「いけー☆」
碇シンジを捕まえ隊による三回目の突撃が開始された。さすがに三回目ともなると互いにプロ同士、足の引っ張り合うタイミングもつかめてきて、今回はいい感じで仲違いによるアタックポイント到達前の相殺減衰戦力が2割程度で済んだ。何人か星に還った。
 

 
 
 
 
(VΛV)リエルの目的、というか興味はあくまで、ゼルエル、もしくは竜号機にあり、
その他の存在が何をしようと気にかけることはなかった。
 
 
大使徒という立場上、あまりおまけの事柄で動けない、ということもあったがラニエルの足下に集る、蟻にしてはかなり頭の悪い、どうにも賢くない蟻のようなモノたちを焼き薙ぐ命令くらいは出してもよかったが、放置であった。
 
 
久方ぶりに視覚を展開してその蟻の様子を確認したりもしたが・・・・・放置であった。
蟻かと思ったが、人間であったりしたがそのまま視覚を閉じてしまう、つまりは無視。
 
 
アウト・オブ・眼中であり、同時に、元通りに嗅覚を展開し直す。
 
 
どのタイミングでゼルエルが現れるか、もしくは、竜が舞い戻ってくるかは分からない。
巣穴から出た刹那、ラニエルを仕留めて、また巣穴に戻る・・・・・だろう
それは、追跡不能の巣穴・・・・・・出てきたその時を狙わねばならない。
当然、自分たちが狙われているということを思い知っただろうから。
 
 
それとも、ゼルエル・・・・力ある天使、使徒の使徒たる議定心臓、そこに宿る使命をも砕く力のある最後の壊し屋。それが本性現して、混沌の破壊行動を開始するか・・・・
 
 
もし、ゼルエルが出てきた場合でも、戦闘にはなるまい。あれは、戦うことはない。
争いをせず、痛みを生む傷をつけることもなく、穏やかな顔をして、ただ
 
 
ひたすらに破壊するだけで、戦闘することはない。平らかに、和してしまうだけだ。
 
まともにぶつかれば、この身に宿り鎖する議定心臓も数千単位で潰されるか・・・・
 
まあ、ゼルエルとなればそれもやむなし。あれは、そういうものなのだから。
それを思えば、バルディエルなどあれに見えるべきであったのだが・・・・
病み迷った使命を抱えるモノなればこそ、噛み壊すあれと・・・邂逅すべき
 
 
レリエル・・・と、かつてそうであったものと・・・・タブリス、もしくはメタトロンに成り果せたもの・・・・・・あれらの考えたことがら・・・・・
 
 
対話と思考があまり好きではないアウトドア派である(VΛV)リエルも少し、考える。
 
 
気長な狩りになるか、どうかは・・・・・獲物次第。
 
 
しかし、まあ、蟻としては不合格であろう人群がなかなかに健闘している。こちらの嗅覚の邪魔になる絶対領域を展開していないとはいえ、ラニエルの管を刺している。
女王もおらず、蜂に近いのか・・・・・ともあれ、無駄に命を燃やしている・・・・
昆虫が火を使い出したらこんな感じだろうか・・・イヤもう少しマシな存在だろう
人の生命の燃焼はいつの頃からか、香煙も出さずにこのような臭気を放つようになった
 
 
その程度で誤魔化される鼻ではないが・・・・・・気を散らすことなく待ち続けよう。
 
獲物は竜であり、もしくはそれよりも遙かに速い、壊天の万王、ときている。
 
ラニエルから、調査の中断と足下の人害排除許可が求められたが、却下とする。
 
煩わしいのは分かるが、そこは我慢だ。竜の巣の辿り方さえ判明すれば、あとはこちらから直接乗り込んでいって終わりになるのだが・・・・・しばし耐えよと大使徒から命じられればラニエルもイヤとは言えない。その代わりに我が身の絶対的安全が保証されているのだからそう贅沢もいえまい。仰せの通りに、と再びボーリング調査を続ける。
 
 
それにしても、この人間ども・・・・
 
ラニエルは思った。
 
 
確かに、痛いことはないがかなりカユいのだ・・・こっちがやりかえさないのをいいことにどこに潜んでいたのかワラワラやってきて様々な攻撃をくらわしていく・・・領域を展開しない状態でこの程度であるから、どうということはないといえばないわけだが・・・・使徒の中でも自分はそれほど短気な方ではない、と思う・・・コアを複数持っていたラミエルのことを考えればその未熟を思い返し泰然盤石としてさらに精進せねばならぬ、と反省はするのだが・・・・
 
 
マジうぜえ
 
 
い、いかん・・!・・使徒たるものが、それもラミエルのような数ランク上の使徒を目指す身としてそんなことでは・・・・!そんな邪悪魔神のような言葉を使ってはいかん!!
 
