鋼鉄のガールフレンド事件アンコール
 
 
 
<いきなりの補足>
本文は、七つ目玉の十四話「第三新東京市立地球防衛オーケストラバンド」のおまけ「鋼鉄のガールフレンド事件」のそのまたおまけである「鋼鉄のガールフレンド事件コーラス」のおまけ・・・というともはやなにがなんだか分からないので「ふろく」ということにしておく。とにかく、いきなりこれを読んでもおそらくワケが分からないので、まずは先の三つを読んでおくことをおすすめする。
 
 

 
 
 
飛べない鳥は凍りつく
 
 
熱い抱擁、とはいかずともいかにもたこにもな大ピンチを特級の力士とともに救援に駆けつけたのだ。それなりに安心安堵の感謝のまなざしというか同士の愛ある対応というか、・・・そんな騙し入れて岩窟牢獄に閉じこめ置き去りにした百年の敵をみるよーな目で見なくとも。あなただって嫌いな方じゃないんでしょーに。だから飛べない鳥は心で言い訳。
 
 
ぎろ
 
 
視線の温度はさらに低下。怪獣図鑑チックにいうと冷凍度がアップ、というやつだ。表面薄皮の霜つきではゆるさず内臓までガチガチにやられかねない無慈悲の瞳術。
何の説明もなくいきなりこんな謎イベントに強制参加させられた綾波レイはいい迷惑。ありがたい部分は何一つない。
 
 
だいたい、察しはついていたのだ。自分に対してこんなことを仕掛けてくるのは誰か。
使徒が仕掛ける代理戦争、にしても、あまりにも舞台装置が凝りすぎている。こちらが適当に選んだコマを安易に許可するあたりも・・・あまりにも人間的で。ちなみにそう評してみたものの、それを愛しくおもえるほど綾波レイもまだ人間出来ていないし老成してもいない。じたんだ踏んで悔しがることはないが・・・・・・面白くはなかった。
 
 
ペンペンであった。
 
作戦部長・葛城ミサトの飼い鳥。温泉ペンギンとかいう珍しい種類であり知能もそうとう高い。以前、この鳥が原因でとんとん相撲をやったことがあるが・・・別にそこで相棒宣言をした覚えもされた覚えもない。のだが、そのへんは鳥であるからペンギンであるから温泉であるから、どこか一般基準とは異なるのかもしれない。そこまで恩義を知らぬ奴だとは・・・いやさ、多少は感じているからこの(本人たちにとっては熱く非常に楽しいのかもしれないが)イベントに無断で組み入れてみたりしたのか・・・・
 
 
自分に覚えがない以上、とんとん相撲にかかわりがあるといえば、このペンギンしかおらず。鳥がそこまでやるのかよ、という常識の網にとらわれてさえいなければ容易に謎は解ける。こちらを露払いに使うつもりだったのか・・・・だとしても、事前に説明くらいは・・・・してもらっても断っただろうな・・・とにかく、申し込んだ本人当鳥がやってくればあとはバトンタッチして好きなようにやってもらえばいい。そのためには時間を稼いで到着を待つのが最良であったのだが・・・まあ、かくのごとしの状況になった。
自分は好戦的ではない、と好戦的な人間ではない、と思っていたのだが・・・
かえって惣流アスカなどの方が「バッカじゃないの」と一言でこういった無益な争いを回避していたかもしれない。
 
 
ともあれ
 
 
「そこのペンギンっっ!!」
 
さらに深い事情を追求しようかというところで必死な大声が割り込んできた。鉄ゴマやベーゴマならばともかく、いきなり土俵に投げ入れられた特級力士に倒された鳩屋ヨイフロウであった。確かに対戦相手である彼なら言いたいことがあるだろうなそれは、と思い追求の先を譲る綾波レイ。・・・まあ、「交代オーケーっってもいくらなんでもいまのはナシ!おまけに投げつけて倒すなんてのは反則すぎるだろ!!」このくらいのことは言い出すだろうなあ、と予想していたが
 
