でも、ツッコんでおいた。時計覆面が完全についてこれてないのは承知の上で。
 
 
「女子か!!」
 
 
気合いと驚きとその他もろもろな感情を従えての高速ツッコミ。紐でもつけておけばコマも高速回転したであろう炎のツッコミ。鈴原にだってここまではやれない、まさに会心のツッコミだった。ただ、あまりに会心だったので、アスカが指先にセットしていた念炎がその勢いで南席、渚カヲルのところへ吹っ飛んでしまった。まー、なんというか、攻撃力的には、至近距離で拳銃をぶっぱなしたのとえらく違わない。防御人格のくせにここまでやるとは・・・・会心というか感心してしまう。いきなり顔面火ダルマ・阿鼻叫喚か−・・・いくらここがアチョーの国とはいえ残虐が過ぎはしないか。(事故よ!ウッカリよ!)
 
 
「ありがとう、シンジくん」
 
「ひさしぶり、カヲルくん」
 
 
しかしながら、どこ吹く風の男子ふたり。「絶対領域」か、ATフィールドか、それとも別の何かが、アスカの殺意がこれでもかと込められた(だから事故よ!!)念炎を消し去っていた。まあ、ここで顔面ヤケドで転がり回ってたりしたら、アンタ何しに来たんだ・・・・、というトコロであるが・・・・単純暴力は通じない、と認識した方がお互いのためであろう。
時計覆面はまだアワアワしているが、灰基督の方は変化はない。席を用意したくらいであるから当然、知っていたのだろうが。
 
 
「四号機は元気?」
 
「うん、名前はメタトロンに変わったけれど、いつもともにあるよ。初号機も、無事にシンジくんを錬肉してくれたみたいだね」
 
 
端から見るだけなら、引っ越してしばらくして再開した仲良しボーイたちの近況報告なのだが・・・
 
 
「ありえない・・・・・・・・ありえない・・・・ありえない・・・・」
受け入れられない時計覆面がブツブツと。状況適応の面で優越を得るところかもしれないが、その反応の方がまともであり、炎のツッコミなんか入れていた自分は・・・・いや、こっちだって人生真面目に生きている!もっと根本的な指摘をいれねば・・・・
 
 
「あ、アスカ。このカヲルくんは、カヲルくん本人だから」
 
碇シンジから賢い小学生ならせんような、幼稚園級の説明か、フィーリング言語がきた。
それで分かるよね?的な顔をされても。裏で打ち合わせをしていたわけでもないのに。
 
 
わ・か・る・も・の・か!!
バカバカバカバカバカバカシンジ!!
 
火織ナギサや式波ヒメカのような「コピー体」ではなく、あの「渚カヲル」・・・初期型フィフスでいいんじゃね?とかラングレーとドライはいうけれど無視。
 
 
「あの渚カヲル」だ。
 
 
少なくとも、自分たちにとっては。馴染んだ、安心感がある。絆(と書いて、”ナカマ”と読む)とかですか?ドライがそう表現したりするが、ハズいのでスルー。
そして。四号機を「メタトロン」と呼ぶ、ということは・・・・思い返しながら・・・昔語りをする時間帯でもない、タッチ交代、ラングレーに切り替わる。
阿修羅のごとく。
 
 
そうなると、問題なのは、こいつが現在どこ所属なのか、ということ。
 
 
敵ではなさそうだが・・・・自分たちと同じ席につくわけでもない。
念炎を消去したのも、ここでそれ系の修行を積んでいたおかげでもあるまい。
ここにやってきたのも、自分たちと違って誘い込まれたわけでもなさそうだ。
時計の仲間が見張っているとこをすり抜けてきた、というところか。
少なくとも、時計の味方ではないというだけで大歓迎だ。シンジの味方なのは間違いないし。あー・・・でも、ここで裏切ってくれたらどうしようかな−。
 
シンジのやつの「いろいろ罠」が、どこまでかかっているかによるんだろうけど。
しばらくは、主導権を渡すしかない。ラングレーも、ドライも反対しない。
あとでいろいろ問いただす、おしおきの腹パンチの回数もその時決める、として。
時計覆面、バエルノートの手前、あまりこちらの無知もさらせない。さっきのも、そのあたり分かってやっているのかいないのか・・・・。どちらにせよ、今のところ、武器は口先だけだ。あと表情・ポーカーフェイス。四方そろったから、麻雀か。
 
 
「とにかく、そろったんだったら、話、すすめてもらえる?」
 
いかにも分かってましたよ的に、ちょっと不機嫌な感じで。驚いてなんて全然いません?
 
「時間を無駄にするのは、そっちもイヤでしょ」
 
「ええ・・・・(キリ)・・・そう・・・・(キリ)・・・ですね」
 
優位をひっくり返されての悔し歯ぎしりの音かと思ったら、時計の針が軋んでいるようだ。
感情シンクロとか高性能だが、覆面的にどうなのかそれは。とにかく、時間が稼げた。
ここをただの足止めとするか、超ピンチに陥っているらしい第三新東京市、ネルフ総本部を救う一手とするか・・・・・自分は罠から抜け出して、相手を罠に嵌める・・・まあ、「いろいろ罠」だ。確かに。碇シンジ、アンタのいうことは正しかった。真実だった。
 
 
「影波さんはいっしょにきてないの?」
「ああ、レリもシンジくんに会いたがっていたけれど、身重だから、大事を取って家にいるよ」
「へえー・・・ああ、もしかして明暗さんがきてるとか?」
「今はもう、ふたつに分かれているけれどね。暗の方はやはり参号機と鈴原くんたちが気になるみたいで」
 
ピキッ!
 
