スーパーロボット七つ目大戦γ
 
 
<DCコネクションルート>
 
 

 
 
 
しれっと
 
 
「ロジャーが、やるそうです」
 
 
R・ドロシーの顔色が変わらないのはいつものことだが、それでもそう表現するほかないほどに。しれっと。てめえで挙手しておきながら、黒のネゴシエイターに。調整役、交渉役であるネゴシエイターに、「まさに恨みの的」になれ、と。しかも、「そうです(伝聞)」などと。これでは、当人が希望したようではないか・・・・裏で言わしたようではないか。
 
 
ええええ・・・・
 
 
ここにいるのはリアクションを表に出さぬ事もできる腹芸オーケー首脳陣であるから、その驚きも見えない波のように。いちいち当人を指向したりはしない。R・ドロシーとほんとのところはどちらが上なのか謎なふたりの関係性といい、そう簡単に意図が解析できたものではない、ということもある。アンドロイドのときおり見せる嫉妬、とか超萌えるのになあ、とか。そんなことを考えていたりはしない。
 
 
「あら、そう」
葛城ミサトはあっさりとしている。希望、いやさ志願者がいれば自分でやらなくてすむ。
 
「い、いやっ!?あ、R・ドロシー・ウェインライト!何をいきなり私はそんなことは!」
ネゴシエイターらしくもない噛み噛みの慌てぶりでロジャー・スミスがなにか言い訳しようとする。が
 
 
「わかっているでしょう、ロジャー」
 
どう聞いても力関係はこちらの方が上、としか思えないR・ドロシーの断言。
 
 
「これは、あなたのなすべきこと」
 
 
「なんだと!?なぜ、そんな嬉し・・・いや、そんなことが君にわかる!」
 
これからの交渉役を任せるのがちょっと不安になってくる有様であるが、まあ苦境である。
客観他人事ではなく、本人当事となれば。しかもそれを指摘するのが、彼女となれば。
人間とアンドロイド、単なる、主従ではない、このふたつの黒の男女。
 
 
「メモリー・・・」
 
R・ドロシーの顔色はかわらない。いつものように、人ならざる白。血色の混じらぬ純正。
 
 
「それが関係しているなら、一番の適格者は、ロジャー、あなた」
 
言われてみれば、そうだった。「メモリー」、それは、パラダイムシティの住人たる自分の根源にかかわる事柄。美女との接吻は、そのあとに注目すべき問題だった・・・・・。
まさに、据え膳喰わぬはネゴシエイターの恥、というか。毒林檎を食べるなら芯まで、というか。
 
 
「そ、そういうことなれば・・・・・うーむ、ここは私のショウタイムかもしれない」
 
これは自己弁護ではない。メモリーに関連していることであるから、それに縁が深い自分が行う、というのは確かに正当だ。シティ以外の人間が行うと、なんらかの危険があるかもしれない・・・・・その代償として自分のメモリーを失うとか・・・・・・そうなれば、こんなことを行うのは、シュバルツバルトか、またはエンジェルか・・・・・・
 
 
いやー、しかし。ドロシーが私がそれをやっても、かまわないのだろうか・・・・・
ま、まあ。かまわないのだろうな・・・・・これは、仕事の一環というか義務というか・・・・・使命というかギリというか・・・・・いやいや!全然かまわないぞかまうものか!
 
 
「ここは私、パラダイムシティのネゴシエイターたるロジャー・スミスの出番ですね。これもまた、特殊業務の一環として請け負い致しましょう!」
 
頭の中で、自分のオープニング曲「BIG O!」が鳴り響いているんだろうなあーと、皆が思った。が、ここはネゴシエイターの勇気に乾盃。重要な役ではあるが、まあ、まっとうな役ではない。こんな解除方法、ほんまかいな、とも思うが。精神コマンドの封殺、ということ自体、「ほんまかいな」であるのだから仕方がないのだろう。にしても、できればやりたくない役目ではある。恨みの的をそらすにはまだ女性の方がいいかもしれないが。
 
 
この場に、ドロシーがいてくれて、よかったなあ、と、皆が思った。特に城田氏。
彼女以外では、ロジャー・スミスをこんな風には動かせない。
 
 
そして、力強い足取りで、メモリー試験管に近寄っていくロジャー・スミス。
 
そんな彼に。
 
 
「あ、ちょっと待って、ロジャーさん」
 
ストップをかけるのは葛城ミサト。「ん?なんですかな?」
 
こういうことは勢いでやってしまいたい。BGMにのりながら、一気にやってしまいたいのだ。あとで後悔するかもしれないが。しかし、誰かがやらねばなるまい・・・・・エンジェルはともかく、犯人がシュバルツの三角アタマだったら、今度会ったらビッグオーで鉛筆アタマにしてくれる!・・・とか考えていた。
 
 
そんなわけで、ロジャー・スミスの目つきはちょっとこわかった。
基本、女性には優しいのだ。この男は。男性には屋敷にもいれないくらいアレだが。
 
 
「ここに集まって貰ったのは、ちょっと相談があったからなんです」
 
 
「相談?」
いまさらなんの?という顔の紫東遥。他の者も同じような。最近ではだいたい思考はトレースできるようになってきた。が、ここにきて。何を言い出すか、読めない。この局面で。
 
 
自分たちが読めない、となると、それは・・・・・・
 
 
「ロジャーさんの勇気には悪いんですけど、精神コマンドの解除、まだ早いかなーって」
 
 
かわいいつもりなんかしらんけど。
 
 
悪手だ。
 
 
愕然として、声が出ない。ドロシーでさえ、目を丸く、ほんのわずかだが、している。
 
 
「な、なして!?」
なぜか方言になってしまうレフィーナ艦長。
あまりの驚きのためであろうが、これはかわいい。
 
 
葛城ミサトの真意が読めない。それを見通すため、その瞳の色を皆でのぞき込んでみるが・・・・・分からない。この局面で、一部だけとはいえ、精神コマンドの解放を遅らせる利点など。あるまい。というか、絶対ない。ロンド・ベルの人間にこんなことがバレたらぶち殺されるであろう。冗談抜きで。・・・・・・だから、この隠し部屋で集まったのか。
 
正義軍団としてのメリットは、全くない。幾ら検証しても。たとえ一部でも封殺解放できればどれほどの・・・・・・・。
 
 
悪手というか、もはや裏切りに近い。これは・・・・・
 
 
ロンド・ベルの宿敵DC(ディバインクルセイダーズ)にコネクションでも繋げていたのか・・・・・・
 
 
 
地の文、苦しいぞ、と葛城ミサトをのぞく全員がそう思った・・・・・・