スーパーロボット七つ目大戦γ
 
 
<イタダキマンボルート>
 
 

 
 
 
「まことに申し訳ありませんでした!!」
 
 
事情を聞くべくロジャー・スミスを会議室に呼んだはいいが、入室するなりスライディング土下座されてしまった城田氏と紫東遥。なんというか、一瞬、見とれるほどの見事なスライディング土下座であったが、それだけでは事態は解決も前進もしない。
 
 
そんなことを百も承知のロジャー・ザ・ネゴシエイターがやるのだから、よくよくのことがあったのだろう。まあ、あったとしてもやらかしたことに変わりはないわけだが。
まさにタイムマシンでやらかす直前の過去に戻って己を羽交い締めにしたいところであろうが・・・・・
 
 
「まあまあ、ロジャーさん、とりあえず事情の説明を・・・」
心を折られたとかいう惣流アスカたちのフォローは赤木たちが行っている。葛城ミサトは代表者として謝罪に。まあ、許されるはずもないが。完全に交渉決裂したっぽいタイムリース社とは自分たちが対応せねばならない。三本目の精神コマンダーゼロの鍵はかの会社が握っている、ということなれば無駄な働きではなさそうだが・・・・・・・・まあ、やらかしたあとの後始末というのはどうしても、気持ちが退けるのは否めない。が、リカバリーは早い方がいい、早いところ話を聞いて動かねば。
 
 
「いや、しかし、今回のミスはあまりにも・・・・・・・・あまりにも・・・・・」
 
 
当人にしてもショックなのだろうが、土下座のまま唸られても仕方がない。時代劇のお白州ではないのだ。単に話が聞きにくいだけだ。かといって強引に猫の子みたいに摘み上げるにはこの黒服のネゴシエイターは大きすぎる。妙なところにスイッチがはいってビッグオーを召還されても困るし。さて、どうしたものか、と城田氏と紫東遥が迷っていると
 
 
 
メキ
 
 
「失礼するわ」
 
R・ドロシーが入ってきた。こちらはいつもと変わらぬアンドロイドの無表情。
 
 
「ドロシー!?」
ロジャー・スミスが驚いて顔をあげる。考えてみればこの二人、いつも一緒にいる。
今はさすがにロジャー・スミスのプライドを考えれば一人の呼び出しとしたわけだが。
 
 
ちなみに、扉はもちろん施錠されていた。偶然入れるわけもなく、アンドロイドの少女は実力で押し入ってきたのだ。いろいろトンチンカンなところもあるが、このような無礼なことをするとは・・・・・保護者?かパートナーか、とにかくロジャー・スミスの面子は二重に潰れたことになる。いや、三重かもしれない。今の態勢を少女に目撃されたことは。
 
 
うぐうううう・・・・・・言葉をもたぬけもののように、唸るだけのロジャー・スミス。
 
 
 
「今回のロジャーのミスは、わたしが原因」
 
 
機械の少女が代弁する。淡々と堂々とを足して二で割らない感じ。内心が、読めない。
プログラムだけならば、主であるロジャー・スミスを守ろうとしているのだろうが。
 
 
「だから、説明もわたしが行うわ」
 
主を守る機械の態度ではない。これはなにか他のものだ。それは分かる。
 
 
「なっ!?ドロシー!それは・・・・・・」
 
「いまのロジャーでは正確な事情の説明は出来ない。同席していたアンドロイドのわたしのほうが再現性において遙かに上回る」
 
飛行機事故におけるブラックボックスのようなもの、とまでは言わない。みずからが原因である、というあたり、それともまた異なっているのだろうが。なんにせよ時間が惜しい。
扉の鍵の修理代の足しにするためにも、迅速に動ける方を選択すべきだろう。
 
 
「じゃ、ドロシーお願いするわ。城田さんもいいですか?」
「うむ」
 
というか、だいたい事情は読めていた。ペナルティとはいえ、これをロジャー・スミス自身の口から言わせるのはそれはちと惨い。というか、正直に話すまい。
 
 
そして、ドロシーの口から聞くところによると、やはり精神コマンダーゼロ三本目はタイムリース社がシュバルツバルトの依頼で過去に送っており、元来であればそんなことは部外者に明かされるはずもないのだが、そこはロジャー・ザ・ネゴシエイター、葛城ミサトの無茶ぶりに見事に答えて、情報を引き出していたわけだ。
 
