スーパーロボット七つ目大戦γ
 
 
<鉄人倶楽部ルート8>
 
 

 
 
「先生、あんな依頼うけちゃって大丈夫なんですか?」
 
給料の源である依頼にむかって「あんな」呼ばわりを雇い主として注意すべきところなのであろうが、洋子君の気持ちも分かる私は、人造寺三郎。探偵だ。もう言うまでもないだろうか。
 
 
「まあ、難しい依頼ではあるが・・・・」
 
ロンド・ベルのツートップ、ブライト氏とアムロ氏はもう帰られた。難題という重い荷物をここに置いて、さっぱりとした・・・・・そうでもなかったか、心配は残るが他にいないしな的な表情だったか・・・まあ、それでも多少は楽にはなったはずだ。なぜなら。
 
その分、こちらの気が重いからだ。人造寺でも、ハートはある。そうでなくては、強いだけでは探偵など、やっていられない。温度うんぬんよりは収納度の問題であろうと思う。
 
 
 
私は、煙草に、火を、つけた・・・・・・・・
 
 
もう依頼人はいないのだから、誰にも遠慮は要らない。洋子君ももちろん分かってくれている。吸いながら、頭の中身を整理しているのだ、ということは。
 
探偵の仕事は・・・・・まあ、正確に言うならば、仕事に含まれる程度の頻度だが・・・・謎解きだ。これがメインになる、これしかやらずに営業していける探偵事務所はすごいのだろう。
 
無類の戦闘集団ロンド・ベルからの依頼である。逆に言えば、荒事は自前でまかなえるため、依頼は荒事では、ない。さすがは本物は違う。こちらにムダな腕力は使わせない。
それはいいのだが・・・・・
 
 
もうひとつの、小規模ではあるがかなりの粒ぞろい・・・少数精鋭の「ドロン・ベル」の内情を探ること。それは、調査ではないかと言われそうだが、それですみそうもない。
 
ドロン・ベル自体が、ロンド・ベルの影、というか、いまひとつ実体がつかめない集団であり、どういった理念で動いているのか、いまいちよく分からない。表であるロンド・ベルの出来ない裏の仕事を請け負っている、というのなら分かるのだが・・・・
 
そういうわけでも、ない、らしい。・・・・・ロンド・ベルのブライト、アムロ両氏が分からないと言っているのだから、一筋縄ではいかない集団なのだろう。二軍というより独立リーグに近いのか・・・・かなり好き勝手に動いているらしい。玄人筋ほど、ドロン・ベルはブライト直下の極秘部隊、とか読み違えているそうなのだが。むしろ口には出さなかったが一悶着あったような感じすらあった。ここで見栄やら嘘をつかれても仕事に差し支えるのでそこは信用してもいいだろう。実際。
 
 
ドロン・ベルが、悪の軍団から、これまでロンド・ベルを苦しめていた「とある装置」の奪取に成功した・・・・・・というのが、依頼の大前提なのだから。
 
 
そして、問題なのは、そのことを、ドロン・ベル側が
 
 
「黙っている」ということだ。
 
 
奪取の事実自体も、たまたまロンド・ベルの修行組がキャッチしたことで、運が悪ければ、それすら知らずじまい、ということになっていたのだという。すごい話だ。
単なる連絡の不手際か、はたまた「意図的」に黙っているのだとしたら・・・・・・
 
アムロ氏が「らしい」と言ったのはそのせいだ。ブライト氏の額の皺が深いのも。
 
すぐに思いつくのが、その二番煎じ的なドロン・ベルが、一番に取って代わるべく、その事実を隠匿している、というところだが・・・・・・
 
「それはないだろう」と両氏、そろって首を横に振った。
「そんな修正バカならむしろありがたい」と小声でつけ加えたが、人造寺イヤーで聞こえてしまった。
 
戦力が違いすぎるのだ、と。今年豊作の悪党軍団を残さず刈り取るには絶対的人数が足りていない。それが分からない連中ではない、と。そこは断言された。
 
しかも、ロンド・ベルにはネルフ出身の碇シンジとその機体、エヴァ初号機がいる。
彼と同居もしていたというドロン・ベル首領である葛城ミサトがわざわざ苦労させる理由がない。むしろ、手みやげもって大いばりで参加してくるところだろう。それもなく。
 
 
ゆえの、謎。
 
 
さらに単純に考えるなら、葛城ミサトか、他の首脳部のメンバーが、三星同盟ではない、他の悪役軍団に通じているか、だ。その可能性を問うと、両氏は首を縦にも横にもせず、唸るだけだった。これまたすごい信頼度だった。
 
 
確かに、デリケートな問題ではある。ドロン・ベルにも当然、なんらかの意図があってのことなのだろうが・・・・・それが、見えない。バカならよかったのに、と言わざるを溢さざるをえなかったブライト氏の気持ちも分かる。
 
 
だが、この謎・・・・・・・どうやって解くか・・・・・・・?
 
