「ウルトラマンモノ」とは、かつて特務機関ネルフが制作した映像作品である。
 
 
権利関係その他がどうなっているのかは不明。まあ、それを外部公開して金儲けに使ったわけではなく、あくまで組織内部のレクリエーションの一環として、知る人は知る怪奇大作戦な一作であった。かけられた予算額も謎。かなりのケガ人も出たという噂もありネルフの奥底に厳重に封印されているとも。
 
 
主人公が綾波レイであり、ウルトラマンモノに変身もする。(伝統的ネタばれ)
脚本がエヴァ零号機であり(普通のネタばれ)、己のパイロットを優遇する作劇スタンスが気に食わない、てめえの専属操縦者である惣流アスカにもなんかいい役をつけてもらいたかったエヴァ弐号機から横槍が入り、あやうく大戦争になるところだった。(一部ウソ)
 
 
多くの人間がかかわる作品にトラブルはつきもの。
しかし、完成してしまえばそれも良き思い出。過ぎ去った苦闘の日々は美しい。
 
毎日見返して気合を入れ直す類のものではなく、あくまで娯楽。たまに気紛れに見返してくすりと笑う。そのようなもので。多分に身内ネタ的な話でもあり、外の人間に見せて楽しめるかといえば。相当な自信家のナルシストでも、子供のころのホームムービーを成長してから、その当時のことを知らぬものたちに見せてみようか、とはまず思うまい。
ウケなかったからといって、思い出が穢されたわけでもないのだけど。
そんなことを堂々とできるのは、人気者のアーノルド坊やかアルフ星人だけであろう。
 
 
古きものは、そのまま眠らせて、ひそかにその頃を知るものたち限定で、懐かしむ、その補正がかけられる視聴者たちだけで楽しむべきものであり・・・・少なくとも、主役が望んでも許可もしとらんのに、勝手に、しかもその時、敵役だった者が、発掘などするべきではない・・・・まさしく、邪悪の所業であった。しかも、他者の心を慮る機能がマヒしているせいか、行動だけはやたら早い。なんせ迷いがない。常人ならあってしかるべき「こんなことしたら怒られるんじゃないの?悲しむんじゃないの?」的、良心ブレーキがない。
 
 
ならば、第二ブレーキ、アイサイト的安全装置として、うちは止めるべきだったのか?
鈴原ナツミは悩むが、相手は全く悩まないのだから勝負にならない。
あれよあれよ、という間に作業は進んでいき、その手伝いをさせられる。
本人もけっこうな速度で作業をこなしていくのだけど、こっちにふってくる作業量もハンパではない。しかもしらん土地で知り合いもおらんし・・・と悩んでおったらナオラーコたちと生名シヌカたちが手伝ってくれた。おそらくそれを視越していたのだろう・・・・あの野郎・・・・
 
 
なんか言ってやろうと思うのだが、「綾波さん(先輩)を呼び戻す努力」だという題目があるので黙らざるをえない。手段は微妙だが、方針としては正しい。なにが結果を出すのか神ならず身で分かるわけもない。シンジを、いやさ人事を尽くして天命を待つというのなら。ついていくしかない。あ・・・・でも、これ本当にええんかな・・・・
そろそろたまたまド田舎で携帯端末が故障しただけでなんのケガもない綾波先輩がけろっと帰ってきてくれんかなー・・・いや、努力がイヤちゅうわけやないですけどね・・・
 
 
「監督は僕だけど、助監督はナツミちゃんにしとくから!」
 
むっちゃエエ笑顔で作業中にこんなことをいうもんだから、
 
「やめえや!!」
つい、シバいてしまった。むしろクレジットから削除しろ、うちの名前を残してくれるな!なにが助監督や!構想とかにはいっさい噛んどらんから!ただの下働きやから!
 
 
「・・・スゲエな、お前」
「あのシンジさんに・・・」
「え?・・助監督さん・・いやだったのかな・・?」
「いい音したのら〜」
「照れ隠し、とかじゃないですか?」
「本気でいやなら手伝うことないでつ」
 
ドン引かれていた。な、なんでうちをそんな目で見るん?うちは普通の中学女子ですよ?
 
