綾波レイ主演の特撮「ウルトラマンモノ」が、あっと言う間にしんこうべ中に広まりブームになったのは、特撮の技術力でも脚本の面白さでもなく、まあ、主演が綾波レイ、うちとこの「おひいさま」だからであろう。うちとこ(我が地元)のモストフェイバリットプリンセスであらせられても、地元を離れておられた時間が長く、謎が多い。たまに目にする事象も、野球チームなんぞではないモノホンの巨人を動かしたり、それにぶっ飛ばされたり、市街で古巣とガチンコ抗争やってみたりと、綾波党の古猛者をも震えあがらせるイケイケの武闘派ぶりであり、神秘ではあるが深窓のお嬢様系では断じてないその後ろ姿は
長年しんこうべを仕切ってきた祖母のナダの跡目には十分すぎる貫禄を滲ませており。
”それなのに”、このような特撮、どう考えてもエンタメのためのエンタメ作品にご出演、しかも堂々の主役をお張りになられて、意外過ぎるその「横顔」を思う存分見せつけてきたのだから、地元民の目を惹かぬはずはなかったし、流行らぬはずもなかった。
ただ、宣伝の為などではなかった。そんなはずはかった。
祖母が危篤状態だというのに、このような作品に昔出てました、などと本人が広めるメリットなど皆無。そんな発想自体なかっただろうし、許可など求められても絶対に許さなかったはず。問える空気でもむろんないが。そのあたり、碇シンジもよく分かっていた。
そのまま己が拡散者になってしまえば、綾波レイの怒りが降り注ぐことを。
怒らせたくないし、怒られたくない。それならばやめておけばよいものを。
ただ、「綾波さん」が、ほんとうはどんな女の子なのか、知ってもらえたら
こういう面もある人なんだって知ってもらえたら。周囲の評価は変化して、
動きやすくなるかもしれない。呼吸がしやすくなる程度の隙間でも。
演じる中でこそ裂けめのように見える素顔が。そこから差す光の色こそエモれ。
神社の天啓なのか、ヤング愚者の思い込みなのか、ともあれ碇シンジは電撃行動した。
方法としてどうか、という問題はあろうが、平均中庸のまともな正論の類が現在の綾波レイにまず通用しないことも見抜いていたのだ。伊達にあれだけの狼藉を重ねてきていない。
そもそも現状、会えてもいないが、確信があるらしい。座視もありえない。
ほかの誰にも分らないが、碇シンジにだけ分かる真実のカケラで判断・・・周囲の者との相談やらすり合わせがなくやってまうと、高確率で大惨事になるやつではあるが。
党の後継者になることを強要されて自由がなくなってる籠の鳥な綾波さんかわいそう!
→じゃあ、助けだそう!あとのことは知らないけど!
的な思考で動かれるよりはましであったから、この案に周囲のメンツはのったのか。
地元を仕切る一族集団の後継にクチバシをつっこむとろくなことにならないのは承知の上で、なおかつ共犯にされてもたまったものではない。一時の衝動正義でしか成しえないこともあるが、そのあとに続いていく生活も大事なわけで。いらん恨みを買わないのは大事。
そうなると、元ネタとなるコンテンツは用意しつつ、地元民への拡散は他の者に任せた方がよい。もちろん、任された方の納得の上で。綾波党に睨まれても困らない実力の持ち主、かつ、大衆への宣伝に長けた・・・ただ戦闘力が高くてもどうしようもない、伝播速度も求められる、数年後に口伝えでひろまっても遅すぎる、完全に別口のスキル、権能となる。
後継者の黒歴史かもしれない、大恥になって後々敵視される恐れがあろうとやってのける極太神経をも、となれば強者ひしめくしんこうべにも一人しかいない。
綾波悪電
番付表第二位の実力者、「しんこうべ綾波放送」の社長をやってめえの好き放題に番組を流す最強クラスの電波能力者。その能力を戦略的に活用していれば大陸の方までいいように出来たはずだが、徹頭徹尾、自分が面白いと思った番組を流すことにしか興味がない。
この一点に関して党首のナダを筆頭に、しんこうべ全住民がもう諦めている。悪電のその日の気分で決まる番組編成も、視聴を強要されているわけではないし、国営放送もその他の民放もちゃんと視聴できるので、そういうチャンネルだと思って割り切っていた。
権利がどうなっているのか謎だが、放送局問わず古今の番組を流したりもするので視聴率も悪くはない。ちなみにCMで成り立っていないらしく、スポンサー忖度も一切ない。
地元に愛される放送局 という可愛げのあることを考えているようではないが、自社制作の地元密着系の番組は当然ある。そこで取材をしてもらう、という悠長なことを碇シンジはしたりしない。なんせやることが迅雷電撃。こちらから攻め入った。そのための街頭放送用のテレビであった。それをしんこうべ綾波放送の社屋そばで道行く人々相手に流した。
そのあたりの距離感は「かなり悩みました・・・近すぎても通報、遠すぎても無視されるかもですから」とは碇シンジ談。姑息というか、考えなしよりはましだと思うか。
自分でネットワークなどその他の手段で拡散すれば、綾波レイにバレた時(バレないわけがないのだが)言い逃れができないが、”たまたま”昔を懐かしむために思い出の映像作品を皆で楽しんでいるところを、「取材されてしまった」、というのはギリセーフ。なのではないか、というのが碇シンジの判断。地元のテレビ局に本日の地元の話題のひとつとして取り上げられてもそれはそれで仕方がない。綾波さんの地元で勝手はできないし?
