奇跡を起こすことと
 
 
その起きた奇跡を固定化して続けていくもの・・・・普遍常識化していくこと
 
 
この二つは全く違う、というだけではなく、片方が出来ればもう片方が出来ない、もしかして、全く持って相容れぬ、という類のものではなかろうか、と思わないでもなかった。
 
どちらに上下をつけることなど・・・・できはしない。
 
 
奇跡を起こす者をなんと呼び、
常識へ固定する者をどう呼べばよいか・・・・・神と呼び仏と呼べばいいか。
幸いか災いか、自分には、自分の眼前にその答えがあった。見せつけられていた。
 
 
ユイ様のエヴァ初号機
そして、姉のヘルタースケルター。
 
 
厭も応もなく。それは圧倒的な作業だ。明らかに領域が異なる。見なければよかった奇象。
 
 
だが、それを知らなければ、耐えきれない世界もある。妙に平仄があっているなと思った。
 
 
マルドゥック機関
 
 
自分たちの軍師役にあっさり切り捨てられて火葬にされるところを拾ったのが”そこ”。
 
字義的には「底」、という字をあてたいところ。拾ったというのも正確にいうなら捕獲されたというところ。人狩りにあったようなものだ。間抜けなことにその頃はまだ自分が獲物に見られているとは思いも寄らなかった。そして檻というか・・・篭に入れられて
 
 
聞きたくもないことを囁かれた。
 
 
あのようなものがうごかせるか
 
 
うごかせるほうが異常なのだ
 
 
あのようなものをうごかせるのは・・・・
 
 
大部分はエヴァに対する怨嗟の声であり、それに関連して動く者たちへの恨みであり嫉妬であり妄念であった。気も狂わんばかりのそれは底に溜まり渦を巻き魔性の声を生み鳴り科学のはらわたたる理性を食い破る。背に腹を変えた愚行のはじまり。そこで人造人間エヴァンゲリオンというものがどれだけ乗り手を選ぶ厄介な巨人なのかを知った。
それと完全に同調し自在に動かすユイ様と姉は・・・・その才能は
 
 
 
ニンゲンではない
 
 
 
同調以外の制御方法を編み出すべきだろうな、という声が自分の耳元で聞こえた時から
 
 
残酷の時間がはじまった。
 
 
あらかじめ知らなければ耐えられなかった。それをくぐり抜けた先に何があるのかを。
自分が獲物であることにも気づかなかった小物の精神は耐えられずに崩壊した。
肉的的には、やはり生体部品との融合などが貴重なサンプルとして認定されたのか、それとも別の目論見があったのか、一線は越えぬようにされていた節がある。
 
 
科学者とも魔術師とも呼べぬ彼らは確かに有能だったのだろう。
 
ぴー助の姿を消し去った代わりに、竜頭の巨人を悪魔めいたシルクハットから取り出してみせた。
 
基本的に人さらい人狩りの集団である彼らが技術的な難題をどう解決したのか他機関に助力を仰いだのか、そんなことは知らないが。
 
 
実験は、一応の成功を収めた。ではあるが、花も実もない事実も判明した。
その、同調以外の制御方法を模索する努力も、同調可能な子供を捜す労力に比べてさほど変わりはないということに。むしろ
 
 
無駄が多くなるな、という声を篭の中で眠りながら聞いた。目玉に見られている。
 
もうその頃、篭にはプレートが飾られていた。「数少ない成功例」という禁忌禁断の鎖で何重にもぐるぐる巻きにされ。何百もの目玉に見られている。
 
「蜥蜴娘」だの「鰐少女」だの「乳房のある爬虫類」だの「片眼の鉄片」だのわけのわからん名をつけられた。一日に三度呼び名が変わったこともある。自分とは何か、ああ有り難いことにその答えを降り注ぐほどに与えてくれたわけだ。流転変身を繰り返して。
 
 
この身のひとつを造りものの異形の巨人の肉に埋め込まれて。
巨人の姿が異形であった理由はその深奥にいとしい竜が眠っているから。
 
 
自分にそれを動かすことが出来たのは、自分にも隠されていた才能が発露したわけではなく、彼らの苦労と悪足掻きが正解だったわけではなく、ただ。埋められ者が安息の帰根を、もとのウシャス、土くれに帰ることを止め、しばしの先延ばしにして、この苦難の海原に共に留まろうとしてくれただけのこと。奇跡を起こしたわけでも、彼らが起こした奇跡を捉えて固定化したわけでもない。自分にはそのどちらもできない。
 
 
その意味で、本当に彼らの実験が成功と、段階を上がったといってよいものか、正直分からない。無理なものは無理なのだ。あなたたちの怨嗟と愚痴は正しい。諦めろ。
 
 
第一、あなたたちが何を造ろうとしているのか・・・・・・それすら
 
 
私には、分からない。何を造ろうとすれば、そんな真似ができるのか。やれると思うのか。
 
 
ユイ様
 
 
あなたは
 
 
あなたも
 
 
そうなのですか
 
 
だとしたら、私は・・・・