「そろそろ起きるざます。教える側がわざわざやってきてあげたというのに、教わる方が寝ているというのはどういうつもりざますか。ほんとにやる気あるざます?」
 
 
このような語尾で話す人間に会ったことなど、これまでの人生においてなく、これからもちょっと遠慮したいところであった。なるべくなら関わり合いになりたくない碇シンジの絆創膏で隠した・・・ちょうど昼間、生名シヌカによって埋められた男の不発弾のあたりを・・・・おそらくは木の棒のようなもので
 
 
ツンツン、などされてしまった、ので、つい(「これがまあ、同じ眠りから起こすにしても優しげな女性の声でたおやかなしとやかでいい香りのする指先でナデナデさすられて・・・ティモテな感覚でされていたらおそらく、やらなかったと思うのだが」)・・・(心の傷でもあったし、だいたいけっこう痛いときている)
 
 
左腕で攻撃してしまった。反射的に。だから、悪気があったわけではない。
幻の左、というやつだ。逆に言えば意識してない分、手加減がないわけで
 
 
 
BAGOOOOOONN
 
 
 
仏の庭でこんな擬音を使ってもいいかいなと思わないでもなかったが、つい。
殺る気満々やんけ、というつっこみは受け付けない。ざます、が生理的にちょっとあれであった。ゴロゴロゴローと何か重たいものが高速で転がっていく音でようやく正気づく碇シンジ。その表情は、さながら「遅れてきた殺戮マシーン」。他人には見せられない光景であった。
 
 
よくまあ、生きてたなあ、と思う。成り行きからしてどう考えても正当防衛にはなりえないであろうし。福音丸のロケットパンチを弾き返した一撃を・・・たぶんまともに食らったのだろうに・・・・・
 
 
「誰だろ・・・・このひと」
 
 
本堂の壁に激突してようやくローリングをやめた挙げ句に、奇妙なポーズを決めている。
 
それが大昔に流行った「シェー」のポーズであることを交友範囲のおかげでなんとなく知っている碇シンジであった。服装はキラキラする星柄のスーツ・・・なんかダボついているのは年月のせいで仕付けが緩んできてるのかもともと安物だったせいか・・・ご丁寧にショッキングピンクの靴下もビローンと伸びている。かなりの出っ歯、それからちょび髭。
いい年、おそらく四十代はいってそうだが、威厳という点では父親の百億分の一もない。
どう見ても、燃え尽きる直前の地方芸人、・・・・にしか見えない。
 
あれだけ転がったのにステッキを手放さないあたり、もしかしたら売れない地方魔術師かもしれない。いちいち”地方”がつくのは別に碇シンジの偏見ではない。センスの問題であった。あんまり、お近づきになりたくないなあ・・・・価値観が合いそうにもないし。
オカッパ頭、というのがトドメでもあった。美的センス的に。
 
「ホンダラ拳法の関係者・・・にしては弱いしなあ・・・・」
力仕事にも料理にも向いてなさそうな・・・・夜中の散歩くらいしか取り柄なさそうな
「セクすぃー部長さん、とか・・・いや、課長さんかな・・」
 
 
碇シンジの方は見た目から判断して
いきなりやられたキラキラ地方芸人風のおじさんは少年の暴力行動に対して
 
 
というわけで、互いの第一印象は最低の最悪であった。
 
 
「とりあえず、父さんが帰ってくるか、ヒメさんが寄ってくるのを・・・・」
待つまでに、碇シンジは気絶している謎の地方芸人風のおじさんの手足を縛った。
逃げられないよう襲われないよう、転がしておいた。鋼鉄の対応。的確であるが、旧ネルフのスタッフには見せられた姿ではない。しかし、このおじさんが自分にとってどういう存在であるのか、ちょっとでも考えたならもう少しソフトな対応をとっていたであろう。
 
「血も吐いてないし骨もまあ・・・この程度なら、自動的にセーブしたのかな・・・・」
などといういわでもがなの独り言も飲んでいたのだろうが・・・・
 
 
悪意を持った敵ならこっちの寝首を掻いていただろうし、地元民であろうと水上左眼の許可無しで本堂まで入り込めるはずもない。なんでそこにいられるのか、ということをちょっとでも考えていたならば・・・・・まさしく、後のカーニバルというやつだ。
 
