「ちょっとした「学園道中記」だと思って!なにとぞ!どうか!」
 
 
またしても土下座。前にやられたのはストックホルムのホテルだったか。その時は今と違って碇シンジ単独ではなかったけれど、そう間も経ってないのに、同じ野郎のうなじを見せつけられるのは・・・なかなかキツいもんがある。しかも額をコンクリ床にゴンゴンと打ちつける不気味音付きとなれば・・・なにがなんでもてめえの要求をこちらに呑まそうという気迫が凄い。
 
 
夕方の屋上に「絶対にひとりできてください。大変重要なお話です」などと呼び出されて何かと思えば・・・しかも学校の屋上やからな・・・
 
 
「あのですねえ・・・シンジはん」
 
なんと言って断るべきか悩む鈴原ナツミ。断る判断はすでに決定済み。土下座されようとなにされようと、聞けない頼みだ。おそらく本人も百も承知かつ、正直投げ出して逃げ出したいところを、なんとか耐え忍んで前に進もうとしてるのだろう・・・偉い。尊敬してもいいが、ただ、人を巻き込まないよーに。道連れにしようとしない。七人ミサキじゃあるまいし。薄情だと恨まれようと、これは聞けない頼みだ。諦めてひとりでどうにかするしかないのだ。たぶん、とって食われることはないから、がんばってほしい。
 
それにしても・・・今回のミッションもなかなかにタフだ。国内だけど、大変だ。
 
 
「聖☆綾波女学院・・・でしたか?そこに「転入」とか・・・たぶん・・・よほどの大事件が待ち受けてるんでしょうけど、シンジはんなら大丈夫!きっと解決できるはず!おつとめごくろうさまです!」
 
いかなる原理でそんなことになったのか、鈴原ナツミには知る由もない。ので
 
「ほな、さいならっ!」でダッシュ逃走しようとしたのだが、
 
「おかしいよね?」土下座ポジから地の底から響くような声とともに放たれた夜雲色の視線に足首を絡めとられる。
 
「!うひょ・・」
悲鳴をあげたいところだったが、なんとか我慢した。いろいろ誤解を招くとあとが厄介だ。
 
 
「僕は男なのに、おかしいよね?女学院とか女子が通うから女学院なんだよね?そこに男を投入とか・・・どうかしてるよね?そんなのはゲームとかアニメの話であって、現実にやっちゃダメなやつだよね?」
 
過酷というか残酷というか、とにかく酷酷というか、ひどい話だ。しかも綾波女学院て。
 
聖☆て。
 
少なくとも第三新東京市にはそんな女学院はない。名前からしてレッドアイが支配する異邦の地。ゴッドドアーシティ「しんこうべ」にて開校してるのだろう。早い話が、碇シンジはそこに飛ばされた、ということだ。過去形なのは、この無理筋を碇シンジが受諾してしまっているだろうから。任務もクーリングオフできればいいのだが・・・そうはいかなかったのだろう。とにもかくにも「綾波」となると、回避できなかったのだろう。それに加えて前回のゾクゾク北欧異界行において縁のできた「赤木さん家の優秀すぎるお子様たち」のこともある。様子見に派遣された、というのも分からぬではないけれど・・・この土下座。
 
渾身すぎるその姿。男子が女子に普通、ここまではやらぬやれぬ態勢。絶対領域うなじ。
 
そういうトコを見せてもいい枠になってることは喜んでいいのかどーか・・・まあ、兄の親友の手伝いとなれば頼まれれば手伝っては、あげたい。ただし「可能な限り」。
 
 
「そこはまったく同意同情しますけど・・・かといって、ですよ?」
 
あまり長く話してはいけない。内容的には単純ゴリ押し以外のなんでもないくせに、中にイケメン声優でも入っているのか、碇シンジは口がうまい。大人しく聞いているといつのまにか、言うとおりにさせられる。本人の特質なのか血筋の力なのか成長過程の周囲の大人どもの会話力が伝染したのか、とにかく、内蔵しとるパワーがダンチなのでその外見に油断してると、すぐさま圧し流される。30センチ程度の水流でも人は満足に立っていられないように。そんなわけで鈴原ナツミはわきまえていたし、思いきり警戒もしていた。
 
