スーパーロボット七つ目大戦γ
 
 
 
<黄雷のガクトゥーンルート>
 
 

 
 
 
1908年 マルセイユ
 
 
R・ドロシーが己を運ぶべく指定した時と場所、であったが・・・・
 
 
空は灰色に染まり、海さえ黒く染め上げられていた・・・・「この世界」
 
 
明らかにふりだしであったタイムリース社があったものとは異なる文明ルートを通って発達してきただろう、世界の「色」。明、とは言い難い暗、であったが、活気がないわけではない、むしろ、”そこ”は若い輝きで満ちていた。異常発達した蒸気文明、そんなスチームパンクワールドにしても珍しい堅牢な大型人工島
 
 
”マルセイユ洋上学園都市”
 
 
先端的機関科学に基づいて形作られた都市であり、世界最高の碩学を生み出すための学園であるが・・・学園都市にはフランス政府でさえ恐れる<秘密>があった。欧州のどんな国家組織でさえこの都市の全容は明らかにできず、介入は許されない。欧州の闇・秘密結社「西インド会社」の支配下にある完全閉鎖された絢爛の学園・・・・・
 
 
入学入島したが最後、卒業するまで島の外に出られないという・・・逃げ場などなし。
出入り口のゲートも完全機械化されて、人の姿もない。外とは完全に隔絶されている。
ここまで送ってくれたタイムリース社の能力を称えるべき。島外であればかなり面倒なことになっていたに違いない。
 
 
異なる時、異なる場所、というだけでもハードルが高いのに、このようなデンジャラス領域であったとは、普通の人間であれば到着三秒で心が折れていたかもしれないが、彼女はアンドロイド。そのような不安は全く見せない。全くの普段通り。
 
 
故郷のパラダイムシティもこれとどっこいのあやしの都市であるせいかもしれない。
 
 
ともあれ、観光に来たわけではない。こちらにはあくまで仕事できたのだ。
ネゴシエイターの助手、としてはちと足を伸ばしすぎかも知れないが、仕方がない。
 
 
この1908年のマルセイユ洋上学園都市に、精神コマンダーゼロの最後のパーツ、ミーア休息区司令が運び込まれた・・・・・・・そこまでは、分かった。どうやって知り得たかというのは、ロジャー式ではない調子の交渉があったらしいが、興味はない。
 
 
自分のすべきことは・・・・・なんとかして、その在処をつきとめて「回収」することだ。
 
 
肝心の最終搬入地が分からない、というのは、えらく片手落ちなことではあるが、その記録が機械のデータ上にも作業者のアタマの中からもすっぱり消去されていたというのだから犯人の手際を誉めるべきか。いや、誉める必要はないか。怪盗を好敵手とする探偵でもあるまいし。現地入りはできたのだから、そこから足取りを追うことが出来れば・・・
 
 
「・・・・・・・・・・・」
 
ふと、視線を感じた。アンドロイドに皮膚感覚というのも妙であるが、感じたのだ。
自分は、監視されている、と。が、それもある意味、当然なのかも知れない。
自分は二重の意味での異邦人であり、この都市を管理する存在にしてみれば異質そのもの。
 
 
排除されても当然のこと。「まずは、話をしよう」交渉者・ロジャー・スミスとともにいると、ふとそのようなことも忘れてしまうけれど。ここで、彼の名代として、彼のように動くことができるだろうか・・・・できれば、暴力的なことは、したくはない。ロジャー・スミスがそれを望まないであろうから。まあ、かといって金銭で片付けようにも。
 
 
とにかく、目標の場所を掴まねば。田舎の村などであれば、物好きの金持ちのお屋敷に「めずらしい美女の像」とかが運ばれた話、などは全域に広まっていたりするかもしれないが、このような巨大な学生都市となると・・・ただ、タイムリース社が運ぶからには、それなりの「納得の理由」があったのだろう。いくらなんでも「隠したいから」では契約に至るまい。ふさわしい偽装理由があったはず。
 
 
 
「こんなところで何をしているんだ?」
 
攻撃的ではないが、圧のある力強い男の声が。年齢は異なるがダストン警部に近い響きがあった。固い職務遂行の念、といったような。敵か味方か、それで計れるわけでもないが、その姿も戦闘機能がある・・・・・兵士よりは警官をイメージさせる装いだった。
柔和、とはほどとおい引き締まった顔つきであるが
 
 
いきなり銃を突きつけて金品を要求したり、こちらのボディに触れたりせぬあたり、上に{悪徳}と形容詞がつくような輩ではあるまい。何より今は情報が欲しい。かといってこちらの事情をいきなりオープンにしても向こうが困ることになるかもしれない・・・・
悩む。
「・・・・・・・・・・」
 
 
なかなかロジャーのようにはいかない。ロジャーなら、0.05秒で相手を納得させて手持ちの情報を全部しゃべらせてしまうだろう。帰ったら彼のお喋りを咎める回数を減らすことにしようと誓うR・ドロシー。
 
