鋼鉄のガールフレンド事件アンコール
 
 
<いきなりの補足>
本文は、七つ目玉の十四話「第三新東京市立地球防衛オーケストラバンド」のおまけ「鋼鉄のガールフレンド事件」のそのまたおまけである「鋼鉄のガールフレンド事件コーラス」のおまけ・・・というともはやなにがなんだか分からないので「ふろく」ということにしておく。とにかく、いきなりこれを読んでもおそらくワケが分からないので、まずは先の三つを読んでおくことをおすすめする。
当初は「事件」に「コーラス」を内蔵させて「完全版」みたいにしてアンコールでーす!みたいな形にしようかと思いましたが、いかにもたこにもであっても「あんこう成分」が足りないので変更しました。アンコールの声に呼ばれて飛び出すのは、それにふさわしいものであるべきだと思いますので。じゃじゃじゃじゃーーーん♪
 

 
 
 
君を知ったその日から
 
僕の地獄に音楽は絶えない
 
 
もしくは、祭りはまだ終わらない。一万年と二千年前から続いていたわけでもないけど。
 
 
 
なんとか無事に地球防衛バンドのバンド演奏の演目が終わり、後夜祭まで自由時間となったメンバーたち。後夜祭での演奏は完全に裏方の盛り上げ役であるから、もう気を張るようなことはない、ほっと一息つける時間。これが二十歳、いや二十三十を越えてくるとほんとに一息つかないと体もたないので、とても遊び回る体力などないのだが、そこは十代。
メンバーは各自ばらけて、それぞれの祭りを楽しもうとしている・・・・ただステージでのテンションが持続しているだけなのかもしれないが。
 
 
とはいえ
 
 
純正に童心になって祭りを楽しもうかな、というのは相田ケンスケと山岸マユミくらいなもので、あとは・・・バンドマスターたる鈴原トウジと洞木ヒカリは協力してくれたところへの挨拶まわり、渚カヲルはファンの女の子たちに強制拉致されてあちこち強制的に連行されており童心どころではない、碇シンジは特別任務で学校をすでに抜けており、寝ようか連れを探そうか迷ってマゴマゴしている惣流アスカもクラスのえば焼き販売に引き入れられる直前でもう一丁ワンスモア楽しませる側にまわりそうになっているところからすると
 
 
綾波レイくらいなものであろうか
 
 
とはいえ
 
 
いくら演奏の熱が多少残っていようと、本質的に人混みをあまり好むわけでもなく、屋台をひやかして歩くような好奇のもちあわせもない。後夜祭の予定がなければもう帰宅していたかもしれない。もともと体力に秀でるわけでもない。「疲れた疲れたあーもうチョー疲れたっての!」などと口に出すことはないが、スタミナの目減りは明らか。適当に栄養を補給してなるたけ人の思念の少ない場所で静かに座っていたいのだが・・・あいにくと今日は文化祭であり、どこもかしこも人が多い。普通考えると自陣地である自分のクラスで休むのがよさそうだが、そこが今も激しい戦闘中であり、行けば休息するどころかさらなる戦闘に加わらねばならぬことを、綾波レイは敏感に感じ取っていたから、そこは外す。
 
 
ひとのいないところ
ひとのいないところ
やすめそうなところ
 
 
国境をこえろ 自由をもとめて
あらそいもにくしみもない 聖地アルカディア・・・・はおおげさか
 
 
そこへゆけば どんなゆめもかなうというよ
ひとはみな ゆきたがるが はるかなせかい
その国の名はガンダーラ・・・・・・どこかにあるユートピア
どうしたら ゆけるのだろう おしえてほしい
 
 
「主語は誰・・・」 
 
 
普段では人気のない特別教室の類も、今日だけは人で溢れている。そして、歩いていると「あの子、ピアノの子じゃないのか」「ああ、そうだそうだ。あのウルトラの・・・」この学校の生徒ならいまさらこの風貌に注目することもなかろうが、さきほどまでバンド演奏の観客であった者、とくに保護者層からの注目が・・・・熱い。ちと頬が赤くなる。
自分の演奏でおじさんたちの昔の記憶を励起させてしまったのか、吹きつける「あの頃を語りてえ!!」オーラがちと暑すぎる。さすがに常識ある大人の対応というか、いきなり馴れ馴れしく話しかけてはきたりしないが。まあ、なるべく早くその視界(ウルトラスクリーン)から消えるにこしたことはない。
 
 

 
 
それから少し歩くと、それでも人気のない、つまり「人気」と書いて「ひとけ」と読むも「にんき」と読むのもご自由に的な空間にたどり着いた。人気のある演目模擬店もあればないところも当然ある。どの店イベントも均等に人が入る、ということはさすがに中学の文化祭だろうとそううまくいかない。
 
 
2年X組「昭和年代の駄菓子屋的文化模擬店」
 
 
これなどもそうである。廊下の隅のクラスがかなり頑張って再現したであろうもはや映像の中にしか存在しそうにない昭和年代の駄菓子屋をイメージした外装は客のない寂れた感じもパーフェクツに再現されており、そこだけ異空間のようにずいぶんと静かだった。
 
 
この狙いはどうなのだろうか・・・・外から見ても手が込んでいるのは分かる。資料をもとに相当に作り込んだのはあるまいか・・・錆のはいったドリンク飲料の金属看板などどこから手に入れたのやら・・・担任の趣味だったとか・・・・中学生の企画にしてはちょっとひねりすぎた嫌いがある。結果、このように思い切りオオゴケして首の骨折りましてもう二度と立ち上がれません再起不能、みたいな有様をさらしている。
せめて生徒が呼び込みくらいすれば、どうだろうかと思わないでもなかったが、この静かさと寂れ具合は綾波レイにとっては有り難かった。もはや完全に諦めているのだろうか・・・いやさつっこみなどありえない。この静寂は貴重。ここは無念無想、無念無想。
 
 
そして入店。
 
 
しかし・・・・
 
 
さすがの綾波レイもこの判断はまずかった。やはり疲労のせいで注意力が落ちていたのであろう。すいすいと店に入ってしまう前に、もう少し考えてみるべき、そして気付くべきだったのだ。
 
 
二年X組なんかこの学校にあるわけないだろ!
 
 
と。
 
 
そのせいで、過去に越えてきたはずの激闘を、もう一度戦うことになる。