スーパーロボット七つ目大戦γ
 
 
<鉄人倶楽部ルート3>
 
 

 
 
「覚えてろよ!このままじゃすまさないからなっ!!」
 
 
ロンド・ベルのエースにしては芸のないというか限りなく古くさいオールド台詞でもって逃げ帰るアムロ氏。それに続くブライト氏の方はようやく状況を飲み込めてきたようだが、とくに言い返すこともなく・・・その細い目を見開きチラチラとこぼれ見えるのはヤクザも道を譲りそうな凶暴な光・・・こっちの方が厄介そうだな・・・そんなことを考えながら、依頼人になりそこねた単に無礼な訪問者たちを見送る私は・・・・・
 
 
 
人造寺、三郎(じんぞうじ、さぶろう)
 
 
探偵だ。
 
 
そろそろ覚えてくれたことと思う。
 
 
「あーあーあ!。先生、いいんですか、あのまま帰しちゃって!ああいう人たちはしつこいですよ。そりゃもう!」
字面だけみれば困っていそうだが、どう見ても嬉しそうにしか見えないこのアタマにアンテナ生やした妙な・・・いや、テンション高めの直感力に優れた何かと頼りになりそうな女性が、助手の能御苑、洋子(のうみその、ようこ)君だ。こちらもそろそろ忘れられないのではないかと思う。
 
 
「構わない。とにかく、気分を変えることが必要だろう・・・・このままでは、次の依頼人が来た時に、平静な気持ちで対することが難しいかもしれないからな・・・洋子君、コーヒーを頼めるか」
 
「構わないってどうしてですか!ぴきーん!アンテナに反応しましたよ、先生、何か隠してらっしゃいますね!教えてください!じゃないと、コーヒーを淹れてあげませんよ!先生の大好きな、中毒直前の、この洋子特製の禁断ブラックコーヒーを!!」
 
 
直感力はすばらしい。というか、ここまで長年つきあっていれてば(助手として)別に言わなくても分かるところだろう・・・・少しはそのアンテナに頼らずに自分で考えて欲しいところだが・・・・・それから、別に私はコーヒー中毒というわけではない。こんな時はほっこり日本茶でも飲みたいところなのだが。
 
 
「教えてください!教えてください!実際のトコロ、あんなカンシャク持ちの天然パーマやくたびれきった細目のオッサンなんか束になってかかってきても全然怖くありませんが!教えてくれないなんて、いじわるです、先生!あんまりいじわるすると、こっちも洋子特製の、純愛ホワイトコーヒーを淹れちゃいますよ!!それでもいいんですか!」
 
「うお!?それは勘弁してくれたまえ!」
 
 
洋子君特製のホワイトコーヒー、それは何を勘違いしたのか、どこかで拾ったイケナイ本でも読んだのか、メイドの格好をした洋子君がミルクを・・・・・・・と、いかんいかん、ここまでにしておこう、ここであの地獄の記憶を再生することは、明らかに脳に良くない。
 
・・・?、それは単なる牛乳いれすぎのカフェオレではないか?と。分からない推理ではないが、違う。まあ、世の中、知らなくていいこともある。君とはこれからも付き合っていこうと思うから、精神衛生も考えてここはあえて秘密にしておこう。・・・どうしてもその白い地獄を体験したいなら、我が事務所に遊びにきてくれ。洋子君に留守中の接客を任せておこう。私はその地獄の現出を避けるため、趣味ではない謎解きを披露することにする。
 
 
「あのアムロ氏はニセモノだ。おそらくブライト氏もそうだろう・・・・よってロンド・ベルに恨みを買うことも復讐されることもない。洋子君が心配することはなにもない・・・・・・彼らがニセモノという根拠は・・・」
 
「いや、それは分かり切っているからいいんですけど!
だって顔が違うし」
 
 
「なんだと?」
せっかく彼らがニセモノであると、どうして私が見破ったのか、探偵らしく説明しようとしたところを身も蓋もないことを洋子君が言い出す。アニメの推理もので声優から犯人役を当てるような真似をして・・・・それでは雰囲気もなにもない・・・・
 
