スーパーロボット七つ目大戦γ
 
 
<リヒテル・パープル・ヘイズルート>
 
 

 
 
「先生!なんと依頼が来てますよ!」
 
普段であれば、「なんと」は余計だろう、と指摘しただろうが、現在の「状況」というか「身の上」ではそう表現するにも無理がないので
 
 
「なんともタイミングが悪いな・・・」
 
こちらもそのように返答するほかはない。そんな私は人造寺三郎。職業は、探偵だ。
探偵と言えば、依頼人の依頼を受け、それを解決することで報酬を得るわけであり。
 
 
通常であれば、依頼は第一義。何より優先させねばならぬことであったが・・・・
 
 
今は
 
 
とりわけ、現状の状況は、それを許してくれそうにもない・・・・・
 
 
「「「ええっ!?探偵の依頼っっ!?」」」
 
まずはそこに大勢の、食事中の人間が驚きと興味が入り交じった・・・この面子の比率で言えば1:9くらいだろう。警戒するような肝の小さい人間は一人もいない。それも驚くべきことだが。まあ、タイミングが悪い。洋子君の大きな、恐れも遠慮もない声は少々のざわめきなどものともしない。一応、依頼であるから急いで知らせにきてくれたのだろうが・・・秘書役として。にしても、タイミングが悪い。
 
 
ここは、飛行戦闘艦ヒリュウ改の食堂なのだ。ちょうど作戦を終えたパイロットの皆と食事中だったのだ。なんでそこに探偵がいるのか、という謎の答えはもう君はもっているだろうからいいとして、だ。
 
 
「え!?こんな時にも、依頼が追っかけてくるんですか?すごいぜ・・・・」
「人造寺殿はやるなあ、なあ九朗。営業の秘訣を伝授してもろうたらどうじゃ?」
「一応、休業中ってことにしてあるんでしょ?それでも、ってならすごいわね」
「まあ、世の中、誰にでも頼めることばかりではないからね・・・・資金力や設備面よりも信頼が必要になる・・・・そんな仕事もあるってことだね・・・素晴らしいな」
「人造寺さん、すごいっス!!俺達21世紀警備保障もそんな企業で」
「あっても困るだろう、赤木よ。個人ベースならともかく」
「すごいね綾人ちゃん!ドラマみたい」
「やめろ玲香、ドラマじゃないんだ、人造寺さんは本物なんだ。たとえるのは失礼だろ」
「らら?依頼?」
「そう、探偵の、依頼」
 
 
バリエーション豊か、という以上に若年層が多いパイロットたちの好奇の琴線をかき鳴らしすぎる。一人か二人は「探偵なんて実は・・・」みたいな、小憎らしいことを言うコゾウ君がいてもいいのだが、ここにはいない。別に残念ではないが。タイミングが悪い。
ま、まあ、神宮寺先生くらいの探偵であれば、素直に憧れてもらってもかまわない気もするが・・・にしても、依頼か。指名される信頼を得るほど何度も困った目にあうトラブル体質の依頼人に覚えもない。自分の実力を考慮しても、奇妙な・・・・・
 
 
「すみかさん経由ですよ!しっかり連絡先を教えておいてよかったですね!先生」
 
ぷほっっ!!
 
鼻からコーヒーを吹くところだった。さすがにここで一服つけることもできないので。
いや、それはともかく。
 
 
「すみかさんって?もしかして洋子さんの他にも秘書がいるんですか?すっごーい!噂の破嵐万丈みたい!」
「ヒカルちゃん、はらんばんじょうさんって?」
 
ヒカルとつばさ、少女のことばが、痛い。砂糖菓子の弾丸のように。
 
 
「先生いきつけのバーのママですよ。先生のパソコンのメールをチェックして見つけました。なんだかひどくせっぱ詰まっているみたいなので、出来れば相談にのってあげてほしい、と。そーゆーことでした」
 
洋子君・・・・・・とっくに少女でなくなった女のセリフが痛い。痛すぎる。ただの鉛の弾丸だ。しかし、一発よりも連射のほうがありがたいような弾丸だ。とにかく移動する。
少々、ちくちくもするが、トータルで言えば、生温かい視線を感じながら。ああ・・・・
 
 
タイミングが悪い・・・・・
 
 
自分たちがあのパイロットたちに混じっているのもおかしいといえばおかしいのだが。
かといって首脳陣に混じれば、また面倒なことになるのは分かり切っている。
一介の探偵が、こんなドロン・ベルなる独立部隊に混じって、悪の軍団の足を引っ張って回る、というのも・・・・まあ、済んだことをあれこれいうのは、半熟すぎる。
 
 
 
「それで、依頼人というのは?」
 
別に逃げたわけではない。ちょっと一服するつもりで、という感じの、喫煙室だ。
他には人がいない。私が他の煙草吸いでもアンテナが生えた女と一緒になりたくはないだろうから、ここには入ってこないだろう。しばらくは秘密が守れるわけだ。とはいえ。
 
 
実際、依頼を遂行できる状況にないのだ。すみか経由の話でも、出来ないことは出来ない。
くわしく事情を話していないから仕方がないのだが。詳しく話すと嘘っぽく聞こえるし、すみかたちに危険が迫る恐れもある。自分でも信じられないくらいなのだから。
 
 
つい先ほども、巨大ロボットたちとともに、悪党軍団と一戦やらかしてきた、などと。
 
 
受けられない依頼は、真に残念ではあるが、ただの人生相談にしかならない。
 
ほんとうにせっぱ詰まって人生の危機、ということであれば頼りになる神宮寺先生への紹介ということも、ご当人のためには視野にいれねばなるまい。
 
 
「美形らしいです!すごく!」
 
せめて名前を言って欲しい。顔の具合を告げられてもなあ・・・・・すみか経由、ということはすみかもそう思った、ということか。うーむ・・・女性トラブルであろうか。
この世にはだいたい男と女なのだから、まず外れることはない予想だ。我ながら。
女のストーカーにつきまとわれている、とかいう依頼ならば・・・・せっぱ詰まっているのだろうが当人としては。しかし、今の私が受けられるかといえば・・・・
 
 
「名前は、リヒテル。職業は、提督」
 
 
「なにいっっ!?」
 
「だそーです。なに驚かれてるんです?先生」
 
驚かれずにおれる君の神経に驚く・・・・などと嫌味を言っている場合ではない。
冗談だろう、といいたいが、SIN宿の客商売としてすみかの目、それから洋子君のアンテナ、この二つを越えてきた話だ。二人とも、こと仕事のことで冗談を言ったりしない。
 
 
「隠してはいましたが、羽根もあったそうです」
 
「おいおい・・・・・」
 
世界にいろいろリヒテル氏がいて、その中で提督職にあるとしても、羽根まで生えているのはバーム星人のリヒテル提督しかおるまい。ロンド・ベルをコテンパにした実力もいけている三星同盟のイケメン・・・。たしかに、美形らしい。が・・・
 
 
「なぜ、私に・・・・?」
 
まさかこのドロン・ベル参加を恨みに思ったわけでもあるまい。いくらなんでも。
すみかがそう伝えてきた以上、リヒテル氏・・いや、リヒテル提督は、確かに、依頼があったのだろう・・・・・おそらく、たったひとりで、内密の。
 
 
女性トラブル、となれば・・・・・・