「あ、ちゃ、ちゃうんです!皆さんにごっつ手伝ってもろうとるだけのうちが助監督とかおこがましすぎる!ちゅうことで!作業の手、とめさせてすんません!どうぞ続けてください!監督とケンカとかじゃないんで!仲はエエんで!心配いりませんで!」
 
旅館の一室を借り切った作業場にて、必死で言い訳する己に今日何回目かの「なんでやねん!」セルフつっこみを入れてしまう鈴原ナツミ。「なんでこんなこと言ってんねん!」
 
 
 
「食事の時間だ。・・・この有様ではとても配膳はできんな・・・下りてきてもらおう」
 
和風総髪の旅館主人が、思い切りイヤそうな「またこいつと関わることになろうとは」という顔の文言を隠す気一切なしで呼びに来た。接客業としてはアレな態度でも文句は言えない。向こうが明らかに嫌がっているのに無理やり押しかけたのはこちらだからだ。
しかも作業の為、好き放題に設備を置きまくってるし・・・「すいません、ご面倒かけてしもうて・・・」他の者は誰一人頭を下げるわけもないから、自分がやっておく。
またこいつ、というのは当然碇シンジのことであるけど。
 
 
「ここの和食は・・・・しんこうべで一、二を争うくらいおいしいよ」
旅館主人ににらまれようが、平気の平左の碇シンジ。この旅館、銀橋旅館は、自分が都合つけられる3番目に安全な場所、だと言うからここに来たわけだが・・思いきり迷惑がられとるし・・・そらそうなんやけど、こんなトラブルメーカー、誰でも関りとうないわな・・・でも、雰囲気はええけど、ただの和風旅館がそないに安全なんかよくわからんけど・・・生名シヌカらが感心するあたり、そうなのだろう。安全度なのか、ここにコネつけられた碇シンジに対するものか。その両方か。
 
「食べ歩いたことなどないのだろう。ならば一位、といえばいい」
「すいません、一位です!一位でした!ここの和食はしんこうべ一おいしいです!」
 
 
「わらわたちは和食とかいいのら。作業もしたいし、ポテチとコーラでいいのら」
「そんなこといったらザマスさんに怒られるよ・・・」
「イヤミじゃなかったでつかあのチョビヒゲは」
ナオラーコたちがそんなことを言い出すから、説得するのが定番になってしまっとるし。
うちは確か妹キャラだったようなー・・・後輩キャラだったようなー・・・
でもまあ、説得した甲斐がある、それ以上の価値のある美味しさだった!
嫌がらせというか腹いせに猫まんまでも出されたらどうしようかと一瞬思ったけど。
 
 
「これで酒のめねえのは・・・酷ってモンだが、まあ我慢するかー、引率中だしな」
島育ちだから海産物にはちっとうるさいぞ、とか言っていた生名シヌカたちも絶賛満足していた。これも狙っていたのなら・・・碇シンジ・・・恐ろしい監督・・・!
 
強力有能なメンバーがいつの間にか集まって仕事しとる、仕事させとる手腕・・・
資金も場所も恐ろしい速さで都合つけとるし・・・これ、ヤバいところから借りたりしとらんよな・・・しかも踏み倒すこと前提で。いや、そういう逃げはアカンから!
 
 
「ゼロから作ってるわけじゃない、ただの編集、切り抜きとかまとめ版みたいなものだよ」
 
碇シンジは簡単に言うのだが、いつ構想を練っていたのか指示にブレがない。
神社で祈ってるあいだに何か下りてきたのか、日々、そんなことを妄想でもしていたのか・・・・
監督とか自称しとるあたり、そうのかもしれんが、ここではキモいとか監督の機嫌を損ねることを言ってはいけない。完成してからはかまわんけど。
 
とにかく、技術力のある、というかその塊というか申し子というか結晶みたいなナオラーコらがノリノリのおかげで、1,5日程度で造り上げたのはおそらく、速いのだろう。
 
そうに決まっている。現地到着した時点で、こうなるなどと本人だって考えてなかったに違いないのだから。・・・というか、ホンマ作って大丈夫なんかこれ?制作難航してしくじって企画倒れのお蔵になった方が良かったんやないか・・・?周囲の影響とかあんま考えてないからな・・・いかにもそれは重々考慮してます、皆皆さまの評判は火事よりこわいですよ〜、とか言いながらシャワー浴びたカエルみたいなツラするからな・・・
 
結局、断固として拒否せんかったせいで、「助監督」としてスタッフ明記されとるし。
 
なんの役に立つんか、立たんのんか、ただ落ち着かん気を沈めるために発散させるためにやったんかは分からない。・・・・なんせ、主役に許可をとっていないのだ・・・まずいことになる予感しかしない・・・これ、もし綾波先輩をキレさせることになったら、うちも加害者のひとりになるんか・・・・?兄やんに相談したかったけど、なんか忙しいらしくて繋がらんし・・・聞いたらこの旅館、むちゃ凄い業界指折りの結界の中にあるらしい・・・業界て何業界やねん!とつっ込む気力もない。だからこそ安全に気兼ねなしに作業できとるわけや、納得。そこは、まあ、納得いたしたのだが・・・・
 
 
 
「要求通り買ってはきたが、どうも発色がいまいちなモンでコイツに修理させたが、こんなモンでどーだ?」
「僕が調整したんですから、フッ・・完璧に決まってますよ・・・弓削の雷玉、なめないでほしいですね」
 