・・・・そんな言い訳で許せたら、おそらく女神。
もしくはなめきっているのか・・・・
ただ、鈴原ナツミの目からしても、後者は絶対にない、ので、碇シンジは綾波先輩を地上に降りたゴッデスだと信じているのだろう。こんなことしてもうて大丈夫かいな・・・と思う反面、なんもせん、安全策を取りたくない。あとでめっちゃ怒られるだろうけど。
現地におるから分かるキナ臭さというかガス臭さというか・・・、このままなんもせんかったら、まずいところに流れていく予感。到着と同時に他人数でプレッシャーかけられて尻尾撒いて逃げないのもどうかしとるんやけど・・・学生の分際で。とはいえ・・・
どんなにえらいむつかしい立場になっても、友達助けて、助けようとして何が悪いか。
これがなにかの足しになるのか、・・・・いらん足かせに、迷惑になる可能性もあるけど。
これは、止められない。異議を出せん。・・・綾波先輩の親しみやすさをアップして潜在的好意を掘り起こそうという選挙戦術的なアレなのか・・・正直、よくわからんけど!
どれほどの、どのような効果があるものなのやら。そもそも全く話題にならずにスルーされる可能性だってあったし。・・・その点に関しては、うちがなめてました。綾波先輩の人気度というか超アイドル好感度を。そんなん、ウケんはずがなかったわけで!認知されてしまえば「こっちのものだよね」などとシンジはんはほざいてたけど、自分たちが急ぎでこさえた宣伝素材がうまいこと役目を果たしたのを見計って、「ウルトラマンモノ」のマスターテープを綾波悪電のもとへ送りつけたのは想像に難くない。はっきり言わなかったけど多分やっとる。なぜなら評判になってすぐさまウルトラマンモノの「特番」が制作されたから。それを朝から晩まで流されたから。まさに火に油、ガソリンをぶっかけたわけで。ある意味、とんでもない仕打ちかもしれないと気づいても後の祭り。分かっていてやったのだからタチが悪い。
奇手にして鬼手。
地元住民が思いもよらぬ後継者の芸能活動、その姿に少なからず感銘をうけ(動揺しないのはすでにガチすぎる武闘派の姿を目にしているから)血筋こそ間違いないものの、どうにも謎が多い、理解と同情がしにくいキャラクターに血潮の補完がめぐらされた。
鬼の投げ込んだ礫が、波紋を生み、それが疾走した。どこまでどれほど広がるのか、碇シンジが読めていたとは思えないが、ナオラーコら赤木印の情報操作の申し子たち、地元の名士であるところの銀橋が手を貸したあたり、悪手ではないのだろう。たとえ。
あとでシンジはんが綾波先輩の怒りを買ってボコボコにされたとしても。むしろそれで縁切りかまされても、まさに望む所なのかもしれんけど。己の身に置き換えたら(まあ、主役なんかムリやけど)無断不意打ちでこれはなあ、・・・・ない寄りの「ない」わぁ、だしコレ。
「変身するのに、わざわざ片目を隠すってのはなんの意味があるのら?」
「アクションアクターも本人がやってるんだよね?」
「単眼の零号機に合わせたんじゃないでつか?でもゼットンから命をもらってからは両眼になってたでつから、なにかテーマが隠されているはずでつ」
「うーん・・・どうかなー?たぶん、なんかあるんだろうけど、僕はただのいちゼットンだったからなあ・・・」
「・・・僕の記憶ではゼットンは最強の怪獣だったはず・・しかもウルトラマンを倒した・・・はずなんですけど・・・ですよねシヌカさん・・?記憶違いじゃないですよね」
「そもそも”いちゼットン”ってなんだよ?通行人のモブみてえに・・・あ、しまった。まともに相手したらダメなやつだったなこいつシカトしとけシカト・・・あー、それにしてもこの鯛めし旨すぎるだろ・・・・あ〜酒のみてえ・・・」
制作完了したあともすぐ女学院に戻らず銀橋旅館に居残っていたのは碇シンジの判断。
生名シヌカたちもどういうわけか付き合ったので食事は皆でそろって広間で、ということになり、街頭での役目を終えたブラウン管テレビがしんこうべ綾波放送が流す「ウルトラマンモノ特番」を映し出して行儀はよくないが、それを見ながらおのおの好きなことをしゃべりあっていた。
鈴原ナツミとしては、ナオラーコたちに加えて向ミチュの相手もどうしてもせざるをえないというか、「よ、よかったらお買い物につきあってもらえませんか・・陸じゃないと買えないものがいろいろあって・・・」「通販ならすぐ手に入るら?」「いやそれ、実際やりたいのはウインドウショッピングでつ。島とか田舎だとできないやつでつ」「ふ、雰囲気を楽しむんでしょうね!、いいなあ!いきたいなあ」「もし時間できたら皆でブラブラする?いきたいとこチェックしとんならそこでええけど」「わらわはいきたくないけど、どうしてもついてきてほしいならいってやってもいいのら?」「忙しいナオラーコはいかなくていいでつ。ひとりで留守番してるでつ」「はいはい、皆でいきましょう皆でね。その方が楽しーでしょ?目がたくさんあった方がお買い得品を見つけやすいんもあるし」
