鋼鉄のガールフレンド事件アンコール
 
 
<いきなりの補足>
本文は、七つ目玉の十四話「第三新東京市立地球防衛オーケストラバンド」のおまけ「鋼鉄のガールフレンド事件」のそのまたおまけである「鋼鉄のガールフレンド事件コーラス」のおまけ・・・というともはやなにがなんだか分からないので「ふろく」ということにしておく。とにかく、いきなりこれを読んでもおそらくワケが分からないので、まずは先の三つを読んでおくことをおすすめする。
 
 

 
 
だいたい勝負事というのはやってみないと分からない、といいつつ、その場に来るまでにだいたい片がついているものである。ボロは着てても心は錦、その時季節折々の幸不幸の衣に包まれていても、鯨の竜田揚げがフライドチキンになることはなく、捕れないボールがあるものか構えたミットで受け止める嗚呼、青春のストライク、ズバーンといかした綾波レイも現時点のこの勝負のつき加減の察しはついている。
 
 
かなりがんばっても、この勝負はまずい。不利すぎる。向こうは使い慣れ勝負に勝つためにある者は鍛えある者は細工した愛用の戦士をもってきている。それに比べてこちらは自慢の一品どころか手元不如意にして不意打ちくらったようにして代用品で土俵にあがらねばならないハメになっている。高飛車の自慢キャラでもこの状況下でハッタリなどかましようがないであろう。
 
 
ここにそろった12人の猛者(それぞれの地区の代表らしい。区分の意味は未だ不明)連中の眼をさぐってみるとどうも、”力士を持ってくるのを忘れたうっかり者は現地調達でそれを使用すべし”というどこのローカルルールかとんとん相撲協会の規約でもあるのかは分からないが、ごく自然にそう考えているらしい。大事な手駒を忘れてくるような愚か者はそれほどのハンデをぶちくらうべきだ、と。まあ、優勝賞品が豪華ならそういうことにもなるだろう。
 
 
「どれでもいいから、好きな武器(エモノ)を選べ」と雰囲気的には勇ましく言われているような感じではあるが。素人同士の対戦ならともかく、プロレベルの戦いで勝ったばかりの既製品でどこまでやれるか・・・よほどの腕の差があるならともかく。よほどの気合いの違いがあるならともかく。武器、技術、そして、精神力・・・・・勝負における三つの要素、このどれもが綾波レイはこの12人にかないそうもない。いや、使徒戦をくぐり抜けている綾波レイならば精神力はそうでもなかろう、という物言いがでるやもしれないがさにあらず。
 
その精神力こそが最大のネックなのである。なにせ・・・・・・・今の綾波レイは
 
 
とんとん相撲なんかやりたくない、と基本的に考えているのがもう致命的であった。
 
 
負けるに決まっている勝負は避ける。少なくとも日時を遅らせる。そうすべきであった。
 
が、
 
「私が勝てば、ここから出してもらえるのね」
 
ここにいる誰と戦おうと全敗必至であろう綾波レイはそんなことを言った。
 
「一勝だけじゃダメだねえ。当然だけど、取り組みすべてが終わるまで待ってもらうことになる。トーナメント方式じゃないからね。最後に、勝ち星のいちばん多い者が優勝する・・・て仕組みさ」
分かっていないふりをしているわけではない、ほんとに分かっていないのを知っているように噛んで含めるようにして説明はしてくれる。が、それでもここから出してはくれない老婆。鼻眼鏡を傾けながら「一番負けの多い者がどうなるか・・・・、聞くかい」魔女のように。棄権休場逃走上等のルールではないことは分かっていた。桜の木の下には死体が埋まっていたりするが、土俵に埋まっているものはなんなのか。
 
 
「いい。負けるつもりはないもの」
 
 
トーナメントでもリーグ戦でも、すべての戦いに勝った者が勝利者であるのは間違いない。
勝負事はそうしたシンプルなものであるべきで。ここに居並ぶ12の強者どもをすべてなぎ倒せばこの場所も終わる。叶えてもらうことなど何一つない、とにかくここから出してもらえれば。
 
 
「い、いや聞かせてくれ勧進元のばーさん!!願いを叶えてくれるっーつー物事のライト方向に導かれてここまできちまったが、そのダーク、敗北の暗黒に墜ちた時のことを考えてなかったぜ!!い、いや、もちろんオレが優勝するに決まってるんだが・・・そこのビリ確定の約一名がちょっと不憫、いや、負け越した場合にもなんかあるのかもとゆー推察をするためにだなー、とにかく教えろばーさん!」
 
 
この箱根代表に自分の力士さえあれば、それはこいつになってたんだろーなーという他の11人に見られているのは鳩屋ヨイフロウである。年配の者たちはそれに加えて、こいつに旅館を継がさない方がいいのではあるまいか的視線も。
綾波レイにしても、他の者たちから今、自分はこの彼と同レベル同格の存在に見られているんだろうなーと見当がついたので、なんとなく無宿というか無情な気分になった。
それに追い打ちをかけるように陰鬱な答えがかえってくる。
 
「力士をとられるだけのことさ・・・・・・この本にね」
 
 
ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっ
 
いささか不条理なルールなような気もするが、ベーゴマだのメンコだの子供の遊びではよくあることでそれがスリルを増しているともいえる。だが、中には小学生もいるとはいえ食玩などいい大人ならばその気になれば箱買いだって出来るだろうに。おおげさに声をあげたり冷や汗を流したりかろうじて面には出さなかったりと、反応はさまざまだがてめえの力士を全敗したらとられてしまう、と聞かされて12人の猛者どもは皆そろって恐怖を感じていた。綾波レイにはそれが分かる。自分の力士は持っていなくとも、正確に感じ取れる。そして、そのことに警戒を強める。敗れれば愛するものを奪われる・・・そのリスク。それは緊張を増すだろうが、それだけ強さと力を引き出すことでもある。
 
「く・・・」
 
それだけの心と情熱を注がれた物たちに・・・駄菓子屋でてきとーにみつくろった物で勝てるかどうか・・・・昔話にもある、供え物もなく高いところにほうっておかれた金の仏と毎日拝まれて米の飯を毎日たまにはぼた餅、供え物を毎日霊的にごっちゃんしていた粗末な木仏が相撲をしたら、欠かさぬ人の心がこもった木の仏が重たい金の仏に勝った、という・・・そんないい話的パワー、逆転勝利につながる伏線の回路を作動させる神さまがつい味方しちゃいました的エナジーも自分には今回ない。有利な条件が何一つない。ここまでくるともう笑うしかない。いきなり全勝してすぐにここを抜け出すつもりだったのに。
 
 
そして
 
 
「この店もなかなかの品揃えだが・・・・どうも、年代的にEVANGERLION SERIESはないようだな・・・キン肉マンやバイ菌軍団はあるのだが・・・もう、それでよくないか」
 
一応、自分を陥れるためではなく、それなりに一緒に本気で探したあげくに別府ドウゴらにそんなことを言われた日には。