 
「そこの男子!!」
 
円卓を叩きつけて注意する。「え?どうしたの」「どうかしたのかい?」・・・・・こっちが情緒不安定みたいな顔しやがって・・・・・くそ、時計が同情顔になってるし。
 
 
「雑談で重要情報だすの禁止!!」
 
 
「えー・・・少しはいいじゃ」
 
バン!!
 
もう一度、円卓を叩きつける。これで分からぬパーにはグーにて制裁する。
 
 
「はい・・・じゃあ、小さな声で」
拳を構えたところで「分かったよ・・・・言わなきゃ分からないのに」とか不満げなので、あとで喰らわす分にツケておく。・・・アスカであれば、渚カヲルに「抑えておけ」のサインでも送ったかもしれないが。こちらも昔のアスカではないように、彼も昔の彼ならず、だろう。
 
 
 
「茶の用意もあるが・・・・如何」
 
灰基督が卓上に声を転がす。どこを向けての声か、まわる賽の目のごとく判然としないが
ここでタイムをとるかどうか、という呼びかけなのだろう。始まったばかりではあるが、そも着席時間の不揃い。自分も茶などもらっていないが、シンジの奴はそれなりの供応にあずかっている感じでもある。この局面で毒の心配もせんでいいだろうし。とんでもない遠方、地の果てよりも遠いところから来たような渚カヲルが「ちと、ノドを湿らせたい」と言えば、それはアリだろう。そんな必要がある体かどうかは別として。
自分たち、東コーナー、いやさ東席にしても、打ち合わせの時間がもらえるのは有り難い。
西の覆面時計にしても、こうも状況が変化してしまえば上位者との報連相が要るだろう。
 
まあ、昔の馴染みで、渚カヲルに、時計の連中を片付けてもらって、第三新東京市のトラブルも始末してもらえれば一番、いいのだろうけど。業界の今後、といった話になるなら。
 
 
「時間は大事だから、飲みながら話そうよ」
 
碇シンジが。自分は茶菓子をたんと馳走になっていたのだろう、ゆえに甘ったるくなっているのかもしれない、口とか脳とか。引き締めるために「うめぼし」をゴリゴリくらわしておく。「いだだだだだ!!な、なんでさ!時間は大事じゃないか!いだだだだだ!」
 
「そうだね。時間は大事だね・・・シンジくんの言う通り」
 
でも、実力行使して助けはしない渚カヲル。「バエルノート、君もそれでいいかな?」その覆面でどうやって茶とか飲むのか・・・・飲むときは外すなら、見てみたくもあるが
「はい。・・・・碇シンジくん・・・彼がそう言うなら」納得なのか説得されたのか不明だが、頷いた。こうなると、こいつを「うめぼし」した自分の立場が微妙になるが・・・
 
「ふん。脳のマッサージ終了、よ。話し合いってんなら血の巡りをよくしとかないとね」
 
こういうのは言いきった者勝ち。我ながら苦しいな、とか思ったら負けだ。
初号機も弐号機もなし、パワーではどうにもならない。勝利条件は自分の望みが通せるかどうか。この場において、己は何を望むべきか・・・さて、最適の立ち回りを考えよう。
思考のギアをあげようとしたところで
 
 
「何がどうなっても、アスカはミサトさんたちの元へ帰すからね」
 
碇シンジに微笑まれた。それは、漢に脱皮しつつある少年の、最後のきらめき。
 
 
”きゅんっ”
 
とか、アスカやドライならココロがするトコロなんだろうが、自動的に。ちょうど配膳が終わったタイミングなのも不幸だったのだ。自分のぶんのクリームソーダを碇シンジにぶっかけていた。「あ」悪気はない。そこまでの意図はなかったのだ。いじめではないの!
 
「ぴょえええっっ!?」
 
碇シンジの奇声があがり、時計覆面どころか、渚カヲル、灰基督もドン引きしていた。
 
「違うの!!違うのよ!クリームソーダに罪はないの!」
 
自分でも何を言っているのかわからないが、そんなことを叫んでいた。こんなことで浪費していい時間ではないのは重々承知だが、やっちまったものはやっちまったのだ。
 
ただ、自分がされたら、「何があっても里に帰す」、どころか、その場でブッ殺すだろう。
 
自分で注文したのだから、クリームソーダが死ぬほど苦手だった、恐怖するほどだったのでつい、とかいう言い訳は通用しない。このドン引き空間をどうやって通常にもどすか・・・・・・・どう考えても自分にはムリなので、ドライに任せることにした。
阿修羅のごとく。
 
 
 

 
 
「知不」
 
 
 
十号機の、ニェ・ナザレの「邪眼」に、己がどの程度耐えられるものか、A・V・Thは知らない。ただ、マイスター・カウフマンからは「十号機を殺せるのは、お前だけだ・・・・背後に立つことさえ叶えば」と言われている。ボディが未完成のままで棺で寝ているのが定位置であるから、そもそもその絶対条件が叶うことがない。背後に立てば、誰でも勝てるわ、という話ではない。通常の人も使徒も、鏡どころかモニターごしで邪眼に捉えられてもくたばるのだから。睨まれたら即アウト、この世退場。多数まとめても可。
問答無用の必殺アイで呪殺蒸発。人の能力を、巨人の尺度、カタチで再現する、というのはどういうことか、乗せる前に気づけばよかったのだが。もう、誰にも手出しができない。
 