車で出かけた生名シヌカと弓削カガミノジョウが戻ってきて何か荷物を別の座敷に運び込んで確認をなぜかうちに求めてくるから困る。監督から何も聞いてへんし・・しかし、常識チェック、という意味では自分が見ておいた方がよかろう観点から、「それ」を検認する・・・・・
 
 
「なんでテレビがこんな分厚いん!?いうか、箱やん!!・・・あ、もしかブラウン管のやつ・・・?」
皆忙しそうにしているので、自己完結しておく。その存在を知らんわけではないが、もはやめったにほとんど家庭でも家電店でも目にしない、懐かしの箱フォルムのブラウン管テレビだった。昔の映像作品では作中でお目にかかることはあっても、まさか自分たちがそれを視聴する・・・・いや待てよ?なんでこんな大げさなモン、わざわざ買いにいってもろたん?ゆうか、配信とかせんの?携帯端末に比べてテレビは確かに大きめ画面やけど、それにしたって映画のスクリーンとはお呼びもつかんし、内容確認ならタブレットでもやれるし・・・色合いがどうこう言ってたから、色彩障害の人らに向けての細かい調整とか・・・?意識高いのはええけど・・・碇シンジの発想とも思えない・・・もっと、ろくでもないことを考えて、用意したに決まっている・・・碇シンジはそういう奴だ・・・
 
テレビといっても放送局の番組を映すわけではなく、繋いだ機器からの映像を読み込んでいるだけで、今はテスト用の画像が出力されている。内容にとくに意味もなさそうで
 
 
「はあ・・・確かに、昔のもんでもよう映ってますねえ・・・やわらかい、というか、昔はよかったなあ、ノスタルジア〜みたいな味わいはありますねえ」
 
現代の高密度映像に慣れた目からしてケチつける部分がないわけではないが、どうも碇シンジの無茶な指示に応えてくれた結果らしいし、ここはいいとこを挙げるのが正解だろう。
クール眼鏡、弓削カガミノジョウくんの鼻の穴が広がってるし。昔のものを修理できるとか大したものだけど、そこを褒める知識までないし。それ以上鼻の穴が広がったらイケメンが台無しだから。
 
「そうなんだよなあ・・・浜田麻里のノスタルジアは最高なんだよ・・・分かってるじゃねえか・・・”笑顔だけが似合っていた頃へ・・・・Nostalgia”・・・」
そんなことは一言も言ってないけど、ご機嫌に脳内再生させて鼻歌まで歌ってるのに邪魔することはない。そんな愛のないのはつっ込み道に反する。
 
「助監督サンのOKもでたし、こっちはこれでいいな。じゃ、車を移動してくらあ」
「僕は耐水加工の作業にかかりますよ」
手際がいい、というか、良すぎる。こっちは、正直、箱テレビの登場に戸惑ってるレベルなのに。しかも、耐水加工って言った?まさか、海に投げ込んで帰還祈願、とか?過激なことをすればいいってもんじゃねえぞ!というあたりがクレイジー80代っぽくもあるが。
 
 
「あ。テレビ届いたんだ」碇シンジがひょこっと現れた。忙しくなかったんなら、てめえで確認しろ&呼びにいっとけばよかった!「ちゃんと映るのは映りますけど・・・色合いが懐かしい感じだったからOKしたんですけど、それで良かったですかね?」
 
「うん、いい感じ!こういうのが欲しかったんだよ〜「これ何すんですか助監督のうちがなんも聞かされてないんはおかしいんやないですか?配信はせんのですかまさかこれだけメンツ集めててめえの趣味でストレス解消しただけとかいうオチやないですよね・・・」
 
 
かぶせ気味に詰めてしまったけど、うちは悪くないと思う。
 
 
「言ってなかった?ごめん!忙しさのあまり忘れてた!ほんとうにごめんなさい!反省してます!助監督さんをないがしろにする気は全くありません!今後重々気を付けます!
10分ごとに報連相いたします!それから携帯端末向けの配信はしません!しんこうべ内の多くの人たちに見ていただき、情報を広げ、そこから反射する情報を取得分析して綾波さんの現在状況を把握するとともに、綾波さんの好感度を上昇していくことを目的としたプロパガンダ作戦です!他意はありません!」
 
直立不動で返答された。その惚れ惚れとする活舌の良さに免じて今回は勘弁したろう。次回はないで?助監督とかもな!「10分毎報連相とかいらんけど・・・個人端末向け配信をせんのは・・・?ニッチな情報を集めるんやったらそういう窓口も作った方が助けになるんやないですか?効率なら分母が大きいほど・・まあ、うちはここの地元事情を知りませんけど・・・」
 