「なんでうちが、一緒に転校せんといかんのですか!」
 
ほんとに「やじきた学園道中記」か。憧れがないわけじゃないが、こちとらそんな腕っぷしが強くも気風がいいわけでもない。沈着冷静で眼鏡でもない。ケンカ沙汰で問題を発生させたわけでもない。トラブルを解決するための異能を所持しとるわけでもない。
アイアム一般生徒!相棒どころか、お供にだってかなり足りない。力量とかいろいろ。
なぜ、自分なのか。他の者ではダメなのか。自分でなければいけないのか?なぜ・・?
 
夕日もそろそろ落ちていく。どこかで小田和正ソングが流れていく。村下孝蔵でも可。
 
 
まあ・・・・・・・・・・じつのところ・・・・・・・・・
 
 
碇シンジが頭を下げた時点で、やらざるを得ないのは正直、理解している。
自分は碇シンジの部下でも家臣でもない。イヤなものは断っていい。心が「こりゃダメだわ」と思ったものに屈するほど安くもない。逃げたり泣いて断れば、碇シンジが諦めてくれることも分かっている。しまった。あの視線が絡んできたとき、悲鳴をあげときゃよかったのだ。ここで逃げなかったことにたぶんこの先、後悔するだろう。けど
 
「負担軽減のためです!僕の!」
 
うわ、いいきりやがった。上等だ。最低だけど。本音をぶちまければいいってもんじゃないが、嘘つかれるよりはまし。いや、見栄か。単に見栄をはらなくていいポジにいるせいか。自分がこの無茶を引き受けたのは、実のところは、この前の借りを返すため。
正確に言うと、摩訶不思議奇々怪々な迷惑をかけた兄の代わりだ。
 
 
帰国直後に起きた「不可解事件」。兄、鈴原トウジは一週間ほど「死んでいた」・・・
正確には、かぎりなくそれに近い「仮死状態」だったのだが
 
 
今思い返しても・・・いや、思い返すのもイヤだ。そんな奇怪事件・・・を、碇シンジが解決してくれた。参号機パイロットという特殊な立場から警察の捜査も逆に及ばず事件が闇の底に沈められそうになる直前、電光の如く碇シンジが真実を照らし出した。 その間の調査を手伝うのは妹として当然の義務だった。ただ、碇シンジはこちらの感謝を受け取ろうとはしなかった。「トウジは僕の親友だから」と。「親友のために動くのは生理現象だよ」と。いや、自然現象、やったかな・・・感情のふり幅が激しすぎて記憶が怪しい。
 
 
とにかく恩があるので、大概のことは受けるつもりでいた。受けねばなるまい。
頭脳の方では断る一択なのだけど、この判断は身体のどこでどこでなされているのやら。
 
 
ああー・・・
これが逆の話で、男装して「魁!!男塾」みたいなトコに行け、ということならば断るが。
人にはできることと、できんことがある。そのへんの見極めを誤ると不幸なことになる。
 
しかし、男子学生が女学院に転入か・・・・ありえなすぎて、もはやゲームのよう。
それとも、これはなんらかの罰なのか。男子であることはオープンにするのか、それとも隠して女装でいくのか・・・兄やんなどは完全にアウトだが、シンジはんならまだセーフか・・・・・というか、期間はいつまでなのか。まさか卒業までとか?常識、というか非常識エリア内での常識で考えて、なんらかのトラブルを片づければお役御免でこっちに戻ってくる、というパターンか。完結まで40年かかるとかいうオチじゃあるまいな・・・
 
なし崩し的にあっちに強制移住させてやる、的な流れでもあるのか・・・ネルフ職員でもそこの指揮官でもない一学生にすぎぬ自分にはわからない。むしろ、理解してはいけないやつこれ。事情に通じてはあぶないやつこれ。分からないのは正常パンピーの証。
 
