スーパーロボット七つ目大戦γ
 
 
<鉄人倶楽部ルート7>
 
 

 
 
私の名は人造寺三郎。ようやく本来の仕事を受けられそうな探偵だ・・・・・ヒマなのが平和な証拠の警察とちがって、事件がないといかんともしがたいのが探偵だ。
 
まあ、人が生きていく以上、トラブルとは無縁ではいられないわけ、だが。
 
依頼者、ロンド・ベルのブライト・ノア氏とアムロ・レイ氏の二名から話を聞く。
 
 
極秘の調査依頼だった。
 
 
正義のスーパーロボット軍団であるところのロンド・ベルが、今年豊作であった悪党軍団にコテンパンにやられたのは探偵の情報網を使わなくとも聞き及んでいる。軍団の立て直しに忙しいであろうこの二名がわざわざ探偵のところに足を運んだのは・・・・しかも、神宮寺先生のような有名どころではなく、うちのような無名に近いところに直々に・・・
 
 
異常といえば異常な話、だ。
 
 
「とある集団の素性というか・・・・・内情を探ってもらいたい」
 
 
しかも、ずいぶんとあやふやな話だ。どこかで聞いたような・・・・いや、つい先ほどか。
ニセモノと同じようなことを言うのだな、なかなかよく調べている連中だったのだ。
 
とはいえ、こちらは。
 
まるで分かっていないわけではない、むしろ、半ば以上知りながら、最後の最後に信じたくはない、というような。ブライト氏の眉間には深い谷が刻まれている。そこが正義の在処なのだろうか。余人には伺い知れない苦悩とともに。ここまで来て語るに迷う、ということも珍しくはない。
 
 
「ほう・・・」
依頼人を急かせるつもりはないが、洋子君が特製ホワイトコーヒーなどを出す前に、本題には入ってもらいたい。
 
 
「ドロン・ベル、という集団を知っているだろうか」
 
アムロ・レイ氏が切り出した。さすがに歴戦のパイロットは見極めが早い。
 
 
「ええ。ややこしい名前ではありますが」
 
名前からすると、黄色い手袋でもしてそうなふざけたニセモノ、ではあるが。
先ほどのニセモノたちが調査依頼を出してきた「謎のサポート勢力」こそ彼らのことだ。
 
 
「ロンド・ベル自体が別働隊なんだが、彼らは・・・・・」
 
「言うなれば、イリーガル、といったところでしょうか」
 
ふふ・・・言い淀む依頼者相手に余裕の探偵スマイル。これもひとつの営業テクニックだ。
 
 
#ぴきーん!#
 
 
はっきりいってただのハッタリだが、ニュータイプの琴線に触れてしまったらしい。
その反響を受けたのか「ああんっっ」コーヒーの支度をしている洋子君が変な声を出した。私もゾクッときたが。
 
 
「イリーガル・・・非合法・・・・うん、そうだな・・・・そうと、いえるな・・・・」
 
アムロ氏の歯切れが悪くなってきた。未だ眉間の皺が深いブライト氏と視線をかわす。
ブライト氏はニュータイプではないときくが、長年の付き合いで腹が読めるのだろう。
ここに任すしかないだろ?・・・・ああー、そうだな・・・やはり餅は餅屋か・・・的な
 
 
「そのドロン・ベル内部にさらに別働隊があるようなんだが・・・・・」
 
「バイカンフーみたいですな」
マトリョーシカみたいですな、とか、金太郎飴みたいですな、とか言うべきなのだろうが、ここは依頼者に合わせてみた。これも一つの営業の会話テクニックだ。
もちろん、君ならマシンロボの剣狼、バイカンフーのことも知っていることだろう。
しかし、そこまで調べがついているなら探偵に依頼することもないだろう・・・?
 
 
「その、別働隊が・・・・・犯罪を行っている、という情報が入ってきたのだ」
「信じたくはない、信じたくはないのだが・・・・・名称は異なっても、正義の志をともにしている仲間であると」
 
しかしながら、二人の顔には「とはいえ、場合によってはやるだろう。そもそもあの連中のことはよくわからないしなあー」と書いてある。探偵レベルでなくとも一般レベルの洞察力でも分かりそうなほどに。不安な相手らしい。とはいえ、そんなのは警察に行けばいいだろう。パトレイバーなどでは相手になるまいが・・・。いや、憲兵の仕事になるのか?
まあ、犯罪と言ってもいろいろだろうが・・・・こう悪役軍団が元気にのさばっている状況では法律がどうこうというのも・・・・・泥の橋のような話だ。だが、聞くしかない。
 
 
「で、その犯罪とは・・・?」
 
うまいこと断る口実を作成するためにも。戦闘中に一般市民の家をぶち壊した、とかいうことでは、おそらくないのだろうが・・・。それだと特車二課第二小隊もやっている。
 
 
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 
アムロ氏もブライト氏も即答しない。お互いの目を見ながら、どう答えるべきか、迷っている。・・・・・それほど難しい問いだろうか?これが容疑者相手ならば思いきり斬り込むタイミングであるが、今は依頼を受けてもいない(むしろ断りたい)段階だ。
待つしかないだろう。・・・・・待つ。マルボロを吸うわけにもいかないが・・・しばらく・・・あんまり待っていると洋子君のコーヒーが来てしまうので急いでほしいが。
 
 
で、口を開くに。
 
「窃盗、ということになるのだろう・・・」
「いいたくはないが、あえて、言うならば、そうなる」
 
 
なんだそれは。ただでさえ歯切れの悪いブライト氏の答えにアムロ氏がもっちりと包んでくれる。ガム入り餅、というか、ガムまん、というか。うかつに飲む込むとノドにつまって呼吸が止まりそうだ。ただの人間ではない、人造寺の私にして。
 
 
「・・・・軍人にあるまじき、胡乱な表現で申し訳ない。ただ、なんと表現すべきか迷う事態ではあるので・・・なぜ彼らは・・・」
「彼らの考えていることが、分からない・・・・・人は、やはり通じ合えない、というのか・・・・」
 
 
ただ、彼らも困っているからここにいるわけで。十全のコンディションとは言い難いのだろう。なにせ忙しい・・・試練的なハードラックワーク中なのだろうから。ここで理解を示す営業スマイルをうかべるのも探偵の仕事のうちだ。が、泥棒をつかまえるのは警察のしごとだ。口実はできたな・・・・そう腹の中で考えていたとき。
 
 
「いや、窃盗自体を責めているわけでは、ないのです。むしろ、その行動力、手腕を誉めたいくらいで・・・・語弊はありますが」
 
「ほう」
どうも予想とは違う展開だ。そうなると、盗んだ相手、というのは・・・・
 
「三星同盟軍・・・・・彼らは、そこから”あるもの”を盗み出すことに、成功した、・・・・”らしい”」
 
敵である悪者軍団から何を奪おうと、それでロンド・ベルのトップの口が重くなる理由もないだろう。ニセモノと違い、勘違いのプライドなどの不要物を貼り付ける必要もない。
注意を払うべきは、続くアムロ氏のセリフの最後・・・・”らしい”の部分だ。
 
 
どういうことなのか?むろん、君には分かるだろうから・・・・、
 
 
ここで「つづく」にさせてもらおう。