スーパーロボット七つ目大戦γ
 
 
<鉄人倶楽部ルート5>
 
 

 
 
私の名は人造寺三郎・・・・・
 
 
今現在進行形でモビルスーツとストリートファイトなどをしているが、探偵だ。
 
正確に言えば、「していた」ということになるだろう。さきほど自分の分は片付けてしまい、これから出番の助手の洋子君ならば、まあ、彼女の得意の得物であれば・・・モビルスーツ程度ならば手こずることもなかろうし、それを操縦するパイロットの器量も知れている・・・・これは別にニュータイプであるとかオールドタイプであるとかスペシャルであるとかマイスターであるとかそういうことではない。
 
 
万が一、洋子君が敗れるようなことがあれば、私が代わることになるだろうが・・・・
 
物事を楽観視できないのは、探偵の職業病だろう・・・・・天地がひっくり返ったりいきなり巨大隕石が落下してきたらどうしようとかそこまで考えるのはたぶん天文学者の仕事になると思うが・・・・何が言いたいのかというと、この局面で洋子君が、あの「得物」を持ち出してきた洋子君がノーマルな量産型モビルスーツに負ける確率は、そんなレベルである。それを楽観だと、洋子君を知らない人間は言うのだろうが・・・・・・
 
 
 
「ある飛行機の操縦席に機長さんと副機長さんが離陸前にくつろいでいました」
 
”得物”をもったままニセブライト氏の乗ったマラサイに向かっていきなりこんなことを言い出す洋子君。
 
頭にアンテナを生やしている外見から、何か元々かわいそうな女が恐怖のあまりにさらにかわいそうな感じになってしまったのだと知らぬ者がそう思ったのだとしても無理はない。”何をこんな女に相手させようとしている”とモノアイがこちらを見るがほうっておく。わざわざ口というかマイクに出して言わないのは、さきほどのトークプロファイルスラッシュの威力を見ているからだろう。目の前で見せても頭の固い軍人はそれを信じずにつけこまさせてくれるものだが。ニセブライト氏はそれよりは柔軟らしい。
臨機応変も部隊長クラスには要求される資質であるのだろう・・・・・・
 
 
「そこに、許可をもらったらしい父子が操縦席にやってきて、しらばく機長さんと談笑していました」
 
いきなり現れればそれはハイジャック以外のなにものでもなかろうが、その父子は特別に許可をもらったらしい。いくら乗客サービスでも普通、そこまではやらない。というか、普通に聞けばかなりつっこみどころのある話だが、マラサイは黙っている。何の真似だ、と問うことすらしない。警戒しているのだろう。よほどTPSがインパクトがあったらしい。敵の力を侮らないのも部隊長クラスに求められる資質だろう・・・・まあ、巨大ロボットにも乗らぬ我々相手に自分たちだけモビルスーツを持ち出してくる辺り、そこらへんは文句なしに合格だろう。飛び級ができるほどだ。
 
 
「話も終わり、父子が操縦席から出て行ったあと、機長さんは副機長さんに言いました。”あの子が私の息子だ”と。さて、これは一体どういうことでしょう?制限時間は三十秒です」
 
 
ニセブライト氏のマラサイに返答はなし。あくまで言葉は返さないつもりらしい。制限時間を設けられても釣られる気はないようだ。敵のブラフ、はったりにまんまとひっかからない冷静さ。それもまた必要とされる事項であるだろう。単に、洋子君の言っていることが理解できない、または本気で、このレベルのなぞなぞが解けないとか・・・・・・。
街中で問答無用の発砲をしてこないあたりは、評価してもいいが・・・・・・
向こうにしてみれば、モビルスーツを見せてやればこちらが泣いて謝るとでも思ったのだろうが・・・・・・
 
 
ちっ、ちっ、ちっ、ちっ、ちっ、ちっ・・・・・・・時の過ぎゆくままに時は過ぎていく。
 
 
モビルスーツ・マラサイと頭からアンテナ生やした奇妙な、「ぎろ。先生?」い、いやさキュートな、助手の洋子君との睨み合い。一触即発のキナ臭さには違いないのだが、どちらも相手をどこか小馬鹿にした感のある、そのまま何も起こらずすれ違って終わるのではないか、というズレもあった。なんせスケールが違いすぎる。大人と子供以上の、そのまんまモビルスーツと人型サイズなのだから。
 
 
ちっ、ちっ、ちっ、ちっ、ちっ、ちっ・・・・・・・時の過ぎゆくままに時は過ぎていき。
 
 
そして、タイムアップとなる。やれやれ・・・・これで勝負はついた。
 
 
「あーあ!。分かりませんでしたか?分かりませんでしたね!?・・・・というわけで!」
「フン。単にそちらの術中にはまらなかっただけのことだ。そのレベルの謎々が解けなかったからといってどうだというのだ。そろそろ修せ・・」
 