”してしまう”。そんな面倒見のいい方やないんやけどな・・・病院暮らしの反動か、いやまあ、単純に消去法にして、これも本来のお役目か。こんな場合、座持ちのホストは碇シンジの役割だろうけど、夜雲色の目を見るとそれどころではないようだ。皆に問われれば相手はするものの、目の奥で何か考えている。なんも考えてなくても困るけど。・・・怯えとる・・・わけはないか。
ローカル限定放送とはいえ、本人に無許可無断でおそらく大っぴらにはしたくないはずの若かりし(今も10代だけど)思い出のメモリーを大々的に流させた無神経の化身が。
「これは「警告」なのか・・・?・・・フェイクではない・・・確かに本人が出演している・・・・・それだけに意図が・・・ただの混乱誘導なら稚拙すぎる手だ・・・・党も放映を黙認している・・・常人がなせる仕事ではない・・面倒なことに・・それにしても・・・・・暑い・・・・」
地元民にはただの好感度爆上げコンテンツにすぎなくとも、後継者綾波レイに対する対応が明らかに別アングル別ベクトルの者たちにしてみれば、いきなり見せつけられた予想外すぎる驚愕映像は今後の動きを一考も二考ももしかしたら三考もしなければならないかもしれぬ情報爆弾以外のなにものでもない。
一見して隠れ趣味的な若かりし頃の素人芝居やらかしはっちゃけ記録、という所ではあるが、この時局でこんなものを地元放送局に大々的に流させる、というのは唯事ではない、どころか正気ではない。綾波党の指示ではなく内容はともかく機密のヴェールに何重にも包まれていた頃の映像を今ごろ蔵出ししてこれる人物と組織は限られる・・・その意図は・・・映像のストーリーラインから判断するに怪獣、という外敵を打倒する、という意思を示すためだとしたら・・・外敵がこの場合何のメタファーとなるか・・・いやまあ、露出がすぎる気もするが、綾波レイには羞恥心とかないのか・・?身体を張って本拠地と総本家の立場を守護する、という気合のなせる業か・・・これまでの分析は全て放棄して一から再構築せねばなるまい・・・次代のトップの性根がプラスチックなのか鋼鉄なのか・・・今後の展望がまるで変わってくる。厄介な・・・暑いのに・・・放棄前の戦力分析では党首さえ死ねば一週間で攻め落とせる・・・
「吹雪」は「綾波」より出でたが、綾波を越えた。超越している。負けフラグではない。冷静冷徹極まる分析結果。
これは吹雪神林、吹雪の首席戦力分析官の名誉にかけていえる。指令さえ出れば綾波神鉄の首をとってきてもいい。その必要もないのだが。この地の空はあまりに手薄。防空対空があまりにもなってない。制空戦略を欠き昔ながらの異能陸戦しか頭にないのだろう。
だが、こんなところ、奪い取る値打ちはない・・なんというか・・・・維持する気力が出ない・・・戦争は嫌いではないが割に合わなすぎる・・・綾波ナダの死亡確認し、なすべきことを終えればさっさと帰還する気でいた吹雪神林など怒り苛立ちを通り越して殺意さえ覚えていた。
「・・・警告か恫喝か明確にしてくれれば分かりやすく襲撃してやるのだが・・・・にしても、あっつい・・・・40度か・・・もう少し下げられたら・・だが局面が読めぬ以上部下に余分な稼働はさせるべきではないな・・・しかし暑い・・・・帰りたい・・・」
ちなみに40度は零下。
その殺意の焦点がどこに、というか誰に合わせられるのか・・・広域情報は多数を楽しませるエンタメにも憎怒と殺意を呼び込む呪術にもなりかねない・・・ことを碇シンジは悟っていたのか。
「吹雪」が「綾波」より離れ遠く遠くの大陸の北の北、平均気温がマイナス50度という氷結の地に根を下ろしたのは追放されたのか喧嘩別れの結果なのかバトル異能を極めたいという理想を追い求めたためか、吹雪神林も知らない。大昔の話だ。尋ねたこともない。
綾波の血を残すため名すら変えたのかもしれないが、首領の語る言葉にはどこか、しんこうべ、綾波の本貫地に望郷の思いが滲んでいた。けど・・・すっかり寒冷地特別仕様になってしまった吹雪神林としては、年寄りの気持ちはともかく、とてもじゃないがここでは生きられない。
もはや別の一族として、それぞれ生き延びていった方が生存戦略として正しい。
綾波トアなど、いくつか貴重な異能は連れ去ることになるだろうが、土地としては無価値。
拉致計画の方に重点を置き、占領はせぬ方向で。施設的には得るべきものはない。医療面にしても異能に重きを置いてあり人を奪った方が早い。ただ、弱いくせに本家づらしてこちらに何か言ってくるつもりでいるなら、話は別だが。百年ほど溶けぬ氷壁で囲んでしまい、禁地にしてしまってやってもいい。・・・部下の疲弊が厳しいのでやりたくないが。
貴重な異能牧場としての権益は魅力ではあるが・・・暑すぎる。綾波緑豹ら「グリーンアイズ」の連中には丁度いい気候なのかもしれないが・・・・あの連中の動向も読めない。
資金もほとんど動かしてきていない。持ち込んだ装備人員もほとんど観光のレベル。何しにきたのか、まさか弔問だけ、ということはありえない。ありえまい。それなら緑豹が来るはずがない。あの戦闘狂が。自分たちを前にしてよく我慢できている。