 

 
 
 
「罰として、今日から語尾に”がんす”をつけるざます」
 
 
帰宅した父親ゲンドウとほぼ同時に寄った水上左眼が事情説明することには、いきなり碇シンジにぶっ飛ばされたこのケバめ寄りの派手センスのおじさんは、碇シンジの「師匠」役に水上左眼がわざわざ探して呼んできた、とある武芸の「名人」であるらしい。
 
 
名は、居闇(いやみ)カネタ。年の頃は四十二。口癖は「ざます」。もちろん独身。
 
 
武芸の名は「吸刀術」。なんだそりゃ、という顔の碇シンジに「抜刀術の対極を成すものだが、日本でもこの技を伝えるのは居闇先生唯お一人だ。ユイ様が習得できなかった唯一つの武芸でもある・・・それを、息子であるシンジ殿に伝授していただこうとずいぶんと無理を聞いていただいたわけ・・・・なのだが・・・・」水上左眼は珍しく微妙な顔で視線をさまよわせた。まさかこんなことになっているとは思わなかったのだろう。悪い空気にもソリッドな状況にもバッドエンディングまっしぐらの雰囲気にも慣れているが、不機嫌な碇の父子に挟まれる、というのはそれらとは別次元の体験であった。せっかく呼んだ師匠役の居闇カネタも面白かろうはずがなく、なんともビターなトライアングルであった。
 
 
そして、いきなり「弟子」にぶっ飛ばされた師匠がそんなことを言い出すから場は強力な電磁を帯びる。グンニャリと視界が一瞬、歪む。
 
 
「そんなの、絶対イヤざます」
碇シンジの返答がコレ。人の言うことには素直に従うのが処世術、ではあるが、不可能なものは不可能であった。
 
 
「じゃあ、弟子にはしてあげないざます。それでもいいざますか」
これほどの辱めを受けてまだ席を立たないのだからよほど報酬がいいのか・・・・キャラクター的に自分とおそらく対極にあるであろうこの人物にてめえの息子を弟子入りさせていいものかどうか・・・碇ゲンドウも正直、思案所であった。左眼は何を考えているのか・・・・武芸百般のユイが唯ひとつ習得できなかった、というのは正しいが、正確にはその”究極に攻撃力のなさ”に性格がついていかなかった、というのもある。あれを武芸と呼んでよいものか・・・その点、息子には似合っているのだろうが・・・・
 
 
「それでいいです。お世話になりました。吹き飛ばしたのはお詫びします。すいませんでした」
神妙に頭をさげる碇シンジ。不可能なことはやらないが、可能なことはやるべき。
 
 
「・・・そんな根性のない弟子はこっちからお断りざます。・・・しかし、ほんとにいいざますか。あとから急に習得意欲が湧いてきてももう相手にしてあげないざますよ。少年老いやすく技成りがたしざます。若い頃から技を磨いていないと中年になってから後悔するざますよ」
 
 
「いえ、他にやることもありますので。二兎を追う者一兎も得ず、ですから」
寝起きの自分にぶっ飛ばされた人が何言ってんの、という小生意気な響きにならぬよう、そうとられぬよう苦心する碇シンジ。さっさとあきらめてくれればいいのになあ・・・
ここでいらぬ逆恨みを買ってもかなわない、というのも処世術である。
 
 
 
「・・・・・・・うぬぬぬ」
目の前で穴のあいた砂金の砂時計が溢れていってるような顔の居闇カネタ。実際、水上左眼が提示した金額は子供を一匹教えるには常識を越えた破格のもので、崩壊直前ギリギリの吸刀術居闇門を維持立ち直らせるにはこのチャンスを逃すわけにはいかなかった。そういった点で弟子の才能もやる気も人格もあまりこの際関係なかった。どちらかといえば「殴り合いなんてごめん」のような非格闘系人格、平和主義者の方が馴染むではあろうが。乱暴者を制圧するのにこれほど適した武芸もないのだが、乱暴者にそれを教えるとなると・・・・モティベーションも下がってくるが、ここはおゼゼのためである。マネーのためである。
 
 
 
