここの大学に通うという手もある。
そう言えば、フィフスの奴は博士号まで持ってるくせに、あんなバカ男とつるんで面白いのかしら。サンマがどうのこうの云ってたけど、まさか弁当食べるのが目的、なんてことはないわよね・・・・。
それに、ファーストも、・・・サードも・・・退院すればこの学校に通う。
このなんの変哲もない、校舎の色そのものの学校に。
エヴァのパイロットがなんだってこんなトコロに通うのかしら。
そんなことをこの子に云ってみてもしょうがない。
嫌みのつもりはないが、厳然として住む世界が違うのだ。
でも、自分でもよく分からないことをこの子が知ってるはずもないしなあ。
「外国のことは・・・よく分からないけど・・・」
話は聞くけど、たぶん、それ、違うよ、あなた、アタシのこと知らないじゃない・・・
「飛び級っていうんでしょ、そういうの。ホント、凄いと思う。同い年なのに」
この次は、だけど、って続くのよ。たぶん。でも、飛び級っていうんじゃないの。
ギルなのよ。
「だけど」
ほらね・・・・当たっちゃった。
「授業とか、私達の話すこととか、惣流さんには合ってなくてつまらないのかもしれない・・・でも、こんな平凡な学校でも、大学が絶対にかなわない点がひとつだけあるわ」
?そんなのがあるの。そんなものはないはず・・・施設も設備も何一つ
「同じ年の人たちがたくさんいるわ」
そんなの・・・・アタリマエじゃないの・・・・アタリ前田のクラッカーだわ・・・・
「良くも悪くも・・・・ひとりにならないから」
少し考えたように洞木ヒカリはこう言った。毎日が楽しく充実した夢の教育現場、というわけでもないのだ。毎日毎日私達は鉄板の、じゃない、気に入らないことを上げていけばキリがない。真面目な委員長ともなればその数は一般生徒のおよそ2倍。
惣流アスカが、かったるくて行きたくないわ、と云うのも分からなくはない。
自分だって学校なんか行きたくない日もあるのだ。
だけど、洞木ヒカリの目には、惣流アスカがクラスに馴染んで楽しそうに映った。
それじゃあ、「行かない」っていうのは、もったいないじゃない、と思うのだ。
もったいない。
なんか発想が主婦だが、洞木ヒカリの嘘偽りのない本音である。
おそらく、ひょいっと面に出してみても誰しも安心するような形をしているに違いない。アタシはフライパンから弾かれたウインナーじゃないのよ!、とは惣流アスカも云わないだろう。本音の匂いは夕飯をつくるときの匂い。そんな風に思えたから、惣流アスカは何も言い返さなかった。
うーん。本当に住む世界が違うわねー。快いが衝撃であった。
惣流アスカがドイツで存在していた世界は、清澄で透徹しているが味気ないものだった。その味気なさも、他に味わうものもなければ感じることはない。
清澄と透徹で完結している世界にいることで満足していた。目で見える調和こそ快い。
それが、この洞木ヒカリという子の話すことには、まさに一杯食わされた。
うまい。
もちろん、この子の話に納得したわけでも、加持さん達の云う同年代の友人が欲しくなったわけでもない。探しにきてくれたことに感謝するでも、意外なお節介焼きの面に感心するでもない。
素直にそう思えるほど惣流アスカはまっとうな性格の少女ではなかった。
ただ、洞木ヒカリは気に入った。
良くも悪くも・・・・・ひとりにならない、か。
よーするに暇つぶしに来いってことね。惣流アスカは照れでもシャレでもなく、本気でそう理解した。勉学も友人も、アウト・オブ・眼中。
「だから、渚くんとのことが原因なら、私、話してみます」
余計なお世話だと罵られたり、世話焼きだとからかわれることを百も承知のその声。
「ほんとにそのことは関係ないのよ、ヒカリ」
「え」
