スーパーロボット七つ目大戦γ
 
 
<オタスケウーマンルート>
 

 
 
タイムリース社エントランスに現れた棺桶を担いだアンドロイドの少女・・・・・
 
 
喪服にも近い黒一色の装いと無表情があいまって、通常一般、人形がかもしだす怖さとはまた違った、なにせ物理的に棺桶を担いでいるパワーである、ホラーよりはバイオレンス風味が勝る怖さというか・・・・とにかく、近寄りがたい。誰か人間が隣にいてくれれば、この状況の説明をしてもらえてちょっとは安心だったのだが、それもない。アンドロイド少女のみ。単でこわくピンでこわい。大声でがなりたてるわけではないが、なにをするかわからない、というのはやはり、恐怖だ。つい先に一悶着起こしたネゴシエイターの隣にいたことを知っているならなおさら。巨大ロボットは連れていなかったが当人が脅威。
 
 
脅威レベルでいえば、銃器をもった強盗団、というところであろうか。
アンドロイド少女の周囲は危険領域とされ人の立ち寄れぬ。説得交渉しようしも何も言わぬし”棺桶”の圧迫感が怖すぎる。興味はあるがあの中に入るはめになるのは誰しもごめんであった。訪問意図が不明であるため、排除の方向で刺激してよいものやら警備スタッフも迷うところであり、様子を見守りつつイッパツマンを待つことにしようか、と、とりあえず一般客を避難させていた。営業妨害もいいところだが・・・・・
 
 
「君たちの出入りは、禁止にされたはずだが?」
 
自分の社内のことであるから、かっこよく逆光になったりテーマソングにのったりすることもなく、豪 速九ことイッパツマンが現れた。仕事の邪魔、という点でいえば、シャレコウベリース社もここまでのことはしなかったが・・・・。いろいろ考えることはあったが、ここまで露骨にされると正義の鼓動が黙ってはいなかった。周囲には仲間の存在はなし、目の前のアンドロイドの少女だけ。機械的無表情もあるが、まったく意図が読めない。
殺気というか邪気というものも、もちろんない。が、棺桶というのはやはり死のイメージに直結する。ロボットが担ごうが、いや、担ぐだけに余計に濃厚な影を感じてしまう。
無言のプレッシャーというか・・・・・だが
 
 
「今日は、交渉じゃない。この会社に、依頼者として来たの」
 
 
「・・・なんだって?」
 
 
アンドロイドの少女は意外なことを言い出した。「運んでもらいたいものがあるの」
 
 
「い、いや、ちょって待ってくれ。・・・・・運送依頼は、その棺桶かい?」
 
お客様に対しての言葉としてはちょっとなっていないが、脅威に対して弛むわけにはいかないイッパツマンである。もしかして、この少女は壊れているのではないだろうか。
こうなると、2−3を呼んできた方がいいかもしれない・・・・・そんなことを考える。
 
 
「違うわ。私を、運んで欲しい」
 
まじまじと、少女の顔を見るが・・・・・それが、厳しい決意に満ちているのか、それともただのプログラムの結果なのか・・・・なんとも、いいようがない。まるで消える魔球。
言葉はこちらに投げられたが、それを受け止めようが無く。
 
 
「だ、大丈夫なの、豪さん・・・」
「あ、まだ片付いておらんがね。結局、暴れたりとかはしとらんがねーハル坊」
「いや、だって・・・だいたいカンオケなんか他に何するんだよー!」
 
呼びに来てわざわざ危ないところに戻ってくることもないのだが、放夢ランたちが。
 
 
アンドロイドの少女は、嘘をついているようには・・・・・見えない。
 
つくならまだ、もうちょっと信じられそうな嘘にするだろう。壊れていないなら。
 
 
「棺桶は私をいれる容器のかわり。どうやって運んでくれるのかは知らないけど、この服が破れたりしないなら、必要ないけれど・・・」
 
 
・・・・・・このあたり、外見以上に女の子、なんだなあ、と、豪 速九は思った。
 
見た目に騙されたわけではない、だまされたわけではない、が。
 
 
「分かった・・・・・いえ、分かりました。そのようなことでしたら、お話を伺いましょう」
 
もちろん、こういった接客はイッパツマンの仕事ではないが、さすがにこの流れで通常の受付嬢に回すわけにもいくまい。星ハルカに連絡して、人目につかない会議室に移動する。
 
 
 
 
「そのせつは・・・・」
 
正規の依頼になるかどうか・・・かなり難しいところだ・・・・・それもあっての人目につかない会議室に招いたわけだが、アンドロイド少女は入るなり、棺桶を置いて、ふかぶかと頭を下げた。なんともぎこちない、謝るという概念すら理解していないのに、湧き出す想いを表出するためムリヤリに形をとっている、といった感じの。もちろん、ロボットに湧き出す想い、というのも、ありえないこと、なのだが。
 