 
「はあ・・・分かりました。お供します・・・」
 
国内ではあるものの、屈指の危険地帯ではあるそうで。とはいえ、武装要塞都市の冠をかぶっとる我が街がよそ様の安全度についてあれこれ言うのも妙な話では、ある。
 
「第三新東京市がウルトラマン世界なら、しんこうべは仮面ライダーとスーパー戦隊系かな」分かりやすいような適当にすぎるような説明をシンジはんはしていたけれど。
じゃあ、大阪はと尋ねると「タイガーマスク?」とかいう返答がきそうだ。
リアリティとは、真実とは。正しい情報とは。まあ、現地に行かねばわかるまい。
ただ、思い知った頃はたいてい、手遅れになっていたりするのだけれど。
 
 
「ほんとうに・・・いいの?」
 
小賢しいことに、がばっと顔をあげて「ありがとう!ありがとう!」などと歓喜を大げさに表現したりはしない。ちらっと、視線をあげてこちらの様子を確認してくる。小賢しい。
 
「いいです!・・・・綾波先輩がお困りという話なんでしょう?・・・それでなんで女学院に転入うんぬん、になるのかはよく分かりませんけど、その手助けの、そのまたサポート程度ならなんとか・・・」
 
何をするのかもどうすればいいのかもわからんし、実際アクションするのは業界では魔王の如く恐れられているらしい碇シンジだから、本人がのたまったように、彼がハイパワー行動しやすいように、いろいろ・・・ちょっとした情報収集とか?使い走りとか助手的なことをすればいいのだろう。ユトさんやらタキロー君などからするとかなりランクが落ちるけど、あの二人に断られたから仕方なく、こっちに頼んできたのかも?いくら変装しても剣崎さんやポークさんでは潜入は無理そうだし・・・あ、いやそんな危険性の高いガチの任務ではない、ちょっとしたヘルプだからこそ自分に声をかけてきたのだろう多分。
 
 
「ザ・怪人シティーみたいな所だから、危険性はけっこう高いけど、医療都市でもあるからケガしてもすぐ直してもらえるから安心して!綾波さんのご実家がそもそも病院だし」
 
 
だからどうした、と言い返すのは初心者のいうこと。もうそんなの慣れちゃったもんね。
 
それくらいで突っ込んでやらないんだもんね。鈴原ナツミはぐっと耐えた。代わりに兄を恨む。兄さえ”ああいうこと”をしなければ、こんな借りを作らずにすんだのに!なにが「ザ・怪人シティー」や!あとで綾波先輩にいいつけてやる!びしびしにしばかれろ!
ただ、兄やんには内緒にしよう。任務やら何やら放り投げて現地に参上されても困る。
 
 
「言うまでもなく、T・G・M、超極秘ミッションだから!ご両親には説明するけど、他の人たちには、緊急入院ってことでごまかすから!もちろん、僕が女学院に転入したことも誰にも言わないでください絶対内密でお願いします!」
また土下座された。まあ、いいふらすことではないが。T・G・MのT・Gは、まさかTyou Gokuhi、なのか。しかし、その感じだと長期ではなく、あくまで短期でケリをつけて戻ってくる予定ではいるようで。その後の人生において、人助けとはいえ、男子が女学院に紛れ込んでいたなどという記録は・・・まあ、なるべく隠しておきたいだろう。
調べる人間が調べればたいていのことは分かるが、それでも分からなくするだけの魔法使いに近いような人間がネルフには何人かいるから、その人たちに頼むのかもしれない。
こんなことがネルフの仕事にあたるのかどうかすら、不明だけど。
 
 
「・・・出席日数とかも都合してくれるんですよね?」
「もちろん!なんなら前倒しで皆勤賞がもらえるようミサトさんに頼んどくよ!」
「いや、そこまでしてもらわんくてもええんですが・・・しかもインチキですやんそれ」
「それもそうだね!てへっ」
さすがに土下座しながらの「てへ」はないので、立ち上がる碇シンジ。うまいこと道連れをゲッツできたのでご機嫌のようだが
 