いきなり冬月、と呼び捨てにされたどこかの副司令のような顔・・・ではなかった。
「味方してくれてありがとう。その代わりといっちゃあなんだけど、明日も明後日も、その次も土曜と日曜以外は学校に来るわ。ヒカリに会いにね」
「え、ええーっ!それってもしかして・・」
外国の方ってもしかして・・・・・容赦なく偏見に侵されている連想をする洞木ヒカリ。
これもなにか主婦系の発想だ。もちろんその練達において本職には及ぶべきもないが。
呼び捨てにされたことも一瞬にして棚上げされている。
「きっ、気持ちは嬉しいんだけど・・・・私達、女同士だし・・」
「はあ?」
「それに、私、好きな人が・・・・」
「って、ちょっと待ってよ!!どーしてそういうことになるわけ」
「で、でも学校に来てくれるのは嬉しいし、友達からなら・・・・」
「もー友達でしょ、アタシたち。そっから何処に行きたいの、ヒカリは」
友達だから、そう呼んだのか。もー友達なのか。素早いわね、アスカは。
偏見連想から覚めれば、洞木ヒカリはとても安定している。
「そろそろ、教室に戻らないとね。アスカ」
旧東京。
第28放置区域。
セカンドインパクト時の荒廃そのままに、復興の兆しすらなく打ち捨てられた場所。
今日は、その一郭に、ある業界の人間達が集まっていた。あるイベントのために。
ドーム状の建物の中、そのイベントは華やかに開催された。
あるテーブルをのぞいては。
「祝 JA完成披露記念会」
そのイベントの名は紅白の垂れ幕に、そうある。
JAとは、民間企業体が造り上げた、使徒迎撃用ロボットのことである。
ここに集まっている人間も、もちろんそれに関する、使徒迎撃業界の者たちである。
その、独占に近い圧倒的シェアを誇るのが国連直属の特務機関ネルフも出席していた。
華やかな雰囲気の中、異様にしらけたテーブルの二名。
葛城ミサト一尉と赤木リツコ博士であった。
壇上では、JA開発の責任者とかいう人物が何やら喋っているが、葛城ミサトは聞いていなかった。テーブル中央に置かれたビールをつまらなそうに見るだけだ。
「ふん・・・戦自も来てやんの」
完成披露されているロボットを徴発に来た葛城一尉だが、さすがに披露会を中止させてまで取り上げてしまうような真似は出来なかった。さっきから睨み付けている戦自の連中を初めとするイロイロな方々がネルフを嫌っているのだ。せめて披露会が終わるまで待たねばならぬ。退屈だわ・・・・・。
相方の赤木博士は、それなりに真面目に説明を聞いていた。と、いうより取り上げた後、どのような改造を加えるべきか、プランを練っていたのだ。
「・・・・というわけでして、我々の開発したJAはまさに最強のロボットといえるのであります・・・」
「さっきからやけに最強、最強って云ってるわねえ。どっかの軍隊じゃあるまいし」
「その部分だけは、指示があるみたいね。わずかに照れがあるわ」
説明と言うより演説に近い、開発責任者、時田氏の話は終わった。
「何か、質問はございませんか」
「はい」
赤木博士が立ち上がった。
「これはこれは。高名な赤木ナオコ博士のご息女の赤木リツコ博士」
ギリギリとマイクを握りしめるが表情にはださない赤木博士。
「リアクターを内蔵と説明をされていましたが、格闘戦を前提とする兵器に安全性の面でリスクが大きすぎると思われますが」
質問という柔らかいものではなく、舌鋒であった。向こうもそのリスクは百も承知で造ったのであろうし、はいそうですかと取り外すわけもないからだ。
この設計思想の欠陥。一番いやなトコロを突いてやったわけだった。
まず、スカなのは機械でも技術でもなく、あなたの頭よ・・・・・・。
しかし時田氏は平然としている。さすがに赤木博士にケンカを売るだけのことはある。