 
「マルドウックの火喪」
 
60人以上のチルドレン、エヴァのパイロット候補を焼き殺して己一人、成り上がった。
その中にマイスター・カウフマンの血筋もいたらしい。
この邪眼もちさえいなければ、業界の様子もずいぶんと異なっていただろう。
 
そんな大魔王級の邪眼にやられて、死亡しなかった唯一例が、先代のA・V・Th。
首から下は滅ぼされたが、首から上が生きていた。生き延びて子供を残した。
そういう家系なのだ。爵位もある。
 
己がギルにスカウトされたのも、「十号機殺し」そのため。正確には、その手段の一つ。
ニェ・ナザレの寿命が尽きるのが先か、天変地異で十号機ごと地底に呑み込まれるとか、
実際にその命令が下される時がくるのか、どうか。運命だけが知っており、その正否も。
 
 
一睨み、二睨み、くらいはしのげるであろう。その間にやれ、という話だ。
 
 
ちなみに、ATフィールドも関係なし。使徒もそれでことごとく滅ぼされているのだから。
しかも、ソドラとゴドムも使わせぬように、などと。参号機の明暗がいれば盗み取るくらいのことはやってのけたかもしれないが。地中にあるモノが背中など見せるはずもない。
 
 
が、命令がきた。身動き一つせず、睨むだけで襲いくるものどもを返り討ちにしてきた地底の女王。どう考えても、ノコノコ地上に姿をさらすはずがない。それとも死期が近いのを悟っての道連れを大量生産しにきたか。人の最終敵はやはり人か。であれば、弱点のひとつやふたつ、あってもよさそうなものだが・・・・ないから、ここまで無敵を誇ってきたのだろう。己の家系も一矢を報いたわけでもない。ただの取りこぼしだが・・・
 
不死身、というわけでは決してないが、首と体が離れても生きていける、という特殊体質、異能を後弐号機がどこまで拡大強化してくれるか・・・邪眼の完全無効化、までは期待しないが・・・一方、ソドラ、ゴドムに対しては対抗策は全くない。ゴドムが分断され、片割れが使徒使いの手に入ったことはこの任に関してのみいえば都合がいいが、まだソドラがある。一国どころか大陸を焼土にする、とうたわれた武装を使わぬ保証はどこにもない。
秘匿死蔵するつもりでないことは、十三号機に使用させたことで分かる。あれが抹殺トリガーになったのかもしれない。会議も承認もなしにその気になれば人類全て皆殺しに出来る存在。今の今まで生きてこれたのが奇跡というか、なんの欲もないのが勝因か。
己は、その時機がくるまで後弐号機で潜伏待機。
 
 
だが、その時がきた。わざわざ地上にあがって、背中を向けてきた。
 
 
潜伏は完璧。気配をつかまれぬため、情報も完全遮断。何があって、こんなことになったのか不明だが・・・なんらかの欲をみせたのか・・・・この機会逃せば
 
 
プログレッシブ・ランスにて突進する。
 
 
気づかれて、邪眼の威はともかく、ソドラの炎を使われれば、そこで終わる。
一撃で、プラグ内のパイロットを貫く必要がある。
最悪、エントリープラグの一部を損壊させるなり、生命維持機能を停止させれば。
外気に触れるだけで、もたぬのだと。その肉体は。
睨むだけで人も使徒も尽く殺してきた凶悪無双の目玉を収めるにはあまりに脆い。
 
善悪の彼岸、という気もない。十号機がいなくなったところで、世界がおとぎ話のようにハッピーエンドを迎えるわけではない。これは、爆発物の処理に近い。
この先、使徒も殲滅し尽くしたら、エヴァ同士の戦争が始まるのは火を見るより明らか。
それを唯一、抑えられる調停、ブレーキの解体であるかもしれない。
 
正義でもなく、そもそもまともではない。天に至る階段をのぼるどころか、奈落に足をとられるような事柄。「地の底も それなりに たのしいよ」と声が聞こえたような。
 
ナザレ体制以後の世界。使徒殲滅業界のその後を、見ることはできるか。
 
 
十号機は振り向かない。
背中を向けたまま。
その目を東の方へ向けている。
何か、求めるモノ、欲するモノが、そちらに現れたのか。
ソドラからの自動迎撃もない。そこまでして守護する義理もないのだろう。
 
 
これならば、貫ける。
畏怖の余り、完成させることも許されなかった、機体を。
キリストを刺した兵士は、今の己と同じ心境だっただろうか。
 
 
「同意」
 
 
苦悩はない。必要以上の、身が震えるほど、シンクロに支障が出るほどの恐怖はない。
ここで回心し、十号機のしもべになる、という選択肢が閃いたりもしない。
これも、成してしまえば、歴史の必然ということになる。
 
 
十号機がソドラを使って、ここより「東」を焦がせば。ゴドムで西より凍らせればよい。
という話では無論なく。サード・インパクトかジャイアント・インフェルノか。そんな呼び名を考える間もなく、人類含めた大概の生命の終わりとなる。まさか番人が己の守護するモノを持ち出すなどと、唯一、それが許されるのは、後任に引き継ぐ時だけ。
 
 
十号機の乱心暴挙を停止させる・・・・相互相殺・・・・その保証も無しに、やはりこんな巨人など、使う方がおかしいのだ。「愚者」・・・東西南北、世界にいくらでもいるだろう賢者たちも今、この時この場を見てはいない。蒼ノ騎士、エヴァ後弐号機の槍が、十号機の背を
 