 
ぺこん、と洋子君は答えも発表せず、手にした”得物”でマラサイの足を叩いた。
それだけで。そのたった一撃で。
 
 
つぶされた。
 
 
具体的に言うと、平面マラサイ。ど根性があるかどうかは知らないが、編み笠の頭頂部分から下向きへのとんでもない過重がかかりそのままいけば頭身を縮めたディフォルメキャラクターへの道もあったのだろうが、腰から膝のあたりで耐えきれなくなったのだろう、立っていることすらできなくなっても叩き潰す力は消えもせずにそのまんまぺしゃりこと潰し通した。折り紙のやっこさんに近いかも知れない。まあ、これで乗っている人間もただではすむまいが、そのへんは洋子君は手加減をしているのか、命を奪うことまではない。
 
・・・・・・こうなると、モビルスーツもちょっとみんなでがんばりました的な文化祭オブジェとえらく変わらない。むろん、内部のパイロットの変容は推して知るべしだが。
 
 
「$%#&%$#%&’()!!!???」
ニセブライト氏の悲鳴があがる。一応、声は出せるらしい。意味はさっぱり分からないが。
おそらく、元に戻せとかなんとかそのあたりか、現状を認識できていないかのいずれだとは思うのだが・・・・あいにく、それは洋子君にしかどうにもできない。
 
 
”謎の事件棒”・・・・・・・(なぞのじけんぼう、と読む。まあ、ルビをふることもないだろうが、一応、念のためだ。君が日本語に不慣れな外国人の可能性だってある・・・)
 
 
洋子君の得物の名前である。ぱっと見ただけではただの棒っきれに見えるが、威力のほどは見てのとおり。ほかのティターンズたちはすっかり恐れ入って逃げ帰ってしまった。二平面マラサイもそのおりに吹いたらしい臆病風に巻かれたのだろう、どこかへ消えた。
 
 
謎の事件棒・・・・その名の通り、洋子君の出す「なぞなぞ」が時間内に解けなければ、モビルスーツ程度なら一撃で原型もとどめないほどの威力を誇る。噂に聞くロンド・ベルのスーパーロボットの必殺技レベルの威力があるのではないだろうか。いや、冗談抜きで。裁きの光でも、炎まとう剣でもなく、カットイン演出も何もない、「棒」だが。
そんなものを専用装備として持ち歩けるのだから、この助手がいい気になるのも無理はない。鬼に金棒、ナントカに刃物、洋子君に謎の事件棒だ。
 
 
だが、謎を解かれてしまうと、その威力は激減する。というか、そのものずばりの棒としての攻撃力しか発揮しない。必殺どころか、いきなり子供のチャンバラと化すわけだ。
 
相手を見て使わないと、とんでもないことになるリスキーバクチ兵器である。
そう考えると恐ろしくて、私などはとても使えたものではないが・・・・・というか、おそらくこんなバクチが平然と打てるのは洋子君くらいなものだろう。
 
 
相手の防御力を剃り剥ぎながら無効化していく私の「トークプロファイルスラッシュ」と、
この洋子君の、問答必要の、相手に謎さえ解かれなければスーパーロボット必殺級の威力を誇る「謎の事件棒」のコンビネーション攻撃に耐えきれる者はそうはいないだろう。
 
今のところそんな必要もなかったので、実行してみたことはないが。探偵がそんな底無し体力の宇宙大王のようなボス敵とやり合う局面もないことであるし。
おそらく、さらに調子に乗るだろうし・・・・、どこかのアンテナ頭に生やした助手が。
探偵としては、そんな機会はないにこしたことはない。敵をそこまで殲滅するのは明らかに探偵の仕事ではないし。世が平和すぎても探偵の仕事はないが、こんな降りかかる火の粉を払ったいざこざも金になるわけではない。まあ、なまみたちは喜んでくれたが・・・・・これでティターンズに目をつけられても面倒なことになる。すでになったと考えた方がいいか・・・・・
 
 
「先生、やりましたね!」洋子君は誇らしげだが・・・・さて、どうしたものか・・・
 
 
私は煙草に火をつけた。銘柄はもちろん、マルボロである。
 
 
ああ、ちなみに。
 
君にはもう分かり切ったことであるとは思うが、洋子君の出したなぞなぞの答えは、「機長が女性であったから」だ。いろいろつっこみどころがあるとは思うが、ニセブライト氏もせいぜいつっこんでおけばよかったのだ。的はずれでないならそれだけ水平思考的に威力が減じていただろうに・・・・・・戦士としては不合格だったな・・・・まさに、哀・戦士・・・