「綾波のお嬢か?なんでこんな所におる?しかもズタボロに負かされた拳闘使いのような顔をして」
 
海底からでも届きそうな力の籠ったでかい声。しかも日本語。綾波レイには聞き覚えがあった。見覚えがあった。そのハゲ頭にも。異界ものぞいた北欧行、寒い国にいくための服を買ってもらった記憶はずいぶんと昔のことのようで。自分の体と心が、その時を思い返しながら、ゆらぎながら震える。
 
 
「レイちゃん?綺麗になったけど・・・少し、疲れているみたいね。どうしたの?」
この人たちは変わらない。こんな再会、驚かないはずがないのに、そのままにしてくれる。元・ネルフ作戦顧問、野散須カンタロー、奥さんの野散須ソノ。
そのままでいてくれる。でも、拳闘使い呼ばわりをたしなめてくれないのは、そのまんまの顔をしているのか・・・そんなひどい顔をこの人たちに見せてしまったのか・・・
 
 
ぼろ・・・
 
 
音がしたと同時に視界が揺らいだ。突然スコールでもきたのかと思ったけどここは北欧。
 
しかも室内。医院の中。世界でいちばん美しい村のひとつ。医師モランの病院。
 
人工義肢のみならず内蔵系にも深い見識と卓越した技術をもっていたことなど、あの頃は知らなかった。ここにいけば会うかもしれない、なんて。夢にも思っていなかった。
 
けれど、記憶が。自分の中でも珍しい、特別な「ニーア・家族旅行」のフォルダに入れられていた穏やかなだけではないけど、ユダロンシュロスに至る、かなり冒険成分危険圧高めではあったけど、大切の時間。エヴァパイロットでもなく、後継者でもない、ただの「映画みたいなシュチュに巻き込まれてはいたけど」少女でもあった、自由の呼吸をしていた時間帯が、あったのだ。ひとりではなく。あのひとたちと。過ごした奇妙で素敵な思い出。
 
 
 
ぼろ・・・・・
 
 
 
雨はやってきた。自分の内から。自分の外へ。閉じ込めていた感情の嵐が噴きこぼれた。
 
しんこうべの内では絶対にできない、してはいけないこと。弱きをさらすこと。
 
やるべきことをまだ、果たしてはいない。やり遂げていないのに足を止めてはならない。
 
党首の座には実のところ、さほど興味はない。けれど、祖母の後継、綾波の血筋の先導者たらん、という気合だけは継いでいきたい。一つ屋根の下で住むことが短かった自分にできる孝行はそれくらいで。過酷な道を駆けてきた祖母、綾波ナダの本質を真似て形に残す。
 
ひ孫がどういうという話は、レンジ・・・シンセ・・・・まだまだ考えられない・・・
そんなことを考えてもいいのかすら分からないのだから。相手の、あることだし・・・
 
 
「再会は大いに嬉しいが、まさかワシらみたいな年寄りと違って綾波のお嬢はまだまだ健康体じゃろう?」
「お身内の方の相談とかかしら?ここまでくるのは大変だけど、モラン先生ならきっと親身になってお話を聞いてくれるわ」
 
子供扱いではないのに、大事に思われていることが分かる。能力など使わなくとも。
説明などせずとも、大方の事情は見抜かれていることも。
 
 
 
ぼろぼろ・・・・
 
 
 
こらえなければならない。耐えなければならない。昔の知り合いに会えたからといって、子供に戻っていい道理などない。先に進まねばならない。やるべき義務を果たさねばならない身なのだから。そんな勝手は。そんな無様な姿を見せて失望とか、されたら
 
 
 
・・・ただもう現状、堪えられているかといえば。
 
 
 
「ここまで、よう来たのう。人の一生は重荷を背負うて坂をいくがごとく、とは言うが、途中で休息をいれてはならんと、家康公も言うておらんしの。ここで会うたのもそのサインかもしれん。仕事もやり通さねばならんが、適度に休むのもトップの責任じゃ」
「そうですねえ。身体の悪い年寄りふたり、お医者さまのお話に加えて、経験譚、体験談として何かレイちゃんのお役にたつお話をしてあげられるかもしれないわね。どうかしら?」
 