 
「お前達なら・・・お前達が望み・・・引き継ぐなら・・・・」
 
 
「それも・・・・よいか・・・」
 
 
ニェ・ナザレの声がして
 
 
貫く
 
 
 
「命火、くれてやっても」
 
 

 
 
 
「合格祝いをリクエストしても、いいでしょうか?」
 
 
 
大使徒たちに囲まれて、それでも気絶もせずにぬけぬけとここまで霧島マナが言えたのはやはり、合格を告げた大使徒長の姿のせいだった。あの中学の屋上で見た姿のままで降臨してきていた。桜の結界はまだ解けていないが、真名を開示することはなく。今さら。
 
 
「え?けっこういいアイアンハートしてるな−・・・・フツー、一時間は号泣とかして腰抜かして鼻水ズルズルさせてゴロゴロ転がったりするトコロだがなー」
 
確かに、高位存在の言いそうな偉そうアピールではあるが、「その姿」なのに納得する。
してしまう。せざるを得ない。少年マンガみたいな言い回しでアレだけど、次元が違う。
自分のしもべ使徒たちをまとめてぶつけても、どうにもならないレベル差を悟る。
 
中学の屋上でのことを言わぬのは、姿を借りているだけなのか、たまたま作った姿がそれであったのか、数多くある端末の一つであるのか、見抜けたかもしれぬ、という考え自体が身の程知らずなのか。神々しい光輝の塊とかでは会話がしにくいので有り難くはある。
もちろん、鼻血ブー!2リットルブー!!的な美少年、高河ゆん先生風味の美青年やら、威厳ビリビリエレクトしちゃうロマンスグレーでも、そりゃ良かったのだけど。
頼み事はしにくいので。
 
 
「やはり、そのルックス、問題アリでしょう(キリッ)。人類には視覚情報から理解の基礎部を構築してからではないと(キリッ)」
 
ラファエルがまだやっていた。こちらもまた真の姿があるのだろうが、完璧主義なのかもしれない。この儀式が終わるまではそれで通すのだろう。やってることは限りなく拷問官に近かったが、どうせなら見慣れた文化で見目麗しいほうがいい。
 
 
「金銭で購えるものならば、このウリエルが金貨を贈ろう」
「武具を・・・・欲すならば・・・我が爪より産みし・・魂刈りの鎌を」
「今回の試験の参考書でしたら、お譲りしましょう。これからも励むように(ドヤッ)」
 
 
大使徒長への図々しい物言いが咎められることもなく、他の四大よりずいぶん前向きな言葉を賜った。試練をくぐり抜けた者に何か与えるのは、やはり古来からのお約束だからであろうか。ほとんど越えられることもない無茶テスト、というのもお約束だけれど。
合格〜〜!と、油断させておいて、欠落を指摘して落とす、というのも。よくある話で。
 
「とはいえ、使徒使い、それも歴史上、最大容量の使徒使いたるユーが手に入れられないものなんて、SOSOないダロ?それと、参考書なんか明らかにイラネーでしょ?」
 
さして長い時間ではないけど、シンジくんたちに紛れて、その近くで検分していたというのは・・・話がしやすい。こっちの心底など全部見抜いているかもしれないけれど。望みは口にする、言葉にしておくべきだ。四大使徒に奏上できるなど、二度とない機会。
 
「なにが欲しいんダイ?ほんとの望みはなにかナ?聞くだけはリッスントゥーミー」
 
「”おのこ”が欲しいんです・・・・・・いえ、ちょっと古式めかしてみましたけど、通じてないと困るので、ぶっちゃけますと、オトコが欲しいんです」
 
「OH!!・・でも、そんなのヨリドリミドリじゃね?その気になれば、2000人級のハーレムとか造れるダロ。AH〜、イエ−、日本風にいうと、「OH!奥」か」
 
「すぐ死んじゃうようなのは、いらないんです。少なくとも、わたしより長生きしてくれるくらいでないと。それから、使徒使い、といいますか、そっち関連の業務を分担、共働きしてくれる系を希望してます。具体的人名をあげますと、碇シンジ君です。血統的に補足しますと、碇ゲンドウ・ユイ夫妻の息子のシンジ君ですよ。」
 
 
「まあ、条件に適合することを考え合わせれば、同名違いというのもありえないが・・・
それにしてもゼルが分断したキマイラめいた雷の少年・・・・か」
「だ・・・が・・・・」
「彼は・・・通常人類に、仕立て直しされたはず!(キリッ)あと百年も生存しません!
業務分担も、力量的に不可能です!彼も使徒使いにしろ、というのも不可能(キリッ)
やはり、ここは参考書!それに攻略本も付けましょう!(ドヤヤッ!)」
 
 
「まー、今回の儀式で、この星もずいぶんとさびしい・・・ぼっちぼっちなことになるだろうかなあ・・・・オンリーISロンリー的な。しもべたちを慰めにして、なんとかがんばってもらうしかないだろーなー・・・シンジにあんまザンコクなこともしたくないしなーってことでOK?」
 
「KO・・・いや、意味通ってないですね。いやです。OKじゃないです。」
なぜか、そこでシャドウボクシングをする霧島マナ。いまさらこわいものもない。
 
「渚カヲルはどうですかね?(キリッ)タブリスとして翼化登仙した彼ならば使用に耐えるのでは?(キリッ)参考書プラス攻略本の方がためになるとは思いますけど(ドヤッ)」
試験がえげつないだけに、合格さえすれば割合親身になってくれるラファエル。
 
