「こりゃ−、どなたのご趣味ですのん?」
 
他に誰も口に出せそうもなかったので、あえての鈴原トウジ。
 
 
「ここにシンジがおってくれたら・・・・!」と切実に痛切に初号機パイロットの同席を願ってみてもいないものはおらんものはおらんし、この指摘の為だけに帰国せいというのも「漢」ではなかった。なんせ出張先が漢字の国。
 
 
ネルフ本部内・作戦部のミーティングルームにて。
 
 
エヴァのパイロットはプラグスーツ、臨戦態勢のまま全員が集められていた。
 
戦闘服たるプラグスーツに袖を通した以上、そのまま機体に乗り込んで戦場に出るか、せめてケージにて臨機応変な態勢にある、ものではなかろうか、と鈴原トウジや洞木ヒカリは思っていたのだが、アナザーとかいうパチもんエヴァの中には、赤ん坊が閉じ込められているとかいう話で、それを救助すべく意気を軒昂していたのだが・・・・ここに集められて・・・奇妙なことに、いるはずの葛城ミサトを筆頭とした作戦部の大人たちがおらず
チルドレンオンリーで。
 
 
なんか謎の映像を見せられてしまった。
 
 
「とにかく謎」としかいいようがない。できれば、他の者に任せてコメントは差し控えたい類のミステリー映像だった。少し背筋がゾクゾクしているのは、同じ部屋にいる赤い目の少女のまとうオーラがガチホラーで心霊系だったからかもしれない。何か言うことがあればまずは、勝手に出演させられていた者が最優先されるべきであろう。
 
 
ファーストチルドレン、綾波レイ。
 
実力的にもキャリア的にも実績的にも迫力的にもオーラ的にも番号的にも、現時点でのネルフ総本部・葛城ミサト作戦部長総代行の直轄部隊のリーダー的存在・・・・
 
ではあるが、そう喋る方ではない。リーダー役ならば率先して、他の者たちの疑問の声などを代弁して作戦指揮者に伝えるなりして相互の意思疎通を図ったりするべき・・・いや、してもいいのだが、人間には向き不向きがあるわな、他の者が支えてもええやろ。
ヒカリの目もそう言っとるし。・・・・・・・まあ、自分の口から言いにくいのも分かる。
”あのビジュアル”やし・・・・どこぞに流出したらえらいことになるんちゃうん?
 
 
こんな状況なら、なおさら。
 
ドッキリしかけとる余裕なんぞなかろう。ちゅうか、溶岩の雨が街全域に降るとか、こっちを研究しつくしとる敵が十体とか、かなりアルティメットちゅうかまじアカンちゅうか
シャッターガラガラちゅうか。しかもこっちの主人公的最強戦力がいてへんとか
 
 
いわゆる絶望的状況・・・・・・逃げることすら許されぬ・・・・・
 
 
このタイミングで碇シンジの初号機と惣流アスカの弐号機を、ネルフの、国外に出したのは、碇の、組織の、命脈を保つため・・・・・だったのか、ただの偶然か。そんな疑心が席上に渦巻いてもよさそうだったが、それもなく。鈴原トウジも知ったことではなかった。
 
「いや、それないやろ」「知ったらどんな手使うてでも戻ってくるやろ?・・・むしろ」
 
本能的に、もしくは参号機が囁くのか、あのふたりを、「そっくりさん」に触れさせたらまずい、ということが分かっていたからだ。自分たちでどうにかせねばならぬことも。
 
こないな大戦(おおいくさ)やのになア・・・・・”シンジ”と肩を並べて共に駆け抜けられぬことが残念だ、と感じることで恐怖が薄まるのは胸に吹く黒い風のせいか。
 
参号機を知らぬ、乗る前の自分であったら、こんな恐怖には、耐えるので精一杯だっただろう。いや、まあ乗れんのやったらこんな所にお呼びがかかることもないんやけど。
 
だが、この心の落ち着きは、巨人の力を知るがゆえではなく、参号機を感じるゆえ。
 
殴った装甲の手応えは今も記憶の中に熱く。他のモンがどんなやり方でモチベーションを
保っているかは見当もつかないが、自分はそうなのだ。ヒカリは・・・また違うみたいやけど・・・・恐れては、いない。この場にあっても。プラグスーツのイインチョーとか・・・・最初はどないなモンかと思っとったけど、こうして見慣れると・・・綾波も惣流も越しとるな・・・つまり、一等。つまり、天下無双。並び立つ者のない独特の良さが。
硬派として口には出せんけど。なに?そないなコト考えとる時点で硬派失格?やかまし!
 
