スーパーロボット七つ目大戦γ
 
 
<リヒテル・パープルヘイズルート2>
 
 

 
 
私は、これから依頼人に会おうとしている探偵。名は、人造寺三郎。
 
 
探偵の依頼ならば事務所で聞けばよいものだが、「諸事情」で、砂丘市内のとあるホテルのラウンジで会うことになった。
 
 
ほとぼりが冷めるまでSIN宿に戻るのは賢くない、とか、ただの探偵のはずなのに某秘密戦闘部隊に戦力としてカウントされていてその基地からあまり遠出が出来ない身であるとか、まあ、いろいろとあるわけだが・・・・・最大の事情は、やはり
 
 
単独で、しかし、堂々と、威風堂々と、サングラスにマスクどころか翼もかくさず、現れた美形の依頼人・・・・彼の素性にある。ここまで堂々とされると多少の不審性は美形オーラで霧消する。翼があったり、頭部の蛇飾りや古代西洋としかいいようのないその装いも「まあ、美形のすることだから」と、おかしくなくなる。あやしいといえばあやしいが、なんせ絵になっているので誰も文句をつけられない、というのが正解か。
 
 
リヒテル提督。
 
 
一言でいえば、地球の敵である宇宙人。今年豊作である悪役軍団の中でもイチ抜けた出来栄えの三星同盟の三巨頭の一人。ラスボスではないが、中ボスでもない、大ボスであろう。
 
 
こんなところにいて、いいはずがない
 
 
それが護衛というか取り巻きもつれず、たった一人で、こんなところに・・・・
普通、考えるならば、単なる影武者、ニセモノの代理人であろうが・・・・・・
 
 
だが、依頼人のその目。宇宙人であろうと、一応、人型であるから探偵の目も応用が効く、と信じたい。彼が、本物であると。本物の、苦悩を感じている、ひとつの魂であると。
姿形はともかく。美形でも、そうでなくとも。
 
 
この依頼の話を当然耳に入れていた葛城ミサトは「バビル2世かDDさんたちに護衛、お願いしましょうか」と言った。ロジャー・スミスや城田氏たちの「当然影武者だろう」論を退けて。それが表面通りの”護衛”なのか、それとも、依頼人を”捕縛”するためなのか・・・・どうにも探偵の目をもってしても見抜けなかったが。そのためのこの場所でもある。
 
 
彼は、本物。本物が、こんなところにやってきた。魂が潰れてしまいそうな苦悩を抱えて。
世間的にはただでさえ美形であり権力もあり、ロンド・ベルへの積年の恨みも晴らして人生の絶頂であるはずなのだが。私のような、探偵の前に。その苦悩の色は、紫。
 
 
仕事、提督であるからもっと大きな義務を伴った、公務というべきか、冷徹に完遂するべき・・・・・・「青」
 
私情、公、とは対極、一個人の内部に燃えさかる・・・・おそらくは女性愛する関連の、それ以上はいうまでもない・・・・「赤」
 
 
それら二つがせめぎ合っての苦悩、混じり合ったゆえの、紫、パープルの目をした男が。
 
 
 
「一人の、女性を、探して欲しい」
 
 
美形は声も美声だった。だが、その美声にても、いやさ美形であるからこそより苦悩が迫ってくる。葛城ミサトあたりが聞けば、舌なめずりしそうだ。
 
 
「それってライザ将軍ですか!」
 
それくらいならばまだかわいかった!!となりの秘書がラウンジに響くでかい声で!
うちの所員です、すいません。しまった、つい魂について語ったシリアスシーンだったから、洋子君を同行していたのを忘れていた。
 
 
「・・・・」
百戦錬磨の提督にして、目を丸くしていた。まずい、これは下手すると無礼討ちとかありうるのではなかろうか。こ、ここは上司として、フォローをいれねば・・・
 
 
「やっぱりラブラブだったんですね!」
 
私たちは探偵であり、占い師でもなければ芸能リポーターでもないぞ洋子君!
 