と、いうわけでもう一回
 
 
ゴッドうぜえええええええ!!!
 
 
神聖な感じでいいんではないかい、と自分でも思う。さすがに大使徒相手に同意を求める度胸はないけれど。ともあれ、人間うざすぎる。とっとと逃げればいいものを。お前達に向けて光線が撃てないなんて思っていたら大間違いなんだぞっと・・・
 
 
ラニエル・撃ぇ!!
 
 
唐突に射撃命令が大使徒から来たので、その通りに発射した。
自分の愚痴が聞き届けられたのだろうか、と一瞬思ってしまったが。
 
 

 
 
「やっぱり逃げちゃうんですか、シンジさん」
 
 
深夜料金払った駕篭が帰ったあとも、ここまでついてきただけあってやはり居残った郵便ポストが息も切らせた様子もなく、碇シンジに聞いた。
聞かれた方の碇シンジは”そういうこといわれるからついてきてほしくなかったんだけどなあ”といった渋茶顔をする。したところで郵便ポストの表情は当然変わらず、
 
 
「そういうことなら最初から言ってくださいよ。それならこんなところまで来なかったのに」
尤もなことを言う。こんなところ、つまり、隠れ里たる竜尾道と逃げも隠れもする必要もないほどに滅んでしまっているもはや地図からも抹消されている旧尾道市街との「境界」・・・・そこは札を持つ者のみが行き来し・・・裏から表に戻った者がふと、振り返ってみればそこには己が日を過ごした街など、なにもない、ただ再建されることもなく朽ちていった残骸だけが無惨にひろがる心が芯から冷えてくるそんな光景があるのみ・・・・
だが、真実の、歴史の本に記されるべきはこちらの姿・・・・・・地元住民以外には慄然とする事実をつきつけてくる・・・幻と記憶の街との。
 
 
実際の出入りにはさすがに返却手続きなどで関所を通りもう少し込み入った段取りが必要になるが、ここをシメている左眼が現在ダウンしているのと、自分の札の所有を許されている者はその気になれば境界線のどこからでも出入りが出来る。
 
 
ここはその鳴滝城関所からちょいと山側に入った鳴滝山・・・・・
 
 
あともう少し進めば、竜尾道から、表の、竜なんぞおらぬが、使徒がたまにやってきたりして巨人も闊歩してたりするからあまり安全でも現実的でもない舞台に戻ることになる。
トータルで言えばそちらの方が危険地帯であるかもしれない。
 
 
「でも、そんなこと言ったら責めるでしょ」
 
「そりゃそうですよ。我らが長が自分の評価を危うくしてまで必死に働いてるのに、肝心の言い出しっぺが尻尾を巻いて逃げるなんて。そりゃもう、生皮でも剥がしてあげますよ」
 
責めるどころではない強烈残虐ファイアーなことを郵便ポストが言う。
 
 
「生皮ですか・・・・・僕、猫でも狸でもないんですけど」
 
やりかねない・・・・郵便ポストを被っているが、その本性はどんなものかまだこの目で見てはいないのだ。「それから、固めて小学校の理科実験室にでも寄付してあげますよ」
・・・・しかもそれで終わりでもメインでもないらしい。
 
「暗闇坂の人食いの樹よりも怖いんですけどそれ・・・・・・」
「じゃあ、狼の毛皮でもその代わりにかぶせてあげます」
「なにその火の鳥太陽編!なんでまだ負けてないのにそんなキビシー罰の話になってるんですか」
「奮い立ってきたでしょう?でも、ほんとに逃げるんでしたら嘘つかずに言ってくださいね。長にこちらも連絡しないといけないので」
「ううう・・・」
 
