スーパーロボット七つ目大戦γ
 
 
<鉄人倶楽部ルート2>
 
 

 
 
 
私の名は、人造寺三郎・・・・・
 
 
探偵だ。
 
 
じんぞうじ、さぶろう、と読む。
 
 
探偵は、「たんてい」と読み、辞書には「こっそりと他人の事情や犯罪の様子をさぐること。またはその人」とある。もちろん、自分が知りたいからやるのは単なる趣味であり、人の依頼を受けてそれを成すのが、私の仕事(ワーク)だ。なぜ、仕事のところだけ英語のフリをつけてあるか?・・・・まあ、暇つぶしと思って少し考えてみてくれ。たわいのない理由なのだが。その間、私は依頼人の話の内容をもう一度考えてみるとしよう。
 
 
 
「調査、ですか・・・・・・にしても・・・それは一探偵の領分をずいぶんと越えている気もしますが」
 
話にきくロンド・ベルの首脳部、ブライト・ノア氏と同行するエースパイロットにしてパイロットたちのまとめ役、としても聞くアムロ・レイ氏、ふたりの依頼というのは、正直、これはもう手に負えないので断るしかないだろう、という明らかに場違いな話であった。
 
 
ここ最近(今年豊作であるという悪の軍団にどういうわけか例年と異なりこてんぱんにやられたアレのことだが、探偵は依頼人の心を守らねばなるまい・・・・好きこのんで追い打ちをかけてやることもない・・・依頼の意に添えそうもないならなおさらだ)なかなか厳しい立場に追いやられている自分たちロンド・ベルを影からサポートする一団があるのだという。まあ、これが一個人に対する援助であるなら、ただの足ながおじさん、ということになるのだが、苦境にある正義のスーパーロボット軍団に対するサポートとなると、個人のきまぐれ、という範疇を越えている。精神的援助、単なる応援シンパシーというだけのことなら一般市民にも出来るだろうが、この場合のサポートとは、「実力的な」それであり、悪の軍団にコテンパンにやられて弱り切った彼らをさらにここぞとばかりに根絶やしにせんとトドメを刺しにくる勢力・・・・なぜか割合的に露骨な悪の軍団よりも看板の違う連中の方が多いらしい・・・・常々、正義軍団を面白くおもっていなかった者たちが好機とばかりに立ち上がったのだろう。それらを己らの配下に取り込もうという計算があるにしても・・・・まあ、ハードボイルドも呆れるほどのドライぶりだ。てめえらの血は何色だと言いたくなる。が、それはいい。要は、そんな情け容赦ない敵のさらに後ろをつく形で、そのサポート勢力が、仕事人よろしく後ろからグサッと殺るような真似をしてくれることだった。ロンド・ベルにしてみれば、非常に助かる話だった。敗北した正義というのは、立ち直るまでは、飛び立つひな鳥よりもある意味、弱々しい存在だからだ。
鎧も武器もない、それを用いる筋力や気力も失せた、はだかの戦士・・・・そんなのを抱えて面倒みなくてはならない二人の苦労は並々ならぬものがあるだろう。頭のあたりがかなり怪しくなっている。とくにブライト氏の髪の後退ぶりは以前見た写真と比べてかなり。
 
 
二人の依頼は、その「謎のサポート勢力」の「正体を明らかにして欲しい」というものだった。
 
 
自分たちの味方をしてくれるんだから別に少々謎でもいいじゃん、と思えばいいのだろうが、そう鷹揚に構えていられる心境でもないらしい・・・・・それは探偵の観察眼をわざわざ用いなくとも分かることだ。まあ、正体不明、相手に全く覚えがない状態で助太刀を受けても、しかもそれがそれなりの実力をもっているとすれば・・・この世知辛い世の中、今現在進行形でそのしょっぱさを味わい続けている彼らからしてみれば、疑心暗鬼になるのも無理のないところかもしれない・・・・シュミレーションゲームと違って、戦力をユニットデータ化して戦場を俯瞰してみるわけにもいかない。正体不明は正体不明以外の何者でもなく、とりあえず、敵の妨害をしている存在、であることは、それだけが確か。
それも、イジメにちかいような追いつめられ方をした各戦場の後方にいきなり現れて急襲する、攪乱するだけしてさっと逃げる、おいしいとこ取りの派手な活動のみならず、ほんとに嫌らしい補給基地や開発研究所への物資や情報の盗難やら、悪の軍団同士の仲間割れを同士討ちを狙い誘うような、もはやどっちが悪なのかわからんようなえげつない作戦行動もやってくれるらしい。宇宙人系の侵略悪者軍団を挑発しておびき寄せた挙げ句にティターンズにぶっつけて、自分たちは戦わない後は任して逃げる、という・・・・ロンド・ベルには決してやれないだろうことをやってのけたりする。
 
「・・・そういうことを勝手にされては、まあ、こっちも困るのですが・・・ごほん。なあ、アムロ」
「ああ。ティターンズとはいえ、同じ地球人だ。今、地球人同士でいがみ合っている場合じゃないんだ」
 
 
相応の実力があるのなら、なおかつ自分たちの志と似たような考えをもっているのなら、手を組みたい。最低限、相手の正体を知って、安心したい、というのが二人の依頼、願いだった。敵の敵だからなんとなく味方だろう、と安心していたら、最後の最後で急所を突かれて全滅、なんてことになれば目も当てられない・・・・・組織の首脳部としては当然の心配であっただろう。この油断の無さがロンド・ベルをこの間まで常勝軍団にしてきたといえるかもしれない。
 