一族全体が戦闘特化している吹雪と異なり、五人に四人はすぎるほどの平和と怠惰を好むグリーンアイズ一族の五人に一人の方、20%はやりすぎな戦闘と破壊愛好者、そこでさらに群を抜いているのが緑豹。強敵と戦闘していないと1日で狂死する、とまで公言する、賞金がかかっていないなら自分たち吹雪ですら関わりたくないバトルジャンキーがこの地に入り込んでまだ死人が出ていないのは、不思議といえば不思議な話。
よく我慢できているのが不気味だ。吹雪と異なり、綾波姓を捨ててはいないがこれまたけっこうな昔、南米の奥地再生ジャングルに住まうことになったのは密林再生事業を請け負った綾波党の計画により現地支部を設立、その方面に強い異能をもった者たちを赴任させた、という、どこまで真実かはともかく。外国生活がしてみたかった党員もいたかもしれない。ともあれ、事業計画は順調に、というか、想定を遥かに超えて再生してしまい、高知能植物やら戦闘力が高すぎる人類敵対生物の増加、ぶっちゃけるとモンスタージャングルと化した「綾波党南米支部実験農場」を放置もできず、管理し続けて今に至る。現地の神職、異能の血もドンドコ流入させている。そのせいで片目が緑になったのは不明だが・・・出生率は高い。食うに困らないのはやはり強い。寒冷地はそのあたりがどうしても。
毎日毎日かき氷だと年寄りがもたない。
正確な位置が秘匿されているのは、物騒なのもあるが、そこでしか収穫できない素材が高値で販売されるからだった。党本部に適正額を上納はしているようだが、特に薬品部門の売り上げは世界トップ企業をも凌駕する。重度の麻薬患者を元に戻した挙句に忌避体質にしてしまう薬草「ドラマタ」、三歳分確実に若返る「サンワーカ(返品可能)」など、ここでしか育たない垂涎品をいくつも抱えているのだから当然かもしれず、それを奪い取ろうと襲い群がる者どもを叩き潰し続ける戦闘狂も育つのも自然の理であろうか。
吹雪でも何度かあがりを掠め取ってやろうと画策したことがあったらしいが、農場ごと適時移動させる異能をもった者もおり上手くいかなかった。平和な怠惰を好んでも愚鈍ではない。
戦闘狂どもが強い、のもある。吹雪に匹敵する。撃退はされたが殺されてはいないので引き分けといっていいだろう。対等、匹敵だ。冷静冷徹な判断だ。地の利があちらにあったのだから、・・・いや時の利を考えるとやはりイーブンか。外綾波などと呼称されようと、我らは綾波より強い。暑さに強いだろうから、連中はこの地を手に入れる・・・メリットは精神的満足くらいか?緑豹の世代となると、もう体質も密林仕様だろうしな。販売面の強化もあるかもしれんが・・・世代が変われば郷愁もない。この程度か、こんなものか、という期待外れ感が強い。党首であるナダが軒昂であれば違ったのか。
戦争はやる前にカタはついている。
戦闘と戦争は異なる。個体がいくら強かろうと意味はない。
都市ひとつ氷土にすることも難しくはないが、要は急所を潰して戦力の流れを遮断してしまえばいい。ゆえに、急所を判断する情報が重要となってくるわけだが・・・
故郷を氷土にも焦土にもさせまいな・・・我が首領は。判断的にもそれが楽ではあるが。
キーマンはだれだ、キーウーマンはどこだ・・・・余計な情報をバラまいてくれた破裂の道化師はどこのだれだ・・・・緑豹だの「天霧」「裏綾波」・・・こちらも警戒しておかねば、背中から串刺しにされかねない。まだ動きをみせず静観の構えだが・・・この時局に何もせぬ、ということはありえない。異能の血と眼をもって生きるため、血族を生き延びさせるため。敵対という適応、共闘という応変、最善手の見極めを任としてこの地を訪れた。油断していたらあっという間に壊滅させられてもおかしくない家業を続けてきた。
大死神が招かれる匂いが濃くこの地に立ち上っている。綾波ナダは死ぬだろう。この濃さからすると大人物ではあったようだ。巨大な魂は大死神でなければ収穫できない。神話であり実体験でもある。それだけ多くの命をくらってきた。命の重さに耐えてきた存在の摩擦熱。この匂いが消えたら、終わりだ。
この世を追われる。自分たちをそれに重ねて何か思うほどのロマンチストではない。
それは分析には不要。過去からの報復も欲による強奪も力の行使の手順としては同位。
「欲しくもないのに、競争相手に奪われるのは容認できない・・・なんて暑苦しい話だ」
綾波より出でた吹雪が生き延びるために綾波の血脈を欲するというのは
厳しすぎる環境に適応した結果、氷雪系の特異能力もちばかりが生まれしかも能力暴走を起こしやすくなっている傾向があり、ハイレベル美男美女が多いのはいいが近親婚が多くならざえるを得ない婚活事情もあり、「このへんでよその血をいれておくか」という首領判断となった。そんなわけでメイン任務としてはこちら。出産適齢期の若者をゲットする。ただし、氷雪系はいらない。炎熱系が理想だが、相殺して能力がまるでない子供が出来るのかもしれないが、それはそれ。吹雪は戦闘能力がやたら高いがギリギリの限界集落であり、贅沢は言ってはいけない。未来に繋ぐことまでやればいい。あとは次代がやるだろう。