 
相手が郵便ポストを脱がない正体不明のままのため、どうにもペースがつかめず言われっぱなしの碇シンジであった。負け狼のように唸るしかない。なんか思い切りテンションがさがってきたが・・・・・ポストがない素だったら完全に異常猟奇犯罪者の脅迫だよ。
世間は広いなあ・・・・・ミサトさんやリツコさんより無茶苦茶なことをいう人はいくらでもいますよ。タラちゃんアナゴくん、ときてますよ。
 
 
「あ、”機械屋さん”の了解が出たそうですよ。すぐに来てくれるそうです」
驚くような機能ではないはずなのだが、あのポストの中は相当に高機能なのか、となんだか思ってしまう、三つ首銀磨からの無線連絡を伝えてくれた。竜尾道の通信環境を考えるとやはりかなり高機能なのだろう。・・・大切なのはそんなことではなく、内容だが。
 
 
悪いことばかりではない。いいことも言ってくれる。だから人は生きていける。
HEY!HEY!と波も来ている。これでなんとかカツオくん、といきたい。いやはや。
 
 
「到着時刻のカウントダウン、お願いしてもいいですか?出来れば、秒単位で」
 
実のところ、それを頼みたいからこの同行を許したのだが・・・・・出来れば、すぐにこの場を離れた方がいい。たとえ異常猟奇犯罪者の脅迫めいた気合い注入をやってこようと。
一人より二人の方が心強くない、と言ったら嘘になるんだからねっ!と自分に自分にデレてもそれはただ病んでいる証拠にしかならない。
 
 
「それはいいんですけど、逃げるかどうか答えてもらってないですけど」
 
中身はロボットとかいう落ちじゃなかろうな、と思うほど平然としている返答。それなら思い切りここにいてダベっていてもらっても構わないのだけど。
 
 
「嘘をつかずに、正直にいいますと・・・・・・逃げます。でも!」
 
逃げる、と言った途端に、郵便ポストの手紙を取り出すところから鉄のヘラのようなものをもった黒い手がニョキッと生えたので慌てて言い足す碇シンジ。
 
「コンマ何秒かでスグに戻ってきます!そうでないと、こんなところにいる意味ないんですよ、カチカチやるためには!」
 
「・・・・・?かちかち、ですか」
郵便ポストは首を傾げられない、その代わりに声色が。許容しかねる異様の形をした言霊であるが、受け取り拒否もせずになんとか咀嚼しようとする・・・・やっぱり人間らしい。
 
「あまり深く考えないでください、うまくいく保証なんかほとんどないし。あくまでこれ保険ですから。本命は銀磨さんにお願いした機械屋さんの方です。・・・”そうでなくてはいけない”のです」
 
 
「最後だけ発言の重みが違いますね・・・・・」
 
「はあ」
ここでいちいちその意味を説明しろとか言われたらどうしようか、あー、まじ・・魔神のようなことを考えて見透かされたら困るなあ、などと思っていた碇シンジはちょっと拍子抜けした。妙なところに注目してくるポストだな、と。
 
「それは、掟ですから。僕がどうとかいうより」
 
 
そう、それは業界の掟なのだ。だから重たいのだろう。大勢の人生を左右する言葉だ。
 
 
「では、軽い方につきあわないといけないわたしの立場は微妙ですが、いいでしょう。・・・機械屋さんのご到着、そのタイミングで撤退すればいいんですか?」
 
 
「まさか」
碇シンジはせせら笑った。あまり意識したつもりはないのだが、笑ってしまった。
聞く相手をむかっとさせようと、まるで眼中にない、牙をのぞかせるような笑い。
 
 
「・・・・・・・・」
先ほどまで確かにただの小僧であったはずの、小便小僧とガチンコしても負けそうな線の細い少年が、いきなりズシン、と気圧されるほどの重い雰囲気をまとっている。
 
郵便ポストは、その内部の闇の中でふと考える。
 
水上左眼が直々に捕らえ、印籠があったとしても長があっさりその言に従って動いたのは・・・これがあるせいか・・・・ずいぶんと、化けるものだ・・・・こいつは子供の皮をかぶっているのではなかろうか・・・・・もちろん、修行などではなく。そう、
本性を、隠すために。盗み取るに値する、宝人か、それとも・・・・もっと・・・
 