「それでも、五分も動かない決戦兵器よりはマシだと思いますが。兵器と銘打つには、それだけのリスクは覚悟の上ですよ」
「・・それでは遠隔操作と言う点についておたずねします。人型兵器である以上、その用兵は戦車や航空機などとは一線を画してします。敵性体についても同じことがいえます。それで実戦レベルで操縦者の反応判断に依らない遠隔操作で対応できるのか、どうか。
大いに疑問です」
学会の質疑応答じゃないんだから、そんなマイクに爪立てなくてもいいじゃない。
「やめなさいよ、大人げない」
葛城ミサトは待ち時間が伸びるのがイヤで止めておいた。あまり気のない。
「それは、そちらのリスクということですな。人命尊重、という観点からみた。
それとも、人類の為ならネルフのパイロットは喜んで死ぬということですかね」
びきん。頭の中でなにかが断ち割れた音がした。
「それに、操縦と言われるが、数回の戦闘で操縦者の判断技量によって勝利を収めたものはあるんですかな。風の噂によれば、なんでも・・・暴走した上でのまぐれ勝ちだとか」会場のあちこちで笑いが起こる。
「まぐれで三度は勝てませんわ。それに、なんと云われようとあの敵性体を倒せるのは、ネルフの主力兵器以外にはありません」
いつの間にか攻守が逆転している。だが、構いもせず断言する赤木博士。
時田氏にはまだ余裕があるのだった。
「ATフィールド・・・ですか?」
「!」
これには、赤木博士も葛城一尉も、それに何故か戦自関係者も顔色を変える。
「それも当然、JAに装備されていますよ。紛らわしいので、名称は変えてありますが」
「スペックにそんなものは・・・」
「これは企業秘密というやつでして。私達が民間企業であるという性質上、ご理解頂きたいですね」
赤木博士は、眉をひそめて相手の云うことがハッタリなのかどうか見極めようとした。
が、科学者である赤木博士にはそんな芸当は無理なのであった。
しかし、それが本当だとしたら・・・・・・。
「それも、この後の起動テストで見せてくださるんでしょうね」
葛城一尉の方が反応が早かった。喉元に刃物突きつけるような鋭さだった。
「残念ながら、それは無理です。・・・お見せしたいのは山々なのですが」
時田氏はほんとうに悲しそうに云った。ただ、残念そうに、ではなかった。
はっきりした声にはならないが、会場にも不満の空気が流れる。
不満で済まないのが、ネルフと戦自だった。
「それはどういうことですか。いくら民間企業といえど・・・・」
「そういうことではありません。単純なことなのです。JAが二体あれば模擬戦でも行ってその真価をお見せできますが、ここに都合良く敵性体が現れるというのでなければ、フィールドは発生出来ないのです。そのようにプログラムされているのです」
「徴発に行ったというのに、君が挑発されてどうするんだね。葛城一尉」
冬月副司令でなければ、洒落になってしまう。
元々面白くないし、相手が上役なので笑わなかった葛城ミサト。
「しかし、ATフィールドが発生出来るとなると、話は別です。私では判断しかねます」徴発するのだから、発生しようがしまいが同じじゃないか。同じではない。
今後の展開に大きな差異が出てくる、ここは分岐の分かれ道。上司に伺いを立てるべきだ。ほんとのほんとに民間企業がATフィールドの原理を解き明かして、なおかつ発生させる装置を造りだした、というならJAなんぞほったらかしても、そちらの方を取り上げてしまうべきなのである。一作戦部長のよく判断するべき領域ではない。
だが、上役の副司令冬月コウゾウにもそんな真贋が確かでない話に判断つけてしまうような事は出来ない。
「・・・あちらが直にエヴァを見たいということがあるのだろうな」
