スーパーロボット七つ目大戦γ
 
 
<キス・オブ・鉄人ルート>
 
 

 
 
 
液体の満ちた巨大な試験管には、角の生えた女が入っていた。
 
 
泡の形で呼吸の証があるので生きてはいるようだが、虎皮のビキニですらなく一糸まとわぬ姿であるので、男が見てはならぬ部分にはいかにも応急的にテープで”隠し”がいれてあった。
 
 
「まさか、うまくいっちゃうなんてねー・・・・」
 
無遠慮な視線、つまりはガン見であるところの葛城ミサトが指揮官にあるまじきことを言ったのは、さすがにこの場に実働部隊のメンバーがいないからだ。
 
 
ここは、鳥取砂丘にあるという第二バベルの塔こと、バビルの塔のとある隠し部屋。
 
 
葛城ミサトをはじめとしたドロン・ベルの首脳陣が集まっていた。正確にはそれに含まれないがロジャー・スミスと一心同体な感じかつ記録役としてR・ドロシーもいた。逆に、いてもおかしくない貫禄であるが正太翁は遠慮して外していた。
 
 
「彼女が・・・リー・カザリーン・・・・」
 
葛城ミサトほどではないが、じいっと試験管の中の角女を見るのはレフィーナ艦長。
ヒリュウ改艦長としての視線でどのあたりをじいっと見、何を考えているのか。
 
 
「な、なんにせよ、この作戦の成功は、かなりのアドバンテージになることでしょう」
「そ、そうですな。困難な作戦だったが、彼らはよくやってくれた・・・・」
 
巨大試験管からわざとらしく視線を外しながら言うのは、ロジャー・スミスと城田氏である。咳もせずナチュラルに試験管と正対するショーン副長とはそこらへんが違う。
 
 
「バベルの塔に比べれば、なんてことはなかった、とか言ってたけど・・・・・凄いわ」
紫東遥が素直に感心していた。これもまた実働部隊がいればなかなか言いにくい。
 
 
リー・カザリーンとは、ボアザン星指折りの生物学者にして将軍の地位ももつ、獣士の素体の育成もしたりする重要人物である。もちろん、こんなドロン・ベルの陣地内にいていいはずもない。ここにいるのは・・・・リー・カザリーンの意思では、むろんない。意識ないし。
 
 
ドロン・ベルの編成した偵察部隊が、彼女を「誘拐」してきたからであった。
生きてはいるため、死体を盗んできた、というのは正解ではない。あながち間違い、でもないのだが・・・・
 
 
「ほんとに、うまくいくとはなー・・・・」
 
またしても指揮官がとんでもないことを言った。だが、他の者もそれを咎めない。
口に出すかは別として、同感では、あったからだ。大金星、どこの話ではない。一億円あたってる宝くじを拾いました、レベルの幸運だった。精神コマンドではない方のリアルの。
 
 
また、リアル犯罪でもある。わざわざ隠し部屋で集まっているのも・・・・・
 
 
「でも、これで・・・・・彼らの、ロンド・ベルのパイロット達の精神コマンドは・・・・・・全てではないにせよ、一部、解放されるのは間違いないのよ、ね?」
 
紫東遥の感極まる説明ゼリフのとおり、試験管入りのリー・カザリーンが敵側の重要人物だという以上に、「それ」こそが、眠れる森の美女と人魚姫を足して二で割った(幸運なことにカザリーン当人も底上げ表現する必要もないレベルの美女である)状態の・・・・巨大試験管も含めた一つの呪術機能ユニット、こそが、ロンド・ベルをコテンパにやった
 
 
「精神コマンダーゼロ」なる、今回の悪役軍団、三星同盟軍のジョーカーなのであった。
 
 
あいにく陰謀実務に長けている人間はそろっているが、研究科学職に欠けているドロン・ベルの面子であり、「リツコがいればなー、・・・・今から拉致しちゃろうかしら」またしても指揮官が物騒あるまじきことをぼそりと。言うくらいに。どういう理屈でこれが精神コマンドを封じてくれているのか、いまいち分からない。が。大十字九朗を隊長に、バビル2世を副長としたロボットなしの情報収集小隊がやってくれたのだ。今や三星同盟軍の根城であるビッグファルコンにて秘密を聞き出し、そこからトランシルバニアっぽい吸血鬼でも住んでいそうな城に隠されていた「眠れる彼女」を発見し強奪。魔術とも超能力とも言い難い、「メモリー」なる不思議な業であるらしいが・・・それは巨大試験管の名称でもある・・・。とにかく、やってくれた。
 
 
ロンド・ベルにはむつかしいだろうが、ドロン・ベルはやるのである。こういうことを。
 
 
聞き耳をたてて集めた情報によると、他に、キャンベル星の休息区司令ミーア、バーム星のライザ将軍がおんなじような巨大試験管”メモリー”に意識のないまま封じられ(司令職や将軍職がそんな扱いは確かに宇宙的常識に照らしてもありえまい)・・・・添い寝をするかのように、敵のパイロットの魂の言霊たる精神コマンドを、その腕と胸の内で抱きとめる・・そのしなやかな指先で扼殺し続けている・・・・のだというが。
 