 
「その・・・幻の・・・・”えばんちょーモデル”はどこで入手したんだ!?レア度で言えば乙型もメじゃねえぜ!」
 
そういうことか。そういうことなのか。とんとん相撲の作法とか闘い方とかはいいんですか。まあ、本人がいいならいいけど。他の者たちからもそっち方面の物言いなどは皆無。
ひたすら突然現れた謎の巨大モデル・・・「えばんちょー」に見入っている独特の空気。
 
 
ペンペンをにらみつけるので忙しくて、土俵の様子を見てなかったが・・・・・
 
この・・エヴァ初号機をガッチリ蛮カラ風味に煮付けて大昔に学校に生息していた「番長」とかいう不良学生の元締めスタイルにからめた、ごつさ高めのこのモデル・・例外といわず幻、と呼称されているあたり一応、EVANGERLIONシリーズであるらしい。
少なくとも第三新東京市のコンビニであるならEVANGERLIONの食玩はふつうに買える。もしかすると玩具店や有名書店などでも売っているのかもしれないが・・・・好き者ぞろいのこの集まりで”幻”とまで言われたそのモデルをどうやって手に入れたのか
まさかペンギンに箱買いしてようやく見つける財力があるとも思えず・・・その程度でゲットできるなら他の連中の反応ももうちょっと鈍いだろう。なんなのだろう、ペンギンにその「”そんけーのまなざし”」は。上諏訪代表も転向してデレにはまだ早すぎる気が。つけあがるからやめてちょーだい!と保護者の葛城ミサトなら言うだろうか、いや、「いやー、ウチのペンペンにそんな特技が!?えへへ、やるもんねえ」などとさらに誉めあげるかもしれない。
 
 
「入手経路を教えてくれ!しかもオレだけに!!そうしたら今の取り組みで物言いはつけず素直にオレの負けを認めてもいい!!」
鳩屋ヨイフロウのその120%子供発言にうらやましそうな目を向けるのもどうなのだろう・・・恥ずかしさもなく堂々と皆の前で公言できるその神経がうらやましいのかも。
けどまあ、この明らかな反則負け行為にケチもつけずに黒星を自認してくれるというのは。
 
・・・自分は、好戦的ではない。好戦的な人間ではない・・・・
 
物足りない、なんて、綾波レイは考えない。そこへ
 
 
「・・・・・・・」
ペンペンが視線で”どうしようか”と問うてくる。この微妙な判断を、(自分を引き込んでくれた手際を考えると鳥ヘッドだろうと自前でやれないなどとはとても思えないが)委ねてきた。綾波レイは考える。それからアイコンタクトで、”郷に入りてはゴーサイン”。
 
 
ペンペンはそれを受け取りうなづいた。この微妙な機微を。見事な意思疎通ぶりだった。
まるで一心同体であるような。別府ドウゴや目敏い者はそのやり取りを見て納得したり。
 
 
くいっ
器用なヒレでペンギンカモンのポーズ。その意味は
”あんただけにおしえてやろう、ブツのルートを”。
 
 
「おお!!教えてくれるのか!よし、取引成立だ!!なになに、耳を貸せ?よしよし・・・・・・・・・・・・・・」腰をかがめてペンペンに近寄る鳩屋ヨイフロウ。
「ん・・・・上諏訪のチビジャリ、近寄るなよ。なに聞き耳たててんだよ。どこかの土曜日しか営業してねえバーにやってくる大学教授みたいな真似しやがって」
「なによなによなによ!!聞こえちゃうくらいいいじゃないの!いままでつまんない試合を見せられた迷惑料よ!!当然聞く権利があるわ!お、乙型を手に入れるのだってあんなに苦労したのに・・・”えばんちょー”なんて・・・嘘よ!きっとパチ・・・むぐっ!!」
 
 
この先に待ち受ける「陥穽」をも見抜き、若人がそれにハマろうと無視を決め込み今まですべてのやり取りをスルーしていた他の参加者たちも全員がなぜかそろって上諏訪代表の口を塞いだ。「あ、あぶねえ・・・・・・なに言おうとしてんだこのバカジャリは・・・・あ、悪かったなペンギンよ。さあ、教えてくれ・・・・幻の来た道を!!」
 
 
 
そして、ペンペンは契約通り、その秘密を、伝えた。
 
 
「くわー」
 
 
ただし、ペンギン語で。