「ところで、ひとつ聞きたいことがあるざます」
一計を案じた。武芸でも商売でもスポーツでもなんでも。バカは大成しない。
 
 
「何ですか」
 
 
「がんもどきを酢漬けにして、それを早口言葉で言うと、どうなるざます?」
 
 
「”がんもどき酢”になると思います」
 
 
「若者風に縮めて、略して言うとどうなるざます?」
 
 
「がん酢・・・ですか」
 
あまり考えず、もうどーでもいーや風味で回答してしまう碇シンジ。
一千万円どころか自分の人生がかかっているというのに。まあ、珍しいことでもないが。
 
 
「そう、”がんす”ざます!!・・・普通の知能をもつ人間ならいくらなんでもこんなバカな誘導にはひっかからないはず・・・それは、心の深い底から・・真なる自分(ビッグ・ミー)が・・・自ら罰を受け入れ、ということは弟子になる覚悟を固めた、ということざますね。そこまでの深い覚悟を見せつけられれば師匠としてミーも入門を許可しないわけにはいかないざます!今日、たった今この瞬間からユーは我が弟子ざます。たっぷりしごいて一人前にしてあげるから楽しみにするざます!!」
 
 
「いや、僕はバカじゃない!!僕はバカじゃにゃいぞ!!最近負け続きだけど、負け越してたまるもんか!ちょっと調子が出ないだけなんだ!アウェイだから」
果てしなくバカっぽい詐欺に限りなくバカっぽい言い訳で返す碇シンジ。
化学反応同レベルであった。綾波レイなどがけっして見てはいけない光景であった。
 
 
 
「まず、その前に・・・・腕前のほどを・・・・見せてもらおう」
碇ゲンドウが助け船を出したのは、さすがに息子が哀れになったのか碇の家の矜恃を守るためか。左眼が呼んできた以上、偽物ではないのだろうが・・・とりあえずは自分の精神を保つために。
 
 
「まあ、その方が早いでしょうね・・・・シンジ殿にも納得いただくにも・・・では、私が相手を務めましょう。誤解を避けるため、あえて屋外でやりましょうか。元来は屋内の技法ではありますが」
苦笑しながらスポンサーの水上左眼が立ち上がりこう言えば、従わねばならない。
今ひとつどころか三つも四つも納得いかないが、本堂から内庭へ。
 
 
 
夕やみの中に立つ四つの人影。距離をおいて対面するのは水上左眼と居闇カネタ。
 
 
 
碇父子は少し離れた場所に。ひんやりと冷気を感じるのは抜刀の態勢に入った水上左眼なら吹き流れてくるもの。もちろん使用するのは真剣であろうし、このやる気。刀を吸う、とか言っていたが、もし失敗したらそのまま細切れにされるのではなかろうか。そうなると故意ではないしにしろ・・・殺人を目撃したことになり・・・非常に後味の悪い思いをせねばならない。こういう場面で適度に手を抜くことがヒメさんはできそうにないし・・・・自分にやられるレベルの人だとちょっと・・・・かなり居心地の悪い碇シンジ。
 
 
それに対する近未来にティーチャーになるかもしれないところの居闇カネタ氏は。
木製のステッキの柄をひねったと思ったら、それが外れて棒部分と分離した。柄部分はそのままポケットへ。使うのはステッキの棒部分らしい・・・・・それでどうするのか
対照的に、吹きつけてくる強者オーラなどは特になし。見た目どおりの薄っぺらさ。
 
 
「シンジ殿。よく見ておいてください・・・・・技術の精妙さにおいてこの技は」
 
 
こーん・・・・・・・
 
 
耳に心地よく残る、天狗が遊んでいるような木鐘音が響いた・・・・・
胸に波動して残るのは円空仏のイメージ。神森として。
 
目に見えたのは、水上左眼が抜刀の態勢をやめて、抜き身をそのまま手に提げていることくらいなもの。つまり、もう見るべき事象は終わっているということだ。全然、わからん。
 
超ハイスピードカメラかなんかが要るのだろう。「父さん、分かった?」一応、隣の父親に聞いてみるが、「・・・・」無言しかかえってこないところをみると。格闘マンガみたいな解説役がいりますよこれは。二人とも武闘家どころかスポーツマンでもないし。
いくら武装要塞都市の住民だったからって、全員使えると思うのは誤解だなあ・・・・
 