 
 
「トウジは、すごいね」
「さすがね、トウジ」
 
はて。場にそぐわない幼い声でほめられてもうた。赤木カナギ、サギナ。この幼稚園サイズのプラグスーツ姿に”ドキュン”言い出したら危ないトコだが、洞木ヒカリ一筋であるところの鈴原トウジである。「おおきに」よくわからんが、お褒めを受け取っておく。
 
 
「切り込み隊長だな、君は・・・・素直に感心するしかない・・・」
 
火織ナギサ。もはや渚カヲルオルタではない。当初の魔性どこへやら、最近はすっかりヤンパパ一歩手前の苦労性キャラになってしまっていた。それでもこうもストレートに感心を表に出すなど珍しく。「ようも、切り込み隊長、とか知っとったなー」「?ああ、赤木の家の書庫にあった昔の・・・・あ、いや、なんでもないなんでもない」「だよ、ナギサ」「ひみつにしとかないと、おこられるよ?」「タンスの奥の特攻服とかサラシとか」「だね」」左右から小さな手にひっぱられる所など家庭オーラがハンパなかった。
 
 
しかしながら、エヴァ八号機パイロットがひとり。
 
三人分のシンクロ率で駆るエヴァのデキる度、ゲッター的有能さはいうまでもない。孤高の立場でチームとは一線を引いておきたかったのに、周囲状況からいやでもチームの面倒を見るオカン役を引き受けざるを得ない。裏の指揮者影のリーダーであった渚カヲルとは同じ顔でも違う立場でここに。
 
 
 
「真の勇者、その名はスズハラ!!ってトコかにゃ〜」
「その切り込み・・・踏み込み・・・・お見事でござる」
 
真希波マリと式波アスカも鈴原トウジをなぜか褒め称える。ピンクと黒鉄のプラグスーツ。搭乗するは獣飼い専用機体・後八号機と仮設九号機。純正のネルフ所属ではないのだが、離脱もせずにまだここにいる。鈴原トウジをほめてる場合ではないだろうに、平然として。
 
 
エヴァ参号機=洞木ヒカリ・鈴原トウジ
 
エヴァ八号機=火織ナギサ・赤木カナギ・サギナ
 
エヴァ後八号機=真希波・マリ・イラストリアス
 
エヴァ仮設九号機=式波ヒメカ
 
 
それから・・・・
 
 
エヴァ零号機=綾波レイ
 
 
言わずと知れた、赤い瞳に白いプラグスーツ。鈴原トウジの発言に関してはノーコメント。
 
 
さきほどの「謎映像」に、主役としてご出演あそばされていた。もちろん、本人があの格好で、ではない。あくまでイメージ画像だったのだろうが、誰がみても綾波レイであり、がっちり「ネルフ代表の綾波レイだ」と説明もあった。あれは綾波レイだったのだ。
 
 
 
「・・・・・・・」
 
 
妖気渦巻く赤い瞳が爛々と輝いて・・・表情は昏く陰って・・・いるところからすると
 
 
何も物思わぬはずはなく。いろいろとぶちまけたいところであっただろうが、鈴原トウジが心中おもんばかったゆえのあのつっこみ。小癪なことに映像中でも「鈴原トウジがつっこむだろうから」などとあったが。いったい誰が作ったのか・・・・・・しかも、現状況が現状況なのだ。いや、この状況でなければさすがに綾波レイも日本刀でも持ち出して犯人捜しに勤しんでいたかもしれない。まさか怒らすことでパワーを上げるだのハイパー化するだのを目論んでいるわけではあるまい。
 
 
「ところで、アレは・・ボクシングなのでござるか?それとも、プロレス?」
 
ボケているわけではなさそうな蒼い隻眼、式波アスカ。これ以上、謎映像に切り込めるのは確かに、達人クラスの剣術使いしかなさそうだったが、切り込む方向性をもう少し考えても良かったのではあるまいか、と、己が率先してつっこむことでひとまずこの件に関してケリをつけたかった鈴原トウジにしてみると。
 