「あー、そうだな−、翔んだ方のナギサか−。それがいたな−。仕事できるしピアノ弾けるしイケメンだしいいんじゃね?どうYO?霧島マナ」
 
「顔がちょっと好みじゃないので・・」
「ああ、タブリスにはレリがいるので」
 
霧島マナの返答とウリエルの元部下の近況情報により、却下された。
不幸なタイミングであったが、結界のおかげで外には漏れていない。
 
 
 
「欲するのは・・・・防具か・・・・」
ガブリエルの牙を打ち鳴らすような声に、場の気が一新される。
 
「人が造りし虚ノ鎧・・・・あれに・・・いれた”おとこ”を依代に・・・する、か」
 
 
「使徒の来襲管理なんて、実際は、やらせたいのは、七つ目玉の出現管理でしょう?まあ、洪水でも起こされて人類全滅後、イチから造り直す、というのも手間だから、なのか、変化変身させることで魂の成長を促す無限の愛の発露なのか、よく分かりませんが、とにかく貴方たちには手が出せない領域。・・・・対象が広すぎるんですよ。人類まるごととか。希望者だけにしとけばよかったのに。公平なのはいいんですけどね。いろいろ研究して変化対象を縮小しようとがんばってはみたものの、七つの教会の名を冠した人類が造ったまがいものの七つ目玉はそこまでは至らず。まあ、神様はどこまでも公平なのか。いや、分断すれば分かたれた者たちで、また喧嘩するのが目に見えているのか。
 
 
一の願いが全を変容させる・・・・それは、神様がサービスしてくれているんですか?」
 
 
「それに関しては、正直、よく分からネー・・・スキップ進化というか進化ブーストというか・・・ムーン退化なのか棚ボタ退化なのか、Groth Or Devolution的御心なのか、種の道化、主付きの軽業師としてクルグル踊らせているのか単に楽しいのか、お前達が有効活用すればいいだけの話、と言えなくもないが、製造時に大失敗しちゃったからアフターサービスしとくね、って話かもしれない。ただ・・・こうも使徒に被害が出るとなるとなあ・・・大使徒としては、難しいトコロだしな・・・サービスしすぎだろ、と思わなくもない。こんなのも叶えるんかい、サービスサービスしすぎやろ!!ええかげんにせえ!!っと、トウジがうつっちまったぜ・・・どのみち、願った奴が人類の中にいたのは間違いない。人類がその願いを発生させたわけだから、・・・・ま、責任とって」
 
「使徒使いですけど、親は人間ですからそれはいいでしょう。でも、なんとかなりませんかねシンジ君。エヴァ初号機込みで。欲しいんですけど要るんですけど」
 
「シンジIN虚鎧・・・つまりはエヴァ初号機に、七つ目玉を封印する、なんてコトを考えてるんじゃないだろうな?」
 
「人の変身願望は止まないでしょうし、魂のレートがどれほど高くなろうとやり通す者や組織は出てくるでしょうしね。宇宙世紀になってもこんなことしてちゃダメですよ。マツリをやって、そういったものを呼び出す、とかいう発想は銀河を越えても消えないでしょう。上を目指すのはもちろん、健全でけっこうなんですが、一個人の発想でまるごと巻き込まれるのはやっぱり困りますよ。一個人の魂ひとつで、その人の望みだけ叶える・・・これ、ふつーに悪魔ですけど、そんな悪魔サイズでひとつお願いしたいわけです。
人類丸ごと巻ける変身ベルトとか、やっぱおかしいですよ。祝福も過ぎれば呪いです。
 
シンジ君の入ったエヴァ初号機を依り代にして、七つ目玉をこっちのワールドに留めておけば、召喚の代価としての魂運搬のために使徒の国から使徒が来ることもなくなる。」
 
「使徒の国、ですかあ・・・」
一応、上品につっこんでおくウリエル。「金色の光の国、とかでも・・・」
 
「すげー・・・・よくもまあ、シンジをそこまで・・・・悪魔的発想だな。小さいじゃない、大のほうで。なんか、親の敵とかだったか?一族郎党皆殺しにされてたとか?このこのななつのおいわいに、的なテール・オブ・テラーだったのかYO?」
 
「いえ?大好きですけど?顔も好みだし?」
 
「疑問系が多すぎる気がしますが・・・・アイデアとしては光っていますね(キラッ)」
 
試練に合格したからといって、人ひとりの生をまるごとほしい、という人外面接であった。
人柱ドラフト会議。碇シンジイチオシ。欲しいものは欲しい。魔性の使徒使い霧島マナ。
結界があるので、もちろんこの機密が外に漏れたりしないはず・・・なのだが。
 
 
 
「出来ますよね?」
 
疑問系であるが、確信顔の霧島マナ。なにせ大使徒長を含めた四大。堕落した天使の長を更正させろ、などという無理難題ではない。光と闇との最終戦争がどうの、という話ではない。ちょっとバランスとれてないシステムを、ちょっとヒトガタ倉庫に収納する、という”簡単な”話。出来ないわけがない。条件や縛りさえクリアすればいいのだ。
 
 
「まあー・・・なあー・・・・・使徒使いとはいえ、元「人類」が依頼してきて、「人類」をベースにした保管庫にいれる、人絡みの案件となると・・・・」
 
「可能・・・だ」
「それならば、法を侵すことはないね」
「大使徒長とウリエルが、手を出さぬのであれば(キリッ)。その手の実務は、ガブリエルとこのラファエルが担当すれば5分以内で完了しますが(ジロッ)大使徒長とウリエルがそろって介入したならば・・・1000年経てもまだ終わらぬでしょうから(ギロッ)」
 
