鋼鉄のガールフレンド事件アンコール
 
 
 
<いきなりの補足>
本文は、七つ目玉の十四話「第三新東京市立地球防衛オーケストラバンド」のおまけ「鋼鉄のガールフレンド事件」のそのまたおまけである「鋼鉄のガールフレンド事件コーラス」のおまけ・・・というともはやなにがなんだか分からないので「ふろく」ということにしておく。とにかく、いきなりこれを読んでもおそらくワケが分からないので、まずは先の三つを読んでおくことをおすすめする。
 
 

 
 
願いは、かなったから「ここ」にいるのか。
 
 
校舎の外から壁面を見上げるようにして、自分は立っている。視線の先には大量の空き缶を吊して点描のようにしてつくられた浮世絵。いかにも文化祭らしいクラス展示。芸術性を重んじたためか、クラス名の記載がなくどこのクラスの制作なのかは分からない。
なかなかの力作であるのに、どうしてもスペースの関係か、あまり人の来ないこんなところに・・・人の流れが皆無というわけではないが、じっと立ち止まり見上げて見物している者は自分しかいない。人はそれを呑気だというだろうか・・・・・
 
 
先ほどまで、自分は、過去に乗り越えてきたはずの激闘を再び繰り広げてきた・・・・・
飛べない鳥を相棒に、レア度においてだけではなくその勝利のためのギミックにおいても他者の追随を許さぬあの力士を用いて・・・・・・勝ち抜いてきた・・・・その闘いは
 
 
綾波レイはここで目を瞑る。
 
 
奇妙な駄菓子屋を闘技場に、全国屈指の猛者どもを相手に繰り広げられたあの闘魂の宴を思い返している・・・・・・・
 
 
わけではなく
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・つかれた・・・
 
 
当初の予定では後夜祭の演奏に備えて体力の回復温存するはずだったのに、なんでこう疲弊しているのか。誰かに教えて欲しかった・・・けれど、そばには誰もいない。
 
 
「・・・・・・」
 
 
後夜祭の時間になれば、またバンドのメンバーと顔を合わせることになっているのだ。それは分かり切っていることなのだけど。なぜか。時計の針が早く進まないか、などと。
あれが白昼夢であったのかそれとも現実であったのか、考察すべき事はあるかもしれないが・・・・勝ったんだから、まあいいや・・・・・の、若さの十四歳、綾波レイである。
 
 
 
「ファースト?アンタなにしてんの、こんなとこで」
 
 
そこに同じく若さ弾ける声が。ふりむくと惣流アスカであった。「ま、ヒマならちょうどいいわ。ヒマよね?どう見てもそうにしか見えなかったケド、後夜祭に向けてコンセントレーションとかイニシエーションとかアンタならやりそうだけど、ちょっと話聞いて」
 
 
「・・・なに?」自分を探しに来たわけではなさそうだ。かといって使徒来襲などの緊急の用件でもあるまい。
 
 
「シンジの奴がまたどっか行ってんよあのバカ!!全く・・・ま、それはいいんだけど、校内をいろいろ見て回ってる時に気付いたんだけど・・・アンタは見てない・・・?・・・・ヘンな踊りを踊りながら歩いている連中・・・ここの生徒だけじゃなくて一般の客もいたけど・・なんか表情もウツロで・・踊りたくて踊ってるって感じじゃない、頭の中に無理矢理ダンスの音楽でも流されてるみたいな・・・体の調子というかリズムとバランスが思い切り狂わされてる・・・・いつぞやの”あの使徒”にやられたみたいな感じなのよ・・・」
 
 
「あの、使徒・・・」
と言われてもぴん、とこない綾波レイ。そんな使徒と戦った覚えはないのだけど・・・・・惣流アスカの言うことが確かならば、小型の使徒がこの雑踏に紛れて一般人を襲った、ということになる。使徒に襲われてフラフラするだけで済むとは思えないがそのようなタイプなのかもしれない。なんらかの薬物を限定的に撒かれた、か、屋台の飲食物に混入していたか、とそのあたりのことを考えた方がよかろうとは思ったが、そのくらいは彼女も考えつくだろう、その不審度をさらにくぐり抜けて「使徒」の一言を口にしたのなら。
異常事態、なんらかの事件が起こっているのは間違いなさそうだ。先ほど、平穏を求めた自分の身にさえ降りかかったばかりであるし。
 
 
まだ夢が、続いているのだとしても。
 
 
「人間サイズで出てきたってんなら手の内は分かってるわけだし・・・全然怖くない!!この手でボッコボコのみっくみくにしてやるわ。ワンパタだけど、アンタがいれば」
彼女もこういっている。ずいぶんと威勢がいいが、エヴァに乗らず倒せる使徒?・・・・どうにも覚えがないのだけど・・・・
 
 
「行きましょう」
行くしかない。自分は好戦的な人間ではないけれど、なぜか今、疲弊を忘れている。
 
 
「連中、なんでか知らないけど踊りながら体育館にゾロゾロ入っていってる・・・もし使徒だったら・・・後夜祭が始まる前に急襲してカタをつけるわよ」
そう言って駆ける彼女の背を追う。
「・・・もし、やられた人たちの中に、わたしたちの演奏聞いてくれた人がいたら・・・カタキをとるのはアタシたち以外にないわけだしね」
よく意味が分からないが、問いただせる空気でもない。まあ、相手が使徒なら見敵必殺、殲滅あるのみ・・・
 
 
からーん
 
走り出すその時、足下に転がっていた空き缶を蹴飛ばしてしまった。ウグイス色したそれに一瞬だけ目をやって、綾波レイは次なる事件の現場に向けてそのまま走っていった。