 
遥か昔、街頭テレビ、というものがあって、そこには大勢の人間が押し寄せてその映像に見入って、そこから数々の伝説がうまれたものだ、とかいうことを歴史の教科書で見たような・・・・?それにしても事情が違いすぎる。見るものがなかったから人々の方から観にいっただけのことで、己の手元で映像情報がなんぼでも流れ、押し寄せる現代でテレビ一台に映して、人よ来い、人よ来い、見てこの話をしておくれ、広めておくれ、というのは・・・無理というか・・・秘密にされると逆に知りたくなる、カリギュラだかなんだかそういう効果があったにしても、非効率すぎん?そりゃ地元に10年も20年もおるなら別やけど。短期にたくさん広く情報をゲットしたいんやったら・・・こら失策やろ。
それがわからん皆でもあるまい・・・うちごときが分かるようなことなんに・・・?
なんで誰も反対しなかったのか・・・
 
 
「初めから広めにいくと、綾波さんが怒るかもしれないから」
 
 
「は?」
今こいつ、何て言った?
 
「広めるのはマストだけど、意図せずに結果的にそうなっちゃうのと、端からそれ狙いでいくのはダイだから」
 
「は!?ダイ?・・・すみませんが日本語で」
 
 
「”ぶっ殺される”・・・・・・・・かも、です」
マジ怯えていた。知らん人がみれば、うちがいじめこいとるようにしか見えん構図。
 
 
「キラーコンテンツなのは間違いなし、このしんこうべ住民の心を捕らえるのはもう確定だけど、ただ、綾波さんの許可がないから、無断でやったとなると・・・ねえ?」
 
「そこは分かっておったんですか・・・それなのにやるんですか」
そうなるとキラーよりはスーサイドコンテンツとなるのではなかろうか・・・
 
「誰かの予言が当たったのか、風雲が急を告げてるからね。急いだほうがいいのは間違いないし、綾波さんのためなら全力を出すよ。でも、それで綾波さんを怒らせたり嫌われたりするのはなあ・・・・・・・」
 
「人は怒らせる勇気が5割、嫌われる勇気が4割ですよ。シンジはん。あきらめましょう」
もちろん残り一割はあきらめる心。
 
「いやだ!!綾波さんだけは怒らせたくない!!
可能な限り嫌われたくもない・・」
 
「うわー・・・・ぶっちゃけてきましたね・・・カッコ悪う・・・・つうか、シンジはん、怖いものなしの無敵キャラやないですか、あんさん。牛若丸みたいなツラして中身弁慶やないですか何ブルっとんですか」
 
「怖いよ!綾波さんは怖い!ナツミちゃんは綾波さんの怖さ、シン・恐怖を知らないんだ!」
 
「まあ、何を好きになるかも恐れるかも人それぞれですから・・・けど、そのくせ広める算段はあるんですか」
 
うーん・・・・このカップリングはダメかもな・・・碇シンジがダメすぎる・・・
その根深そうな恐怖から解放されるのに一万と2千年くらいかかるかもしらんな・・・
 
「しんこうべ中に広めなかったら意味がないからね。そこは考えたし、ほぼうまくいく。
意図せず、結果的に”そうなってしまう”バランスが・・・難しかったよ・・・」
 
バカなのか天才なのかチキンなのか、よくわからない。その三拍子?ワルツ踊ってる?
それに使うのが、このブラウン管テレビ?どうやって?そこに映すべく作ったコンテンツも皆がそれなりに苦心したものであるのに・・・まさか、耳目をひくためになんか残酷なやり方で・・・・いや、それはせんか。このチキン(綾波先輩専用)はともかく、他のメンバーが納得して動ているということは、そういうこと。というか無駄にしたらうちが許さん。しかし、そないなこと出来るんか?泳ぎたいけど濡れたくない溺れたくない、のび太みたいなことをほざいとるけど・・・てめえでドラえもんしとるから文句も言えんが。
 
「ウルトラマンモノ」のディレクターズカット(分量的にカットしまくっとる)版が完成。
 
「帰ってきてくださいウルトラマンモノ」・・・・新作ではない、前に作ったものをまとめた総集編にちょっと味付けしただけで、新作みたいなタイトルつけて・・詐欺といわれても怒られても仕方のない所だが、そこは監督の責任だから気は楽だ。怖がってるくせになんでこういうことをやらかすのか・・・理解が及ばないけど、助監督のせいではない。
 
それを記録媒体からテレビにつなげて、それだけを映す・・・そこから怪しい増幅電波がしんこうべ中のモニターをジャックする、などということもない。ただのテレビデオだ。
これでどうするものやら・・・・と鈴原ナツミが考えたのは無理もないが、やはり地元理解、しんこうべに対する情報深度の差であった。