 
「殴り合いではあったけど、リングロープからするとプロレスかなあ。コスチュームもそれっぽいし。まあ、ボクシングがロープ四本なのは転落防止のためらしいから、そこまで考えてなかったのか・・・な?」
 
それに、真希波マリが付き合う。もちろん、頭の中では別のことを考えている。映像にもあった使徒使いのことを。牙はただ噛み裂き砕くだけ。マナーもスタイルもなにもない。
 
 
「なんでもいいだろう?ボクシングでもプロレスでも総合格闘技でも相撲でも・・・肝心なのは」
 
明らかに時間のムダ、こんな話早々に打ち切ってやる、と顔に書いたまま火織ナギサは
 
「ナギサ、すもうはだめだよ」「だね、すもうはないよ」「それとも、見たいの?」「すもう、見たいの?」
話を先に進めようとしたが
 
「見たくないよ!!あんな細身で相撲とかありえない・・・・って何言わせるんだ!!」
潰された。勇み足っぽくもあったが。
 
 
「今、ナギサくんの嗜好が明らかに・・・・!意外なぽっちゃり好き?・・・イイかも」
「いいんちょう!?」
 
奇怪な状況であった。1秒でも早くエヴァに乗り出撃せねばならぬのに、こうやってケージでもないところに集められて謎映像を見せられている・・・・こっちを混乱させて足止めさせる敵の作戦でも・・・ないだろう。一応、部屋の鍵は開くし。熱血ロボットアニメなら「オレはいくぜえっっ!!たたかうんだ!!」とか叫んでケージに走るところだろうが・・・
 
 
 
 
なにか、あったのだろう。
 
 
 
 
もうすでに十分すぎるほどに「何かあって」いるのではあるが、さらに。
 
 
 
 
ボクシングのつもりでいたけれど、急にプロレスルールでやるでオラ!!、というような・・・ああ、謎映像に毒されとるな−、ともかく。相当賢く立ち回らぬと、越せん抜けれんような地獄坂暗闇坂の男坂・・・あ、いやオナゴもおるから言い方変えんとな、男女坂、だとワケわからんし。夫婦坂?ますますわからんし!とにかく。厄介極まる分岐点にきとるんは間違いない。ちっとでも選択を誤れば全滅。ここに人がいた、ということすらもきれいさっぱり消されるようなハメになるのだろう。黒い風が巻く。渦を巻く。暗雲を切り裂く閃き、稲妻を呼びたくなる。が、まさかこの面子で、そないなことを言うわけにも。
 
 
一カ所に集められているのが、少し救いではあった。これでバラバラに分けられていたら。
 
ぎゅ、っと皆には見えぬように、ヒカリの手を握ろうとしたら、先に握られた。
それだけで、己の中に惑いを晴らす明が灯る。何が起きてどないになっても、彼女は守る。
 
 
何が起きているのやら、さっぱりではあるが、・・・確実なことはいくつかある。
ネルフ本部、有力な応援も期待できそうもないこの砦に、弱気が浸水もしておらず、臆病の風も吹き抜けていないこと。この集まりを仕切っているのも、多少人生経験マシマシでも結局おなじ人間であること。それから
 
 
大人しく、白旗をあげるはずもないこと。
自分たちを迂闊には地上に出せないけれど・・・・
 
 
アナザーと使徒使いとの決闘開始のゴングはとっくに鳴っているのか
もし、そうならば・・・謎映像の組み合わせとは異なってはいるわけだが
 
 
どのタイミングで殴りつけてやるか・・・・
 
おそらくはそれを、悪魔も一目でしょんべんちびるような、凶悪無比な顔で探っている・・・・のだろう。ここに現れない大人達は。
 
 
そのあたりをいまさら伝える学習映像でもなさそうだが・・・・
待つのもパイロットの仕事。待つのがパイロットの仕事、ではあるが。
フォローくらいよこしてくれてもええんちゃいますかね・・・、とビビりではむろんないが、おそらくこの中で一番ATフィールドが弱い鈴原トウジが祈る頃。
 
 
 
 
「金剛アスカ・・・・・彼女は」
 
ついに、綾波レイが口をひらいた。
 
 
 
