スーパーロボット七つ目大戦γ
 
 
<黄雷のガクトゥーンルート2>
 
 

 
 
行ったり 来たり
 
来たり 行ったり
 
 
まっ昼間の往来で体格のいい男がずいぶん長いことそんなことをしても、かろうじて不審がられず警察に通報もされないのは、その黒い装いと真剣極まる表情のせいであっただろうか・・・・重大な商取引のため、というよりは、子供が生まれるのを病院の廊下でひたすら待つだけの父親の祈りめいたそれ。
 
 
 
「むちゃくちゃ目立つんだけど・・・・・」
 
タイムリース社の中からふと窓の外を見て気づいた惣流アスカがマンガのような大玉の冷や汗をかきながら。いい大人がああいうことをされると・・・・とはいえ、見苦しいの一言で斬り捨てられないのは、黒の男の純情がなんとはなしに分かるゆえ。もちろん口に出したりはしないけれど。なんのためにあんな居ても立ってもいられないのは。
 
 
「・・・・・・・・・」
上から見たから分かったけれど、そのロジャー・スミスをビル影から執事のノーマンさんが見守っている。うーむ・・・・これはもう中に入ってもらった方がいろいろいいんじゃにないかとか思うけど、そんな立場じゃないしなあ・・・。
 
 
「おや、どうかしたかい?」
 
爽やか。爽やか一択、といった声は、豪 速九。その正体はイッパツマン、いや、イッパツマンの正体がこの人、というべきか。まあ、ネタバレになるかもだからどちらでも。
声のイメージそのまま、イッパツマンのイメージそのままの爽やか熱血マン。学校の教師だったらものすごく人気がでるだろうなー、と思う。若いけどものすごく頼りになりそう。
もう売約物件らしいけど、まあ、それはいい。
 
 
「あ、いえ。とりあえず、ここのあたりは平和だなー、と」
 
てきとうに誤魔化した。今のイッパツ、いやさ、豪さんならば、言えば話を通してくれるかもしれないが、ロジャー・スミスにもプライドがあるだろうし。
 
「そうか・・・君たちはそのように感じているんだな・・・」
たぶん立派な方向になんか誤解されたようだが、訂正しようもないから訂正しない。
 
 
第一印象は、まあ<最悪>だったけど・・・・・・お互いでもあったし、誤解の部分が修正されればきちんと謝ってもくれた。深々と頭を下げて。不撓不屈の正義のヒーローにそこまでされては機嫌も治らざるをえない。大っぴらにはできないが、水面下で自分たちドロン・ベルとの協力関係が結ばれたとなればなおさら。実作業はドロシーに任せるしかないが、何かあった場合のフォロー、というより、お迎え役にこうして自分たちが配置されているわけで。首尾良く行けば、精神コマンダーゼロのパーツが全てそろい、封印されていたロンド・ベルのパイロット達の精神コマンドも解放される。
 
 
そうなれば、悪党の豊作だった今年も正義の稲刈りが始まる。
 
 
「正義は最後には、必ず、勝つ」・・・・・・・いつものように。そうでなくては。
 
 
自分たちの参戦は微妙であったけれど、こういった戦い方もあるし重要だ。
 
 
・・・・・ゆえに、そのタイミングを狙われる・・・・それもかなり悪だ・・・・・悪の王道といえるだろう、危険性もある。なにせ、こちらの動きに気づいてシュバルツバルト、隠した当人が他の悪党組織にこのことをばらす可能性はある。悪党は悪党らしく一枚岩ではないらしいが、こっちにとられるよりはましだ、と判断してもおかしくはないわけで。
 
 
今のところは、不穏な動きはない。・・・・・味方の動きが怪しいけれど。
 
 
 
「ここは検品室だよ。運ぶ前に物品の状態をチェックするんだ」
「あ!あれって原始時代の石のお金?すごい、すごいよ綾人ちゃん!」
「すごく繊細な手つきだ・・・まるで美術品を扱うような・・・」
「つばさちゃん!」
「ヒカルちゃん!来てよかったねー、最初はちょっとこわかったけど」
「ごめんごめん、あの時は君たちの話も聞かず、怒鳴ってしまって本当に悪かった」
 
こうして、神名綾人の希望で社内の見学をさせてもらえるくらいに平穏。まあ、遊びにきたわけではない、あくまで待機、ドロシーの任務成功後の「護衛」が仕事なわけだけど。
ほいほい社内を離れるわけにもいかないし、あてがわれた人目のない室内でじっとするだけ、というのも・・・・まあ、あたしは平気だけど。綾人とか玲香とかはそのあたり慣れてないし。つばさヒカルは言うまでもない。下手な博物館よりもはるかに見応えがある。
けどまあ、トッキューザウルスとか三冠王とかまで見せてもらえるとはなー。
 
ネルフとはまた違った、組織の人の働く姿を見る、というのも・・・・なんというか、楽しい、というか、こんな未来もあるのか、などと、ふと思ったり。あのバカにイッパツスーツは、ちょっと”ない”けど・・・・いや、あと十年くらいたてばその間鍛えれば・・・・・・
 
 
「・・・・ロジャーさんのこと、かしら」
 
イッパツウーマ・・・いや、星ハルカさんにそっと囁かれた。すいません、もうちょっと子供みたいなことを考えていました。けど、こんな女性にいまさら違うともいえない。
 
「いえ、分かっていますから」
 
と、これまた誤魔化しておく。嘘じゃあ、ないから。
 
 
「でも、あの距離が一番いいんじゃないか、とも、思うわね・・・・殿方は」
 
なんとも意味深な笑みを浮かべられた。引率役がいなくて不安か?などと子供扱いされないのはいいけど、この笑みもちょっと謎すぎて。ミサトが浮かべることはまあ、なさそうな。東洋の菩薩的というか。いや、他になんとか言ったっけか。まあ、いいか。
 
今のところ、上手くいっている・・・・・
 
目立たぬ影働きのゆえ、あからさまな邪魔もはいらずにすんでいる。
 
ただ、これで済むのか・・・・・なんとはなしに、不安がある。貧乏性だと笑わば笑え。
 
ロジャー・スミスもあの調子では、おそらくモノを考えていない。
女の、ドロシーのことだけ。
あんな心理状態で思考できるのは機械だろう。
まさか、悪党の手のひらの上ってことはないわよね・・・・・ミサトにしても、基本ベースは使徒殲滅なわけだし・・・
 
 
「さあ、次に行こう!分からないことや興味がわいたことは僕かハルカさんにすぐに尋ねてくれよ。今日は様子見なんか必要ない、初球からドンドン振っていこう!」
「「「「はーい!」」」」」
 
イッパツマン自らの案内とは、よく考えたらなんとも豪華な見学であるけれど、そんなわけでいまひとつ気が上がらない惣流アスカであった。ドロシーを信用していないわけではないのだけど・・・・
 
 
 
その頃、1908年のマルセイユでは