しかし、そこから先が本当の仕事というか、さらなる無茶ぶりといおうか、
 
 
「イタダいてキてください」
 
 
それって100%犯罪というか、悪じゃん!!と紫東遥も聞きながら思ったが自分ではさすがにそこまでの命令はできない、まさに首領だからこそだ。ネルフって・・・いや、ミサトの性なのかとにかく、宿敵シュバルツバルトの邪魔をしてやることに黒のネゴシエイターがどれほどのやる気を見せたのか想像に難くない。ドロシーの表現は誇張もないのだろうから、攻めて攻めて攻めまくったらしい。運の悪い担当者はタジタジだった。
 
すぐに上司、そのまた上司、と、ついには実権のある部長クラスまで引きずり出すのに三十分かからなかったというのだから。顧客が大事か、正義が大事か、と、この会社は悪党悪事に荷担するのかと。そもそも、貴社が過去に送った物体の中には「ヒト」が入っており彼女の同意がないのだとすればこれは誘拐である、可能性もある、うんぬん。
 
舌鋒炎のごとくときには蜜のごとく。流れるは立て板に水。調子はその時歴史は動いた。
 
同行していた惣流アスカたち、少女少年パイロットたち(当然、それもダシにつかった)もビッグオー一辺倒かと思っていたネゴシエイターの仕事ぶりに感心しきりで。
部長まで引きずり出した時点でほぼ勝負はついた、君たちは待っていてくれたまえとのことで別室でクリームソーダなど飲みながら。
 
「必ずいっぺんは拷問にあうもんだと思ってたけど・・・・」「そうなの?綾人ちゃん」
「やっぱりマンガとは違うよなあ・・・大人の仕事だよ」「まあ、いろいろと大人だわ」
 
話し合いで解決するならなによりだ。この立派そうな会社もべつにシュバルツバルトの味方をしたわけではなく、騙された、というか利用されただけ、なのだろうから。
 
戦うのは悪党軍団だけで十分だし、自分たちに協力してくれるなら嬉しい。ロジャーさんの仕事が終わったら、ちょっと会社を見学とかさせてもらおう、とか神名綾人などは考えていたのだという。ここらへん、さすがにアンドロイドの状況把握力であり人間ではこうも広範囲客観的にはいかない。
 
 
だが・・・・・シュバルツバルトはとくに変装もせずあの三角アタマのまま発送したらしく、タイムリース社のほうでも「怪しすぎる客だ・・・・・・やばいんじゃないの」とは思っていたらしい。が、金払いの方はなんの問題もなかった。見た目が悪人ぽいから仕事を受けぬという企業もそう長続きするまい。そこらへんはさじ加減であろうけれど。
 
 
その加減を探るのが、交渉、ということなのだが・・・・・
 
 
だが、人間誰しも譲ることのできないもの、そこからくる認識の違い、というものがある。
譲れないのに、違いを合わさねばならない矛盾。
 
 
もちろん、タイムリース社とて中身を確認もせずに過去に送るような馬鹿な仕事はしない。
内部に「人型」のなにかの存在は確認していたが、依頼人はそれを「美術品」だと称した。
確かに、うつくしいヒトガタ、ではあった。少々、異形ではあったが。
 
 
ロジャー・スミスは、コマンダーゼロの中にいるミーア休息区司令を「ヒト」と理解し
 
相手をした部長(ヒゲははえてなかった)はミーア休息区司令を「モノ」だと理解していた。ロボットはあくまでロボットだと。サイキックで操ることはできても、それはヒトではない、と。自社でひそかに開発もしている以上、そんな理解はできない。
 