 
「今のは基礎中の基礎ざますから、見えたざんしょ?ゆっくりやってもらったざますし」
表情からすると、べつだんイヤミでもないらしい。あれが基礎の基礎で、ゆっくりとなると。・・・・先ほどとは違う意味で、ちょっと自分には無理だろう、と。遠慮感が強まる碇シンジ。ざます先生のほうはとにかく、水上左眼の剣力は自分の身をもって知っている。
 
あの突進系多重抜刀術・・・聖徳太子がどうのといっていたけれど・・・
こちらの表情をどうとったものやら、水上左眼は
 
 
「物足りないみたいですね・・・さすがに一般人とは違う、たいていこれで度肝を抜かれるのですが・・・・お二人とも平然と。さすがです」
こちらの方もべつにイヤミではないようだ。”わしのおかげマイスター”みたいな態度をとると思えば、あどけない小娘のような感心をしたり。その落差は愛でる余裕などなく、もう恐怖を覚える。おそらく隣の父親もまあ同じようなものであろう。
 
 
「それでは、比較しやすいようにこの間と同じ技でいきましょうか・・・居闇先生、よろしいでしょうか」
「弟子に師の実力を目の当たりにさせておくのもいい勉強ざます。お試し期間につき代金はもちろん・・・ごにょごにょ・・いや、なんでもないざます・・・さ、多重抜刀術でも尖塔牙突術でもなんでもくるざます!弟子のユーはよく見ておくざますよ!!」
 
 
水上左眼が距離をとった。前に閃光寺遊園地に登場したのと同じくらいの距離。
 
「参ります!!」
 
ずおおおおおおおおおおおおおおお
地を滑る彗星のごとく水上左眼が迫り、それから発動する十連抜刀術。自分が食らったのは当然峰打ちであり手加減されていたものなのだろう、でなければあんなものを食らえば細切れにされているはず。軌道など読めるはずもないが、それが全身に仕掛けるメッタ斬りであることだけは自分の体の痛みで分かっている。ああいうことをする、ということは自分の刀と抜刀術とが合一した切れ味に絶対の自信があるからだろう。相手の防御を歯牙にもかけない。わけだが・・・・・・
 
 
ぱん、と蝦煎餅でも割ったような軽めの音がしただけで、居闇先生が吹き飛ぶようなことはなかった。
 
 
その代わり、両手を挙げてそして、片足・・・・グリコのポーズをとっていた。
 
直前で居闇先生が降参したので水上左眼が抜刀の発動を直前でやめた、ようにも一瞬見えたが、違った。挙げた両袖から刀の鍔がのぞき、かわした足下には三叉になっているガス燃焼刀が突き刺さり、そのキザっぽい口が出っ歯と折り合いをつけながらベルト状の撓る刀をくわえているのを見るに、お試しどころかなにがなんでも殺る気満々としか思えない水上左眼の攻撃を全てしのぎきった結果のその姿だと分かる。
 
 
「っ・・・・よけるざます!」
しかしそれで終わっていなかったのか、ベルト刀を吹き出して居闇先生の警告の声が弟子とその父親に飛ぶ。が、思い切りそれに反応できない二人。
 
 
どすっ、どずっ
 
 
碇シンジと碇ゲンドウそれぞれのつま先前三センチに突き刺さる三日月状の飛翔剣。石畳にも関係なく食い込むその威力。もし頭や首や脳天に当たっていた日には・・・・
 
 
「うーん、やられましたね。抜刀が五連で”吸われて”聖徳太子までいかなかったから変化をいれてみたんですが、見事に防がれました。どうです?シンジ殿、その分わかりやすくなかったですか」
 
「いや、あまり・・・」
分かったのはせいぜいあなたが皆殺しの気迫でもって抜刀してることくらいのものです、と言い返したい碇シンジであるが。ともあれ、自分の師匠役に、と呼ばれた人間がこんなことで目の前で八つ裂きにされるのを見なくて済んだのはまあ、良かった。
 
