スーパーロボット七つ目大戦γ
 
 
<タイムボカンルート>
 
 

 
 
 
「うーむ・・・・」
 
タイムリース社の喫茶室にて、イッパツマンこと豪 速九がむつかしい顔をしていた。
 
 
もちろん今は強化スーツのイッパツマン姿ではなく、会社の制服である。ちなみに、名前の読み方は「ごう そっきゅう」。その名のとおりの、山本まさゆき先生の名曲にふさわしい勇気と正義と熱き血潮の持ち主である。かといってそれはいわゆる三点セットで単純バカであるということではないので、会社員としていろいろ考えてむつかしい顔になることがあってもおかしくはない。おかしくはないが・・・めずらしくは、あった。
 
 
「あら、豪くん。めずらしいわね・・・ホームランバーが溶けているわよ」
 
そこに星ハルカ、当然だがこちらも強化スーツ姿ではない、が、やってきた。こちらは美女らしく、薫り高い紅茶だった。
 
 
「ああ、ハルカさん・・・・・うーむ、ハズレか・・・・」
 
もちろん、星ハルカにハズレ呼ばわりしたわけではなく、溶けてしまったホームランバーの棒のことだ。それほどの時間、ぼんやりするというのは彼にしては珍しい。なにせ彼は豪速九。剛速球な人物なのだ。なによりイッパツマンでもあるし。
 
 
「あのネゴシエイターさんの一件ね?」
 
イッパツウーマンでなくとも、それくらいは見抜ける。正確には、その後の、巨大ロボットのパイロットだという子供達に説教したことだろう。あの時点では間違いではなかったけれど、あとでいろいろ分かったところによると、あの子たちは巨大な力の操り手としてそれなりの自覚を有しているし、あの局面でネゴシエイターと同行していたのは単に本拠地に帰るルートが一緒であっただけで、交渉そのものにはノータッチで何も知らされていなかったらしい。豪くんにその場で大いに言い返したかったことだろうに、自分たちの立場をよく承知していたため、ひたすら黙って剛速球な言葉に耐えていた。
 
豪くんは豪くんで子供達の将来を心配して、ああきつく言ったのだけど・・・・
ここまで気にしているとなると、直接に指摘しにくいものがある。伝わるだろうけど。
 
 
「そうなんだ・・・・僕は、あの子たちに言い過ぎてしまった・・・・」
 
ドロン・ベル、ロボ・クラナド、二つの看板を提げながら、てひどい敗北を喫して深手を癒しているというロンド・ベルのサポートとして、影から悪党軍団と戦っているという組織にパイロットとして所属しているあの子供達・・・・・・あえて正義の花道を歩まず、日陰の黒子をこなしているあの子たちに、状況的に仕方がないとはいえ、心を、誇りを、傷つけるようなことを、言ってしまった・・・・・それを、豪 速九は気に病んでいる。
 
 
巨大ロボットの無言の圧力をもってして要求を通すような輩、にはなってほしくなかった。
 
しかし!、あの時、見抜くべきだったのだ。あの子たちはそんなことはしない!!、と。
あの純粋な瞳の輝きから、そんなことは、理解するべきだったのだ!!
己の名誉を守るため、どんなにか、言い返したかっただろう、だが、それをしなかった。
清潔、いや、あえて、子供であろうとこう言おう、高潔、と。その精神があった。
 
 
そんなことを感じ取れないのであれば、それこそ・・・・・・ロボットだ。
それも、自分たちがのぞまない形の、ロボットだ。夢の血がかよわない、機械人形。
 
 
出来れば、子供達には謝りたい・・・・・・・・・
 
 
だが、会社員としてはいろいろとむつかしいところで。ヒゲのない部長が殴られたのは事実であり、状況を鎮めるために第三者組織が仲裁に入って今後の調整を行っている現状ではイッパツマンでもある自分がそんな気儘なマネも出来ない。また根本的に、タイムリース社自体が悪の手助けをしてしまったかもしれない、という、ほぼ確定事実もこれまた気が重く。ロンド・ベルの敗戦の直接原因が関係する、となればどれほどの影響があるか。
このことが公、どころか、ちょっとでも外部に漏れた日には・・・・ここにはそれを我が手にせんと悪党軍団が押し寄せるのは目に見えている。弱体化しているロンド・ベルの救援があろうとも戦場になるだろう。もしや、シュバルツバルトなる依頼主が引き上げ要請をかけ全く違う場所へ隠匿してしまう可能性だってある。タイムリース社的にはそれが一番無難であるが・・・・そうなれば。
 
 
それは、会社をまるごとコナゴナにするほどの<時を越えた爆弾>だ。
 
いうなれば、”タイムボカン”。
 
 
上ではそのタイムボカンをどうするか、会議が行われている。
会社を守るか、正義に組みするか、はたまた知らぬ存ぜぬを貫くか・・・・
 
 
 
「豪さん、大変!!」
 
言いながら乙女らしからぬ速度で慌てて駆け込んできたのは、放夢ラン。「たいへんだ、たいへんだー」「こわいよ、こわいよ、絶対逆ウラミの仕返しだよあれ」続いてヤカン人形っぽいロボット、2−3(ツースリー)と十歳にもならぬ子供のハル坊。三人そろってトッキュウザウルスやマンモスで荷を運ぶ、運搬スタッフであった。たいてい、彼女たちに危機が訪れるとイッパツマンの出番となるわけだが・・・・・ここは、社内である。そうそう危険なことは起こるまい。この間のようなことは・・・・・まさか
 
 
「ランちゃん、まさか」
「このあいだの・・・黒いアンドロイドの女の子一人だけなんだけど・・・・棺桶を担いでて・・・正面エントランスから入ってきて無表情で無言なんだけど・・・誰にも止められないの!」
 
言うまでもなく、ネゴシエイターとその一行は出入り接触禁止に決まっている。あちらの首領とも話がついているし、上で会議中にこんな騒ぎとなれば・・・・・豪速九と星ハルカはアイコンタクトする。考えて結論は同じ。ただ、分からぬ要素は
 
 
「棺桶・・・?いや考えている場合じゃないな、誰も危害は加えられていないんだね?」
「というか、こわくて誰も近寄れないわ・・・・・もし、ハル坊のいうようなことだったら豪さんハルカさん・・・!」
 
狂ったアンドロイドの逆恨みの仕返し、となれば、標的は知れきっている。
だから慌てて知らせにきたのだろうが、乙女の愛する男はイッパツマンでもある。
負けるはずもないが、負けたこともある。まさか、ということは、ある。だが、
 
「分かった。僕が行こう」
風より速い翼をもち炎より熱い心をもつ逆転男が、逃げ隠れなどするはずもない。
 
「豪くん、わたしも」
海よりも深い謎めいた愛を、もっているかもしれない逆転女が同行を告げたが
 
「ハルカさんは、会議室へ。もしかしたら二面作戦かもしれない・・・ヒゲノ部長たちを」
 
「・・ええ、わかったわ」
 
もし、そうであるならドロン・ベル、という組織、あの子供達が所属している組織は・・・・・・・紛れもなく、狂っている。三冠王、逆転王の力をもってしてでも潰す。
 
その時の、豪 速九の瞳は、宇宙をも恐れない真実を宿してメラメラ燃えていた。
幸せを呼ぶことを後回しにしてでも、この暴挙を許す気などなかった。