「オイオイ。ウリエルはともかく、オイラ、大使徒長だよ?なんでそこまで細工仕事できない系なの?・・・・しかし、シンジをなあ・・・ヤな奴だったら、速攻でOKなんだけどなあ・・・せっかく普通人間になったってのに、またバラバラにして再構築して人柱かYO」
 
大使徒長が、否定しなかった。しおらしく頭をさげとく霧島マナ。やはり望みは口にしてこそ。ミソは当人に直接告白しないこと。「わたしのために人柱になって!」などと。
ちょっとインパクト強すぎる。「いっしょに死んで・・・」とか「いっしょの墓に入って」とかよりまずかろう。そのあたりの機微が判別つくあたり、まだ使徒メンタルに染まりきってもいないのか。綾波さんには悪いことしたかなあ。あれだけの大仕掛けの元、息子を無敵生命体から普通の人間に戻した、親御さんの気持ちとか。特異なケースだけど。
 
 
すこしだけ、涙が。
 
 
ともかく、シンジ君はわたしがもらう。
 
乞う。強く乞う。道連れが欲しいだけだろうと指摘されようが。それが自分の恋。
 
恨んでもらってもいいし、奪いにきても返り討ち。
試練に打ち勝った使徒使いはダテではないのよ。
 
 
「そういえば、お話が途切れてしまいましたけど、今代の儀式は結局・・・」
 
望みは叶えられそうだし、封印を解く人間が現れる日がきて、「人の進歩を妨げる魔女め!」とかなんとか追求とかしてきたりするかもだが。変身したけりゃ一人で勝手に変身してろ。好きなだけ七変化でも八変化でも九変化でもしていればいい。ただ、一の願いで全体を変えるにしても、これは乱暴にすぎる。サービス過剰だ。その全体速度がなければ越えられない危機があるかもしれないけれど。人類を一つの意識統合体にして体も混じり合った生命のスープ、超巨大スライム・極、みたいな有様にしたるでえー!!、という脳がトコロテンになった感じでゼーレの実験群がある。こうなると知能高いのかひたすらヒャッハーなのか、よく分からない。それを食い止める防災派が「ひとのカタチ」人の境界線において原型を保存する役を担う碇ユイさんだったり、ニフの庭から「分断の杖」を育て上げた霧島ハムテル、我が父だったりするのだけれど。試験も終わったので、とりあえず暴走する連中をシメてまわる予定。そんなわけで、ネルフには今後も関われない。
業界、というか、人類の変身具合によるけど。
 
 
「相当に・・・変わってしまいそうですか?」
 
わたし以外、全員デブになれ、とかいう程度ではすむまい。
この大使徒連中が引く、くらいのろくでもないトンデモ変身なのだ。
人類全て、イモムシになれ、とか、貝になれ、とかいう・・・
 
 
「いえ。全く変化はありません」
 
返答はラファエルだった。ただ、あの(キリッ)がなかった。「このような変化の願いはかつてなかったのです」そろそろ試験官の役をやめたのか。
 
 
「・・・・・?」
そのために捧げられるモノは質、量ともに膨大なものだ。それなのに、全く変化ないほどの些細なことに使ったのか・・・・?そんなはずはなく、霧島マナは最悪の想像をする。
「まさか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 
 
「願望の指定は、死後のことだったのです」
 
ウリエルが告げる。
 
「人類は、死後、輪廻転生せず消滅すると」
 
 
「灰?」
 
ノドがイガついて、妙な声が出てしまった霧島マナ。
 
 
「いや、ちょっと待って・・・・・なにそれ?いや・・・・ほんとに、ちょっと待って。
 
・・・・・そんな、夏休み最後の日の子供みたいな・・・・・・いや、どんな死生観もつのも自由だろうけれど、実際、そうなってたの?・・・あ、いや・・・そんなものまで・・・・・・・叶えられるの?られるっていうの!?そんなの、変身とかじゃない!!」
 
「イモムシや貝やトカゲや細菌微生物、もしくは嫌悪憎悪する相手に生まれ変わりたくない、とかいう恐怖心の回避は分からなくもないが・・・まさか、ここまで突き抜けてくれるとはなあ・・・・・」
「絶滅の因果応報・・・とも異なる・・・これは」
「天の国も浄土も楽土も越えた終着点を見たい、という欲望かもしれませんが」
「七つ目玉には出来ますよ。願われた以上、叶えるでしょう。」
 
 
「そんな・・・・」
 
 
「実際の運用システムがどうなってるのか、今教えると、おそらく頭がハジけるだろうから、あと1万年ほど経ったら教えてやるけどな、バランス構築がかなり厄介なことになる・・・・どのあたりでバランスをとるか、赤子を最初から肉をもたぬよう生誕させるか、ある年齢域で我が子を食らうようにするか、己の体を喰らい続けて長命を維持するか、千年ほどは調整にあてられるかもしれないなあ・・・少なくとも、これまで地球上に存在したどんな生命にも似ない姿になるのは間違いない。もしくは、それらが片っ端から混ざっていくような感じなるのか・・・・生命の大暴走かつ大渋滞時代の幕開けだ。10年そこらじゃ影響は出ないだろうが」
 
「前世とか・・・生まれ変わりはあるかなー、あるかもなー、とか思ってましたけど・・・・と、とにかく、そこまで干渉するとか、ルール違反じゃないですか!あ、いや、むしろ縛りすぎなのか・・・確かに、自分は小魚に生まれ変わったけど、他の人間はまた人間に生まれたら、とか考えたら・・・でも、そんな「宇宙人に守護霊はいるのか」みたいな思考実験、実現させてどーしようってんですか!!じゃー、現世で這うゼリーになった方がいいかと聞かれたら、そんなワケねえ!!ですけど!!」
 
