スーパーロボット七つ目大戦γ
 
 
<俺の妹がこんなに泣いていいわけがないルート>
 
 

 
 
 
「絶対、”熱血”だ!!」
「いや、”必中”だろ!当たらなきゃ意味がねえ!」
「いや、”熱血”だ!」
「なにはさておき、”必中”だって!分かってくれよ!」
「いや、わからんな」
「このガンコ者!!」
「頑固結構一徹結構」
 
 
絵に描いたような兄弟ゲンカの図であったのだが、いかんせん問題は一家全員、いやさそれ以上の一団の死命を決する事柄であったため、いつものようにそれですまなかった。
 
 
「ジュンさんの方からも鉄也さんに言ってください!」
「なぜ?今回ばかりは鉄也が全面的に正しいわ。さやかさんの方こそ甲児君を諭してあげて」
「ジュンさんもそんなこと言うんですか?信じられない!」
「信じられない?そこはもう少し男の立場に立たなければダメよ、さやかさん。いくら私たちが補給修理役とはいえ」
「か、考えてます!それとこれとは違うじゃないですか!」
 
 
熱しやすい男性陣を冷却すべき女性陣までもがヒートアップしていた。いつもは「これだから男はしかたがない」というクールな立場を共同で維持していたのだが。一極集中の男と違い、なんかの弾みで関係ないところまで話が飛んでこじれていったりもする。
 
 
「これは大変なのだわさ。しかし、やっぱり”必中”にしとくべきなのだわ。お前達ももちろんそう思うだわ・・」
「なにいってるんでし、ボシュ〜、当然、ここは”熱血”ですぐに敵を片付けてもらわないと後方のボクちんたちまで危ないでし」
「”必中”がないとボロットパンチが当たらないだわさ!ボロットの存在意義にかかわる問題だわさ!」
「ボスはそもそも”必中”もちじゃなかったのでは・・・?あ、でも”感応”があるのかー・・・でも、そんなもんはもちろん後回しになるわな、これじゃ」
 
 
立場を考えると、たいていの問題は家長の判断に従うだけで、まあその家長も王子様だけあってそう無茶なことはしないし自分たちにもかなりやさしいし、文句もなかったボス、ヌケ、ムチャのボロット三等兵、じゃなかった、ボロット三人衆も今回ばかりはまとまりを欠いていた。
 
 
「いえ、大介さんならもちろん全体のことを考えて”熱血”にするでしょう。スーパー系はいいけど、リアル系の火力で”熱血”がなかったらどうなるの?ほんとカトンボよ」
「いえ、そんなことない。兄さんなら”必中”にするはず。ひろみさん、兄さんのこと、兄さんのホントの気持ち、分かってくれてないんじゃないの?」
 
 
家長の嫁候補、つまりは将来のお后候補かもしれず、現状としてはこの一家のおかあさんポジションである牧葉ひろみと家長のリアル妹にしてモノホンのお姫様であるところのマリア・フリードがこれまた本題から逸れたところで言い争いを始めていた。
 
 
間の悪いことに、ちょうど、このマジンガー一家の家長たる、グレンダイザーのパイロットにして亡国の宇宙王子、デューク・フリード(日本名・宇門大介)が、碇シンジといっしょに明日の分の薪やら食材やらを拾いにいっており、この場にいないのであった。
 
 
 
ここは某県・・・まあ、ダイナミック県としておこうか、にあるダイナミック渓谷である。
 
 
スーパーロボットがなんぼ暴れてもすぐに元通りになるダイナミックな自然が魅力であるが、そんなわけで他県民は絶対に近寄らないデビルエリア魔境でもあった。実際、碇シンジはそこで出会った飛鳥了にサインをもらっていた。しかも三枚。あまりに危険なためにTV番組では絶対に紹介されない。ただのレジャーや息抜きで寄れる場所ではない。
 
 
命がけの・・・・・・死中に活を求めようとする者だけが、ここで修行することを許される。ダイナミックでない者は死・・・・・・・そんな異空間である。
 
 
ゆかいなマジンガー一家は、ここで特訓を重ねていたのだ。こういう時こそ、その黒金の城たる防御力を生かして、ロンド・ベルの拠り所というか盾になるべきなのだろうが。
基本、彼らは軍人でもないので。今は特訓が必要だと思えば、特訓に全てをかけるのだ。
ブライト・ノアやアムロ・レイらロンド・ベル首脳部からしてみれば、悩みの種でもある。
やっていることにまさに文句がつけられない点が特に。せめてATフィールドもちのエヴァ初号機、碇シンジだけでも手元に置いておきたかったが、もちろん、そんなこと了承するマジンガー一家、特に剣鉄也、ではない。もはや完全に家族の一員、かわいい末弟であった。末妹ふくめて、一人で拠点に戻すなどあるわけがなかった。
 
 
しかし、今現在進行中の、家族崩壊級の渾沌ゲンカの火種は、この末弟なのであった。
 
 
末弟、碇シンジは、実は、渚カヲルを経由して葛城ミサトと連絡をとっていた。
 
 
綾波レイと惣流アスカが聞けば激怒しそうな話であるが、「なかなかマジンガーだけにガードがきつくてねえ」などと誤魔化して、少女二人には秘密にしていた。
 
 
そんなわけで、葛城ミサトは碇シンジの詳しい状況を、知っていたのであった。
渚カヲルと四号機の能力をもってしても情報の秘匿性を考えるとそう長時間話してもいられないのだが、「そろそろ合流できるかもしれないわよん」と、リー・カザリーン入りのメモリー試験管の件を碇シンジに話してしまった。
 
 
もともと、それが目的だったのだから。
 
 
その話を四号機が中継するネルフ特製携帯で受けたのが、家長デュークと薪食材拾いにいく直前。「皆、遅くなるようだったら、先に食べていてくれ」これもまた修行を兼ねている、とはいえ、このダイナミック渓谷のこと、碇シンジを一人行かせば何が起こるか分からぬ為、今日は家長自ら同行したのだった。まあ、男のコミュニケーションの時間でもある。
 
 
出発前に、碇シンジはつい、皆の前で言ってしまったのだ。悪気などあろうはずもない。
 
 
「もし、精神コマンドが、また一つだけ使えるようになったら、何がいいですかねえ」
 
 
と。
 
 
「それに頼りすぎた為の、今回の敗北であったわけだが・・・・・そうだな・・・」
剣鉄也がそれを咎めなかったのは、やはり言ったのが末弟だったからと、特訓にかなり手応えがあったせいだろう。末弟含めた一家全員一丸となって、かなり力をあげてきている。
そんな今ならば、そんな仮定も、いい意味での力の抜けた、証ともいえるだろう、と。
 
 
そして、一家はおなじことを考えているだろう、と。皆が、ありがちに思っていたのだ。
 
 
家長たるデューク・フリード・宇門大介がこの場にいれば、ここまでヒートアップする前に治めてしまっていただろう。いや、碇シンジがこの場にいればさらに燃え上がっていただろうか。その点ではまだよかっただろうか。
 
 
「「「「こうなったら、勝負だ!!!!」」」」
 
 
素手ならまだしも、彼らのすぐそばにはスーパーロボットがあるわけで。
話はまさに、それに乗り込んでのことであり。論より証拠、どちらが正しいのか。
いささか、脳の中までダイナミックすぎるだろうが・・・・、
 
 
ここは、そんな恐ろしい魔空間なのだった。