「まあ、留年せん程度にキープしといてもらえればそれで」
 
釘は刺しておく。かなりでかく「ぐさっ」とかいう擬音がどこからか聞こえた気もしたが。
なぜか碇シンジがうつぶせに倒れていたが。「他の子らにもバレんよーにちゅうことは、ここから現地直行ですよね?ダメージもろとる時間ないんとちゃいますか?」
 
「僕はダブリじゃない僕はダブリじゃない僕はダブリじゃない・・・、と、そうなんだよね。一時間半後の新幹線でいかなきゃなんだけど・・・用意とかできなくてごめんね?」
何やら真言を唱えて気力を回復させて(5秒)、再び立ち上がって頭をさげてきた。
 
「まあ、シンジはんにさらわれたと思うたら、仕方ないことです」
 
そもそも何日で片付く話なのか、なんで行かねばならぬのかも分からぬのに用意もない。
必要なのは腹を括ることだけ。むしろ身ひとつでフットワークを俊敏にしといた方がいい。
とはいえ、現地調達か・・・必要なお金は出してくれるんだろうけど・・・
自分の同行が、碇シンジの一存というかカン働きようなもので決まったものならそのへん怪しいが・・・桜の代紋がスケバン刑事を派遣できたわけだから、その気になったネルフが一人分増員するなどへのかっぱであろう。多分。そこまで心配することはない。
 
まずは自分の心配だ。安全が保証された研修でも見学でもない、なんせ得体の知れぬモメ事を千切りにいくのだ。よそ者が油断してたら、どえらい目にあうだろう。
 
 
 
「・・・・・・・・・うぬぬぅ・・・・!」
 
 
そんな鈴原ナツミと碇シンジを物陰より謎の黒い人影が見ていた。正直、声をかけたい、というか、碇シンジと話し合いをするためにわざわざはるばるやってきていたのだが、
その行動が迅雷すぎた。ギリギリでつかまらず、というか学校の屋上でやってくれるとか!
思い切り裏をかかれた恰好で間に合わなかったのだ。それでもなんとか補足して交渉を開始しようとしたその、タイミングで!
 
いきなりかまされた碇シンジの土下座により、それは不可能となった。そんな姿を目撃・・・しかも隠れて見てしまったなどということになったら・・・黒い人影は己を許すまい。黒い人影は割合に人間関係に気を使うタイプだったのだ。まあ、現に実際見てしまったのだから、ここは「見なかった。自分はそこにいなかった」ということにせねばなるまい。黒い人影は、現実的な判断もできる人物であったのだ。
 
 
「あ、いかにもな迎えの車がきましたけど、あれですか?」
「うん。分乗すると逆に注意をひくから、いっしょに乗っていこうか」
 
もう少しグズってもええんちゃうか!?と、黒い人影がつっこみそうになるほどのホイホイさっさと移動を開始する鈴原ナツミと碇シンジ。なんだか、こなれている・・・・
並んで歩く二人の後姿を感知されんような職人技ガン眼で見送る黒い人影。
 
 
できるならば、バットと出て行って力づくで止めてやりたいところだが・・・・「己はそこにいなかった」のだから、それは不可能。親友の土下座(しかも相手は自分の妹)など目撃などしていないのだから不可能。そんなことが知れたら涅槃の向こうへ去ってしまいかねない・・・
 
 
この心境をなんと名づけるべきか・・・いやいや!そないなことはどうでもええ!
あまりといえばあまりの地獄タイミングのせいで、介入できなかったがこのまま放置など
論外!なにゆえかよわくかわゆい己のマイシスターが危険度レベルレッドゾーンのヤバヤバの大鬼門都市に歩く発電所みたいな奴のお供で赴かねばならぬのか!一人でいけ!!いや、むしろ危険性を考慮すれば、なぜ心の友である己に声をかけぬのか!?妹ではなく!
 