 
ヌードでなければいかんのだろうか?とドロン・ベル首脳陣は思ったが、まあ、服が濡れるからなんだろうなあ、と思い返して黙っていた。そこが下っ端とは違う。
 
 
その大役は確かに、司令職や将軍職でなければ・・・・・果たせないだろうが・・・・
もしくは、それ以上の情念がなければ・・・・
 
 
リー・カザリーンは、プリンス・ハイネルに
 
ミーアは大将軍ガルーダに
 
ライザはリヒテル総督に
 
 
忍びぞっこん、というのは地球側というかロンド・ベル側には有名な話である。
意外に当人達は何回繰り返そうと、ばれていないつもりなのである。
 
 
そこがすばらしい!・・・・・おおっぴらにされても萎える!・・・と男性陣はひそかに思うのだが、もちろんこの場で口に出すわけもない。R・ドロシーを先鋒とする「最低」攻撃が100パーセント的中予想されるし。
 
 
肝心なことは、三人のうちの一人をこちらが手に入れたことで、封殺されていた精神コマンドを解放できる、ということだった。おそらく全てではないにせよ、確実に一部は。
 
 
これは、苦しい戦況を強いられてきたロンド・ベルにはまさに、福音。
 
さすがのエヴァンゲリオンを指揮するネルフは葛城ミサト!と称えられるところであり、最初、調子こいたおかげでロンド・ベル入りを断られた、という屈辱を注ぐ絶好の機会であった。
 
 
さすがに葛城ミサトも、こんな戦況を一転するようなものが、情報収集のついでに手に入るとは思っていなかった。メモリー試験管三体まとめて手に入らなかった、と残念がる場面ではむろんない。むしろ、そうであれば怪しい。敵にしてみればこれほど重要かつ肝心な代物はないのだから。一カ所にまとめて保管しておく愚をおかす必要などない。
 
あまり警備の厳重ではないぽつんと山城に設置されていた、というのは、風水というのか、魔術的な、雰囲気的な、いやさ心情的な理由でもあったのか。分かるはずもないが。
 
 
とにかく、自分たちはラッキーだったのだ。もちろん、大十字九朗をはじめとした実働メンバーの九朗はあったが。それでも、こんな機会は。かなり警戒して”洗って”みたが、これは罠ではない。本物のコマンド封殺装置のひとつだ。
 
 
「は、はやく、封殺を解除いたしましょう!ロンド・ベルの彼らもそれを一日千秋の思いで待っていたに違いありません!」
 
レフィーナ艦長が促した。ちなみに、この捕獲というか敵側のVIP誘拐を知らぬ者も多い。子供系パイロットやつばさヒカルをはじめとしたフィギュア宇宙人など。余計な心的負担その他を避けさせるためではあるが葛城ミサトの判断である。ダイ・ガードも赤木あたりは知らないが青山桃井あたりはなんとなく勘付いている。渚カヲルなどもいうまでもない。
 
 
微妙な案件であるのは、間違いない。
 
 
まあ、美女とはいえ、意識のない裸体といえ、敵は敵だが。
 
 
「解除方法も・・・・分かっているのでしょう?」
ショーン副長も確認する。それがまったく分からない、と言うのであれば宝の持ち腐れもいいところで、敵に対する脅迫くらいにしか使えない。ただ、それをやるというのなら。
 
「ああー、そこらへんはばっちりと。アルちゃん九朗君と・・・バビル2世もいますから」
葛城ミサトが返答する。魔術と超能力による情報収集となれば、そのへんぬかりがあろうはずもない。三人とも百戦錬磨であることだし。
 
「でしたら!」
レフィーナ艦長が急かすのは、やはり遠方にあるパイロットたち、ロンド・ベルのメンバー、そして何より、抑えの効かぬ悪党軍団に苦しめられる市民たちの気持ちを思いやってのことだろう。こんなとことでじらしていても仕方がない、ということもある。さっさとやっておしまい!とも思う。口に出すとキャラクターが違ってくるが。
 
 
「キスです」
 
「え?」
 
 
葛城ミサトの平坦な口調は、冗談でもなんでもないらしい。真面目らしい事実らしい。
 
 
「べつに王子様でなくてもいいらしいんですが・・・・・・まあ、接吻というか、口づけせよ、と・・・・こう、メモリー試験管の裏側にある注意書きにも、明記してあるというか・・・・・それで目が覚めれば、精神コマンドを封殺することは金輪際できなくなると」
 
 
えええ〜〜〜〜
 
 
である。一団の首脳陣であるから口にはしないが、顔にかいてある。すごく微妙な話だ。
そりゃ、寝ている美女の頭を三発はたけ、とかいうよりはまだましだが。にしても。
 
 
むちゃくちゃ恨まれることは、間違いないだろう・・・・・当人と、そのお相手に。
 
 
まあ、もともと敵だからかまわないといえば構わないが、そんなことで恨まれてもなあ・・・・・・。レフィーナ艦長も絶句。二の句が継げないが、副長は髭を撫でている。
 
 
「こ、これは・・・・この行為は、男性が、行わなければ、ならないのでしょうか」
ロジャー・スミスがなぜか手を挙げて質問する。R・ドロシーの視線が極めて低温。
 
「いや、別に。そんなことは書いてないから、女性でも構わないとは思うけど。えー、志望者がないなら・・・」
 
 
仕方がないから、自分がやろう、と葛城ミサトが言うのだろうと、皆が思ったとき。
 
 
「はい」
 
と、R・ドロシーが挙手した。
 
 
「ドロシー!?」
これにはロジャー・スミスのみならず、この場にいる全員が驚いた。