地雷というか逆鱗というか、目どころか顔色がムラサキに染まる依頼人リヒテル。
 
「む・・・・むむむう・・・・・」
 
 
こ、これは・・・・・・・・・・・・・・・・フォローしようがない。もう無礼討ちにされるまえに逃げてしまった方がいいだろう。一応、会うだけ会っても依頼など受けられる状態になかったのだ。いろんな意味で。いろんな意味で!自戒を込めて2回言ってみた。ハードボイルドどころか、スクランブルエッグ的展開であるが、コマンド「移動」でとんずらすることにする。一応、洋子君の手をとって。「すみません、秘書が失礼なことを・・・・・洋子君、ちょっとあちらへ」あちらもなにも当然、この場から逃走するのだが。
 
 
「待て」
美声であるが力がある。美声であるがゆえに余計にか。美声美声としつこいかもしれないが、本当なのだから仕方ない。まあ、肝心なのは向こうがこちらを見逃す気がないこと。
 
 
リヒテル依頼人のターンが終わっていなかった。きっちり使ってきた。
 
「そこまで見抜かれているとは・・・・・・さすがである」
 
 
背中からバッサリやられるかとも思ったが、リヒテルは提督らしい器を見せて苦笑に似た表情を見せた。やはり美形は、美形美形としつこいが以下略。依頼人の魂よりもまず自分の秘書のアタマの中を把握しておけ、というのが今回の教訓だ。ためになったかな。
 
 
”ぜひ”、その方たちに「人捜し」を依頼したい、ということになってしまった。
 
 
べつにせんべい屋を営んでいるわけではないのだが・・・・・・。
 
空気的に引き受けざるをえない状況だった。情報収集の調査員ではなく、「探偵」として。
 
 
 
「先生、よく引き受けましたね〜。今は別に資金に困ってるわけじゃないのに」
 
洋子君が心底尊敬しているように言ってくれる。もちろん、魂がどうこうの話ではない。
2,3日はその単語を避けたい気分なのだ・・・・・ただ、
 
依頼人のパープルヘイズが、別れ際、薄れたような気がしたのは、悪い気分、ではない。
 
 
ライザ将軍
 
 
精神コマンダーゼロに囚われたままの、依頼人の想いびと。
 
 
精神コマンドを封殺しロンド・ベルをコテンパにしたのはいいものの、女を犠牲にした勝利がどうにも腑に落ちず、心苦しくて仕方がない。・・・・当人はいろいろと青い言い訳をしてはいたが。探りをいれてみると、その立場からして裏仕事をする部下もいるのだからそれらを動員してライザを探させてはみたものの、行方が全く分からない、ときている。
その調査力が自分たちのような個人探偵事務所を下回るとは思われない。まともな探し方では見つからない、ということだろう。そんなやり方では、届きはしない彼方に。彼女は。
 
 
もちろん、装置を用意したという張本人に聞くわけにもいかない。
その場所は、「信用しないわけではないが、愛のメモリーを取り戻すと、何をしでかすか、分からないのが、人間、というものだ」などと、当初の設置場所から勝手に移動した挙げ句に、その隠し場所を教えないのだという。ライザとミーアの二人が見つからないのはそういった内部事情があったらしい。さすがに悪党同士だ。
リヒテルにも立場という物があり、それ以上は押せないのを見越しているのだろう。
 
しかし、愛のメモリーなどと・・・・松崎しげるか。それがヒントだったりするとか。
 
 
リー・カザリーンが、ある意味、なんのひねりもなく城に放置され単純に発見された、というのも、こうなると8割方、足並みを乱す罠であろう。これがプリンス・ハイネルからの依頼でなくて良かった。まあその場合、出向くことすらしなかっただろうが。
 
 
「もちろん、重要な仕事を果たしてもらっているのだ。それにふさわしいところに丁重に安置しているよ」
 
 
張本人、シュバルツバルトというらしいが、そう言ったのだと。ヒントには薄すぎる。
なかなか難度が高いな・・・・と、内心で困っていたら
 
 
「安置場所までは部下がつきとめたのだが・・・・」
 
提督の部下は優秀なのが揃っているらしい。そんなのでつきとめたのか。すごい。うちの秘書と取り替えて欲しいくらいだった。しかし、そこまで分かったのならばあとは力づくでいけばいいだろう。もちろん顔には出さない。その手が通じないからこそ。
 
 
 
舞浜サーバー=舞浜市
 
 
「そこ」に彼女がいるらしい。
 
 
さすがの三星同盟の三巨頭、ドロン・ベルのお膝元まで単身やって来た漢でも、そこには踏み込むことは出来ない。
 
 
舞浜
 
 
 
未確認機光物体が舞い飛ぶ、痛み(ペイン)と記憶(メモリー)の都市。
 
 
 
踏み込めば、人は光の粒になる。