 
私は、煙草を、灰皿に、置いた。
 
 
「先生、コーヒーどうですか!」
「ああ、いただこう」
 
お客用の特製ホワイト、ではないほうの、洋子君のブラックコーヒーだ。・・・・まあ、エネルギーは必要だ。ちょっとハードボイルドとは言い難い味だが・・・・。
 
 
飲みながら、考える。秘密にするメリットはなにか・・・・・そんなものは、あるのか。
 
 
「・・・・・・・・」
 
「・・・・・・・・」
 
「・・・・・・・・」
 
 
ふう・・・・まったく思い浮かばない・・・・・・神宮寺先生なら、なんとか糸口を見つけ出すのだろうが・・・・・まさか、単なる嫌がらせ、とか、焦らせてみた、とかではあるまい。謎だ。神宮寺先生の事件簿は最新作までほとんど追いかけている私でも・・・・うーむ、途中で逃げてしまいたくなってしまうJ・Bハロルドシリーズの「殺人倶楽部」なみの謎だ。
 
 
まあ、こっちは鉄人倶楽部、といったところだが・・・・・・・・まてよ?
 
 
今、なにか閃きそうになった・・・・・・・・これは・・・・・・・!
 
 
これは・・・・・・・!集中・・・・・精神集中だ・・・・・!
 
 
閃く・・・・・・・閃きそうだぞ・・・・・ブラックコーヒーが効いたのか!?
 
ナイスだ洋子君!御苑さんには及ばないかもしれないが、君は立派な私の助手だ!
 
 
 
もうすぐ・・・・もうすこしで・・・・・謎が・・・・・!
 
 
「先生!鳥取までのチケットがとれましたよ!」
 
ぱきーん!その時、洋子君のデカ声が、私の頭脳の中の、微妙に結合しようとしていたナイス閃きな部分を、完全破壊した。ウエハースとガラスを足して二で割ったような音だった・・・。
 
 
何言ってんだ・・・・このアンテナ女は・・・・・
 
・・・・・・・あぶないところで、ここが「殺人事務所」になるところだった。いや、返り討ちにあった可能性が大だが。どっちにしろ現場には違いない。
 
 
「先方のアポもとれました!神宮寺先生の弟子(になりたい)だって言ったら一発オッケーでした!さすが神宮寺先生ですね!」
 
 
・・・・・・・すぐ近くにも、謎が。ぜんぜん解明できそーもない謎が。なんなの?
 
しかも、(になりたい)って、ぜんぜん無関係じゃないか!神宮寺先生にご迷惑がかかったらどうすんだ・・・?だめだ・・・・今日までガマンしてきたが、とうとうその日がやってきたのか・・・・・・ゆらり、思わず、そんな擬音で立ち上がってしまう。
 
 
「こんなところで安楽椅子探偵気取るなんて、先生らしくないですよ!そのうちニコチン中毒で死んじゃいますよ!さあさあ、調査ですよ!調査。神宮寺先生だって七転八倒しながら調査して、たまにはゲームオーバーになりながら、そして、謎を解いていったんじゃないですか!お仕事しなくちゃ!」
 
 
「・・・・・」
 
 
きゅんっ
 
 
い、いかん!!!なんだこの音は!!まさかこの人造寺ハートがときめいたりとかしちゃったりするはずもないのだが!!し、しかし、確かに言うことは正論だ。正式な弟子ではないが、そうあれかし、と思う身としては、事務所に籠もっている場合ではない。
 
 
・・・そうか、君も同意してくれるのなら、いかねば、なるまい。
 
 
「いくぞ!!洋子君!!」
 
決戦の場、鳥取は第二バベルの塔へ!!謎の根源へ、乗り込まねば、なるまい!!
 
なのだが
 
「え?私もいくんですか?留守番じゃないんですか、出張旅費がそれだけかかるし・・・・・・それでいいならお供しますが」
 
・・・・・・・・・うーむ、それはそうだが・・・・・・神宮寺先生もそんな贅沢はあまりされていないような・・・・
 
「それから二人分だからって、あんまりぼろい宿は・・・・カニが食べれて温泉に入れるようなところなら問題ありませんが、あっ、ここの宿なんか今、2名様以上から割引してるみたいですけど」
 
その分かりやすさに、腹立つより安心してしまうのは・・・・・・なぜだろう?
 
 
「先生?」