スーパーロボット七つ目大戦γ
 
 
<鉄人倶楽部ルート6>
 
 

 
 
 
私の名は、人造寺三郎・・・・・
 
 
そろそろ、名前にルビをふったり、職業が探偵であることなどを自己紹介する必要もないほどに、君とは馴染みになったつもりでいるが・・・・どうだろうか?
 
 
「いや先生、それはないでしょう」
 
先生、つまり雇い主であるところの私にむかってえらく断定的にダメだしをくれた彼女は(頭にアンテナが生えているのもおそらく、もう覚えてもらえているだろう)能御苑洋子君。我が人造寺探偵事務所が誇る、有能、かつ、ツボにはまりさえすればモビルスーツも一撃で潰す戦闘力を誇る人型助手だ。
 
 
「いやー、先生ったら。そんな美人助手だなんて〜!さすが真実を追求する名探偵ですね!」
 
地の文、というか、私の思考を誤読するのは、やはりあのアンテナのせいなのだろうか?
私にも謎だし。依頼者もいないので解明するつもりもない。その点では買い被りといえる。
それはともかく。
 
 
「ところで洋子君、”それはない”、というのは一体どういうことだろうか?」
 
洋子君のいうことにいちいち付き合っていたら、仕事にも体にも頭にもいろんなところに良くないのだが、君とのことを言われてはそのまま放置というわけにもいかない。
 
 
「だって先生、あれからもう25年も経っているんですもの。いくらなんでももう、先生の一方的な、いにしえの記憶、といいますか」
 
「こころはきえない!!」
 
「いえいえ、伏せられた真実、と申しましょうか・・・・はたまた灰とダイアモンドといいましょうか、赤い蝶、といいましょうか・・・・」
 
そこまでいくと、分かる人にしか分からないぞ。それになにより
 
 
「なぜいきなり25年が経過している設定になってるんだ!!そうなると君の年齢だって」
 
 
「わたしたちは年をとらないんですよ。とらないんですよ。大事なことだから二度いいました。すみかさんとなまみさんがどうだか知りませんけど・・・・・でゅふふ」
 
なんだその笑い方は。似合いすぎてこわい。とはいえ、確かに25年も音沙汰がなかったらさすがの君にも愛想づかしされても仕方がない・・・・のだが
 
 
 
「25周年なのは、神宮寺先生のことだろう。めでたいことだ」
 
種をあかせば、こんなものだ。叙述トリックでもなんでもないが。世代交代ガンダムが最近の流行でもあるし。「きたのか?」などと少々、まぎらわしかっただろうか。しかし、事務所の扉を開けたらほんとに四半世紀経過していたら怖いな・・・・・。
 
「クワガタもチョップしてませんし、大丈夫でしょう」
 
何を言っているのかこの女、と思ったかもしれないが、別に探偵の隠語ではなく、洋子君の好きな歌の歌詞にそういうのがあるらしいのだ。スルーしてくれればいい。その間、私も先ほど洋子君が淹れてくれたコーヒーを・・・
 
 
「にしても、25周年記念として、神宮寺先生と御苑さんはゴールインすると思ったんですけど」
 
「!!」
鼻から噴き出しそうになったが、なんとか耐えた。ここは探偵事務所。スピーカーがなくともジャジーな音楽が流れる空間だ。ここで「かもたつ」など流すわけにはいかない・・
・・・げほっ、ごほっ、がはっ・・・・・・
 
 
「あらあら、先生。どうされたんですか」
 
危険すぎる話題だが、この助手は素で気づいていないらしい。直感が優れているのと直感でしか物を言わないのは違うのだが・・・。なんというかそれは自己否定に近いものがあるだろう・・・・これまた最近流行のネタCMではあるまいし。
 
「いくらなんでももう25年ですよ?そうなったっていいじゃないですか。ここまでの大きな人生イベントが解雇と再雇用だけしかないなんて。もうちょっとなんかこう・・・・」
 
「いやいや、洋子君いいから」
いくらなんでもはこっちだ。こんな会話を聞かされる方はたまったものではない。
そうだろう?
 
「あな・・・いえ、先生、とか、つい事務所内で言ってみたりして言い直したりして!で、神宮寺先生も、洋子君、とかつい言ったりして御苑さんの機嫌を損ねたりするわけです!」
 
・・・・・なんでそんなに嬉しそうなんだ君は。
 
「とはいえ、神宮寺先生は実は神宮寺コンツェルンの三男坊ですからねー、実際、結婚ともなると周りが黙ってなかったりするんでしょうね。今まで沈黙を守っていた国際的大企業の力が二人の愛を引き裂きにかかったり・・・・・・!むしろ、明らかな政略結婚を押しつけられたりとか!」
 
「いやいや、洋子君そのあたりで」
もう誰もついていけてないぞ!
 
「シティーハンターじゃないんですから。あ、いや、もしかしたらそのあたりを参考にして踏み出せないのかも。AHとか。神宮寺先生がよほどのチキン設定じゃないとしたら。んー、どうですかね、先生。同じ探偵男子として」
 
「いやいや、洋子君・・・・・おや」
 
さすがに雇用主として諫めようとしたところ・・・・事務所の扉の向こうに人の気配を感じた。「あら・・・・お二人、ですね」それは洋子君もほぼ同時に。依頼人だろうか。
期せずしてこの話題を打ち切れることを感謝する。もしかしたらただの佐川男子かもしれないが。
 
 
「はいはーい、少々お待ちくださいねー」
洋子君がすぐさま迎えに出る。会話内容が危険だったりもするが、骨惜しみせず働いてくれるのは確かなのだった。
 
先の訪問者がアレな感じだったので、今度はまともな依頼人だと期待したい。
 
 
だが・・・・・
 
 
「ロンド・ベル所属、ブライト・ノアといいます」
「同じく、アムロ・レイだ」
 
再び。事務所の扉の向こうは25年先の未来などではなかったようだが・・・・・むしろ。
 
 
なんだこの復讐の輪舞は。
 
 
やりきれない・・・・・・・・私は、煙草に、火をつけた・・・・・
 
 
「あ、先生。今度は本物みたいですよ」
 
 
・・・・・・急いで消した。ハードボイルドといっても非常識なのはワケが違う。
 
 
「すいません、うちの先生、煙草吸ってないと推理力激減しますので。あれはあれでやる気の表れなんです。ご承知ください。ところで、こちら人造寺三郎探偵事務所なんですけど、神宮寺探偵事務所とお間違えでは、ございませんよね?」
 
 
洋子君にフォローされてしまった・・・・・・・地味に精神ダメージが。
 
 
「ああ。こちらで間違いないが・・・?。調査を依頼したい・・・ロボット関連に強いと聞いてきたのだが」
「なんだったら煙草も吸ってもらっても構わない。そちらの方が話が早く進むなら・・・・・おや?精神ダメージがあるようだが・・・・それほど驚かせてしまったかな」
 
 
これは確かに本物だ。本物のロンド・ベルの1,2が並んでやってきた、ということは、それだけ重要にして秘密に・・・それは、身内であろうとも・・・・せねばならぬ案件なのだろう。私は気を引き締めた。
 
 
ようやく、真の探偵の仕事が始まりそうだ・・・・・・