「たいがいが、現世での変化を求めるからなあ・・・・そっちまで目がいくとか、人類はやっぱおかしいのか、病んでるのか・・・」
 
「いやいや!!極極、超一部のヒトだけですよ!!ほとんどの一般ヒトはそんなこと考えてませんから。そっちの方面はもはや自由契約、というか!!別にいいでしょ、そっちにいったら他のヒトのことなんて・・・・・・・・・・・でも、微妙か・・・・」
 
霧島マナは考える。確かに腹立つ望みだが、全人類ほろびろ心中−ー!!、といった即、やめさせねばならんものでもない。当面、全く変化はないのだから。死んだ後に分かる・・・・・・いや、消滅するとなると思考力もないから、それを知ることもないのか。
 
人外だけが、人類が次から次へ底無し奈落へダイブしていることを眺めて知る。
 
来世の存在が科学的に証明された途端に自殺者がドカドカ出て、「自殺ボックス」なる簡易人生終了装置が街のあちこちにできた、なんてSF小説があったけれど。
主人公は最後、どうなったっけなあ・・・・タイトルもおぼろげだけど。
なんとも救いのない話だったようなー。誰にも結論の出せない永遠のテーマのはず。
風になって吹き渡っても、それなりに想いや知能はキープしている、という歌もあった。
 
 
放置案件かもしれない、と一瞬、思った。思ってしまった。
 
 
けれど、やはり、この手段は、緊急避難的なものであって、これで人類全体のパワーアップ、パフォーマンス向上につながるかといえば。現在のこの姿も、そういった変生の積み重ねであるのかどうか。検証することもできない。使徒たちは知っているのだろうが。
 
それが普通だと思ってしまえば。そんなものだと認知してしまえば。
 
 
「その望みを、七つ目玉は受領してしまってるんですよね」
 
 
100年先、1000年さきの人類の行く先などを、使徒使いが考えないといけないのか、とも思うけれど。伴侶とともに眺めるのが、だんだんと異形になっていく古里というのも切ない、というか、単純にキレそうだ。縄文時代あたりと比べると、ここ最近の人類の有りようがイライラと慌てすぎなのかもしれないが。
 
「まあな。始めに望み願いありき、だからな。身の程を知れ、という話だが、独占せずに1人残らず恩寵を授かるべき、と考えてしまったんだよな。その正論が宇宙を貫いて届いちまったのが、まずかったよなあ。ああいう、クラスQの大変生機構を呼び寄せた」
 
「キャンセルとか・・・・出来ませんよね?」
 
疑問系だが、返答は知れきっている。要求を送信しといて直前キャンセルなどありえん。
 
するはずもない。願った当人は全人類巻き添えにして構わぬほどの一念で巌にでもなっているのだろうし。たとえばの話だが、その願望者を首チョンパにしてやっても、儀式が終われば順当に叶えてもらえるのだろう。そもそも、そのためのアレであるし。
願い勝ち逃げとでもいうか・・・とうの昔に即身仏やミイラにでもなっているのかもしれない。どういう神経でこんな望みをかけてくれたのか・・・・人類があまりに不出来なので申し訳なくて消え去るべきだと思ったのか・・・・後腐れないカタチで完璧に。
 
 
「それは、望んだ当人にしか出来ない。当人にしか望みを改変も中止も出来ない」
主がお前達を戒めてくださるように、とでもいうような顔で大使徒長が告げた。
 
「それは・・・そうですよね」
ゼーレ最奥院・世界の屋根裏部屋にでもいるんだろうが、使徒の能力で介入は出来ない。
超自然的能力で意思をねじ曲げても、欲ですらない望みは変わらない。
思いきりシバいてやりたいが、つけいる隙がない。こんなイっちゃってる当人に新たな望みを上書きさせるとか・・・どれだけの説得力というか、口の上手さというか、舌が三枚ほどないと無理そうだった。縦横無双の弁舌家がいるとしても、そこまで辿り着けまい。
それ以上に欲しいもの、望むモノを提示することなど、誰にできるのか。
冬月先生や碇のお義父さんは体力的に苦しいだろうし。黒幕を口先で負かすとか。
 
 
ヒトは死ねばそれまで。塵になって何も残らない。幽霊など魂などナンセンス。
灰になるだけ。塵になるだけ。土にかえるだけ。蘇りなどない。当然のことだが
 
念押ししてやる。万に一つ、億にひとつ、千兆にひとつ、間違いがないように。
浮ついた存念がないように。皆、彼も彼女もお前も貴様も貴方も貴女も同じく。
 
 
体の中に、かつて、蝉の羽だったモノなど、はいっていない。
体の中に、かつて、ウサギの足だったモノなど、はいっていない。
体の中に、かつて、夜だけ咲く花だったモノなど、はいっていない。
体の中に、かつて、自分だったモノなど・・・
 
 
魂などない。生まれ変わりなどない。魂などない。ヒト以外の命に変わるなどありえない。
 
 
魂とされるものを代価にして、現れる、”七つの目玉をもつもの”に、望みをかけたが
 
魂などない。ありはしない。あまりに弱い輝きなので、大きなヒトガタにいれて増幅しないと、見つけてもらえない。創造主ではない、使徒でもない、悪魔でもない、ヒトすべての変生を叶える”七つの目玉をもつ「それ」”に。
 