 
「・・・・?」
 
警官っぽい男は、その名をジャン・ジャック、風紀警察警備部主任衛視、であり、この学生都市においてはまんま警察であると考えてもいい。学生ではあるが事情により十年留年しているため、それなりの歳ではある。ダストン警部には負けるが。経験による眼力もあり、一目見てR・ドロシーをただものではない、と見抜いた。ただでさえ、この都市には「異能学生」なる存在も跳梁跋扈しており、風紀警察はその相手もするのだ。
ゲート周辺の警邏途中で見つけてしまった、この少女は
 
にしても、人形のように整って白い顔に、恐れも困惑もない無表情に黒一色の服装
 
なんとも、”浮いている”。奇妙な住人が多い、この都市で暮らす目にしてもそう映る。
あえていうなら、馴染みがないのに迷いがない、というあたりか。恐怖や緊張がない。
不自然なほどに。少なくとも、自分を前にすれば女の子は多少は固くなる、だろう。
全くならないどころか”パパ”呼ばわりするのもいるが。
 
油断はならず、危険な存在かもしれない・・・・少女の姿はしているが
 
どう扱ってよいものか、迷いがあるのは確かで、それゆえ声をかけたのだが。
 
 
「学生証を見せてくれないか。見てのとおり、自分は風紀警察警備部・・・」
「姉を捜しているのです」
 
「なに?」
それが言い訳にしては、あまりに平均を保った声であったのでつい引き込まれてしまった。これが少しでも血が通った言い回しであれば即座に「嘘をつけ!!」と怒鳴ってやったのだが・・・それはあまりにも。人間を相手にするのとは勝手が違う、と反射的に悟ったこともある。だが、それが結果的にはよかった。いろいろと、風紀警察的には。
 
 
「特徴は、金色のロングヘアでティアラの両端から長い角が生えていて、まつげの長い美形ですが上半身しかありません。あと・・声は千々松幸子さん似です」
 
なんだそれは。他の特徴はともかく、上半身しかない?そこまで珍しい特徴であれば自分の耳に届かぬはずはないが・・・・・こう、バラバラ殺人の被害にあった、とかいう話ではない・・・よな・・・・・これまた「嘘をつけ!!」と怒鳴りたいが怒鳴れないジャン・ジャック。嘘をついている人間の顔、目ではないのだ。そもそも人間、なのか・・・?
 
これは・・・・・自分たち、風紀警察の領域ではないのではないか。
どちからというと、探偵・・・・・それも、探偵の中でも風変わりな部類が担当すべき。
たとえば、”あの”思弁的探偵・・・
 
いまだに謎だらけの”あの”碧髪の男の(こちらも無表情な)横顔がよぎったところで
 
 
「学生証の提出を求められましたが、私はこちらのマルセイユ学園都市の学生では、ありません」
 
黒の少女の、これまた淡々とした声。
 
こちらの話を無視したわけではないらしい。律儀といえば律儀だが、バカかともいえる。
風紀警察の主任衛視である自分にそのようなことを言えば、どうなるか・・・・
知らぬのではあろうが、ただ、予想はついた上で返答した、らしいのは分かる。
なんというのか・・・誇り高さ、とでもいうのか。単に嘘がつけない、のかもしれないが。
 
 
ここで問答無用で捕縛してしまうか・・・・・・それとも
 
 

 
 
 
「それでここに連れてきた、というのは警察の怠慢ではないのか」
 
碧髪に白い服の若い学生が、風紀警察主任衛視を歯牙にもかけぬ、といった調子で言った。
 
 
「ま、まあまあ、マスター。久しぶりの依頼のお客様だと思えば、道案内をしてくださった、ということになるでしょうから」
 
それを長いピンクの髪の女学生がやわらかく諌めた。すくすくとスタイルもいいが、なんといっても両眼の黄金瞳が目をひいた。エプロンのままなのは調理の途中であったのか。
マスター、というのは旦那様、のマルセイユ方言なのだろうか?同棲的空気があった。
 
 
「・・・・・・・・」
どこに連れて行かれるのかと思っていたら、元貴族の屋敷であった、という役所関係ではなさそうな個人宅であったから少し驚くR・ドロシー。もちろん顔には出ないけれど。
 
 
「うーむ・・・・そういう向きもあるか。なるほど、失礼した。ではドロシー嬢、改めて話を伺おう。私は思弁的探偵部、部長 ニコラ・テスラ。こちらは助手のネオン・スカラ」
「はじめまして、ドロシーさん。っとと、そうなればお茶の準備もしないと!」
 
 
「じゃ、あとは任せたぜ。とはいえ、連絡はあとでさせてもらうけどな」
お茶の遠慮をしたわけでもないだろうジャン・ジャックは去った。警察としてはありえない放任レベルであるが、その背中に迷いらしきものはない。怠慢呼ばわりされようと、それだけの信任があるのだろう。探偵というからには気難しい変人と相場は決まっている、とロジャーが言っていたような。いや、新聞記者だったか。とにかく。
 
 
この人物・・・・・ニコラ・テスラには。
 
 
・・・・・・普通の、人間ではないようだけど。いろいろと。