ひい、と一瞬、胃が喉元までせり上がった鈴原トウジだが、さすがに悲鳴はガマンした。
赤い瞳光の直撃は獣飼いに向けられたことも大きかったが。男の子であった。
 
 
「さて?便宜上の・・・コードネームの類いにござろう?本人がそのように名乗ったわけでもなし」
「惣流、式波、金剛・・・・・か。誰が一番強いのかは別として、おんなじ顔でおんなじアスカ、じゃ区別しにくいしねえ・・・・少なくとも、うちらの同族じゃないねえ」
 
 
紫の雨に煙ってはいたが、アナザー3以降は、見知ったフォルムではない。プロト、実験機はもちろんのこと、制式、後期型でもない、それらをグレートに凌駕すべく生み出された「未知にして別種の最新型」で、情報解析に発令所がフル稼働しているはずだが、
 
 
アナザー1,2,つまりアナザー初号機とアナザー弐号機は同じ姿をして、碇シンジと惣流アスカのスペシャル、合体技さえ使ってみせた。勝るとも劣らないトンデモ攻撃力があるのを示してみせたわけだが・・・・「コピー」ではない。
 
ケタケタと、笑う。獣二匹が牙を隠しもせぬ。ただ、同じ顔でありながら、さほどに興味はないぞ、とその隻眼は。奇妙な語尾をつけたりするのも一緒だが。獲物ではない、と。
 
 
「わたしたちの知っている”彼女”と、背中合わせの存在・・・・会わせてはいけない・・・不吉な、かげ」
「ま、そだねー。いわゆるドッペルゲンガーとでも思っていればいいんじゃないの。こっちの赤姫さまが金剛を見たり、触れたりすれば、ロクなことにならないってね」
 
 
「ちょい待ち!!その画像はなんなんや!?」
 
誰か代わってほしいとも思いながら、己に課された役を忠実に果たしにいく鈴原トウジ。
 
 
「ああ。なぜか、この席の中に用意されていたので使用してみたのでござる。”こちらの画像をごらんあれ”とか前フリが必要でござったか?」
同じ顔であるからその気になれば、自撮りで造れないこともない。が。そこまでする必要、しかも、この修羅場中のド修羅場中に、わざわざするかといえば・・・帝釈天なみの神経の太さでも困難であろう。「謎映像」と同じ作者と考えるべきか・・・全くもってどうでもいいというか、そんなこと考えている場合ではなかった。引きずられるのは、まずい。
 
 
まずくはあるが、どちらが強いのか、などと考えてしまうのは・・・・
強さの順列、ランキングなんぞを考えてしまうのは、とてもよくない・・・・
 
誰が一番強いのか、などという、最強の幻想、バルディエルの戴冠をスルーしても
強い者が勝つのではなく、勝った者が強い、とか。変化に適応するものこそ、とか。
 
 
あの映像では、綾波レイを代表として、ネルフ総本部の戦力はまとめられていたし、苦戦しながらも「金剛アスカ」をKOしたのはけっこうなことだけれど・・・この二名はどうなのか。これを含むか、含まぬか、で、結果はかなり違ってくる・・・だろうなと、火織ナギサは腹算用する。片方は魔獣、片方は刀竜。真希波マリの所有するQセットなる得体の知れぬ装備といい、後八号機は・・・八号機をも狩りにくるかもしれぬ。
仮設九号機のアダナは、竜号機・改、だ。かつて猛威をふるった水上左眼の、竜号機の剣法がそのまま使えるのだとしたら・・・現時点でのネルフ所属エヴァと獣飼い・・・・1,3,8号機と後八、竜改・・・勝てるか、どうか。ここに同席させているのも・・・機体に乗る前に拘束する状況を考慮すると・・・どうか、など、つらつら考えていた所
 
「初号機・・・・アナザーのほうだけど・・・パイロットが、好き・・・なの?」
綾波レイが
 
 
「ぶほっっ!!」×2
 
 
牛乳は飲んでいなかったが、思わず鼻からイチゴ牛乳が出そうになった火織ナギサ。
鈴原トウジも同様にフルーツ牛乳が出そうになっていた。「よしよし・・・」この程度でむせているだらしのない男子どもの背をなぜる洞木ヒカリと赤木サギナカナギ。
 
 
「目的語がないから、察するけど・・・・金剛アスカが、アナザー初号機の、もうひとりの碇シンジくんを、好きかって話かな?ラブラブかって話なのかな?」
真希波マリが目を丸くしたり細めたりしながら確認した。月面在住の猫のように。
 