 
綾波党の者たち、それからネルフ関係、それらから何を言われても通じない、意地を張りとおしたに違いない綾波レイであったが、身内でもなく仕事関係でもない、絶妙な距離感の、精神的・むかし近所に住んでいたおじいちゃんおばあちゃんポジションのふたりに声をかけられたことで、ガチガチに固まっていた心と身体の力が、抜けた。人間だもの。
 
 
 
綾波レイが産声のように号泣した、という事実は公になったりしない。
 
 
そんな記録は、残らない。
 
 
ガードについていた綾波鍵奈がもらい泣きしたり、聞こえるはずのない泣き声にあわてて奥から看護師役のミィが駆けつけてきたりしたが、そんな事実はない。医院の外に心の秘密が漏れることはないのだから。
 
 
 

 
 
 
「ふーむ・・・綾波のお嬢もなかなか大変じゃのう・・・・」
「そうですねえ・・・」
 
 
モラン医師相手に人工心臓関連の貴重な知見を分けてもらう交渉を先にするあたりが綾波レイの頑固さであったが、秒でOKされたので、その分を野散須夫妻との会話にあてるのです、という判断ができるくらいには目のギラつきもおさまってきてはいた。
 
 
唯一人生きている肉親である祖母が危篤だけれど、その命を伸ばすための人工臓器製造に今さら取り掛かっている・・・・やっている事自体は民話の孝行譚そのもので
 
だがしかし、どう考えてもまずいルートを爆進しているのは、年経た年長者の目からすると丸わかりであり、同時に、何を言おうと制止できぬこともまた。自分たちの及びもつかぬ大きく大きく成長する、世界全体の大黒柱になる可能性を秘めた大変な小娘さまではあるのだ。トンチンカンなやらかしも若さの証。まあ、愛しさもひとしおであるけれど。
 
それでも覚悟なしにしくじれば、長く膿み続ける傷、というものもある。
 
それを負うて強くなる、場合もないではないが・・・・男はともかく、女の子はなあ・・・古いといわれようとそんな価値観なのだ。いまさらアップデートする気もない。
 
苦労は若いうちにした方がいいとはいえ・・・乗せた荷が重すぎるどころかドンドコ増えていくタイプのそれは周りの大人が教え諭してやるべきでもある。肩代わりはできんが、疲労が減少するノウハウを伝授してやるくらいはよかろう。民話の孝行譚も間にとんちの利く知恵者が介入しないと悲惨な最後になることが割合に多いのもある。うーむ・・・
 
 
問題のタイプとしてはさほど珍しくもないどころか、いつの時代もあったようなもので。
悲劇や傷を大量生産していたやつだ。天文学的、宝くじ的幸運を引き当てた者だけが乗り越えられる・・・・・・・・・それでも、いつかは終わりは来る。基本にして応用問題。
命の価値と使いどころは。どこでなにを誰を見極めるか。どこで目を閉じるのか。
この問題対処法、処方箋の作成過程を組織後継者の器を測るテストに利用されている面も当然あるのだろうが。
 
 
このままだと自壊、自爆するな・・・・ということが、似たものを山ほど見てきた野散須カンタローには分かる。才だの運だののあるなしでもない。そんな気配が濃厚にする、ということだ。他人を燃やす代わりに己が燃える。己を燃やす。まあ、それで他人も火がついたりするのだが。要はカンではあるが、同じくらいに生きている妻も同意しているあたり、残念ながら的中しているのだろう。だが、自分たちには止められない。命のもつ突進力が違いすぎる。若さの辞書には不可能はない、とは誰の言葉であっただろうか。
 
外見こそ深窓の病弱っぽいお嬢様だが、その気合たるや。歴史上の英雄にも負けぬのではないか。その戦ぶりをこの目で見てもいる。うむ、間違いない。武田信玄クラスだ。いや
信玄公の戦ぶりはさすがにこのギョロ目で見てはおらんが。
 