 
「しかしながら・・・・本当に、お二人には、覚えがないのですか?その、第三勢力に」
 
 
探偵の常として、一応再確認してみるが、答えは変わらず。
 
「いや・・・なあ、アムロ」
「そうだ!あったらこんなところに来ないだろう。そんなことも分からないのか、それでも探偵か!」
髪の毛の後退が著しいブライト氏は艦長を務めるわりには迷うように、アムロ氏はパイロットの割にはずいぶんと激高しやすい。感情を操縦に込めるとかいうこれがロンド・ベル式なのだろうか・・・。
 
 
「ふーむ・・・・・」
一服したいところだが、接客中ともなればそうもいくまい。
 
 
話を聞くに、その謎のサポート勢力は、恐ろしくケンカ上手ではあるが、それほどの戦力をもっているわけではないように思えた。とぼしい戦力を活用して、強大な敵の足を引っ張り続けている・・・という印象だ。やられる方にしてみればかなりむかつくだろう。
そのあたりは、警察や軍隊と違って権力をもっているわけではない探偵と似ている・・・。
 
 
だが、これはさすがに手に余る。洋子くんは優秀だが、二人所帯のこの事務所では追い切れる事態とは考えられない。彼らも期待してここに来てくれたのだろうが・・・・
 
 
「残念ですが、このお話は当事務所では請け負いかねます・・・・・・申し訳ありませんが」
 
「なんだって!?名探偵と聞いてきたからこんなゴミだらけの街にやってきたというのに依頼を断るだと?近くのバーの女の子もあんまりイケてなかったし!!」
アムロ氏が怒っているのは、「バー・すみか」のことだろうか。まあ、女性の好みは人好きずきだが、この街をゴミだらけ、などというのはいただけない・・・・・というか、バーに寄ってからウチに来たのか・・・・・
 
 
「・・・いや、アムロ待て。そう興奮するな・・・神宮寺さん、私たちもあなたを信用してかなりの機密情報をすでにお話してしまいました・・・・・その点を汲んで、なんとか引き受けていただけませんか」
 
ブライト氏はやはり落ち着いている。髪の毛はかなり後退しているが、物言いはとにかく中身はかなり押しつけがましいが・・・・・・・・・・まあ、それはいい。それは。
 
それより。
 
 
今、この細目、なんていった?神宮寺?そう聞こえた・・・・気が
 
 
「すみません、今、神宮寺、(じんぐうじ)と、仰いませんでしたか・・・・?」
 
「はい。あなたは、名探偵、神宮寺三郎さん、でしょう。だからこそ我々も時間を割いてここまで来た。探偵というのはエキセントリックなのかもしれませんがいまさら自己紹介のやり直しもないでしょう。ははは・・・」
ブライト氏はそういって乾いた笑い声をあげたが・・・・・聞き逃せるはずもない。
 
 
「いえ、私は人造寺(じんぞうじ)です。名前は同じ三郎ですが・・・」
 
「あれー!!」後ろでコーヒーのお代わりをもってきた洋子君が奇声をあげた。
 
 
「なんだと!?お前は神宮寺じゃないのか!・・・・おかしいと思ったんだ。顔がぜんぜんリアルじゃないし陰影がほとんどないし、フォルムもずいぶん簡単だし・・・このジャジーな音楽にだまされた・・・・行こう、ブライト!時間の無駄だ」
 
「ああ・・・・・」
 
 
怒りと落胆の色をありありと浮かべるのは自由だが、看板はちゃんとかけてあるのだから確認して入ってくればいいものを・・・・・・その視力で良く仕事がつとまるものだな・・・・・まあ、ここは尊敬する神宮寺先生に免じてかんべんしてやろう・・・・・
早々に立ち去って欲しい。そのあとで、ゆっくりと癒しをかねて一服するとしよう・・・
 
 
「こんなジム野郎に仕事を頼もうなんて危ないとこ・・
 
ばきっっっ
 
苛立った捨て台詞は最後まで言い終えることはできなかった。ただでさえゴミの多い街なのだからこれ以上、ゴミを増やしてほしくないものだ・・・・・言葉のゴミをな・・・
 
というわけで、思わずぶん殴ってしまった。
 
「先生、やってしまいましたねー!」洋子君が喜々として。「どーすんですか、先生!弱り切っているとはいえ、基本、戦闘集団のロンド・ベルのサブリーダー格をなぐったりして!」
 
 
「な・・・殴ったな・・・・父さんにも殴られたことないのに!!」
 
生身の人間相手であるからそれなりに手加減はした。アムロ氏も涙目で頬を押さえながらいい年こいて少年のようなことを言い出す余裕はあった。
「しかもあんなこと言ってますよ先生!だいじょうぶですか!!」・・・なんでこの助手はこんなことでこんなに嬉しそうなのだろうか・・・ひそかに私に恨みでもあるのか・・・・ブライト氏の方は目を白黒させて状況についていってない感じだが。
 
 
 
「・・・・大丈夫だ。洋子君。なぜなら・・・」
 
私は余裕だった。確信があったのだ。
 
さて・・・・・仕事に(ワーク)のフリをつけたのか、理由は分かった頃合いだろうか・・・・・答えは・・・・そう、その通り。君にとってはなんてことはない謎だったな・・・・ではまた、次の依頼で会おう。
 
 
それにしても、今回の依頼人は完全にスカだったな・・・・まあ、こういうこともある。
今度はダイアモンドのような依頼人を期待したいところだが・・・・・