 
「・・・そう」
一瞬、首をふりそうになかったが、結局、うなづく綾波レイ。こうなると読心能力でもなければ質問の意図は分からないっぽい。それとも何らかの心理テストなのだろうか。
 
「相思相愛かどうかは分からぬでござるが、挙式エンドがどうこう申しておったところからすると”金剛”が彼の者を本心から、唯一無二として好いておるのは確かでござろう。
あ、ついでに告げておくでござるが、拙者は刀剣一筋で、ラブなどは全くアウトオブ眼中であるので、そのあたりよしなに、でござる。こちらのシンジ殿を追うたりするのも慕っているせいではなく、純粋に剣の奥義めあてでござるので、誤解なきよう。ああ!ついでに申し添えておくと、べつに百合でもなく、真希波とも完全に同僚同輩同族の囲いの中でござる」
 
聞かれもせんことまでべらべらしゃべったのは、煙幕のつもりなのか、しれっとした隻眼の腹もよく見通せない。本家も最近はかなりややこしい形式になっているので仕方ないが。
 
 
「こっちのアスカはどうなの?」「いっしょにいってるしね」
「すきなの?シンちゃんを?」 「いまごろ、どうしてるのかな」
「アスカえんどかな?」「おちつくところにおちつくよね」
「だよね!同居をやめて今の距離感とかどうかなと思ってたけど!こんな危機的状況でふたり一緒とか!もう!もう!もう!」「あの・・・ヒカリはん・・・背中バンバンいたいんですけど・・・おすもうさんだって、実は叩かれるといたいんですけど」
 
 
「あ、いや!しばらく!しばらく!」
 
話がめんどうくさい方向にいきそうだったので、転換をはかる火織ナギサ。ここは放課後の教室ではないのだ。バカなの?!女子なの!?口調が歌舞伎っぽくなったのは、思わずおネエ調子でつっこむところだったからだ。・・・・こんなのスルーしたいのに。
綾波レイの真意もさっぱりわけわからぬが。
 
アナザー・・・本質をついているかは別として、呼称は統一すべきであろうからそれに従うが、アナザー1,2,初号機と弐号機、そこに搭乗しているはずの碇シンジと・・これも便宜上、金剛アスカ、にしておくが、・・・あの二人は、厄介極まることに本物の「反存在」だ。宇宙の果てでもない物理地球上で出くわすことになるとは・・・・
 
八号機の観測データに頼らずとも、カヲルが残したデータにあった。これも予知していたというのだから、「カヲル」はやはり自分たちとは別格・・・人類の器に収まりきらなかったのも。「ナギサ」でも、この小さな手の感触がもう伝わらないとか、損している。
いや・・・どこぞの高殿で、こんな会話の相手をせずにすんでいるからやはり羨望するか。
 
 
「・・・もう少し、戦闘に役立つ話をした方がいいんじゃないか?互いの連携について、とか。アナザー1,2,あれが鏡映しの存在であるなら、弱点も似通う可能性もある・・・・情報の共有をしておけば、攻略速度も」
 
ゴドムの氷で動きを止められた、という点から推察するに、アナザー3以降の機体が、1,2,よりも強大だという可能性は低い。機体スペックでいえば、アナザーは制式タイプの弐号機を軽く上回るはずだが、パイロットの違いが大きいのか、そこは救いだった。
 
まさか、移動中の暑さに辟易していたところ、アイスなお迎えがあったため喜んでコフィンされていた、とかいうオチではあるまい。どういった展開になろうと、最後に生き残るのはアナザー1,2に違いない。ならば、その対応を現場レベルで打ち合わせておくのは有効な時間の使い方だろう。あー、傍観しときたいんだけどなー。隅っこで道化師的発言をして場をかき乱したりしたいんだけど。出来ることなら。守るべきものがなければ。
 
姿が同じだろうと、反・碇シンジと反・惣流アスカ、この二人の心臓を貫くことに躊躇もない。天京出張にいってる方に義理があるわけでも、有益を感じているわけでもないが。
 
綾波レイにも、鈴原トウジにも、やらせるわけにはいくまい。
影を消すのは同じような影がするべきだろう。
 
相手の力のほどが読めないけれど。さすがのカヲルもそこまで読み切れていないのは小気味いいが、まあ、困ったことだ。アナザー3以降も対エヴァを想定して製造されているのだろうから、決して弱くはない。ダミーコードなどで稼働させられた日には・・・しかもこちらの題目が不殺ときている。使徒使いがどう動くか、それから・・すぐ隣の獣連中が
 