「私はもう時期が過ぎているが・・・お前たちにいい相手が得られれば・・・それでな」
ヒョオオオオ・・・・・・・
氷雪系の特異能力をもつ者でなければ、重度の凍傷をまぬがれないブリザードが室内に吹き荒れたのは神林の部下たちがそろってウケたせいだった。幸い、ここにはハイレベルの氷雪能力者しかおらぬため被害はなかった。ちなみに、日に何度もこのようなことがあるため、ホテルではなく冷凍倉庫を買い取り陣地として使えるように改造した。
高性能の戦術計算機を四六時中ブンまわすには最適ではあるが。一般人は生存できない。
「いえいえ!まだ39じゃないですか!十分、適齢期ですよ時期内ですよ隊長!」
「そうです!隊長が御嫌でなければ、自分が立候補するところです!しかし今回の任務のために涙を呑んで隊長を諦めます!と、いうことで自分は地元では存在しないこのほんわか癒し系、綾波ホワちゃんをゲットします!必ず!」
「綾波エンゴクさん・・・炎熱系で俺様系でガテン系とか・・・はぁ・・・こういう殿方に巻き舌で怒鳴られてるのが夢でした・・・絶対にお持ち帰りしませんと・・・!」
「・・・こんな温暖地域でこんな脂肪をためこめるなんて・・・なんか温かそう・・・この人にしようかな・・・丸いお顔も齧ったら・・・元に戻ったりするのかな・・・」
「年中、殺気だってる美形は疲れますしねー、私たちの中身が凍りついてるからいっそ、ぬるま湯というか戦闘には全く役に立たないよーな弱小異能もちとくっつくのもありですかねー・・・この人なんかどうかなー綾波ピラ・・・名前も弱そうだけどねー」
「運命・・・ドストライク・・・それなのに・・・氷雪系のもろかぶりって・・・でも、運命しか感じない・・・この人に会うために生まれてきたのに・・・・運命なのに!!」
吹雪神林直轄の偵察戦闘部隊「雪野風」たちが熱心に端末にかぶりついてるのは見合い写真ではなく、目星をつけたしんこうべの若者の健康データ。戦場を凍土と化す戦闘力は無論のこと、情報を探ることも得意としており、出産能力など根幹事情もおかまいなしに掘り出して検分していた。そこからどれほど抜き出して持ち帰れるかは、本家と態度と実力による。
党首のナダが死に、その後釜の後継者が弱腰にして無能であれば、数は増える。
正確には、対処速度、感知の精度が問題になってくる。力があろうが気づくことなく反応ができなければ、それは無力とさほど変わらない。正面切って殴り合ってやるほど親切ではない。リングは、戦場は、ひとつとは限らない。どこでいつやり合うか、その駆け引きがゾクゾクするほど楽しいのだが。こちらが裏をかかれないとは限らない。なにせ絶対的な地の利があるのだ。こちらにはないものが。ナダがいつ死ぬか、その公表のタイミングで機を調整できる強みもある。だが。死ねば分かる。2日と隠し通すことはできない。
吹雪が、グリーンアイズや天霧、裏綾波、他の勢力と手を組むことはない。が、吹雪以外の全てが手を組んで、こちらを狩りにくる可能性もないではない。綾波の血族以外の外部勢力が噛んでくる可能性も計算してはいたが、後継者綾波レイの性質判断から否と結論づけたが・・・早計であったかもしれない。それを知らしめす、たとえ一線を越えても、本人が求めずとも、助力を惜しまぬだけのコネクション・パワー・・・宣伝だったのだとすれば・・・男と女、ひとりづつ生き残れば我らの勝ち、というわけにもいかない。吹雪は清らかな戦闘者たちの聖域ではあるが・・・人として生き続けねばならない。
部下たちの嫁と婿をひっさらって早々にこの地から離脱してしまうのもありではないか。
謀略交渉でケリをつけるのなら、己より適任の曜冥がくればいい・・・が・・・暑いから来んかな・・・溜息が銀竹と変じる。
六甲山中の、とある牧場の片隅で若い男がゆるやかに舞のような気を取り入れる拳法のような動きをもう10時間も続けている。左目が赤、右目が輝く緑色。名前は綾波緑豹。
「よく我慢できてるわね〜・・・逆にこわいんだけど〜」
寝っ転がりながらもそれに10時間つきあっていた若い女が感心と呆れを等分したような口調で言った。やはり左目が赤く、右目も同じく緑色。生気に輝いている。名前は綾波ナモン。「そろそろごはんにしたら〜?っぽいっぽい」寝っ転がりながら豆の入った袋とペットボトルの水をけっこうな速度で投げつけた。本職の野球選手でなければまず受け損ねるそれらを、「押忍」綾波緑豹はゆるやかな動きのまま受け取り、なめらかに口に運ぶと一秒もかけずに摂取すると綾波ナモンに投げ返した。
「押忍」とは、感謝のことであるのを専属の付き人である綾波ナモンは解釈できる。ほとんど表情の変わらぬそれを適正に解釈するのは臨床心理士でも難しい。なんせ綾波緑豹が口にする言葉はよほどのことがなければ「押忍」これ一言しかなく、比較対象がない。聞いたことがあるのも綾波ナモンと両親を含めて五人もいない。押忍、しか言えない病にかかっているわけではなく、単に戦闘以外のことが面倒くさいので、それですませているのを綾波ナモンだけが知っている。その気になればかなり弁が立つことも。