 
だとしたら、これもかなり大変な仕事になりそうだ・・・・・・
ここにもし、生名シヌカたちがいれば強く頷いたことだろう。
 
「そういえば・・・・」
重い雰囲気を三秒ほどで消して、碇シンジは問いかけた。
 
「君の名前を聞いてなかったけど、何て言うんですか?」
これから、仕事を開始する、動き出すぞ、ということだというのは郵便ポストにも判断がつく。
 
 
「まだ修行が終わっておりませんから、正式な名乗りは許されていません・・・が・・・」
教えておいた方がいい、となんとなく思った。これから大いなるド無茶をやらかそうとする人間にはそうすべきだろうと。「この修行が終われば・・・・・」
 
「遠藤、の名字を許され、長から夜の夢の名を下されたなら・・・・・遠藤夜夢と名乗ることになります」
 
「遠藤ヨム・・・・・不思議な名前だね。と、まだ使っちゃだめなんだっけ」
親分である三つ首銀磨がずいぶんと怪獣怪人めいた名前であるのに、普通だ。だからこそ、かもしれないが。「そうなります」
 
 
「じゃ、カウントの方はよろしく」
言って、境界の向こう側に歩いていく碇シンジ。「・・・・まずは実験、と」
 
 
目の前の相手が何をやるのか分からぬままに見守らねばならぬ、というのはなかなかに重たい心持ちである。さきほど碇シンジが発してみせた重たいオーラの正体の一部はこれ。きちんと説明してくれ、と言いたくなるが、当の本人が、実験、とか言ってるあたり。
 
 
左手をまっすぐのばした、これで針金かチェーンでも持っていればダウジングでもやっているように見えなくもない・・・・・左手だけを先に境界越えをさせようということなのか・・・・・越境とはそういうものではないのだが・・・・このまま碇シンジが逃げてしまったら、みすみす見逃してしまった、ということになる・・・・長の許可はあるから責任がどうということにはならないが・・・・・さて、信用に値するのかこいつは・・・
 
 
それが、今からはっきりと、分かる・・・・・・
 
 
ぴかっ
 
どんっ
 
 
ごろごろごろごろごろごろー・・・・・・・・
 
 
「!!」
いきなり強い光が炸裂した。音はその後で、気づいた時には碇シンジが回転しながらこっちに来るので受け止めるしかなかった。何が起こったのかは分からない・・・が、境界を越えたと同時に、本人が言ったとおりに戻ってきた・・・戻ってきたというか向こう側の<何か>に強い衝撃をもってハネ飛ばされてきたというか・・・・
 
 
「シンジさん!!」
受け止めた体は、つい十秒前ほどの姿と強い熱を帯び、様変わりしていた。
左腕が、ない。熱を弱めるために地面を転がしている途中に気づいた。
 
 
「あちちちちちちっち・・・・・」
言葉が出ると言うことは生きているということだが、「シンジさん、あなた左腕がなくなってますよ!」指摘せねば気づかないと言うことはよほどのショックなのか、あとから気づいて絶望の底に沈むパターンか。「うわ、せっかくヒメさんにもらったのに・・・・」この程度ですませといていいのであろうか。焼きイモじゃないのだから。しかし普通、腕というか体は親にもらうものではあるまいか。「”これくらいですんで幸運ゼル”」
「え?なにかいいましたシンジさん?腹話術みたいな・・・いえ、腕から?これは」
「いえいえ何もいきなりこれで思い切り不幸だなって。うー・・どういう狙撃基準なんだよ・・・・人間は大丈夫じゃなかったのか・・・あー、あっつううううう・・・」
 
 
しばらく転がしてもらった熱をさます碇シンジであった。端から見ると郵便ポストに足蹴にされているようで、どのようなプレイなのか、というところだが格好つけてる場合でもない。
 
「言いにくいんですが。・・・・あのー、これはいきなり作戦破綻ですか?それから、その腕は」
 
「いえ、ちょっと見通しは甘かったですが、狙いは間違ってませんので!むしろドンピシャすぎてやられちゃいました。それから、左腕はもとから義腕なのでちょっと溶けちゃいましたけど心配いりません!」
ドンピシャストレートどころか、魔球ナックルなみにとらえどころのない返答であったが・・・・これでへこたれないのだから、とにかくすごい自信だ。牛丼好きな超人なみだ。
 