実際のところ、輪廻転生がどうなのか、とか、この目で確かめたわけではなく。
生命の膨大精緻なシステムを、四文字で理解してる、というのがそもそも無理筋で。
大使徒長によると、理解するのにあと一万年を要するとか言う話であり。
異世界がどうの、というネタが出てこないだけ感謝すべきだろうか。
 
 
「これを打ち消す、真逆の望みをかけるには・・・、また、儀式が必要なんですよね」
 
「レートがまた上がれば・・・虚鎧の濾過増幅機能にもよるが・・・使徒の血を浴びぬ前提の単純計算で人の魂が1000億は必要になるだろう・・・ただでさえ、少魂化になるというのに」
 
 
「まじっすか・・・・・・・宇宙開拓が始まってもそんなに人数いませんよ。昆虫の魂とかで代用しても意味ないんだろうし・・・・」
 
 
世界最悪のリクエストにハートがギザギザしてくるのを抑えられない霧島マナだった。
 
 

 
 
 
「と、あの声を聞くまでは思っていたが」
 
 
槍が、止まった。正確には、機体が停止したから、その手が握る槍も停止していた。
潜伏が長かろうと動作時に機能トラブルや電源切れを起こしていては強襲型は務まらぬ。
 
 
神の子を突き刺す瞬間、奇跡が起きてその槍を止められたら・・・兵士は救われたか。
天罰を下すなら、命令した者にこそ。超越者ならば、そのくらいは気を回してほしい。
ようなことを考えたか。己は止められた。打つ手はない。十字架は倒れない。
 
 
 
「同調・・・零・・・」
 
 
シンクロ率が突然、0%になっていた。卑劣な所行を恥じた後弐号機の反抗、などではない。進むことも引くこともならず、立ち尽くす。慣性も消し潰す制動は後弐号機の優秀を示すところであるが、こうなると、ただの案山子でもある。ファウストが望んだような時の美しい停止状態でもない。A・V・Thはエントリープラグ内で聞く。
 
 
「歌・・・・昏歌・・・」
 
外部からの制止。だが攻撃ではない。ATフィールドでも防げない、完全に透過する・・・・それも、シンクロ率低下、というまさにエヴァ殺しの異能。
 
 
「遅かった。もう、くれてやるわけにはいかぬ。イーストエイジァでの顛末・・・・
この目で結末を見届けることにした」
 
完全に機を失った。自ら封印していたソドラを解放し従えた、しかも使用する気満々。
ニェ・ナザレ自ら、ナザレ体制を崩壊させた。土から炎の時代の始まり。水の星の名に別れを告げて。使徒すらまたいでとおる、大火星と名乗るが相応しい。己がそれに長く付き合う必要がないのは幸い。A・V・Thは観念した。もう、歌は止んでいた。
 
ゴドムを半分呑み込んだ影響で、エヴァ十三号機、奇笛ユイザは動けない。
 
計算外ではあった。使徒に漁夫の利をさらわれる警戒は当然していた。だが。
まさか、此所にこのタイミングで、エヴァ十二号機が現れるとは。
 
 
「自分が死んだら、ソドラはナルコが引き継げってどういうことダンチョネ?いきなりそんなリクエストされても困るダンチョネ。とりあえず拒否りにきたんダンチョネ」
 
エヴァ十二号機専属操縦者・榛名比叡ナルコ。戦闘能力はほぼないが、歌の力を増幅させることでシンクロ率を低下させるエヴァキラー。類い希な美声をもつが歌のことしか頭にない歌狂い。野放しにすると、全人類を歌ってないと死ぬミュージカルマグロ体質にしかねないため、歌が下手な人間は入ってこれないゼーレ天領内の特製結界にいて一日中歌を聴いて暮らしている。この間まではボーカロイドがブームであったが、最近のブームはダンチョネ節。語尾がその時のブームによって変わるのは喋るのに飽きて歌っているせいなのかどうかは不明。
 
「ギルのお前、何をするつもりだったんダンチョネ?まさかニェ様を亡き者にするとか?できるわけないダンチョネ。ニェ様は絶対に死なないし殺されないアルティメット不死身なニェ様なのダンチョネ」
「いや、死ぬぞ。むしろ、通常人体より脆い。不死身ではない、可死身だ。ゆえの後継指定だ、ナルコ」
「死なないダンチョネ。世界が滅んでもニェ様は死なないダンチョネ。ニェ様が死んだらユイザもナルコも困るんダンチョネ」
 
榛名比叡ナルコがわあわあ泣き出した。その泣き声も歌になり、灼熱の翼を広げて周辺地域に朱色の異常現象を撒き散らす久々の解放に猛るソドラを沈静した。
 
「・・・・・・・敗因・・・」
行動は狂乱、といえるものだろうが、己の任の後釜をしっかり決めていたあたり。
槍が掠っても、十字架は倒れただろうが、立っている。そう長いことではないだろうが。
 
けれど、倒すのは自分ではない。十号機を倒すのは。何者か。神か悪魔か仏か羅刹か。
エヴァや使徒などではとても。それともただの活動限界か。自ら告げたように、いつかは
そうなるだろうが。それまでは。いくら利子がついているか見当も付かない地の底で貯めていた渇望を全て引き落としするのだろう。手始めに、求められるのは自分。十二号機を運搬する再生五号機ども”ゴゴーキーズ”に囲まれている。先代のような逃亡は不可能。
 
喰われるか、燃やされるか、滅ぼされるか・・・・・自爆すら封じられる歌の力で、人形のようにされるかもしれない。