 
「それに、あんな有名人が自分で探偵に頼みにくるわけないじゃないですか!。奥さんの浮気調査ってんならまだわかりますけど!本物はたぶん、もー大変で大変で青色吐息で青ガエルみたいな顔色してますよ、こんなところに出歩くヒマも元気もあるわけねー!ですよ。あんな、誰かに変装してモノを頼みに来るなんてのはまともな相手じゃないし、そんなのを殴って恨みを買わないなんてありえないですし!うら若きかよわい女性のわたしが帰り道に襲われたりしたら、先生どーしてくれるんですか!責任とってくれるんですか!、とそーゆー話をしてるんですよ!」
 
 
うーむ・・・・・・なんともコメントに困るようなことを言ってくれるなこの助手は。
 
まあ、先ほどの彼らがどこの所属か、はだいたい察しがつく。おそらく・・・・
 
 
 
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン・・・・・
 
ズシンッ
 
 
いきなり、建物が揺れた。地震・・・ではないのはすぐに分かった。先んじて耳にした市街地でも遠慮なく吹かしたホバーの音といい、窓からこちらをのぞく小豆色のモビルスーツのモノアイといい、原因はすぐに分かった。
 
 
「ティターンズのマラサイですよ、先生!何しに来たんでしょう。もしかして依頼?」
 
「・・・それはないだろうから、コーヒーの用意は必要ないぞ、洋子君」
 
 
マラサイというのは一言でいえば、「編み笠をかぶったザク」だ。連邦軍のくせにかのジオン軍風のモノアイになっている。もちろん量産機だ。機体性能ですべてが決まるわけではないが、こんな街中にモビルスーツを乗り付けてくるレベルの人間が乗っている以上、機体のせいではないが、すでに勝負は決している。己で負けフラグをたてたようなもの。
どこのバカだろうか・・・と考えるまでもない。
 
 
「”さきほど殴られた仕返しにきてやったぞ!!出てこい、ニセモノ探偵!!”」
 
マラサイが怒鳴った。正確にはマラサイの中にいる人間がわめいたわけだが。
こうして量産機イコール雑魚、という悲しい等号がつけられる。理不尽ではあるが。
 
「”軍人への暴行罪と、偽名での詐欺行為の疑いがある。大人しく出てきてもらおう”」
こっちは旧・ブライト氏、とでも言った方がいいのか。低い声に込められたドス黒い意思は大人しくついていっても何一つ物事が好転しないことを確信させる。単純な偽アムロよりストレス溜まって一般人に向けるはけ口を探していそうなこっちの方が危なそうだ。
 
ニセモノはそっちだろう、と言い返すのもむなしい。こんなところで言い合いをしてもこのビルの他のテナントにも迷惑がかかる・・・。私は、決断した。
 
 
 
「少し、出てくる・・・すぐに戻るよ、洋子君」
 
 
そうハードボイルドに、・・・自分で言うのもなんだが、あまりにもハードボイルドに決めすぎてしまった私に、
 
「おともしますよ!先生!!」
 
得意の”得物”をもってあっけらかんと即答する洋子君。そんなに素早く返答されると私がものすごく頼りない感じで、逆に君がものすごく頼りで有能な感じなのだが・・・・・
 
 
まあ、周囲への影響を考えると、早々に片付けた方がいい・・・・・当然、雑魚は雑魚らしく一匹ではなく、部隊でやってきていた。マラサイ×5。こんなことをするからティターンズは市民から嫌われ、同じ悪党軍団の評価すらも低いのだ。巨大ロボット相手ならともかく、人型サイズを相手にモビルスーツ五機とは・・・よくもここまでチキンになれるものだ、と感心する・・。油断がない悪党の仕事ぶりを評価するべきか・・・・・さて。
 
 
 
この私が・・・・・・
 
 
伊達に「人造寺」を名乗っていないことを・・・
 
 
連中に思い知らせてやるとするか・・・・・