戦闘狂い、などと呼ばれていても、戦闘の場を与えれれば問答無用で齧りつきにいく餓えた獣ではない。やすやすと他者に利用されるタマではない。やりたくない戦闘はしない。
まあ、狡猾くらいでなければ、強敵と戦いそれを撃破することなどできはしないけどね〜。
ただ、この綾波の本貫地であるしんこうべには強敵がウヨウヨいる。分かりやすく番付表なんてものもある。いちおう支部長から控えるようにとは言われているけど、止まらんだろうなあ、と顔に書いてあった。皆も同様。そもそもそれを望まないなら出張させなければいいのだし。一応、本店というか党本部への業務報告、という体ではあるけど・・・党首のナダ様の様態がかなり怪しい、というか危篤になられてしまった。そうなると、その後、綾波党は、自分たち南米支店というか支部は、どうするかどうなるか、という話になって。あー、そんなのお偉いさんたちが話し合ってどうにかすればいいんじゃないの?それが上の立場のひとの仕事じゃないの〜とは思うけど、緑豹が「行きたい」と望むのだから付き人としてついていくしかない。
緑豹の付き人がつとまるのは、このナモンしかいないんだからしかたがない。
出張費とボーナスはずんでくれるっていうし仕方がない。緑豹のブレーキなどとてもムリだけどサポートアシスト後始末は得意だ。それがないときはなまけさせてもらうけど。いざ戦闘が始まれば死ぬまでやるタイプだけどオンオフがはっきりしててやりやすい。なまけてても怒らないし。怒ってバトル、なんて局面は子供の頃からない。子供のころから強敵嗜好。
それゆえ昇進の速さ、20代で武闘駆除課の課長は類を見ない。鍛錬してるか戦闘してるかのどちらかなのだからそりゃ戦闘力も上がるだろうしカンストでも目指しているのか。戦士につきもののケガがないのはただでさえズバ抜けた回復能力を特殊な寄生虫にブーストさせているから。そのあたりのノウハウは南米支部の専売特許。カチコチに凍った頭で戦闘するしか能がない吹雪などもうしばらくすれば絶滅するだろう。美形ぞろいなのは認めるけど、美人薄命というやつだ。まあ、天然冷凍庫みたいなところに住むのが大好きというのだからずっとそこにいればよいのだが、出稼ぎの方法が方法だから因果応報的に埋もれていくしかないだろう。日常勤務は4時間であがり、睡眠は10時間以上は間違いない南米支部、グリーンアイズはそこが違う。非常勤務帯がアレだからホワイトとか言いかねるけど、グリーンだ。レッドではない。食べるのには困らないし、悩むこともない。
欲しいものはぜんぶ自分たちの農場と、ちょっと足を延ばした密林の中にある。
エンタメも、緑豹を見ていれば事足りる。これ以上面白いものってある?
綾波の本貫地、しんこうべも、遺伝子が郷愁を呼び起こすかと思っていたけど、そんなこともなく。まあ、知識にあった先祖のお墓のある小さい町というだけのことで。
これはこっちのスケール感もあるか。大体にして島国の中の一都市なのだから。
持って帰れそうなもの、欲しくなるものは特にない。同行者たちの感想もほぼ同じ。
戦争になり、ここの住民が難民となるなら受け入れてもいいけど、住みたくはない。
どうにも狭すぎる。チョコチョコ動きが速くて、怠けることを許さない空気もちょっと。
機械式の腕時計の中に住むような感じだろうか・・・かんべんしてほしい。
情報収集はせねばならないので、現地でいきなり流行りだした「ウルトラマンモノ」なるコンテンツもひととおり、寝っ転がりながら視聴してみたけれど、やはり緑豹の方が面白い。まだ拳法らしき動きを続けている。いつまで続けるのやら。後継者の追加情報に興味を惹かれた様子は全くない。自分が見てもそうなのだから、緑豹は後継者・綾波レイには全く興味がないのだろう。年下の女子供だろうが、挑む価値ありと認めればなんの躊躇もなくつっ込んでいく男だ。それしかない奴が、こんな所で時間を潰している。危篤状態であろうと、党首・綾波ナダ、生ける伝説が眠りにつくまえに挑みかかっても不思議に思わない。最早その価値がないのだろう。そこまで弱り切っているなら回復もないはず。
けれど、綾波緑豹のような男が、誰とも何とも戦闘せずに帰還することはありえない。
期待していたターゲットが外れであったなら、即座に戻るようなシンプルな性格なのだ。
戦うべき、戦闘を欲する相手が、存在が、この地のどこかにいる。
睡眠以外の全ての時間をこの動き、挑発とも招聘ともつかぬ、強者のみが感じとれるオーラの手刀でも無造作に飛翔させばらまいて反応を読んでいるのか・・・同じ課でもバトル系ではないナモンには分からない。ただ、無意味なことはせぬ男であるから、じわじわとでもターゲットを追い込んでいるのは確かだ。なぜなら、その手ごたえがなければ、とっくにこんなことやめているだろうから。
「押忍」
緑豹が動きを止めた。なにがしかの反応があった、わけではない。ただ眠くなったのだ。
これからこの男は12時間眠る。体力切れではなく、眠たくなったから眠るだけ。
駆除業務があればそこから何十時間でも戦闘が終わるまで起きてはいられる。