 
ロジャー・スミスも、ここはいったん仕切り直した方がよかろうかな、という判断は働いたのだ。と、ドロシーの目は見抜いていた。もちろん機械少女がアドバイスなどしない。
 
 
だが、「そうはいっても・・・・あなたは、お連れのお嬢さんといっしょにしてそのようなご理解をされているのかもしれませんが、・・・・彼女は、ヒトではありませんよ」
 
 
ヒゲのない部長のひとことが全てを御破算にした。
 
 
「汝、罪あり!!!!!」
 
ロジャー・スミスのパンチ。いい大人がいい大人をリアルにぶん殴った。
 
 
「えー!!?」日頃、悪党軍団と戦っている少年少女パイロットにしてもかなりの衝撃。
 
かなりのマンガ的光景だった。これ、やばいんじゃないの、と思っていたらあれよあれよと巨大なロボットが二体飛んできて、機体を確保されて逃げられなくされた。さすがに戦闘になると思っていないから機体に乗っていない時点でもうどうにもならない。大十字九朗やアル・アジフ、バビル2世などそのまま戦える面子は同行してきていない。
 
まあ、戦闘になると思っていなかったから仕方ないのだが。にしても、すごい即応態勢だ。
「逆転王ー!」「三冠王ー!」とか自分で名乗っていたから巨大ロボの名は分かった。
 
 
ロジャー・スミスもすぐに我に返ったようだが、疾風のように現れた白と黒のヒーロースーツをまとった男女「イッパツマン」と「イッパツウーマン(おそらく)」に取り押さえられた。R・ドロシーも傍観していた。言うこともすることもない。僅かに震えていた。
恐れであるはずもないが、故障でもない、原因解析に異様に時間のかかる震えを。
 
 
これが敵対組織でのことならば、流血は間違いなかっただろうが、そこは一般の会社。
こちらも言い過ぎでした、とかなんとか、表沙汰にはしない方向で。
 
あやうく手錠をいただくところであった。完全まきぞえである惣流アスカたちも正義のヒーロー、イッパツマンたちにこんこんと熱血な説教を食らってしまった。「暴力とは・・・・君たちはなんてことをしているんだ!!」「え?え?え?」言い訳しようもない正論の前に、なにがなんだかわからないが泣けてきて、美嶋玲香などマジのガン泣きであったが正義のヒーローはそれでも容赦してくれなかったが、「豪くん、この子達も反省しているようだから・・」星ハルカなるイッパツウーマンの取りなしでなんとか切り上げてもらった。それでも十分、心が折られたが。確かに、今回は完全に向こうに正義があり何より。
 
 
完全に、フラれた。
 
 
R・ドロシー、ならぬ、A(あっさり)・F(ふられて)・ジャーネット、だ。
 
協力はこの先、あり得まい。こうなればタイムリース社も面子にかけて死守してくれるだろう。こうなるとこれもシュバルツバルトの罠だろうかとも思ってしまうが、まあ自滅だ。
 
 
けれど・・・・・・仕方がないか、とも思った。
 
 
R・ドロシーを、「モノ」である、と言われた日には。
 
 
ロジャー・スミスにはそう聞こえた。相手はライザ司令のことを指していたのだろうが。
 
誰しも弱点、というものがある。弱点、でなくとも胸の奥深く仕舞ってあるものを突きさされれば痛みを感じるにきまっている。人でないものを人の内に秘めてもそれはその人の。
 
 
そこで怒らず鉄の面皮で笑えるなら、交渉人というより二枚舌の妖怪かなにかであろう。
まあ、手を出したのはまずかったが。ビッグオーを呼ばないだけガマンした方か・・・。
 
 
しかし、思わぬかたちで判明したタイムリース社の真の実力、あの戦力・・・・・・・味方に引き込めればどれほど・・・・とも思うのは職業柄やもうえまい。戦力の差し引き手配は軍師の仕事。単純な探しものより、グッと燃えるものがある。
 
 
 
そこから、城田氏と紫東遥の仕事だった。
 
 
すっかりブレイクしこじれてしまった、タイムリース社のハートをいただきマンボしてしまわねばならない。ダメそうならロンド・ベルにまわしてもいいしそっちの方が無難かも、と葛城ミサトは言ったのだが
 
 
 
・・・・・・・・ここで、この作戦ペアが働かぬわけもない。