 
「ん?拙者達に言ってくれているなら、配慮は無用でござる」
視線を読んだのか、式波ヒメカが応答した。こちらも、なんの躊躇もなく。
 
「うん。弐号機はもちろん、初号機も・・・”狩る”だけなら、ワケないにゃあ」
 
「捕獲は難儀でござるが。さきほどの大技も威力は大したものではあるが、つけいる隙は笑うほどでござるしなあ、カカカカカカカカ」
 
 
獣が二匹で嗤う。もとより、自分たちはそのようなものであるのだから、と。
初号機、弐号機がそうであるなら、他のものもいうまでもない。強さ比べなど。
おまえたちとは、なんのことはない。捕食と被捕食の関係だと。今は、あらしのよる。
 
 
「おいおい・・・・」
震えずに声を出せたのは、握ってもらっている手のおかげか。それとも違和感のためか。
「もう少し・・・分かりやすく、頼めんかいな」どうにもわざとらしいし、その目は自分たちを見ておらず、どこか遠くを捉えているように鈴原トウジには思えた。
まあ、ほんとうに自分たちを囓る気でいるなら・・・黒い風を吹かせるわけだが。
 
 
「獣飼い・・・・ゼーレ世界征服部門における特殊部隊。征服度が66%をきると結成され・・・征服規定率を達成すると部隊解散、構成メンバーは残らず殺処分される」
 
「ひえっっ・・・」
 
さっきはフルーツ牛乳を鼻から吹きそうになったが、今度のは・・・・脇と背筋にアイスチャレンジ。本人の温度差は変化ないのに、口から出してくるワードの寒暖差が。
綾波、はんぱないでえ・・・・
 
「いまさらのご紹介とか・・・それってフラグ?それからいつの時代の紹介文なんですかにゃあ?殺処分とか。そんなんでこのご時世、人なんか集まらないよ」
「征服度も正確には、66.6%でござる。それを下回ってから結成されても遅いので、実際にはその予測が成された時点になるでござる・・・・まあ、拙者もこの目で見たわけはなく、そのようにレクチャーを受けただけなのでござるが」
 
それはそうだろう、組織の立ち上げにかかわるような大人はここにいないわけだし。
それにしても、綾波もなんでこのタイミングでこのようなこと言い出したのやら。
世界征服−、とか、サラッと出てきたけど、スルーする鈴原トウジであった。世の中突っ込んでいいこととまずいこともある。自分トコがもし、そうであるなら・・・「世界は平和になった。お前たちはもう用済みだ。バーン!」とか考えだすとかなりやる気が落ちるんですけど。
 
 
 
「真希波・マリ・イラストリアス」
 
綾波レイが、真希波マリのフルネームを呼んだ。
 
 
「むうっっ!!?」
自分たちは仲間であるはず、いや、仲間であるのだが・・・・存念が読めない鈴原トウジ。碇シンジや惣流アスカ、渚カヲルなら分かったのだろうか・・・・修行が足りないのか、・・・・「いや?綾波さんのコミュニケーション能力に難ありなだけだよ?」
鈴原トウジ以外の者はもう悟りに至っていたが。「この修羅場が済んだら修行」
 
 
「はい?なんですかね」
チェシャ猫の皮をかぶった、人骨を舐るような魔獣の笑みで。
 
常識的な流れからすると、「どうにもお前さんたちは信用ならんから、ここからは別行動にしよう。とりあえずここから出てけ」的なことであろう。このタイミングで100%正解ではないにしろ、バックヤードを暴露したあたり。背中を預けられぬ相手を切り分けるのもアタマの仕事。鈴原トウジが己の役割を果たし続けるように。綾波レイも。それを。
 
 
 
「ユイおかあさんの匂いがする・・・・あなたから」
 
 
「え?」
全員が完全に意表をつかれた。綾波レイの言葉以上に
 
 
 
 
 
ぽろっ
 
 
真希波マリが、いきなり涙を流したことに。