スーパーロボット七つ目大戦γ
 
 
<忘れるな、我が痛みルート>
 
 

 
 
 
詩の、朗読だった。
 
 
「鯨法会は春のくれ」
 
「海に飛魚採れるころ」
 
「浜のお寺で鳴る鐘が」
 
「ゆれて水面をわたるとき」
 
「村の漁夫が羽織着て」
 
「浜のお寺へいそぐとき」
 
「沖で鯨の子がひとり」
 
「その鳴る鐘をききながら」
 
「死んだ父さま、母さまを」
 
「こいし、こいし、と泣いてます」
 
「海のおもてを、鐘の音は」
 
「海のどこまで ひびくやら」
 
 
 
金子みすずの「鯨法会」なる詩の朗読だった。凜として幼さとは一線を画した、その声。
 
 
その声、ゆえに
 
いろいろあって乾いていた魂に、きいん、と共鳴してくる。
 
 
「うーん、うまいもんですね」
 
隣の女子生徒があっけらかんと言ってくる。さすがにボリュームを抑えてはいるがその感想には同調しにくい。ので、返答せず黙っていた。今は授業中である。そうしたら
 
 
ぴょーん、と、輪ゴムを利用したのだろう、折った紙切れが飛んできた。頬に命中。
 
子供か。怒ってやろうかとも思ったが、やめておいた。今は、授業中である。
が、無視を続けるとどうせまたやってくるであろうから最低限、紙切れに目を通す。
 
 
”そんなに感動したんですか?口もきけないほど。意外ですねえ、ハードボイルドな先生にそんなソフト&ウエットな感受性があったなんて。ああ、ハンカチはもってますよね”
 
 
いろいろあって深くペインしていた胃に、追加のペインが発生したような・・・
 
 
「ふざけんな!このJKコスプレ!!」と、一瞬キレそうになるが、耐える。男の器量の問題もあるが、即座に己の姿についての反撃が120%予想できたせいだ。
 
 
 
ここは、舞浜南高校の<夜間部>
 
 
そして、今は現代国語の授業中。夜間であるから教室は全て埋まってはいないし、年齢構成もかなりひらきがある。とはいえ、制服着用は義務・・・・という設定らしい。
 
 
 
そんな私は、人造寺三郎。ある時は夜間部高校生にして、探偵だ。
隣の席の頭からアンテナが生えているコスプレ女子高生が助手の洋子君。
 
 
潜入方法を間違えたわけではない。五体満足に体を維持していられる、この状況が限界だった、というだけのことだ。教師に憧れていたわけでもないので生徒役の方が自由が利いてやりやすい。まあ、なるべく鏡は見たくはない。が、人の姿は目にするわけで。
神宮寺先生の美人助手、御苑洋子女史でも、美人ではあっても理性的外見だけに、
 
JKはきつい。JKは。
 
いや、外見の話はやめよう。これも仕事だ。夜間部であるから同年代の者もいるので・・・・・パンチパーマだったり、襟元からちょっと彫り物が見えたりもするが・・・・それほどは目立たない。
 
 
「いやー、立原あゆみ先生の”極道の食卓”みたいですね!」と、転入初日の挨拶で洋子君がかましてくれたが、豊富な人生経験のおかげか、皆、ひきつりもせず笑ってスルーしてくれたのはありがたかった。
 
 
 
「・・・見事な朗読であった。皆の者、拍手せよ」
 
翼の生えた国語教師が、朗読した女生徒を褒め称えた。しかも他の生徒にもそれを命じる。
逆らうと、教師の腰にさげているサーベルが唸ったりするので、大人しく従う夜間部生徒。
実際、女生徒の朗読が素敵だったこともあるので、拍手は自然な潮のように教室を満たす。
 
 
私と洋子君も、むろん、同調する。こんなことで目をつけられてもかなわない。
朗読に、心引きつけられたことも、事実なのだから。
 
 
が・・・・・
 
 
「ライザちゃん、よかったよー。先生なんか感動して涙うるうる、あ、こっちの先生の方だけどね!」
 
洋子君が頬を染めながら着席する目の前の女生徒に馴れ馴れしく声をかける。なにせ”ちゃん”づけである。私には逆立ちしても無理な芸当だが・・・・
 
「・・・え?あ、あ、ありが・・・・いや、か、感謝する!」
 
声をかけられた方も対処に困ったようだが、生真面目にこちらの方にも目礼などされては、私も困るのだが、・・・・この人物のこんな一面がすぐ目の前で見られるとは・・・・。
 
 
ライザ将軍
 
 
年齢、キャリアを考えると、こちらも女子高校生などやっていられないだろうが、それは別に本人が望んだことでもなく、シュバルツバルトに隠匿された身としては戸惑うばかりの状況だろう。多少の記憶操作をされているか、当人はおかしげな夢をみているのだ、という認識なのかもしれない。夢ならば、夢でもし会えたら。
 
 
国語教師リヒテル
 
 
提督リヒテルにうりふたつ、というか、おそらくシュバルツバルトの用意した重石なり錨なのだろう。この夢の世界に彼女を留めておくための。愛の、いや孤悲のメモリー。
 
 
彼女の補足に時間がかかる可能性も少なからずあった。市内中を探し回るのは探偵の本分だろうが、タイムロスは避けるに越したことはない。それを考えるとほぼ一発のこの状況はラッキーだったのか。幸運な身の上なら探偵などやっていないかもしれない。けれど、不運続きならとうの昔に死んでいるだろう。
 
 
さて、この先の展開は、幸か不幸か・・・・・・・・甘いか苦いか
 
 
葛城ミサトたちからはなんのフォローもなく単独(まあ、洋子君がいるが)で仕事を果たさねばならない。無線で色々フォローしてもらえるスネークな潜入者より不安な・・・・
 
 
それを考えるとまたきりきりと、胃がペイン。
 
 
いちいち言われなくとも、忘れようもない。