しかし、ここには政治家や戦自もいるのだ。それだけに下手なヨタ話は言えないはず。
葛城ミサトも赤木博士と同様、時田という男の本心が分からない。
「しかし、零号機の動けぬ今、弐号機を使うというのは」
碇司令はまた出張。留守を預かる身にしてみればそう簡単に頷けまい。
しかし、単なる土木用ロボとしか見ていないJAの戦闘データが収集できる機会。
もしかしたら使えるのか・・・・となれば今後の展開も多少楽になる。
リアクター内蔵という強気もそれがあったなればこそか。
うーむ・・・・・・冬月副司令の頭の中でエヴァの空輸時間との計算が行われる。
一応の判断はつけておいて、マギに尋ねる。
条件付き賛成・・・・・・・・3。
なんだそれは。私と同じじゃないか、ナオコ君。
「よし、弐号機を出戦させる」
「副司令の許可、出たわ」
「碇司令だったら、出さないでしょうね」
控え室にて。
JAとエヴァンゲリオン弐号機との模擬戦が決まったことで、そこは作戦室にもなっていた。オペレータと司令と副司令抜いてのいつものメンバーだ。かなり足りないがその点は気合いでカバーする。あとから輸送機で日向マコトもやってくるのだ。
「なんだか変な初陣になってしまったわね、アスカも」
「アスカなら大丈夫よ。・・・こーんなもん、戦闘の内にはいんないわっ。手慣らしよ、とか云うわ。なんったってギルのセカンドチルドレンよ。楽勝ね」
「シンクロ率が向こうの時ほど出ていないのが心配だけど・・・」
「環境がこんだけ変われば無理もないわよ。それでもレイよりいいくらいじゃない」
冷静な赤木博士と気を上げる葛城一尉。いいコンビと言える。
「ま、ATフィールド発生の真偽だけ確かめられればいいんだし、向こうも人命尊重をうたうだけあって殺し合いにはならないでしょ」
仁義なき使徒との戦闘と違い、多少気は楽だ。敵が、人間でも。
「なによ、それえ!」
今回の任務を聞いたときの惣流アスカの第一声。
「使徒じゃなくて、どこかの企業の造ったロボットが相手?」
ジョーダンじゃないわよ。なんで記念すべき弐号機とアタシの初陣でそんなのとやり合わなくちゃいけないわけ。やられた。旧東京まで空輸なんて何かあると思ったのよ。
かといって今更イヤだと云っても仕方がない。もう旧東京上空、目的地まであとわずか。駄々をこねても、いや、こねたらアタシの弐号機はアイツが動かすことになる。
フィフス・チルドレン、渚カヲル。
頭にくるけど、フィフスは専用機以外のエヴァも操れるっていうし。
ニタニタ笑ってたのは、これを知ってたからかも。
まあ、いいわ。初陣の前の実戦練習だと思えば。5秒も持たないと思うけど。
心の棚に厄介ごとを持ち上げるのが、人並み外れて早い惣流アスカは気分を切り替えた。「しょーがないわね。・・・でも、こーんなのは戦闘の内にはいんないわっ。手慣らしよ」通話の相手が予想した通りのセリフを云ってしまう。
「それもそうねー。こっちが勝つのはお日様が東から昇るよっか確かなことなんだし。
要は、相手の性能が見たいだけだから」
「なんなら、ハンデつけてもいいわよ、ハンデ」
それにしても、その民間企業の造ったロボットってのも運がないわね。
よりによってこの惣流・アスカ・ラングレーと弐号機の絶対無敵コンビに出てこられるなんてね。他のが出てくりゃ、面白くて緊迫した勝負になったかもしんないけどさ。
「ま、あんまやりすぎないでね。なんせ相手はリアクター積んでんだから」
「大丈夫よ。アタシと弐号機はなにがあったって、ATフィールドが守ってくれるわ」
「その場にゃあ、あたしたちもいるんですけど」
「じゃあ、防御服でも着てりゃあいいじゃん」
こりゃだめだわ。赤木博士、なにか伝えることは。代わったらしい。