 
「・・・・自分がかちかち山になってもしょうがないでしょうに」
こう言ってやるしかなかった。
 
 
「えへへ」
 
どういう神経をしとるのか、照れ笑いなどしてきてのでさらに碇シンジを十回転ほどしてやる。しかし、水上左眼が与えるほどの高級品の義腕が溶けるなどと・・・・いったい向こうでどんな目にあったというのか・・・笑えるくらいのダメージ残でよくすむものだが。「ありがとうございました・・・・・もういいです。十分、冷えました」
 
 
「・・・・頭の方も大丈夫ですか?茹だってたりしてませんか?」
労らねばならないと頭では分かるのだが、こういう態度に出られるとどうも声の温度が。
目的が分からぬだけに、安易に「バカか」と断定できないストレスが・・・
 
 
「なんとか大丈夫です。丁度いい、というか・・・・こんなことならもうちょっと時間おいてほしかったというか・・・・弱ったフリをした方が効果あるのかな?それ」
 
 
どういうつもりなのか、寝ころんだままごろごろと再び境界の向こうに行こうとする碇シンジ。「ちょ、ちょっと待ってくださいシンジさん、いくらなんでももう少し休むとか対策を練るとか・・・・というか、私にその行動の目的を教えてくださいよ」
反射的に追いかけようとする郵便ポスト。
 
 
「く
 る
 な
 !」
 
 
回転しながら言うものだからこうなる。だがその声の威は強く、ポストの足を止めた。
ポスト当人も、己の頭上から降ってくる、”異様の気配”に気づいたせいもあるが。
 
 
巨大な手のひらが、ふたつ
 
 
人間のものでは到底ありえない、形やカラーリングもそうであるがなによりそのサイズ、そして手首から先はなく空を飛んでこちらをつかみ取ろうとでもするように
 
 
ぐわし!!
 
 
「福音丸・・・・・・!」
 
竜尾道の住民であれば、一人をのぞいて、知らぬものはない・・・裏と表の境界の終、ミサキに隠り水上左眼の支配せぬ領域を支配する影の管理者。逆らうものはことごとく祟り沈めてきた黙する舟霊、七本の腕をもつ艦の姿をしているなどとも言われるが、実際に全景を見た者はいない。朽ちようと腐ろうとここに留まり続け永久に出港せぬ・・・船の墓場ならぬ・・・墓場の船。しかしながら、太刀打ちできる者は誰もいない。存在にすら気づかぬ水上左眼は論外、それは、水上右眼でさえも。竜尾道という幻影を蜃気楼をいつまでも留めようとする千切れることのない千年の妄念の碇を沈めて不動。竜が頭の上を飛ぶ渡世を認めたとしても、これはどうにも自分たち三つ首のような者どもにして、薄っ気味が悪い。竜にしてまごうことなく人が乗っているのだから、これにもやはり人が、それもこちらの常識をケタ違いに外れた、自分たちでも正体が掴めないほど深々とタチの悪い”人間”が与しているのだろうが・・・あえてこう呼ばしてもらう。
 
 
福音丸、あれは・・・・・
 
 
極め
つき
 
 
 
だ。
 
 
 
得物どころか、片手が足りなくなってる小僧がどうにかできる相手じゃあ、ない。
 
 
福音丸が飛ばしてきた二つの巨大掌(どちらも左手のものだった)はこちらに目もくれず(目はないが)転がる碇シンジだけをまっしぐらに捕らえようとミサイルよろしく追尾して・・・・
 
 
「シンジさん!!」
捕まえられる瞬間、思わず声を上げてしまったが、同時に理解した。
これが、ここで彼がやろうとしたことなのだと。無茶どころではない。滅茶苦茶で出鱈目だ。これはもう、どんなことになるのか分かったものではないので、大急ぎで巻き添えくらわぬように距離をとって穴掘って隠れる郵便ポスト。ここで死んでしまったら遠藤夜夢の名も名乗れなくなる。ギリギリ身が隠れたタイミングで
 
 
ぴかっっ
 
 
もう一度、光が来た。