同じことをやれるようになりたい、とは全く思わないけれど。完全に受け、の技術。
 
凄いのは分かったが、それで相手が倒せるわけではない。おまけにあの態勢で二人目の敵がいたらもはやどうしようもなかろう。事実、防ぎ損ねたのかこっちに飛んだ三日月飛翔剣を居闇先生はどうすることもできなかった。役立てるのにはかなり局面を読むのが要りような技だった。良くも悪くもお座敷芸か。碇ユイの気に入るわけがなかった。
 
 
「久々に肝が冷えたざます。・・・これでお金がとれないなんて悲劇ざます・・・いやいや、ぼんぼんの教師役としてお代たんまり楽ちんティーチングな日々はすぐ目の前、がまんざます・・・・」
人格面もおそらく。金銭についてうるさくしてユイに好かれた人間は世界探しても私一人だ・・・などということを碇ゲンドウが考えたか、どうか。男の武芸を確かに見ながらその腹の底を正確に見抜いてもいる。
 
 
柄のないステッキが吸い込んでいるのは、水上左眼の本日のメインウエポン「鉢黒」。
 
もちろんフェンシング用の細剣などではなく、地元で鍛えた純正の日本刀。
サイズ的に填り込むはずがないのだが、それをやってのけている。いかなるトリックなのか・・・・木製に見えるだけで特殊ゴム性で得物に合わせて伸張したりしているのか。
いずれにせよ、突いた直線攻撃ではない、神速の螺旋に近い曲線の攻撃を受け止めるとは
 
 
見た目の安物さに反して、技能だけは本物ということか・・・・
敵の殲滅には役に立ちそうもない・・本質的に・・・妻にも息子にも最も縁遠い技法であるだろう。世間的に流行りそうにもないのは、世界が平和の方向に向かっていない故か。
 
 
「腕の方はこのとおり。ゲンドウ殿、問題ありませんね」
杖のないステッキからあっさり鉢黒を引き抜く水上左眼。見た目、刀身に圧縮された歪みなどはない。特に確認もせずに鞘に収めてしまうあたり、防御ですらない技の性が際だつ。
 
「ああ・・」
人格の薫陶もまあ、期待できそうもなし、技を極める時間もなし。だが、ここ竜尾道での師弟関係というのは、師匠が追っかけてでも見込んだ相手を鍛え上げるというものらしいから、これ以上の口出しも無駄であろう。身を守るすべとしても・・・戦国時代じゃるまいし皆が皆、刀をもて襲いかかってくるわけではない。というか、そんなのは少数派。
明らかに不必要なスキルを学ばせる意図は・・・・碇ゲンドウの眼力をもっても今は読めない。
 
 
「シンジ殿も。望むのでしたら、学校授業のみならず家庭での教授方をお願いしてもよろしいですが」
「いえ!学校の授業だけで!十分です!居闇先生、よろしくおねがいします!」
入魂の気迫で遠慮する碇シンジ。しかし、内容的には弟子入り志願しているわけで。
断る、という選択肢はもともとないのだから、ぶーたれながらやるよりは。
 
 
「ユーはあまり運動が得意な方じゃないようざますね。しかし、努力に勝る才能はないざます。たくさん努力する気になったらすぐに時間外教授を申し入れるざます。ミーはいつでも受け入れる用意があるざます」
 
割合に腹芸が出来ないほうなのか、弟子の才能にはまったく期待してないアルヨ、と顔に書いてある居闇先生。「いまのユーは力をダラダラ垂れ流しにしてるだけざます。壊れた水道管のように噴き出しても他人の迷惑になるだけざます・・・あ・・・そういえば、何か忘れていたような・・・・・」
 
その師の一言にドキンコと心臓を打ち鳴らしてどこか反省する可愛げも持ち合わせているはずなのだが、今はそれを発動させる余裕がない碇シンジ。なんかイヤな予感がした。
ちなみに、隣の父親碇ゲンドウも似たような予感を苦い顔で受信していた。
 
 
「そうそうざます!正式に弟子入りしたからには、さきほどの罰を実行してもらうざます。
それで過去の遺恨は水に流して、きれいさっぱり真っ白な清く正しい師弟関係を築くざます」
 
「いやでがんす!!」
 
碇シンジは即座に吠えた。