「アスカ」
クールなのに金髪の赤木博士だ。本性陰性な人間ってどうもアタシ、苦手なのよね。
「油断しないで。油断は大山椒魚も殺すわ」
「は、はあ」
今になって特に注意されることもないだろうけど、油断ねえ・・・・。
「アンビリカル・ケーブルは当然用意出来ないから、内蔵電源と電池で動かすしかないわ。稼働時間は5分程度。それを忘れないでね」
「5分もいらないわ。3分、一ラウンドでケリをつけるわ」
油断するなと言われた手前、まさか30秒で沈めてやるとはいえない。
「ATフィールドの発生さえ確かめられれば、何秒でも構わないけど、あまり壊さないでね。後で使うから」
「デマカセだと思うけどね、そんなの。エヴァ以外にATフィールドなんて使えるわけないじゃん」
「それを確かめるためによ。・・・日が暮れる前にはネルフに戻りたいわね」
油断するな、と云いつつ、すでに冬月状態にある赤木博士であった。
放置区域にて向かい合うエヴァンゲリオン弐号機とJA。
なにせ民家も重要施設もないから、どれだけ暴れようと被害の出る心配はない。
もちろん、会場とJA指令室は別だが。
「ぶっさいくなロボットねえ。ブリキのおもちゃでも、もー少しかっこいいわよ」
正直すぎる感想を述べる惣流アスカ。これがJA指令室に聞こえていればどうなるか。
・・・実は彼らもデザインに関してはちょっと悔いていたりする。
このデザインを愛するのは、開発責任者の時田氏くらいのものだった。
JA・・・全体的の雰囲気は、箱人間とでもいおうか。すっぽり人間的部分は隠されている。機能美というやつも・・・相手が謎の存在である使徒だけに、唸ってしまう。
四肢は長いが扁平である。あまり器用そうではない手の指がぶらんぶらんと歌っている。赤と白のカラーリングもかなりださい。
しかし、それだけに中身には自信アリ。
エヴァンゲリオンなど目じゃないぜ。そう思ってのことか、JAには目玉がない。
「まさか模擬戦に応じていただけるとは思いませんでしたな。おかげで完成披露記念会は大成功です」
見せ物として見るならば、これほどスケールのでかいものもなかろう。
客が沸くのも当然か。もちろん、それだけを見るのではない人間も大勢いる。
戦自の人間など、特に忙しそうだ。
「有意義な会に招待してくださったお礼ですわ。それに互いの研鑽の意味もあります」
腹の中とは正反対のことを云う赤木博士。既にして勝者の余裕というやつだ。
「さすがに国連直属の非公開組織は懐が深い。行動の速さも、我々が見習うほどですし」はっはっは、と笑っている時田氏。
「しかし、手加減抜きでいかせてもらいますよ。どちらが勝っても恨みっこなし、ということで」
「お目出度い席ですけど、遠慮はこちらも一切、しません」
披露記念でいきなし負けて、その後徴発されちゃうのよ。そう思えば可哀想な話ね。
しかし、しゃべり方が気にくわないので同情はしない葛城一尉であった。
「では、始めましょうか」
時田氏の合図で鳴るサイレン。それが模擬戦の開始を告げる。
「うおりゃああああああああああああーーー」
トッこんでいく弐号機。いかにも鈍重そうに一撃をまっているJA。
「いきなりATフィールドーっ!」
フィールド張り込んでの突進体当たり。向こうは避けるなり、フィールドを張るなりしなければこれで終わる。自分のやるべきことはきちんと弁えている。
これが一番真偽の判定が分かりやすく、なおかつ損傷が少なそうなやり方だ。
「これで、終ーわりっと」
突進していく弐号機にJAは突っ立ったまま。
指令室のモニターには今にも吹っ飛ばされそうなJAの姿。その形状からいって、どう見ても弐号機より機敏に動けそうもないJAはどうするのか。
「JTフィールド発生装置、起動開始」