 
作戦家としては、結局、それに対抗できるだけの戦力をぶつけて勢いを減じさせてアタマを冷やさせる、などという単純策しか捏ねようがない。言説で冷える心でも気合でもない。
その意味では血は熱いが理念が響きやすいアスカのお嬢の方が言葉は悪いが、扱いやすくもあった。
もちろん、今の綾波のお嬢にアスカのお嬢をぶつければ、それこそ対消滅クラスのとんでもないことになりかねない。まあ、お役目が忙しすぎて出陣は無理だろうが。
 
茶飲み話をしながら話を、どういうこともない雑談をして綾波のお嬢の精神をソノとミィが揉んだりゆるめたりしとる間に、あちこちに電話をかけて情報収集。昔取った杵柄だ。
爺婆ができることなど高が知れているが、ここであったのも天命か。やれるだけの段取りはとってみせよう。最近めっきりと故障の増えてきた義足にも感謝せねばならぬか。
 
 
まあ、関係者が考えることはだいたい似た様なもので。
 
 
葛城ミサト司令どのも盤面の外は分厚く固め備えているが、盤内には「玉」・・・玉の子で玉子といえばいいのか、それと香車が飛車になりかけておるのを置いて・・・その妹がどう成るのか・・・なかなか興味深い、とと、もうそんなことまで考える歳でもない。
 
まあ、綾波のお嬢が己の行方を知らせておらぬのだからそう打つしかなかろうが・・・
そこらへんは・・・きっちりと躾ける必要はあるが、さすがに今は酷。拳闘使いのたとえなど出してしもうたが、それほどに疲弊しきっておるし、できるならここで2,3日休養させるところだが、綾波の祖母どのもおそらく同じことを望まれるだろうが、できぬ。
 
 
ほんの少し気力が回復すれば、すぐさま駆けだすだろう。心配ながらも眩しく誇らしい。
人形のように綺麗な顔で、やはりその内に泥臭いほどの人情がある。それが己の疲れも弱さも迷いも抱え込みながら肉親のために駆けるのは、肉親を愛せぬのに他人を愛せる道理もない。まあ、その道理が成立せんほどどこかが欠け腐り壊れた関係性も世にあるが。
 
エヴァというあれだけ巨大な力、権能を制御した経験が、若い魂を歪めはせんかと杞憂もしたが。こんな行脚を続けている。愚かでもあるが清くもある、聖なる者とはそういうものであるのかもしれない。だいたいよく移動するのだ。己の灯を運ぶことに躊躇がない。
悪意もたいがい足が速いものだが、それをギリギリ制するほどに移動をやめない根気こそ。
 
 
 
「そういえば、碇のボンが今、しんこうべに来とるそうじゃの」
 
茶席に戻り、なんとはなしに思い出したかのように告げてみる野散須カンタロー。
 
護衛として綾波レイの背後で控えている綾波鍵奈の目が泳いだ。キチローの判断で試練中の後継者に伝えてはいないが、当然、その情報も綾波党として把握している。現在進行形で”なにやらかしてくれてるのか”も。状況が不穏になってさっさと安全な武装要塞都市に逃げ帰ると思いきや、腰を据えだして奇怪なことをやりだしたのだ。ただのBFではない、ボーイフレンドではなく、限りなくビッグファイアに近い生きた炎上案件、歩く鬼門。
 
 
 
「・・・・・・・・・・・いかっ?」
 
今の今まで碇シンジのことなど頭のどこにもなかった人間の声。火星人が3日前に襲撃しにきてましたよ、と伝えられたよーな。シリアス展開はここまでですよ、とピコピコハンマーで脳天を叩かれたかのような。魔狼の如く鋭く研ぎ澄まされていた紅瞳が、〇に。
 
 
「い、碇君が・・・・来てる・・・の?」
綾波レイが落ち着くまで皆待ってくれていた。一ラウンド以上かかったが、待ってくれていた。この姿だけ切り取ると、ふたりの関係性がまったくの謎。だが、この動揺ぶりからキーパーソンらしいのは間違いないので、余計な茶々を入れるものはいない。それどころか、ここから先は言葉を間違えると、どえらいことになる・・・そんな予感がひしひしと。
 