 
「ロジャーが、必要のない腕力をふるってしまったことを、謝る、わ」
 
逆だろう、普通は。こわれて暴走してやらかしてしまったロボの代わりに人間が、謝る。
 
 
「なんだか堅いがねー、でも、ドロシーちゃんの気持ちは伝わってくるがねー」
 
どさくさでいっしょに来てしまった放夢ランたちだが、2−3がこのように、通訳する、となれば必要だろう。人間だけだと、ちょっと理解に時間のかかるだこれは。
 
普通、ありえない光景。だが、呑まれてはいけない。仕事となれば、冷静に正確に、可否を判断せねばなるまい。同席する星ハルカも同じ考えだろうが・・・悩む表情。
 
アンドロイド少女の依頼をはね除けてしまえば、どうなるか・・・・・・
 
暴れ出すようなら取り押さえねばならないが、そうはならない・・・・・確信があった。
 
 
「君を・・・いえ、お客様自身を、運ぶ、というお話でしたが・・・」
 
「もう少し、くだけた言葉を使ってもらってかまわないわ。無理は承知しているから」
 
依頼になるかどうか、その時点からして困難、ということを弁えている。無表情でもネゴシエイターの秘書役(?)だけのことはあるのかもしれない。
 
 
「そういうことでしたら、改めさせてもらおう。一応、名乗りもしておこう。僕は」
 
「イッパツマン。金髪の女性は、イッパツウーマン」
 
「「「「「「いやいやいやいやんばるくいな!」」」」」
 
そりゃ間違っとりゃせんが、「私もそう呼ばれるのはちょっと・・・」星ハルカ当人にも異論があるようだし、全員でそこまで飛んでいかないようにストップをかけた。
 
「?」
アンドロイド少女、R・ドロシーはいまいち分かっていないようだったが。
 
「と、とにかく、僕は、豪 速九。そちらが、星ハルカくん。そして、運搬の実務スタッフである放夢ランくん、ハル坊、2−3,だ」
 
「そう」
R・ドロシーの電子頭脳には、急な仕事でもロジャーが抜け目なく集めたタイムリース社のデータがあり、豪 速九らの名前もだいたいの人間関係も承知していた。近いうちに女性二人の名字が変わりそうだということも把握していたが、もちろん黙っている。
 
ごほん、とわざとらしい咳をして仕切り直す豪 速九。
 
「だが、正直なところを話すと、君の依頼を受けるのは、かなり難しい。我が社は時間旅行を請け負っているわけじゃないし、君自身をどこかの時代に送るというのは・・・」
 
 
どこかの時代、というのは、シュバルツバルトが「美術品」を送ったところだ。
 
もちろん、そんなことを公開できるはずもない。会社の信用にかかわる。
・・・が、それを利用されて悪事に荷担としているのであれば・・・・・
イッパツマンとしては、苦悩だ。イッパツウーマ・・・・いや星ハルカも同じく。
 
 
 
「1908年、マルセイユ」
 
だが、R・ドロシーは、その「どこかの時代」をずばっと口にした。
 
 
「なぜそれを!?」
一応、驚いては見せたが、上の会議の荒れようからすると・・・・そういう手段を用いたのかもしれない。
 
 
「そして、私は、アンドロイド。あなたたちの認識によると、人ではなくモノの分類になるから問題はないはず」
 
だが、豪 速九は、気にくわない。ドロン・ベル、彼女の所属する組織がそのような手段が得意なのかその方面に有能な人物がいるのか、それはいいが・・・・そんな、こちらの立場を逆手にとって・・・・・彼女を、ネゴシエイターのために慣れない頭を下げて見せた彼女を、”モノ”として危険な地に送り込む・・・・・そんなやり方は。
もちろん自分たちにどうこういう資格はないが、どうにも、気にくわなかった。
 
彼女のためにネゴシエイターが振るった拳は。言うように不要で軽いものか。
 
ならば、彼らは信用ならない。名の通り、魔球めいた小細工はどうにも・・・・
 
だが、少女は言うのだ。
 
「ロジャーは、失敗した。だから、助けたい」
 
と。
 
「!!」
 
ブレも揺れも加減もない時速250キロはありそうな、人間離れした豪快すぎる直球。
 
まともな人間では受け止めきれぬであろうそれを
 
「よし、分かった!」
 
ズガーンと、受け止めるイッパツマン・豪 速九。正義のスイッチが入ってしまっていた。
理屈は、不要だった。時には。こうなると、豪 速九は止められないことを、星ハルカも放夢ランたちもよく知っていた。というか、そうでなくてはイッパツマンでも豪 速九でもない。ただの従順サラリーマンだった。逆転してもらわねば!時には!
 
「君を、信じよう。これを成すことは、皆の幸せに通じることなんだと!!」
 
利益も重要だが、それで多量の不幸を生んでしまうというのなら、それは正すべき。
燃える豪 速九の様子に、安心するでも喜ぶでもない、やはり無表情に変化なしのドロシーだったが
 
「そう、あなたたちでいえば、オタスケウーマン的に」
 
そう言って、同意した。