「お疲れさん〜本日の業務はとりあえず、終了だね〜」
マットを敷いて寝る準備をする。ベッドまで行くような男ではない。眼を見れば今日はここで眠りたいのだ、と分かる。珍しく、自分を抱くらしい。もしか目星がついていたのか。
「押忍」
水浴びなどしなくても、豆しか食べないこの男はとてもいい匂いがする。麝香とも違う、個人的好みでもない。たいていの女はこの匂いにメロメロにされる。あと3時間ほどすれば雨が降る、というからそれでいいだろう。寝物語に緑豹の目標を聞いた。エンタメとしては聞かずに判明するまで待つのが定石だろうが、仕事でもある。ある程度は目算をつけておかないと他勢力に後れを取る可能性が高い。怠けものでも仕事はせねばね。
「巨人と戦う。あの黒い巨人と」
他人が見ても聞いても信じないだろうが、饒舌に緑豹が語った、熱弁したところによると
こいつはネルフのエヴァ、黒い方の参号機とエンカウントしてやりあったことがあるのだという。農場に踏み込んで即撃退され逃走するのをどこまでも追いかけて大河の終わり、補給作業の為か河口に立っていたネルフのエヴァンゲリオンに喧嘩を売ってきたのだと。
逃走者との繋がりがあったわけではない。全くの無関係。たまたま、そこにその姿があり魅入られたように殴りかかっていたのだと。完全に頭おかしい。よく生きて帰ってこれた。
襲われた方こそたまったものではない・・・と、いうか完全に犯罪。政治判断では全くないけど、装甲にキズをつけた、というのだから器物損壊・・・巨大であっても人造人間、というふれこみであったから暴行障害?こんなことを人の体と繋がってる時に告白しやがって・・・聞くんじゃなかった。通報も報告もできるわけがない。懺悔でも相談でもない、ただの返答であるしこれ。
「ケダモノケダモノ・・・ケダモノ」今さらだが、3回繰り返した。
蟲避けの仮面をかぶっていたとはいえ、なぜ身バレしなかったのか?動物、というか社会的人類と思われなかったのか、UMA的生物にカテゴリーされたからか、運よく?スコールと大型竜巻と大逆流が同時に発生したため、本人確認が成立するほどには映像データが取れなかったせいか、黒い巨人は相手にすることなく、海の方へ駆けだしていったらしい。まさかビビッて逃げたわけでもない。大逆流を踏みつぶし竜巻を殴り飛ばしたというのだから。
気候干渉・・・神話の業だし、噂に聞いてもそんなものガセだと鼻で笑っていたが緑豹がその眼で見たというのだから間違いない。嘘をつくこともない。この抱き方と同様に。
そんなことをやれる存在に噛みつきにいった男が、いま、自分の肩を噛んでいる。
その黒い巨人、エヴァンゲリオン参号機がこの地にきているのだと、緑豹はいう。
そんな情報は調べたどこにもない。もし、街中にそんなのがいれば隠し通せるわけがない。が、緑豹が言うのだから真実なのだろう。どうやってかは分からないが、身を隠している。
気づかれぬよう、気配を消している、というのが正しいのか。見ていても感じていても気づいていなければ、そう認識しなければ山の影と同じ。それくらいやれても当然かも。
しかし。だけど。この状況で同じことを、赤い衆目の前でやれば、さすがにこの男は死ぬしかない。それでも構わぬのだろうけど、自分が困る。快絶無上のエンタメが無くなってしまう。その存在は、その魂は、激しく踊りながらの交接より遥かに楽しく愛しい。
ただ、エヴァ参号機、黒い巨人も市街を進撃し破壊するためにきたわけでもないだろう。
基本は護衛だの救助だののために潜んでいると考えられる。幽霊SPというか幻影親衛隊というか・・・お姫様を影ながら守護する黒騎士でも気取っているとか?その給料はどこから出てるのか・・・うーむ・・まあ、世の中何が起こるかわかんないし?特別な理由もなくただの欲求のままに巨大ロボに身一つで挑もうとする異常者がここにいるし・・・何回も連結していると精神が汚染されたりするのかも。
驚きはせず、ひとつの疑問だけ告げる綾波ナモン。
「巨人と戦いたいの?それとも、その巨人を操作する人と戦いたいの?」
前者でも後者でも好きにさせるほかない。止められないしその気もない。見届けるだけ。
巨人、とはいえ、中の人がいるらしいことは聞き及んでいる。そうでなければ怖い。
あのサイズで自己判断始めたら、人類なんか簡単に支配オア壊滅させられるでしょ。
強者が弱者に従うことはありえない。弱者がいつまでも強者に従う道理もないのと同じく。
「・・・・」
だが、珍しく、何事にも即断しかせぬこの男が悩む眼の色をした。決めかねている。それを判断しかねている。奇妙なことだけど、緑豹の闘争本能がそう告げているならそうなのだろう。欲しい獲物だけ求め狩ればいい。これはどう考えても業務ではないのだし。
吹雪の連中のように勝ち負けだけ考えるなら、巨人から降りたタイミングで操縦者の背中から腎臓を刺せばばいい。まあ、ふつーに正面から殴りかかっても緑豹なら瞬殺だけど。
まさか、その巨人をも凌駕するバケモノの匂いがして、なんて話じゃない・・・よね?