 
綾波レイはとりあえず、護衛の鍵奈に事実確認を求めたが、「もし知られたら隠すことなく正直に伝えろ」とキチローから命じられているのもあり、「はい。ナダ様の危篤日と同日に到着されたようです」・・・そのため、党も混乱しておりまして、とか言い訳などはしない。その必要もない。後継者がその気になれば、心底の奥まで読めるのだから。
 
もし、伝えていたらどうなっていただろう、という興味はある。今、そうなってしまったが。党首・綾波ナダの危篤からの死の期限はキチローが正確に読んでいる。このままではそれに間に合わぬ。”それでも”後継者の判断に任せる、というのだから幹部連はどこまでもナダ様の股肱なのだろう。若い自分たちには想像もできない繋がり、絆がある。
後継者・綾波レイとそんな絆が結べるか、といえば・・・現時点で胸をはっていえるのはツムリだけだ。それを殺しかけておいて足をとめぬ後継者の器を、まだ測れない。
 
 
 
「そう・・・来てるのね・・・彼」
 
後継者ではない綾波レイ、そうではない面の彼女と碇シンジがどんな間柄なのか・・・
 
かつての同僚、クラスメート、友人、属性としてはそれで間違いないが、そこからどこまで発展していっているのか・・・・その名を聞いた時、全く頭のどこにもなかった感純正100%の声を聞いてしまったから余計に判断に苦しむ。立ち位置からして「契約された政略王子様」でも悪いことはないが、なんなのかなー・・・困惑の中に微量でも乙女の嬉しさ華やぐ喜びがあれば、この綾波鍵奈が見落とすはずはない。ツムリなら分かるんだろうか・・・
 
 
「丁度いいから、シンジくんに助けを求めたり、相談してみたら?」などと言われて
 
「はい、そうしてみようかな」などと簡単に頷く綾波レイではない。
 
 
人間誰でもそうだが、いろいろと線引きがあるのだ。話を聞いてもらうだけで気持ちが救われる、とかですむ状況レベルでもない。相談し、なんらかの助力を期待できる人物へのコネクションは碇ゲンドウをはじめとして年齢の割に困らない綾波レイではあるが、そういった人物たちはそれなりに忙しい。しかも今回の問題は高度に専門的でありつつ、本質的にどうしようもない。
 
寿命問題については人それぞれに足掻くだけ。相手の立場を考えると、多大なリソースを割かせるわけにもいかない。あくまで身内事、個人的な悩みなのだから。彼らの権能をこのことに使ってもらうわけにはいかない・・・・というのが、綾波レイの線引きである。
 
諦めはしないが、ここで祖母の寿命を百年延ばせるか、といえば。人類がずっと願ってきた宿願をこのタイミングで自分が果たせるとも正直、思えない。
 
 
一方、あきらかに時間がありあまっている暇な学生、とか。ダブったせいで授業内容くらいはすでに頭に入ってるだろうどこかの第三中学校の男子生徒とか。話し相手にはいいかもしれない。
 
が、実力的権能的に。
 
話して相手の気分を重くするだけで終わっても互いに得ることがない。50年先の未来には寿命を10年延ばしするような何かを開発してくれても今回のケースには間に合わない。・・・・さすがの初号機にだって、こんなの・・・どうしようもない。だから、話したってしかたない。聞いてくれるか分からないし・・・
こんな・・・こんなことを後生大事に抱え込んでいる、重い自分をさらしたくもない。
どろどろとした赤い潮が自分の内から流れ出して、そこに巻き込んでしまってよいのか。
身もふたもなく言うなら、愚痴を言うにしたって聞いてもらう相手は選ぶ必要がある、ということで。真剣愚痴、というのはある種の凶器であることを弁えているせいもある。
かといって、さらっとスルーされても耐えきれる自信が、ない。理不尽の極みだが。
血まみれになる覚悟がないのなら、近寄るな!というのが近い心情だが、どこの侍かと。
 
 
 