 
「とはいえ・・・・女学院とはな・・・・」
 
 
誘われたら共に往く!と即決即答できていただろうか・・・・・いやー・・・・
 
 
まあ・・・・それは・・・なあ?・・・・シンジなら、まだギリいけるかもしれんが・・・・いや!?もちろん怖気づいとるわけやないで?周囲への影響ちゅうか心遣いというか乙女の花園を荒らしてしもうたら、それはそれで問題ちゅうか・・・ヒカリに知れたら殺されるというか・・・なあ?もう何も知らん中坊やないし・・・黒い人影はしばらく自問自答を続けていた。
 
 
友情だけではできんこともある・・・・この世の中には・・・・・
 
そう結論づけたところで、黒い人影は疾風となって駆けた。
 
だが、友として、兄として、出来うる限りのことをしようではないか・・・!!と。
 
こんな時、公私両面ともに全般的に頼れる相方がおるというのは大いに助かる。
 
黒い人影ことエヴァ参号機操縦者、鈴原トウジ。鈴原ナツミの実兄にして碇シンジの親友。
 
「台風狩り」「竜巻潰し」として、使徒来襲のなくなった業界でその名を知らしめている。
その使命を考えると、こんな中学校の屋上に潜むなどという不審者ムーブをしてる場合ではないのだが・・・そのへんは、もう一人の参号機操縦者洞木ヒカリがフォローしていた。
スケジュールその他調整では相田ケンスケと山岸マユミが。
 
 
「この前の”一週間死んでた”分もまだ摘み終わってないんだが・・・まあ、しょうがないよな。シンジと綾波案件となれば」
「そうです。最優先でそちらを何とかした方がいいと思います。・・・後の影響を計算すると・・・ですから」「さすがマユミちゃん!ここまで偽装予測値出せるなんて!これなら偉い人たちも説得しやすいなーと。やっぱりマユミちゃんは優しい嘘の天才!周囲3メートルは安地!ワインレッドの心!」
 
こと任務となると悪魔のようにガリゴリとスケジュールを圧してくる相田ケンスケが今回の件をかんべんしてくれたのは、それもまた友情のなせる・・・もしくは被害計算か。
それでも、かの街で何が起こるかはさっぱり分からない、というのだから・・・
 
 
己で往くしかあるまい!影ながら、二人を見守り、出来る範囲で手助けするのだ!
 
なんかそういう役割も要るだろう!功夫を積み、腕にはそれなりに自信がある。いや、参号機の内に残っていた技法の影の真似事程度ではあるのは自覚しているが、己の身は十分守れる。特に隠形は自信あり。積極的にドンパチするわけではないのだ。二人がなんか困った時に、さりげなーくサポートできればそれで!ぶっちゃけ、ヤバさの水域が越えてくればナツミだけは背負って脱出、ということだけでも。やらねば。兄として。
 
 
それから、綾波レイの友人の一人として。
 
 
しんこうべにてそこを仕切る綾波党の後継者問題が起きている、とかいう話を風の噂で聞いた。元来であれば、その手の血筋問題は部外者にはどうしようもない。手も口も出すべきではない。下手をしなくても流れる血の量が増したりする。
 
 
ただ、友人がそのストリームど真ん中にいる、となれば。
風雲は赤く染まると急を、告げられているのなら。
 
 
いかねばなるまい。異能怪人の本陣であろうが乙女咲き誇る女学院であろうが、いってよし!いけるのはシンジしかおらん!後ろは任せとけ!何か取り返しのつかんことが起きても弁護くらいはしたる!そのやらかしは悪気も変態的欲求もなかったと!自然現象の如くただ、やらかすままに、やらかしてしまっただけだと。周囲の人間の運が悪かっただけだと。・・・どのくらい効果があるかはともかく。たぶん納得はしてもらえんなと思いつつ。
妹がそれに巻き込まれぬに祈りつつ。
 
 
鈴原トウジはバイクを発進させた。ヘルメットが昆虫を模していたりするのは目立ってしまう弱点もあったが、男のロマンなので仕方がなかった。マフラーを靡かせてしまうのも安全運転的にはアレだったが、やむをえなかった。