我慢できているのも、そのせい・・・とか。強敵を欲する緑豹は決して敵を侮らない。
慎重に、求めるものを探っていく。待つ時間を忌避しない。すでに対峙は始まっているのかもしれない。ストロングポイントを見抜き、ただの戦士はそこを避けて弱点を狙うが緑豹はそれを掴み砕きにいく。
予報通り、雨が降ってきた。雨具もあるけど、そのままふたりで濡れている。
自分たちの地元に比べると、物足りない雨であるけど、悪くはない。
緑豹がこれから誰を血祭りにあげるのか、それとも自分たちが捧げものになるのか。
心臓とか抉り出されて、「これこそ神薬!」なんて党首のナダの口に入って死の淵より回復ターン、めでたしめでたし、なんてオチはいやだなあ・・・
「こ、これ、こっちの計画が見透かされてるのかな・・・・」
「た、たぶん・・・・バレたんだと・・・思う・・・このウルトラマンモノ第5話「盗まれたウルトラ包帯、モノ変身不能!?」・・これは、メッセージだよ、お前たちの目論んでることはお見通しですよって。実行したらこんな風に光線で焼かれますよって・・・」「じゃ、じゃあ止めとこうか…計画、ここまできたけど・・・」
「そ、そうだね・・・誰にも気づかれてないと思ってたけど甘かったね・・・」
「に、逃げようか・・・」
「そ、そうしよう。逃げよう」
天霧オボロ、ウシオの兄弟が、とある計画を放りだしてしんこうべから逃げ去った。
「エヴァ零号機乗っ取り計画」・・・・しんこうべのどこかに隠してあった零号機の待機位置を調べ上げると同時進行で、人類最後の決戦兵器と謳われたエヴァンゲリオン、福音の巨人を後継者綾波レイが駆っていたのは綾波の関係者ならば今や知らぬ者はおらぬが、その操縦を自分たちにもやれるのではないか?と夢想したあげくにこれまた関連データを探りあげ、シンクロを成立させる方法をほぼ完成させていた。
「天霧」は異能よりも知能で勝負したいタイプの綾波血族であった。正面きってのバトルより裏から細工をするなり弱みをつく作戦を立てるなり、怪しげな発明品をこさえたり、
といったことを好む性質で、悪の組織ポジションでいえば「参謀」もしくは「マッド博士」。
綾波党本部が決して脳筋系、というわけではなく、必要とあれば異能を隠匿し周辺地域とうまくやっていく知恵もあったが、知恵をひけらかしたい、己の考えたことを同族の迷惑顧みず実現させたい一団を、党首のナダが口車にのせて適当な距離をおいて隔離した、という由来。
なにかと自壊しやすい異能集団においては、適材適所の割り振りセンスは最重要なのであった。
バトル好みの直攻戦闘面に突き抜けたのが「吹雪」であるなら、多少時間がかかろうと遠隔で己の正体はなるたけ感知させず頭の中の夢想を実現したい魔術師めいたのが「天霧」
その名のとおり、肉体を霧と化す異能を得意としているが、バトルは可能な限り避けてあくまで知性で、作戦で勝負したい者どもであった。鋼鉄の結束を誇る吹雪と真逆で各自バラバラ、連帯というものを一切しない。オボロ、ウシオが兄弟であっても協力して事に当たるのは非常に珍しい。手を組むことを覚えさえすれば、まあ、どうなっていたか・・・
ちなみにオボロとウシオが逃走しても、他の天霧たちはそのまま、己の興味のむくまましんこうべに滞在し続けた。あくまでの己の才の欲するまま、立てたい作戦を立て、好きな細工をし、造りたい発明品をこさえることのみに執心していた。なぜこれで天霧として成立するのか綾波党の多くの者は不思議がっていたが、「たまには、寂しくなるんだろうよ」
党首のナダはそのように喝破していた。「だから、吹雪の連中より扱いが難しいよ」
何に執心しだすか分からぬ上に、それを実現する知性と忍耐力もある。
ただ、非常にビビリ。臆病であった。危険を少しでも察知すれば前進をやめて逃走する。
一度逃げてしまえば、執心していたテーマを放りだしてしまう。高い知性のなせるストレス断捨離というべきか、ビビリ・オブ・ビビリというべきか。成功あと一歩手前だったというのに。
ただの宣伝映像を前に。逃げてしまった。この局面でエヴァ零号機を手中にしていれば、・・・・どうなっていたか・・・後継者綾波レイの文字通り最大の後見人を奪ったことで詰み、チェックメイト、綾波血族間でのパワーゲームに勝利していたか、はたまた黒い風が吹き荒れ紫の雷が降り注ぐ地獄がはじまったか・・・未来視ならぬ身では知れない。
「・・・・・・・え?・・・・なぜ・・・・モノ・・・・?」
祖母の命を僅かでも伸ばさんと、心身ともに鑢で削られるような過酷な旅から一時帰郷した綾波レイが、かつての十代前半だった己の主演作品がいきなり、なんの事前相談もなく、地元で流行らされて爆ブームになっている光景を見て、何を思ったのか・・・誰がやらかしてくれたのかは秒で見当がついた。というか、あの野郎しかいない・・・