かくのごとく己の線引きという絶対領域に囲まれきって自分で自分を詰ませる将棋を勘案し続ける綾波レイであるから、「ちょっとしんこうべに一時帰宅して、祖母の様態を確認して、碇シンジと少し話をしてみる」というところまで持っていくのはなかなか骨が折れたが、そこは年の功。葛城ミサトや赤木リツコ博士にも無理だっただろうが、野散須夫妻はやってのけた。3派閥のことやアンチレイ、外綾波など厄介そうな問題も積まれてあったが、いずれ戻らねばならぬのだからそこは器量で乗り越えてもらうし、十分に可能だ、というのが野散須カンタローの見立てであった。まあ、過分に期待値をのせてはいたが。
 
 
同時に、現在のしんこうべが、非常に危険度が高まっているのも・・・見るものが見ればそこは垂涎の貴重品を山と積んだ宝物蔵であり、有力な守護者が何人かいるとしても、党首の座が崩れればその隙間から奪われるものはある。そして、それは二度と帰らない。
 
 
人類史的にみれば、そんなことの繰り返しかもしれんが、などと厭世しとるヒマなどない。
あるはずもない。久しぶりの大檄をネルフに飛ばして備えをさらに細密にしてもらう。
使徒戦とは勝手が違うとはいえ、さすがにもう指摘するほどのヌケやら穴などはないが。
人相手の悪さ、仕掛けについてはまだ助言する余地がある。暗い経験は自慢にはならんが。
 
正直、綾波党の党首の回復は十分に公務であろう。ここであの女傑が沈めば裏の盤面がいくつ壊れるか・・・。実際、司令どのらも歯噛みしてらっしゃるだろうが・・・
 
 
小僧と小娘を会わせただけで、この危地が静かになる、とは思わぬ。思ってはならぬ。
 
 
そんな夢は年寄りはもう見られん。見る資格もない。ただ、勝手に期待するのみ。
 
 
 
(碇君に助けて・・・もらう・・・そんなこと・・・)
 
頭にはなかったけれど、心の片隅にあっただろう、つぶやきがもれたのを老人の耳でも聞き逃さなかった。おそらく、当人を前にすれば羞恥のあまり、声にはならぬかもしれない。
 
 
だが!
だがしかし!!
 
音波にはならぬ心の形であろうとも!受け取らねば、感じ取らねばならぬ!深海を往く潜水艦ではそれが死命を分ける!分けてきたのだ! SOSを受信せぬやつは男ではない!
 
 
碇のボンは、一見鈍そうに見えて、その実、かなり聡いやつであるから、その点は大丈夫であろう!とぼけて聞き逃し感知逃しなどしおったら・・・・・遠泳300キロじゃ!!
イカ人間になるまで泳がしてくれる!!・・・というか、あれだけの綺麗どころじゃから、男なら困ってなくても何か探してヘルプ入るじゃろから、まあ問題なかろう。やつれてはおったが、驚くほど別嬪になっておったからなー。言わぬが花じゃから言わんがの。
実際、何が出来んでも、綾波のお嬢が調子を取り戻す踏み台にでもなればええ。それが
男の本懐じゃ!
 
 
女性陣が考えるのはもう少し高度で複雑だが、まあ、ここで外すわけはないでしょう、というのは一致していた。ここを獲り逃すのはもう男として致命的。碇シンジならここで愚かな男の小賢しさを発動してわけのわからない解決策を提示したりすることもないでしょう。沈黙もダメだが、同調してくれるだけでだいぶ違うのだ。今回のケースはもう支えるだけでよし、余計なことをしなければそれでいいの。そこまでは期待していないから。
 
 
綾波レイにしても、本能的に碇シンジに求めているのは、加熱してしまった己に対するブレーキ役であり、それ以上ではない。前も、おおまかにいえば、彼の行動はそうではなかったか・・・やり口は今思い出しても腹立つけど。わたしたち、相互補完的な関係なのかもしれない・・・・・なんか賢そうなところで自らオチをつけておく綾波レイ。
 
 
足をとめ、今後の方針を再考する気になれたのは・・・・いいことだ。
 
 
碇シンジ・・・「碇くん・・・」・・・紫の栞はちゃんと活用してくれたらしい
 
 
それだけの存在感がある。頭の中からは完全に飛んでたけど。祖母のことしかなかった。
 
 
それなのに。
 
 
まさか。
 
 
「ああいうことを」みなの前でやってくれて・・・・
 
 
「あんなことを」言うなんて。